我が国の測地基準系の改訂について



「測地学研究連絡委員会報告」

平成10年10月28日

日本学術会議
測地学研究連絡委員会

 


 この報告は、第17期日本学術会議測地学研究連絡委員会の審議結果を取りまとめて発表するものである。

 

委員長  竹本 修三    (京都大学大学院理学研究科教授)

幹事    加藤 照之   (東京大学地震研究所助教授)

幹事    佐々木 稔   (海上保安大学校教授)

委員    大久保 修平  (東京大学地震研究所教授)

委員    岡田 義光   (防災科学技術研究所地震調査研究センター長)

委員    笠原 稔    (北海道大学大学院理学研究科教授)

委員    藤本 博巳   (東京大学海洋研究所助教授)

委員    日置 幸介   (国立天文台地球回転研究系助教授)

委員    矢口 彰    (国土地理院測地部長)

 

 

我が国の測地基準系の改訂について

(要旨)

 

 近年、GPS(汎地球測位システム)等の宇宙測地技術の発達により、世界共通に利用できる経緯度システムである世界測地系が実現し、測地基準系としてこれを採用する国や国際機関が増加している。

 第17期測地学研究連絡委員会は、我が国の測地基準系について検討を行った結果、明治以来使用されている日本測地系(Tokyo Datum)が世界測地系と大きく乖離していることから、これを可及的速やかに、より高精度で、科学的合理性及び国際的整合性を有する世界測地系に改訂することが望ましいとの結論に達したので、以下の提言を行うものである。

 

1.準拠楕円体として、現行のベッセル楕円体に代えて、GRS80地球楕円体(長半径6,378,137m、扁平率1/298.257222101)を採用する。

 

2.測地基準座標系は、地球重心を三次元直交座標の原点とする国際地球基準座標系(ITRF)に準拠して定める。これにより、基準座標点の位置決定についてはおよそ1cm、方向決定についてはおよそ1万分の3秒角の精度を実現することを目指す。

 

3.基準座標点(原点)は、VLBI(超長基線電波干渉法)及びSLR(衛星レーザー測距法)などの宇宙測地観測を実施している国内の複数の観測地点の中から、その幾何学的配置に配慮しつつ適切な点を選定し、その位置座標を宇宙測地観測により決定する。

 

4.三角点、電子基準点(建設省国土地理院)、測点標石(海上保安庁水路部)等の基準点については、全国一様な高精度の水平位置座標値を、新たな測地基準座標系のもとで最新のデータを用いて再計算し付与する。

 また、水準点等については、従来と同様、ジオイドを基準とした標高によるが、最新のデータを用いて再計算し、新たな標高値を付与するものとする。

 さらに今後、GPS等の宇宙測地観測データと、水準測量・重力測定の地上観測データを併用し、ジオイドの高さをより高い精度で求める。

 

5.地震・地殻変動によって、基準座標点(原点)、三角点、電子基準点、測点標石、水準点等の移動及び座標系のひずみが発生すると予想される。これらの動きは、国際地球基準座標系と結合したた座標系に基づいて、電子基準点等において適切に監視し、これらの位置及び座標系の保持を行い、必要に応じて改訂を行う。

 

6.新たな測地基準系を、我が国においてできる限り速やかに実現する。

 

 

 


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「我が国の測地基準系の改訂について」

 

目 次

1.提言

2.測地基準系とは

3.世界測地系の発展とGRS80

4.現在の日本測地系の構成とその問題点

5.諸外国の測地基準系改訂への取り組み

6.測地基準系改訂の必要性


1.提言

 第17期測地学研究連絡委員会及び関連小委員会は、我が国の測地基準系の改訂についての検討を重ねた。その結果、明治以来使用されている我が国の日本測地系(Tokyo Datum)を、より高精度で、今日における科学的合理性及び国際的整合性を有する世界測地系に、可及的速やかに改訂することが望ましいとの結論に達した。これに基づき、我が国の測地基準系の改訂に関して、以下の提言を行うものである。

 

1)準拠楕円体として、従来から我が国の測地系に用いられてきたベッセル楕円体でなく、国際測地学・地球物理学連合(IUGG)及び国際測地学協会(IAG)が公式に採用を勧告しているGRS80地球楕円体(長半径6,378,137m、扁平率1/298.257222101)を採用する。

 

2)採用する測地基準座標系の位置、方向及び経度ゼロ度の定義については、その三次元直交座標の原点を地球重心とし、国際地球回転観測事業(IERS)における各種宇宙測地技術によってその位置及び方向とこれらの変動が最も正確に求められている国際地球基準座標系(ITRF)に準拠して定める。これにより、新たな測地基準系の原点に相当する基準座標点の位置決定についてはおよそ1cm、方向決定についてはおよそ1万分の3秒角の精度を実現することをめざすものとする。

 

3)従来の日本経緯度原点は、天文観測から求めた原点における鉛直線の方向と、同じく天文観測から求めた原方位によって、1地点においてその経緯度と方位が定義されていた。しかしながら、上記2)に基づく新たな測地基準系の基準座標点(原点)については、鉛直線の方向に依存しないので、鉛直線に準拠した従来と同様な定義では、必要とされる精度の座標系が実現できない。このため、新たな基準座標点としては、観測点間の距離と方向を高い精度で決定できるVLBI(超長基線電波干渉法)、及び観測点間相互の距離と地球重心との位置関係を決定できるSLR(衛星レーザー測距法)などの衛星測地技術、に基づき観測を実施している国内の複数の観測地点の中から、その幾何学的配置に配慮しつつ、合理的な点を選択して採用するものとする。

 

4)国内の三角点、電子基準点(建設省国土地理院)、測点標石(海上保安庁水路部)等の離島を含む国内の既存の基準点については、上記1)、2)及び3)に基づく全国一様な高精度の水平位置座標値を、新たな測地基準座標系のもとで最新のデータに基づいて再計算し、付与するものとする。また、水準点等の鉛直位置については、従来と同様、ジオイドを基準とした標高によるが、これについても最新のデータに基づいて再計算し、新たな標高値を付与するものとする。さらに今後、準拠楕円体からの高さが直接求められるGPS(汎地球測位システム)等の宇宙測地技術と地上における水準測量と重力測定のデータを併用し、ジオイドの高さをより高い精度で求める必要がある。

 

5)今後、地震や地殻変動によって、上記の基準座標点(原点)、三角点、電子基準点、測点標石、水準点等の移動及び座標系のひずみが発生することが考えられるが、これらの動きについては、ITRF座標と結合して空間に固定した座標系に基づいて、電子基準点等において適切に監視し、これらの位置及び座標系の保持を行い、必要に応じて改訂を行う。

 

6)上記の新たな測地基準系が、我が国において、できる限り速やかに実現されるよう提言する。

 

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2.測地基準系とは

 我々の生活空間である地球表面付近の位置を表すのに、経緯度・標高という概念が用いられている。経緯度は、地表面そのものではなく、地球形状に近似した回転楕円体(これを準拠楕円体という)を基準面として定め、この上で定義される。また、標高は、平均海面を基準にした水準面(これをジオイドという)からの鉛直上方(重力の働く方向と反対方向)の高さである。このように、経緯度は準拠楕円体上に投影された位置、標高はジオイドからの高さとして別々の体系となっており、ある地点の経緯度、標高は、それぞれ、位置のわかっている近傍の三角点、水準点から、測量によって求められる。三角点は精度に応じた等級に分類され、これらの三角点の組み合わせによって構成される三角点網が経緯度原点に結合されている。また、水準点も同様の水準点網を経由して水準原点に結合されている。我が国に限らず各国とも、こうした方法を採用しており、このような地球上の位置を表すための基準面、原点、三角点網、水準点網の体系を、測地基準系または測地系と呼んでいる。なお、狭い意味で、水平位置の体系を測地(基準)系と呼ぶこともある。

 従来の、天文観測を基にした測地基準系の準拠楕円体は、経緯度原点において実際の地球に結合される。その方法は、当該地点において天文観測を行って、この地点の鉛直線の方向を天体の方向に結びつけ、この方向から経緯度を算出して原点の経緯度と定義する。 この原点の値をもつ準拠楕円体上の点から楕円体表面に垂直に立てた法線を、実際の天文観測から求めた鉛直線と一致するように、準拠楕円体の位置と向きを定める。

 原点から鉛直上方に立つ直線と、その法線が一致するように結合された準拠楕円体は、まだ、鉛直方向の軸の周りに回転の自由度をもつので、この方向(方位)を定めるために、ある遠方の地点の方位を、同じく天文観測から求めてこれを原方位として定義し、準拠楕円体の方位を地球に結合する。

 最後に、準拠楕円体の高さ方向の位置を地球に結合する必要があり、これは、経緯度原点の近傍に設置する水準原点の高さからの水準測量によって、準拠楕円体の表面が基準水準面と同じとなるよう、すなわち標高ゼロとなるように定める。

である。

 こうして、経緯度原点において、準拠楕円体が実際の地球に厳密に結合されて定義される。なお、日本測地系に採用されている準拠楕円体は、Besselが、1841年に求めたベッセル楕円体(長半径:6377397.155m、扁平率:1/299.152813)である。

 標高は、ある領域の平均海面を標高ゼロの基準水準面(ジオイド)とし、水準測量で結合した陸地にある水準原点の標高を、この面からの鉛直上方の高さと定義する。

 新たな宇宙測地技術に基づく測地基準系は、地球の重心を原点とする三次元直交座標系で表され、この座標系の位置と方向は、観測点間の距離と方向を決定できるVLBI、及び観測点間相互の距離と地球重心との位置関係を決定できるSLRなどの衛星測地技術、の双方に基づいて求められる。準拠楕円体としては、より地球形状に近い値が採用され、その中心をこの三次元直交座標の原点に、また、その長短軸を同座標の各軸に一致させて位置が定められる。実際の地球との結合は、宇宙測地技術観測点の三次元直交座標値との関係により定まる。従来の三角点網の各点には、最新のデータを加えて、新たに定義される準拠楕円体上に投影される座標値が再計算により付与され、実用に供されることとなる。地球上の高さ方向の位置については、新たな測地基準系においても従来と同じ方法で定義される標高が水準点網から得られ、これを使用することで問題は生じないが、GPS等の宇宙測地技術からは準拠楕円体からの高さが直接得られるので、この高さから標高を効率的に得るためには、準拠楕円体からのジオイドの高さをより高い精度で求めることが必要となる。

 

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3.世界測地系の発展とGRS80

 1957年に初めて人工衛星が打ち上げられて以来、地球を周回する衛星の観測データが蓄積されるにつれて、地球重力場の解明が進むとともに、地球の重心および衛星に対する観測点の位置の結合精度が、当初の数100mから急速に向上するところとなった。これにより、地球重心を三次元直交座標の原点と結合し、また、その3つの座標軸の方向を、地球自転軸の方向と刻々の自転位相角を天体の方向と結合することにより、高い精度でグローバルな測地基準座標系を構築することが可能になった。このような座標系に最適な準拠楕円体を適合させたものを世界測地系という。

 近年、科学技術の進歩に伴って登場した、VLBI、SLR、GPS、DORIS(衛星測位システム)に代表される高精度な宇宙測地技術により、グローバルな測地基準座標系を地表付近において1cm、1万分の3秒角程度の極めて高い精度で構築することが可能になった。1988年には、我が国も含めた国際協力により、国際測地学・地球物理学連合(IUGG)と国際天文学連合(IAU)の下に国際地球回転観測事業(IERS)が設立され、精密なグローバル測地基準座標系として「国際地球基準座標系(ITRF:International Terrestrial Reference Frame)」が実現されるようになり、1989年よりその成果が定常的に公表されるようになった。我が国においては、建設省国土地理院、海上保安庁水路部、郵政省通信総合研究所、文部省国立天文台が、このIERSに参加することによって、日本測地系と世界測地系との高い精度での結合が可能となった。

 なお、これらの精度は、測地基準座標系及び地球重心と観測地点間の3次元的位置関係についてのものであって、地球全体の形状にかかわる準拠楕円体モデル及びグローバルなジオイドモデルの精度は1cmのレベルとはなっていない。現在、公式に認定され、もっとも信頼性の高い地球楕円体モデルは、1979年のIUGG総会において正式に決議されたGRS80(Geodetic Reference System 1980)に基づくものであり、その末尾の桁は、1mである。

 

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4.現在の日本測地系の構成とその問題点

 我が国においては、上述のベッセル楕円体を準拠楕円体として採用し、水平位置の原点を日本経緯度原点、標高の原点を日本水準原点と定義している。我が国の離島を除く地域に展開された三角点網、水準点網を含むこれらの位置決定システムを日本測地系(Tokyo Datum)と総称し、我が国の地図・海図(深さの基準を除く)は、原則としてこの日本測地系によって描かれている。準拠楕円体の大きさ、形状等は、測量法及び水路業務法に定められているが、ベッセル楕円体の長半径は、GRS80地球楕円体より740m短く、扁平率も異なる。

 我が国の経緯度システムは、その必要性が海上交通・航海において先行したため、1874年(明治7年)に、現在は日本経緯度原点となっている東京都港区麻布台の兵部省海軍部水路寮において天文経緯度観測が開始され、原点の経緯度成果が得られた。ただし、経度については、イギリスのグリニジとの間での電信による時刻(経度差)決定の精度が十分でなかったために、その後、幾度か改訂された。現在の日本経緯度原点の緯度の値は明治初期の値に基づいているが、経度は、1918年(大正7年)に改訂されたものである。経緯度原点は、当初、東京天文台が管理していたが、現在は、建設省国土地理院が管理を行っている。高さの基準となる東京都千代田区永田町にある日本水準原点の値は、明治初期に観測された東京湾の平均海面高に基づいていたが、1923年(大正12年)の関東大地震による同原点の沈降により、その後、改訂がなされている。

 経緯度原点から遠方域の三角点の位置については、測量誤差、計算誤差やジオイド高の無視に起因する誤差、及び地殻変動による経年変化によって大きな歪みが生じている。国土地理院によると、この歪み量は、たとえば札幌で西へ約9m、福岡で南に約4mとなっており、また、標高(現行は正規重力場を適用した正規正標高)を、実測重力値を用いたより厳密な意味での正標高と比べると場所により10cm程度の差異があることも判明している。

 日本測地系を含む天文観測から求められた局所測地系が、世界測地系からのずれを生じる主な原因は、経緯度原点における重力の働く方向が、付近の大規模な地形及び地下の質量分布の影響を受け、局所的な傾きをもつ(これを鉛直線偏差と呼び、ジオイドの凹凸によると考えても同じものである)ためである。日本経緯度原点のある関東平野南部は、我が国において特に鉛直線(上向き)が太平洋側へ南東に傾いている地域であるために、日本測地系は、諸外国に比べて大きな世界測地系との経緯度差を生じるところとなった。最近得られた国土地理院の成果によれば、日本測地系のベッセル楕円体の中心位置の地球重心からのずれを3次元座標値で表すと、地球重心から緯度、経度ゼロの方向に-146.414m、地球重心から緯度ゼロ、経度90度の方向に、+507.337m、また、地球重心から北極方向に+680.507mとなっている。

 これに基づいて、日本経緯度原点の世界測地系による位置座標値を算出すると、日本測地系の値との相違は、緯度では11.669秒角(約360mに相当)大きく、経度では、11.632秒角(約293mに相当)小さくなる。この相違をベクトル的に表わすと、方位321°の方向へ約464mとなる。同様の相違は、国内の各地で生じるがその値は一定ではなく、各地の日本測地系と世界測地系の経緯度の相違量は、稚内で約421m(方位310°)、新潟で約436m( 方位319°)、大阪で約444m(方位324°)、鹿児島で約445m(方位331°)、那覇で約488m(方位336°)、父島で 約560m (方位326°)である。


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5.諸外国の測地基準系改訂への取り組み

 GPSの急速な普及等を背景に、国際水路機関(IHO)、国際民間航空機構(ICAO)国連アジア太平洋会議は、それぞれ、海図、航空図、そして地図の測地基準系に世界測地系を採用することを勧告し、また、航海用電子海図(ENC)の内部表現は国際水路機関の統一仕様に基づいて、世界測地系で表わされている。

 一方、プレートテクトニスや地殻変動研究などの地球科学の分野において、宇宙測地技術を用いた観測と解析により大きな成果が上げられているが、正確な位置情報を得るために、これらの解析は世界測地系に準拠して行われている。すでに学術レベルでは、北米、南米、ヨーロッパにおいて世界測地系に準拠して、それぞれの地域の統一測地網が構築され、アジア太平洋地域においても同様の活動が開始されている。また、行政レベルでも、アメリカ、カナダが1980年代に世界測地系への移行に着手し、ほぼ完成したのを始め、オーストラリア、北欧諸国のほか、インドネシアが世界測地系への移行を進めている。


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6.測地基準系改訂の必要性

 日本測地系は、測量法、水路業務法により規定されているが、明治時代にその基礎が築かれたため、当時の科学的知識及び技術上の制約を受けており、これまで述べたように、現代の科学的な知見からは大きく乖離した測地基準系となっている。その要点は、下記のとおりである。

日本測地系の準拠楕円体として採用されているベッセル楕円体が、現在最適と考えられているGRS80地球楕円体と大きく乖離している(長半径で740mの差異)。

日本測地系における経緯度原点の位置座標値が、世界測地系に基づく最適な位置から大きく乖離している(緯度で約+12秒角、経度で約-12秒角、すなわち、方位321度の方向に約464m)。

測量誤差、計算誤差やジオイド高の無視に起因する誤差と地殻変動による経年変化によって測地網に大きな歪みが生じている(東京から見て、北海道で約9m、九州で約4m)。 標高(現行は正規正標高)を、実測重力値を用いた正標高と比べると場所により10cm程度の差異がある。

 近年、GPS・GLONASS等の衛星航法が急速に普及し、船舶、航空機、そして特に自動車における使用が急速に拡大している。これらによる位置決定の精度は、現在およそ100m程度であり、今後、精度の向上が見込まれる。また、基準固定局においてGPS受信シグナルの値の補正量を求めてこれを直ちに同局から発信し、これを受けたユーザーがGPSからの受信シグナルに加えて用いるDGPS(ディファレンシャルGPS)法による高精度位置決定も海上保安庁等において実用化されている。このDGPS法による位置決定精度は、GPSの単独受信による位置決定精度よりおよそ1ないし2桁精度がよい。さらに、複数の地点でGPSの使用電波の搬送波の位相を高精度で連続測定し、位相測定信号を互いに比較することにより、従来の測量で必須とされた受信点相互の見通しを要せず、かつ短時間に相対位置を1cm程度の精度で求めることも可能になり、測量に多く用いられるようになっている。これらの宇宙測地技術を利用した位置情報の内部データは、世界測地系に基づいている。一部のユーザーはこれを各国の独自の測地系に変換して用いている。

 GPS等衛星航法による位置決定は、すでに述べた利便性、簡便性とその高い精度のため、今後、いっそうの普及が見込まれる。しかしながら、その精度への高信頼性ゆえに船舶通行に際しては、日本測地系と世界測地系の混用から、目視できない暗礁・浅瀬への接近等航海に危険を生じ、特に、たとえば外国からのタンカー等が、GPSによる世界測地系に基づいて我が国の狭水道や船舶交通の輻輳海域に入域し、日本測地系で記載された海図を誤用した場合には、2つの座標系間に数100mの差があることから、座礁等の重大な事故を引き起こす可能性等が懸念される。また、両測地系の使用は、衛星航法の実用上も誤差や偏差を生じる原因となることがある。

 一方、プレートテクトニスや地殻変動研究など、近年、学術・地球科学分野において、宇宙測地技術を用いた微小位置変動の実測が精力的に行われており、観測と解析の大きな成果を上げているが、正確な解を得る上で、これらの解析は世界測地系に準拠して行われる必要がある。

 GPS等による測量の高精度化、効率化により、IERSに参加している観測局や国土地理院のおよそ1000地点のGPS観測点からなる電子基準点のみならず多くの三角点(建設省国土地理院)や測点標石(海上保安庁水路部)の座標値が世界測地系に基づき計測されるようになり、位置座標の表現(緯度、経度)を日本測地系に基づくものから世界測地系に基づくものに移行することは、現時点で技術的に十分に可能となっている。

 以上の科学的技術的理由、そして交通安全の見地から、我が国の測地基準系について、偏差の大きい日本測地系から、より精確で、世界共通に使用可能な測地基準系に改訂し、その普及を図る必要がある。測地基準系の改訂作業のみならず、地図、海図等の書き換えや、近年その発達が目覚ましい地理情報システム(GIS)の構築には、長期間を必要とすることから、5〜10年先の事態を考慮して、関係機関が早期に準備に着手することが望まれる。

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