理学(基礎科学)研究の振興について

「日本学術会議第4部会報告」

平成12年3月27日

日本学術会議 第4部会


 この報告は、第17期日本学術会議 第4部会の審議結果を取りまとめて発表するものである。

第4部会

部長  和田昭允  理化学研究所ゲノム科学総合研究センター所長
副部長 大瀧仁志  立命館大学理工学部教授
幹事  鎮西清高  大阪学院大学法学部教授
幹事  土居範久  慶應義塾大学理工学部教授
    ヨ木謙一郎 東北大学名誉教授
    赤岩英夫  群馬大学学長
    荒牧重雄  日本大学文理学部教授
    池内 了  名古屋大学大学院理学研究科教授
    岩槻邦男  立教大学理学部教授
    上野健爾  京都大学大学院理学研究科教授
    内田久雄  東京大学名誉教授
    江澤 洋  学習院大学理学部教授
    岡本和夫  東京大学大学院数理科学研究科長
    尾本惠市  桃山学院大学文学部教授
    榧根 勇  愛知大学現代中国学部教授
    郷 信広  京都大学大学院理学研究科教授
    合志陽一  国立環境研究所副所長
    斎藤常正  東北大学名誉教授
    坂元 カ  文部省メディア教育開発センター所長
    櫻井英樹  東京理科大学理工学部教授
    柴田徳思  高エネルギー加速器研究機構共通研究施設長
    田中正之  東北工業大学工学部教授
    戸塚 績  江戸川大学社会学部教授
    長岡洋介  関西大学工学部教授
    廣田榮治  総合研究大学院大学学長
    星 元紀  東京工業大学生命理工学部教授
    益川敏英  京都大学基礎物理学研究所長
    森脇和郎  総合研究大学院大学副学長
    矢原一郎  財団法人東京都臨床医学総合研究所副所長
    吉原經太郎 北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科教授
    吉村 功  東京理科大学工学部教授


要 旨

(1)報告書作成の背景:理学研究の意義

 我が国の繁栄と安全は、理学(純粋基礎科学)・技術・産業の三者の発展に全面的に依存している。これらは、相互刺激的かつ協調的に発展する必要があ
り、いずれが欠けても他の衰退をもたらす。しかし、現状を見ると、技術・産業の当面の振興に気を奪われるあまり、直ちに利益を生まないように見える理
学が軽視され、科学技術の基幹部分に空洞化が起こっているといわざるを得ない。現状のままに推移するならば、我が国の技術と産業は遠くない将来に根底から崩れ、衰退に向かう恐れがあり、そのような事態に至ったならば、その回復には数十年の年月を必要とすることになろう。

 日本が理学の分野でこれまでに大きな貢献をしてきた背景には、江戸時代から近代にかけての我が国における基礎教育重視の雰囲気の下で、自然の真理探究の精神的基盤が日本人の心に築かれてきたからである。今日、日本が知的先進国として国際的な評価を受け、技術の面で世界をリードしている基盤にこのことがあるのを忘れてはならない。

 日本学術会議第4部は、本報告書において、日本の繁栄と安全、および探求的精神醸成の観点から、上記のような理学軽視の風潮を憂慮し、今後の改善を願って以下のような意見を表明する。

(2)本報告書の主張と提言

1)世界の先進諸国が科学技術に依存した産業と国家の発展策を講じつつある今日、科学技術立国を目指す我が国にとって、その基盤である理学の充実が緊急かつ最重要の課題であることを訴える。理学は、将来の技術の進歩のための基礎知識とインフラストラクチャの構築に寄与し、国の経済活動の駆動源になる。理学の最高水準の維持は、「技術」と「産業」の不断の発展のために必須の条件である。

2)理学が醸成する自然および真理探究の精神的風土が、日本が最先進文化国家として世界の尊敬と信頼を獲得するための必要条件であることを強く主張する。自然探求の知的雰囲気の中で若い人たちの冒険心が鼓舞され、彼らを独創へのチャレンジに駆り立てることになる。

3)理学は、他の応用科学にない特徴的な性格を持っており、その目的は極めて多様である。したがって理学を振興し、世界最高水準を維持させるには、その
特徴、発展メカニズム、および研究者の知的冒険心に対する深い理解が必要である。

4)理学の研究が国際的な協調と競争の中で発展することは、科学の歴史や現在の研究の進展が如実に示している。しかしわが国の理学の研究環境には外国人研究者を引きつける魅力がなく、その受け入れに関し依然として大きな障壁がある。わが国においても、世界の若い有能な科学者を我が国に引きつけるだけの水準と魅力を持った研究環境が整備され、日本の研究に全世界の研究者の協力が得られるようになることを期待する。

5)我が国の理学研究費の現状について、第一線の研究者の声を聞いていただきたい。上記のような検討を踏まえて、今回、理学振興における栄養源であり、最重要課題のひとつである「研究費」を一つの具体例として、理学研究者および文部省管轄の国立研究機関を対象としてアンケート調査を行った。その結果を集計・報告し、理学振興のための提言とする。

 近年、研究費の効率的使用を謳って、その配分を重点的に行う傾向が強まりつつある。しかし、基盤的学問である理学においては、これが安易な形で実施され、目先の効用を追うようになると、かえって知的資源の総合的な開発を制約し、多大な無駄を生じ、長期的には我が国の国際競争力の低下を招く事になりかねない。調査の結果は、このことに対する研究者の危慎が表明され、理学に対する研究費配分の基本理念について、多くの提言がなされている。


要旨画面へ

目次

まえがき

A.我が国にとっての理学の重要性


B.理学の特徴

C.研究費に関し、研究者及び国立研究機関を対象としたアンケート調査

D.理学の研究費に対する意見(要約)

表1
表2
資料


対外報告「理学(基礎科学)研究の振興について」

まえがき

1.我が国の繁栄の基盤としての理学

 資源のない我が国の繁栄と安全は、理学(純粋基礎科学)・技術・産業の発展に全面的に依存している。これら三者は独立ではなく、互いにそれぞれの知識・智恵・動機を交換しながら相互刺激的かつ協調的に発展するもので、いずれが欠けても他は衰退する。三者を合わせての自立こそが自他共に許される先進国の条件なのである。

 理学の分野で日本はこれまでに大きな貢献を世界に行ってきた。これがなされた背景には、江戸時代から近代にかけての我が国における基礎教育重視の結果、自然の真理探究の精神的基盤が日本人の心に築かれてきたからである。今日、日本が知的先進国として国際的な評価を受け、技術の面で世界をリードしている基盤にこのことがあるのを忘れてはならない。

2.理学軽視の現状と日本の将来への危倶

  しかし、現状を見ると、技術・産業の当面の振興に気を奪われるあまり、直ちに利益を生まないように見える理学が軽視されているといわざるを得ない。この風潮がいまや、前記の精神的基盤を弱め、さらに、今後の日本を担う若い科学者・技術者の“未知の世界を探検する開拓精神”の退廃をもたらしつつある。もしこの科学技術の基幹における空洞化が現状のままに推移するならば、一見繁栄をたどりつつあるかに見える我が国の技術と産業は早晩根底から崩れ、衰退に向かうことは火を見るよりも明らかである。もしそのような事態に至ったならば、その回復には数十年の年月を必要とすることになろう。

3.本報告書の目的

 我が国の理学研究者を代表する日本学術会議第4部会は、第17期の活動計画の最重点項目として、我が国の理学のより一層の振興を掲げ、その実現に向けて努力してきた。本報告書においては、日本の繁栄と安全、および、探求的精神醸成の観点から、上記のような理学軽視の風潮を憂慮し、今後の改善を願って以下のような意見を表明するものである。

1)世界の先進諸国が科学技術に依存した産業と国家の発展策を講じつつある今日、科学技術立国を目指す我が国にとって、その基盤である理学の充実が緊急かつ最重要の課題であることを訴える。

 理学は将来の技術の進歩のための基礎知識とインフラストラクチャーの構築に寄与し、国の経済活動の駆動源である。したがって、理学の最高水準の維持は「技術」と「産業」の不断の発展のために必須の条件である。

2)理学が醸成する自然および真理探究の精神的風土が、日本が最先進文化国家として世界の尊敬と信頼を獲得するための必要条件であることを強く主張する。

 自然探求の知的雰囲気の中で若い人たちの冒険心が鼓舞され、彼らを独創へのチャレンジに駆り立てることになる。この精神は何世代にも渡って受け継がれて行くことになろう。

3)理学は、次項以下に述べるように、他の応用科学にない特徴的な性格を持っている。したがってこの学問の振興のためには、その育成の要点を十分に理解したうえで、それに合致した振興策がとられる事を希望する。

 理学の振興と世界最高水準の維持には、この学問の特徴、発展メカニズム、および研究者の知的冒険心に対する理解が必要である。理学という学問への理解無しに行われる科学技術振興策は、結局は日本の経済基盤と産業の慢性的衰微に繋がる。

4)世界の若い有能な科学者を我が国に引きつけるだけの水準と魅力を持った研究環境が整備されることを希望する。

 理学の研究は国際的な協調と競争の中で発展する。米国の科学・技術・産業が急速に発展したのは、第一次世界大戦後ヨーロッパの第一級の研究者が米国の研究環境をしたって集まったからである。第二次世界大戦後も、我が国からの留学生による米国の基礎科学への貢献は計り知れないものがある。一方、我が国の研究基盤と研究施設は、現状では一流諸外国の研究者にとって魅力が無く、彼らの長期滞在を望むことは出来ず、我が国の研究社会は依然として島国である。日本で長期に研究したいと望む先進諸国の若い研究者が200人に1人の割合である現実(Human Frontier Science Programの調査)は悲惨である。研究環境を世界水準に上げることによって全世界的な研究者の協力を得られるならば、大学・研究機関への国費の投資効果比に大幅な改善を見ることが出来る。

5)我が国の理学研究費について、第一線の研究者の声を聞いていただきたい。

 上記の理由を踏まえて、今回、理学振興における栄養源であり、最重要課題のひとつである「研究費」を一つの具体例として、理学研究者と研究機関を対象として調査を行った。その結果を集計・報告することによって、理学振興のための提言とする。

 なお、我が国の大学施設の貧困さについては、日本学術会議よりの勧告「我が国の大学等における研究環境の改善について(平成11年)」を参照されたい。

TOP


.我が国にとっての理学の重要性

1.先進国としての条件

 先進国として健全な発展の道をたどり、国際な信頼と尊敬を得るための条件は以下ように考えられる。

 ・社会の秩序と安全の確保。
 ・国家及び社会の危機対応・危機管理の完備。
 ・文化国家としての文化的教養・学術・科学技術の充実。それに対する国民の誇り。
 ・国民と一般社会の、科学技術への理解と信頼。
 ・産業の発展と経済基盤の確立。
 ・次代を担う若者のための、未知の世界への探検・探求の精神的風土の醸成。
 ・学術・経済・産業・外交・環境等全地球的課題における国際的リーダーシップの発揮。
 ・米・欧・日3極の1極としてのプレゼンスの明確化。

2.理学の役割

 これらに対し理学は以下の大きな貢献をなしつつある。

 ・優れた先見性と強力な問題解決力の提供。
 ・宇宙・自然・環境・生命等々を対象とした幅広い研究の推進。これにより、人類の知的資産の発掘・蓄積・世界への発信を行い文化国家としての基盤の確保。
 ・人類の知的探求心と未知へのチャレンジ精神の触発。
 ・長期間継続する基礎観測、基礎調査、資料収集・保存、フィールドデーター蓄積による科学技術基盤の維持。
 ・初・中・高等学校から大学、さらに一般社会を対象とした科学技術の教育・普及と厚い人材層の育成。
 ・日本発の発明・発見。日本発の新原理、新法則、新しい自然像などの創出。
 ・上記の諸項目を通じて技術開発力の強化。
 ・国民に夢と希望、高い文化レベル、そして、日本国民としての自信と誇りを与える。

TOP


.理学の特徴

1.理学研究とは

 理学研究は、一方では自らの方法論を開発しながら自然の諸事象を広く観測し、新しい現象や事実を発見し、多量のデーターを蓄積・整理し、共通法則・原理を解明する。他方では、そこで得られた新しい知識を基に、独創的な方法論、物質、機器などの開発を行う。これら解明・発見と開発・発明の両局面が相携えて成長して行くのである。

 また見方を変えれば、いろいろな事象を解析的に研究し、その根底にある普遍的な原理・原則を解明する科学と、得られた多くのデーターを基に構成的・統合的に複雑な対象の全体像を描き出し、あるいは、物を作り出す科学が織りなす華麗な織物なのである。それは真理探究指向と実用化指向の両面を持ち、発明と発見の創造的精神が活躍する広大な沃野なのである。

2.理学における活動

 社会への智の提供という面では、理学は、「優れた先見性」、「組織的かつ総合的理解力」と「強力な問題解決力」、「膨大な基礎データ群」および「種々の応用的科学へのガイドライン」を提供することにより、科学技術フロンティアーを切り開き、世界の知的資産の発展に貢献する。同時に、社会の様々な問題解決の智恵を提供する。

 理学はその内部構造としては多くの分野に分かれているが、それらの間には基礎概念、方法論、新課題開発の動機の提供など、相乗的・相補的な密接な関係がある。

 外部に対しては、理学における成果は、広く工学、農学、医学、薬学、また、人文社会系の多くの学問分野の基礎として提供される。その一例として表1に、純粋基礎科学、基盤的学術、および先端産業との相関を示す。一方、冒頭に記したように、理学はこれら多くの分野の成果を受けて、それらと協調的に発展する。すなわち、理学は、冒頭に述べた我が国の発展を支える3本柱のひとつとして、他を合わせたに等しい責任を担っているといっても過言ではない。

3.理学振興策において配慮されるべきこと

 この様な立場にある理学の振興策において配慮されるべきことは、その「超広域性」と「超多種・超多様性」そして「方法論の独自性」である。その対象は自然の全体に及び、科学技術の全分野に浸透している。すなわち、

1)空間的な広がり:理学が対象とする空間領域あるいは大きさは、素粒子、原子核、原子、分子から、地球上の全生物、地球内部および表面の諸現象、さらに太陽系から宇宙の果てに及ぶ。

2)時間的広がり:理学が対象とする時間領域は、宇宙の起源から、生命の起源の数十億年の時間から素粒子の寿命(10のマイナス50乗秒)の広範囲にわたる。

3)多種・多様性:さらに、生物種、地球の地質、気象、海洋等の諸状態等、対象の多種多様がある。これに伴って、研究の「目的」、「コンセプト」、「方法論」、「理解の様式」に多様性が生じる。たとえば「分類学」、「悉皆的調査」から「非線形性」、「複雑系」や「事象のカオス的発展」まで、等枚挙にいとまがない。

 すなわち、上記の3つの特徴それぞれがミクロからマクロヘの広がりを持つために、

 たとえば、
 a.マクロのものをマクロに捉えて理解する。 例:天文学、流体力学、・・・。
 b.マクロのものをミクロに捉えて理解する。 例:物性論、分子生物学、・・・。
 c.ミクロのものをマクロに捉えて理解する。 例:集団遺伝学、熱力学、・・・。
 d.ミクロのものをミクロに捉えて理解する。 例:素粒子論、分子科学、・・・。

 以上の特徴は、自然の多様性に根ざした理学に本来的なものであり、それを無視することは出来ない。

 さらに付け加えるならば、理学それ自身は知的資産の生産母胎であって、商業製品生産に直接携わることは殆どないことである。しかしその結果は、研究の成果が直ちに国威の発揚となることもあり、また、新産業発展の引き金となる一方で、長い年月を掛けて自然の本質の一部が解明され、それが突然大きな経済的利益に結びつくことも多くの例が示している。発展や成果の形態もまた多様なのである。

4.人材の育成に向けて

 この発展の多様性に関しては中・高等学校の課程から考慮されなければならない。すなわち、いわゆる物・化・地・生の教科をバランス良く教育すること、また、それら4教科間の関係を教えることは重要である。なぜならば、表2に説明のための一例を示すが、純粋・応用科学においてもまた産業においても、新しい発展はこれら基礎科学を総合して現れてくるものだからである。

 この様な広い自然観を持ち、未知の世界探求の雰囲気とその中で育てられた精神を持つ人材が、国家利益に大きく貢献することは歴史の証明するところである。多様な内容を持ち、あらゆる発展の可能性を持つものには、柔軟な対応が必要不可欠だ。理学が持つこれらの特徴と、それらが複雑に絡み合いながら発展して行くという本質を理解せずにその振興策を考えると、大きく道を誤ることとなる。

 以下には、一般論から離れて、問題を具体的に明らかにするために、理学振興の栄養源である研究費について第一線の研究者の生の声を集約した。

TOP


.研究費に関し、研究者および国立研究機関を対象としたアンケート調査

T.調査の趣旨と目的

 研究者・技術者・研究支援者・事務関係者等、理学研究に参加する全員のインセンティブの高揚なくして、研究の真の発展はあり得ない。加えて、次世代を担う若手研究者の育成が時代の発展の必要条件であることは論理的に自明である。

 研究振興の基礎となる予算配分は、「国家百年の計における投資・効果比」の観点から「個々の学問の目的と性格」、「参加する人達のインセンティブ」、そして「次代を担う研究者の育成」に配慮されなければならない。

 ところが、近年、研究費の“目先の”効率的使用を謳って、その配分を重点的に行う傾向が強まりつつある。しかし、いずれの学問にも共通するが、特に基盤的学問である理学においては、これが“安易になされた”場合には、かえって知的資源の総合開発を制約し、多大な無駄を生じ、我が国の国際競争力の低下を長期的に招く事になりかねない。

 理学の真の発展の諸条件について肌身に感じて本当に知っているのは、第一線で日夜研究に励んでいる研究者自身である。また、国家の将来に対して責任を持つのは時の為政者である。前者の代表として、後者に対して適切な提言を行うことこそ、日本学術会議に課せられた任務であると考える。

 日本学術会議第4部会は以上の観点から「研究費」が研究者の志気に与える影響を重視し、現行の配分システムの問題点について、理学関係研究者・研究機関の意見を調査した。なお、この背景には、我が国において文部省以外の大型研究費の配分に関する公開性が必ずしも十分でないという事実があり、政府としてもその改善に努力していただきたい。

 以下に、第4部会における検討結果を報告し我が国の研究費の在り方に対し、提言的報告を行う。

1.アンケート送付の理由と送付先・送付数、回答数

 本報告はあくまでも理学研究者を代表する日本学術会議第4部の意見として提出するものである。決してアンケートのみに依存した意見の集計ではない。すなわち、アンケート調査は、広い分野にわたる多くの意見の傾向を俯瞰し、問題点を出来るだけ数多く拾い上げるための手段として行った。なお、時間と集計能力の点から考えて、アンケートの対象は学術会議関係の研究者個人および文部省関係機関に限らざるを得なかった。

1.1)研究者個人向けアンケート
  送付数:計188
  対象:第4部会会員、第4部世話担当研連・専門委員会の委員長および幹事、副会長世話担当研連のうち理学に関連する研連の委員長及び幹事。
  回答数:58、 回答率:30.9%
  回答者内訳:物理学系17、化学系10、生物学系7、地球科学系19、数学系1、天文学系1、情報科学系1、理科教育系1、不明1(無署名)。

1.2)研究機関向けアンケート
  送付数:計69
  対象:国立大学の理学部(理学研究科)、数学関係の大学院研究科、理学系の付置研究所、全国共同利用の研究センター、文部省管轄の共同利用研究所。
  回答数:43、 回答率:62.3%
  回答者内訳:理学部(研究科)25、付置研究所・センター10、文部省直轄研7、不明(無署名)1。

2.アンケート回答者に送られたアンケートの主旨、設問 → [資料]参照

3.アンケートの回答と集計 → [資料]参照

TOP


.理学の研究費に対する意見(要約)

I.要約作成の基本方針

 以下に日本学術会議第4部の意見を述べる。検討に際しては、アンケートに寄せられた「研究者の意見」および「研究機関の意見」を参考とし以下の考えに基づいて整理した。

A)アンケートに寄せられた意見は、我が国の理学研究の水準を世界最高位に維持するため、世界の研究者と熾烈な競争を行っている研究者の切実な叫びと認識する。

B)その研究者の生の声を、率直に政府関係者および一般社会に伝える。

C)一見相反する意見もあるが、これは上に述べた理学という学問の特性により、研究の分野や目的の違いに基づくものである。したがって、これら多様な意見はそれぞれの研究者の立場において意味があるので、それらを併記した。

D)同じ理由から、理学の研究の在り方を多数決で決めるという姿勢はとらない。ただし、寄せられた意見の数量分布は[資料]に示す。

E)問題が複雑に絡み合っているために生じる項目間の重複は、無理に調整・整理しない。


U.個人研究者の意見の要約・集計

1.理学研究の評価基準。

1.1)多様な評価基準の必要性
 多様な評価基準が必要であることは、前記の「理学の特徴」から見て自明である。評価基準を多様化し、独創を拾い上げる、という視点を持たなければならない。
 理学における成果は、「新しい問題の発見と解決」、「新しい世界像の提示」、「基礎的データーの提供」、「社会が抱える知的諸問題の解決」、「国民一般の知的好奇心の喚起」、「人間の健康維持」、「産業の発展に貢献」、「世界に向けての新しい「知」の発信」を行うことによって、短期から長期にわたって幅広く日本の国力の増進と国際的地位の向上に寄与する。国家の体力維持の源泉なのである。

 この視点から見ると、今日、全省庁的にみて、研究の短期的効率を追う方向に評価が偏る傾向があるといわなければならない。これが行き過ぎると、日本の科学技術の長期的かつ調和的発展にとって有害である。

 長期的観点に立った重点配分の研究費は、理学にあっては、そのほとんどが文部省に限られているのが現実である。他省庁が、国のあらゆる産業の基盤に理学があることを認識し、理学に対して長期的視点に立った重点的な予算配分を行うことを希望する。

 以上の考慮の下に、以下に事前・中間・事後の各評価の望ましい姿を述べる。

1.2)事前評価
a)科学技術の基盤研究を広くかつ独創的に育てるために、研究課題の選定(事前評価)にあたっては、理学研究の「対象の広域性」、「多様な方法論と理解様式」に相応しい大きな自由度が与えられるべきである。このことに関連して、異分野間の連携も独創的研究の創出に高い確率を持つという意味で特に重要である。

b)理学をはじめとする如何なる基盤的研究においても、目的に即して短期的から長期的までの幅広い視点で成果を期待する柔軟性が必要である。

c)現行の文部省科学研究費の評価方式はおおむね可であるが、さらに「研究者同士の相互評価(peer review)」を取り入れる工夫が必要である。

d)真に独創的な問題にチャレンジする場合には、失敗する確率も大きいことを覚悟する必要がある。成功した場合の高い投資・効果比に賭ける冷徹な現実感覚が必要。

e)いずれにせよ、研究は人である。優れた研究者を見抜き、それに賭けるチャレンジ精神を評価者側が持たなければ独創性を育てることは出来ない。

1.3)中間評価
a)研究課題によって、評価期間と中間評価時期の柔軟な設定が必要。理学研究には短期的な評価を行い難いものが少なくない(1.2.b参照)。

b)研究における“思いがけない発展”は、研究の何時の時点で起こるか判らない。研究者同士で一応の評価を得た研究者には、その責任に任せて研究の自由闊達な進展を見守ることが必要である。

1.4)事後評価
a)理学研究の成果評価は、原則として国際社会における長期間の評価にゆだねるべきである。形式的かつ短期的な評価はスケールの大きな研究を妨げる恐れがある。

b)単に国家予算消費の免罪符とするような形式的かつ安易な事後評価は、研究者(特に若い研究者)の精神的腐敗をもたらす。また、評価に当たる研究者の貴重な時間を浪費するという意味で有害無益といわざるを得ない。

c)純粋研究としての評価、および、応用発展の可能性の評価の両者がなされなければならない。後者に対しては、それにふさわしい経験を持った目利きが必要である。

d)所期の目的が達成されない場合でも、理学研究においては多くの場合、その経験とデーターの蓄積が知的資産となる。不成功の過程を記録に残し、不必要な繰り返しを防止し、次の発展に備える度量が必要である。

1.5)評価者と評価体制(事前および中間評価の項も参照のこと)
a)計画の科学的重要性と発展性を、先見性を持って理解できる評価者を育成すべきである。

b)応用発展に結びつく理学研究計画の適正な判断のためには、応用研究あるいは開発研究に携わってきた複数の評価者の協力が必要とされる。幅広い評価能力を一専門分野の評価者に期待することは無理である。

c)独創性の発掘においては、幅広い識見と、学問に対してひとつの理念を持った人を評価者として選ばなければならないが、現在ではそのような人材が少ない。評価倫理を確立し、その線に沿って評価を行いながら時間をかけて評価者を育成することが必要であろう。

d)評価体制において、「先進国家のあるべき姿」の視点から研究結果を厳密に評価する基盤も体制もない。「科学的評価システム」、「評価の理念と倫理観」を確立する必要がある。

e)行政との連絡を密にするという観点から、研究者出身で科学行政を専門とする専門官を育成し、その評価専門家が評価・配分・成果の評価まで行うことも考えられる。

f)高額な重点的予算配分における行政官と研究者の責任分担は明確にされなければならない。

g)短期的および長期的重点的配分の評価は小人数で責任を明確にして行うのが望ましい。多数だと平均的研究が高得点になるからである。

1.6)評価の公開佳
a)採否の公平性・公明性を確保するため、審査方針を明確化する。

b)配分審査の経過、結果を公表する。評価の多くが何処で誰によってなされているかわからない場合が多い。これでは公正であっても研究者は疑心暗鬼になる。評価委員の氏名の事後の公表も含めて、目に見える配分にすべきである。

c)研究成果の審査(事後評価)においても、その結果を公表すべきだ。ただし、文部省の科学研究費においては既に行われている。

2.研究費の配分について。

2.1)長期的・広域的研究の重要性
a)自然・地球・宇宙に関する「基礎的データを提供する研究」、「野外(フィールド)研究」などは、短期的な研究成果だけが目的でなく、日本および世界人類の将来のための学術的基盤を確実に築く意義が大きい。この様な研究の継続は財政的に保証されなければならない。

b)上記の研究と同様に、「データベースの構築」、「新たな装置・観測方法の開発」、「測定精度の向上」などの研究基盤整備や、さらに、「研究成果の紹介」や「成果の解説」などは、国家の知的基礎体力の充実のために不可欠である。

c)理学における重点的配分は、純粋に学問的観点からその必要性を検討した上で、慎重になされなければならない。

2.2)現行の重点配分について(2.1も参照のこと)
a)現在の重点的配分には長期的視点がなく、概して時流を追い、投資効果が目に見える研究に偏りがちである。

b)理学の場合、真に独創的な研究は、他人が“重点”と考えて行う配分にそぐわない。

c)基盤的研究は近視眼的な評価を離れて広く育てないと、先端的研究も矮小化してしまう。すなわち、基盤的研究には、研究費の申請・採択方式をとるのでなく、広域の発展性を考慮して長期的に資金を供給する必要がある。

d)自然科学の発展の理念に基づかない単なる欧米追随型研究(模倣)は排除すべきである。

e)一方、欧米追随とは逆に、欧米では無視されながら日本で流行っている研究が拾われる場合もある。この点、我が国独自の研究を育てるために、前掲した審査の基礎理念の確立が望まれる。

f)短期的視点に立った重点的配分では設備中心の傾向が強く、「維持費・運転費」「研究支援経費」などが不十分で、設備への投資が生きない。「基礎的実験の費用」、「設備の更新費」が得にくいという問題もある。

g)現在、「基本的・標準的で汎用の機器の老朽化」が進んでいる。世界競争に勝つためには、これらの機器の定期的更新が保証される必要がある。

h)重点的配分の場合、採択期間が3年程度というのは短すぎる。単年度決算、費目間の流用ができないなど縛りが多く、事務手続も煩雑である。また、申請から採択・執行まで時間がかかり、世界の早い動きについて行けない。科研費と同様に前年度審査の方式が望ましい。

2.3)基盤的研究のための特別枠
a)国の科学技術の源泉となる基盤的研究(理学その他)を支援する研究費は、短期的な応用を目指す研究支援の研究費とは別枠で支出する、あるいは別の研究費配分機構を設けることも考えられる。

b)一見時流からはずれているように見える基礎的研究は無視されがちで、独創性が見逃される場合も多い。

3.恒常的に支援すべき研究

3.1)学問の底辺の維持
a)底辺を支えないと高いピークは生まれない。

b)研究において間接的とも見えるインフラストラクチャー形成が、実は研究の成否を決めている。その充実の費用は必要不可欠である。

c)「汎用・共同利用設備の運転経費・維持」費の増額が望まれる。

3.2)長期間継続すべき研究および研究支援
a)「特定地域の生物の記載」や「地質調査」、「地球の観測」、「環境の観測」など、基礎生物系や地球科学の研究では、少額ながら長期間(例えば10年間)の研究費が必要である。

b)生物・地質系のみならず、核物理の様な分野でも「系統的データの集積」が必要だが、競争的配分になじまない。同じく、「物性データー」など基礎的データを改良・充実させる研究や、高度の技術を要する研究など、きめの細かい予算手当が必要である。

c)「系統維持」、実験データの「データベース作成」、「プログラム開発」、「実験装置開発」、「分析技術の改良」、「大型装置を用いる実験技術の開発」などへの幅広い手当が、結局総合されて、国の底力となる。

3.3)若手研究者の優遇措置
a)公正な評価の結果選ばれた若手研究者に5〜10年くらいにわたって人件費を含む十分な研究費を与えることは、次代の研究発展のために是非考慮されなければならない。

4.テーマの自律的選択・研究推進の自由,萌芽的研究

4.1)自律的研究
a)重点研究に比べて、自律的研究を“特に”優遇する必要はないとする少数意見があるが、大多数の研究者は基盤的自律的研究を重視すべきだと考えている。

 独創的発想やアイデアの源泉は自律的で基盤的な研究にある。歴史的に見ても、どの研究が成功するかの予測は困難で、基礎研究の採択と評価に安易な競争原理を導入するこ
とは危険である。

 この意味から、研究対象を性急に絞り込むことは危険であり、一律に配分される基礎的研究費の増額が望まれる。その場合、期間、経費ともに柔軟性を持たせる必要がある。

b)具体的には、科研費の9割を基盤研究に投入し、その平均採択率をたとえば50%まであげることが望ましい。

c)採択率が低率である場合、平均的な課題が優先され、独創的で型破りのハイリスク・ハイリターンの研究は見送られがちになる。基盤研究や通常経費を圧迫しない配慮の下に重点的配分を行うために、研究費全体の増額が望まれる。

5.真に独創的(同時に冒険的)研究の発掘・育成

5.1)成功を要求されることによる研究の矮小化
a)研究費を出したすべての研究に成功を要求しない。ハイリターンを希望した場合失敗を覚悟する必要がある。

b)成功の確率を上げるためにはいろいろな試みをする必要がある。すなわち基盤的研究費を増額し、採択率の増加を図る。また当り校費を増額する。

c)科研費の萌芽的研究では、支給額は少なく成功が要求されている。これでは、低額の研究費助成と同じで、本来の目的は達成不可能である。

6.女性および若手研究者

a)女性研究者に対する度を失しない適切な優遇策、および、研究に専念できる条件整備(保育所の充実など)を講じるべきである。

b)25歳から35歳の研究者に冒険的研究にチャレンジする機会と手当を与える。

c)多人数に低額の研究費を与えることから始めて、研究成果によって人数を絞ると同時に研究費を増額するという選抜方式の採用が、研究成果もさることながら若手人材発掘のために必要である。

7.国際的な研究における障害

7.1)人事の交流
a)世界の頭脳を結集して研究を進めるという観点から、採用条件、研究環境を改善して有能な外国人研究者の来日意欲を高める必要がある。

b)若い研究者の場合、滞日が彼らのキャリアーに重みを付けるものでなければ、優れた研究者は来ない。そのためには以下に述べる世界標準の採用条件、研究環境、生活環境の改善が必要である。

7.2)受け入れ態勢の整備
a)各種慣習の「グローバルスタンダードからの乖離の解消」、「宿泊施設や同伴家族のための生活環境整備」、「研究条件とくに研究支援体制の整備」など、受け入れ体制の確立が不可欠である。なお前述のように、現状では海外の一流若手研究者が研究のために日本に長期滞在(2〜3年)したいという希望は全くといってよいほどない。その原因には、生活環境、語学などの問題もないわけではないが、研究施設・環境が悪いため、短期間に業績を上げることが困難で、滞日が彼らにとってのキャリアーパスとならないことが最大の原因である。それほど日本の大学等の研究機関の研究環境は劣悪である。

b)この一例にも見られるように、日本の大学の研究基盤の貧困さは目を覆いたくなるほど悪い。少数の例外を除いて、その程度はアジアの発展途上国と同じかそれ以下である。具体的には「研究補助者不在」、「物品購入・財産管理の煩雑」、「外国との会計年度のずれ」、「予算の単年度制」など、世界標準との乖離は枚挙にいとまがない。これでは外国の優秀な研究者を日本に引きつけられない。なお、私立大学では予算の単年度性を外している例もある。

7.3)予算制度の検討
a)国際共同研究には5−10年に及ぶ長期にわたって予算の裏付けが必要であり、息の長い研究援助が必要。

b)単年度制の廃止が必要。

c)あらゆる面でグローバルスタンダードヘの配慮が必要である。

8.機器の保守、機器開発・改良予算などの問題

8.1)機器保守
a)機器保守費が欠如あるいは不足している。そのため機器・設備の性能が生かされず、使用可能な機器が使えない状態にあり、国費の無駄使いとなっている。

b)現行の重点配分は機器偏重となり、運転人員とのバランスがかけているため機器を活用し切れていない。装置は購入できても、研究のための運転費、保守費、人件費が出ないケースがある。使用可能であるにも関わらず、研究期間が過ぎると運転費が止められて装置が活用できない。

c)経常的に装置等を保守する保守運転要員もはなはだ不足している。

d)一般に機器の設備費に対し運転費が過少(いまは4%だが実際には、設備費の8−10%/年は必要)である。

8.2)一般汎用機器購入の困難
a)高度な機器より使用頻度の多い一般的な機器を購入したい場合も多いにもかかわらず、現在の研究費配分基準では購入は困難である。

b)重点的領域より基盤的研究に配分を増さなければこの問題は解消しない。

9.その他予算の配分についての意見、あるいは希望

9.1)研究基盤
a)「研究支援組織とインフラストラクチャー」、特に「技官の不足」と、「建物や基本設備の老朽化」に対する対策が必要。

9.2)予算制度:無駄の解消が必要
a)「単年度予算制」、「予算枠の制約」等、「予算執行の硬直化」で多くの無駄が出ている。

9.3)研究費投入の方針に対する考え
a)巨大プロジェクトに多額の研究費を集中的に投入するだけで日本の科学の成果が上がると考えるのは錯覚である。インフラストラクチャーの充実に配慮しない重点配分重視を続けると、我が国の基礎研究は運営費・維持費の不足で崩壊する。

b)現在、十分な検討のなされないままに過剰な施設費が偏って投入されている。しかし、短期的に多額な資金を特定箇所に投入しても投資・効果比は低い。また、この様な状態が続くと、研究者のモラルが低下するという意味でのアカデミック・バブルが出現する心配がある。

c)すでに述べてきたように、理学においては、重点配分と定常的な配分の適切な比率を戦略的に検討する作業が必要であり、それは我が国の理学研究の最大活性化を目指すものでなければならない。

10.研究費関連事務・制度の問題

10.1)研究費の申請・経理
a)「研究費の申請・経理などの事務処理」の簡素化が必要である。たとえば欧米のように使途の制約を撤廃し研究者の責任で使用できるようにすることが望ましい。特に研究費の無駄の解消のために「研究費の単年度会計」の廃止が必要である。

10.2)長期的視点に立った予算配分
a)理学では特に長期的視野での予算配分が大切であり、それには研究者と行政官の間に十分な意見交換がなされなければならない。具体的には、官と学を繋ぐ有能な科学アドバイザーを国として養成する必要がある。

V.研究機関の意見の要約・集計

1.アンケートの回答に見られる文部省予算費目の性格(結果は【資料】表1参照)

1.1)全予算に占める文部省からの研究費の比率(結果は【資料】表3参照)
 理系の学部・研究所では、ほとんど全て(最高98%、最低70%、平均87%)が文部省からの予算(科研費を含む)で賄われている。これは、他省庁や国費以外の委任経理金が相当な比率を占める理系の他学部と著しく異なる。

1.2)文部省予算の使用目的
a)一般研究費、教育費、共通経費は現在の活動を支える上で不可欠のものとなってい
る。

b)大型機器購入費、学長裁量経費は研究条件の改善を目指すものとなっている。

c)文部省科研費は本来の趣旨は研究条件の改善や発展を目指すものだが、現実には現在の活動を支える重要な資金となっている。ただし、大きな理学部では、科研費が本来の目的である“さらなる発展のための投資的なもの”となっている。

1.3)増額をもっとも希望する研究費(予算)の費目は何か
a)学部の2/3、研究所の1/2が教官当校費(一般研究費)の増額を希望。理学の研究・教育にとっては、チャレンジ精神を持って、自由な発想と探求心で研究するための、自由度の大きな研究費が必要である。

b)当り校費は恒常性があるので、計画が立てられる資金であり、理学の研究基盤を向上させるが、現状は過少である。研究水準維持のため大幅引き上げが必要である。

c)特別設備費。学部の1/4が、維持費のつく最先端特別設備費を希望している。

d)付属施設運営費。学部、研究所ともに希望。共同利用者が増加、運営困難の状況にある。あるいは光熱水料・人件費が支出できず、維持できない。

e)教官旅費:学部の1/4が旅費の増額を要求している。年1回の出張が限度というのでは、現代の研究者社会の中で研究連絡が不可能である。

1.4)現在存在しない費目の新設、かつて存在した費目の復活希望
 a)研究補助者雇用費。
 b)海外研究者との研究交流のため、外国人招聘旅費、国際共同研究費など。
 c)学生・院生の観測・野外調査旅費、大学院生の国際研究集会への参加費。
 d)建物施設の維持費・運営費。光熱水料、事務費、建物維持費、環境整備費など。
 e)学生実験設備の経費。設備更新費、理工系設備拡充費、大学院設備費など。
 f)大型設備の更新、科研費で購入した機器の維持費。

1.5)当り校費、科研費の基盤研究と、競争的な重点配分の比率
 a)現在の比率でよいとしたもの 35中10
 b)自律的研究を増額してほしいとしたもの 35中20
 c)重点的配分を増額してほしいとしたもの 35中5という割合であった。

1.6)予算の流動化について
 a)校費の旅費への流用を可とする。旅費枠があまりに小さく、研究教育に差し支える。流用可能な割合を決めておく、などすればよい。特に校費の海外出張旅費への流用を可とする。

 b)各種費目間で流用を認める。予算の流動化は文部省科学研究費では既に実施されている。

 c)校費の次年度繰越を学部の1/2、研究所の1/3が希望。たとえば20%まで次年度繰越可、とする。あるいは次年度のある時期まで執行可、とする。

1.7)機器の開発・保守、機器の性能向上などの予算の問題点
 a)過度の定員削減により研究支援体制が著しく弱体化している。

 b)機器の維持管理用の予算(人件費を含む)の削減・一打ち切り。科研費など購入費目によっては当初から維持費が出ない。このため特に一般設備費、科研費、受託研究費等で購入した大型機器の性能が生かされない。

 c)測定機器類、コンピュータなどの定期的更新(バージョンアップ)措置がほしい。

1.8)国際的な研究を発展させるのに障害となっている問題
 a)外国人招聘費の予算の増額を希望。また、

 b)招聘事務の柔軟性が必要:手続が面倒、日本だけに必要な書類も多く国際常識に合わない。

 c)外国人招聘のインフラが不備。外国人を招聘しても、研究スペース、適切な宿舎がない。

 d)海外における研究(海外出張)の際の問題点。出張手続の簡素化、渡航費の不足。文部省科学研究費の「国際学術研究」の項目が無くなり、採否の判明が遅くなり、実施に障害となっている。

 e)会計制度上の問題点。教官当積算校費の使途の制約をはずし、旅費、人件費に使えるようにする。外国では予算の執行は一般に研究者の自由裁量にゆだねられている。

 f)国際的共同研究は多年度にまたがって実施することが多いが、継続することの保証ができない。また全体に財政的援助を増額が必要。

 g)定員削減によって支援体制が崩壊してしまった。教官が教育研究以外の業務に忙殺されていて、研究が進まない。技術者は欧米では研究者と同数くらいいる。外国の有能な若手研究者が来日を希望しない理由も、日本では支援者不足で短期間に業績が上げられないと云う理由による。

1.9)その他、国の予算配分についての意見あるいは希望
 a)基盤の充実が不可欠である。わが国で基礎研究を育て人材を養成するには、研究基盤を高める必要があり、それには大学・学部の定常的な講座研究費を大幅に増さなければならない。理学の研究には、この学問の性質として冒頭に述べたように、本質的には個人の活動、個人を重視した予算配分が必要なのである。

 b)一方、重点的配分(事業的研究)は主として短期的な成果を期待している。現行の重点配分では未来を開拓したり純粋基礎研究を進めることにならない。大型プロジェクト優先では日本の科学の基盤は崩壊し、若い研究者のモラルは退廃する。また、大型プロジェクトの基盤を広く支えている理学研究の諸分野を特定し、その推進にまで配慮がなされるべきである。

 c)重点的配分の企画提案の過程が問題である。目先の応用に力点が置かれる傾向がでている。一時的に特定分野が潤うのではすぐ衰退する。

 d)予算の執行上の問題として、次年度への繰越や費目間流用を含む弾力的運用が必要である。その他、会計手続の簡素化が必要である。

 e)研究の公正な評価システムの確立が必要である。特に重点的配分予算について点検・評価を厳しくしなければならない。評価者の氏名をも含めて、その公開性が不可欠である。

 f)施設の充実、運営方法の改善が必要である。老朽・狭隘な大学の基盤整備が急務とされる。研究スペースが狭隘すぎ、装置を購入しても設置するスペースがない。新装置のための改装費が出ない。水道・電源の設備の老朽化対策、光熱水料など基本的経費の増額。改装・運搬などの諸経費の増額、などが緊急の課題となっている。
                                                                                           

以上

TOP



表1

表1 純粋基礎・基盤学術・応用産業 相関

TOP


表2

表2 先端産業における各教科間相関

TOP


【資料】理学研究者および国立大学理学系学部・理学系国立研究機関に対する研究費に関するアンケート調査報告・集計

I.アンケート送付先(送付数)と回答

1.個人向けアンケート

  送付数:計 188
  対象:第4部会員、第4部世話担当研連、専門委員会の委員長および幹事、副会長世話担当研連のうち理学に関連する研連の委員長及び幹事
  回答数:58、回答率 30.9%
  回答者内訳:物理学17、化学10、生物学7、地球科学19、数学1、天文学1、情報科学1、理科教育1、不明1(無署名)、

2.機関向けアンケート

  送付数:計 69
  対象:国立大学の理学部、理学研究科、数学関係の大学院研究科、理学系の付置研究所、
     全国共同利用の研究センター、文部省管轄の共同利用研究所
  回答数:43、回答率 62.3%
  回答内訳:理学部(研究科)25、付置研究所・センター10、文部省直轄研7、不明(無署名)1

U.アンケートの主旨・目的

1.日本学術会議の第4部会(理学)の活動: 当部会では、第17期の活動計画の最重点項目として、我が国の理学のより一層の振興を掲げ、その実現に向けて努力している。そこでの目的の一つは、総理大臣直轄の公的なボトムアップ機関としての日本学術会議の機能を生かして、我が国の研究者の意見を集約して政府に提言することである。

2.理学に対する国民の期待: 我々理学分野の科学者に国民が期待することは、純粋科学(理学)のレベルを世界の最高位に維持し、人類の知的資産の蓄積に貢献するとともに、短・中・長期のいずれのタイムスパンにおいても、国際社会の尊敬を集め、先進国家としての発言権を確保する事にあると考える。これが、一流文化国家としての国民の誇りの維持、我が国の経済と産業の基盤強化など、科学技術基本法が示す科学技術立国のための必要条件だと考える。

3.最高の結果を生むための予算配分: 学術研究振興の基礎となる予算配分は、個々の学問の目的とその性格に基づいてなされなければ多くの無駄を生じることは云うまでもない。しかし近年、研究費の”目先の”効率的使用の観点から、その配分を重点的に行うのがよいとされ、その傾向がますます強まりつつある。だがこれが”安易になされた”場合にはかえって、理学の知的資源の総合開発に多大な無駄を生じ、我が国の国際競争力の低下を招く事になりかねない。理学研究者は、先見性を以てこの点を声を大にして言う必要がある。

4.理学の発展には多様な評価基準が不可欠: そもそも純粋科学の評価の基準は多様でなければならない。これは自然の多様性に根ざした理学に本来的なものに他ならず、それを無視することはできない。その結果、研究の成果が直ちに国威の発揚となることもあり、また、新産業発展の引き金となる一方で、長い年月を掛けて自然の本質の一部が解明され、それが突然大きな経済的利益に結びつくことも多くの例が示している。またこのような未知の世界探求の雰囲気と、その中で育てられた精神を持つ人材が、国家利益に大きく貢献することは歴史が証明している。多様な発展の可能性を持つものには、柔軟な対応が必要不可欠である。

5.研究者の意見汲み上げの必要性: これらの理学の真の発展の諸条件について、多くの問題点を抱えている研究者と研究機関の意見を集め、国に対して適切な提言を行うことこそ、日本学術会議に課せられた任務であると考える。21世紀における日本の理学の発展に繋がると考えるのである。

6.アンケート送付の目的: このアンケートは、以上のような考えから、日本の理学、ひいては科学技術のレベルを最高位に維持し国際競争力を強化するためには、理学における研究費配分は如何にあるべきかを問い、その結果を政府に提言するためのものである。

 重点的配分における「重点」の選定が、とかく「多数決型」あるいは「欧米追随型」となりやすく、独創的研究の育成や国際競争力の強化に繋がらないのではないか、また、国内で”競争的”と称する配分が、それが国内基準で安易に行われたときには、必ずしも理学の発展に寄与せず、また、国際競争力を強化する結果とならないのではないか、等々、我が国の各研究機関がそれぞれ独自の最高能力を発揮する方策について建設的な意見を集めたい。また、各研究機関において次世代の研究者を健全に育てるための予算配布は如何にあるべきかを問いたい。

7.研究費総額の増大に向けて: このアンケートは上記のように研究費の配分方式に焦点を当てている。しかし研究費全体を増やす努力も、また必要である。大学学部や付置研究所の研究費は国立学校特別会計から支出さるが、近年はそれに対する一般会計からの繰り入れがゼロシーリングされている。このシーリングがはずされない限り研究費の増額はあり得ず、将来の科学研究はじり貧になる恐れがある。したがってこのアンケートで質問しているような、配分の理念を見直す問題だけでなく、研究費の全体を増加させる問題についても、積極的な提言を得たいと考えている。

V-a 個人研究者向け(研連委員長、幹事あて)アンケートの集計


要約の末尾の数字は、回答数(複数回答可)

《設問I》 理学研究の目的はきわめて多様です。その成果の評価も、たとえば広い応用が期待され社会に直ちに役立つ、積年の知的問題を解決し人々の知的好奇心を満足させる、自然に関する基礎的データーを提供する、世界に向けての新しい「知」の発信・日本の国際的地位の向上、など多面的な基準で行われるべきであると考えます。これらの他にどのような基準が考えられるか、理学の研究成果はどのように評価されるべきか、などについての考えをお聞かせ下さい。

〈集計・要約〉

1.理学研究の評価基準

1)社会に対する理学の最大の貢献は人々のものの考え方(世界観)を変えてきたことにある。過去には少数の天才がこれを成し遂げた。今は多くの人々の研究の積み重ねでこれが生まれる。従って大切なのは理学の基礎的研究全体を評価する姿勢である。 :1

2)理学の成果は正当に評価されるまでに長い時間がかかるのが普通である。時には100年を要する。早急な判断は百害がある。従って、研究者仲間から一応の評価を得た人はその人の自主性を尊重し、その責任にまかせて援助、見守るべきである。:4

3)問題の発見により知的好奇心をかき立て、若者に夢を与え、知の種子を提供することこそ重要。自然の未知な事柄の発見とその解明が評価の第一の基準である。:8
・独創性のある研究をこそ評価すべきである。:5
・逆に「広い応用が期待され社会に直ちに役立つ研究」という基準は、理学の目的や評価基準に含めるべきでない。:3
・自然に関する基礎的データを提供する研究を正当に評価せよ。長時間かけてデータを蓄積しなくてはならない研究、例えば野外研究など研究成果がすぐに上がらない研究をもっと評価すべきだ。研究の効率を追う方向に評価が偏る傾向があるのはうれうべきことである。突発的災害の調査などに対しても適切な評価が必要である。:9
・同様に、データベースの構築、新たな装置・観測方法の開発、測定精度を上げる、などに対する貢献、研究成果のダイジェストや成果の解説なども評価すべきだ。:8

4)社会への有用性など、広い視点から評価する。:5

2.評価のしかたについて

1)評価者の選択が先ず第一段階であり、理念を持った評価者が必要だが、現在、広い視野をもち、適切な評価ができる人材がどれだけいるか。評価ができる人材の育成が重要。また、どのように選ばれ、どう評価したか公表すべし。:5

2)研究の評価が一面的に過ぎる。理学の場合には特に多面的基準による評価が必要である。:5(たとえば Citation index, Impact Factorなどを重視しすぎている。:1

3)評価にかける時間が短かすぎる。評価にもっと長い時間をかけよ。評価者は小人数・短期間ではだめである。:2

《設問U》 研究費の重点的配分の傾向が強まり、文部省の予算でも、年度当初に申請書を提出し、採択・否採択が判定される予算が増えています。このために問題が出ていることがあれば、どのような費目・使途で問題があるか記して下さい。

〈集計・要約〉

1.重点的配分に関する基本的姿勢

1)重点配分には特に問題はない。:3
・重点配分重視の今の傾向は当然で、常に横並びの研究費の底上げには強い疑問を感じる。
・重点的でない研究費拡大の方針をとれば仕事の質は下がり、レベルを維持するという強い意志が損なわれる。

2)理学に対する重点的配分には疑問がある。:12
・理学の研究は、そもそも重点的配分のように評価がはいった配分にそぐわない。突出した研究を支える基盤的研究を広く育てないと、先端的研究も枯れてしまう。:3
・重点的配分(すなわち申請採択方式)をとるのでなく、基礎的研究に広く資金を供給する必要がある。基礎研究は年度ごとの予算に応じて研究を拡大・縮小するのは困難で、研究者は予算獲得に奔走している。もっと長期的なサポートが必要である。:3
・本来理学の研究は個人的な活動であり、研究費は個人につくべきものである。近年は組織・機関につく重点的研究費が増える傾向にあり、非常に野心的テーマでも個人では資金を得難くなっている。:6

2.現在の重点的配分の問題点

1)重点的配分では、どうしても設備中心となるが、維持費・運転費など十分な経常的経費がつかず、投資が生きない場合が少なくない。また重点的方式では、基礎的実験費、設備の更新等の費用が得にくく、基本的・標準的で汎用の機器の老朽化が進む。また多くの重点的資金の採択期間が年度単位あるいは3年程度で、短すぎる。:9

2)重点方式をとるなら、その運用をもっと研究者の自由裁量にゆだねるべきである。
単年度決算、費目間の流用ができないなど縛りが多く、事務手続も煩雑。また、申請から採択・執行まで時間がかかり、たとえば季節性のあるテーマの研究が困難になり、旅費の使用時期を失し、設備の使用期間が短くなるなどの弊害がでている。科研費と同様に前年度審査の方式をとるとよいのではないか。:15

3)重点的配分が多くなって、採否の決定が後まで不明で見通しが立たない場合が多く、長期的計画が立て難くなった。最近では次々と新しい競争的予算枠ができて従来の予算項目は空洞化し、新しい項目における採択の可能性がわからず、困る。:6

3.重点的配分の際の採択テーマ・審査方式・審査について

1)重点的配分のための評価方式・評価基準に問題がある。:9
最近の重点的配分のテーマは目先を追いすぎるようにみえる。10年後くらいまでを視野に入れた基礎的研究に投資すべきだ。また、重点的に採択されるテーマ設定や採択研究者の決め方が不透明な場合がある。文部省の科研費を除き、現在の評価の多くが、何処で誰によって為されているかわからない場合が多い。これでは研究者は疑心暗鬼になる。

2)重点的配分の評価方式について。
・評価は小人数で行うのがよい。評価には必然的に主観が入るが、それが健全である。多数で評価すると常識の枠内にある研究が優先されがちになる。小人数のピアレビューを主体にし、評価の公平性を確保する方策を考える。:4
・理学では、重点的配分の研究費の窓口がほとんど文部省(科研費)に限られている。これは評価基準が単一になることを意味し、独創を拾い上げる、という視点から改善されるべきである。多様な評価基準で配分することが重要である。:1

《設問V》 この様な重点的配分にはなじまないが、是非支えるべき研究や、支出の種類(費目)があったら記して下さい。また、それにはどのようなテーマ選考方式と予算配分が適切でしょうか。

〈集計・要約〉

1.研究支援の基本姿勢

1)一応の実績があり評価を受けている純粋科学の研究者には自動的に研究費を配分するべきである。大多数の研究は重点的配分になじまないが、山容を支える底辺のようなものであって、これを支えないと高いピークは生まれない。:7

2)直接の研究用でない基盤的な大型設備とその運転維持費(ヘリウム液化機など)など、インフラストラクチャ形成の費用を十分に支出すべきだ。また、汎用・共同利用設備の運転経費・維持費を増額するべきだ。共同利用申請は一般に研究者自身によって厳正に評価されて選択され、設備は有効に利用されている。:2

2.支えるべき具体的テーマ

1)特定地域の生物の記載や地質調査、地球の観測などは基礎研究として重要だが、地味で重点的配分にはなじまない。基礎生物系や地球科学の研究では、少額ながら長期間(例えば10年間)の資金援助をするのがよい。時間をかければデータが集積し、それがものを言う領域である。:16

2)核物理研究でも地道な系統的データの集積が必要だが、これらは競争的配分になじまない。物性値など基礎的データを改良・充実させる研究や、高度の技術で支えられ、しかも長期間を要する研究なども特別な援助を要する。:4

3)研究支援活動(系統維持、実験データのデータベース作成、プログラム開発、実験装置開発、分析技術の改良、大型装置を用いる実験技術の開発など)に対する評価と資金援助が必要。これらの多くは10年規模の長期的支援を要す。また、アーカイブ、博物館などの資料保存施設の活動費を援助し、充実させる。:10

4)若手研究者の優遇措置を講ずるべきだ。初めて研究室を持つ若手に対し少しでも可能性があるとみれば starting grant を与える、たとえば自由に使える研究費を5〜8年間は支援するようにしたい。:5

《設問W》 研究者の自律性(テーマの選択・研究推進の自由度大、萌芽的研究)を重んじる研究費がさらに増額されるべきであるとお考えでしょうか。お考えならばその理由を記して下さい。また、そのような場合の選考方式としてはどのようなものが適当とお考えですか。

〈集計・要約〉

1.重点的配分と基盤的自律的研究の関係

1)自律的研究を優遇する必要を認めない。個別研究でも良いものはそれなりに審査員の目に止まるし、また現状では研究費は出しすぎの感があり、無駄使いされている。:4

2)基盤的自律的研究を重視すべきだ。理学の研究ではどの研究が成功するかの予測が困難である。独創的発想やアイデアの源泉は自律的な基盤的研究にあり、競争原理はこのような研究になじまない。従って、一律に配分される基礎的研究費を増やす、それも期間・経費ともにまとまったものにする必要がある。一定の業績を上げている理学研究者には無選別で相当額の研究費を出すなどの思い切った施策が必要だ。:42
・科研費の9割を基盤研究に投入し、その平均採択率をたとえば50%まであげる。低率だと平均的な課題が優先され、独創的で型破りの研究は見送られがちになる。

3)どちらも重要である。重点的研究と自律的研究、巨大科学と個別的科学はどちらも重要、両者のバランスが大切である。重点的配分は基盤研究や通常経費を圧迫しない範囲で行われるべきであり、従って研究費全体をもっと増額するべきである。:7

2.研究費の審査方式について(相反する回答がおよそ同数見られた)

1)審査は現行方式が最も公平であろう。他に適切な方法がない。:3
・現行の科研費審査方式にはいろいろ問題があり、不適切である。:4

2)審査員を増員し、若手、外国人の評価も取り入れる。:6

3)審査員は多くない方がよい。:4
・審査員は少ないほうがよい。多数の評価では平均的研究が高得点になる。また数を増すと審査者の中には申請内容を理解できない人やモラルが低く公平でない人も出る。少数のシニアレビューがよい。

4)ピアレビュー中心とするのがよい。:6
・専門の評価者により評価・配分、成果の評価までおこなう。そしてその結果について数年後に評価される方式(National Science Foundation(NSF)方式)がよい。:3

5)レビューを厳しく行い、レビューの結果を公表する。また、重点的配分による研究の成果を審査し公表すべきだ。科研費を除くと、現在は審査がどこで誰によって行われているかわからないことが多く、研究者は疑心暗鬼になっている。:3

《設問X》 重点的配分における現在の審査についてのお考えを記して下さい。また重点はどのような判断に基づいて決められるべきでしょうか。

〈集計・要約〉

1.重点的配分の審査について

1)重点的配分で選ばれたテーマは至当、いずれも重要なもので、審査はおおむね公正、健全である。:12

2)重点的配分には問題がある。不公正・時流を追う・欧米追随、はどれもある程度当たっている。だが、しかたがない面もある。:7
・”重点を組んでカネを取ろう”という雰囲気があり、審査員に根回しをするのが横行。提案者が知名度の高い有力者であることや、ある程度の成果が見込めることが優先されているようにみえる。またマスコミ利用など宣伝の派手な課題が通りやすい。欧米追随とは逆に欧米で問題にされず日本ではやっている研究が拾われている。:11

3)重点的配分されるテーマ、研究体制、金額等にはいろいろ問題がある。重点領域研究というと複数機関・多人数・高額、などときまっている。だが、組織形態は多様でよい。むしろ大グループでなくまず個別的研究から選ぶべきである。また期間を長く、金額を大きくする。また、基礎的調査、データ収集・蓄積にもっと重点配分を回すべきだし、実験系に偏らず数学など理論系にも少額でも重点的配分があってよい。なお、重点的配分による巨額な研究費の経理が研究者の重荷になっている。:7

4)文部省関連の研究費はおおむね公正。一方、他省庁の研究費は金額が大きいが、審査基準が不明のものが多い。特に科技庁の研究費に欧米追随型が多い。:5

3.重点的配分の基準、審査方式について

1)重点的配分のための科学的評価システム、評価の哲学をつくる必要がある。
・研究費は増大したが、審査・評価の体制ができていない。従来の配分には長期的視点がなく、概して時流を追い、投資効果が目に見える研究に偏りがちだ。一つには、過去の実績が判断基準になっているから時流に乗り欧米追随のテーマが選ばれる傾向が強くなるのではないか。重点的配分は学際的領域・独創的アイデアを育てるように使いたい。:14

2)少数でよいから研究者出身で科学行政を専門とする専門官を育成する必要がある。これによって長期的視点からの判断ができるようになる。:3
・重点的予算の分配権者は行政官でなく科学者であるべきだ。重点配分の採択には、各領域のリーダーが当たるピアレビュー方式がよい。:3

3)重点的配分の審査内容や経過を公表して、目に見える配分にすべきだ。審査委員の選出方法や審査基準が不明確では公平に審査しても信頼されない。また、重点的配分を受けるからには、結果についての厳しいチェックが必要であるが、わが国では研究費を出しっぱなしで、結果についてきちんとした評価がなされていない。:9
・審査員が研究者数の多い特定分野や特定研究機関に集中し、採択が偏っているのではないか。また採択がローテーションになっているのではないか。:6

《設問Y》 国際的な研究を発展させるために、障害となっている問題があれば列記して下さい。

〈集計・要約〉

1.全般的問題

1)とくに障害があるとは思わない。:5

2)日本の社会と社会制度全体に根ざす障害があるように思う。それは日本人の体質で、互いに認め合わない、一人で新しい道をつくるのがこわい、といったことに起因しているか、語学力不足、欧米崇拝思想により欧米に気を取られ過ぎているのか、など。:5

2.国際的研究発展の障害になっている問題

1)研究結果が厳密に評価され、それが公表される体制になっておらず、研究費の取りどくになっている。評価が行われてもその基準があいまいである。特に、時流からはずれいるように見える基礎的研究は続行困難な雰囲気があり、独創性が拾い上げられていないのが、国際的研究の進展の障害になっている。研究の評価システムを確立し、すべての分野で国際的評価を行うことが必要だ。:6

2)人事の国際化・交流(採用、給与など)がまず必要。超一流には高額の俸給をを出す、あるいは研究責任だけを課す、というような採用形態ができないか。:6
・また外国人研究者の招聘をもっとさかんにしたり、欧米人のポスドクをもっと採用できるようにする。もっともそれには、各種の慣習の彼我における乖離の解消、住居や研究条件の整備など、受け入れ体制の確立が重要課題となる:4

3)人事の国際化、国際共同研究の推進には、現行の制度の見直しやインフラの整備が必要になる。日本の大学のインフラストラクチャの貧困さは目を覆うほどである。:25
・装置はあっても、技官その他のサポーティングスタッフがいない。国内外の研究における物品購入・財産管理など事務手続の煩雑さ。外国との会計年度のずれに加えて予算の単年度制による余裕のなさ、など、制度的問題は枚挙にいとまがない。また、国際共同研究をするには5−10年に及ぶ長期にわたって予算の裏付けが必要なので、息の長い研究援助を期待する。今はすべての研究費が超短期的、細切れである。
・なお、この問題に関連して、科研費の国際学術研究が打ち切られ基盤研究に含められたのはいろいろ支障がある。特に年度初めの研究はこれまで以上に困難になる。

《設問Z》 機器の開発・保守のための要員・設備、引き続き性能向上を図るための機器改良予算など、研究の持続的発展のために不可欠な配慮に欠ける事例、あるいは、投入された予算を研究者が生かし切れない障害があったらお教え下さい。

〈集計・要約〉

1)機器保守費(運転費でなく)が欠如、あるいは不足しているため、性能が生かされておらず、また十分に使用可能な機器が使えない状態に置かれている。機器保守費を支出できるように是非したい。:8

2)過度の重点配分で、機器を活用し切れていない。たとえば補正予算等がつくと装置等は購入できても、運転費も保守費も出ないケースがある。使用可能なのに研究期間が過ぎると運転費がないので、せっかくの装置が活用できないことが起こる。また、保守運転要員もいない。一般に機器の設備費に対し運転費が少なすぎる(いまは4%だが実際には設備費の8−10%/年は必要)。:11

3)開発されたばかりの高度な機器より使用頻度の多い一般的な機器を購入したいという希望は意外に多い。これに対処するには、重点的領域より基盤的研究に配分を増せばよい。:4

4)インフラストラクチャー、特に技官の問題。:22
・技官数が急減、技官職を廃止する方向にあるが本来これは必須の存在であり、高度の専門性を備えたテクニカルスタッフとして遇する制度を確立する必要がある。
・具体的な例としては、長期観測が必要な分野で人不足のため観測の継続困難になりつつあり、せっかく蓄積した資料が活用されない。大型施設で外注による警備員・放射線安全監視員の質の低下で困っている。コンピュータ管理員がいないためボランティアに頼らざるを得ない状況にある、など。一方、大学院生やポストドクトラルフェロー(PD)を活用しようにも、まだ数が少なく制度の種類ばかり多い。日本の院生らには実力がない、などの問題がある。

5)インフラストラクチャー、特に建物や基本設備の老朽化の問題。:9
・その情況は急速に悪化している。建物と電気設備の老朽化、スペース不足で機器の活用ができない、工作機械の更新が困難である、など、きわめて深刻である。

6)単年度予算制、予算枠等、予算執行の硬直化で多くの無駄が出ている。:11
・設計の年度、製作の年度、のように複数年度支出のシステムがほしい。

《設問[》 多数決ではこぼれ落ちてしまう真に独創的(同時に冒険的)研究を発掘し育てるには、国のどのような施策が必要とお考えですか。思い切った案を記して下さい。

〈集計・要約〉

1)真に独創的な研究は他人が評価できないはず。そのような研究を的確に発掘するのは困難で、結局は研究者の層を厚くするほかない。それには、なるべく多くの研究者に完全に自由な研究費を与え、研究の裾野を拡げることだ。:17
・重要なことは、研究費を出したすべての研究に成功を要求しないことである。無駄はしかたがないと考える。

2)若手の研究者を優遇する。選ばれた若手研究者に5〜10年くらいにわたって人件費を含む十分な研究費を与える。あるいはRA制度を大幅に拡大し、博士課程院生の待遇改善を図る。:7
・有望な研究者の雑用を完全になくす。あるいはサバテイカル制度を確立させる。
・科研費の萌芽的研究では、支給額は少なく成功が要求されている。これでは駄目だ。

3)研究レビューの専門機関をつくり、国外の最適の審査員も加えた審査の専門家による審査によって厳密な審査を行い、また研究成果を評価して結果を公表する。:17

4)民間財団に資金を与えて冒険的研究を助成させる。あるいは科研費に匹敵する資金源をもち、違う評価基準を持つ組織を用意する。:2
・そして文部省はガン、遣伝子、宇宙、環境等他省庁からの予算が期待できる分野には予算措置をしない。:1

《設問\》 その他、国の研究関連予算の配分についての意見、あるいは希望などがあれば記して下さい。

〈集計・要約〉

1.研究費投入の方針

1)一応の評価を得た研究者には一定の経常研究費を認めるべきである。
・教官当り積算校費を増額すべきである。

2)巨大プロジェクトに多額の研究費を集中的に投入すると日本の科学の成果が上がると考えるのは錯覚だ。今の重点配分重視主義を貫くと、基礎研究は運営費・維持費の不足でつぶれる。理学には百年レンジでの評価が必要である。:11

3)現在は研究費はかなり出ており、アカデミックバブルの状態といえるほどである。たとえば補正予算の形で過剰な施設費が投入されている。だが短期的に多額な資金を特定箇所に投入しても駄目で、これでは恐るべき無駄をしているといえる。これを防ぐためには適切な重点的配分をすることが重要である。一律配分・横並びは駄目である。単年度会計をやめ、事務の簡素化をはかる。など。:3

4)文部省の研究費は他省庁に比べてきわめて低額である。高等教育研究予算は現在は一般歳出の2.1%だが、もっと高等教育に支出してよい。歳出予算の一定額を研究費に充てるようにする。:2

2.研究費関連事務・制度の問題

1)研究費の申請・経理などの事務処理を簡素化する。たとえば単年度決算でなく、使途の制約を撤廃し研究者の責任で処理できるようにする。人件費、事務諸費用などを盛り込めるようにする。特に研究費の単年度会計をやめると研究費の無駄が大幅に防げる。現在、全ての予算は申請の6〜7割しか配当されない。水増し請求を国が認めていることになる。:11

2)他省庁管轄の国立研究所にはあつい予算がでていて、無駄な投資が多い。
予算の縦割り制度を止め、省庁間の連絡を密に、重複は配分を全体を調整するシステムを作る。現在は研究成果の評価すら省庁間で共通でなく縦割りになっている。:7

3)長期的視野での予算配分ができるようにする。それには研究者が行政府に進出することが望まれる。有能な科学アドバイザーを養成する必要がある。:2

4)重点的研究費の金額を大きくする。また、重点的配分の採択率を上げる。何年かに1度、では研究は発展しない。:2

3.審査・評価

1)研究計画の採否の公平性・公明性を確保する。すなわち、審査方針を明確化し、研究成果の評価を行ってその結果を公表するようにする。:6

2)基礎研究を支援する研究費は、応用を目指す研究支援の研究費とは別枠で支出するようにする。あるいは別の研究費配分機構を設けること。たとえば米国では、基礎研究はNSF、病気はNIH、エネルギーはDOEというようにしている。:1

個人向けアンケート 終わり


V−b 機関向けアンケートの集計

要約の末尾の数字は、回答数(複数回答可)

《設問T》 文部省予算について伺います。貴機関では、文部省から配当される予算をどのような費目に使っておられるのでしょうか。そのうち主要なものについて、その種類と貴機関の本年度の総予算に占めるおよその比率を、以下の表(表1)に記入して下さい。

【資料】表1 設問Iの類型 文部省予算の使途(数値はすべて%)

《設問U》 各費目が次のどれに該当するか、番号などで示して下さい。

 1.教官あたり校費など、規模に応じて配分されるもの。
 2.審査のあるもの(たとえば大学改革推進等経費、高度化推進特別経費など)
 3.両方を合わせて使用している。この場合凡その比率を示して下さい。(回答の集計は設問Vとともに表2に示す)

《設問V》 上の設問であげた費目の、貴機関における性格を伺います。

〈集計・要約〉

1.一般研究費、教育費、共通経費は現在の活動を支え、継続する上で不可欠のもの。
2.大型機器購入費、学長裁量経費:研究条件の改善を目指すもの。
3.文部省科研費:本来は研究条件の改善や発展を目指すものだが、現実には現在の活動を支えるもの。
4.さらなる発展のための投資的なもの。


【資料】表2 設問II,設問IIIの類型 文部省研究費の性格(回答数/総回答数)

《設問W》 貴機関では、文部省以外の省庁や民間からの研究費が全予算のどのくらいの比率を占めているか、概数を記して下さい。

【資料】表3 設問IVの集計 文部省予算が全予算に占める比率(%)

《設問X》 平成10年度の当初予算で運営費を(15%)削減されましたか。削減された場合には、その費目は貴機関の予算の中でどのような性質のものであったか記して下さい。この削減によって生じた研究上の損害(放棄せざるを得なくなった計画、国際的信用の下落なども含む)について、出来るだけ詳しく教えて下さい。

〈集計・要約〉

1)学部でアイソトープ施設等経費が削減。日常的経費に直接影響している。:4
・学部・付置研で、付属施設経費が削減されたため、教官当たり校費、学長経費等を運営費に補填。このため、通常の研究活動を縮小せざるを得なかった。:11

2)学部・直轄研で、削減のため図書費等に影響した:6

3)直轄研・全国共同利用研などで、電算機ほか特殊設備・特別の大型装置等の運転時間の削減、保守点検回数の削減、系統保存事業の見直し、高額図書の削減、などを行った。:10

4)削減はあったが少額で特に支障はない。:2
・運営費の15%削減はなかった。:10(学部8、研究所2)


《設問Y》 今、研究費(予算)の増額を要求するとしたら、どの費目の増額をもっとも希望するか、費目の名をあげ、必要とする理由を記して下さい。

〈集計・要約〉


1)教官当校費(一般研究費)。 学部:16、研究所:7
・競争的資金は増えているが、理学の研究・教育にとっては、チャレンジングな研究を自由な発想と探求心で研究するための自由な研究費が必要である。当り校費は恒常性があって計画が立てられる資金であり、理学の研究基盤を向上させ、研究水準維持のため大幅引き上げが是非必要。いまは少なすぎる。
・当り校費は光熱水費・維持運営費にとられ、研究費が減る一方である。現状では中型機器の購入が困難。科研費で購入した機器の維持のために校費が必要。

2)特別設備費。 学部:7、研究所:3。
・維持費のつく最先端特別設備費をもっと増額してほしい。耐用年限の過ぎた機器の更新ができず、研究教育に支障。特に中位の金額の備品費。
・望遠鏡建設費・大型電波観測装置の開発費・プラズマ高温化の計測ほか・地殻変動観測装置などの装置費。

3)付属施設運営費。 学部:4、研究所:4
 共同利用者が増加、運営困難。光熱水料・人件費が支出できず、維持できない。施設の設備を安定に運転して研究を実施するための経費が不足。大型観測装置を世界最高に維持するための諸経費なのに、2〜3年に1回の割で削減が続き、運営可能なぎりぎりのところに来ている。

4)教官旅費。 学部:7、研究所:1。
・年1回の出張がやっとでは学会活動もままならない。他研究者との討論のため。遠隔地の施設に往復するために必要。フィールド系の研究ができない。

5)共同利用施設の運営費。 学部:3、研究所:4
 光熱水料・人件費など十分に支出できない。装置の性能を上げるため。

6)その他の費目。
・人件費(学部:4、研究所:2)。
・特殊装置維持費(学部:2、研究所4)。
・学生当積算校費(学部:5)。
・共通経費(研究所:5)。
・学長裁量経費(学部:3)。
・図書購入費(研究所:3)。
・建物等の修理改装費(学部:1、研究所:2)。


《設問Z》 現在の費目にない予算の要求(この様な新しい費目があるとよい、あるいは、かつてあった費目を復活させて欲しい、といった希望)をするとしたら、どのようなものがありますか。

〈集計・要約〉

1)研究補助者雇用費。 学部:4、研究所:3。
・人員削減を補うための人件費。現在は特に情報処理の専門家が不足している。また、ポストドクトラルフェロー(PD)雇用のための費用の増額。

2)海外研究者との研究交流のための費目。 学部:3、研究所2
 外国人招聘旅費。国際共同研究費 国際会議出席旅費・研究用海外出張旅費で、年度当初から予算枠が用意されていて、機関の判断で支出可能とする。申請、採択を待っていたのでは理論の研究の場合間に合わない。

3)大学院・学部学生用旅費。 学部:5。
・学生・院生の観測・野外調査旅費、院生の国内学会、出席旅費。学生・院生の国際研究集会への参加費。

4)建物施設の維持費・運営費。 学部:3、研究所:2。 光熱水料、事務費、建物維持費、環境整備費など、大型装置以外の施設維持に必要。

5)学生実験設備の経費。 学部:4。
・設備更新費、理工系設備拡充費、大学院設備費などの復活。学生実験用の備品購入費とその維持費として教育用に是非必要。

6)大型設備の更新、科研費で購入した機器の維持費。 学部:4。

7)その他の希望
・高度化推進特別経費のうち国内招聘旅費の復活(学部:2)。
・教官当積算校費の増額(学部:2)。
・教官移転経費(設備の移転経費。学部:2)。
・科研費国際学術研究の復活(学部:2)。
・一般設備費(学部:1、研究所:1)

《設問[》 自律的研究のための配分(当り校費、科学研究費の中の基盤研究)と、競争的な重点配分の比率について伺います。

〈集計・要約〉
両者の比率:
1.現在の比率でよい・・10/35(学部:3、研究所:7)
2.自律的研究を増額・・20/35(学部:15、研究所:5)(希望平均:56.7%増、希望範囲:200〜7.5%)
3.重点的配分を増額・・51/35(学部:2、研究所:3)(希望平均:45.8%増、希望範囲:100〜5%)
4.回答なし・・・・・・8

《設問\》 予算の流動化について伺います。少ない予算を有効に使用するには、他の費目に流用したり、次年度に繰り越すなど、出来るだけ流動的であることが望まれます。流動化に限界があるのは当然ですが、流動化されるとよい、と思われる費目をあげ、それを何に、どのような形で、流用するとよいか、出来るだけ理由をあげて具体的に記して下さい。

〈集計・要約〉

1)校費を旅費へ流用。 学部:12、研究所:6
・旅費枠があまりに小さく、研究教育に差し支える。流用可能な割合を決めておく、などすればよい。
・校費を特に海外出張旅費へ流用(国際化が叫ばれているのに予算が少なく、申請から支給まで時問がかかりすぎる)。また特に外国人招聘旅費・講師等旅費に流用。

2)予算の有効利用のため、各種費目間で流用。 学部:4、研究所:3
・予算の流動化は科研費では既に実施され、有効であることがわかっている。年度末の予算消化の無駄や、年度始めの予算不足解消のため。ただ、費目間を流動化するより、費目を統合するほうが楽で効果的であろう。

3)校費の次年度繰越。 学部:14、研究所:4
・一定比率、たとえば20%まで次年度繰越可、とする。・あるいは次年度のある時期まで執行可とする、などにより、たとえば、中・大型機器類の購入、外国雑誌購入、輸入特殊消耗品の購入が容易となる。年度末に帳尻を合わせる無駄がなくなる。

4)科研費を複数年度会計とする、また使途制限を緩める。 学部:2、研究所:3
・計画性、効率性を考えると3年程度の複数年度執行にするのがよい。
・科研費から光熱水料、人件費の支払いができるようにすることもこれから重要。

《設問]》 上の設問に関連し、機器の開発・保守のための要員・設備、引き続き機器の性能向上を図るための予算など、研究の持続的発展のために不可欠な予算の配慮に欠ける事例、あるいは、投入された予算を研究者が生かし切れない制度上の障害があったらお教え下さい。

〈集計・要約〉

1)過度の定員削減により研究支援体制が著しく弱体化。 学部:9、研究所:3。
・機器管理要員がいなくて性能が生かされない、教官が機器の保守に時間をとられる、などが起こっている。これに対し、外部委託や外注のための十分な予算が支出されていない。・ポストドクトラルフェロー(PD)の増員。より安定・長期的な定員外職員の雇用促進を期待する。

2)機器の維持管理用の予算(人件費を含む)の削減・打ち切り。 学部:10、研究所:5
・購入した大型機器の維持費は一定年経過すると打ち切られる。だがその装置は十分使用に耐え、またそれが稼働しないと研究に支障が出る、改良した機器が生かされない、という場合が多い。またそのため新規に他のために獲得した予算から維持費を流用する、など無理・無駄が多い。個々の装置の情況に即した対応が欲しい。
・また、科研費など購入費目によっては当初から維持費が出ない。このため特に一般設備費、科研費、受託研究費等で購入した大型機器の性能が生かされない。
・測定機器類、コンピュータなどの定期的更新(バージョンアップ)措置がほしい。
・新機器の開発への予算的配慮を増せ。いまは既製品の購入ばかりだ。

3)建物の老朽化とスペース不足。装置を購入しても設置する十分なスペースがない。改装費が出ない。 学部:2

《設問]T》 国際的な研究を発展させるために、障害となっている問題について列記して下さい。研究遂行上支障となる我が国の慣例とグローバルスタンダードの乖離について、実例を挙げて下さい。年度当初から予算枠が用意されている

1)海外からの招聘旅費の問題。 学部:6、研究所:11
・外国人招聘費の予算枠そのものが小さい。もっと増額を。
・招聘事務をもっと柔軟に。外国人招聘に関し、手続に長時問を要し、日本だけで必要な書類も多く国際常識に合わない。たとえば、単年度会計のため年度をまたぐ招聘が認められない。招聘の決定が遅く年度始めに来訪できない、また外国人に対し適切な時期に旅費を支払えない、など。
・外国人招聘のインフラが不備。外国人を招聘しても、研究スペース、適切な宿舎がない。あるいは宿舎はあっても閉鎖的環境で、家族が生活しにくい。

2)海外における研究(出張)の際の問題点。 学部:8、研究所:2
・海外出張手続を簡素化し国内出張に近づける。海外へ装置を設置することの手続や経費上の困難さが相変わらず存在する。公的書類に日・英併記するのをやめる。
・渡航費が不足している。また院生へ旅費が支出できないのは困る。
・支払制度の不備(高額な立て替え払いが必要になる場合がある)。
・科研費の国際学術研究が吸収されて採否の判明が遅くなり、実施に障害となる。

3)会計制度上の問題点。 学部:6、研究所:5。
・教官当積算校費を細かく区分せず、教官の責任にまかす。これにより、校費による国際共同研究の実施、国際会議への出張、RAの雇用、などが支出しやすくなり、研究の効率があがる。
・そもそも教官当積算校費が少なすぎて先端的な研究を継続することが困難。
・国際的共同研究を多年度にまたがって実施することが多いが、継続することの保証ができない。また全体に財政的援助を増額してほしい。
・会計年度の区切りの違いによる混乱。支出だけでなく外国人研究員の雇用などでも支障がある。予算を一定限度内で次年度に繰越すことを可とすることが必要。
・外国では予算の執行は一般に研究者の自由裁量にゆだねられており、クレジットカード支払いが普通。これは支払制度の不備だ。日本では支出時には物品・費用を特定する必要があるので海外の共同研究の分担金の支払いが困難。欧米では研究費を人件費へ投入するのも白由で、PDを雇用して一気に研究を進めることが可能。
・教官当積算校費を細かく区分せず、教官の責任にまかす。これにより、校費による国際共同研究の実施、国際会議への出張、リサーチアシスタント(RA)の雇用、などが支出しやすくなり、研究の効率があがる。
・そもそも教官当積算校費が少なすぎて先端的な研究を継続することが困難。

4)研究支援体制の問題。 学部:4、研究所:2
・定削による支援体制崩壊のため、教官が教育研究以外の業務に忙殺されていて、研究が進まない。
・技術者は欧米では研究者と同数くらいいる。
・技術者に対する高い社会的評価と待遇がない。

5)科学研究費制度の見直し。 学部:6、研究所:2
・科研費の審査方式は改善を要す。日本での研究(国内雑誌の論文)を正当に評価する、外国人審査員導入する、など。
・科研費に投入した予算に対する成果を公正に厳しく評価するシステムの確立。
・長期にわたるデータの蓄積を要する研究に対する研究費の保証がない。
・科研費特定領域研究で、外国旅費使用を認めてほしい。
・国際学術研究が基盤研究に吸収され採否の判明が遅くなり、実施に障害となる。

《設問]U》 その他、国の予算配分についての意見あるいは希望などがあればお書き下さい。

〈集計・要約〉

1)研究費配分の基本原則について。 学部:7、研究所:2
・基盤的研究:わが国で基礎研究を育て人材を養成するには研究基盤を高める必要があり、それには大学・学部の定常的な講座研究費を大幅に増す必要がある。理学の研究は本質的には個人の活動、個人を重視した予算配分がいる。
・重点的研究:一方、重点的配分(事業的研究)は短期的な成果を期待しており、今の重点配分は未来を開拓したり基礎研究を進めることにならない。大型プロジェクト優先になると日本の科学は発展しない。
・重点的配分の企画が文部省側から提案されるのは問題。どうしても目先の応用に力点が置かれる傾向がでる。一時的に特定分野が潤うのでは駄目だ。重点的配分の方針を長期的視点で示して欲しい。
・研究支援体立。特に人の確保、ポストドクトラルフェロー(PD)制度などを充実せよ。

2)予算の執行上の問題。 学部:10、研究所:7
・次年度への繰越や費目間流用を含む弾力的運用が必要。これがないと国際的路線には乗れない。予算費目の種類を大幅に削り、使用に当たっての柔軟性が必要。
・備品の購入規定、最低価格の問題・備品の定義などの見直しが必要。
・科研費の使用基準、使用枠を緩和し、研究者の自主性にまかす。
・科研費から人件費が出せて、ポストドクトラルフェロー(PD)の雇用をも可能とする。研究を進める上で人的資源が最も大切。日本の科研費は装置に偏りすぎている。
・研究の公正な評価システムを確立する。特に重点的配分予算については点検評価を厳しくする。専門家による研究計画の詳細なレビューと申請者への結果の通告が必要である。研究所の活動度を論文数、外国からの招待講演数など、数値化可能なもので測る傾向がある。しかし、これらは必ずしも実質を反映しない。評価基準の明確化が必要である。

3)施設、運営の充実 学部:7
・老朽・狭隘な大学の基盤整備が急務である。研究スペースが狭隘すぎて危険。
・水道・電源の設備の老朽化対策、光熱水料など基本的経費の増額が必要である。改装・運搬などの諸経費の増額、などが緊急の課題である。研究の質の維持のため運営費・維持費の削減は行わないで欲しい。
・ハコモノだけでなく、人材確保のため予算充実、大学の機能全体を向上させる方策(情報センター、図書館、大型施設、などの充実)が望まれる。                                                                       

以上

TOP


Copyright 2002 SCIENCE COUNCIL OF JAPAN