物性研究拠点整備計画の具体化に向けて
「物理学研究連絡委員会物性物理専門委員会報告」
平成12年5月29日
日本学術会議
物理学研究連絡委員会物性物理専門委員会
この報告は、第17期日本学術会議物理学研究連絡委員会・物性物理専門委員会の審議結果を取りまとめて発表するものである
物理学研究連絡委員会・物性物理専門委員会
委員長 興地斐男(和歌山工業高等専門学校校長)
幹 事 斯波弘行(東京工業大学大学院理工学研究科教授)
幹 事 西田信彦(東京工業大学大学院理工学研究科教授)
幹 事 本河光博(東北大学金属材料研究所教授)
秋光 純(青山学院大学理工学部教授)
石黒武彦(京都大学大学院理学研究科教授)
遠藤康夫(東北大学金属材料研究所教授)
巨海玄道(九州大学理学部教授)
上坪宏道(高輝度光科学研究センター副理事長)
北原和夫(国際基督教大学理学部教授)
櫛田孝司(奈良先端技術大学教授)
合田正毅(新潟大学工学部教授)
鈴木治彦(金沢大学理学部教授)
関本 謙(京都大学基礎物理学研究所教授)
張紀久夫(大阪大学大学院基礎工学研究科教授)
長岡洋介(日本学術会議第4部会員 関西大学工学部教授)
福山秀敏(東京大学物性研究所所長)
三浦 登(東京大学物性研究所教授)
目片 守(福井大学工学部教授)
安岡弘志(日本原子力研究所先端基礎研究センター長)
山田耕筰(京都大学大学院理学研究科教授)
要 旨
(1)作成の背景
第16期日本学術会議物理学研究連絡委員会からの対外報告「物性研究拠点整備計画」(拠点計画)を推進するための具体案作りが第17期の懸案になっていた。第17期物性物理専門委員会は、各地の大学・研究機関の研究者と意見を交換しながら検討を進め、以下の結論に達した。
(2)現状及び問題点
物性研究は、その性格上、大型設備のみならず中、小型設備を欠かすことが出来ない。大型設備の整備計画についてはこれまでにある程度の議論があったが、中・小型設備はその重要性にも拘らず、日本全体でどう配備するのがよいか、については十分な検討がなかった。
(3)改善策、提言等の内容
日本の物性研究の質を高めるには、中・小型実験設備を充実させ、それを有効利用すべきである。国内には活発に物性研究を行っている研究機関が全国的に分布するので、その中から地域性と大学の特色を考慮して選んだ研究拠点に、特色ある中・小型設備を早期に整備し、それを研究者が共同利用する体制(これをネットワークと呼ぶ)を作るのがよい、というのが結論である。日本の研究者の層の厚さを考えれば、中・小型設備は複数の機関に互いに相補的役割を果たすよう配備するのが望ましい。中型設備の内、超強磁場設備は、その予算規模からみて、既存の施設が互いに連携して、先端的研究と共に、全国の研究者に施設の利用サービスを行う組織作りを行うよう提言する。新物質開発、光物質科学、極低温など物性研究の様々な中・小型実験設備、複数の研究機関が纏まっていくつかの研究分野をカバーする少数の「地域の中心となるセンター」と、それに比べればやや小さいが、特徴ある研究を行っている相当数の研究機関を「研究拠点」として整備すべきである。この観点から、研究者の自発性と地域性に配慮して「センター」や「研究拠点」の候補を選んだ。このような「拠点」を共同利用することが研究者にとって有益であり、財源の効率的利用にもなると信ずる。共同利用の経費が付くのが望ましいが、スタートの段階でぼ科研費の効率的な使用などが考えられる。
なお、大型設備の内の懸案事項の中性子散乱実験施設については、大強度陽子加速器計画を全面的に支援し、その中の大型パルス中性子散乱研究施設の早期の完成を希望する。また、放射光利用研究については、文部省加速器部会の検討会で出された結論に従って、東大の計画を全国共同利用の軟X線・極紫外線光源として最優先で実現すべきであり、万一それの早期実現が困難な場合は、施設実現の緊急性に鑑み、東北大計画の具体化を図られることを希望する。
目次
要 旨
1.はじめに
2.研究拠点整備の現状と問題点
2−1.大型施設整備について
2−2.中・小型設備の整備について
2−3.国際研究センターについて
3.提言
3−1.大型施設整備について
3−2.中・小型設備の整備について
3−3.研究組織のネットワークの構築について
3−4.国際研究センター構想について
添付資料
(1)別表
(2)研究拠点地図
(3)研究センター・拠点概要
第16期学術会議・物理学研究連絡委員会からの対外報告「物性研究拠点整備計画」(拠点計画)を推進するための具体案作りが第17期の懸案になっていた。第17期物性物理専門委員会は、各地の大学・研究機関の研究者と意見を交換しながら検討を進め、以下の結論に達した。
物性研究は、その性格上、大型設備のみならず中、小型設備を欠かすことが出来ない。大型設備の整備計画についてはこれまでにある程度の議論があったが、中・小型設備はその重要性にも拘らず、日本全体でどう配備するのがよいか、については十分な検討がなかった。
日本の物性研究の質を高めるには、中・小型実験設備を充実させ、それを有効利用すべきである、国内には活発に物性研究を行っている研究機関が全国的に分布するので、その中から地域性と大学の特色を考慮して選んだ研究拠点に、特色ある中・小型設備を早期に整備し、それを研究者が共同利用する体制(これをネットワークと呼ぶ)を作るのがよい、というのが結論である。日本の研究者の層の厚さを考えれば、中・小型設備は複数の機関に互いに相補的役割を果たすよう配備するのが望ましい。
中型設備の内、超強磁場設備は、その予算規模からみて、既存の施設が互いに連携して、先端的研究と共に、全国の研究者に施設の利用サービスを行う組織作りを行うよう提言する。新物質開発、光物質科学、極低温など物性研究の様々な中・小型実験設備は、複数の研究機関が纏まっていくつかの研究分野をカバーする少数の「地域の中心となるセンター」と、それに比べればやや小さいが、特徴ある研究を行っている相当数の研究機関を「研究拠点」として整備すべきである。この観点から、研究者の自発性と地域性に配慮して「研究センター」や「研究拠点」の候補を選んだ。このような「拠点」を共同利用することが研究者にとって有益であり、財源の効率的利用にもなると信ずる。共同利用の経費が付くのが望ましいが、スタートの段階では科研費の効率的な使用などが考えられる。
なお、大型設備の内の懸案事項の中性子散乱実験施設については、大強度陽子加速器計画を全面的に支援し、その中の大型パルス中性子散乱研究施設の早期の完成を希望する。また、放射光利用研究については、文部省加速器部会の検討会で出された結論に従って、東大の計画を全国共同利用の軟X線・極紫外線光源として最優先で実現すべきであり、万一それの早期実現が困難な場合は、施設実現の緊急性に鑑み、東北大計画の具体化を図られることを希望する。
1.はじめに
第16期日本学術会議物理学研究連絡委員会(物研連)は対外報告「物性研究拠点整備計画」(拠点計画)を発表し、物性研究推進のための研究拠点の整備とそれを結ぶネットワークの構築を提言した。それを受けて、計画実現に向けた具体案の策定が今期物性物理専門委員会に与えられた課題である。本委員会は、各地の大学・研究機関の研究者と意見を交換しながら審議を進めてきたが、ここに結論を得たので報告する。
はじめに、物性研究の持つ特殊な性格について述べておきたい。物性研究は、新しい物質を合成し、様々な実験手段を駆使して、その物質に「固有の性質」を解明し、それを通じて物質を支配する「普遍的法則」を明らかにすることを目指す学問分野である。実験手段としては大型から小型まで、様々な実験設備を総合的に利用する必要がある。
大型設備としては、中性子利用施設、高輝度放射光源施設などがある。大型設備は能力の高さがそれを用いた研究の成果の質に直結する。また、強磁場、超高圧、極低温などの極限的条件下での精密な実験が必要であり、良質の試料が不可欠である。そのためには高度な実験設備が必要となるが、その規模は中型から小型となる。しかし、各研究グループが必要な装置をすべて自前でもつことは、有限な研究資源の最適利用という観点から見て望ましいとはいえず、また現実的でもない。利用可能な設備があれば、それを用いて高水準の研究が可能になる。経験と実績をもつ研究機関を研究拠点と位置付け、そこに高度な実験設備を整備し、それを多くの研究者が効率的に利用できる体制(ネットワーク)を構築することが、物性研究に最も適している。
このような観点から、物性研究者は古くから「物性研究施設群構想」、「国分寺構想」の検討を続けてきた。第16期物理学研究連絡委員会の「拠点計画」はこれを一歩進めたものであった。「拠点計画」発表後、科学技術基本法のもとに策定された「科学技術基本計画」にしたがって科学研究費の増額、COEの整備などの施策が進められている。これは研究拠点の整備に向けた大きな前進であり、高く評価される。しかし、それにも拘わらず、現状には問題点も少なくない。本報告ではそのことを指摘すると共に、「拠点計画」の実現に向けて具体案を提言するものである。
2.研究拠点整備の現状と問題点
2−1.大型施設整備について
素粒子・原子核あるいは宇宙(線)・天文等の物理学研究に匹敵する大型予算を必要とする物性物理学研究が「物性物理大型研究」であり、中性子散乱研究、放射光研究がこれに該当する。さらに最近ではミュオンによる物性研究も第3の大型研究分野として中性子散乱研究と連動して将来計画が検討されている。
中性子・ミュオン利用については、現在概算要求が文部省に出されている「大型ハードロン計画」と科学技術庁(科技庁)に出されている「中性子科学センター計画」との調整作業が進み、新しく日本原子力研究所(原研)東海研究所の敷地内に大強度陽子加速器とその利用施設を建設する「統合計画案」が浮上し、両省庁の担当課と高エネルギー加速器研究機構(高エ研)、原研との協力で精力的に予算要求作業が進められている。この計画は2001年の文部省、科技庁合併後の大型研究計画を先取りした画期的な計画である。長年懸案であった大型パルス中性子散乱研究計画がこの統合計画の中核を成しており、また中性子利用とミュオン利用の複合した実験施設が計画されている。本委員会はこの全体計画の早期実現を強く期待する。
「中性子・ミュオン利用施設」は非常に広い分野の研究者の研究を支えるものであり、その施設の利用形態は多岐に亙るという特徴を持っている。施設が大きくなればなるほど、また、施設が先端化すればするほど、一粒子当たりの中性子・ミュオンの価格が上がり、それに見合う投資効果は厳しく査定されなければならない。施設建設の成功には、巨額の投資に適わしい研究成果を産み出すことを可能にする環境づくり、すなわち適切な施設運用形態の実現が必要不可欠である。十分な検討の上に新しい利用体制を構築することが望まれる。文部省と科技庁との緊密な協力関係の下に新しい「統合計画」が成功することを強く期待して、今後とも、施設建設の準備段階から、完成後の研究施設運営体制の確立に至るまで、終始注視し、また必要に応じて協力、提言を行いたいと考える。
放射光研究については、現存する文部省の高エ研物質構造科学研究所・放射光研究施設(PF)と科技庁のSPring-8の2大施設の有効利用が重要事項である。特に後者は世界を代表する先端的大型X線放射光施設であり、省庁統合後の大型施設に適わしい世界的に注目される研究成果が出されることが強く求められる。
放射光研究者の目下の最大関心事である軟X線・極紫外線光源計画については本委員会においても長年議論されてきた。最近、文部省学術審議会加速器部会の放射光関連の専門委員ならびに放射光施設関係者よりなる検討会において、東京大学計画、東北大学計画の比較検討が行われ、次のように結論された。
「最先端性能を有する全国共同利用施設の実現が緊急課題であるとの認識の上に立って、東京大学計画が全国共同利用の軟X線・極紫外線光源として相応しい計画であり、指摘された事項の検討を行い最優先で実現されるべきである。しかしながら諸般の事情に依つて東京大学計画の早期実現が難しい場合には、軟X線・極紫外線放射光施設実現の緊急性に鑑み、また国際競争力の低下をもたらさないために、検討会で指摘された事項も考慮した上で東北大学計画の具体化を図ることが望ましい。」
本委員会はこの結論を支持し、長年の懸案である新しい軟X線・極紫外線高輝度光源建設の早期実現に最大級の支援を行いたいと考える。
2−2.中・小型設備の整備について
この報告書は「拠点計画」を受けて、特に各研究拠点における設備整備の計画の検討と、その計画の実現化への支援、および全国的な共同利用のための推進案(これを狭義のネットワーク化案と位置づける)の提案が中心をなす。「拠点計画」では物性物理研究の分野ごとに細かく現状分析を行い、それを基にしたネットワーク化構築を提言した。つまり「拠点計画」は理学の内の物性物理、大学間という枠内の検討であり、この意味で限定的な研究ネットワーク化でもあった。
すでに述べたように、物性研究は素粒子物理学と異なり、大型設備ばかりでなく、中・小型設備による研究が重要であり、そこでは研究における研究者の個性が大切にされなくてはならない。一方、研究の高度化には最先端の実験設備のネットワーク化が必要である。この二つの関係をどうしたらよいか、が最も難しい点である。
本委員会は「拠点計画」の具体案構築のために、分野を横断するネットワークの重要拠点候補を選定した。現時点における研究拠点候補名は別表にまとめてある。
物性物理の全国共同利用体制は、これまで東京大学物性研究所(物性研)を中心にまとまってきたが、今後もその体制は揺らぐことがないと考えられる。この意味で、物性研の役割は重要である。本委員会は第16期から引き続いて物性研の柏移転に関わる共同利用の高度化について検討を進めた。それに基づき、物性研では柏移転に伴い、より高い水準のCOEを目指して諸設備や研究環境整備のための予算を要求した。しかし結果的には、現状設備の更新に重点を置いた予算配分に止まっている。移転進行後の新しい動きとして、外部評価委員も加わった重点研究分野の将来展望とその中で世界のCOEとして物性研に期待する役割を議論する短期研究会シリーズが行われている。本委員会は物性研のこの取り組みを積極的に支援すべきものと考える。
極限環境物性関連設備の中で、強磁場施設に関しては、上述の物性研と大阪大学極限科学センターにパルス磁場があり、東北大学金属材料研究所と科技庁・金属材料技術研究所に定常強磁場がある。物性研は破壊型ではあるが100テスラ以上を、大阪大学は非破壊で80テスラを供給し、ともにその特徴を出している。東北大学は31テスラの定常磁場を発生する全国共同利用施設で、利用者に対するきめ細かい配慮と長年の実績によって全国の利用者から高い信頼を得ている。金属材料技術研究所は35テスラを供給し、現在は共同利用に供していないが、基礎研究の共同利用を視野に入れた運営を目指している。日本の強磁場下の物性研究は国際的に高く評価されており、限られた予算規模や研究者人数を考慮すると、米国や欧州に比べて高いレベルを保っているといえる。しかし、近年欧米の追随が激しく、より一層の研究支援の充実が必要である。そのためにこれらの強磁場施設が強力なネットワークを組み、互いに相補的な役割分担を明確にしなければならない。施設の研究者は自ら世界をリードする研究を行うとともに、利用者に対しても高水準の研究を進める指針を与えるネットワークを構築し、利用者間の情報交換と共に若手研究者の育成を進めることが緊急の課題である。すでに情報交換誌の発刊が予定されている。
光物性・レーザー分光分野におけるわが国の研究水準は実験・理論ともに高く、研究者人口も多い。これには1970年代の物性研による牽引効果が大きく貢献しているが、物性研の分光部門の主力はその後光源開発を主眼とするプロジェクト型研究に移行した。一方、レーザー技術は著しい進歩をとげ、市販のレーザーを用いた分光研究はごく一般的なものになり、先端的な分光研究にはレーザー装置を中心とするより高度な設備が必需品になってきている。さらにこの分野は、量子エレクトロニクスや化学・生物との境界領域への分野の拡大も顕著であり、分野間の連帯の重要性も増している。しかし、このような高度な分光設備は中規模のプロジェクト研究ではじめて用意できるものであり、個々の研究室で維持する規模を越えている。全国に広がる研究者の高い水準を維持し発展させるためには、「物質と光の相互制御」などの新しい視点をも取り入れた機動力のある分光拠点を全国に数カ所設け、それらと物性研を中心にネットワークを構築して多数の研究者がそれぞれの研究に活かせるようにすることが急務である。
今期に入っての大きな環境変化は省庁合併の政府決定に伴う国立大学・研究所の独立行政法人化(独法化)問題である。最終的な体制は未定であるが、本委員会では独法化が全国共同利用研究所(共同利用研)の在り方に少なからぬ悪影響をもたらすのではないかと憂慮する意見が多く出された。国立基幹大学の附置研究所(東大物性研、京大基研、東北大金研など)の全国共同利用の物性研究に果たしてきた役割は大きいものがあり、日本の物性研究はこれらの共同利用研究所によって支えられてきたところがかなりある。その現行制度が大きく後退することを全国の研究者は心配している。独法化によって各大学の自由裁量の巾が広がり、独自性を持つことが要求される結果、全国の研究者の共同利用、施設利用の切り捨てが起るのではないか、日本の物性研究のレベルが低下するのではないか、等の心配である。このような外部の研究者の要望と共同利用研究所を持つ大学の体制とを矛盾なく統合させる方策が取られることを強く希望する。
前期の「拠点計画」報告が出た時と前後して大型の競争的研究資金が文部省、科技庁、通産省などから直轄研や大学に投資された。これは、前向きにとらえれば、物性研究者が提案していた「拠点計画」が一部実現されたと見ることができる。しかし、研究支援期間が5年以下と短かく、設備は入るものの維持費が付かない、などの問題点が浮き彫りになって来ている。一つの現実的な改善策は、これを核にして「拠点計画」を実現する方向に努力することであろう。このような「拠点」は、まずは、学内センターを目指すことになるが、それは重要なステップである。それを核にして全国に研究センターや研究拠点を整備し、研究環境の前進を図ることができるであろう。
また、前期までの状況と比べると科研費等がかなり増額されており、この面で研究者の長年の希望は満たされつつあることも評価しなければならない。同時に、科研費の場合も、アメリカやドイツなどの諸外国と比べ、期間が極めて短く、常に申請しなければならず、現状では研究費を十分生かすのが難しい。しかし、科研費の制度は年々変化しており、長期的な視点で制度の改善を要求すれば、それが実現する可能性はある。
このような研究者をめぐる最近の環境の中で、ネットワークをどう構築したらよいか、どのように維持できるか、共同利用できる環境をどうしたら実現できるか、という困難な問題に直面している。状況に不確定要素があり、本委員会としても完全な結論には到達していない。しかし、研究費の増加など、明かにプラスヘの変化もあるので、それを足掛りに、引き続き「拠点計画」の実現へ向けて検討が必要である。
また、物性研究においては理学的基礎研究と応用研究がつながっおり、この傾向は今後強まると予想される。したがって、物性研究者の範囲をどう定義するかについても問題が残されている。これに関係して、国立(政府)研究所、文部省直轄研究所さらに特殊法人研究所との連携は将来重要な課題となることは必須ではあるが、具体的な施策を検討するまでには至っていない。この問題は引き続き状況を注視して、来期以後の物性物理専門委員会で本格的な議論がなされることを期待する。
2−3.国際研究センターについて
物性物理研究に関連した分野の国際研究センター設置については、物性研自身を国際研究センターと位置付ける案から物性研の中に新設する「物性物理国際研究センター」構想に至るまで、種々な角度から検討された。現在、国際研究センターとして、世界中にいくつか存在する同種の研究所はすべて「理論」の研究所であるが、本来、物性物理は多彩な現象を研究する分野であり、理論、実験を区別することは望ましくない。この意味で理論と実験の両方の規模をもつ新しいセンターの設置が理想である。しかし、諸条件を考慮すれば、その前に踏むべきステップとして、既存の物性研を始めとする共同利用研究機関を最大限に活用し、徐々に国際化するのが妥当であると思われる。
3.提言
3−1.大型施設の整備について
文部省・科技庁の統合時代を迎えて、将来の大型の研究施設建設や施設運営は大きく変貌すると思われる。しかし、新しい研究体制の確立には相当の紆余曲折が予想されるので、本委員会は物性研究者の理想とする研究体制が生まれるように、学術会議を通じて関係諸機関に研究者の声を伝えていく必要がある。
中性子散乱研究・ミュオン利用物性研究については、本委員会は、現在文部省・科技庁の協力のもとに概算要求に向けて準備されている大強度陽子加速器計画を全面的に支援し、本計画の中に含まれる大型パルス中性子散乱研究施設ならびにミュオン利用研究施設の早期の完成を待望する。このパルス中性子散乱研究施設は世界第一級の高性能の中性子源を最大限に利用することを目標にしている。ミュオン利用研究施設では超低速ミュオン、超高強度ミュオンなどを含む独自性のあるパルスミュオン源を用いて広範な領域に亘る研究を目指している。本委員会はこれらの目標に適わしい研究成果を産む研究環境が整備されることを希望し、今後ともこの計画に対する強い関心をもち、最大限の支援を行っていきたい。
放射光利用研究については、文部省加速器部会の放射光関連の専門委員と放射光施設関係者よりなる検討会で出された提言(既述、6、7ページ)に基づいて、本委員会は長年の懸案である新しい軟X線・極紫外線高輝度光源建設が早期に実現されるよう、最大限の支援を行って行きたい。
3−2.中・小型装置の整備について
今期の計画策定の最大の目標は、活発な物性研究を行っている研究機関を研究拠点と位置付けて、中・小型設備の整備の早期実現に向けて、これを物性研究者のグループとして支援するための資料を提供することである。本委員会は次のように考える。
超強磁場施設、スーパーコンピュータ等は設備利用を希望する研究分野は広いものの、その予算規模や専門性を考慮すると、全国に少数の施設があればそれを活用することによって十分に研究者の要求を充たし、高水準の研究成果を得ることができると考えられる。したがって、このような設備を持つ研究施設は互いに連携しあい、世界のトップクラスを目標に先端的研究に取り組む一方で、連携しながら全国の研究者に施設の利用サービスを行う組織作りをするよう提言する。
その他の極低温をはじめとする特殊な環境下の物性研究や物質開発などの研究設備は、物性研究の特徴を生かすために、全国的に数多くの拠点を設置するべきである。すなわち、「設備が小さくなるほどその数は多く」ということであり、これは誰もが受け入れる見方であろう。その内で、一つの大学の中で複数の研究組織がまとまって異なる研究分野を包含し、ややサイズの大きな研究施設建設を準備している計画については、それらを地域研究拠点の中核と位置付け、支援したい。
本提案で取り上げた整備計画の支援候補に挙がっている地域研究拠点が設立された暁には、共同利用経費を獲得して地域の共同利用サービスを行うのが理想である。しかし、最初の段階としては、利用のための旅費などについて科研費との組み合わせなど様々な可能性を追及すべきであろう。この点については来期以後の物性物理専門委員会において検討が続けられることを期待する。
3−3.研究組織のネットワークの構築について
省庁統合、独法人化など「拠点計画」で想定されていた研究環境は大きく変化しつつある。さらに、すでに述べたように、物性研究において基礎研究と応用研究のつながりはますます強くなり、研究分野が広がっている。研究費の流れも変化し、今後一層変化することが予想される。しかし、最初に述べたように、物性研究は基本的に大型から小型までの設備を活用した総合的な実験・理論研究体制が最も適わしい分野であることに変わりはない。このような環境の変化を取り入れた物性研究者のための「ネットワーク」構築の重要性はいよいよ増している。そのために本委員会は各地の大学・研究機関の研究者と意見を交換しながら、研究分野間での研究情報の交換を促し、物性研究の将来性豊かな研究課題を練り上げるための中心的な役割を果たす必要がある。また、個々の研究分野内での設備や研究上の緊密な情報交換によって、連携と競争を核にした新しい研究の流れを産み出す日常の研究活動を支援しなければならない。本委員会はこれを「情報交換のネットワーク構築」として、その早期の実現のための努力を続けなければならない。
3−4.国際研究センター構想について
東大物性研究所に対しては、さらに国際化に向けて努力するように要望する。具体的には従来の「全国共同利用」を発展させ「国際共同利用」を目指して、運営を変えることも必要であろう。また、外国人客員(第3種)を備えたり、研究所として一定数の外国人ポスドクを確保するための具体案を追求するべきである。
添付資料
(1)別表
(2)研究拠点地図
(3)研究センター・拠点概要
(1)別表
@既に大型予算によるプロジェクト研究等で研究成果を上げているいくつかの研究拠点を将来「地域共同利用研究センター」として地域の中心となる発展を期待する。
名古屋大学・極低温環境・超小型放射光−物性開発センター
名大・理 佐藤正俊(提案責任者)
大阪大学・学際融合科学センター 阪大・基礎工 北岡良雄(提案責任者)
広島大学・物質科学研究地域センター 広島大・先端 藤田敏三(提案責任者)
九州地区・物性研究センター 九大・理 小田垣孝(提案責任者)
A特徴のある設備を持つ研究機関を「共同利用を含む研究拠点」と位置づけて、それらを結ぶネットワーク構築を目指す。
北海道地区・先端物質科学研究ネットワーク
北大・理 熊谷健一(提案責任者)
東北大学・物質創製研究拠点 東北大・理 豊田直樹(提案責年者)
東北大学・先端光学研究拠点 東北大・科研 岡 泰夫(提案責任者)
つくば地区・コヒーレント・コントロール・サイエンス研究拠点
筑波大・物工 舛本泰章(提案責任者)
新潟大学・物質量子科学研究センター 新潟大・自然 後藤輝孝(提案責任者)
東京工業大学・極低温物性研究センター 東工大・理工 西田信彦(提案責任者)
東京工業大学・光科学研究センター 東工大・理工 腰原伸也(提案責任者)
東京大学・強相関系電子構造研究センター
東大・新領域 藤森 淳(提案責任者)
青山学院大学・先端技術開発研究センター
青山学院大学・理工 秋光 純(提案責任者)
金沢大学・極低温物質解析研究センター 金沢大・理 鈴木治彦(提案責任者)
京都大学・強相関電子物性/デバイス研究センター
京大・化研 高野幹夫(提案責任者)
京都大学・物質科学研究拠点(低温及び先端光基礎科学)
京大・理 水崎隆雄(提案責任者)
京大・理 薮崎 努(提案責任者)
大阪市立大学・極限環境凝縮系研究拠点 大阪市大・理 畑 徹(提案責任者)
神戸大学・光量子物性研究センター 神戸大・自然 難波孝夫(提案責任者)
(2)研究拠点地図
Copyright 2002 SCIENCE COUNCIL OF JAPAN