学習と記憶
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(1)柔軟な子どもの脳
子どものころに、脳に異常が起こるとどうなるの?
子どもの脳には、特にすごい柔軟性があるんじゃ。病気で脳が少ししかなくても、ちゃんと暮らしている子どもの実例を紹介しようかの。


 2歳のAちゃんは、重度の「水頭症(すいとうしょう)」という病気でした。これは脳の中に水がたまる病気で、Aちゃんの脳には、生きるための基本的な働きをする「脳幹(のうかん)」と、ものを考える「前頭葉(ぜんとうよう)」の一部しかありませんでした。「大脳皮質(だいのうひしつ)」も薄い皮くらいしか残っていないうえ、運動を担当する小脳もほとんどありません。このくらいになると、普通は生きていくことすらできないはずです。
 ところが、Aちゃんは友達と一緒におゆうぎをしたり、走ったり遊んだりできたのです。 Aちゃんの脳にいったい何が起きたのでしょう?
 人間の脳がコンピューターと比べていちばん違う点は、「柔軟性」という性質を持っていることです。子どもの脳の柔軟性は特にすごいといわれています。
 子どもの脳のニューロン(神経細胞)は、大人に比べて突起を伸ばしてネットワークを作りやすく、また学習や記憶に関するレセプターが多いため、柔軟性に富み、失われた能力を「肩代わり」する力が大きいのです。
 Aちゃんの脳は、実は柔軟性に富む生後間もないころに大きく組み替えられていたのです。
 Aちゃんのお母さんは、Aちゃんが生まれた直後から一日中体をマッサージしたり、話しかけたりしながら、外からの情報の刺激をAちゃんに与え続けました。柔らかいAちゃんの脳は、お母さんが作ってくれる刺激をいっぱい受けて、残されたわずかなニューロンを使ってネットワークを作り上げていったのではないかと思われます。
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