日本学術会議会長談話「硤合憲三先生のノーベル化学賞受賞を祝して」

本文情報

日本学術会議会長談話 
硤合憲三先生のノーベル化学賞受賞を祝して 


 硤合憲三先生(東京理科大学名誉教授)の2026年ノーベル化学賞受賞を、心よりお祝い申し上げます。日本で生まれた独創的な研究が世界の学術に大きく貢献したことを、社会の皆さまとともに喜びたいと思います。 

 

 物質をつくる分子の中には、右手と左手のように、鏡に映した関係にありながら重ね合わせられない二つの形をもつものがあります。例えば、人間を含む生物の体をつくり、酵素などとして働くタンパク質を構成するアミノ酸のうち、左右の違いをもつものは、通常、L体と呼ばれる一方の形にそろっています。 

 

 一方、左右を選び分ける仕組みのない化学反応では、通常、両方の形が同じ割合で生じます。硤合先生は、特定の有機化合物をつくる反応(硤合反応)を発見し、生まれた分子自身が触媒として働いて同じ形の分子をつくる反応を助けることで、最初はごくわずかだった「左右」の偏りが、ほぼ一方だけになるまで大きくなることを、実験によって示されました。小さな違いが、化学反応を通じて大きな違いへと育っていく。その驚くべき仕組みを見出された成果です。

 

 この発見は、生命を形づくる分子に、なぜ特定の「左右」が見られるのかという根源的な問いを考える手がかりにもなっています。自然の不思議を深く探究することが、私たちの世界の理解を広げていく。今回の受賞は、そうした基礎研究の価値を、改めて伝えてくれるものです。若い世代の皆さんにも、自ら問いを持ち、未知の世界を探究する面白さを感じていただければと思います。

 

 日本学術会議は、学術の面白さとその意義を社会の皆さまに伝え、対話を重ねてまいります。自由な発想から生まれる研究をどのように育み、その成果を社会と分かち合っていくか、皆さまとともに考えていきます。 

2026 年10月8日 
日本学術会議会長 加藤 和人

 

文書情報

決定(公表)年月日
2026-10-08
区分
会長談話
期
第27期