国際経済学協会(IEA)第21回世界大会

代表派遣会議出席報告

会議概要

名称

(和文)国際経済学協会(IEA)第21回世界大会

(英文)IEA World Congress 2026

会期

2026年6月22日(月)から2026年6月26日(金)まで(5日間)

会議概要

(1) 会議の形式:IEA World Congress 2026 の会議形式は、対面(in-person)を中心とした大規模な国際学会。
         ベオグラードの Sava Center を会場として、研究発表、招待講演、基調講演、パネル討論を組み合わせた構成で開催された。
(2) 会議の開催周期:3年ごとに開催される。
(3) 会議開催地、会議場:Sava Center、ベオグラード(セルビア)
(4) 会議開催母体機関:International Economic Association(IEA:国際経済学会)
(5) 会議開催主催機関及びその性格:大会は International Economic Association(IEA:国際経済学協会)と開催国の経済学会が共同で運営する形をとっており、2026年大会では セルビア経済学会(Serbian Association of Economists, SAE)が現地ホストを務めた。

(6)  参加状況(参加国名・数、参加者数、日本人参加者の氏名・職名・派遣機関):公式発表では、約1,000名、80か国超が参加とされている。日本からの参加者については、次項以降の「日本からの提出分・日本関係者による発表」を参照の事。
(7) 次回会議予定(会期、開催地、主なテーマ):次回の World Congress は2029年に開催され、Wendy Carlin 氏が次期会長に就任する、とされているが、開催都市や開催国、準備組織や主なテーマについては未定。

会議の学術的内容

(1) 日程と主な議題:
本会議は、International Economic Association(IEA)第21回世界大会として、2026年6月22日から26日まで、セルビア・ベオグラードの Sava Center において開催された。IEAと Serbian Association of Economists(SAE)の共催であり、IEAが学術プログラムの責任を、SAEが現地運営を担った。
大会テーマは “Contrasting World Visions: Globalism v Nationalism, Multilateralism v Bilateralism, and Democracy v Autocracy”であり、グローバリズムとナショナリズム、多国間主義と二国間主義、民主主義と権威主義の対立という、現代世界経済の根本的緊張を扱うものであった。公式プログラムでも、本大会は世界各国の経済学者が研究成果と政策課題を討議する大規模な国際会議として位置づけられている。日程別には、6月22日に開会・学術セッションが始まり、同日夕方には ノーベル経済学賞受賞者Jean Tirole教授による “Global Disorder and the Fate of Middle Powers: An Economic Perspective” のプレナリー講演が行われた。6月23日には ハーバード大学のElhanan Helpman 教授による学会長報告“Ties and Strains in the International Economy”が実施された(筆者の現地到着が23日夜であったため、いずれも未参加)。6月24日には“The Future of US–China Relations”に関するプレナリーパネルが設けられ、6月25日にはハーバード大学のOleg Itskhoki教授による“The Optimal Macro Tariff”のプレナリー講演、さらに“Trade and Industrial Policy in a Changing Geopolitical Environment”、“Labor Market Implications of AI”、“Breaking Barriers: What the IEA Flagship Initiative Reveals about Women in Economics”などの主要パネルが行われた。6月26日には各分野のセッション後、閉会式が実施されたとのことである。大会全体としては、6件のプレナリー、5件のプレナリーパネル、52件の招待セッション、126件の一般投稿セッションから構成され、極めて広範な経済学分野をカバーした。投稿論文については、664本が投稿・審査され、571本が採択された。 

(1) 提出論文:                                                                         日本からの提出分・日本関係者による発表                                                          日本関係の発表として確認できる主要なものは、まず、筆者による“Foreign Direct Investment and Trade Dynamics in Vietnam after the US–PRC Trade Dispute”である。この発表は、米中貿易摩擦後のベトナムにおける外国直接投資、貿易動態、グローバル・サプライチェーンの再編を扱うものであり、IEA大会の国際経済・貿易関連セッションに含まれていた。プログラム上では、発表者は Yasuyuki Sawada, University of Tokyo & the Science Council of Japanと記載されている。また、日本関係者として、慶應義塾大学の能勢学准教授による報告、“From Battlefield to Marketplace: Legacies, Highways and Polycentric Development in Vietnam”が6月23日のEconomic Development セッション(MR13)の 報告として行われた。同論文は筆者との共同論文である。さらに、日本の学術的貢献として、日本貿易振興会アジア経済研究所(IDE-JETRO)の木村福成氏所長が“GVC Reconfiguration, Industrial Policy and Inclusive Growth in Asia”の招待パネルに登壇した。同パネルは、グローバル・バリュー・チェーンの再編、産業政策、アジアの包摂的成長を扱う重要セッションであった。また、在東京のアジア開発銀行研究所(ADBI)のBambang Brodjonegoro所長による挨拶とADBIの紹介がGala Dinner時にあり、日本主導で運営されている国際機関付属の研究所とIEAメンバーとの交流が今後深まることが期待できる。

日本以外からの提出分                                                                 日本以外からは、国際貿易、マクロ経済、財政、労働、AI、経済発展、政治経済、環境経済、経済史、ジェンダー、法と経済学など、経済学のほぼ全分野にわたる論文が提出された。たとえば、関税・貿易赤字・最適関税に関する招待セッションでは、Dmitry Mukhin、Andres Rodriguez Clare、Arnaud Costinot、Sam Kortum ら超一流の経済学者による発表が行われた。また、米中関係、AIと労働市場、女性と経済学、金融安定、国際資本移動、移民、開発経済、環境政策など、現代的政策課題に直結する研究が多数発表された。

(3)学術的内容に関する事項:                                                                      本会議の学術的特徴は、現代世界経済の分断と再編を、貿易、金融、産業政策、AI、労働市場、制度、開発、政治経済の各分野から総合的に検討した点にある。特に、関税政策、米中関係、GVC再編、産業政策、地政学的リスク、AIによる労働市場変化、女性の経済学分野における参画などが中心的なテーマとなった。当該分野の学術動向として、第一に、国際貿易研究は、単なる自由化・保護主義の比較を超え、地政学、経済安全保障、産業政策、サプライチェーン再編を含む広い枠組みに移行している。第二に、マクロ経済学では、インフレ、金融安定、国際資本移動、貿易制限が同時に問題となる環境下で、従来の政策協調モデルを再検討する必要が高まっている。第三に、AIと自動化が労働市場、賃金、スキル形成、格差に与える影響が、今後の中心的研究課題として浮上している。第四に、経済学研究そのものの包摂性、とくに女性研究者の参画、地域的多様性、若手研究者育成が、学術制度上の重要課題として議論された。今後の重要課題としては、関税や産業政策の厚生効果をどのように定量化するか、GVCの効率性と強靭性のトレードオフをどう評価するか、AIによる生産性上昇と雇用・格差への影響をどう測るか、またグローバル・サウスや新興国の研究者を国際的研究ネットワークにどう包摂するかが挙げられる。 

(4)その他の特記事項:                                                                         日本が果たした役割としては、筆者が日本からの研究発表を行ったことに加え、IEA関係者として大会運営にも貢献した点が重要である。セルビア経済学会・現地組織委員会から筆者宛ての感謝状では、同氏の信頼、協力、指導、継続的支援が大会成功に貢献したこと、また科学プログラムへの貢献が大会の学術的質と国際的評価を高めたことが明記されている。国内外での報道については、セルビアの報道機関により、本大会が約80か国から1,000人以上の参加者を集めたこと、ノーベル賞受賞者、主要経済学者、国際機関、中央銀行、政府、大学、企業関係者が多数参加したこと、またセルビア及び南東欧で初めて開催されたIEA世界大会であったことが報じられている。また、閉幕後の報道では、約1,000人の参加者、約200のパネル、10のプレナリーセッションが実施され、国際貿易、AI、インフレ、技術変化、グローバル経済秩序などが議論されたと報じられている。共同声明を発出する性格の会議ではない。次回 World Congress は2029年に予定されているものの、開催地は未定である。                                                                                                                                                                                                                   

所見

本会議は、世界最大の経済学研究集会の1つであるIEA世界大会としての規模、国際性、学術的多様性のいずれにおいても極めて重要な国際会議であった。世界経済が、地政学的対立、保護主義、産業政策、AI、インフレ、金融不安定、民主主義と権威主義の緊張に直面する中で、経済学がこれらの問題にどのように理論的・実証的に応答すべきかを議論する場となった。特に、グローバリズムとナショナリズム、多国間主義と二国間主義の対立を大会全体のテーマに据えた点は、現在の世界経済の構造変化を的確に反映している。また、貿易・産業政策・GVC再編・AI・労働市場・女性研究者の参画・開発経済といった多様な分野が同一の会議内で扱われたことにより、経済学の分野横断的な対話が促進された。日本の役割としては、筆者による研究発表および大会運営への貢献、木村福成所長によるアジアGVC再編・産業政策に関する招待パネル参加などを通じて、アジア経済、国際貿易、開発、政策研究の観点から重要な貢献を行ったと評価できる。今後の課題としては、第一に、理事会で議論されたこととして、学会活動をより活発にするためのより多くの資金集めの課題があるとのことであり、第二に、そうした資金を用いた若手研究者・新興国研究者の参加支援、第三に、政策担当者・国際機関・学界の対話の継続、第四に、次回2029年大会に向けた研究成果の発信強化が挙げられる。総じて、本会議は、経済学の国際的ネットワークを強化し、分断の時代における世界経済の将来像を議論するうえで、極めて大きな学術的・政策的意義を有する会議であった。                             

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6月24日理事会の様子1

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次期会長、Harvard大学Eric Maskin教授(ノーベル経済学賞受賞者)によるGala Dinnerでの挨拶
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6月24日理事会の様子2

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プレナリー・パネルセッションの様子