我が国の大学等における研究環境の改善について
(中間まとめ)

「第4常置委員会報告」

平成11年3月31日

日本学術会議
第4常置委員会


 この報告は、第17期日本学術会議第4常置委員会で審議した結果を取りまとめ発表するものである。

第4常置委員会

委員長 増本 健(第5部会員 財団法人電気磁気材料研究所長)

幹 事
上里 一郎(第1部会員 早稲田大学人間科学部教授)
大山 道廣(第3部会員 慶應義塾大学経済学部教授)
星  元紀(第4部会員 東京工業大学生命理工学部教授)
山本 明夫(第5部会員 早稲田大学大学院理工学研究科教授)
入江  實(第7部会員 東邦大学名誉教授)

委 員
石川 忠久(第1部会員 二松学舎大学大学院文学研究科長)
岩崎 宏之(第1部会員 筑波大学歴史・人類学系教授)
北原 保雄(第1部会員 筑波大学長)
荒木 誠之(第2部会員 熊本学園大学社会福祉学部教授)
佐藤 竺(第2部会員 財団法人地方自治総合研究所長)
高窪 利一(第2部会員 中央大学法学部教授)
東 壽太郎(第2部会員 津田塾大学学芸学部教授)
菊池 敏夫(第3部会員 日本大学経済学部教授)
栗山 仙之助(第3部会員 摂南大学長)
河野 博忠(第3部会員 常磐大学国際学部教授)
坂元 メ(第4部会員 文部省メディア教育開発センター所長)
田中 正之(第4部会員 東北大学理学部大気海洋変動観測研究センター長)
益川 敏英(第4部会員 京都大学基礎物理学研究所長)
秋山  守(第5部会員 財団法人エネルギー総合工学研究所理事長)
丹保 憲仁(第5部会員 北海道大学総長)
朝日田康司(第6部会員 東京農業大学生物産資源開発研究所客員教授)
岡野  健(第6部会員 東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
中野 政詩(第6部会員 神戸大学農学部教授)
渡邉 誠喜(第6部会員 東京農業大学農学部教授)
内田 安信(第7部会員 明倫短期大学学長)
菅野 晴夫(第7部会員 財団法人癌研究会癌化学療法センター所長)
平沼 謙二(第7部会員 愛知学院大学名誉教授)


我が国の大学等における研究環境の改善について
−日本学術会議第4常置委員会対外報告の概要−

 日本学術会議第4常置委員会は、我が国の大学等における研究環境のうち早急に改善すべき問題点は施設(スペース)であるとの結論に達し、山本明夫幹事を座長とする研究環境ワーキンググループを組織した。同ワーキンググループは、昨年6月から12月までの間に4回開催され、これまでの検討結果をもとにした問題点の指摘及び研究環境改善のための提言を内容とする中間まとめを作成した。

 本年3月、日本学術会議第4常置委員会は、研究環境ワーキンググループから中間まとめの報告を受け、これを審議し、第4常置委員会の対外報告として了承した。

 以下は、その中間まとめの趣旨である。

1. 我が国の大学等における研究施設は積年の過小投資のため必要面積に対して極度に不足し、研究環境は劣悪化している。多くの実験室は危険な程の狭隘・過密状態にあり、早急な改善が必要である。

2. 現有建物の老朽化を改善し、大学院学生等の実験者の急増に対応する建物の改修、新設が早急に必要である。

3. 現在の劣悪な研究環境を改善し先進国並みの水準に近づけるために、自然科学研究室では、最低、現有面積の2倍程度の建物面積が必要である。

4. 研究環境改善のための投資は、長期的視点に立って継続的に行われなければならない。建物建設のための土地取得の先行投資を計画的に行うべきである。

5. 国立大学等における専門別建物基準面積は、研究従事者の増加、設置機器の高度化、情報化対策を考慮して妥当な水準に改定されるべきである。

6. 教育研究の重要な役割を分担している、私立、公立大学に対しても適切な助成が必要である。

7. 最近、景気対策としての有効性に関して疑問が提出されている従来型の公共投資に比べて、多数の研究者及び将来の研究開発人材を擁する大学等の建物設備に対する投資は波及効果が大きく、「新社会資本」充実に対する投資として有効である。

8. 科学技術基本法では、「科学技術創造立国を目指し、科学技術の振興を我が国重要政策課題の一つとして位置づけ、関連施策の総合的、計画的、かつ積極的な推進を図る」とうたわれており、科学技術基本計画では、5年間で17兆円の国費の投入が計画され、老朽化・狭隘化改善に1,200万m2を整備する、とされている。そのためには、総額数兆円の投資が必要である。これまでは、この目標を達成するには程遠い額の予算措置しかなされず、基本計画の実施は大幅に遅れている。科学技術の健全な発展には、日本の将来がかかっている。そのための最も重要な基盤である施設の充実を強く訴えたい。


我が国の大学等における研究環境の改善への提言

日本学術会議第4常置委員会研究環境ワーキンググループ

 日本学術会議第4常置委員会研究環境ワーキンググループは、わが国の大学等における研究環境のうち早急に改善すべき点に関する検討を行い、大学における施設(スペース)が現時点において最も緊急に改善を要する問題点である、という結論に達した。

 以下、我々の検討結果を含め、施設に対する問題点を指摘し、研究環境改善のための提言を行いたい。

1.科学技術基本法の成立により、科学技術の振興はわが国の重要政策課題の一つとして位置付けられ、関連施策の総合的、計画的、かつ積極的な推進が進められることになった。

 基本法の成立に続いて、科学技術基本計画が策定され、5年間で17兆円の国費を投入し、大学等の研究環境の改善が図られることになった。同計画は、狭隘化、老朽化の著しい大学等を計画的に整備する必要性を指摘し、老朽化、狭隘化対策に1,200万m2の整備が見込まれるとしている。

 たしかに、この基本計画により文部省の科学研究費補助金(科研費)が増額され、政府出資金による各省庁からの研究費が大学等に新たに供給されるようになって、一部の大学、研究グループでは研究費が潤沢になり、最新鋭の研究機器が設置されるようになった研究設備等の研究環境に関してはかなりの改善が見られた。

 大学の人員拡張は、戦後長年に渉って行われてきたが、大学関係の建物、施設の新設、更新は人員の拡充に追い付かず、多くの大学において不足状態が解消されないまま、極端な過密状態が続いている。特に自然科学系の実験室においては過密状態は著しく、研究者の安全、健康への影響が憂慮される状況である。多くの大学では、スペース不足のため、新鋭の機器の導入もままならず、スペース問題は研究活動を発展させる上で最大の阻害要因になっている。

 スペース問題は、科学技術基本法に謳われている、科学技術創造立国のために優先的に解決しなければならない課題である。

2.国立大学に関しては、平成6年に、長期に渉って固定されたままだった基準面積が20%増に改定された。しかし増大する大学院学生数に比べて建物の建設は大幅に遅れており、過密状態はますます悪化している。改訂された基準面積でも欧米の水準からすれば極めて不十分なものであるが、その基準面積に照らしても現状の建物面積は大幅に不足しており、その差は約500万m2にのぼる。ちなみに、東京大学の全建物面積は約100万m2であり、不足している建物面積は東京大学5校分、東京工業大学の規模では17校分に相当する。

 科学技術基本計画において策定された1200万m2の整備目標に対して平成10年12月までに建設された建物は80万m2に過ぎず、計画の達成は大幅に遅れている。今後残された期間において、整備を実現する計画は殆ど纏まっていないように見える。現状は、基本計画に盛られた整備計画を達成する意志も方策も政府にはないのではないか、と疑わせるものである。

 政府は、科学技術基本法立法の精神にのっとり、科学技術基本計画を実現するべく、最大の努力を傾けるべきである。

3.狭隘な環境は自然科学系の研究室に共通しているが、なかでも化学系、生物系の研究室は過密状態が著しく、消防法の規準を満足できないほど狭隘な研究室が多い。研究室の劣悪な研究環境は外国からの訪問者を驚かす程である。もし、兵庫県南部震災級の大地震が過密な研究室で実験者の活動中に起きたとしたら、惨澹たる被害が発生するであろう。

 1995年に同地震を契機として耐震改修促進法が成立し、小中高校、及び官庁建築に対しては耐震診断、耐震改修が進んでいるが、大学に対してはほとんど対策は進んでいない。

 一方、化学、生物系以外の自然科学系や、人文社会科学系研究室でも、情報機器導入のためのスペース不足など、従来の基準面積では収まり切らない問題が生じている。

 研究室における、安全な、ゆとりのある研究環境を実現することは緊急の課題である。

4.現在の劣悪な研究環境を改善し、先進国並みの水準に近付けるために、自然科学系の研究室においては最低、現有面積の2倍程度の建物面積が必要である。また、人文・社会科学系を含め、最近の研究の進歩により研究室使用の状況も大きく変化しているので、国立大学における専門別建物基準面積は、研究従事者の増加、設置機器の高度化、情報化対策等を考慮して妥当な水準に改定されるべきである。また、教育研究にたいして重要な役割を果たしている私立、公立大学にたいしても適切な助成が必要である。

5.大学等における研究教育施設は重要な公共財であるとともに、わが国発展の鍵となる「新しい社会資本」である。最近、道路、港湾、鉄道、一般住宅等に対する在来型の公共投資が景気の回復に結びつかず、景気対策への有効性が薄れていることが指摘されており、情報、通信基盤が「新社会資本」として注目されている。大学等の建物への投資は、内部設備の充実を含めて関連する需要があり、継続的な需要が見込める。

 また、最新の研究設備で訓練された人材は、社会においてさらに新技術の開発を通じて需要の拡大に貢献する。さらに、大学は今後、知的欲求を持った市民に対する生涯教育など、地域文化基盤の形成にも貢献することが期待されている。

 しかし、現状では大学は充分な人的能力を持ちながらその能力を充分に発揮出来ない状況にある。大学に充分な資本投下を行い、その能力を充分に発揮させることこそ、長期的、継続的に果実をもたらし続ける、新社会資本の整備といえる。

 大学等の施設に対するこれまでの投資の遅れを取り戻し、粗悪な老朽化した建物を改築するだけでも巨費を要する。しかし、新社会資本への投資は、景気対策としてのみでなく、未来の日本を築くための重要な投資として考えられなければならない。施設に対する投資のこれ以上の遅れは今後の学術研究に重大な影響を及ぼすおそれが大きい。これはわが国の今後の科学技術の発展にとって放置できない重要問題である。

6.現状でも大学等の建物に対する投資は大幅に遅れているが、大学審議会の予測では、今後大学院学生の大幅な増加が見込まれ、さらに外国からの留学生、企業からの研究生、ポストドクトラルフェロー等も今後さらに増加することが予測される。したがって、大学の施設に対する手当てを怠れば、今後大学の研究室等における過密状態はさらに悪化することは明らかである。

 現在のような研究環境の狭隘化、劣悪化を招いた責任の大半は、これまで必要な投資を怠った政府にある。しかし、劣悪化した状況を知りながら、それを看過し、研究能力増強のために学生定員の増加を歓迎し、狭隘度、危険度が高まることを黙認した大学人、研究者にも責任の一端がある。安全でゆとりのある研究環境を準備するのは、政府のみならず大学人の責任でもある。

 大学における学生人員の増加の前提として、土地の手当てを含め、思い切った先行投資が建物建設には必要であることを強く指摘しなければならない。

7.利用可能な土地面積の限られている大学においては、建物の新設、更新は順繰りに実施する必要があり、立案と計画実現に時間を要する。最近の国立大学における建設例の多くは補正予算によるものであり、長期的視野にたって計画が実現されたものは少ない。予算の内示後短期間に建物を建設することが必要な場合には、空いている敷地を利用して低層の建物を建設する場合が多く、限られた土地の有効利用という観点から見て、効率の悪い建設が行われている例が多い。

 大学のキャンパスにおける建物の新設、更新は、大学側が充分に練り上げた基本計画に立って実現されなければならない。

8.まもなく、次期の科学技術基本計画を策定するべき時期が来ている。大学等における施設問題が科学技術進歩のための最大の阻害要因になっていることを認識し、安全でゆとりのある研究環境を実現するため、次期の基本計画では、合理的な中、長期整備計画を練り、十分な予算の手当てが建物建設と土地取得のための先行投資にたいして優先的、集中的に行われることを要望する。

9.科学技術の健全な発展には日本の将来がかかっている。さらに、全地球的な問題の解決には、わが国の科学技術の貢献が必要である。そのための最も重要な基盤である研究施設の充実を強く訴えたい。

【第4常置委員会 研究環境ワーキンググループ】
座長 山本 明夫(第5部会員 早稲田大学大学院理工学研究科教授)

メンバー
岩崎 宏之(第1部会員 筑波大学歴史・人類学系教授)
高窪 利一(第2部会員 中央大学法学部教授)
大山 道廣(第3部会員 慶應義塾大学経済学部教授)
星  元紀(第4部会員 東京工業大学生命理工学部教授)
岡野  健(第6部会員 東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
菅野 晴夫(第7部会員 財団法人癌研究会癌化学療法センター所長)


要旨画面へ

目次

内 容

1.はじめに

2.大学における研究スペースの現状
2.1概況
2.1.1 大学の規模拡張に大幅に遅れた施設の充実
2.1.2 大学等の施設の老朽化、狭隘化の現状
2.1.3 大学院拡充による狭隘化の進行
2.1.4 今後の見通し.大学院拡充により予測される施設面積の不足
2.1.5 不充分な建物改修費、先行投資

3.研究環境アンケート調査結果の考察
3.1 研究室等の面積
3.2 研究室等の面積が少ない理由
3.3 不足しているスペース
3.4 新たな研究設備の設置スペース
3.5 日本学術会議第14期第3常置委員会による調査結果との比較

4.各専門分野別研究室スペースの状況
4.1 化学関係の実験環境に関する調査結果
4.2 化学以外の理工系関連研究室の実情
4.3 人文社会科学系における問題点
4.4 生物系実験室の実情
4.5 国立大学附置研究所における状況

5.他省庁の研究機関における状況
5.1 国立試験研究機関における状況

6.外国の大学における実情との比較
6.1 米国における施設整備の状況
6.2 他の外国における研究環境

7.科学技術基本法と学術研究環境
7.1 科学技術基本計画の策定と計画実施状況
7.2 大学側にも責任

8.まとめ

付属資料

1.人文・社会科学関係
1.1 研究スペースの経済学
1.2 慶應義塾大学(人文・社会科学系)の状況
1.3 人文・社会科学系におけるスペース問題の深刻化
1.4 人文・社会科学系におけるスペース問題の深刻な事例

2.化学関係研究環境(実験スペース、安全性)に関する化学系学科専攻主任のコメント
2.1 スペース関係
2.2 安全関連(高圧ボンベ等)
2.3 安全関連(危険物取り扱い等)
2.4 安全関連(毒物、劇物取り扱い)

3.電気情報系関連研究室の実情
3.1 電気系関連研究室の実情
3.2 情報工学系研究室の実情

4.生物関係実験環境
4.1 共通する全般的状態
4.2 資料の保存、保管を必須とする研究領域
4.3 優れた研究拠点の充実
4.4 病院
4.5 オープンラボの提案
4.6 農学系における問題点

5.研究環境に関する日本学術会議のこれまでの取り組み

6.平成5年2月25化学研究連絡委員会報告

7.国立大学附置研究所における状況−東北大学における現状−

8.地震による危険

参考資料


.はじめに

 日本学術会議第4常置委員会研究環境ワーキンググループでは、我が国の大学等における研究環境のうち早急に改善すべき点に関する検討を行い、大学等における施設(スペース)が現時点において最も緊急に改善を要する問題点である、という結論に達した。

 科学技術基本法が制定され、科学技術基本計画が策定された結果、文部省関係の科学研究費補助金(科研費)が増加するとともに、政府出資金による各省庁からの研究費が大学をはじめとする研究機関に供給されるようになった。その結果、一部の大学あるいは研究グループでは以前に比べて研究費が潤沢になり、研究設備などは最新設備の購入、更新が行われ、かなりの改善がみられた。

 それに比べて、大学関係の建物、施設(スペース)に関しては、多少の建設、更新はあったものの、建物の新設、更新は人員の拡充に追い付かず、多くの大学において、不足状態が解消されないまま、極端な過密状態が続いている。特に自然科学系の実験室においては不足状態は甚だしい。一般に実験室の環境は悪く、研究者の健康にも悪影響をおよぼす程であり、事故が起きた場合には、過密状態の為に二次災害をひき起こす危険が多いままに放置されている。多くの大学においては、スペース不足のため、新鋭の研究機器を導入しようとしてもその余裕がなく、スペース問題は研究活動を発展させる上で最大の阻害要因になっている。

 大学審議会では、今後大学院学生の大幅な増加を予測しているが、現状では増加分を収容する余地が乏しく、このまま放置すればますます過密状態が悪化するものと予測される。大学院学生のほかにも、外国からの留学生、企業からの研究生、ポストドクトラルフェローを受け入れるためのスペースがなく、全体として、我が国の科学、技術の進歩を阻害する状況が現出している。

 文科系の研究室においては、自然科学系に比較すれば多少深刻な状況は少ないが、人文社会科学方面でも、学問の進歩とともに研究対象、手法が変化しているにも関わらず、情報化への対応等が遅れ、研究室における環境、条件は国立大学、公立大学、私立大学を問わず、悪化している。

 国立試験研究機関等では、別の問題点はあるものの、施設的には大学における状況より問題の深刻さは少ない。

 企業においては一般に、安全問題への意識が高く、良好な企業イメージを維持するための努力が払われてきた。大企業では大学に比較して高額の投資が研究開発に投下され、安全でゆとりある研究環境を実現している会社が多い。大学における研究環境とはゆとり、健康面、安全面において大きな差が生じている。

 研究教育施設は重要な公共財であるとともに、わが国の将来の発展の鍵をにぎる「新しい社会資本」である。多額の税金を注入しても、景気対策の効果がうすれてきている道路、港湾、鉄道、一般住宅への投資と異なった「新社会資本」への投資は、経済政策としても有効性を増している。しかし、新社会資本への投資は景気対策としてのみでなく、未来の日本を築くための重要な投資として考えられなければならない。

 我が国の大学等における研究環境を改善し、21世紀へむけての発展条件を整備するために、「知の資産」としての新社会資本に思い切った投資を行い、長期の使用と将来の発展を見越した建物を建設し、現状の劣悪な研究環境を一刻も早く整備することが最も重要な課題である。

 以下、スペース不足の状況を概観し、研究環境改善のための提言を行う。

TOP


.大学等における研究室スペースの現状

 現状を分析し、その改善を提案するためには、基礎になるデータが必要である。しかし、残念ながら、統計の基礎となるデータは極めて不十分であり、スペース不足の状況を考察するには不満足なデータしか整備されていない。そこで、大学における最近の状況を比較的良く反映している資料であると考えられる、平成9年の科研費基盤研究によるアンケート調査報告書「大学の研究者を取り巻く研究環境に関する調査報告書」(研究代表者 太田和良幸)1および学校基本調査報告書等の文部省資料を中心とし、その他の資料2 3 4も参考にして解析をおこなった。

2.1 概況

2.1.1 大学の規模拡張に大幅に遅れた施設の充実

 第2次大戦後の復興期から経済成長期にかけて、大学進学希望者の増加と民間の旺盛な人材需要に合わせて大学の拡張が行われ、国立大学では教職員及び学生定員が大幅に増加した。一方私立大学、公立大学においても大幅な拡張が行われた。大学の拡張は学部のみではなく、大学院にも向けられ、大幅の定員増加が行われた。平成10年10月に発表された大学審議会の答申によれば、1960年(昭和35年)の大学院在学生は1万6,000人であったのが、1998年(平成10年)には10倍を超える約18万人に増加している(図1)。大学院を置く大学としては、私立大学が国立大学の3倍あるが学生数では国立大学の方が私立大学の約2倍の在学者を有している(図2)。大学の学部及び大学院におけるこのような学生数の増員は、比較的良質の人材を多数社会に供給することにより我が国の経済成長を支える役割を果たし、また大学院学生の増加は我が国における基礎研究、及び応用研究の研究戦力を充実させ、研究水準の向上に貢献した。

 しかし、このような大学及び大学院における人員の拡充は、それに相応しい施設、設備の充実を伴わずに推進されたため、多くの大学において過密状態を招き、大学における研究環境は大幅に劣悪化した。大学、大学院学生の大幅な量的拡充にもかかわらず、これまでの文部省関係の文教施設にはこのような拡大に見合う投資が行われなかった。図3−1、3−2に示すように昭和39年(1964年)以降の施設整備費予算の年次推移5は、新設大学設置及び巨大科学関係の施設費を除外すると、一貫して低く抑えられてきた、既設大学に対する建物の新設、補修、増設の費用は、我が国の約100校の全国立大学に対して数百億円にも満たない額でしかない。バブルの最中でも大学等への投資は低く抑えられたままであった。かえって、予算編成上、ゼロ・シーリング、マイナス・シーリングの影響を大きく受け、平成2年度、3年度には、既設の国立大学に対する施設整備費は、僅か100億円前後の未曾有の低水準に抑えられた。

 その中で、平成5年度、7年度の施設整備予算が図3−1にあるように、他の年度に比べて過去の水準の数倍と突出しているのは、補正予算によるものである(予算額に関しては図3−2参照)。しかし、この時期における投資額でも、必要量の一部を充足するに過ぎなかった。長期的視野に立って、未来に向けて大学施設の整備を行うのではなく、その時その時の社会情勢、財政情勢により、ようやくある程度の投資が行われてきた状況がみてとれる。

 大学の施設は順繰りに建て替える場合が多く、急には多くを整備できない。老朽化、狭隘化施設の整備は、計画的、継続的に行われなければならない。しかし、これまでの整備状況は極めて不十分であり、未来に対する投資をしてきたとはとても言えない状況である。今後は、現状を少しでも改善するための投資を行うとともに、予測される大学院生の急増に対して充分な先行投資が必要である。

2.1.2 大学等の施設の老朽化、狭隘化の現状

 多くの大学の施設は、材料が粗悪な時代に建てられたものが多く、改造、建て直しを要する老朽化した施設が多い(図4)。また、「耐震改修の促進に関する法律」の施行に伴い、昭和56年以前に建築された現行の耐震基準を満たさない建物については、早急に耐震改修等を進めることが必要になっている。小中高校および官庁建築に対しては中央省庁・自治体により耐震診断・耐震改修が進んでいるが、大学では全く対策が進んでいないと言っていい状況にある。つまり、1981年以前の建築物については、地震に対して建物自体が危険な状態にある。また、狭隘化が進んでいるため、火災、爆発、毒物拡散などの二次災害発生の危険が増している。このような状況に対する改修整備は非常に遅れている。もし、平成9年度予算ぺースで改修整備が推移したと仮定すると、およそ10年後には、経年20年以上の建物は現在の1.4倍になり、全保有面積に対する比率は約7割に達すると見込まれている。平成10年度の国立学校施設全保有面積2,193万m2のうち、建築後20年以上経過した建物が55%、そのうち建築後30年以上経過した建物は約50%に上る。老朽化した建物を更新するだけでも、今後多額の経費が必要になると予測される(図5)。文部省資料によれば、平成7年5月現在で改築を要する建物面積は、180万m2(全保有面積の約1割)に上り、整備不足面横も380万m2となっている。図6に国立学校施設の必要な面積を示す。

 また、自然科学系の実験室では、研究の高度化に伴い、各種の特殊実験室、実験棟が必要になっているが、そのような状況変化に対する対応は、ほとんど行われていない。

 人文・社会科学系においても、研究態様は最近大幅に変化してきており、高度な情報処理による新しい歴史的事実の発見や、膨大なフィールドデータの解析等が行われており、従来の個別学問並立型から分野統合型研究が進められているが、施設不足のため、これらの要求は応えられていない。

 さらに、我が国の大学では保守に対して充分な予算が手当てされていないため、建物の寿命を縮めている例が多い。充分な営繕費の手当ても必要である。

 文部省における施設面積の基準は約40年に渉って固定されたままであったが、平成6年に一部の見直しが行われ、狭隘化対策として、大学学部、大学院校舎、附置研究所・付属研究施設を対象に、約20%増の基準面積の改訂が行われた。改訂理由は、助手、留学生の研究室、実験室の確保および教授・助教授の研究室の面積加算、大学院学生の実験室の面積加算、および共用機器室・資料室の面積加算となっている。

 しかし、自然科学系の大学、大学院では、急速な技術革新により各種の機器類の設置が行われているため、研究者のためのスペースが圧迫されており、しかも、学生や、留学生、研究生、ポストドクトラルフェロー等の研究者数が急速に増加しているため、改訂された基準でも依然として現実の要求を反映しているとは言えない。実験系で安全でゆとりある研究環境を実現するためには、最低現在の2倍の面積が必要であると考えられる。しかも、実際に面積拡張が実現するには、年次計画に従ってかなりの遅れが生ずるため、狭隘化の傾向には歯止めは掛かっていない。

 図7−1に国立学校の現有面積と学生数に応じた必要面積の年次推移を示す。6平成6年度から学生数に応じて必要と考えられる建物面積が急に増加しているように見えるのは、この改訂による必要量を見込んだためである。多くの自然科学系実験室における実際の状況はこれより深刻なことに留意する必要がある。

 一応この改訂された基準によって計算するとしても、国立大学等の学生数に応じて必要と考えられる建物面積は2,619万m2と見積もられている。それに対して、現在の保有面積は約2,200万m2であり、そのうち健全面積は約2,100万m2であり、差し引き不足面積は約500万m2にのぼる。因みに、東京大学の平成10年の全建物延べ面積は100万m2であり7、500万m2は同大学5校分、東京工業大学規模8では17校分に相当する。

 しかも、もしこの基準が充足されたとしても、実際の狭隘さはまだまだ欧米の水準から懸け離れた劣悪なものにとどまるに過ぎない。災害時の危険を除き、過密状態を解消するには、国立大学だけで1000万m2は必要である。

 建物建設単価を仮に30万円/m2とすると、500万m2の建物建設に必要な経費を試算すると1.5兆円になる。1000万m2の建物建設に必要な金額は、約3兆円である。これはたしかに莫大な金額であり、財政再建が優先された時代には考えられもしない巨額の投資である。しかし、科学技術基本計画で5年間に科学技術関係に17兆円を投資することが謳われていることを考え、最近景気振興のために投人されている国費の額を思えば、支出不可能な額ではない。「新社会資本」の一つとしての科学技術研究基盤への投資は何よりも未来への投資であり、また波及効果があり、実効のあがる経済対策であると考えられる。

2.1.3 大学院拡充による狭隘化の進行

 産業界の理工系大学院卒業生採用増加の傾向により、大学院進学者の割合は急速に増加している。文部省もこの傾向に合わせて大学院重視の施策を採用し、大学院在学者数は、平成3年の約10万人から、平成10年には約18万人へと、7年間で1.8倍の増加を見た(図1)。

 大学院生は学部学生と異なり、自然科学系の学生が多く、その大部分が実験研究に従事する。したがって大学院生が増加すれば、それに対応する研究施設(スペース)が必ず必要になる。(平成12年度の文部省の予測では、大学院生全体の75%が理系であり、全必要面積の91%は理系の大学院生のために必要な面積である。)さらに、ポスドク1万人計画や、留学生10万人計画、産学共同研究の推進等に依り、大学に在籍する研究者の数は激増しており、大学の過密化には拍車がかかっている。

 図7−2に昭和62年(1987年)から平成9年(1997年)度間の学部学生、大学院学生、留学生の在籍人員の増加傾向を示す。学部学生の増加の割合に比べて大学院学生、留学生の増加傾向が顕著で、10年間に2倍以上に増加していることが分かる。国立学校等施設の全保有面積を総学生実員で除した、学生一人当たりの占有面積は1〜2割減少している。しかしこの図はキャンパス全体における学生密度の増加をあらわしているものであり、大学院生の増加による研究室狭隘化の実態を反映していない。

 大学院生数の増加、及び教官数の増加によって研究室の狭隘化が進行している状況は、研究室の総面積の統計がないためすぐには算出出来ない。そこで、便宜的に国立学校施設の総面積と大学院生総数の年次推移を図7−3に示す。また補足資料として、表1に昭和40年(1965年)から60年(1985年)にかけての国立大学建物の保有面積と文部省基準により学生数に応じて必要と考えられる建物面積を示す。図7−3は、昭和60年(1985年)頃から大学院学生数が急速に増大しているのに比べ、国立学校施設の総面積は僅かしか増加していない状況を示している。したがって、大学院学生数あたりの国立学校施設面積は昭和60年と現在を比較すると約1/3に減少している(図7−4)。この比は大学院生一人当たりの保有面積を直接あらわすものではないが、年次推移をみることにより、狭隘化のおおまかな傾向を読み取ることは可能である。

 一方、国立大学における大学院担当教官(教授及び助教授)の総数は、表2に示すように、昭和50年(1975年)と平成8年(1996年)を比較すると13,000人から30,000人に、約2.3倍に増加している。(私立大学の増加の傾向もほぼ平行しているが、建物面積のデータが得られないので、ここでは国立大学の年次推移を示す)。この間の総面積の増加は1.6倍程度であり、狭隘化が進行している。

 図7−5に、国立学校等施設の全保有面積と国立大学大学院教官(教授+助教授)数の年次推移を示す。約10年程前から始まった大学院重点化に伴う教官数の増加に対応すべき面積の増加が大きく遅れている様子がみられる。

 図7−6に、国立大学施設の全保有面積と大学院教官数の比の年次推移を示す。大学院教官数が増加しても、それに見合った建物面積の増加が追い付かないため、増加した人員を既存の建物に収容している結果、大学院教官当たり平均約3割の狭隘化が進行している。この狭隘化した空間に、この間に2倍以上に増加した大学院生、留学生、ポストドクトラルフェロー、会社からに研究生が詰め込まれ、しかも研究機器類が増加しているため、狭隘化に拍車がかかっている、というのが数字からみた国立大学の研究環境の劣悪化の現状である。理工系私立大学では、状況は一般にこれよりも更に深刻である。

2.1.4 今後の見通し 大学院拡充により予測される施設面積の不足

 大学審議会は、大学院進学者の増加傾向は今後さらに続くと予測し、平成22年には大学院在学者数は25万人を突破すると推計している。

 現状でも研究室の狭隘化が急速に進行しているのに、大学等における施設関係の投資が格段に改善されることなしに、大学審議会の予想しているような大学院学生の増員が行われれば、教育研究環境のこれまで以上の劣悪化が進行することは明らかである。これまでの大学拡張期に施設の拡充が常に後手後手に廻り、大学における教育研究環境悪化を招いた事態が再現されることは確実である。大学がこれ以上劣悪な研究環境に陥らないようにするためには、施設建設に対する、思い切った先行投資が必要である。しかし、現状の施設充実に当てられた投資額は極めて少ない。

2.1.5 不十分な建物改修費、先行投資

 国立大学の建物のうち、戦後に建設された建物は粗悪なものが多く、補修、改修を要するものが多いが、特に国立大学における建物管理は悪く、そのために建物の寿命を縮めている例が多く見受けられる。償却費の観念がほとんどないのも一つの原因であろう。図7−7に年度別一般改修費を示す。文教施設費の10%以下しか、改修費は見込まれていない。戦後に建てられた多くの建物が老朽化、劣悪化している現状では、もっと改修費への投資が必要であろう。

 しかし建物を改修、新設しようにも、限られたキャンパス内敷地では老朽した建物の取り壊しと新しい建物の新設は順繰りに行わなければならないから、建て替えには代替地が必要であり、新築にはそのための敷地が必要である。しかし、不動産購入費は極めて少なく、平成8年度1,334億円の文教施設費に対して65億円(5%未満)に過ぎない(図7−7)。建物新築に対して、長期計画に基づいた投資が行われず、大学におけるスペースの改善が遅々として進まない原因がここにも見られる。

 また、多くの大学において、陳腐化した機器等が廃棄されずに実験室を占領しており、それでなくても狭隘なスペースを更に狭くしている例が見られる。規則の問題なのか、使用者側の問題なのか、大学側としても検討すべきである。

 これまでは、主としてある程度の資料が入手可能な国立大学について考察してきたが、前にも述べたように、私立大学でも研究施設が狭隘で劣悪な状況は、国立大学と同様か、あるいは大学によってはさらにひどい。以前に行われた化学関係の研究環境の調査結果(後述)では、私立大学の化学系の研究環境は国立大学よりさらに劣悪で、実験者一人あたりの占有面積は国立大学の半分に過ぎなかった。

TOP


.研究環境アンケート調査結果の考察

 以上、我が国におけるこれまでの研究環境関係の整備状況を主として国立大学について考察してきたが、以下研究者に対する最近のアンケートに基づく調査結果によりスペースに関する現状を考察する。12

 この調査は、平成8年11月から12月にかけて、約8,500人を対象として行われたもので、回答のあった約5,000名の研究者について調査結果の解析が行われている。調査は研究環境全般に関するものであるが、ここでは研究スペースに関する結果に関してのみ考察する。

3.1 研究室等の面積

 この調査に回答した研究者は、当面最も重要な課題は何かという質問に関して、「研究室の面積」を選んだ者が最も多く、67.8%に達した。この次に多かったのが「情報化への対応」で36.7%である。また、「研究施設の老朽化」を選択した人の割合も23.0%あった(表3)。

 大学の研究者一人(学生を除く)が実質的に使用しているおよその面積は、全回答者の平均で61.3m2となった(図8)。この内訳は、設備、机、書棚等の占有面積が38.2m2その他のスペースが22.7m2であった。研究者が使用できるフリースペースは、研究室床面積の約1/3である。研究室の面積は、国立大学では、計75.3m2であり、公立大学の47.6m2、及び私立大学の50.0m2よりかなり広い。研究分野別に見ると、自然科学系74.3m2に対して、人文・社会科学系では計26.5m2であった。

 回答者の研究分野別では、自然科学系においては「研究室の面積」の問題が最も深刻で73.8%が最大の課題としてあげている。人文・社会科学系では、面積の問題の他に情報化対応が問題になっている。(表3)

3.2 研究室等の面積が少ない理由

 面積の少ない理由は、自然科学系と人文・社会科学系ではかなり異なっており、自然科学系全体では、「実験設備の増加」(58.5%)と「大学院学生・研究生数の増加」(51.5%)と回答した人が最も多く、「情報処理関係設備の増加」(42.2%)がこれに次いでいたが、人文・社会科学系では研究論文・蔵書の増加を選択した人が最も多く、「情報処理関係設備の増加」がこれに次いでいた(図9)。

3.3 不足しているスペース

 拡大する必要のあるスペースとしては、自然科学系では実験作業のスペースが第1位であり、人文・社会科学系では「個人の研究、執務スペース」を選択した人が最も多く(55.1%)、次が「ゼミ等の共同研究作業スペース」(30.6%)であった(図10)。

3.4 新たな研究設備の設置スペース

 「研究室が狭くて、新たな実験設備を置くスペースがない」と回答した人が自然科学系回答者の40.8%で最も多かった。次ぎに回答の多かったのが、「設備の大きさいかんによっては設置できないことも予想される」であり、36.8%である。これらをあわせると、新たな研究設備を設置する余地が不足している人が77%に上るという状況であり、スペース不足が研究の発展を阻害している状況が露呈している(図11、図12 円グラフ)。

 図13に、研究施設における当面の課題に対する回答結果を図示する。

 国、公、私立を問わず、研究室の面積が当面の最大の課題である、と応えた研究者が圧倒的な割合を占める。

3.5 日本学術会議第14期第3常置委員会による調査結果との比

 日本学術会議の第14期第3常置委員会では、研究環境について研究者の意識調査を行い、30歳代から40歳代の研究者2,038名にアンケート調査を行った。9この調査は研究環境の各面について行われたものであるが、そのうち研究室の面積に関する各部の研究者の満足度に関する調査結果を表4に示す(表4)。第2部のみ不満度が半数を割っているが(49.3%)、他の部の研究者はすべて狭くて困る、と回答している。

 特に狭いと回答した人の多い部は5部と7部であった。現在もう一度調査をしたとしたら、情報機器の設置のため、狭くて困ると回答する人の割合は増加しているであろう。

TOP


.各専門分野別の研究室スペースの状況

 全般的なスペース不足の状況は以上の調査結果から明らかであるが、スペース不足の深刻さは専門分野によりかなり異なる。一般に、化学、生物系が狭隘の程度が甚だしいと考えられる。

 次に日本化学会2 3及び日本学術会議化学研究連絡委員会と日本化学工業協会が協力して行った調査4に基づいて考察を行う。

4.1 化学関係の研究環境に関する調査結果

 日本化学会は、昭和61年に化学関係主任に対して、研究環境に関するアンケートを行い、その結果を昭和63年に発表した。2 同学会は、基礎と応用の両分野にまたがる研究者、技術者を擁しており、この調査は、自然科学の一分野に関するものではあるが、自然科学系の他の多くの分野に関しても、その結果は参考になるものである。

 この調査結果では、85%の学科がスペースが足りない、または極度に不足していると回答していた。また、スペースの不足は、特に私立大学において著しいという結果であった。同調査によれば、国立大学1講座当たりの平均専用面積245.5m2に対し、私立大学のそれに対応する面積は170m2であり、教員あたりの学生数が、通常、私立大学の方が多いことを考慮すると、私立大学の化学系学科における過密状態は、一般には私立大学のほうが甚だしい。

 その後、1995年度に、前回の追跡調査の意味も込めて、同学会は国公私立大学化学系学科・専攻における教育研究基盤に関する調査を行い、1996年に発表した。その結果によれば、国立、公立、私立大学のいずれにおいても、研究室面積増、安全・環境対策を含む施設設備費の増額が優先度の第1位を占めた。特にスペースに関する要求は旧帝大及び東工大、筑波大、広島大学の国立10大学において優先順位が高かった(図14)。

 一方、日本学術会議化学研究連絡委員会(化研連)では、以前から研究室のスペースの問題について大きな関心を持ち、第14期には、欧米の大学の実情とも比較して調査を行い、報告書(平成5年2月25日)「大学の研究室における安全確保と実験環境の改善について」の形でまとめている。10

 この報告では、我が国の化学系実験室が非常に狭隘で、研究者一人あたりで比較すると、欧米の大学と比べて1/2から1/3の広さしかなく、実験台や戸棚などの占める面積を勘定に入れると、実質的には1/3から1/4のスペースしかない現状が明らかにされた。さらに、狭隘であるばかりでなく、実験室の換気などの衛生や安全面からもはなはだ望ましくない状態になっていることを報告し、注意を喚起している。11

 さらに第15期には、化研連で化学安全小委員会を発足させ、日本化学会、日本化学工業協会の協力を得て、化学関係実験室の安全実態調査を行った。その結果、実験室の狭隘さからくる各種の問題点が指摘された。この調査団の訪問先の化学実験室の1人あたりの面積は、最低6.2m2最高16.7m2であり、6.0〜8.0m2の研究室が最も多かった。実験台や装置の占める面積を除くと、一人当りの実際に占める面積はこれよりずっと狭いので、この数字からだけでも過密状況がうかがわれる。

 この報告では、化学研究連絡委員会(化研連)化学安全小委員会が平成4年に行った調査に基づく報告であり、化学系の学部では、1講座(25人〜30人)当たり1,000m2程度のスペースを確保し、防災設備、ユーティリティを完備すること、その他の提言を行っている。

 化学系の多くの実験室では、消防法の規定に適合する実験室が少ないほどであり、もしも阪神大震災級の地震が大都市を襲い、地震により火災等が発生した場合には、時間帯によっては大きな惨事が起きると危惧される実験室が少なくない。

 以上、調査結果の発表されている化学系の例をあげたが、生物系の研究室でも実情はそれ程変わらないところが多いと考えられる。天災に人災が加わって被害を大きくしないよう、危険の予想される分野に対しては、特に配慮が望まれる。

4.2 化学以外の理工系関連研究室の実情

 理工系の施設に関しては、各大学とも非常に劣悪な環境にある。国立大学8大学(旧帝国大学+東京工業大学)工学部長懇談会では、8大学工学部、工学研究科における施設設備の状況を調査し、平成3年に「未来を拓く工学教育−大学院改革のための検討と提言」12をまとめ、さらに平成5年に「未来を拓く工学教育(続編)大学院を中心をする研究教育施設の再建整備のための検討報告書」13を発表している。同報告書によれば、国立大学の種類により狭隘化の実情は異なり、大学院中心の大学ほど狭隘化の程度はひどく、8大学工学部系において特に狭隘化の程度が甚だしいと述べている(図15−1)。同様の指摘は日本学術会議第5部(工学)の報告「工学系の大学学部等における教育研究環境−学長・学部長からの回答に基づいて−」(1991.3)でもなされている。

 工学系と言っても、専門分野により研究室の使い方には、図15−2のように大きな違いがある。(8大学工学部長会議の報告(1993)による)

 いずれの分野においても実験室の占める割合は大きいが、特に、化学系、材料系では、講座専用面積中で実験室の占める割合が著しく大きい、と指摘されている。

 各専門分野において、講座専用面積のうち、実験室の占める割合は以下のようである(1993年報告)。

    電気系    20−60%
    建設系    30−50%
    機械系    50−70%
    材料系    60−75%
    化学系    70−90%

 8大学工学部の調査では、各大学は、基準面積のほかに、それぞれ基準特例面積を所有している。ただ、基準特例面積所有の状況は、専門分野により大きな差がある(図15−3)。なかでも化学・生物系では、基準特例面積が他の分野に比べて著しく少ないと同報告は指摘し、これが安全上大きな問題になっていると述べられている。

 平成10年の国立大学工学部長会議の要望書14の中でも、「現状で大学院入学希望者の増加が著しく、学生の実験・学習に支障がでるおそれが指摘されている。特に実験室、実験棟が狭隘で、実験設備が輻輳し、学生の安全管理上の問題も含んでいるため、工学系学部の基準面積に格段の配慮が必要である。」と提案している。同要望書にあるように、阪神大震災において、大阪大学の2キャンパスに限っても、被害総額が施設関係で約11億円、物品で約10億円に達したことを教訓としなければならない。老朽施設を再開発し、地震時における教官、学生、職員の安全のための余裕スペースを確保する対策を施すためにも、施設の整備拡充は急務である。15、16

4.3 人文社会科学系における問題点

 人文系における「スペース問題」(岩崎宏之委員)

 人文科学系においては、理系・工学系などと比べて、「スペース問題」はあまり深刻ではないように思われるが、そうではない。

 人文系の多くの場合は、研究室として個室が与えられ、図書・資料類の収納スペースがあれば良いように思われてきた。教官の研究室としては、書架や書類戸棚等が配置された個室が与えられ、大学院の演習なども教官研究室を使って行なわれることが多い。増大する大学院生の研究環境は劣悪で、大部屋に雑居させられて、学習机1つが与えられていれば良い方である。

 図書・資料類を収蔵する施設は、研究の場に可能な限り接近していることが望ましい。人文系の場合は、図書・資料類を古くなったからといって廃棄することは出来ないために、図書・資料類は増大する一方である。古い設備に制約されて、研究室や図書室は、蔵書・資料類の収蔵スペースに悩まされている。

 人文系の多くの場合は、施設・設備が改善されることなく放置されている。比較的近年に開設された講座や設備が改善された組織などでは、情報機器への対応などもなされているところも少なくないが、建物が古い場合は、老朽による条件の悪化が問題となる。近年の情報科学の発達と普及、あるいは各種の機器類の増加などによって、人文系の研究室の状況にも大きな変化が生じている。パーソナルコンピュータが普及して、ほとんどの人文系の教官研究室にもパソコンや周辺機器が置かれており、大型機器類も使われるようになってきているからである。また、共同で利用する大型機器類も増加しており、パソコン室などの必要も生じてきている。従来の人文系研究室の状況とは大いに変化しており、そのような点で基準の見直しが必要と考えられる。

4.4 生物系実験室の実情  (星元紀委員)

 以下は生物学分野における国立大学の状況を考えたものであるが、公立大学や私立大学においても同様あるいはさらに劣悪な状況にある。

 他の分野にも共通することであろうが、大学院(特に博士後期課程)の拡大充実、ポスドク1万人計画、留学生10万人計画、産官学共同研究の推進等により、大学に在籍する研究者数が激増しており、その傾向は活発な研究を展開しているところほど高い。これらの施策・計画の実施にあたっては、研究施設の大幅な拡充が必要であるにもかかわらず、その手当ては著しく遅れている。これは、学科等の新設においても同様で、学生、教官、ついでかなり遅れて教育・研究施設という順序で揃っていくため、必然的に教育・研究施設がかなりの期間にわたって不足となる。本来、最低限必要な面積であったはずの設置基準面積すら充足されていないうえに、これらの問題が重なり、教育・研究施設(特に研究室・実験室)はひどく狭隘となっている。

 さらに、生物学分野では、革命的ともいえる学問領域自体の急速な変貌と膨張により、必要とされる設備や施設も急激に高度化、多様化、大型化しているうえ、技術革新のスピードを反映して、実質的に利用可能な年数が著しく短縮化している機器が少なくない。また、実験動物等の飼育・管理環境の拡充とレベルアップは、研究上の要請のみならず社会的常識にすらなっているにもかかわらず、生物学分野では、動物飼育施設が設置基準面積の特例として認められていない。このため、それでなくとも足りない設置基準面積のなかから相当の部分をこれに充てなければならないのが現状である。

 これらのいずれから見ても、生物学分野における設置基準面積の大幅な見直しとその完全実施が緊急に行われる必要がある。もっとも、基本的なインフラストラクチャーの一つである「空間」が確保できなければ、科学技術基本法などをうけて立案された素晴らしい諸施策や計画も、画餅に終わり空中分解しかねないのではないかと危惧している。

4.5 国立大学附置研究所における状況

 文部省所轄の研究所には、大学共同利用期間16、大学付置研究所62(内共同利用型20)があり、各研究所の設置目的、学問分野が多様なことから、一概には言えないが、研究所のスペース不足問題は最近特に顕著になっている。その大きな原因は、

1)大学院教育に参画している研究所では学部から派遣される大学院生の数が激増していること
2)出資金等による大型研究費の取得によって、大型施設設備の導入が急増していること
3)国際化に係わる外国からの研究者が増加していること などである。

 大学付置研究所のスペース不足の面積は研究所によりまちまちであるが、全般的に見て基準面積には遠く達していないところが総てであり、また戦前または戦後直後の古い建物の改築や改修が必要なところが多いのが現状である。その上、近年の大学院生、留学生、ポストドクトラルフェロー等の増加に対応するスペースに付いては、全く対応されていない。

 大学付置研究所は、設置目的に沿って常に新分野の開拓が求められており、この研究所としての重要な機能を発揮するには、これに対応する研究スペースを確保する必要がある。参考資料として、東北大学付置金属材料研究所(共同利用型)の現状を付属資料に示す。この例は、極めて恵まれた研究所の場合であり、もっと深刻な研究所が殆どであるのが現状である。

TOP


.他省庁の研究機関における状況

5.1 国立試験研究機関における状況

 国立試験研究機関(国研等)は、設置目的も様々であり、各省庁の所管であるため、施設状況は充分には把握出来ない。ただ、科学技術庁の調査報告書によれば、研究者が望む研究環境に関する調査において、研究施設・設備の充実を上位に挙げた研究者の割合はそれ程高くないので、他の切実な問題に比べれば、この問題は大学におけるよりは緊急性は低いように思われる(図15−1、図15−2)。

 一例として、科学技術庁所管の5研究所における研究職員一人当りの建物敷地面積を示す(表5)。大学と違って学生等の実験者がすくないため、大学における状況よりはかなり余裕があるようである。ただ、この面積のなかには、大規模の試験研究施設等が含まれているので、直接的な比較は出来ない。

 しかし、国立試験研究機関についても、建築後20年以上を経た施設が1/3を超えており、既に修繕を必要とする時期を迎えているものもある。また、試験研究機関によっては、外部機関からの測定依頼、外部機関(地方自治体を含む)との共同研究が増加し、面積が狭隘になり、困っているところもある。しかし、大学にくらべれば、一般的には狭隘の程度は少ないと言えよう。科学技術基本計画(平成8年7月2日)によれば、現在、国立試験研究機関全体の老朽施設の改築、改修に約80万m2が見込まれており、これらについても整備をすすめると述べられている。

TOP


.外国の大学における実情との比較

 外国の研究スペースに関する実情は簡単には分からない。化研連の調査では、欧米の大学では平均して日本の3倍から4倍の余裕を持った実験室で、排気装置の完備した条件下で研究が行われているデータが得られている。欧米からの訪問者が日本の大学の化学実験室を訪問して一様に驚くのは、その過密ぶりである。ある外国人訪問者は、大部分の日本の大学の化学系実験室は安全基準を満たしていないとして、彼の国だったら当局から閉鎖命令を受けるであろう、と指摘していた。

6.1 米国における施設整備の状況

 外国の事情に関する一例として、NSF(全米科学財団)の大学の施設に関する調査報告書内容の一部を紹介する。17 アメリカ政府は、学術研究施設は国にとって決定的に重要な国家資源であるととらえており、NSFは、大学における研究施設の状況を把握し、その結果を2年毎に議会に報告する義務を有する。この報告は、525の大学における科学及び工学(science及びengineering)関係の研究施設に関する調査結果をまとめたものである。

 1992年の初めにおいて、全米の科学及び工学関係の研究機関には1兆2200万平方フィート(1,130万m2)の施設面積(Net assigned square feet, NASF)があり、これは1988年に比べ、1,000万NASFの増加(9%)である。

 図17−1から図17−4に見られるように、建物の修理、新設に対して投資額は1986年以降一貫して増加しており、毎年20億ドル以上の投資が行われており(図17−1、17−2)、科学技術の発展に相応して充分な投資が行われている様子が見られる。その結果、研究者の満足度も日本の場合とは比較にならない位高く、施設の状況は27%が最先端の研究にも適している、34%がほとんどの目的に合致していると回答している(図17−3)。科学及び工学関係の大学施設に対する投資先は、理工系の充実した、上位100校に集中している傾向が見られる(図17−4)。

 結論として、米国では科学・工学系の施設の充実は、一国の将来に欠くべからざる基本条件である、との認識が確立しており、長期的な視点にたった一貫した投資が行われているということができる。長期的な展望がなく、研究環境が劣悪になった、という現実が噴出するまで事態を放置しておく我が国のこれまでの科学技術行政と際立った違いが見られる。

6.2 他の外国における研究環境

 米国以外の欧州先進国においても国力に応じた投資が科学技術関係の施設に対して行われており、日本のような劣悪な研究環境を放置している国はほとんど見られない。発展途上国においても、それなりの投資が行われており、日本における施設関係の状況は一部の発展途上国に比べても劣る有り様である。

TOP


.科学技術基本法と学術研究環境

7.1 科学技術基本計画の策定と計画実施状況

 我が国では、今後4半世紀のうちに生産者人口が1,200万人減少し、65歳以上の高齢者人口が1,400万人増加する。今後、引き続いて技術革新がないとすれば、GDPは減少に向かわざるを得ない。平成7年11月の国会で全会一致で制定された科学技術基本法は、科学技術立国以外に我が国のとるべき道はない、という視点に立って、科学技術の振興を我が国の最重要政策課題の一つとして位置付けたものであった。同基本法には、科学技術振興のための条件の一つとして、研究開発機関における研究施設等の充実に必要な施策を講ずることが調われている。続いて制定された科学技術基本計画では、研究開発投資額の早期倍増を図るため、平成8年度より12年度までの間に、総額17兆円規模の科学技術関係経費を投資することが定められた。特に研究開発基盤の整備・充実のため、国立大学等における狭隘化の解消と老朽施設の改築・改修に約1,200万m2の整備が必要であると具体的な数字をあげて述べている。たしかに各省庁への予算配分を含めて、科学技術関係への投資額は大幅に伸びた。しかし、科学技術研究を支える最も重要な基盤を充実させるための、長期的な視野に立った建築計画による研究環境の改善は遅々として進んでいない。1,200万m2の一応の整備目標のうち、5年計画の半ばを過ぎた平成10年12月の時点において僅かに80万m2が建設されたに過ぎない。しかも、5年間の基本計画の残された期間に、計画を達成しようとする方策も意志も見えない。最近大学等において建設された建物にしても、既設の建物の間を縫って建設された低層棟が多く、長期計画に基づく建設計画の一環として建設されたものは少ない。このような状況になってしまうのは、新施設の建設が長期的計画に基づいた当初予算により行われたものではなく、補正予算により急に配当された予算に見合うように、その場しのぎで建設が行われたことが一因であると思われる。

 この調査報告書の目的は、問題点を指摘することにあり、解決策を述べるにはさらに議論を重ねる必要があるが、少なくとも次の点を指摘しておきたい。研究スペースの確保には、土地の確保と建屋の高層化・地下利用の両側面によって実現が可能である。土地の確保には、移転によるもの、キャンパス周辺地域の再開発計画の中に位置づけられたもの、あるいはキャンパス内の敷地の整理・統廃合によるものなどがある。こうした土地の確保と高層化・地下利用とを組み合わせた中長期的対策をなるべく早く立案し、それに沿った建物建設が行われるべきである。

 いずれにしても、建物・スペースの確保は、研究基盤の根幹をなす重要事項である。この報告書で述べてきたような、建物・スペースに関する極めて劣悪な現状が改善されないまま時間が過ぎてゆく状況は、長期的視野に立って科学技術創造立国を宣言した科学技術基本法の精神にもとるものと言わなければならない。大学等の施設の老朽・狭隘化状況を改善するために、一刻も早く長期的計画を策定し、それに沿った合理的投資を進める必要がある。

7.2 大学側にも責任

 最後に、大学等における研究教育環境の劣悪化を招いた責任に関して言及したい。研究教育環境がここまで劣悪になった責任の大半は、これまで必要な投資を怠った政府によるものである。しかし、劣悪化した状況を知りながらそれを看過し、研究能力増強のために学生定員の増加を歓迎し、狭隘度、危険度が高まることを黙認した大学人、研究者にも責任の一端がある。大学審議会が答申したような、大学院増員計画がそれに見合う投資を伴わずに進行すれば、狭隘化劣悪化はさらに促進されるであろう。それに対する対処如何によって、我が国における学術研究の明日の研究環境は決まる。我が国の未来のために、安全でゆとりのある研究環境を準備するのは、政府のみならず大学人の責任でもある。

TOP


.まとめ

1.我国の大学等における研究施設は積年の過小投資のため必要面積に対して極度に不足し、研究環境は劣悪化している。多くの実験室は危険な程の狭隘・過密状態には早急な改善が必要である。

2.現有建物の老朽化を改善し、大学院学生等の実験者の急増に対応する建物の改修、新設が早急に必要である。

3.現在の劣悪な研究環境を改善し先進国並みの水準に近づけるために、最低現有面積の2倍程度の建物面積が必要である。

4.研究環境改善のための投資は、長期的視点に立って継続的に行われなければならない。建物建設のための土地取得の先行投資を計画的に行うべきである。

5.国立大学等における専門別建物基準面積は、研究従事者の増加、設置機器の高度化、情報化対策を考慮して妥当な水準に改定されるべきである。

6.教育研究の重要な役割を分担している、私立、公立大学に対しても適切な助成が必要である。

7.科学技術基本法では、「科学技術創造立国を目指し、科学技術の振興を我が国の重要政策課題の一つとして位置づけ、関連施策の総合的、計画的、かつ積極的な推進を図る」とうたわれており、科学技術基本計画では、計画期間5年間で17兆円の国費を投入し、老朽化・狭隘化改善に1,200万m2を整備するとされている。そのためには総額数兆円の投資が必要である。これまではこの目標を達成するには程遠い額の予算措置しかなされず、基本計画の実施は大幅に遅れている。科学技術の健全な発展には日本の将来がかかっている。そのための最も重要な基盤である施設の充実を強く訴えたい。

TOP


Copyright 2002 SCIENCE COUNCIL OF JAPAN