りかちゃん

博士,ただいま!
田中先生から,タンパク質の話は,
「おもしろ情報館」の「ゲノムについて ④ゲノム計画」
で勉強するといいよ,と教えていただきました。
ゆうき君,もう忘れたでしょう?すでに…。

ゆうきくん ギクッ! もう一度,勉強し直しまーす。
初めての人や,ぼくと同じように,忘れた人は,「④ゲノム計画1」のページでもう一度勉強してね!

おもしろ博士

そうじゃな。ここをまだ読んでいない人は,ここから先に読んでみれば,これからの説明がもっとよくわかるはずじゃ。

さて,話をタンパク質にもどすが,タンパク質はとても小さなものじゃったな。
もちろん,ニュートリノに比べたら遥かに大きいのじゃがな。
目に見えないという意味では,小さなものじゃ。
タンパク質というのは,「ひと」もそうじゃが,生物を作っているものなのじゃ。
いってみれば,車の部品のひとつひとつのようなものじゃな。

しかし,タンパク質,といっても,それはそれは大変な種類があるのじゃよ。
例えば,人間は,10万以上の種類のタンパク質でつくられておるんじゃ。
そして,「がん」というのは,遺伝子変異してできるものじゃったな。

「がん」は遺伝子のはたらきや異常によって起こるので, 遺伝子の病気と言われているんじゃよ。
遺伝子が変異すると「がん」という新しい腫れ物
(腫瘍)ができはじめるのじゃが,「がん」ができているときには,タンパク質が必要になるのじゃ。

つまり,ガン独特のタンパク質が身体の中でつくられるのじゃな。
だから,検査をして,このタンパク質が見つかったら,「がん」になっていることがわかる!ということなのじゃよ。



「がん」は遺伝子が傷ついてできる
ゆうきくん
なるほど。タンパク質を見わけることで,「がん」ができているかどうかがわかる。ということですね!

でも,「がん」って,見つかった時には手遅れになっていることもあるじゃないですか?

ごく最初の段階で,見つけることはできるのですか??


免疫力(めんえきりょく)にかかわる
重要なタンパク質
おもしろ博士 いいところに気がついたのう!そのとおりじゃ。

「がん」も,最初は少しずつできてくるので,「がん」ができる初期の段階で見つけることは,本当に大変なんじゃよ。

「がん」が大きくなって広がってくると,それだけ,「がん」が成長するために必要なタンパク質の量が大きくなるので,簡単に見つけられるのじゃがな。
りかちゃん 田中先生は,将来「一滴の血液から「がん」ができているかどうかがわかるようになるかも知れない。」
ということをおっしゃられているけれど,
「がん」の初期の段階で,しかも,たった一滴の血液から「がん」を見つけるというのは,とっても大変なことのように思うのですが?

 おもしろ博士
りかも良いことを言うのう。
「おもしろ情報館」で,勉強した成果じゃな。まさしく,そのとおりじゃ。

身体の中に,できたばかりの
がん遺伝子からつくられるタンパク質は,ごく微量なんじゃ。
さらに,たった一滴の血液中に含まれる量などというのは,本当に見つけるのが大変なごくごく微量なんじゃよ。
田中先生に期待したいのう。

 
ゆうきくん
博士,質量分析装置の原理を教えてください。

おもしろ博士

うむ。これは,タンパク質を壊さないでイオン化するということがポイントになるんじゃ!
世界中の研究者が,大変な努力をして,タンパク質を壊さないでイオン化をしようと頑張ったのじゃ。しかし,できなかったのじゃよ。
田中先生も,なかなかできずに何度も何度も試行錯誤をしておったのじゃ…。

通常は,コバルトとアセトンを混ぜて実験をするのじゃが,あるとき,田中先生は,アセトンの隣りにあったグリセリンを間違えて入れてしまったんじゃ。
タンパク質に
コバルトグリセリンを混ぜたんじゃな。

間違いに気がついたのじゃが,もったいないから,これを使って実験をしたところ,これがきっかけで,なんと,タンパク質を壊さないでイオン化することに成功したんじゃよ!

  図1:レーザー脱離法の原理
ソフトレーザー脱離法の原理
コバルトとグリセリンを混ぜて,
マトリックスをつくり,レーザをあてると
タンパク質が壊れないで飛び出した。
これが大発見につながった。

 ゆうきくん

なんか,間違いから大発見に結びついたっていうのは,どこかで聞いたような話だな。

たしか,
電導性プラスチックを発見した白川先生もそうですよね?

1ml(ミリリットル=CC)を l(リットル)と読み間違って,1000倍も濃い溶液を使ってプラスチックをつくったら,
電気が流れるプラスチックができた…という話ですよね?



おもしろ博士
そうじゃよ。ゆうきもよく勉強したな。

研究においては,間違いとか偶然というのも重要なんじゃ。
間違いや偶然とはいいながらも,その研究に没頭して,何度も何度も試行錯誤することが重要なのじゃ!
間違って…,とは言っているが,それまでにもいろいろなことを試みているからこそ,そういう間違いもあるのじゃよ。

一回だけの実験で,それが大発見につながるということはないのじゃぞ!!
ここは勘違いしてはいかんぞ。

さて,田中先生の話にもどるが,
最初のころの田中先生の実験データは,タンパク質の信号がノイズにまじった判別しにくいものじゃった。
田中先生は,このノイズの混じった信号の中にタンパク質の信号を見逃さなかったのじゃ。

田中先生が何回も何回も実験したからこそ,これがタンパク質の信号じゃと見抜けたのじゃ。

田中先生が実験した最初のころのデータ
              グラフ1:ノイズの混じった1回の信号 グラフ2:100回のデータを足し合わせて作られる信号
実験を繰り返したデータ(タンパク質の信号が判別できるようになった)
グラフ3:ノイズの混じった信号 グラフ4:データを足し合わせて作られる信号
りかちゃん
地道な努力の結果なのですね!

それで,タンパク質を壊さないでイオン化できたら,あとはどのようにして,質量を測ることができるのですか?


おもしろ博士

イオン化というのは,電気を持たせるということじゃ。電気のプラスとマイナスは引き合うじゃろ。
さきほど説明したように,
レーザーを使って飛び出したイオン化されたタンパク質を大きな電場の中に入れるんじゃよ。下の図だと,輪が連続してある部分じゃな。
そうすると,タンパク質は電気的な力によって下の図にあるように,引張られるんじゃ。

イオン化されたタンパク質が一定の距離を飛行するのに要した
時間から,タンパク質の質量を測定することができるんじゃよ

図2:イオンの飛行時間から質量を求めるTOF 赤い線がイオン化したタンパク質分子が飛んだ軌跡。

この赤い線を飛ぶのに要する時間から,
タンパク質の質量を測定することができる。

ゆうきくん ???りかちゃん???

おもしろ博士

すこし難しかったかな?
たとえば,坂を登るときに,重いボールと軽いボールを,同じ力で同じ距離,運ぼうとすると,どうなるかな?

重いボールじゃと,それだけ運ぶのが大変じゃから,時間がかかるじゃろ?
ヨーイドンで,同時に同じ力でこの2つを運んだら,どちらが早くゴールにつくか,簡単にわかるはずじゃ。

 ゆうきくん 当然,軽いボールです!
おもしろ博士
そうじゃな。
この原理を使って,ゴールに着く時間を厳密に測定すると,質量がわかるということじゃ。


りかちゃん なるほど。とてもよくわかりました。
でも,どうして血液から,「がん」をつくるタンパク質がわかるんですか?りかちゃん??

おもしろ博士

血液というのは,赤血球,白血球,栄養分,タンパク質,それから
血漿(けっしょう)という液体からできておるのじゃが,この血液からタンパク質を分離するんじゃ。

まず,前処理として,
遠心分離器にかけるんじゃ。試験管に入れて,遠心分離器というものにかけると,液体の部分とそれ以外の部分とに分かれるんじゃ。

遠心分離器というのは,たとえば,洗濯機の脱水槽のようなものじゃな。高速に回転するんじゃ。脱水槽では,洋服と水が分離するのじゃが…。

血液の入った試験管を遠心分離器に入れると,強烈な
G(加速度)がかかって,液体の部分とそれに溶けていた固体の部分が分離するというものなのじゃ。固体物は下にたまり,中心に液体が残るんじゃ。
ゆうきくん それで,どうなるのですか??

おもしろ博士
この分離したあとの液体(血清)にいろいろなタンパク質が含まれており,電気泳動を行いふるいにかけてから,質量分析装置にかけるのじゃ。

レーザーを照射してイオン化したものを質量分析するのじゃが,その中に,異常な質量のタンパク質が見つかれば,これが「がん」の原因ということになるのじゃ。
まっ,実際には口でいうほど簡単ではなくて,もっと大変なことなんじゃがな。原理的には,こういうことじゃ。

田中先生は,すごい大発見をしたということじゃ! 日本人の誇りじゃな。

りかちゃん はい,そうですね。とてもよくわかりました。
やはり,ノーベル賞を受賞するべき研究成果なんですね!
りかちゃんすごーい!!

ゆうきくん

タンパク質って,病気を知るためには,大切なものなんですねー。

そういえば,
狂牛病って,タンパク質が原因で病気になるということをニュースで聞きました。
病気には,いろいろな原因があるんですね。



イラスト27:おもしろ博士

うむ。病気には,いろいろな原因があるんじゃよ。
寄生虫バクテリア (細菌)ウィルス,そして,タンパク質が原因の狂牛病のような病気もあるんじゃ。

それから最近は,環境汚染の問題もあるな。

ダイオキシン
や,PCBと呼ばれる強力な毒性がある化学物質じゃ。
さらに,農薬や薬,それに住宅で使われる塗料の化学物質もそうじゃな。

現代社会というのは便利にはなったが,病気の原因になるものもふえてしまったんじゃ

悲しいことじゃな…。イラスト:おもしろ博士 大変な時代になったものじゃよ。

ゆうきは,牛肉が大好きなのに食べられなくて,心配しておるじゃろ?

イラスト28:ゆうきくん いえ,お母さんが狂牛病の心配のない,表示のあるものを買ってきているので,牛肉はちゃんと食べています。
イラスト29:おもしろ博士 ほほう。感心じゃな。お母さんの愛情に感謝しないとな。

さて,つぎは狂牛病について勉強しようかの。
狂牛病については,プルジナー先生に聞くのが一番じゃな。
ゆうきくん はい,博士,さっそく行ってきます!
狂牛病って,ニュースで聞くし,とっても関心があるわー。りかちゃん

ゆうきくん よーし! りか,
タイムマシンでプルジナー先生に会いに行くよ!

プルジナー先生は今,カリフォルニアの牧場に
行くと会えるって博士に聞いたんだ!

じゃ,出発するよ。アメリカへGo!
3!2!1!0,しっゅぱーつ!
みなさんも,プルジナー先生をクリックして,
一緒に会いに行こう!
プルジナー先生をクリックして
一緒に会いに行こう!

イラスト33:ブルジナー先生



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