電気エネルギーに関わる大学院の研究・教育の連携の構築について
−「電気エネルギー大学院総合協力機構」構想−


「電気工学研究連絡委員会
エネルギー・資源工学研究連絡委員会電気エネルギー専門委員会報告」


平成12年6月26日

日本学術会議
電気工学研究連絡委員会エネルギー・資源工学研究連絡委員会電気エネルギー専門委員会


 この報告は、第17期日本学術会議電気工学研究連絡委員会及びエネルギー・資源工学研究連絡委員会電気エネルギー専門委員会の審議結果を取りまとめ公表するものである。

[電気工学研究連絡委員会]

委員長  三井 恒夫(第5部会員、東京電力(株)顧問)
幹 事  大崎 博之(東京大学大学院教授)
     中丸  修((社)電気学会専務理事兼事務局長)
委 員  関根 泰次(第5部会員、東京理科大学教授)

[電気エネルギー専門委員会]

委員長  一原 嘉昭(東京電力(株)フェロー)
幹 事  高橋 一弘((財)電力中央研究所理事)
     原  雅則(九州大学大学院教授)
委 員  関根 泰次(第5部会員、東京理科大学教授)
     豊田 淳一(八戸工業大学教授)
     長谷川 淳(北海道大学大学院教授)
     林  重雄(関西大学教授)
     柳父  悟((株)東芝 電力・産業システム技術開発センター首席技監)


要  旨

1.現状及び問題点

○激しい世界の経済・社会の変化のなかで、産業構造も大きく変化しつつあるが、 そのなかにあっても、エネルギー、特に電気エネルギーは社会・文明を支えるインフラとしてますます重要性を増している。

○今後、無資源でかつ世界でも著しくエネルギー消費密度の高いわが国と、経済・文化の発展が著しい途上国とりわけアジア諸国において、電気エネルギーに関する産業的諸問題が集約的に現れてくるものと考えられる。

○世界で激しく進行するグローバル化と規制緩和によって、産業はますます経済効率を追求せざるを得ないため、電気エネルギーに関する産業的諸問題の科学や技術の進歩向上・創造の担い手としても、大学をはじめとする工学アカデミアの研究・教育の役割がますます重要となってきている。

○世界のアカデミアの電気エネルギー科学技術の領域の状況から見て、この分野で日本の大学が、今、世界のCOE(Center of Excellence)を目指して再活性化を図ることは時宜を得ている。

2.改善策、提言等の内容

○21世紀の資源・環境等を含めた電気エネルギー問題に対処するために、総合的な立場から共同研究・共同教育を行う、世界を対象としたCOEとしての大学院活動を目指す。

○このために実行可能な改善として、部分的なCOE機能を持つ組織が多くの大学に分散しつつも、相互に協力・分担して総合的な研究教育にあたる、ヴァーチャルな組識「(仮称)電気エネルギー大学院総合協力機構」という新しい考え方・仕組みを提案する。

○この仕組みは、今後の制度改革によって運営に主体性を増していくであろう個々の大学院において、電気エネルギー工学部門が事務的負担を軽減しつつ活動を拡大するために、自主的に参加して横断的に協力する体制を構築するものである。

○提案する機構の運営・機能は以下のとおり。
 ・産業からの要望を受け入れた大規模産学共同研究の窓口機能をもち、国の研究開発資金を活用した、将来産業の創造を目指すエネルギー関連の広い分野の共同研究企画、個々の大学の制約をこえた人材の育成を目指す共同教育の推進。

 ・日本の科学技術の指導性を確立するのに不可欠な、産業の現場を含む適切な対外国情報提供と人的親近感のあるネットワーク作りのために、外国からの研究者・技術者に対する産学が協力した情報提供と対応、特に帰国後の留学生に対するコンタクト維持等によるアフターケア改善。

○具体的な研究課題の例示を、2つのワーキング・グループを設置して検討し、その結果をもとに、広く国内大学に呼びかけて具体的な共同研究提案を検討し始めている。


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目次

1.まえがき

2.提言−電気エネルギー大学院総合協力機構構想

3.あとがき

(添付資料)
「電気エネルギー大学院総合協力機構構想」(その1 構成と機能)
「電気エネルギー大学院総合協力機構構想」(その2 共研、教育協力活動の流れ)


.まえがき

 激しい世界の経済・社会の変化の中で、産業構造も大きく変化しつつあるが、そのなかにあっても、エネルギー、特に電気エネルギーは社会・文明を支える最も重要なインフラとしてますます重要性を増しつつある。一方、原子力エネルギー利用をめぐる諸問題や、今なお不安定な石油価格構造の問題は、資源問題やエネルギー問題と不可分の環境問題特に地球環境問題とともに今後の電気エネルギーの十分な供給についての重大な不安要素であり、世界の電気エネルギーの源をどこに求めるかには多くの議論と試みがあるものの、社会が共有する明確な目標は得られていない。また同様に重要な、どうエネルギーを有効に制御・利用するかの問題も進歩は著しいとはいえ、一段の飛躍がないと今後の世界には重大な発展の制約となると考えられている。

 電気エネルギーに関わる産業的諸問題は、無資源でかつ世界の中でも著しくエネルギー消費密度の高い日本と、今、経済・文化の発展の著しい途上国、なかんずくアジアの国々に対して特に集約的に現れ、その今後の発展に大きな影響を持つものと考えられる。

 これらの諸問題は、結局、科学技術の研究・開発によってしか解決されないものである。諸問題を克服するための電気エネルギー科学技術を発展させ、アジアを始め世界の持続的な社会経済発展への条件を整えることは、日本にとっても、直接的には世界の中での日本の産業の地位確保の問題として、ひいては世界に対する日本社会の文化発信の問題として、もっとも重視すべき分野の一つである。

 ところが一面では、目下激しく世界で進行中の産業のグローバル化と規制緩和は電気エネルギーに関わる世界の産業にもかつてない大きな変化を生みつつあり、一般に産業はますます経済効率を高めることを求めているので、科学や技術の進歩の担い手としての産業の役割は世界的に低下し、したがって、大学をはじめとする工学アカデミアの、産業と連携した科学技術の研究・教育によって産業文化の創造を担う役割はますます高まっている。

 なお、事業の拠点を国外に移すことも辞せずグローバル化する産業に対し、大学はそのよってたつ社会の産業・文化創造を担うという使命から、工学系大学は日本の科学技術の世界における地位を高めることを常に意識せざるを得ない。現在は、欧米のアカデミアに於けるエネルギー科学技術に関する研究の停滞感、アジアに於ける爆発的なこの分野の産業の成長と研究開発の活発化という状況にあり、しかも今後この状況は21世紀の主潮流として当分続くであろう。この状況下では、現在まだこの分野で過去の蓄積が生きている日本のアカデミアが、世界を対象とする活性化によって、世界の経済・社会の中で指導的な役割を果たすことがふさわしいこの領域において、時機を失せずアジア、ひいては世界に於けるCOE(Center of Excellence)を目指して、格段に研究・教育の水準を上げ、枠を広げる好機であると思われる。また、それは内外の産業にとっても経済効率の点で極めて望ましく受け入れられるものである。

 このような努力は、今後の日本社会にとって、情報技術の基盤を強化し、かつ高度技術による加工輸出の基盤をなす電気エネルギー産業および主要輸出品としての重電機産業の学術基盤を強固にすることで、日本の産業の国際競争力強化に直接つながるのみでなく、世界の諸問題の解決に資するところ大であり、世界に於ける日本のアカデミアの特色ある貢献にふさわしいものである。

 現在、我が国の大学で種々な面から改革が進められているが、これを契機として、当委員会では、電気エネルギー部門での大学の活動のあり方について、現実的な範囲で何らかの前向きの行動を起こすことが必要と判断し、ここに大学間連携施策についての具体的なイメージを提言することにした。提言は今後のこの部門のアカデミアとしての飛躍的な発展の第一歩となることを期待するものである。

 もとより、この提言の考え方は電気エネルギー部門に限ったものではないが、上述のように、この部門の内外の状況は他部門の検討に先駆けて行動を起こすのに適したものと考える。

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.提言−電気エネルギー大学院総合協力機構構想

 具体的には以下に述べるように、将来の電気エネルギー工学関係大学院のイメージとして、多くの大学に分散しつつも、各所が部分的なCOEの機能を持つ拠点として相互に密接に協力・分担して、世界を対象として研究教育にあたるという新しい考え方・仕組みを提言する。

 このヴァーチャルな組織を総称して「(仮称)電気エネルギー大学院総合協力機構」と名付け、その概念の認識の広まりを期待するとともに、実現の方向に各大学自らの施策はもちろん、行政側の施策や産業界の支援に期待するものである。

 この施策の具体的なねらいとしては、例えば以下のような事項があげられる。

(1)21世紀に日本の電気エネルギー産業および重電機産業が国際競争力を持ち続けるための、創造的な研究をする強固で効果的な学術的基盤となること。そのために産業の望む大規模な産学共同研究が総合的・効率的に行われる仕組みを作ること。特に、各大学に分散している研究能力を、実行可能な方法で有機的に連携し、この分野で取り組むべき重要課題の認識を共有するとともに、国の研究資金を活用した共同研究を活発にすること。

(2)高度の研究能力と産業に必要な時代に応じたフレキシブルな実務適応能力を身につけたハイレベルの専門家の養成。特に、アジアの発展に対し日本の学界・産業界が十分な役割を担えるように、教育面で日本人教育の国際化とアジアを中心とする留学生教育の充実。

(3)外国から滞在研究、視察、留学などで来訪する研究者・技術者に対する産学協力した適切な情報提供、特に帰国後の留学生に対するコンタクト維持等によりアフターケアを改善すること。(注)

(注)留学生の質の向上をはかり、帰国後も日本の科学技術、産業の良き理解者として母国でのリーダーシップ発揮を期待する。特に欧米の大学院では、母国人に比べて留学生への対応に特別な配慮とフォローがなされることにより、優秀な留学生が欧米志向となっている状況に照らして改善を必要とする。

 この新しい機構は、今後の制度改革によって運営に主体性を増してゆくであろう各大学院において、電気エネルギー工学部門が事務的負担を軽減しつつ活動を拡大するために、自主的に参加して横断的に協力する体制を、なるべく制度的な問題の無い形で作ろうとするものであり、統制的な統合・分配という考え方とは異なる。

 すなわち、各大学の教授・研究者が、この機構を共同のプラットフォームとして、公式非公式の接触協議を通じて、研究・教育で協力・分担することで、日本の大学の電気エネルギー工学部門が全体としてアジアないし世界のCOEとなることを目指すものである。これが実現した暁には、日本各地の大学院に電気エネルギー技術の異なった専門分野を担う研究・教育の拠点が分散して存在し、しかもそれらが密接に情報連絡、共同研究の機会を持ち、産業や学生あるいは世界から見たとき、あたかも一つの大研究教育機関が機能しているかのように活動することを期待するものである。

〔提案する機構の構成〕

@自発的に参加する複数の大学院電気エネルギー部門で構成するオープンでヴァーチャルな連携体とする。電気エネルギー技術は多岐に亘るため、連携体の中で複数の専門分野の有機的な繋がりを密接にするが、相互の連携は個々の大学院・研究者の自主性を尊重する。また、情報通信を活用した適切な連携組織とすることで、専門分野内の相互評価を生かしたフレキシブルな運営を行い、集中組織以上の協力効果をあげる。

A協力の実をあげる企画・サービスのための簡素なセンター機能を持つ。センターには若干の事務局を置き、情報サービスを主とする次の諸活動に当たる。
・大学院間:共同研究の企画の場の提供。共同教育活動の場の提供。情報の共有サービス。相互の連絡・調整サービス。
・対外部 :共同研究に関する国等との対応事務サービス。産学協同研究の受け入れ紹介サービス。社会・海外への情報発信サービス。社会人・訪問研究者や留学生の受け入れ調整窓口サービス。

〔提案する機構の運営方針〕

(1)部分COEの連携によるヴァーチャルな統合COEの構築
 個々の大学院は部分的な専門領域についてCOE機能を持つ拠点となることを目指し、それらの全体的連携によって広い分野での高い学術レベル、質の高い共同研究、適切な協力・分担による共同教育を行う。

 機構としての重要な機能は、政府の研究開発資金の有効な活用を目指した、産業とも協力した各種共同研究・共同教育の企画提案、募集・調整である。原則的にはすべての研究・教育の実施は各大学院に持ち帰って行う。

(2)広い分野の共同研究企画
@他部門の専門家にも呼びかけて、エネルギー関連の多くの部門(資源・環境・情報・社会・経済・文化)の学際的共同研究を企画推進する。
A実用性を前提にした創造的基礎技術研究テーマを提示し、官民の支持を募るとともに大学側の自発的研究計画を誘導する。

(3)大規模産学協同研究の窓口機能
 産業からの要望を受け入れ、適切な共同研究体制の組織、共同研究の希望呼びかけ、共同研究受け入れ調整などのサービスを行う。研究施設は大学院間、産学間で横断的な共用、大学院から産業現場に出向いての研究、産業界研究者の大学院研究への参加の奨励など産学協力の実をあげるよう支援する。産業から見た場合、個々の大学との関係に煩わされず、アカデミア全体の成果を期待できるようにする。

(4)優れた人材を養成するための協力の場の提供
@個々の大学の制約をこえて高度な研究者・世界的リーダ(深い知識・広い見識)を育成することを目指し、産業の協力も得て最先端レベルの講義、実務と直結した授業のモデルを企画し、適切な分担で公開実施する。
A人材プールとしてのサービス提供を行う。

(5)世界に開かれた学術交流機関
 多数の大学と産業の連携した全体のイメージを打ち出すことで、国内外に「質の高いわが国の電気エネルギー工学の存在」を強くアピールし、日本を世界、特にアジアの電気エネルギー工学のCOEにする諸活動を行う。

@情報ネットワークを活用し、活発な情報発信活動を行う。
A途上国との実用技術共同開発企画、人材育成・活用面のサービスを行う。
B来日希望の研究者・技術者・留学生に対して、適切な専門機関の紹介、滞在受け入れ、訪問受け入れのアレンジなどのサービスを行い、帰国後のコンタクト維持機関となる。

 この構想を実現するまでの間、すぐに着手できることとして、複数大学院の電気エネルギー部門に産業も加わって、現在の制度枠組みを生かしながら、共同研究を活発化する。特に、国の諸施策の研究資金を活用して、将来の産業創成を目的とする大学院の大規模な研究活動を活発にするため、社会的な意味付けを重視した候補課題について多くの大学院が参画して産学協同で共同研究のシナリオを常に多数用意しておき、機会を逃さず公募に応ずることとしたい。

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.あとがき

 今までのこの種の産学協同に関する論議では、主として行政側に期待する施策を論ずることが多かった。また、従来は、民間企業に事業としての立場を越えた社会全体のための負担を求めることがあったが、最近のグローバル化と競争化は、民間企業をはじめとする各機関が自己の使命に忠実に本音で経済行動を効率化することを求めているので、企業は経済原理に従った行動をとることを前提に検討した。しかしながら、各個の組織が自らの使命に忠実に行動しつつ、それが同時に長期にわたって、正しい方向に経済社会を動かし社会の文化を作っていく流れを作り出すことが重要である。このように、産学双方の基本的な立場を生かした上で協力関係を築く場としても「電気エネルギー大学院総合協力機構」が実現することを期待する。なお、自律的な努力に対する支援機能で今後とも政府に求めるべきことの多いのは言うまでもない。

「電気エネルギー大学院総合協力機構構想」(その1 構成と機能)

「電気エネルギー大学院総合協力機構構想」(その2 共研、教育協力活動の流れ)

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