未来に調和した人工物設計・生産学術研究の推進


「人工物設計・生産研究連絡委員会設計工学専門委員会報告」

平成12 年5 月29 日
日本学術会議


 この報告は、第17 期日本学術会議人工物設計・生産研究連絡委員会設計工学専門委員会の審議結果を取りまとめ発表するものである。

[人工物設計・生産研究連絡委員会設計工学専門委員会]
委員長
 中島 尚正(東京大学大学院工学系研究科教授)

幹 事
 冨山 哲男(東京大学人工物工学研究センター教授)
委 員
 赤木 新介(大阪産業大学工学部教授)
 中川 武(早稲田大学理工学部教授)
 尾田 十八(金沢大学工学部教授)


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目 次

1 .人工物設計・生産の現状

2 .量的充足から質的充足へ

3 .文明を築く設計者の役割と未来の工学の役割

4 .学術研究成果の社会への還元

5 .未来に調和した人工物設計・生産に関する学術研究体制の整備

6 .まとめ


1 . 人工物設計・生産の現状

 21世紀を迎えるにあたり、20 世紀が科学技術の世紀であったと述べることは過 言ではないであろう。多くの科学上の重要な発見、技術上の重要な発明、そして途切 れることのない科学技術全体の進歩によって、人類の生活は大変革した。さらに、多 くの国家が工業社会化し、経済はもちろん、社会、文化も前世紀から全く異なる様態 を示すようになった。

 人工物設計・生産の観点からその中でも特筆すべきはことは、工業先進国において は自然物中心の生活が工業製品に代表される人工物中心の生活に様変わりしたこと である。人工物は大量に絶え間なく供給され日常生活のあらゆる場所に入り込み、衣 食住という基本的欲求も人工物で満足されるようになった。例えば食品ですら、工業 先進国では加工食品、飲料に頼るようになっている。(この場合、加工食品は否定的 な意味だけではなく、安全・衛生的で安定的な供給を可能にしたという効果も忘れて はならない。)さらには、多くの人々が持つ社会的欲求、自己実現欲求も、大量に供 給された人工物で満足されるようになっている。その結果として、多くの人々が少な くとも物質的に恵まれていると感じることができるような豊かな社会を築くことが 出来たことも事実である。

 ところで、大量に供給された人工物は、人々の欲求を刺激し、さらなる人工物生産 を駆動した。すなわち、ヘンリー・フォードを嚆矢とする大量生産技術は、当面必要 とされる生活必需品を量的に充足したのみならず、欲望・欲求を刺激し、それに駆動 された資本主義経済のメカニズムによってあらゆる種類の人工物の過剰な生産を行 った。すなわち、必要以上の過剰な人工物の生産力拡大、生産技術開発を競争的に目 指すようになり、必要以上の過剰な人工物生産をもたらしたのである。この循環の帰結として、少なくとも我が国を含む工業先進国においては、今や人工物は量的には必 要以上に過剰に充足したと理解できる。

 一方で、過剰な人工物生産は、人工物が永遠の寿命を持つものでない以上、過剰な 大量消費、そして大量廃棄と等価である。過剰な生産力があるために、必要以上に人 工物が短寿命化し、過剰な購入や更新へと繋がってもいる。それが今日、全地球上で 観察できる地球環境問題、資源問題、エネルギー問題など諸問題の一因となっている ことは、多くの識者によって指摘されている通りである。

 すなわち、先進工業国において顕著な人工物の大量生産は、競争的な資本主義経済 のメカニズムによって、人々の要求を満足させその恩恵にあずかることが出来た人々 の生活を物質的に豊かにした一方で、過剰であるが故に大量消費・大量廃棄に起因す る全地球規模での多くの問題も同時にもたらしたのである。

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2 . 量的充足から質的充足へ

 このような状況を認識して、人工物の設計・生産のあり方に関して、量的充足を目 指すばかりでなく、質的充足を目指した新たなパラダイムが提唱されつつある。人工 物設計に関する学術動向もこれに呼応しつつある。例えば、平成11 年度に本専門委 員会が主催した「日本学術会議50 周年記念シンポジウム」はまさに、「設計の質的 転換」がテーマであった。今後の人工物設計に関する方向としては、大きく

・ よりよい人工物と人工物設計を目指した「設計学、設計方法論の新しい理論的展開」
・ 人工物と環境問題との関わりを意識した「ライフサイクルを見渡した設計の展開」
・ よりよい人工物と人工物設計を目指す「設計支援システムの高度化」
などが指摘された。具体的には、次のような事項が紹介された。

 まず、従来の設計学・設計方法論と呼ばれる分野では、どう設計を進めるか、ある いは理解するかという点に興味があり、なぜ設計をするのかに関する理解が欠如して いた。すなわち、そもそもどういう目的のために設計行為が行われているかに関する 正しい理解がなければならないという指摘である。これは、設計は要求機能だけを満 たせばよい、という考え方とは根本から異なる考え方である。
 人工物の利用者の要求 だけを野放図に満たす設計では、例えば社会における快適性、安全性、環境への配慮 などが欠けがちだからである。ちなみに建築分野では、良い建築家は顧客(施主)の いうことを聞かないものであると言われている。これは、顧客は当面のニーズ、境界 条件しか考慮していないことが多いが、建築物は都市の景観や機能に大きな影響を長 期間に与えるものであるからこそ、逆に建築家がそのような条件を考慮して長期的に 望ましい設計にする必要があるからである。このように、設計の表面に出現しない隠 れた条件を扱うことが、設計の意図、人工物の機能などに直接的な影響を与えること は明白であり、このような条件の取り扱いが重要になる。

 さらに、このことを現在もっとも端的に表しているのが、人工物と環境問題との関 わりを意識したライフサイクルの設計というテーマである。人工物そのもの設計とい うだけでなく、その設計・生産された人工物が社会・環境に送り出され、どのような 一生を送るかが重要であり、ライフサイクルデザインという概念が話題になっている。 日本学術会議においても、人工物設計・生産研究連絡委員会生産システム学専門委員 会で、本専門委員会と同様の問題意識から、「人工物のライフサイクルデザイン(L CD )のために振興すべき基礎学術」と題した報告書が平成12 年4 月24 日に公表 された。これは、ライフサイクル「デザイン」と表現していることが端的に示すよう に、人工物のあり方をまさに設計するという観点での学術研究を目指すものであり、 本報告書を支持する動きである。

 また、ユニバーサルデザインという概念も重要になってきている。これは従来のバ リア・フリーや障害者向けという特別の設計をするのではなく、障害者にとって使い やすいと言うことは、当然高齢者や健常者にとっても使いやすいという思想であり、 万人にとって使いやすくなければならないという概念である。従来、障害者向け、高 齢者向けというような特殊な製品には、コスト高など実際的な問題点が発生した。し かも、健常者向きの通常の製品も、必ずしも全ての健常者にとっても受け入れられや すいわけでもなかった。逆に単に健常者の要求だけを充足していると、障害者や高齢 者を特別扱いするために彼らにコスト上昇を押しつけることになり、社会全体でのコ ストも特別扱いするためにむしろ上昇する。しかし、どのような人間にとっても使い やすい設計を考えることことにより、コストは社会全体で負担することになり、人工 物の社会における受容の度合いを高め、より公平な社会の実現が期待できる。

 すなわち、表面化されやすい要求だけを量的に充足するという設計だけでは、社会 の中での弱者に対する配慮が欠如している。そうではなく、社会全体における人工物 の役割を考えた設計が必要である。このことは、人間と人工物の関係が質的に転換し たことを意味しており、社会全体で見たときの隠れた要求を明示化する設計技法が必 要となってきており、従来の量的充足だけを目指した人工物設計・生産の手法が不適 切になっていることの別の証拠ともなっている。

 以上のように、設計の質的転換とは、従来の量的充足だけを目指した設計から、社 会的配慮、環境などの制約条件などを考慮して、より幅広い(しかし明示化されてい ない)要求を質的に満足する設計が求められていると言うことを意味する。そして、 そのような設計を行うためには、「よりよい人工物と人工物設計を目指す設計支援シ ステムの高度化」が必須である。すなわち、量的充足だけであれば、明示化された要 求を満足する品質の確保と適正コスト化を念頭に置いた生産力の拡大だけを目指し た設計・生産過程の効率化を行えばよい。しかし、それだけではない社会的状況で質 的充足を目指すためには、上に指摘したような明示化されていない要求を扱うことが 出来る設計支援システムを積極的に導入する必要があるのである。

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3 . 文明を築く設計者の役割と未来の工学の役割

 歴史的に見て、新しい人工物の出現は人類の文明や文化を革新してきた。人工物の 進化の歴史は、設計の歴史でもある。このことは、人工物設計・生産が経済活動や社 会制度のみならず、文明や文化の発展に多大の影響を与えてきたことの裏返しでもあ る。換言すれば、設計者は設計活動を通じて単に人工物を設計してきただけでなく、 未来の経済・社会・文化を間接的に設計し、それを実現することに関与してきたこと になる。

 このような人工物設計・生産が持つ意味を考えるとき、ただ闇雲に効率的な生産(つ まり量的充足)だけを行えばよいのではなく、その人工物が人類に与える正負両面の 影響をも考慮して、まさに質的充足を求める人工物設計・生産が今後必要である。設 計者や技術者に対して要求される工学倫理に関する議論は、この点を問うているのに 他ならない。

 すなわち、人工物設計・生産は人類の未来を築く活動であり、人工物設計・生産に 関する学術研究は、単純な工学・技術論の範囲に留まるものであってはならない。し かし、現在の設計工学は技術論のレベルにあり、また生産工学も高々企業活動という 視点の導入が行われているのみである。今後は、文明論的な長期的な観点、あるいは 倫理的側面、人間生活における価値をも考慮に入れた視点が欠落していることを認識 する必要がある。

 このことをより広く工学という観点で考察してみる。大雑把に言って工学は、人工 物生産によって富を創造することで、人類の幸福の増進を目指す学問であると定義で きる。学問としての工学、とりわけ人工物の設計・生産に関わる諸学問が進歩するこ とによって、人工物生産を通じた富の創造、そして幸福の増進が促進されるのである から、これらの学問の進歩は本来歓迎すべきことである。しかし、その結果、上に述 べたように欲求に駆動された量的充足を目指して生産力の拡大のみを目指すことだ けに、工学が応用されてきたという歴史的事実に着目すべきであろう。生産力増大を 目指して進歩してきた工学は、た同時に例えば大量生産・大量消費・大量廃棄という 人類に取って望ましくない結果をも副作用としてもたらした。

 したがって、工学、その中でもとりわけ人工物設計・生産に関する学術研究は、そ れが未来の経済・社会・文化を間接的に設計し実現するという役割を念頭に置いて、 人工物の質的充足という新しい方向性を付与されるべきであることを、ここで強く認 識するものである。

 なお、この点に関しては、平成11 年9 月20 日付日本学術会議・科学技術の発展 と新たな平和問題特別委員会報告「科学技術の発展と新たな平和問題」に、関連する 報告と提言があることを指摘する必要がある。すなわち、従来型の戦争に対しての平 和だけに限定されず、科学技術の発展に伴って人類の生存を脅かす新たな問題が「平 和問題」として認識されるべきであり、それには地球温暖化・エネルギー問題、核問 題、食糧問題、水環境・湖沼流域問題、ゴミ廃棄物問題、遺伝子問題、内分泌攪乱物 質問題、コンピュータの発達に伴う情報化社会の問題などが例示されている。そして、 これらの諸問題に対しては、自然科学、工学のみならず、人文・社会科学も含めた総 体としての科学や科学者が解決に向けて直接的な社会的責任を負うべきであると明 記している。

 本報告は、まさに上記「新たな平和問題」に関する報告書が指摘している問題意識 を共有するものであり、その具体化を図る提言であると位置付けられよう。すなわち、 科学技術の発展は、人工物設計・生産の観点からは、人工物を大量に生産・供給し、 人類の幸福増進を図るために必要とされてきたが、一旦量的充足が多くの地域で到達 し、工業先進国では過剰さえ呼べるレベルに到達した現在、科学技術の闇雲な発展は それ自身が人類の生存を脅かすようになってきたのである。その解決策として、人工 物の量的充足ではなく、質的充足を目指す、設計・生産に関わる工学・技術の質的転 換が必要となってきたのである。

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4 . 学術研究成果の社会への還元

 学術研究は、当然のことながらその出資者である国民、社会への成果還元が必要で ある。特に人工物設計・生産に限らず、工学領域では一般にその成果は、最大のユー ザーである産業界に積極的に還元することに意味がある。この観点から成果還元を促 進する制度整備も精力的に行われてきた。

 現在、例えば、大学における研究成果を社会に還元するためのメカニズムとしては、 各種の産学共同研究政策、新産業創出のためのベンチャー育成政策、あるいは日本学 術振興会未来開拓学術研究事業、科学技術振興事業団、新エネルギー・産業技術総合 開発機構、基盤技術研究促進センターなどの資金による大型プロジェクトなどの、産 業技術への移転を目的とする学術研究政策が積極的に推進されている。

 これらのうち、例えばベンチャー育成では、単に新規産業分野創出を目的としたベ ンチャー企業育成だけでなく、不況対策としての雇用対策の意味合いも期待されてい る。新規産業創出や不況対策は、経済成長への寄与がまず期待され、3 で述べたよう な未来の経済・社会・文化を間接的に設計し実現するという役割から議論されていな いのである。また、産学協力における産業技術への移転では、大学など研究機関にお ける研究成果の社会への還元が謳われながらも、往々にして産業界の研究資金不足を 補う面が実態的には多く、正当な意味での産学連携からはかけ離れていることが多い。

 これらの学術研究の成果還元システムは、したがって、極めて短期的な不況対策や、 産業技術の中期的観点からの制度であり、その限りにおいては有効に機能することも 期待できよう。しかし、3 で述べたような人工物設計・生産に関する学術研究が未来 の経済・社会・文化を間接的に設計し実現するという役割を念頭に置いて、人工物の 質的充足という新しい方向性を付与すべきであるという長期的な観点において、これ らの制度が機能するとは考えにくい。例えば、研究テーマの策定一つをとっても、短 中期の効果が重要視されることは当然であるから、本来、文明論的側面、倫理的側面 や価値なども含む人工物設計・生産が持つ意味を的確に捉えた研究は、目先の利益、 すなわち経済成長やさらなる人工物の充足あるいは人工物の高度化に惑わされ欠落 し勝ちである。制度的にも即効的な成果が求められる以上、この分野の学術研究が持 っている長期的な視野に立った研究計画が策定されることは期待できないであろう。

 すなわち、未来の文明を築く役割を持つ人工物設計・生産の分野に関する長期的な 研究を実施することも、学術研究成果の社会への正当な成果還元の一つであると考え られ、制度的に現在実施されている多くの学術研究施策そのものに欠陥があるといっ てもよい。

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5 . 未来に調和した人工物設計・生産に関する学術研究体制の整備
 
 何度も述べたように、人工物設計・生産に関する学術研究は、未来の経済・社会・ 文化を間接的に設計し実現するという側面を重視しなければならない。それは、人工 物の設計・生産においては、闇雲な量的充足だけを目指すのではなく、今後、我が国 あるいは世界が直面する新たな社会的状況で質的充足を目指すためのさまざまな配 慮を全面に押し出した、よりよい未来社会を実現するための学術研究であることが求 められる。

 ものづくりを扱う人工物設計・生産研究連絡委員会は、したがって、中短期の不況 対策や学術研究の産業技術への移転などに限定されることなく、未来に調和した技術 開発を目指した学術研究を推進する研究体制の整備に努力すべきことを提言する。現 在の中長期的観点からの、しかも量的充足を意識した研究では、未来に調和すること を期待できないのである。

 ここで未来とは、恐らく不況対策としての研究が5 年以内のスパンを、中期対策と しての産業技術への移転を目指した研究が10 年程度のスパンを考えているのに対 し、10 年、あるいは20 年より先の長期間を意味すべきである(下図参照)。その ような長期の将来において、人類が必要とする質的充足を目指す人工物のありうべき 姿、その設計・生産の手法を現時点から用意しておかなければ、恐らく近い将来に起 こりうるであろう全地球的規模での「新たな平和問題」が顕在化した時点では手遅れ になるであろう。



 研究テーマとしては、現在の生産力拡大、欲望・欲求の刺激という単なる量的充足 だけを目指した研究ではなく、現在明示化されていない未来社会における諸制約と、 全地球的規模での新たな平和問題に対して人工物が関わる諸因子とを明確にし、これ らの諸問題の解決を意図した質的充足を目指した研究テーマを策定する必要がある。

 例えば、3 にも述べたように、現在の人工物設計・生産は、人工物の大量生産によ り物質的な富を創造し、それによって人類の幸福の増進を図ることが直接的な目的で あるといってよい。この観点で欠落していることは、幸福の増進は人工物の直接的な 所有、使用だけによらずとも達成できるということである。

 例えば自動車は馬車の持 つ多くの欠点を改善し、かつその機能を高機能化するために開発されたように、多く の人工物は、人間が行うサービス活動を自動化、増幅、高度化するために開発された のであった。だが、人の移動は必ずしも直接的な移動だけで達成されるわけではなく、 通信によって間接的に達成する手段も可能である。それは自動車の持つ機能をサービ スで置き換える例であるが、サービスの高度化を行う手段があれば自動車の持つ本質 的な欠点を克服しつつ、環境制約を満足しかつ社会の公平性を達成できる可能性があ る。

 このように、社会全体での幸福の増進を、人工物の直接的な所有、利用という極 めて資源コスト、エネルギーコストの高い手段ではなく、サービス創造によって達成 できる方策を考案することが重要となろう。仮に、このような方策を工学的に扱う手 段として「サービス工学」と名付けよう。このサービス工学の研究は、現在の人工物 の単なる量的充足だけを目指した研究とは異なって、質的充足を社会レベルで実現し、 人工物の所有者ではなく社会全体を豊かにする結果、全地球的規模での新たな平和問 題の解決を意図した研究の候補である。

 さらには、現在、我が国を含む工業先進国の多くが直面しつつある高齢化社会と人 口の収縮の結果、充足した人工物を今後、維持すらできなくなる可能性がある。その 点で、人工物のメンテナンスに関わる研究は、将来における人工物の大量再充足を防 止するために喫緊の課題である。

 また、このような未来に調和した人工物設計・生産に関する学術研究推進体制の整 備が必要となる。これは、直ちにこのような研究テーマに関する研究を推進するだけ ではなく、社会的状況や「新たな平和問題」の深刻化の度合いに応じて、研究体制を 随時適正化していき、長期間の研究を安定して推進する体制の整備も含む。具体的に は研究費の手当、研究推進体制の制度的整備、そして推進に責任を持つ実施母体の整 備が含まれる。

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6 . まとめ

 人工物設計・生産研究連絡委員会は、第17 期活動のまとめとしての研連報告として、以下の事項を提案する。

(1 ) 人工物設計・生産が持つ人類の文明論的な視野、その倫理的側面や価値をも含 む長期的な観点からの学術研究、「未来に調和した人工物の設計・生産」を念 頭に置いた研究テーマの策定が必要である。

(2 ) その研究テーマとしては、中短期の視点からの人工物の量的充足を目指した研 究のいずれにも該当しない、長期の研究テーマが望ましい。例えば、人工物の 量的充足ではなく質的充足を社会レベルで実現し、人工物の所有者ではなく社 会を豊かにする技術としてのサービス工学の研究、現在我が国が直面しつつあ る高齢化社会と人口の収縮の結果、充足した人工物のメンテナンスに関わる研 究などが考えられる。

(3 ) 具体的な研究テーマに関する調査研究を行うのみならず、その研究推進体制に ついても議論する必要がある。特に、大学などにおける人工物設計・生産に関 する学術研究が果たす基礎研究の役割を再認識し、短期的視点に留まった研究 のみを闇雲に推進するだけでなく、文明論的な視野、その倫理的側面や価値を も含む長期的観点に立った基礎研究も推進する体制を確立すべきである。さら に工学教育において、人工物設計・生産が持つ人類の文明論的な視野、その倫 理的側面や価値をも含む長期的な観点の導入を図る方策についても検討する 必要がある。

(4 ) そこで、未来志向のプランニングを行い我が国の学術研究が10 年以上先に必 要とする人工物設計・生産関連研究のテーマ及びその研究推進体制について、 2 年間程度の調査研究を行うタスクフォースを直ちに立ち上げる。そのこのタ スクフォースは学際的に編成されるべきであり、また国際的視野も持つべきで ある。

(5 ) このタスクフォースの調査結果をもとに、未来に調和した人工物設計・生産関 連研究を目的とした研究推進体制を整備し、直ちにその実施に取りかかるべき である。

(6 ) 学術会議が過去に提言した研究推進体制などとの整合性も検討すべきである。 また、これらに囚われず新たな研究推進のメカニズムについても、積極的に検 討すべきである。

以上

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