生理学の現状と展望に関する調査
−生理学研究連絡委員会関連学会員に対するアンケート調査報告−


「生理学研究連絡委員会報告」

平成12年5月29日

日本学術会議第7部
生理学研究連絡委員会


 この報告は、第17期日本学術会議第7部生理学研究連絡委員会で審議した結果を取りまとめて発表するものである。

第17期 日本学術会議生理学研究連絡委員会

委員長 本郷利憲(東京都医学研究機構理事)

幹事  岡田泰伸(岡崎国立共同研究機構生理学研究所教授)
    玄番央恵(関西医科大学教授)
    本間生夫(昭和大学医学部教授)

委員  小澤瀞司(群馬大学医学部教授)
    金子章道(慶応義塾大学医学部教授)
    貴邑富久子(横浜市立大学医学部教授)
    栗原 敏(東京慈恵会医科大学医学部教授)
    菅 弘之(国立循環器病センター研究所所長)
    板東武彦(新潟大学医学部教授)
    福田康一郎(千葉大学医学部教授)
    森本武利(神戸女子短期大学学長)


要  旨

1.報告書の名称:生理学の現状と展望に関する調査
        −生理学研究連絡委員会関連学会員に対するアンケート調査報告−

2.報告書の内容:
 (1)作成の背景
  ・分子生物学をはじめとする生命科学の進歩が医学、生物学全般に大きな影響を与えている中で、第16期生理学研究連絡委員会は、生理学の位置づけを明確にし、その現状を把握して将来の発展への方策を探る検討を行い、報告書「生理学の動向と展望−生命への統合」(平成9年)をまとめた。

  ・第17期生理学研究連絡委員会は第16期の活動を引き継いで、今回のアンケート調査を実施した。その目的は、上記の報告書が示した提言に対する意見、批判を広く求めて、生理科学および関連領域の発展を確実にするための方策を探ることにある。

 (2)調査および報告書の概要:
  ・生理学研究連絡委員会登録の20学会の会員総計4,222人を対象にして調査を実施し、
   1,141名(回収率27%)から回答を得た。

  ・調査項目:上記報告書の全般にわたる下記の項目について調査した。
   1)回答者のバックグラウンド     6)わが国の研究費の現状と展望
   2)生理学の課題           7)わが国の生理学教育の現状と展望
   3)わが国の生理学研究の現状と展望  8)生理学研究連絡委員会の活動
   4)わが国の研究者の現状と展望    9)今回のアシケート調査について
   5)わが国の研究体制の現状と展望

  ・設問は多肢選択形式を主とし、一部は記述による意見も求めた。

  ・各設問について得られた回答を集計するとともに、回答者のバックグラウンドと回答との相関関係を調べ、その結果を記述した。記された意見も集約して報告した。

  ・調査の結果は、報告書「生理学の動向と展望−生命への統合」で行った提言の多くが大多数の回答者に支持されていることを示した。しかし高い支持の得られなかった提言もあり、また、様々の貴重な批判的あるいは建設的指摘がなされて、今後さらに検   討を深めるべき課題が明らかにされた。

 (3)改善策、提言等:
  ・本報告は調査結果の報告であり、改善策、提言等を提案するものではない。

  ・しかし、報告書「生理学の動向と展望−生命への統合」で行った提言の多くは今回の調査で大方の賛同が得られたので、間接的にそれらを再提言する形にはなっている。

3.報告書の対象者、機関等:
  ・関係行政機関(文部省他)、関係の学協会及び研連(医学、生物学、生命科学関係)


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目次

はじめに

調査の概要

A.回答集計

1.回答者のバックグラウンド
2.生理学とその課題
3.生理学研究の現状と展望
4.研究者の現状と展望
5.研究体制の現状と展望
6.研究費の現状と展望
7.生理学教育の現状と展望
8.日本学術会議生理学研究連絡委員会(生理研連)の活動
9.今回のアンケートについて

B.回答相関解析

1.回答者のバックグラウンド
2.生理学とその課題
3.生理学研究の現状と展望
4.研究者の現状と展望
5.研究体制の現状と展望
6.研究費の現状と展望
7.生理学教育の現状と展望
8.日本学術会議生理学研究連絡委員会(生理研連)の活動

C.まとめ

1.回答者のバックグラウンド
2.生理学とその課題
3.生理学研究の現状と展望
4.研究者の現状と展望
5.研究体制の現状と展望
6.研究費の現状と展望
7.生理学教育の現状と展望
8.日本学術会議生理学研究連絡委員会(生理研連)の活動
9.今回のアンケートについて


はじめに

 生理学(physiology)は、語源が示すように身体(physi)の理(logia)の学問であり、古来、その定義に当たる広い領域の学問を指してきました。ノーベル賞の医学、生命科学分野がNobel Prize in Physiology or Medicine と呼ばれるのもこの意味であります。生理学の国際会議(国際生理科学連合(IUPS)の大会)は1889年以来3−4年ごとに開かれて現在に至っていますが、そこでもはじめ数十年の間は広い領域を包括していました。

 その後、とくに20世紀前半の自然科学の発展とともに、この広義の生理学の領域で専門の分化が進み、早くは生化学が、のちに薬理学、生物物理学などが次々と分かれ、独自の分野を発展させてきました。また、今世紀半ばに生まれた分子生物学は驚異的な発展を見せ、生命科学全般に大きなインパクトを与えております。第16期生理学研究連絡委員会(生理学研連)は、こうした学問の状況の中で本来の生理学はどのように位置づけられるべきか、生理学の現状と問題点は何かを明らかにして、将来の発展への方策を探る必要があると判断し、それらを検討する作業を実施しました。そしてその結果をまとめ、平成9年に報告書「生理学の動向と展望−生命への統合」として報告しました。

 第17期(平成9年−12年)生理学研連は第16期の活動を引き継ぎ、生理学研連に登録申請している20学会の会員を対象にして、上記の報告書に対するアンケート調査を実施しました。調査の目的は、第16期生理学研連の報告書が示した提言に対する意見、批判を広く求めて、生理科学および関連領域の発展を確実にするための方策を探ることにありました。調査はかなり大部のものでしたが、関係者のご協力により1141名の回答を得ることができました。本報告書はそれらの回答をまとめたものであります。そこにはわが国の生理学の諸々の問題に関する生理学および関連領域の人たちの意識、認識がかなり良く反映されていると思われます。私ども第17期生理学研連委員一同は、本報告書がわが国の生理学および関連領域の発展に少しでも役立つことを願っております。

 この調査と取りまとめにご協力いただいた生理学研連登録の諸学会およびその会員個人、生理学研究所の森島繁氏、本委員会の幹事および委員、日本学術会議事務局の方々に厚く御礼を申し上げます。

平成12年5月

日本学術会議第17期生理学研究連絡委員会
  委員長  本郷 利憲

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調査の概要

1.目的
 生命科学のとくに20世紀後半の発展は目覚ましく、分子生物学をはじめとする諸科学の進歩は医学、生物学全般に大きなインパクトを与えている。第16期生理学研究連絡委員会は、こうした学問の状況の中で生理学はどうあるべきかを明らかにするため、生理学の現状を把握し、将来の発展への方策を探る作業を行い、平成9年に報告書「生理学の動向と展望−生命への統合」をまとめた。第17期生理学研究連絡委員会は第16期の活動を引き継ぎ、今回のアンケート調査を実施した。その目的は、上記の報告書が示した提言に対する意見、批判を広く求めて、生理科学および関連領域の発展を確実にするための方策を探ることにある。

2.対象と方法
 生理学研究連絡委員会に登録申請している20学会の会員を対象にして調査を実施した。各学会がカバーする研究領域を勘案して、日本生理学会の全会員3,322名及びその他の学会の会員900名(全会員の一定割合の数の会員を名簿から無作為抽出)、計4,222名を調査の対象とした。この対象者の各人にアンケート調査票を郵送し、約一ヶ月後を期限として回答を求めた。

3.調査項目
 報告書「生理学の動向と展望−生命への統合」の全般にわたる下記の項目について調査した。

1)回答者のバックグラウンド
2)生理学の課題
3)わが国の生理学研究の現状と展望
4)わが国の研究者の現状と展望
5)わが国の研究体制の現状と展望
6)わが国の研究費の現状と展望
7)わが国の生理学教育の現状と展望
8)生理学研究連絡委員会の活動
9)今回のアンケート調査について

4.回答の回収
回答は1,141名からなされ、回収率は27.0%であった。

5.回答の集計、解析
各質問に対する回答を集計するとともに、主に回答者のバックグラウンドと回答との相関を調べた。

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A.回答集計

1.回答者のバックグラウンド

1−1)性別


1−2)年齢


1−3)学歴


1−4)現在の身分


1−5)所属学会(加入しているものを全て挙げて下さい)


1−6)生理学研究を始めた動機


「その他」の欄に次のようなコメントが記されていた:
 「たまたま就職できたのが生理学教室であったから」というのが10名、おそらくそれに類するものとして「仕事上」というのが3名、「先生、先輩、上司の薦めや関係で」というのが7名、「生理学的テーマヘの興味」が5名、「分子生物への興味の喪失」、または「システム統合的研究への興味」というのが2名あった。

2.生理学とその課題

2−1)報告書の「生理学とは生体における様々なレベルでの機能とそのメカニズムを明らかにし、それらの個体および生命への統合を計る学問(統合生物学)である」という考えについて。


 本設問に対する意見としては、「統合生物学という定義は生理学の独自性を示すのに不十分・不適当」というものが42名、「統合という言葉になじめない、または理解できない」というものが25名、「そのとおりである」が17名、「定義そのものが不必要」というものが7名、などであった。

2−2)報告書の「分子生物学が著しく発展した今日、分子や細胞の機能を個体の生命へと統合する必要性がある」という考えについて。


本設問に対する意見としては、「分子生物学的知見は生理学にあまり役立たない」というものが20名、「役立つが、統合の必要はない」とするものが19名、「そのとおりである」と述べたのが16名、「賛成だが、その実現のためには新しい方法論や考え方が必要」と指摘するものが9名、「業績の上がりやすい分子生物学的研究より、もっと統合的研究を」と表明したものが8名、などであった。

2−3)報告書の「生理学は、生体の仕組みを明らかにし、生命の摂理へと迫る学問であり、生命科学の基礎を与えると共に、地球的、社会的諸問題の解明の基盤をも与える役割を持つ」という考えについて。


 本設問の考えに対して賛成していない人の意見は、その後半部分の「地球的、社会的諸問題の解明に基盤を与える」という文に集中していた。「それはあまりにも一般的で飛躍があるという意味で同意できない」とするもの50名、「表現が抽象的すぎる」との不満を表明したもの9名などであった。


2−4)報告書の「人体生理学は、医学や医療の基礎科学として特に重要な研究領域であり、臨床医学に直結している」という考えについて。


 本設問に対する批判的意見は、「臨床医学に直結している」という文に集中していた。「直結しているとはいえない」と記したもの58名、「臨床医学のみならず、他の体育学、人間工学、人類学、社会科学にも直結している」と表明したもの9名、などであった。

3.生理学研究の現状と展望

3−1)報告書の「新しい手法を用いた研究の推進により生理学研究の更なる展開が期待される」という考えについて。


これについて記された意見を分類して以下に列記する:
@当然であり新しい研究手法は重要であると考える(26名)
Aどちらともいえない(8名)
Bそうともいえない(7名)
C従来の方法も重要なものがあり、それにより推進できる研究がある(12名)
D新しい手法に振り回されるべきでない(5名)
E新しい研究手法と従来の研究手法の整合性をとるべきである(2名)
F研究手法のみが大切ではない。独創性やアイデアがあっての研究である(15名)
G研究手法は研究テーマによって決まるもので、手法が先行するのは本末転倒である(1名)
H新しい手法の開発が必要である(7名)、学会などで方法論を討議することも必要である(1名)、外国で開発された手法に依存していては発展性がないので日本独自の手法を開発すべきである(1名)、工学分野との協調が必要である(1名)
I統合機能、器官生理学、病態生理学を研究する手法も大切である(9名)
J分子生物学やパッチクランプ法だけが研究手法ではない(2名)、報告書は分子生物学を意識しすぎている(1名)

3−2)報告書では「基礎研究と応用研究の両方の要素を両立させるカテゴリーである戦略研究の展開の重要性」が指摘されているが、この視点について。


 戦略的研究課題として151名から寄せられたものの中で多かった(5名以上)のは、@脳神経機能、A環境適応と生体センサー機能、B老化・細胞死メカニズム、C細胞や組織の再生、発生、分化のメカニズム、D各種疾患の分子メカニズム、E人工臓器、であった。

3−3)報告書では重点的に取り組むべき研究として次の12領域を挙げていますが、これについて。
@「重要度の高いものから3つお書き下さい」について。


A「あなたの研究にもっとも近い領域をお答え下さい」について。


3−4)あなたの現在および将来の研究について質問いたします。

@「あなたの現在の研究対象のレベルについて主たるものを1つ選んでください」について。


A「どのような研究手法を用いていますか、主たるものを2つ選んでください」について。


 「あなたの現在の主たる研究方法を1つ具体的に挙げて下さい」に対する回答は418名から寄せられ、5名以上が挙げているものの内訳は次の通りである:
電気生理学的手法(134名;内61名がパッチクランプ法)、非侵襲的手法(43名)、光学的手法(40名)、分子生物学的手法(29名)、生化学的手法(26名)、形態学的方法(25名)、シミュレーション(17名)、行動解析(15名)、培養細胞(11名)、レオロジー(9名)。

 「将来是非取り入れたい研究手法を1つ具体的に挙げて下さい」に対する回答は297名から寄せられ、5名以上が挙げているものの内訳は次のとおりである:
 分子生物学的研究手法(104名)、非侵襲的研究手法(45名)、シミュレーション的手法(29名)、電気生理学的手法(28名;内10名がパッチクランプ法)、イメージングおよび光学的手法(19名)、形態学的手法(14名)、細胞生物学的手法(12名)、システム生理学的手法(9名)、生化学的手法(7名)。

B「将来の研究の大きな目標として次のどれを目指していますか、1つ選んで下さい」について。


 「将来の研究目標について具体的に記載して下さい」に対する回答は300名から寄せられた。分子メカニズムの解明と中枢神経系の研究との回答が最も多く、特に中枢神経系の分子メカニズムの解明を目標に置いているものが多い。臨床的な研究として、てんかんの分子メカニズム、精神疾患のメカニズムの解明が入っている。具体的記述として多いのは、イオンチャネルの分子機構、記憶のメカニズム、高次脳機能の発現メカニズム、心理と脳機能などであった。

3−5)あなたが研究発表する学会についてお尋ねします。

@「現在あなたが研究発表の場として最も重要であると考えている国内の学会を2つ、国外の学会を1つお答え下さい」について。


A「生理学会大会への参加の度合いをお聞きします」について。


 「生理学会大会の問題点について感ずることを記載して下さい」に対する回答は、158名から寄せられ、それらは以下の6つに分類された:
イ.専門的すぎる、分野が広すぎる(46名)
ロ.興味深い発表が少ない、最先端の研究が少ない(32名)
ハ.若手の出席が少ない、若手を優遇すること(22名)
ニ.発表の形式に工夫がない、演題の選択の仕方に問題がある(31名)
ホ.非医学者への配慮、非会員への参加呼びかけを(14名)
ヘ.会期にゆとりがなく会場が遠い(13名)

3−6)研究のレベルについて質問いたします。

@「あなた自身の研究の世界でのレベル(同分野で)をお聞かせ下さい」について。


A「あなたの研究分野の国内全体のレベルはどの程度とお考えですか」について。


(3−7)「日本生理学会の英文誌であるJJP(Japanese Journal of Physiology)への投稿回数についてお答えください」について。


「JJPについてのご意見がありましたら記載して下さい」に対する回答は141名から寄せられ、その内訳は次の通りである:
@肯定的意見や建設的提案(40%)
A無関心または否定的意見(30%)
Bインパクトファクターの向上が必要(17%)
CJpn J Physiolの名前を変える、Jpnを外す(6%)
D特になし(6%)

 建設的意見としては、Editorial Boardに外国人を入れ国際化を計る、電子媒体化する、などがあり、JJPの名を変えたほうが良いという意見が出ている。否定的意見として雑誌のレベルが低く、載っても反響が少ない、などが出ている。

 「あなたが論文投稿したいと考える雑誌を3つ挙げて下さい」に対する回答の集計結果は次のとおりである:


4.研究者の現状と展望

4−1)報告書の「生理学会員は分子生物学会や生化学会、薬理学会に比べ会員数も少なく、ここ10年間の増加率も低く伸び悩んでいる。特に若手研究者の参加が充分には得られていないことは憂慮される事態である」という指摘について。


 この指摘に関連して「若手研究者を生理学に引きつける為のアイデア」を求めたのに対して、283名より回答があった。それらは、次の3つのグループに分かれた:
@ 良い研究成果を出し、優れた生理学教育を行って生理学を魅力的なものにし、生理学に興味を持たせる
A 若手研究者に研究環境(ポストや研究費など)を整備する
B 生理学の特徴でありまた面白さでもある「生命への統合」を強く打ち出し、臨床系などとの交流をはかる。

 グループBの意見と関連して、生化学や分子生物学は医学部の他に50%以上が理学部や農学部など他の学部の研究者によって占められている、生理学でも他の分野との繋がりが必要である、との意見があった。

4−2)報告書の「女性の積極的な採用と、出産・育児に伴う職場からの離脱が不利にならないような制度の改善、周囲の理解が求められる」という提言について。


 この提言に関して94名から意見が寄せられた。それらは、提言に賛意を示すものが4分の1、男女を分けて考えるべきではないとするもの4分の1、日本全体すべての分野でいえることでシステムの整備が必要であるとの意見が約2分の1、であった。

 なお女性のこの分野での進出と活躍が情勢を変える、という指摘もあった。

5.研究体制の現状と展望

5−1)「主としてどのような体制で研究をしていますか」について。


5−2)報告書の「大部分の大学の研究ユニットは講座制をとっており、これは新しい研究方向を切り開いていくには柔軟性に欠ける」という指摘について。


 「講座制および望ましい研究体制について」の意見を求めたところ、講座制に対しては賛否両論があった。講座制は「新しい研究方向を切り開いてゆくには柔軟性に欠ける」という報告書の指摘はアンケートでほぼ半数の賛成を得ていた。しかし、コメント欄にはその指摘を認めながらも、全体としてはその弊害は制度の問題というよりリーダーの資質、運営の仕方が重要であるとする意見が強かった。運営については、教官の流動性を求める意見が強かった。

5−3)報告書の「正式研究ポストを拡充すると共に、ポストドクター制を大幅に導入したり、外国人研究者受入を容易に行えるようにすることにより、機能的な研究組織体制を取るべきである」という提言について。


 「教官などの正式研究ポストの任期制について」の意見を求めたところ、任期制導入に賛成と反対の立場に単純に分けると、賛成296名、反対232名となり、6対4の割合で賛成が多かった。任期としては5年ないし10年の任期が求められていた。しかし、多くの回答者が再任が可能な制度を求めていた。

 個別の意見の中で目についたのは、評価方式の確立を求める甲答であった。

 「ポストドクター制の大幅導入について」の意見を求めたところ、回答はその論調で3つに分類された。賛成246名、条件付賛成130名、反対43名であった。賛成意見のなかで、至急本格的に実施することを要望する意見が多かった。条件付賛成の中で、最も多く要求された条件は、フェロー終了後に就き得るポストが現在の状態よりも増員されること、あるいは現在の教官ポストの多くが任期制になってポストを競争的に獲得できる条件が満たされること、であった。

5−4)報告書の「分子、細胞から脳、個体に至る生理科学全般にわたる研究を行う生理学研
究所の充実を」との提言について。


 生理学研究所についての一般的意見としては次の5つが出されていた:
@更に(人的、物的、スペース的に)拡充・充実が必要である(15名)
Aよくやっている、このままでよい(9名)
B岡崎以外に全国に複数の生理学の研究所をつくるべき(9名)
C(岡崎の他研究所を含めて)再編・改組するべき(4名)
Dむだづかいをしているようだ(3名)

 生理学研究所の研究のあり方の意見は次の2つに分類された:
@重点プロジェクト研究に中心に(13名)、統合生物学的研究を中心に(6名)、環境生理中心に(3名)、脳神経生理中心に(2名)
A偏らずに分子から個体までを(11名)、脳研究所ではないので脳研究に偏重するな(8名)、分子生物・分子生理に偏重するな(4名)

 生理学研究所の運営については次のような意見が出されていた:
@人事を含めもっと開かれた運営を(27名)
A任期制導入を(7名)、評価制度導入を(4名)、客員部門の見直しを(2名)、内部昇任禁止の見直しを(1名)
B共同研究、共同利用をもっと(8名)
C若手育成の拠点に(2名)、修士課程の導入を(2名)、流動的ポスドクの拡充・導入により全国からの受け入れを(2名)
D生理学会との関係の強化を(5名)
E実験技術の開発・普及に努力を(3名)

5−5)報告書の「新たに統合生物学研究所の設立を」との提言について。


 統合生物学研究所の創設に対して記入された意見の主なものは次のとおりであった:
@(運営や研究課題やアクティビティーにおいて)条件がみたされるものならば賛成(34名)
A統合生物学研究所の理念が鮮明でない(28名)
B賛成、是非すぐに設立を(25名)
C生理学研究所の充実・拡充でその目的の達成を(23名)
D既存の研究所・機関・施設の再編・改組で目的の達成を(11名)
Eむしろ大学の改善を(10名)
Fむだである(6名)

6.研究費の現状と展望

6−1)報告書の「生理学分野の卓越した統合生物学的研究や戦略研究課題に重点的、長期的研究費の配分を望む」という提言について。


6−2)報告書の「息の長い研究に基盤研究的研究費の安定的配分を行う」という提言について。


6−3)「最近数年間のあなたの研究費の主な出所を2つお答えください」に対して。


7.生理学教育の現状と展望

7−1)報告書の「初等学校から大学までの教育において、生理学の成果と視点をもっと取り入れるべきである」という考えについて。


 これに対する主な意見はおよそ次の5つのカテゴリーに分類された(記載者数212名)。
@初等・中等教育から生理学および関連する教育を何らかの形で推進するべきである(69名)
A初等教育から導入する場合には問題がある(109名)
 その中で、問題点として上げられた主なものは以下のとおりである:イ.日本の初等中等教育の現状を無視した一方的な押しつけではとても無理である(25名)、口.必要なのは生理学ばかりではない(18名)、ハ.生物学関連教育との関係が曖昧(14名)
Bすでに十分取り入れられている(11名)
C初等教育からは必要はない(14名)
Dその他の記載(9名)

7−2)報告書の「医系大学のみならず、理系大学においても分子からヒトヘの統合という視点からの生理学教育、人体生理学の教育を行う必要がある」という考えについて。


 これに対する主な意見はおよそ次の4つのカテゴリーに分類された(記載者数206名)。
@賛成(92名)
A以下の条件で賛成(62名):イ.理系・文系にこだわらない広い視点(18名)、ロ.教育にあたる適切な人材(8名)、ハ.医学生理学の押しつけや独善の回避(7名)
B不賛成(40名)
Cその他の記載(12名)

7−3)報告書の「医科大学においては人体生理学教育に加えて、更に臨床に直結した病態生理学教育を行う必要がある」という考えについて。


 これに対する意見はおよそ次の3つのカテゴリーに分類された(記載者数 192名)。
@この考えに賛成する意見(87名)
Aこの考えに否定的、または問題点があると指摘する意見(94名)
 その中で、問題点として指摘された主な事項は以下のとおりである:イ.臨床で実施されている、臨床教育との関連を考えよ(24名)、ロ.病態生理をすでに扱っている(16名)、ハ.基礎生理が軽視される(11名)
Bその他の記載(11名)

7−4)報告書の「大学院において人材を確保し、初等・中等・高等学校教育及び文系・理系大学の生理学教育に関わる教育者を育成、供給する必要がある」という考えについて。


 これに対する意見はおよそ次の3つのカテゴリーに分類された(記載者数 167名)。
@この考えを積極的に推進すべきであるという意見(61名)
Aこの考えに疑問や問題点があるという意見(86名)
 その中で、問題点として指摘された主な事項は次のとおりである:イ.需要と供給から成り立つことではない(14名)、ロ.教育と研究は別である(13名)、ハ.大学院においてこのような必要があるとは思えない(11名)、ニ.現状では無理である(5名)
Bその他の記載(20名)

7−5)報告書の「生理学研究に参入する人材を確保するため医学部において基礎医学研究者養成コース(MD/PhDコース)を導入する」という考えについて。


 報告書のこの考えに対して、222名が意見を寄せた。その多く(85名)はMD/PhDコースに否定的であり、賛成意見(22名)、条件付賛成意見(13名)を上回った。これらの否定的意見は、設問に対してそうは思わない、どちらともいえない、と回答した人たちが述べていた。否定的意見の中で多かった理由は、「医学部に限るのはよくない」(16名)、「できても就職先が心配」(8名)、「米国でも成功していない」,「現行のシステムを生かせ」等であった。

7−6)報告書の「生理学教育を担当する人材を確保するため女性生理学者の登用、定年退職した生理学者の再雇用、外国人生理学者の雇用促進をする」という考えについて。


 これに対する主な意見は次の7つのカテゴリーに分類された(記載者数 179名)。
@女性蔑視、差別、女性は研究者でなく教育者になれ? 女性研究者を特別視、男女の差別をするな、女性生理学者は退職者と同じ価値と言う意味か? 女性は研究でなく教育をせよということか?(19名)
Aとくに女性の登用は賛成、重要(8名)
B退職者の再雇用反対:理由は、若手の道をふさぐ、若手を育成すべき、教育はやる気を与えるべき、頭が固い、老害になる(35名)
C性別、年齢にこだわらずに能力と実績で公平に、雇用基準を明確にすればよい(17名)
D若手の育成と登用を(7名)
E女性と外国人は賛成(5名)
F退職者の再雇用賛成:ただし、権力乱用をしない、そのためのチェック機構が必要、基準をクリアーする、若手と調整する(12名)

7−7)報告書の「初等、中等及び高等教育における生物学や保健体育の教科書の編纂に生理学者が関与することが重要である」という考えについて。


これに対する主な意見は次の5つのカテゴリーに分類された(記載者数 130名)。
@生物学の教科書には、生理学的にみて誤り、妥当でない記述、かたより、用語の不統一がある(22名)
A(人体)生理学が取り入れられているのが当然、入っていないとしたら不思議、是非入れるべき、積極的にやるべき、生理学者は積極的に関与すべき、子どもの頃から人体生理学が必要(44名)
Bそれが可能な生理学者はいない、教授がどうぞ、それが可能な暇な人は生理学者でない、出来るかどうか疑問、関与したい人は変人(14名)
C現在の高校の教科書に生理学がすでに入っている(5名)
Dやさしい教科書をつくる努力が必要、おもしろい教科書を(5名)

 「魅力ある生理学教育についてのお考えがあればおきかせください」に対する主な回答は次の4つのカテゴリーに分類された(記載者数 219名)。
@日常生活とからめて具体的に自分のからだの働きを理解させる(31名)
A実習、デモ実験、心のこもった動物実験(25名)
B教育方法の工夫(良い教科書、パソコン、映像、インターネット、ホームページ、マンガなどを含む)(25名)
C教える人の問題、良い生理学者、話の上手な人、生理学に熱意を持つ人、魅力のある教育者、その育成(15名)

8.日本学術会議生理学研究連絡委員会(生理研連)の活動

 日本学術会議研究連絡委員会の職務は、関係する研究領域についての学術の現状・動向の把握、将来計画の立案、研究条件整備の検討、研究機関・学術団体との連絡調整、および研究の連絡と能率の向上に必要な業務の実施、とされています。

8−1)「生理学研究連絡委員会は特にどのような活動に力を入れるべきだとお考えですか」に対して。


 dの(できれば具体的に書く)に対しては33名が回答し、関連学会間の連携の強化、情報交信、学術大会・シンポジウムの合同開催、を挙げる意見が多かった(29名)。連携の相手学会としては、臨床系の学会を挙げる意見(7名)と、理、工、農学系などの幅広い学会を挙げる意見(9名)にほぼ二分された。

 fの(具体的に書く)に対しては29名が回答し、研究費の獲得(3名)、研究評価の基準作成・実施(3名)、生理学教育の普及(3名)、若手研究者の支援(2名)、研究情報の提供(1名)、人材バンク的活動(1名)、などであった。

8−2)「生理学研究連絡委員会では、生理学を発展させ、また生理学教育を普及するためのシンポジウム(下記a,b,cの3つの案)を企画していますが、適当と思うものを選んで下さい」に対して。


 これに対して意見は127名から寄せられた。主な意見は、@統合生物学のテーマに関する意見・提案(統合生物学の重視・追求、統合の意味の明確化、統合の方法論など、11名)、A人体生理学のテーマに関する意見・提案(健康、食、日常の中の生理学、人体の総合機能など、12名)、B生理学および生理学教育の普及に関する意見・提案(12名)、であった。Bには、高校生以下を対象にという意見がかなりあり、小、中、高校の理科、生物、保健体育の教員にパネリストとして参加して貰うという提案もあった。

 上記以外には、研究の方法論、環境−生存、生命の方法論・哲学、進化論と生理学、などに関するテーマが提案された。また、他領域との交流、企業の研究者との交流を求める意見や、もっと臨床に近いスタンスをという意見があった。アンケートで挙げた3シンポジウムの3つ全部または2つの実施をという意見が多数ある一方、3テーマはどれも適当でないという意見もあった。また、テーマは対象とする参加者によるので、一概に答えられない、対象に適したテーマを選ぶ必要がある、という指摘があった。

9.今回のアンケートについて

9.報告書の「アンケートに対する意見がありましたらお書き下さい」に対して。

 138名から意見が寄せられた。意見は下記@、A、Bの3群に分けられた。

@ 今回の調査に対する全体的意見:
 肯定的な意見と否定的な意見の両方があった。肯定的な意見としては、有意義、重要、近年にない調査である、今後の課題の認識に役立つ、問題点を考えさせる設問が多い、設問が妥当である、現状の把握に賛同する、報告書を読むきっかけになった、このアンケートが生理学の発展に役立つことを期待する、などがあった。

 否定的な意見としては、アンケートでは重要な考えや意見が出ない、個人の詳しい意見が大切、数の原理の悪用につながる、お役所仕事で無駄、問題意識に同調できない、報告書の自己満足のためのデータ集め、調査の意図が不明、などがあった。

Aアンケートの内容に対する意見:
 最も多い意見は、全般に医学部基礎の生理学を中心にし過ぎで、他の分野をあまり考慮していないという批判であった。例えば、臨床、生物学、医療系大学、企業等の人にとって答え難いあるいは配慮のない設問が多い、もっと広い視点から生理学を見る必要がある、他分野の人にアンケートを作ってもらうと異なる回答になり違った発見があるかも知れない、などであった。

 そのほか、生理学の成果をもっと前向きにとらえる視点が必要、生理学の発展の現状に乗り遅れている、内容に斬新なものがない、答え難い問題が多い、研究費の配分についての調査が欲しかった、などの意見があった。

 アンケートの技術面について、表現が難しい、設問がぎこちない、項目が多すぎる、短く簡単にしないと反応が悪い−アンケート法を検討せよ、多少誘導的である、選択肢に「分からない」が必要、などの意見があった。

B調査結果の扱いと今後の行動に関する意見:
 調査結果報告書の作成を期待する、集計結果を公表して(日本生理学雑誌、ホームページに掲載などの提案があった)フィードバックするよう、という回答が多数あり、また、集計に当たっては、多肢選択の回答だけでなく重要な少数意見も取り上げるようにという意見があった。

 アンケートの結果を具体的方策に結びつけることを求める多くの意見があり、「統合生物学としての生理学」の観点が大きな流れになるよう具体的な活動を起こして欲しい、学会の将来計画に活用することを期待する、といった意見から、集計・報告に止まって改革が実行されなければ意味がない、という強い意見まであった。また、生理学会は保守的なのでこのアンケートが変化を起こす一石となって欲しい、これまで「生理学」という井戸の中に居られたのでしょう−今後が楽しみ、というコメントがあった。

 また、今回のようなアンケートをこれに終わらず定期的に実施するとよい(2−3年ごと、インターネットも利用して広く、等の意見あり)という意見があった。

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B.回答相関解析

1.回答者のバックグラウンド

1)男女構成
 アンケート回答者にみられる生理学関係研究者の男女比は9:1であり、女性が極めて少なかった(表1−1a)。女性は20才代では29%、30才代では17%を占めるのに対し、40才代以上になると急に6−8%台に低下していた(表1−1a)。

 院生・学生・研究生などの研究者予備軍に占める女性の割合は相当高い(41%)にもかかわらず、ポスドクから助教授までの有給研究者では相当(13−14%に)低下し、教授になっている人の割合(4%)は極めて少なくなっていた(表1−1b)。

 研究領域については約40%の人が神経・脳生理学分野の研究に携わっているという点が特筆された。この点に男女差はないようであった。

表1‐1a 「性別‐年代」相関(%)
表1‐1b 「性別‐身分」相関(%)


2)年代構成
 男性は40才代が36%と最も多いのに対して、女性は30才代が33%と最も多かった。20才代の男性はわずか3%であるのに対し、女性は12%を占めていた(表1−2a)。

 教授には50才代が、助教授には40才代が、講師、助手・研究員・ポスドクには30−40才代が、研究者予備軍には20−30才代が最も多く、年齢が上がるにつれてシニアポストにつく人が多くなっていた(表1−2b)。

 ほぼすべての研究領域において40才代が最も多いが、筋生理学と栄養生理学においては50才代が最も多かった(表1−2c)。

表1‐2a 「年代‐性別」相関(%)
表1‐2b 「年代‐身分」相関(%)
表1‐2c 「年代‐研究領域」相関(%)


3)出身別構成
 医系出身者(医学部卒+医系大学院卒)が半数以上を占める傾向には、男女差(表1−3a)や
身分差は見られなかった。

 20才代では医系以外の出身者の方が過半数を占めるのに対して、30才代以上では医系出身者の方が過半数をはるかに越えるようになった(表1−3b)。

 研究領域別(複数回答可)で医系出身者が90%を占めるのは、血液・呼吸・循環・体液調節生理学と病態・臨床生理学の分野であった。運動生理学・体力医学や心理生理学の分野では、医系出身者はそれぞれ31.56%に過ぎず、出身を「その他」と回答している人がそれぞれ47.39%にのぼり、比較的医系出身者が少なかった(表1−3c)。

表1‐3a 「出身‐性別」相関(%)
表1‐3b 「出身‐年代」相関(%)
表1‐3c 「出身‐研究領域」相関(%)


4)身分構成
 男性のアンケート回答者の身分構成は、教授が約3割、助教授・講師が約3割、助手・ポスドクなどの若手有給研究者が約2割であり、院生・研究生・学生が2%と極めて少なかった。これに対し、女性回答者で一番多いのは助手・ポスドクなどの若手有給研究者であった。女性回答者の身分で教授は約1割、助教授・講師は約2割と、シニアポストについている女性は男性に比し大変少なかった。これに対して、院生・研究生・学生などの研究者予備軍が15%と、女性回答者のかなり大きな割合を占めていた(表1−4a)。

 年代との関係を見ると、教授は50才代以上が圧倒的に多く、助教授は40才代が、講師は30−40才代が、助手・ポスドクなどの若手有給研究者は30才代が最も多く、院生などの研究者予備軍は20才代が圧倒的に多かった(表1−4b)。

 研究領域別に見ると、教授が40%以上を占めているのは筋生理学、栄養生理学と環境・適応・協関生理学であり、臨床医が40%を占めるのは東洋医学であった。栄養生理学、心理生理学、東洋医学分野の回答者には院生・研究生・学生がいなかった(表1−4c)。

表1‐4a 「身分‐性別」相関(%)

表1‐4b 「身分‐年代」相関(%)
表1‐4c 「身分‐研究領域」相関(%)


5)所属学会
 アンケートの発送先や、回答者が生理学会員に片よっていたという点を考えると、生理学会員とそうでない人との比較は、本調査では不可能であった。アンケート回答者の中で、生理学会のみに所属する人は29%、神経科学学会と両方に所属する人は35%、神経科学学会以外の学会にも所属する人が16%という結果であり、これらの傾向に男女差は見られなかった(表1−5a)。ここではデータを表にしていないが、生理学会員である回答者の中では、生理学会のみに所属する会員が35%、神経科学学会員を兼ねている人が45%、それ以外の他学会員を兼ねている人は20%という結果であった。これらの傾向にも男女差は見られなかった。

 研究領域別に見ると、分子細胞生理学分野の人の多くは生理学会にのみ属し、神経・脳生理学の人の多くは当然のことながら神経科学学会にも属していた。筋生理学分野の人は生理学会のみに属する人も多いが、他の学会(神経科学学会以外の)に属している人も多かった(表1−5b)。

表1‐5a 「学会‐性別」相関(%)

表1‐5b 「学会‐研究領域」相関(%)


6)動機
 生理学研究を始めた動機の圧倒的多数は「医学・生命科学の基礎に興味を持ったから」となっていた。これは他の回答選択肢とは排他的ではないので当然の結果であろう。これらの傾向に男女差、年代差、身分差、研究領域差はあまり見られなかった。


2.生理学とその課題

2−1)報告書の「生理学とは生体における様々なレベルでの機能とそのメカニズムを明らかにし、それらの個体および生命への統合を計る学問(統合生物学)である」という考えについて。

 93%の回答者が設問の考えに賛成し、反対者は僅か2%であった。男女別、年代別および身分別の解析から特記すべき事柄は見いだせなかった(表2−1a、表2−1b、表2−1c)。研究領域別の解析から「内分泌・生殖生理学」に属する回答者の7%が反対者であって、他の研究領域の反対者の比率よりやや高いことが分かった(表2−1d)。

表2‐1a 性別(%)

表2‐1b 年代別(%)
表2‐1c 身分別(%)
表2‐1d 領域別(%)


2−2)報告書の「分子生物学が著しく発展した今日、分子や細胞の機能を個体の生命へと統合する必要性がある」という考えについて。

 88%の回答者が設問の考えに賛成し、反対者は5%に過ぎなかった。男女別、年代別および身分別の解析から特記すべき事柄は見いだせなかった(表2−2a、表2−2b、表2−2c)。研究領域別の解析から「東洋医学の科学的メカニズムの解明」に属する回答者の14%が反対していて、他の研究領域の反対者の比率より高いことが判明した(表2−2d参照)。

表2‐2a 性別(%)

表2‐2b 年代別(%)
表2‐2c 身分別(%)
表2‐2d 領域別(%)


2−3)報告書の「生理学は、生体の仕組みを明らかにし、生命の摂理へと迫る学問であり、生命科学の基礎を与えると共に、地球的、社会的諸問題の解明の基盤をも与える役割を持つ」という考えについて。

 賛成者は全回答者の77%であり、反対者は9%であった。男女別および身分別の解析から特記すべき事柄は見いだせなかった(表2−3a、表2−3c)。年代別の解析から30代の13%が反対していて、他の年代に比べて反対者の比率の高いことが分かった(表2−3b)。他方、研究領域別の解析から、「心理生理学」の回答者の17%、「発生・成長・老化の生理学」の回答者の15%、および「内分泌・生殖生理学」の回答者の13%がそれぞれ反対していて、他の研究領域に比べて反対者の比率の高いことが分かった(表2−3d)。

表2‐3a 性別(%)
表2‐3b 年代別(%)
表2‐3c 身分別(%)
表2‐3d 領域別(%)


2−4)報告書の「人体生理学は、医学や医療の基礎科学として特に重要な研究領域であり臨床医学に直結している」という考えについて。

 賛成者は回答者の82%であり、反対者は6%であった。男女別の解析から特記すべき事柄は見いだせなかった(表2−4a)。年代別にみると20代、30代でやや賛成率が低かった(表2−4b)。身分別の解析から講師の11%および助教授の9%がそれぞれ反対していて、他の身分に比べて反対者の比率の高いことが分かった(表2−4c)。他方、研究領域別解析から、「運動生理学・体力医学」の回答者の14%、および「筋生理学」の回答者の12%がそれぞれ反対していて、他の研究領域に比べて反対者の比率の高いことが分かった(表2−4d)。

表2‐4a 性別(%)
表2‐4b 年代別(%)
表2‐4c 身分別(%)
表2‐4d 領域別(%)


3.生理学研究の現状と展望

3−1)報告書の「新しい手法を用いた研究の推進により生理学研究の更なる展開が期待される」という考えについて。

ほとんどの人がそうであると回答していた。これに男女差はみられなかった(表3−1a)。年代による差もないが、60代以上の人に肯定的な意見がより多かった(表3−1b)。身分別では、臨床医に肯定的意見が多い傾向がうかがえた(表3−1c)。研究領域別ではほとんど差はなかった(表省略)。

表3‐1a 性別(%)
表3‐1b 年代別(%)
表3‐1c 身分別(%)


3−2)報告書の「基礎研究と応用研究の両方の要素を両立させるカテゴリーである戦略研究の展開が重要」という指摘について。

 肯定的意見が多いが、どちらともいえないという回答が20%近くあり、男女差はなかった(表3−2a)。年代別では60代以上の人に肯定的意見がより多く、40代でやや少なかった(表省略)。身分別では、助教授・講師層でどちらともいえないという意見が多いのに対し、大学院生、研究生、学部学生、臨床医で高い支持を得ていた(表3−2b)。領域別では、分子・細胞生理学、東洋医学でそうは思わない、どちらでもないという意見が多かった(表3−2c)。

表3‐2a 性別(%)
表3‐2b 身分別(%)
表3‐2c 領域別(%)


3−3)「重点的に取り組むべき研究領域」について。

 神経・脳生理学、分子・細胞生理学、発生・成長・老化生理学を挙げた人が多く、次いで環境・適応・協関生理学、病態生理学が続いた。この傾向は男女、年代による差がなく(表3−3a,b)、身分による差もなかった(表省略)。また、重点的に取り組むべき研究領域と回答者の専門分野との関係では、自分の専門領域を挙げる割合が最も高いが、自分の領域以外では神経・脳生理学、発生・成長・老化生理学、分子・細胞生理学が高い率で挙げられていた(表3−3c)。

表3‐3a 性別(%)

表3‐3b 年代別(%)
表3‐3c 領域別(%)


3−4)回答者自身の現在及び将来の研究

@「あなたの現在の研究対象のレベルは」に対して。

 個体を対象としている研究と、細胞を対象としている研究が多く、分子のレベルの研究が少なかった。これらの傾向に男女差はなかった(表3−4a)。40才代以上の人では個体を対象としている研究が最も多いが、20代、30代の若い研究者ほど細胞レベルの研究が増え、興味が細胞レベルに移ってきていることが示唆された(表3−4b)。年代別の結果に対応して、細胞レベルの研究が大学院生・研究生・学生では半数以上を占めていた(表3−4c)。

表3‐4a 性別(%)
表3‐4b 年代別(%)
表3‐4c 身分別(%)


A「どのような研究手法を用いていますか」に対して。

 研究手法としては、電気生理学的手法が圧倒的に多く、生理学研究の特徴でもあった。分子生物学的手法も取り入れられているが、主流にはなっていなかった。これらの点に男女差はなかった(表3−4d)。20代では他の世代と異なり、分子生物学的・生化学的手法が増えていた(表3−4e)。

表3‐4d 性別(%)
表3‐4e 年代別(%)


B質問「将来の研究の大きな目標として次のどれを目指していますか」に対して。

 「統合機構の解明」が男女とも圧倒的に多かったが、男性では「病気の解明」が、女性では「生体機能の分子的理解」が2番目に入っていた(表3−4f)。どの年齢層でも「統合機構の解明」が多いが、20才代では「生体機能の分子的理解」の割合が高まっていた(表3−4g)。身分別では、教授に「統合機構の解明」が多いが、他と比べて飛びぬけて多いわけではなかった。当然ではあるが、臨床医では「病気の解明」が一番多くなっていた(表3−4h)。

表3‐4f 性別(%)
表3‐4g 年代別(%)
表3‐4h 身分別(%)


3−5)研究発表する学会

@−1「あなたが研究発表の場として最も重要であると考えている国内の学会は」について。

 研究発表する国内の重要学会として最も多く挙げられたのが生理学会、次が神経科学学会であった。3位以下は上位1、2位に比べはるかに低かった。この点に男女差はなかった(表3−5a)。回答者の研究領域との関係では、分子・細胞生理学、筋生理学、内分泌・生殖生理学、栄養生理学、東洋医学領域の研究者が生理学会に出ている割合が高く、神経・脳生理学の領域の研究者は神経科学会と分けていた(表3−5b)。

表3‐5a 性別(%)

表3‐5b 領域別(%)


@−2「あなたが研究発表の場として最も重要であると考えている国外の学会は」について。

 北米神経科学会が圧倒的に多く、IUPS、IBROがそれに続いた。その序列に男女差はなく(表3−5c)、若いほど北米神経科学会の、高年代ほどIUPSの割合が高かった(表3−5d)。

表3‐5c 性別(%)
表3‐5d 年代別(%)


A「生理学会大会への参加の度合いをお聞きします」に対して。

 生理学会への参加の度合いは、毎年参加している人は半数弱で、まったく参加していない人も30%弱いた。参加する人の割合は男性より女性の方がやや多かった(表3−5e)。大学院生で参加の割合が高かった(表3−5f)。

表3‐5e 性別(%)
表3‐5f 身分別(%)


3−6)自分自身の研究レベル

@「あなた自身の研究の世界レベル(同分野で)をお聞かせ下さい」に対して。

 年代別では、どの年代層でも「世界の最高水準には及ばないが近い」が5割を占めた。しかし「世界の最高水準にある」の割合は40−50代で2割強と高くなり、20代で1割弱と最も低く、30代でその中間であった。その逆に「水準からは遠い」の割合は20−30代で3−4割と最も高く、50代で2割強と最低であった(表3−6a)。男女別の差異は見られなかった(表省略)。

 身分別では、「世界の最高水準にある」の割合が教授層で最も高く、臨床医層で最低であり、逆に「水準からは遠い」の割合は教授層で最低、臨床医層で最高であった。「世界の最高水準には及ばないが近い」の割合は、臨床医層で低い以外は、一様に5割前後であった(表3−6b)。

 自分の研究領域との関係では、自分の研究を「世界の最高水準にある」と思っている研究者が多い領域は、分子・細胞(32%)>発生・成長・老化>神経・脳>環境・適応〉血液・呼吸・循環・体液=病態・臨床>心理>運動・体力>筋>内分泌・生殖=栄養=東洋医学(0%)であり、「世界の最高水準には及ばないが近い」の割合は、筋(73%)>環境・適応=病態・臨床>運動・体力>・・・心理>栄養>内分泌・生殖(35%)、「水準からは遠い」の割合は、分子・細胞(17%)<環境・適応<病態・臨床<・・・<東洋医学<栄養<内分泌・生殖(65%)の順であり、領域によって大幅に異なっていた(表3−6c)。

表3‐6a 年代別(%)
表3‐6b 身分別(%)
表3‐6c 領域別(%)


A「あなたの研究分野の国内全体のレベルはどの程度とお考えですか」に対して。

 自分の分野の国内全体の研究レベルは、「世界の最高水準にある」が25%、「世界の最高水準には及ばないが近い」が50%強、両方を合わせて80%強が世界レベルか、そうでなくてもそれに近いと考えていた。これらの割合には、男女別、年代別、身分別でもほとんど差異は見られなかった(表省略)。

 自分の研究領域の国内全体のレベルの評価は、回答者の研究領域によっても大きくは違わなかった(表3−6d)。

 自分の研究レベルが「世界の最高水準には及ばないが近い」と答えている層に、自分の分野の研究レベルが「世界最高水準にある」と考えている割合が46%と最も高く、その割合は、自分の研究レベルが「世界最高水準にある」、「水準から遠い」の順に32%、22%と減少した。自分の分野の研究レベルが「世界最高水準に近い」の割合は、逆に自分の研究レベルが「水準から遠い」で最大、「世界最高水準に近い」で最小であった(表3−6e)。

表3‐6d 領域別(%)
表3‐6e 自分の研究のレベル(%)


3−7)JJPへの投稿回数および意見

 JJPへの投稿回数は、「毎年1編以上」は僅か1%、「数年に1編」が27%であり、それ以外の72%には投稿経験が無かった。これらの割合には、性別、年代別、身分別、研究領域別、回答者自身の評価レベル別或いは回答者の研究分野の評価レベル別による差異は殆どみられなかった(表省略)。

 JJPについての意見を求めたところ140名が回答した。性別、年代別、身分別、研究領域別、回答者自身の評価レベル別或いはJJPへの投稿回数別の相関解析を行い、以下の結論を得た。JJPへの意見は、肯定的意見や建設的提案(41%)、無関心又は否定的意見(30%)、IF(Impact Factor)の向上が必要(17%)、Jpn J Physiolの名前を変える、Jpnを外す(6%)、特になし(6%)に分類された。この割合と順位に性別および研究領域別の差はなかった(表省略)。年代別では、肯定的意見や建設的提案は20代(75%)および60代以上(63%)で高率だった。一方無関心又は否定的意見は30代(43%)が他の年代より多かった(表3−7a)。身分別では、肯定的意見や建設的提案は院生層(67%)および講師(50%)で他よりやや高率だった。一方、無関心又は否定的意見は臨床医(60%)、助教授(42%)および助手(41%)で他の身分に比べてやや多かった(表3−7b)。

 回答者自身の評価レベル別において、Jpnを外すという意見を持つ者の割合は、自身の研究レベルが世界の最高水準だと自己評価した層(15%)が他の層よりやや多かった(表3−7c)。JJPへの投稿回数別では、肯定的意見や建設的提案は「毎年1編以上」層(67%)が他の層より多かった。他方、IFの向上が必要という意見は「数年に1編」層(31%)が他の層より多かった(表3−7d)。

表3‐7a コメントと年代の相関(%)
表3‐7b コメントと身分の相関(%)
表3‐7c コメントと研究レベル(%)
表3‐7d コメントとJJP投稿回数の相関(%)


4.研究者の現状と展望

4−1)報告書の「生理学会員は分子生物学会や生化学会、薬理学会に比べ会員数も少なく、ここ10年間の増加率も低く伸び悩んでいる。特に若手研究者の参加が充分には得られていないことは憂慮される事態である」という指摘について。

 性別での解析では、男女とも約70%が「そのとおりである」と回答した。女性の方が「どちらともいえない」が男性より10%高値を示した(表4−1a)。

 年代別では、年齢と共に「そのとおりである」が増加し、特に50歳代で72%と最高値を示し、若年群、特に30歳代で「どちらともいえない」が29%と高値を示した(表4−1b)。

 身分別では、「そのとおりである」が約70%でほとんど差は無く、その他で「どちらともいえない」が約25%に達した(表4−1c)。

 研究領域別では、東洋医学、発生・成長・老化、筋生理、心理生理学の順に「そのおりである」が高値を示し、内分泌・生殖生理学で「どちらともいえない」が34%と高値を示した(表4−1d)。

 出身別では、医学部卒が「そのおりである」が多い傾向がある。また所属学会では、生理学会とそれ以外でほとんど差を認めないが、生理学会以外で「どちらともいえない」がやや高かった。

表4‐1a 性別との相関(%)
表4‐1b 年代との相関(%)
表4‐1c 身分との相関(%)

表4‐1d 研究領域との相関(%)


4−2)報告書の「女性の積極的な採用と、出産・育児に伴う職場からの離脱が不利にならないような制度の改善、周囲の理解が求められる」という提言について。

 男女とも多くが「そのとおりである」と回答したが、賛成者の率は女性が男性を約20%上回った。逆に「そうは思わない」、「どちらともいえない」の率は男性が女性を上回った(表4−2a)。

 年代では、20歳代、30歳代で「そのとおりである」が82%、76%と他のグループより約10%の高値を示し、40歳代以上で「どちらともいえない」が20%を超えた(表4−2b)。

 身分別では、「そのとおりである」が助手・研究員・ポスドクで他のグループより高値を示した(表4−2c)。

 研究領域別では、東洋医学、発生・成長・老化、筋生理および心理生理学の順に「そのとおりである」が高値を示し、内分泌・生殖生理学が「どちらともいえない」でやや高値を示した(表4−2d)。

 なお所属学会では、生理学会とそれ以外でほとんど差を認めなかった。

表4‐2a 性別との相関(%)
表4‐2b 年代との相関(%)

表4‐2c 身分との相関(%)
表4‐2d 研究領域との相関(%)


5.研究体制の現状と展望

5−1)「主としてどのような体制で研究をしていますか」に対して。

 ほぼ50%が個人研究、70%が同グループ内共同研究を行っているが(2つまでの複数回答)、これら両方を行っている研究者が多かった。男女、年代にかかわらず比率はほぼ一定していた(表5−1a、b)。20才代でグループ研究の比率が高いのは、この年代は指導者と共同でグループ研究を行なっていることを反映しているのであろう。所属グループ外との共同研究は20−30%程度であるが、全般に学内共同研究よりは国内共同研究の方が多かった。国際共同研究は数%から十数%程度であり、件数としては40代が最も多かった。

 教授層とその他の層の比較で目立つのは、教授層では個人研究が33%であるのに対して、その他の有給研究者層では53−68%が個人研究を行っていることである(表5−1c)。院生層では個人研究がやや少なく(44%)、臨床医の場合には個人研究がやや多かった(65%)。

 領域別では、個人研究が心理、筋、運動・体力、発生・成長・老化生理学で多く(いずれも約60%)、分子・細胞生理(39%)、環境・適応・協関生理(41%)で少なく、グループ研究は分子・細胞生理学や環境・適応・協関生理学で比較的多く、心理生理学と筋生理学でやや少なかった(表5−1d)。

 また他グループとの共同研究は、年代別では50才代が最多(72%)で、20才代が最少(44%)であり(表5−1b)、身分別では教授が最多(75%)で、院生・研究生・学生(36%)と臨床医(26%)で少なかった(表5−1c)。研究領域別では分子・細胞生理が最多(79%)で、筋生理(43%)で最少であった(表5−1d)。なお、学内共同研究は教授、助教授層が多いが、国内・国際共同研究については身分による大差はみられなかった。

表5‐1a 性別との相関(複数回答)(%)
表5‐1b 年代との相関(複数回答)(%)
表5‐1c 身分との相関(複数回答)(%)
表5‐1d 研究領域との相関(複数回答)(%)


5−2)報告書の「大部分の大学の研究ユニットは講座制をとっており、これは新しい研究方向を切り開いていくには柔軟性に欠ける」という指摘について。

性別(表5−2a)、各年代(表5−2b)を通じて半数程度がこの指摘に賛成していた。身分別にみると、教授層は助教授以下とは異なり、この指摘に賛成、反対、中立が3分の1ずつを占めた(表5−c)。逆に臨床医は60%以上がこの指摘に賛成している。講座制に弊害があることは知られているが、同時に代替組織としての大講座制についても種々の問題を孕んでいる点がコメント欄で指摘されていた。その他コメント欄の中で、大きな研究グループを構成することを前提としてその中の単位的な研究ユニットとして講座制を扱うという提言、ポストドクトラルフェローを組み入れたグループ研究の提言、任期制の導入による活性化など多くの考え方が示された。また、研究体制の問題は「講座制」という組織の問題であるというよりは、主として構成員、特にそのリーダーの資質・努力の問題であるとする意見が多かった。

 逆に、この報告書の指摘に反対する回答の比率は、女性より男性でやや高かった(表5−2a)。年代別にみると、40−60代は20−22%が報告書の指摘に反対であり、特に60代は25%が反対であった(表5−2b)。

 身分別にみると、教授に比べてその他の有給研究者層や臨床医が講座制に批判的であった(表5−2c)。コメント欄では教授のリーダーシップの取り方について強い批判をもつコメントが非教授層からなされていたが、一方で講座構成員の研究意欲に対する教授層の批判も強かった。

表5‐2a 性別との相関(%)
表5‐2b 年代との相関(%)
表5‐2c 身分との相関(%)


5−3)報告書の「正式研究ポストを拡充すると共に、ポストドクター制を大幅に導入したり、外国人研究者受入を容易に行えるようにすることにより、機能的な研究組織体制を取るべきである」という提言について。

 この提言については、性別(表5−3a)、年代(表5−3b)、身分(表5−3c)によらず70−80%が賛成であり、反対は数%以下であった。特に、教授、院生に賛成者が多かった(83−84%)。ただし、コメント欄には幾つかの問題点の指摘もあった。例えば、ポストドクトラルフェローのその後の就職先をどうするかという点である。伝統的な流動性の少ない職場をそのままにして、フェローを増やすことによって見かけ上の流動性を導入しえても、その後のフェローの大量失業という事態をどう回避するかが問題であるとした。任期制についても、単に任期制・評価制度を導入して後は研究者の自己責任とすることも可能であるが、現実には任期終了者の扱いをどうするか、など種々批判は強かった。また、賛成でも反対でもない「どちらともいえない」という立場をとる回答は女性、20代に多かった。

表5‐3a 性別との相関(%)
表5‐3b 年代との相関(%)
表5‐3c 身分との相関(%)


5−4)報告書の「分子、細胞から脳、個体に至る生理科学全般にわたる研究を行う生理学研究所の充実を」との提言について。

 生理研の充実に関しては概ね賛成の意見であり、表5−4に見られるように男女ほぼ同じ傾向であった。さらに、年代別、出身別、身分別、研究領域別に調べて見たがほぼ同じ傾向で、多少のばらつきは母集団のサイズを考えると特に有意差があるとは考えられなかった(表省略)。

表5‐4 性別との相関(%)


5−5)報告書の「新たに統合生物学研究所の設立を」との提言について。

 統合生物学研究所の創設に関しては男女で差は殆どなく(表5−5)、年代別、出身別、身分別、研究領域別に調べて見てもこの割合はほぼ同じであった(表省略)。賛成者が過半数を下回る数字からも明らかなように、統合生物学研究所の創設に対しては生理学研究所の充実に比較して消極的であった。

表5‐5 性別との相関(%)


6.研究費の現状と展望

6−1)報告書の「生理学分野の卓越した統合生物学的研究や戦略研究課題に重点的、長期的研究費の配分を望む」という提言について。

 7割近くが賛成という結果であり、これには男女、年代による差は見られなかった。身分別では、賛成するものが臨床医に多く、助教授、講師にやや少ない傾向が見られた(表6−1a)。研究領域別では、賛成するものが発生・成長・老化生理学、東洋医学に多く、分子・細胞生理学、筋生理学にやや少なかった(表6−1b)。

表6‐1a 身分との相関(%)
表6‐1b 研究領域との相関(%)


6−2)報告書の「息の長い研究に基盤研究的研究費の安定的配分を行う」という提言について。

 7−8割の賛成という回答に、男女別による差は見られなかった。年代別では、20代、30代に比べて、40代以上では安定的配分を望むものの数が増加した(表6−2a)。身分別では、臨床医に安定的配分を望むものが平均より多く、講師ではやや少なかった(表6−2b)。また、研究領域別では、賛成するものが栄養生理学、発生・成長・老化生理学、心理生理学、東洋医学に多く、病態・臨床生理学ではやや少なかった。

表6‐2a 年代との相関(%)

表6‐2b 身分との相関(%)
表6‐2c 研究領域との相関(%)


6−3)「最近数年間のあなたの研究費の主な出所を2つお答え下さい」に対して。

 性別に関して、女性では所属研究機関への依存度がやや高く、文部省科学研究費への依存度がやや低かった(表6−3a)。さらに女性の文部省科学研究費への依存度は、教授、助教授、講師では男性と差がなく、助手の場合に男性と大きな差が生じていた(男性助手65%に対して女性助手35%)。年代別では、所属機関への依存度は20代で最も高く、60才以上で最も低かった。文部省科学研究費への依存度は40代をピークとして、50代以上では低下する傾向にあった(表6−3b)。身分別では、文部省科学研究費への依存度が、教授、助教授、講師、助手の順に漸減する傾向にあった。また、臨床医の文部省科学研究費への依存度は著しく低かった。また、厚生省からのサポートは臨床医に、科学技術庁からのサポートは助手、院生などの若手に対して重点的に向けられている様子が
伺われた(表6−3c)。研究領域別では、領域によって文部省科学研究費への依存度に著しい差のあることが明らかになった。依存度の高い領域は、分子・細胞生理学(67%)、筋生理学(58%)、神経・脳生理学(53%)であり、低いものは、東洋医学(7%)、栄養生理学(27%)、病態・臨床生理学(38%)であった(表6−3d)。

表6‐3a 性別との相関(%)
表6‐3b 年代との相関(%)
表6‐3c 身分との相関(%)
表6‐3d 研究領域との相関(%)


7.生理学教育の現状と展望

7−1)報告書の「初等学校から大学までの教育において、生理学の成果と視点をもっと取り入れるべきである」という考えについて。

 バックグラウンドとの相関結果から、男女、身分による大きな差は認められなかった(表省略)。しかし、30才代(表7−1a)、分子・細胞生理学研究領域(表7−1b)では「そのとおりである」の割合(66%)がやや少なく、「そうは思わない」、「どちらともいえない」がやや多かった。逆に環境・適応生理、発生・老化・生理、栄養生理分野の研究者では「そのとおりである」との回答が8割を越えていた(表7−1b)。

表7‐1a 年代との相関(%)
表7‐1b 研究領域との相関(%)


7−2)報告書の「医系大学のみならず、理系大学においても分子からヒトヘの統合という視点からの生理学教育、人体生理学の教育を行う必要がある」という考えについて。

 全体の約75%が「そのとおりである」と回答していた。しかし、30才代(表7−2a)、講師(表7−2b)、分子・細胞生理学、内分泌・生殖生理学研究者(表7−2c)では「そのとおりである」の割合(70%以下)がやや少なく、「どちらともいえない」の回答(20%以上)がやや多くみられた。逆に栄養生理、心理生理研究者では「そのとおりである」の回答(90%以上)が多かった(表7−2c)。

表7‐2a 年代との相関(%)

表7‐2b 身分との相関(%)
表7‐2c 研究領域との相関(%)


7−3)報告書の「医科大学においては人体生理学教育に加えて、更に臨床に直結した病態生理学教育を行う必要がある」という考えについて。

 概ね70%以上がこの考えに賛成しているが、20才代は「そのとおりである」の割合が少なかった(表7−3a)。また、臨床医では「そのとおりである」が9割を越えていた(表7−3b)。研究領域別では、筋生理、環境・適応・協関生理、運動生理・体力医学で「そのとおりである」の割合がやや少なく、血液・呼吸・循環・体液生理、病態・臨床生理、東洋医学では逆に「そのとおりである」の割合が多かった。栄養生理学では20%の高率で「そうは思わない」と回答した(表7−3c)。

表7‐3a 年代との相関(%)

表7‐3b 身分との相関(%)
表7‐3c 研究領域との相関(%)


7−4)報告書の「大学院において人材を確保し、初等・中等・高等学校教育及び文系・理系大学の生理学教育に関わる教育者を育成、供給する必要がある」という考えについて。

 7項の1)一3)の質問に比べて「そのとおりである」の割合がやや少なかった(平均66%)。男女、年代、身分、研究領域による差が認められた。女性(表7−4a)、30才代(表7−4b)、講師(表7−4c)で「そのとおりである」が55−58%と少なく、分子・細胞生理、運動生理・体力医学、東洋医学(表7−4d)でも「そのとおりである」の割合が全員の平均の66%を下回った。

表7‐4a 性別との相関(%)
表7‐4b 年代との相関(%)

表7‐4c 身分との相関(%)
表7‐4d 研究領域との相関(%)


7−5)報告書の「生理学研究に参入する人材を確保するため医学部において基礎医学研究養成コース(Md/Phdコース)を導入する」という考えについて。

 設問に対して6割弱が賛成と回答した。性別、年代、身分との相関関係はとくにみられなかった(表7−5a,b,c)。研究領域では筋生理で賛成が8割を越え、東洋医学、心理生理、分子・細胞生理で4割台であった(表7−5d)。

表7‐5a 性別との相関(%)
表7‐5b 年代との相関(%)

表7‐5c 身分との相関(%)
表7‐5d 研究領域との相関(%)


 報告書のこの考えに対して、222名が意見を寄せた。その多く(85名)はMd/Phdコースに否定的であり、賛成意見(22名)、条件付賛成意見(13名)を上回った。これらの否定的意見は、設問に対してそうは思わない、どちらともいえない、と回答した人たちが述べていた。否定的意見の中で多かった理由は、「医学部に限るのはよくない」(16名)、「できても就職先が心配」(8名)であった。

7−6)報告書の「生理学教育を担当する人材を確保するため女性生理学者の登用、定年退職した生理学者の再雇用、外国人生理学者の雇用促進をする」という考えについて。

 設問に対する賛成者は平均47%であり、男性より女性にやや多かった(表7−6a)。年代別に見ると、60代以上の65%が賛成を示したのに対し、30−50代の賛成者は40%台であった(表7−6b)。身分別では助教授・講師に賛成意見が少なかった(表7−6c)。研究領域別では、筋生理で反対者が、心理生理で賛成者が他より多かった(表7−6d)。

表7‐6a 性別との相関(%)

表7‐6b 年代との相関(%)
表7‐6c 身分との相関(%)
表7‐6d 研究領域との相関(%)


 報告書のこの考えに意見を述べたのは179名であり、その内容は次表の7つに分類された。女性コメントの35%が設問自体が女性蔑視であるという怒りを示した意見であった。退職者の再雇用反対は全ての年代、身分、研究領域に共通の最多の意見であった(表7−6e,f,g)。

表7‐6e コメントと性別との相関(%)

表7‐6f コメントと年代との相関(%)
表7‐6g コメントと身分との相関(%)


7−7)報告書の「初等、中等及び高等教育における生物学や保健体育の教科書の編纂に生理学者が関与することが重要である」という考えについて。

 設問に対して回答者の7割が賛成と答えたが、性別、年代、身分との特徴的な関係は見られなかった(表7−7a,b,c)。研究領域別にみると、心理生理、筋生理、栄養生理で約9割の賛成があり、分子・細胞生理、神経・脳生理では賛成は6割強にとどまった(表7−7d)。

表7‐7a 性別との相関(%)

表7‐7b 年代との相関(%)
表7‐7c 身分との相関(%)
表7‐7d 研究領域との相関(%)


 更に、報告書の「魅力ある生理学教育についてのお考えがあればおきかせください」に対して122名から寄せられた意見は5つに分類された(表7−7e,a−e)。それらの意見と性別(表7−7e)、年代、身分、研究領域(表省略)には相関は認められなかった。男女とも「心のこもった動物実験」、「魅力的な教育方法」、「日常的に自分の体を知る」の大切さを多く挙げていた(表7−7e)。

表7‐7e 性別との相関(%)


8.日本学術会議生理学研究連絡委員会(生理研連)の活動

8−1)「生理学研究連絡委員会が特に力を入れるべき活動(a.生理科学の現状・動向の分析、b.生理科学の将来計画の立案、c.生理科学の研究条件整備の検討、d.生理科学に関係する学会との連絡調整、e.シンポジウムの企画、実施、f.その他、から選択を)」について。

 性別、年代、出身、身分、研究領域の各分類グループを通じて、「現状・動向の分析」、「将来計画の立案」、「研究条件整備の検討」の回答が他を大きく上回り、3者の和は82−100%を占めた。3者の中では、「研究条件整備の検討」が最多、次いで「将来計画の立案」、「現状・動向の分析」の順を示すグループが多かったが、グループによって3者の割合が変わり、順序も交代した。

 男性と女性の間に大きな違いはなかった(表省略)。女性で男性より「研究条件整備の検討」が多く、「将来計画の立案」が少なかったが、これは女性の回答者で若年層の占める割合が男性より大きかったことの反映と思われる(表8−1a参照)。

 年代別では(表8−1a)、「研究条件整備の検討」は年代が低いほど多く、「将来計画の立案」は年代が高いほど多かった。また、他のどの年代でも「将来計画の立案」が「現状・動向の分析」より高いスコアを示したが、20代ではこれが逆転した。

 身分別では(表8−1b)、ほとんどのグループで「研究条件整備の検討」が最多で、とくに技官・研究補助者、院生・研究生・学生、助手・研究員・ポスドク、助教授で高率を示した。教授、助教授がこれに次ぎ、研究機関研究者、臨床医、その他と減少し、臨床医、その他では「将来計画の立案」より少なくなって逆転した。「現状・動向の分析」が講師、臨床医で他に比べて多く、研究機関研究者で少なかった。

 研究領域によつて下記@−Cの相違が見られた(表8−1c)。

@「研究条件整備の検討」が内分泌・生殖生理、神経・脳生理、分子・細胞生理で特に多かった。
A他の8領域では「研究条件整備の検討」が最も多かったのに対し、栄養生理、血液・呼吸・循環・体液調節生理、環境・適応・協関生理、病態・臨床生理の4領域では「将来計画の立案」が最多であった。
B「関係学会との連絡調整」が心理生理、発生・成長・老化生理で他領域に比べて多かった。
C「シンポジウムの企画、実施」が環境・適応・協関生理、病態・臨床生理で他領域に比べて多かった。

表8‐1a 年代との相関(%)
表8‐1b 身分との相関(%)
表8‐1c 研究領域との相関(%)


8−2)「生理学研究連絡委員会が企画するシンポジウムとして:a.楽しく生きるための生理学、b.統合生物学としての生理学、c.生理科学に必要な新しい研究方法論、から選択を」について。

 男女、年代、身分、研究領域、それぞれの分類グループを通じて、「統合生物学としての生理学」の回答が最も多く、ほとんどのグループで50%を超えた。a、b、c3者の割合は、男女別、身分別ではグループによる大きな違いはなかった。年代別では、20代で他の年代より「楽しく生きるための生理学」が多く「生理科学に必要な新しい研究方法論」が少なかった他は、大きな違いはなかった(表省略)。

 これに対し研究領域との相関では(表8−2a)、どの領域でも「統合生物学としての生理学」が最多を占めたが、「統合生物学としての生理学」が筋生理、発生・成長・老化生理、心理生理で他分野に比べて少なく、「楽しく生きるための生理学」が東洋医学、栄養生理、環境・適応・協関生理、心理生理で多く、「生理科学に必要な新しい研究方法論」が分子・細胞生理、発生・成長・老化生理で多い、という領域による違いが明らかになった。

表8‐2a 研究領域との相関(%)


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.まとめ

1.回答者のバックグラウンド

 アンケート回答者の男女比は9:1であり、女性が極めて少なかった。(なお、生理学会における女性会員は12%である。)

 回答者の年齢構成は40歳以上が77%を占めており、若い人が極めて少なかった。これは生理学会では40歳以上の会員が60%以上を占めていることと、若い人からの回答が少なかったことが原因と思われる。

 医学部出身が約半数を占め、医学部出身ではないが医学部系大学院を出ている人を加えた医系出身者が60%を占めていた。

 アンケート回答者の身分構成は、教授が29%、助教授・講師が27%、助手・ポスドクなどの若手有給研究者が20%、臨床医が10%であった。一番大きな問題は院生などの研究者予備軍が3%と極めて少ない点にある。(なお、生理学会には臨時会員制度があり、臨時会員は本アンケートの対象者となっていない。)

 その他、生理学会員と神経科学学会員を兼ねている人の多いことが明らかとなった。

 また、生命科学に対する興味が生理学的研究を始める動機の大部分を占めていた。

2.生理学とその課題

 生理学の課題については、回答者の殆ど(77−93%)が学術会議生理学研究連絡委員会の報告書−”生理学の動向と展望「生命への統合」”−に提示された考えに「そのとおりである」と賛同していることが今回のアンケート解析から明らかになった。

1)報告書の「生理学は生体におけるさまざまなレベルでの機能とそのメカニズムを明らかにし、それらの個体および生命への統合を計る学問(統合生物学)である」という考えに回答者の93%が賛同し、「そうは思わない」と回答したのは僅か2%であり、「どちらともいえない」との回答を併せても7%に過ぎなかった。この回答の分布は男女、年代、身分、研究領域の違いによらずほとんど一様であり、賛成者が90%以下であったのは僅かに発生・成長・老化生理の領域群(88%)だけであった。

2)報告書の「分子生物学が著しく発展した今日、分子や細胞の機能を個体の生命へと統合する必要性がある」という考えに回答者の88%が賛同していた。賛同者は男女、年代、身分、研究領域の各群を通じて殆どが86%以上であったが、20代(83%)、分子・細胞生理領域(81%)で賛同者がやや少なかった。高い賛成率(93−96%)を示した領域は、発生・成長・老化生理、病態・臨床生理、栄養生理であった。

3)報告書の「生理学は、生体の仕組みを明らかにし、生命の摂理へと迫る学問であり、生命科学の基礎を与えると共に、地球的、社会的諸問題の解明の基盤をも与える役割を持つ」という考えに対しては、賛同者が77%と他の設問の場合よりやや低率であった。特に高い賛成率(92−93%)を示した領域は環境・適応・協関生理、東洋医学であった。

4)報告書の「人体生理学は、医学や医療の基礎科学として特に重要な研究領域であり、臨床医学に直結している」という考えに対しては、回答者の中の82%が賛同した。残り18%の中では、文の後半「臨床医学に直結している」を批判する意見が最も多かった。特に高い賛成率(90−93%)を示した領域は、病態・臨床生理、内分泌・生殖生理、東洋医学であった。

3.生理学研究の現状と展望

1)報告書の「新しい手法を用いた研究の推進により生理学研究の更なる展開が期待される」という考えに大多数87%の人が賛成した。この意見は男女別、年代別、身分別でみても同じであった。

 ここで記入されたコメントをまとめると以下のようになる:新しい手法を用いた研究により生理学研究は発展することが期待されるが、古いと考えられている研究手法も研究課題によっては十分に採り入れて研究を進める必要がある。また、研究手法は研究の手段であり、研究の独創性やアイデアが研究では大切で、研究手法のための研究となることには十分に注意しなくてはならない。研究手法の開発には、学会で討議する場を設けたり、関連分野、たとえば工学部などとの協力関係を構築していくことが必要と考えられた。

2)報告書の「基礎研究と応用研究の両方の要素を両立させるカテゴリーである戦略研究の展開が重要」という指摘には74%の人が賛成した。回答の分布に男女差はなく、研究領域では栄養生理学(87%)、内分泌・生殖生理学(86%)、発生・成長・老化(85%)で賛成が比較的多かった。

3)「重点的に取り組むべき研究領域」を3つ挙げるよう求めたのに対して、回答では神経・脳生理学(23%)、分子・細胞生理学(16%)、発生・成長・老化生理学(15%)が上位を占め、環境・適応・協関生理学(10%)、病態・臨床生理学(10%)がその後に続いた。これには性別、年代別、身分別による差はほとんど認められなかった。領域別では一般に自分の専門領域を挙げる率が高かったが、自分の領域を除いて集計しても、同じ結果が得られた。

4)回答者自身の研究について「現在の研究対象のレベル」を尋ねたのに対し、回答は個体レベル(31%)と細胞レベル(29%)が多く、以下、器官レベル(17%)、組織レベル(14%)、分子レベル(6%)と続いた。この分布に男女差はなく、年代別では20代、30代の若い層で、身分別では院生・学生・研究生で細胞レベル、分子レベルの研究が多くなっていた。

 「用いている研究手法」を尋ねたのに対する回答は、生理学研究の特徴でもある電気生理学的研究法(31%)が最多であり、これに生化学的、細胞生物学的、形態学的、非侵襲的手法(各12−10%)、分子生物学的手法(8%)、モデル・シミュレーション的手法(6%)が続き、様々な手法が用いられていることが明らかになった。これらの分布に男女差はないこと、20−30代の若い層で分子生物学、生化学の手法が増えていること、しかし電気生理の手法も多用されていること、などが明らかとなった。

 「将来の研究の大きな目標」を尋ねたのに対する回答は、統合機構の解明が最多(48%)で、病気の解明(24%)、生体機能の分子的理解(20%)、環境問題への貢献(5%)であった。これらの分布は性別で若干の違いがあり、年代別では20代で生体機能の分子的理解(30%)を挙げる人が多く、身分別では臨床医が他と違って当然ながら病気の解明(53%)を最も多く挙げていた。

5)「研究発表する学会」を尋ねたのに対する回答は、国内では生理学会と神経科学学会が、国外では北米神経科学会(Neuroscience Meeting)と国際生理学会(IUPS大会)が圧倒的に多かった。生理学会への参加の度合いを見ると、毎年参加が約半数、たまに参加が約4分の1、参加しないが約4分の1であった。

6)「自分自身の研究の世界でのレベル」の回答者の20%が世界の最高水準にあると答え、52%が自分自身の研究が世界最高水準かそれに近いと答えていた。両方を合わせると約70%が最高水準か、それには及ばないが近いと考えている事が判った。(アンケート返送者の中での回答率(約62%)を考慮しても、少なくともアンケート返送者の45%が自分自身の研究が世界最高水準かそれに近いと考えている。)そう考えている人たちは、40−50代(74−76%)、教授・助教授・助手層(78−82%)、分子・細胞生理(83%)や神経・脳生理(75%)の領域に多かった。

 「あなたの研究分野の国内全体のレベル」の回答者の82%が、自分の分野は世界の最高水準か、それには及ばないが近い、と答えた。

7)「日本生理学会の英文誌であるJpn. J. Physiology(JJP)への投稿頻度」を尋ねたのに対し、回答者の28%が投稿経験があると答え、72%が投稿したことがないと回答した。

 JJPについての意見は全回答者の8人に1人の割合で寄せられた。意見は少ないながらも異なった層全体から出されていた。それぞれの意見は具体的であり、貴重な提言が多かった。

4.研究者の現状と展望

1)報告書の「生理学会員は分子生物学会や生化学会、薬理学会の会員に比べ会員数も少なく、ここ10年間の増加率も低く伸び悩んでいる。特に若手研究者の参加が十分には得られていない事は憂慮される事態である」という指摘に対して、約72%が「そのとおりである」、9%が「そうは思わない」、と回答した。「そのとおりである」の回答の率は、東洋医学(100%)、発生・成長・老化生理学(86%)で多く、内分泌・生殖生理学(59%)、栄養生理学(62%)でやや少なかった。

 「若手研究者を生理学に引きつけるアイデア」を尋ねたのに対して25%が意見を述べ、「よい研究結果と、優れた生理学教育によって生理学を魅力的なものにする」、「若手を優遇する」、「生理学の面白さである生命への統合を強く打ち出す」、「臨床系などの他分野との繋がりを強める」などの貴重な指摘があった。

2)報告書の「女性の積極的な採用と、出産・育児に伴う職場からの離脱が不利にならないような制度の改善、周囲の理解が求められる」という指摘に対して、70%が「そのとおりである」、10%が「そうは思わない」と回答した。「そのとおりである」の回答率は、女性(87%)でより高く、年代別では30代(76%)、身分別では助手・研究員・ポスドクの層(77%)で高かった。研究領域別では、東洋医学(100%)、発生・成長・老化生理(86%)で高かった。

5.研究体制の現状と展望

 「どのような体制で研究しているか」を2つまでの複数回答で尋ねた。回答は、同じ組織内の小グループの共同研究が最多で70%、個人研究が50%、組織外との共同研究は国内他大学とが28%、学内とが19%、外国とが12%であった。回答の分布は男女別、年代別では大きな違いはなかったが、身分および領域によってかなり大きく相違した。個人研究は身分別では教授(33%)、院生・研究生・学生(44%)で少なく、講師(68%)、臨床医(65%)で多かった。領域別では個人研究が心理、筋、運動・体力、発生・成長・老化生理学で多く(いずれも約60%)、分子・細胞生理(39%)、環境・適応・協関生理(41%)で少なかった。また他グループとの共同研究は、年代別では50才代が最多(72%)で、20才代が最少(44%)であり、身分別では教授が最多(75%)で、院生・研究生・学生(36%)と臨床医(26%)で少なかった。研究領域別では分子・細胞生理が最多(79%)で、筋生理(43%)で最少であった。

1)報告書の「研究ユニットとしての講座制は新しい研究を開いていくには柔軟性に欠ける」という指摘に対して、「そのとおり」(47%)、「どちらともいえない」(32%)、「そうは思わない」(20%)という順序であった。回答の分布は教授群と非教授群で異なり、前者で「そのとおり」が少なく(34%)、「そうは思わない」が多かった(30%)。講座制に代わる組織とその長短など、研究体制について様々の意見が寄せられ、課題が示唆されたが、構成員、特にリーダーの資質・努力の重要性を指摘する意見が多かった。

2)報告書の「ポストドクター制を大幅に導入したり、外国人研究者の受け入れを容易にして、機能的な研究体制を取るべき」という提言に対して、78%が賛成、4%が反対と回答した。回答の分布は男女別、年代別、身分別でほとんど差がなかった。コメント欄では、ポストドクター終了後の就職問題、正式ポストの制度との整合性、などについて指摘があった。

 また「教官など正式ポストの任期制について」意見を尋ねたのに対し、回答者の60%が導入に賛成であった。ここでも、任期終了者の処遇についての問題など、多くの意見が述べられた。

4)報告書の「生理学研究所の充実を」という提言について、回答者の72%が賛成、11%が反対、17%がどちらともいえないという回答であった。回答の分布は男女別、年代別、身分別、研究領域別を通じてほぼ同様であった。

 生理学研究所についての意見を求めたのに対し、更に拡充・充実が必要、岡崎以外にも複数の設立が望ましい、研究はもっと重点的プロジェクトの重視を、分子から個体までを広くカバーを、などのコメントが10名以上から寄せられ、人事を含めてもっと開かれた運営をという注文も多かった(27名)。

5)報告書の「新たに統合生物学研究所の設立を」という提言について、回答者の49%が賛成、20%が反対、31%がどちらともいえない、という結果であった。回答の分布は男女別、年代別、身分別、研究領域別を通じてほぼ同様であった。

 この問題に対する意見としては、賛成または条件付賛成の意見(59名)が最も多かったが、理念が不鮮明(28名)、生理学研究所の拡充で十分(23名)、大学を含めた既存の組織の改組や充実化で対応可能(21名)などの意見も多かった。

6.研究費の現状と展望

1)報告書の「生理学分野の卓越した統合生物学的研究や戦略研究に重点的、長期的研究費の配分を望む」という提言に対して、賛成が67%、否とするもの13%、中立が20%であった。回答の分布に男女、年代による差は見られなかったが、身分別で賛成が臨床医に多く(79%)、助教授、講師にやや少なく(61−62%)、領域別で発生・成長・老化生理学(76%)、東洋医学(86%)に多く、分子・細胞生理学(59%)、筋生理学(59%)で少なかった。

2)報告書の「息の長い研究に基盤研究的研究費の安定的配分を行う」という提言に対しては、77%が賛成し、1)の提言に対してより賛成者が10%多かった。回答に男女、年代、身分による大きな差はなかった。領域別では賛成が栄養生理(93%)、発生・成長・老化生理(86%)で特に多かった。

3)「あなたの研究費の主な出所を2つ挙げて」に対する回答は、所属機関(講座費など)が(回答者の)66%、文部省科学研究費50%、民間19%、その他の文部省関連、厚生省、科学技術庁の合計20%であった。競争的研究資金としては、文部省科学研究費への依存度が圧倒的に高かった。また、文部省科学研究費への依存度は研究領域によってかなり大きな差があり、分子・細胞生理学、筋生理学、神経・脳生理学で高く、東洋医学、栄養生理学、病態・臨床生理学で低いことが判明した。

7.生理学教育の現状と展望


1)報告書の「初等学校から大学までの教育において、生理学の成果と視点をもっと取り入れるべきである」との考えに、73%が賛成、9%が反対、19%が保留であった。男女、年代、身分、領域による大きな差は認められなかったが、賛成が30才代、分子・細胞生理学領域でやや少なく(60%台)、環境・適応・協関生理学、発生・成長・老化生理学、栄養生理学で多かった(80%台)。全体の賛成は多かったものの、記入された意見では、具体的には種々の問題点があることが指摘された。

2)報告書の「医系大学のみならず、理系大学においても分子からヒトヘの統合という視点からの生理学教育、人体生理学の教育が必要である」という考えに、74%が賛成、10%が反対、16%が保留であった。男女、年代、身分、領域による大きな差は認められなかったが、賛成が30才代、講師、内分泌・生殖生理学領域でやや少なく(60%台)、栄養生理学、心理生理学で多かった(90%以上)。意見の記述では、上記の考えに賛同する多くの意見のほか、その教育が必要か疑問、医系の独善になるおそれがある、実現性に問題がある、などの批判も多数あった。

3)報告書の「医科大学においては人体生理学に加えて、更に臨床に直結した病態生理学教育を行う必要がある」という考えに、74%が賛成、8%が反対、18%が保留であった。男女、年代、身分、領域による大きな差は認められなかったが、賛成が20代で少なく(57%)、臨床医で多く(91%)、血液・呼吸・循環・体液調節生理学、病態・臨床生理学、東洋医学で多く(87%以上)、筋生理学、環境・適応・協関生理学で少なかった(60%台)。この問題については、病態生理学教育を行う必要性、重要性の視点からの意見と、臨床に直結した病態生理学教育を行うことの問題点または否定的側面からの意見と、双方の意見が多く寄せられた。

4)報告書の「大学院において人材を確保し、初等・中等・高等学校教育および文系、理系大学の生理学教育に関る教育者を育成・供給する必要がある」との考えには、賛成の割合が少なく(66%)、反対11%、保留22%であった。賛成の割合は相対的に女性、30才代、講師で少なかった(60%以下)。提言を推進すべきとの視点からの意見と、疑問や問題点があるとの視点からの意見と、両方の意見が多数述べられた。

5)報告書の「生理学研究に参入する人材を確保するため医学部でMD/PhDコースを導入する」という考えに、57%が賛成、16%が反対、27%が保留であった。この分布に男女、年代、身分による大きな差は認められなかった。筋生理領域で賛成が多く(83%)、東洋医学、心理生理、分子・細胞生理で少なかった(40%台)。寄せられた意見は、医学部に限定することは問題、米国でも成功していない、現行のシステムを生かせ等、MD/PhDコース導入に否定的な視点からのものが多かった。

6)報告書の「生理学教育を担当する人材を確保するため女性生理学者の登用、定年退職した生理学者の再雇用、外国人生理学者の雇用促進をする」という考えに対して、47%が賛成、20%が反対、33%が保留と、本アンケートを通じて賛成者が最少、非賛同者が最多であった。賛成が平均より特に少ない(40%未満)のは助教授層、分子・細胞生理学、筋生理学、内分泌・生殖生理学領域であり、特に多い(60%以上)のは60才代以上、院生・研究生・学生層、心理生理学領域であった。記された意見は、女性蔑視の考えである、退職者の再雇用に反対(男女、年代、身分、領域に共通した意見)、性別や年齢にこだわらず能力と実績で公平に、女性の登用に賛成、など様々であった。

7)報告書の「初等・中等及び高等教育における生物学や保健体育の教科書の編纂に生理学者が関与することが重要である」という考えに、72%が賛成、8%が反対、20%が保留であった。この分布に性別、年代、身分による差はなかった。領域別では、心理生理、筋生理、栄養生理の分野から賛成が多かった(約90%)。記された意見は、生理学が取り入れられるのは当然、積極的に推進すべき、高校の教科書に生理学はすでに入っている、教育方法の提案、など様々であった。

8.日本学術会議生理学研究連絡委員会(生理研連)の活動

1)「生理学研連が力を入れるべき活動」を尋ねたのに対し、回答は、研究条件整備の検討(44%)、将来計画の立案(32%)、現状・動向の分析(16%)、関係学会との連絡調整(4%)、シンポジウムの企画実施(3%)、その他(2%)で、上位3者が90%以上を占めた。その他としては、研究費の獲得、研究評価の基準作成・実施、生理学教育の普及、若手研究者の支援、などが提案された。

 回答は男女間では差がなかったが、年代、身分、研究領域によって下記の違いが見られた。(1)年代別では、「研究条件整備の検討」は年代が低いほど多く、「将来計画の立案」は年代が高いほど多かった。(2)身分別では、「研究条件整備の検討」が助手・ポスドクの群、院生ほかの群、助教授で、「将来計画の立案」が研究機関研究員、臨床医で、「現状・動向の分析」が講師、臨床医で、他に比べて多かった。(3)研究領域による違いは他に比べて大であった。主な違いは、a)「研究条件整備の検討」が内分泌・生殖生理、神経・脳生理、分子・細胞生理でとくに多かった、b)他の8領域では「研究条件整備の検討」が最も多かったのに対し、栄養生理、血液・呼吸・循環・体液調節生理、環境・適応・協関生理、病態・臨床生理の4領域では「将来計画の立案」が最多であった、c)「関係学会との連絡調整」が発生・成長・老化生理、心理生理で他領域に比べて多かった、d)「シンポジウムの企画、実施」が環境・適応・協関生理、病態・臨床生理で他領域に比べて多かった。

2)「生理学研究連絡委員会が企画するシンポジウムのテーマ」について尋ねたのに対し、設問の3案中「統合生物学としての生理学」が過半数(54%)を占め、「楽しく生きるための生理学」と「生理科学に必要な新しい方法論」が同数(23%)、という結果であった。

 回答の分布は性別、年齢、身分によって大差はなかった。研究領域によっては相違し、a)「統合生物学としての生理学」が筋生理、発生・成長・老化生理、心理生理で他領域に比べて少ない、b)「楽しく生きるための生理学」が環境・適応・協関生理、心理生理、東洋医学で多い、c)「生理科学に必要な新しい研究方法論」が分子・細胞生理、発生・成長・老化生理で多い、などの領域の特徴が表れた。

 記された意見は、設問で挙げたテーマ「統合生物学」に関する意見とシンポジウムのテーマの提案が主で、健康、食など人体生理学に関するテーマと、生理学の普及に関するテーマが多く提案された。そのほか、環境問題と生理学、進化論と生理学、生命の哲学・方法論と生理学など、様々な視点からのテーマが提案された。

9.今回のアンケートについて

「今回のアンケートについて」意見を求めたのに対して、138名(回答者の約8分の1)が意見を寄せた。意見は大きく次の3群に分けられた。

1)今回の調査に対する全体的意見:肯定的な意見と否定的な意見の両方があった。肯定的な意見は、有意義、近年にない調査である、今後の課題の認識に役立つ、問題点を考えさせる設問が多い、現状の把握に賛同する、報告書を読む契機になった、このアンケートが生理学の発展に役立つことを期待する、などであった。

 否定的な意見は、アンケートでは重要な考えが出ない、個人の詳しい意見が大切、数の原理の悪用につながる、官僚的で無駄、報告書の自己満足のためのデータ集めである、調査の意図が不明、などであった。

2)アンケートの内容に対する意見:全般に医学部基礎の生理学を中心にし過ぎで他の分野をあまり考慮していないという批判が多くあり、臨床、生物系、医療系、企業等の人にとって答え難い、また配慮のない設問が多い、もっと広い視点から生理学を見る必要がある、などの指摘があった。その他、生理学の成果をもっと前向きに捉える視点が必要、生理学の発展の現状に乗り遅れている、内容に斬新なものがない、答えるのが難しい問題が多い、研究費の配分についての調査が欲しかった、などの意見があった。

 アンケートの技術面について、表現が固く難しい、設問がぎこちない、項目が多過ぎる、短く簡単にしないと反応が悪い−アンケート法を検討せよ、多少誘導的である、などの意見があった。

3)調査結果の扱いと今後の行動に関する意見:報告書の作成を期待する、集計結果を公表してフィードバックするよう、という意見が多数あった。また、集計に当たっては、多肢選択の回答だけでなく重要な少数意見も取り上げるよう、などの意見があった。

 アンケートの結果を実際に生かすよう行動を求める意見も多くあった。アンケートだけに終わらずに具体的方策に結びつけて欲しい、「統合生物学としての生理学」の観点が大きな流れになるよう活動を起こして欲しい、学会の将来計画に活用することを期待する、などから、集計・報告に止まって具体的な改革が実行されなければ意味がない、という強い意見まであった。

 また、これに終わらず今回のようなアンケートを定期的に実施するとよいという意見があった。

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