21世紀を展望したエネルギーに係る研究開発・教育について
「社会・産業・エネルギー研究連絡委員会報告」
平成11年2月22日
日本学術会議
社会・産業・エネルギー研究連絡委員会
この報告は、第17期日本学術会議社会・産業・エネルギー研究連絡委員会の審議結果を取りまとめ発表するものである。
「社会・産業・エネルギー研究連絡委員会」
委員長 三井恒夫 (日本学術会議第5部会員、東京電力株式会社顧問)
幹 事 秋山 守 (日本学術会議第5部会員、財団法人エネルギー総合工学研究所理事長)
委 員 植草 益 (日本学術会議第3部会員、東洋大学経済学部教授)
石井吉徳 (アジア環境技術推進機構理事長)
小宮山宏 (東京大学大学院工学系研究科教授)
十市 勉 (財団法人日本エネルギー経済研究所理事)
平澤 冷 (科学技術庁科学技術政策研究所総括主任研究官)
(エネルギー戦略検討小委員会)
委員長 三井恒夫 (日本学術会議第5部会員、東京電力株式会社顧問)
幹 事 秋山 守 (日本学術会議第5部会員、財団法人エネルギー総合工学研究所理事長)
委 員 植草 益 (日本学術会議第3部会員、東洋大学経済学部教授)
関根泰次 (日本学術会議第5部会員、東京理科大学工学部教授)
冨浦 梓 (日本学術会議第5部会員、新日本製鐵株式会社顧問)
平田 賢 (日本学術会議第5部会員、芝浦工業大学システム工学部教授)
松尾 稔 (日本学術会議第5部会員、名古屋大学総長)
石井吉徳 (アジア環境技術推進機構理事長)
伊東慶四郎(財団法人政策科学研究所主席研究員)
内田盛也 (株式会社モリエイ代表取締役会長)
内山洋司 (財団法人電力中央研究所上席研究員)
太田博光 (東京電力株式会社主管研究員)
小宮山宏 (東京大学大学院工学系研究科教授)
佐川直人 (財団法人日本エネルギー経済研究所第2研究室室長)
鈴木篤之 (東京大学大学院工学系研究科教授)
十市 勉 (財団法人日本エネルギー経済研究所理事)
平澤 冷 (科学技術庁科学技術政策研究所総括主任研究官)
村田 稔 (新日本製鐵株式会社エネルギー研究グループリーダー)
森口祐一 (国立環境研究所総合研究官)
山地憲治 (東京大学大学院工学系研究科教授)
「21世紀を展望したエネルギーに係る研究開発・教育について」
−日本学術会議対外報告の概要−
1.要旨
エネルギーの需給は、世界の人口の推移やエネルギー消費構造に強く影響される。特に、アジア諸国をはじめ、発展途上国における急速な人口増加や、エネルギー消費の動向を考えるとき、100年を超える超長期にわたる国際的エネルギー需給の展望なしには、我が国のエネルギーの将来を考えることは出来ない。
加えて化石燃料、ウランなどエネルギー資源の枯渇、エネルギー消費に伴う地球環境問題など、国際的なエネルギー情勢は、長期的に、より抜本的かつ総合的な究明をしていく必要性があることが明らかである。
このような背景から、我が国のエネルギー戦略は、国の存立に係わる基本戦略として位置付けられるものであり、エネルギーに係わる学術も、このような国の基本戦略にのっとって確立されなければならない。以下は提言の主旨である。
(1)「エネルギー研究開発総合戦略」の確立
国においては,2100年に至る世界のエネルギー情報を的確に把握し、学界、産業界、国民、社会の意向を十分踏まえ、化石燃料、再生エネルギー、省エネルギー、原子力エネルギーなどの進めるべきエネルギー研究開発について、多面的な調査研究、評価を行い、各省庁協議の上「エネルギー研究開発の総合戦略」を審議、立案、決定する。
総合戦略審議にあたっては、複数の選択肢を勘案し、情勢変化に応じて見直しを行うなど多様性、柔軟性を持つものとする。
(2)民間における「総合戦略」研究機能の強化
民間においては、国の総合戦略確立に呼応し、既存エネルギー研究機関を「総合戦略」の研究に重点を置くよう機能強化する。
本機関は、国の総合戦略審議に資するよう、2100年に至るエネルギーの需給動向、地球温暖化の推移を、国内外の研究機関の専門情報をもとに予測、集約、分析し、必要とするエネルギー研究開発について、複数の選択肢を調査の上、政治、経済、文化の側面も含めて総合評価し、国に情報提供する。
同時にこれらの情報を、国民が十分理解出来るように公開、発信、伝達する。
(3)エネルギー研究の国際的拠点形成
総合戦略に基づいて研究開発を実施する体制について、まず国は、国 立研究機関の独立行政法人化に際して、各研究機関が分散して実施して いるエネルギー研究機能を、相互に補完出来るよう整理統合して、新し いエネルギー研究組織を形成し、国際的研究拠点とする。
同時に大学におけるエネルギーの学術的基礎研究については、総合戦 略でその位置付けを明確にし、研究設備を拡充して、その機能を強化す る。
また、産業界は、上記研究組織、大学などと連携し、必要な支援を得 て、エネルギー技術実用化のための研究開発を進める。これらの研究開 発にはアジア諸国をはじめとする海外からの参加を求め、国内外のエネ ルギー技術に携わる研究者、教育者、産業技術者の人材を育成する。
(4)「エネルギー学」の創出、進展
現状のエネルギー産業技術の維持、発展と、21世紀の新しいエネルギー技術の確立には、産業現場における不断の研鑽とともに、自然科学、人文科学、社会科学を、それぞれの観点からの研究開発を進め、これらを俯瞰する新しい学術−「エネルギー学」を創出し進展をはかる必要がある。
高等教育機関においては、関連学術分野と社会、産業の各方面の協力により、「エネルギー学」の教育を目的としたカリキュラムを編成し、高度な人材を育成する。これに関連して初等、中等教育機関においても、基礎的なエネルギー教育を体系的に実施する。
日本学術会議においては、関連の学協会、各研究機関と協力し「エネルギー学」の概念形成、方法論等を研究し、当該分野を支える基盤の育成に努めるとともに、実効性を高めるため、必要に応じ勧告、提言を行う。日本学術会議内に、このための体制を整備する。
2.検討の経緯
日本学術会議第5部は、21世紀を展望した社会・産業・エネルギーに関する重要課題を調査研究するため、「社会・産業・エネルギー研究連絡委員会」を設置した。同研究連絡委員会は、「エネルギー戦略検討小委員会」を設置して、具体的な調査研究を行った。こうした審議を経て、報告書が取りまとめられた。
(1)エネルギー需要の動向
(2)エネルギー供給確保とCO2排出量
(3)化石燃料の制約とCO2低減方策
(4)再生エネルギーと省エネルギー
(5)原子力発電の社会的、技術的課題
(1)エネルギー産業技術の維持、伝承、進展
(2)エネルギー研究開発の総合戦略
(3)エネルギー研究開発の体制
(4)エネルギーに関する新しい学術の創出
(5)エネルギーと文化
(1)「エネルギー研究開発総合戦略」の確立
(2)民間における「総合戦略」研究機能の強化
(3)エネルギー研究の国際的拠点形成
(4)「エネルギー学」の創出、進展
世界は21世紀を前にして、発展途上国を中心とする急激な人口増加、限りある資源、忍び寄る食糧不安など様々な課題を抱え、そうした中で何とか人類の幸せと、豊かな文化を享受できる社会を構築すべく懸命な努力を続けている。
中でもこうした社会生活に欠くことの出来ないエネルギーは、現在世界全体で年間80億トン(石油換算)が消費されており、21世紀には人口増加や社会の発展に伴って必然的に消費の増大が予測される。
果たしてどの程度のエネルギーが消費されるようになるのであろうか。
そして世界はこれを賄うだけのエネルギー資源を確保することが出来るのだろうか。
太陽光、風力などの再生エネルギーは、エネルギーの総量はあるものの、密度が低い、時間的変動が大きいなどの理由から、安定なエネルギー源として期待することは難しく、原子力エネルギーは有力な手段でありながら、国民の積極的容認を得るのに難行している。また化石燃料を使用し続ければ、その排出ガスによって地球温暖化が加速され、地球環境を保つことが出来なくなり、極めて深刻な事態となる。
是非とも、これに対応する手段を創り上げなければならない。
我が国においては、第2次大戦後、石炭資源の活用により産業復興を果たし、1960年代には海外から大量の石油を輸入して、鉄鋼、化学、自動車、造船などの産業を発展させ、経済をめざましく成長させた。
1970年代に至り、2度のオイルショックを経験し、その社会経済への影響は極めて大きかったが、政府並びに産業界のたゆまぬ努力により、原子力エネルギーの活用やエネルギー利用効率の向上に努めることにより、石油依存率を低減し、エネルギーの安定な確保をはかることに成功した。また石炭、石油の利用によるばい煙や、SOx、NOxの公害問題も地道に克服してきた。
このようにオイルショックに触発されて、我が国エネルギー技術は、現在消費、供給の両面で世界的に著しく高い技術水準にあるといえる。
21世紀に迎える世界的規模のエネルギー供給確保と、地球温暖化対策を解決するにあたっては、こうしたエネルギー技術の維持、伝承、進展に努めるとともに、必要とするエネルギー研究開発を世界各国の産業界、学界と協力して推進し、新しい技術文化を創造していくことが強く期待されている。
わけても近隣のアジア諸国は、人口増加と近代化の進展によって、エネルギー消費の増加率は極めて高いと予測されるので、これらの国々に対しては、手を携えて問題解決に努め、技術基盤の共存に工夫をこらしていくことが重要であり、同時に高度なエネルギー技術に携わる実務能力の高い専門家の育成に、手を差しのべていくことも肝要である。
このように21世紀の人間生活・社会・産業を展望する時、エネルギーに係わる問題は極めて多岐にわたるので、「社会・産業・エネルギー研究連絡委員会」においては、こうしたエネルギーに関連する課題の解決手段に焦点を当て、エネルギー研究開発の総合戦略のあり方を中心に調査研究を行った。
以下に述べる方向に向かって、広く世界の国々と協力して新しい「知」を創造するべく、エネルギー技術の再構築をすることが望まれる。
(1)エネルギー需要の動向
2100年までのエネルギー需要は、人口の推移、経済成長の動向によって著しく異なってくる。
これらをどう予測するかによって定まってくる。
世界各国の様々な機関で数百種類に及ぶ予測シナリオを作成しているが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)においては、これらをもとにして新しい標準シナリオを作成しているところである。
我が国も国立環境研究所などの機関からこの作業に参加しているが、表−1は、国立環境研究所の資料より引用した21世紀のエネルギー消費量の試算例である。
すなわち、途中年度は大差ないものの、各地域が環境に配慮せず、それぞれ経済活動を行ったケースでは、2100年に350〜427億トン(石油換算)と現在の4〜5倍となり、環境と経済とのバランスをはかったケースでは、171〜276億トン(石油換算)と現在の2〜3倍程度となっている。
表−1 21世紀のエネルギー需要(IPCCのシナリオの例)
2010年 | 2050年 | 2100年 | |
102〜125 | 164〜232 | 350〜427 | |
億トン石油 | 億トン石油 | 億トン石油 | |
100〜147 | 165〜235 | 171〜276 | |
バランスをはか | 億トン石油 | 億トン石油 | 億トン石油 |
ったケース |
出典:国立環境研究所
(2)エネルギー供給確保とCO2排出量
21世紀のエネルギー需要に対し、エネルギー供給の確保が可能か否かは、
・化石燃料の制約とCO2低減方策
・再生エネルギーと省エネルギー
・原子力発電の社会的、技術的課題
の課題解決の成否にかかっている。
表−1のエネルギーに対し、CO2排出量を2100年に概ね3倍程度とするケースと、現状程度とするケースについて、再生エネルギー、原子力エネルギーなどのコストを想定して試算したエネルギー供給の形態は表−2の通りとなる。このように、CO2排出量を抑制、あるいは削減するためには、当然、石炭などの化石燃料の比率を減らし、原子力、再生エネルギーの非化石エネルギーの比率を高めることが必要となる。再生エネルギーには、欧米の学者達が主張するバイオマスエネルギーが大きな部分を占めている。
なお図−1はエネルギー需要、供給エネルギーの構成等の想定が異なる数百種類のシナリオのCO2排出量の変化図であり、CO2排出量は設定するシナリオによって10倍に近い差があることに注目する必要がある。
表−2 21世紀のエネルギー供給構成とCO2
排出量(IPCCのシナリオの例)
2010年 | 2050年 | 2100年 | ||
再生エネルギー 5〜16% | 12〜24% | 14〜25% | ||
原子力 2〜 5% | 5〜 8% | 10〜14% | ||
ガス 21〜27% | 22〜28% | 12〜19% | ||
石油 29〜48% | 13〜23% | 0〜 8% | ||
石炭 23〜30% | 30〜42% | 43〜53% | ||
CO2排出量 | 86〜111億トンC | 123〜175億トンC | 211〜330億トンC | |
再生エネルギー 6〜17% | 16〜34% | 20〜62% | ||
原子力 1〜 4% | 1〜11% | 1〜26% | ||
バランスをはか | ガス 22〜38% | 23〜51% | 15〜29% | |
ったケース | 石油 34〜44% | 17〜27% | 0〜 9% | |
石炭 4〜27% | 0〜35% | 5〜29% | ||
CO2排出量 | 81〜131億トンC | 98〜180億トンC | 61〜 78億トンC |
(注)CO2排出量には森林伐採に基づくもの及びセメント生産などの工業生産 に基づくものを含む。
図−1 世界のCO2排出シナリオ
出典:国立環境研究所
(3)化石燃料の制約とCO2低減方策
・化石燃料の制約
地球上で採掘可能な化石燃料は、石油換算で36兆バレルと言われている。しかし、将来の世界人口を120億人で飽和すると仮定し、2030年頃をピークに減産し、天然ガスも2050年頃から減産することになる。石炭は資源量が豊富であり、増大する世界のエネルギー需要を賄う能力はあるが、それにも限界がある。
・CO2低減方策
研究がある。化石燃料のエネルギー利用効率としては、例えば火力発電においてもコンバインドサイクル発電※ の採用、ガスタービンの高効率化により、従来の火力発電の熱効率40%を53%に向上しており、さらにこれを高める研究開発が進められている。これは して発電する場合は、これをガス化してコンバインドサイクル発電と組み合わせて、熱効率を向上する方策が実施に移されようとして 電効率40%が29.5%に低下)化石資源のロスになるために、 を海洋に投棄するとすれば、その影響についても広く海洋学、生物の植林による固定は効果があるとみられており実験、研究が進められている。(4)再生エネルギーと省エネルギー
・再生エネルギー
再生エネルギーに世界で広く期待が高まっており、多くの研究開発が行われている。しかしながら、太陽光発電はエネルギー密度※※が小さく、また日射量の制約があって設備利用率は12%と小さいので、所要面積は広大なものとなる。(原子力発電所の360倍)風力発電は風速条件に左右され、同じく20%といった非常に低い数字である。このように、太陽光発電、風力発電いずれも大規模電源として期待することは難しいものの、局地的利用は広まると思われる。
※ コンバインドサイクル発電・・・・ガスタービンとその排気熱を利用する蒸気タービンを組み合わせた発電方式。
その熱効率は従来のボイラ発電の約40%を上回り、ガスタービンの高効率化に
よって熱効率は53%となった。
※※ エネルギー密度・・・・単位面積当たりの発生エネルギー量。(発電電力量)
・省エネルギー
先進諸国においては、化石燃料資源の制約や地球環境問題の懸念から、エネルギー消費に関する理解は高まりつつあり、特に我が国では、資源制約が厳しいことから省エネルギー技術の開発を積極的に進めた。最終エネルギー消費の50%を占める産業部門では、エネルギー消費原単位を第1次オイルショックの50〜60%にまで低減し、世界で第1位のレベルにある。
図−2は主要各国の鉄鋼業のエネルギー原単位である。しかしながらその他の部門の省エネルギーは必ずしも十分でなく、特に運輸部門については国全体の輸送システムのあり方を検討し、エネルギー利用効率の高い体制を構築することが重要であり、民生部門における省エネルギー対策としては法的な措置を含め、エネルギー機器の効率向上、ライフスタイルの変革など総合的な対応が必要である。今後はエネルギー消費の拡大が予想される発展途上国を中心に、省エネルギー技術の普及に努めていくことが望まれる。
図−2 主要製鉄国のエネルギー原単位比較
(1994年:日本を100とした指数)
出典:日本鉄鋼連盟
(5)原子力発電の社会的、技術的課題
世界の原子力発電によるエネルギー供給量は全体の約7%で、主要国の比率は表−3のように、9%から41%である。エネルギー資源の乏しいフランスは、原子力発電に対する依存度が最も高い。
表−3 主要国のエネルギー供給構成(1995年度)(%)
石 油 | 石 炭 | 原 子 力 | ガ ス | 水 力 等 | |||
日 本 | 54.2 | 16.6 | 15.3 | 10.5 | 3.5 | ||
アメリカ | 38.3 | 22.9 | 9.0 | 24.4 | 5.5 | ||
イギリス | 37.5 | 21.4 | 10.4 | 29.3 | 1.4 | ||
フランス | 35.9 | 6.7 | 40.7 | 12.3 | 4.4 | ||
ド イ ツ | 40.0 | 27.0 | 11.8 | 19.6 | 1.6 |
注1)水力等には地熱、再生可能エネルギー、輸出入電力を含む。
出典:OECD ENERGY BALANCES 1997, OECD ENERGY STATISTICS AND BALANCES
OF NON-OECD COUNTRIES 1997
また中国をはじめとする発展途上国においては、建設もしくは計画中の発電規模は大きく、今後とも増加の傾向にある。原子力発電所の建設、運転、保守にあたっては、いずれの国においても安全性の確保に最大限に努めることは論をまたず、それらの各過程において工学的安全性は保たれており、国の機関(我が国では通産省並びに原子力安全委員会)においても十分な安全審査を行っている。
原子力エネルギーの利用面では、放射性物質を封じ込める5重のバリア、緊急制御システム、訓練用シミュレーターなど安全性、信頼性の向上に努め、現在運転中の51基、4491.7万KWの原子力発電において、炉心の損傷するような大きな事故は発生したことは皆無であり、計画外停止回数が年間1基あたり0.2回とフランス、アメリカの10分の1と高い信頼性を保っている。
※ 平均熱効率・・・・火力発電の運転実績(年間)から算出した平均の熱効率。日本は39%、米、仏、独、伊の欧米諸国の平均は34%。
※※ SOx排出原単位・・・・日本は0.27g/KWh。加、仏、独、伊、英、米の平均は4.68g/KWh。(日本の17倍)
NOx排出原単位・・・・日本は0.34g/KWh。欧米諸国は2.18g/KWh。(日本の6倍)
※ 輸入依存度・・・・一次エネルギー総供給に対する輸入エネルギーの百分率。原子力発電は国産エネルギーとする。
特に我が国では、第二次大戦時、原子力エネルギーによって甚大な被害を受けた経験があり、その国際的な再発の懸念や旧ソ連、アメリカにおける原子力発電所の大規模事故が、我が国でも発生しないかという危惧、放射能による影響に対する不安、原子力研究開発機関の事故によって露見した研究開発の閉鎖性、独善性に対する不信等があり、これが重畳して原子力エネルギーの利用に関する国民の理解に複雑な問題を投げかけている。
このように、エネルギー問題は単に工学分野での技術者倫理だけで解決出来るものでなく、国際政治の上でどのような取り組みをするか、社会心理学的にどのような手法で国民にエネルギーの問題を考えてもらうかなど、政治、経済、文化、心理、倫理、医学、理学等の観点から幅広く検討されるべきものである。
すなわち「エネルギー」に関しては、これら人文科学、社会科学、自然科学などの各分野で、それぞれ深く研究されるものであり、一分野からの学術でなく、これらの学術を俯瞰する「エネルギー学」という新しい学術の創出が望まれている。
(5)エネルギーと文化
人類は太古より火を手にすることを知り、やがて風力、水力をエネルギー源として活用し、中世に至っては蒸気機関を重要なエネルギー機関として実用開始し、以来、石炭、石油、ガスさらには原子力をエネルギー源として広く利用し、20世紀における社会経済の発展と文化の構築を遂げてきた。
一方においてエネルギー消費の爆発的な増加は、やがて地球上の化石燃料資源の枯渇を招き、さらにこれに伴うCO2の排出は地球の温暖化を促進し、このまま推移すれば次第に海面水位が上昇するという危機を迎えようとしている。
果たして21世紀のエネルギー消費はどのように予測されるのであろうか。
そのためには発展途上国を中心とする人口の増加をどう考えるか、世界の各地域の経済発展をどのように想定するか、循環型社会をどう構築
するか、科学技術がどう進展しこの問題を解決することとなるのか、科学技術と人間との関係をどうしていくかなど、これからの社会、産業、人間とエネルギーを考える時、極めて広範な困難な問題が包含されている。
こうした課題に対し「エネルギー学」の立場から必要な研究開発を行
「社会性」、経済的に寄与出来るような「経済性」などの観点から、人類に十分な情報を提供することが重要である。
特に我が国は、エネルギー技術に関しては先導的な位置にあるので、国としての総合戦略を確立し、世界各国と協力して率先して研究開発を進め、人類の幸福と文化の進展に寄与しなくてはならない。
エネルギーの需給は、世界の人口の推移やエネルギー消費構造に強く影響される。特に、アジア諸国をはじめ、発展途上国における急速な人口増加や、エネルギー消費の動向を考えるとき、100年を超える超長期にわたる国際的エネルギー需給の展望なしには、我が国のエネルギーの将来を考えることは出来ない。
加えて化石燃料、ウランなどエネルギー資源の枯渇、エネルギー消費に伴う地球環境問題など、国際的なエネルギー情勢は、長期的に、より抜本的かつ総合的な究明をしていく必要性があることが明らかである。
このような背景から、我が国のエネルギー戦略は、国の存立に係わる基本戦略として位置付けられるものであり、エネルギーに係わる学術も、このような国の基本戦略にのっとって確立されなければならない。
従って21世紀を通じ豊かな文化と社会の創出に不可欠なエネルギーを確保するため、超長期を展望した我が国の「エネルギー研究開発の総合戦略」が早急に確立され、「エネルギー研究開発」が着実に推進されること、そして人文科学、社会科学、自然科学の部門におけるエネルギーに関する学術が進展し、これらを俯瞰する新しい学術−「エネルギー学」が創出されることについて次のように提言する。
(1)「エネルギー研究開発総合戦略」の確立
国においては、2100年に至る世界のエネルギー情報を的確に把握し、学界、産業界、国民、社会の意向を十分踏まえ、化石燃料、再生エネルギー、省エネルギー、原子力エネルギーなどの進めるべきエネルギー研究開発について、多面的な調査研究、評価を行い、各省庁協議の上「エネルギー研究開発の総合戦略」を審議、立案、決定する。
総合戦略審議にあたっては、複数の選択肢を勘案し、情勢変化に応じて見直しを行うなど多様性、柔軟性を持つものとする。
(2)民間における「総合戦略」研究機能の強化
民間においては、国の総合戦略確立に呼応し、既存エネルギー研究機関を「総合戦略」の研究に重点を置くよう機能強化する。
本機関は、国の総合戦略審議に資するよう、2100年に至るエネルギーの需給動向、地球温暖化の推移を、国内外の研究機関の専門情報をもとに予測、集約、分析し、必要とするエネルギー研究開発について、複数の選択肢を調査の上、政治、経済、文化の側面も含めて総合評価し、国に情報提供する。
同時にこれらの情報を、国民が十分理解出来るように公開、発信、伝達する。
総合戦略に基づいて研究開発を実施する体制について、まず国は、国 立研究機関の独立行政法人化に際して、各研究機関が分散して実施して いるエネルギー研究機能を、相互に補完出来るよう整理統合して、新し いエネルギー研究組織を形成し、国際的研究拠点とする。
同時に大学におけるエネルギーの学術的基礎研究については、総合戦 略でその位置付けを明確にし、研究設備を拡充して、その機能を強化す る。
また、産業界は、上記研究組織、大学などと連携し、必要な支援を得 て、エネルギー技術実用化のための研究開発を進める。これらの研究開 発にはアジア諸国をはじめとする海外からの参加を求め、国内外のエネ ルギー技術に携わる研究者、教育者、産業技術者の人材を育成する。
(4)「エネルギー学」の創出、進展
現状のエネルギー産業技術の維持、発展と、21世紀の新しいエネルギー技術の確立には、産業現場における不断の研鑽とともに、自然科学、人文科学、社会科学を、それぞれの観点からの研究開発を進め、これらを俯瞰する新しい学術−「エネルギー学」を創出し進展をはかる必要がある。高等教育機関においては、関連学術分野と社会、産業の各方面の協力により、「エネルギー学」の教育を目的としたカリキュラムを編成し、高度な人材を育成する。これに関連して初等、中等教育機関においても、基礎的なエネルギー教育を体系的に実施する。Copyright 2001 SCIENCE COUNCIL OF JAPAN