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日本学術会議会長コメント
平成20年6月26日
 このたび日本学術会議は、「要望 信頼に支えられた医療の実現-医療を崩壊させないために-」を公表しました。
 この要望は、日本学術会議の「医療のイノベーション検討委員会」が取りまとめたものです。同委員会は、先行して審議を行った、日本学術会議の臨床医学委員会医療制度分科会(平成18年3月に発足)の検討結果を受けて、さらに広い分野の専門家の叡智を結集して審議を行うために設置されましたので、医療制度分科会の時代から通算すれば、2年を超える期間を費やした検討結果の集大成ということになります。
 おりしも現在、地域における医師不足問題とともに、特に医療費をめぐる問題が社会において大きな議論となっています。今回の要望においても、医学部の定員増が必要であることや、従来続けられてきた医療費の抑制政策が限界に来ていることを明確に訴えています。
 しかし、様々な問題事象の背景には、常に複雑に関係した原因群が存在しており、単に医療に対する支出を増やせば問題が解決するというわけではありません。また、一つ一つの問題を取り上げて、個別的な政策で対処しようとしても、往々にして、かえって新たな問題を生んでしまうだけという結果になりがちです。
 日本の医療そのものが持つ構造的な問題 -それは、戦後復興の時代に淵源を有する量とアクセスを重視する医療から、先進国にふさわしい質の高い医療を提供できる体制に転換できていないことです -を的確に認識し、必要な手だてを講じることが、迂遠のように見えて実は最も確実な道に他なりません。
 今回の要望では、そのための最も重要な方策の一つとして、専門医制度の根本的な見直しということを提唱しました。「医療の質」を保証する専門医制度を強化することが、地域の医療体制の再生を促し、医療に対する国民の信頼の回復につながるものと信じます。
 また、こうした医療側での対応とともに、国民一人一人の適切な理解と行動も大変重要です。今回の要望では、国民としてぜひ考えていただきたいことを明確に述べていますので、その点からも、できるだけ多くの方に読んでいただけることを願っています。

日本学術会議会長 金澤 一郎
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