我が国の大学等における研究環境の改善について

「第4常置委員会報告」

平成11年7月29日

日本学術会議

第4常置委員会


 この報告は,第17期日本学術会議第4常置委員会研究環境ワーキンググループで取りまとめた検討結果を,第4常置委員会で審議し,発表するものである。

第4常置委員会
委員長 増本  健(第5部会員 財団法人電気磁気材料研究所長)

幹 事 上里 一郎(第1部会員 東亜大学大学院総合学術研究科教授)
 〃  大山 道廣(第3部会員 慶應義塾大学経済学部教授)
 〃  星  元紀(第4部会員 東京工業大学生命理工学部教授)
 〃  山本 明夫(第5部会員 早稲田大学大学院理工学研究科教授)
 〃  入江  實(第7部会員 東邦大学名誉教授)

委 員 石川 忠久(第1部会員 二松学舎大学大学院文学研究科長)
岩崎 宏之(第1部会員 筑波大学歴史・人類学系教授)
北原 保雄(第1部会員 筑波大学長)
荒木 誠之(第2部会員 熊本学園大学社会福祉学部教授)
佐藤  竺(第2部会員 財団法人地方自治総合研究所長)
高窪 利一(第2部会員 中央大学法学部教授)
東 壽太郎(第2部会員 津田塾大学学芸学部教授)
菊池 敏夫(第3部会員 日本大学経済学部非常勤講師)
栗山仙之助(第3部会員 摂南大学長)
河野 博忠(第3部会員 常磐大学国際学部教授)
坂元  昂(第4部会員 文部省メディア教育開発センター所長)
田中 正之(第4部会員 東北工業大学工学部教授)
益川 敏英(第4部会員 京都大学基礎物理学研究所長)
秋山  守(第5部会員 財団法人エネルギー総合工学研究所理事長)
丹保 憲仁(第5部会員 北海道大学総長)
朝日田康司(第6部会員 東京農業大学生物資源開発研究所客員教授)
岡野  健(第6部会員 財団法人日本木材総合情報センター木のなんでも相談室室長)
中野 政詩(第6部会員 神戸大学農学部教授)
渡邉 誠喜(第6部会員 東京農業大学農学部教授)
内田 安信(第7部会員 明倫短期大学学長)
菅野 晴夫(第7部会員 財団法人癌研究会癌化学療法センター所長)
平沼 謙二(第7部会員 愛知学院大学名誉教授)


第4常置委員会研究環境ワーキンググループ

 座長 山本 明夫(第5部会員 早稲田大学大学院理工学研究科教授)

 委員 岩崎 宏之(第1部会員 筑波大学歴史・人類学系教授)
    高窪 利一(第2部会員 中央大学法学部教授)
    大山 道廣(第3部会員 慶應義塾大学経済学部教授)
    星  元紀(第4部会員 東京工業大学生命理工学部教授)
    増本  健(第5部会員 財団法人電気磁気材料研究所長)
    岡野  健(第6部会員 財団法人日本木材総合情報センター木のなんでも相談室室長)
    菅野 晴夫(第7部会員 財団法人癌研究会癌化学療法センター所長)


研究環境改善への提言

日本学術会議第4常置委員会 研究環境ワーキンググループ

 日本学術会議第4常置委員会研究環境ワーキンググループは、わが国の大学等における研究環境のうち早急に改善すべき点に関する検討を行い、大学における施設(スペース)が現時点において最も緊急に改善を要する問題点である、という結論に達した。

 以下、我々の検討結果を含め、施設に対する問題点を指摘し、研究環境改善のための提言を行いたい。

1.科学技術基本法の成立により、科学技術の振興はわが国の重要政策課題の一つとして位置付けられ、関連施策の総合的、計画的、かつ積極的な推進が進められることになった。基本法の成立に続いて、科学技術基本計画が策定され、5年間で17兆円の国費を投入し、大学等の研究環境の改善が図られることになった。同計画は、狭隘化、老朽化の著しい大学等を計画的に整備する必要性を指摘し、老朽化、狭隘化対策に1200万m2の整備が見込まれるとしている。たしかに、この基本計画により文部省の科学研究費補助金(科研費)が増額され、政府出資金による各省庁からの研究費が大学等に新たに供給されるようになって、一部の大学、研究グループでは研究費が潤沢になり、最新鋭の研究機器が設置されるようになった。研究設備等の研究環境に関してはかなりの改善が見られた。

 大学の人員拡張は、戦後長年に渉って行われてきたが、大学関係の建物、施設の新設、更新は人員の拡充に追い付かず、多くの大学において不足状態が解消されないまま、極端な過密状態が続いている。特に自然科学系の実験室においては過密状態は著しく、研究者の安全、健康への影響が憂慮される状況である。多くの大学では、スペース不足のため、新鋭の機器の導入もままならず、スペース問題は研究活動を発展させる上で最大の阻害要因になっている。

 スペース問題は、科学技術基本法にうたわれている、科学技術創造立国のために優先的に解決しなければならない課題である。

2.国立大学に関しては、平成6年に、長期に渉って固定されたままだった基準面積が20%増に改定された。しかし増大する大学院学生数に比べて建物の建設は大幅に遅れており、過密状態はますます悪化している。改訂された基準面積でも欧米の水準からすれば極めて不十分なものであるが、その基準面積に照らしても現状の建物面積は大幅に不足しており、その差は約500万m2にのぼる。ちなみに、東京大学の全建物面積は約100万m2であり、不足している建物面積は東京大学5校分、東京工業大学の規模では17校分に相当する。

科学技術基本計画において策定された1200万m2の整備目標に対して平成10年12月までに建設された建物は80万m2に過ぎず、計画の達成は大幅に遅れている。今後残された期間において、整備を実現する計画は殆ど纏まっていないように見える。現状は、基本計画に盛られた整備計画を達成する意志も方策も政府にはないのではないか、と疑わせるものである。

 政府は、科学技術基本法立法の精神にのっとり、科学技術基本計画を実現するべく、最大の努力を傾けるべきである。

 3.狭隘な環境は自然科学系の研究室に共通しているが、なかでも化学系、生物系の研究室は過密状態が著しく、消防法の規準を満足できないほど狭隘な研究室が多い。研究室の劣悪な研究環境は外国からの訪問者を驚かす程である。もし、兵庫県南部震災級の大地震が過密な研究室で実験者の活動中に起きたとしたら、惨澹たる被害が発生するであろう。1995年に同地震を契機として耐震改修促進法が成立し、小中高校、及び官庁建築に対しては耐震診断、耐震改修が進んでいるが、大学に対してはほとんど対策は進んでいない。

 一方、化学、生物系以外の自然科学系や、人文社会科学系研究室でも、情報機器導入のためのスペース不足など、従来の基準面積では収まり切らない問題が生じている。研究室における、安全な、ゆとりのある研究環境を実現することは緊急の課題である。

4.現在の劣悪な研究環境を改善し、先進国並みの水準に近付けるために、自然科学系の研究室においては、望ましくは現有面積の3倍、最低2倍程度の建物面積が必要である。また人文社会科学系を含め、最近の研究の進歩により研究室使用の状況も大きく変化しているので、国立大学における専門別建物基準面積は、研究従事者の増加、設置機器の高度化、情報化対策等を考慮して妥当な水準に改定されるべきである。また、教育研究にたいして重要な役割を果たしている私立、公立大学にたいしても適切な助成が必要である。

5.大学等における研究教育施設は重要な公共財であるとともに、わが国発展の鍵となる「新しい社会資本」である。最近、道路、港湾、鉄道、一般住宅等に対する在来型の公共投資が景気の回復に結びつかず、景気対策への有効性が薄れていることが指摘されており、情報、通信基盤が「新社会資本」として注目されている。大学等の建物への投資は、内部設備の充実を含めて関連する需要があり、継続的な需要が見込める。また、最新の研究設備で訓練された人材は、社会においてさらに新技術の開発を通じて需要の拡大に貢献する。さらに、大学は今後、知的欲求を持った市民に対する生涯教育など、地域文化基盤の形成にも貢献することが期待されている。しかし、現状では大学は充分な人的能力を持ちながらその能力を充分に発揮出来ない状況にある。大学に充分な資本投下を行い、その能力を充分に発揮させることこそ、長期的、継続的に果実をもたらし続ける、新社会資本の整備といえる。

 大学等の施設に対するこれまでの投資の遅れを取り戻し、粗悪な老朽化した建物を改築するだけでも数兆円の巨費を必要とする。しかし、新社会資本への投資は、景気対策としてのみでなく、未来の日本を築くための重要な投資として考えられなければならない。施設に対する投資のこれ以上の遅れは今後の学術研究に重大な影響を及ぼすおそれが大きい。これはわが国の今後の科学技術の発展にとって放置できない重要問題である。

6.現状でも大学等の建物に対する投資は大幅に遅れているが、大学審議会の予測では、今後大学院学生の大幅な増加が見込まれ、さらに外国からの留学生、企業からの研究生、ポストドクトラルフェロー等も今後さらに増加することが予測される。したがって、大学の施設に対する手当てを怠れば、今後大学の研究室等における過密状態はさらに悪化することは明らかである。

 現在のような研究環境の狭隘化、劣悪化を招いた責任の大半は、これまで必要な投資を怠った政府にある。しかし、劣悪化した状況を知りながら、それを看過し、研究能力増強のために学生定員の増加を歓迎し、狭隘度、危険度が高まることを黙認した大学人、研究者にも責任の一端がある。安全でゆとりのある研究環境を準備するのは、政府のみならず大学人の責任でもある。

 大学における学生人員の増加の前提として、土地の手当てを含め、思い切った先行投資が建物建設には必要であることを強く指摘しなければならない。

7.利用可能な土地面積の限られている大学においては、建物の新設、更新は順繰りに実施する必要があり、立案と計画実現に時間を要する。最近の国立大学における建設例の多くは補正予算によるものであり、長期的視野にたって計画が実現されたものは少ない。予算の内示後短期間に建物を建設することが必要な場合には、空いている敷地を利用して低層の建物を建設する場合が多く、限られた土地の有効利用という観点から見て、効率の悪い建設が行われている例が多い。大学のキャンパスにおける建物の新設、更新は、大学側が充分に練り上げた基本計画に立って実現されなければならない。

8.まもなく、次期の科学技術基本計画を策定するべき時期が来ている。大学等における施設問題が科学技術進歩のための最大の阻害要因になっていることを認識し、安全でゆとりのある研究環境を実現するため、次期の基本計画では、合理的な中、長期整備計画を練り、十分な予算の手当てが建物建設と土地取得のための先行投資にたいして優先的、集中的に行われることを要望する。

9.科学技術の健全な発展には日本の将来がかかっている。さらに、全地球的な問題の解決には、わが国の科学技術の貢献が必要である。そのための最も重要な基盤である研究施設の充実を強く訴えたい。


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内容

目次


1.はじめに

2.大学等における研究スペースの現状
 2.1概況
 2.1.1 大学の規模拡張に大幅に遅れた施設の充実
 2.1.2 国立大学における施設の老朽化、狭隘化の現状
 2.1.3 大学院拡充による狭隘化の進行
 2.1.4 今後の見通し. 大学院拡充により予測される施設面積の一層の不足
 2.1.5 不充分な建物改修費、先行投資

3.研究環境アンケート調査結果の考察
 3.1 研究室等の面積
 3.2 研究室等の面積が少ない理由
 3.3 不足しているスペース
 3.4 新たな研究設備の設置スペース
 3.5 日本学術会議第14期第3常置委員会による調査結果との比較

4.各専門分野別の研究室スペースの状況
 4.1 化学関係の研究環境に関する調査結果
 4.2 化学以外の理工系関連研究室の実情
 4.3 人文社会科学系における問題点
 4.4 生物系実験室の実情

5.国立大学附置研究所における状況

6.公立大学、私立大学における状況
 6.1 公立大学における状況
 6.2 私立大学における状況

7.他省庁の研究機関における状況
 7.1 国立試験研究機関における状況
 7.2 理化学研究所の場合

8.外国の大学における実情との比較
 8.1 米国における施設整備の状況
 8.2 他の外国における研究環境

9.科学技術基本法と学術研究環境
 9.1 科学技術基本計画の策定と計画実施状況
 9.2 大学側にも責任

10.まとめ


付属資料目次

1.人文社会科学関係
 1.1研究スペースの経済学
 1.2慶應義塾大学(人文・社会科学系)の状況
 1.3人文社会科学系におけるスペース問題の深刻化
 1.4人文社会科学系におけるスペース問題の深刻な事例
 1.5文系学部におけるスペース・図書館面積事情

2.化学関係研究環境(実験スペース、安全性)に関する化学系学科、専攻主任のコメント
 2.1スペース関係
 2.2安全関連(高圧ボンべ等)
 2.3安全関連(危険物取り扱い等)
 2.4安全関連(毒物、劇物取り扱い)

3.電気情報系関連研究室の実情
 3.1電気系関連研究室の実情
 3.2情報工学系研究室の実情

4.生物関係実験環境
 4.1共通する全般的状態
 4.2資料の保存、保管を必須とする研究領域
 4.3優れた研究拠点の充実
 4.4病院
 4.5オープンラボの提案
 4.6私立大学、公立大学生物系におけるスペース事情
 4.7農学系における問題点

5.研究環境に関する日本学術会議のこれまでの取り組み

6.平成5年2月25化学研究連絡委員会報告

7.国立大学附置研究所における状況−東北大学における現状−

8.公立大学におけるスペース事情

9.私立大学におけるスペース事情

10.理化学研究所におけるスペース事情

11.地震による危険

参考資料


.はじめに

 日本学術会議第4常置委員会研究環境ワーキンググループでは、我が国の大学等における研究環境のうち早急に改善すべき点に関する検討を行い、大学等における施設(スペース)が現時点において最も緊急に改善を要する問題点である、という結論に達した。

 科学技術基本法が制定され、科学技術基本計画が策定された結果、文部省関係の科学研究費補助金(科研費)が増加するとともに、政府出資金による各省庁からの研究費が大学をはじめとする研究機関に供給されるようになった。その結果、一部の大学あるいは研究グループでは以前に比べて研究費が潤沢になり、研究設備などは最新設備の購入、更新が行われ、かなりの改善がみられた。

 それに比べて、大学関係の建物、施設(スペース)に関しては、多少の建設、更新はあったものの、建物の新設、更新は人員の拡充に追い付かず、多くの大学において、不足状態が解消されないまま、極端な過密状態が続いている。特に自然科学系の実験室においては不足状態は甚だしい。一般に実験室の環境は悪く、研究者の健康にも悪影響をおよぼす程であり、事故が起きた場合には過密状態の為に二次災害をひき起こす危険が多いままに放置されている。多くの大学においては、スペース不足のため、新鋭の研究機器を導入しようとしてもその余裕がなく、スペース問題は研究活動を発展させる上で最大の阻害要因になっている。

 大学審議会では、今後大学院学生の大幅な増加を予測しているが、現状では増加分を収容する余地が乏しく、このまま放置すればますます過密状態が悪化するものと予測される。大学院学生のほかにも、外国からの留学生、企業からの研究生、ポストドクトラルフェローを受け入れるためのスペースがなく、全体として、我が国の科学、技術の進歩を阻害する状況が現出している。

 文科系の研究室においては、自然科学系に比較すれば、多少深刻な状況は少ないが、人文社会科学方面でも、学問の進歩とともに研究対象、手法が変化しているにも関わらず、情報化への対応等が遅れ、研究室における環境、条件は国立大学、公立大学、私立大学を問わず、悪化している。

 国立試験研究機関等では、別の問題点はあるものの、施設的には大学における状況より問題の深刻さはすくない。

 企業においては一般に、安全問題への意識が高く、良好な企業イメージを維持するための努力が払われてきた。大企業では大学に比較して高額の投資が研究開発に投下され、安全でゆとりある研究環境を実現している会社が多い。大学における研究環境とはゆとり、健康面、安全面において大きな差が生じている。

 研究教育施設は重要な公共財であるとともに、わが国の将来の発展の鍵をにぎる「新しい社会資本」である。多額の税金を注入しても、景気対策の効果がうすれてきている道路、港湾、鉄道、一般住宅への投資と異なった「新社会資本」への投資は、経済政策としても有効性を増している。しかし、新社会資本への投資は景気対策としてのみでなく、未来の日本を築くための重要な投資として考えられなければならない。

 我が国の大学等における研究環境を改善し、21世紀へむけての発展条件を整備するために、「知の資産」としての新社会資本に思い切った投資を行い、長期の使用と将来の発展を見越した建物を建設し、現状の劣悪な研究環境を一刻も早く整備することが最も重要な課題である。

 以下、スペース不足の状況を概観し、研究環境改善のための提言を行う。

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.大学等における研究室スペースの現状

 現状を分析し、その改善を提案するためには、基礎になるデータが必要である。しかし、残念ながら、統計の基礎となるデータは極めて不十分であり、スペース不足の状況を考察するには不満足なデータしか整備されていない。そこで、大学における最近の状況を比較的良く反映している資料であると考えられる、平成9年の科研費基盤研究によるアンケート調査報告書「大学の研究者を取り巻く研究環境に関する調査報告書」(研究代表者 太田和良幸) 1および学校基本調査報告書等の文部省資料を中心とし、その他の資料2 3 4も参考にして解析をおこなった。

2.1概況

2.1.1 大学の規模拡張に大幅に遅れた施設の充実

 第2次大戦後の復興期から経済成長期にかけて、大学進学希望者の増加と民間の旺盛な人材需要に合わせて大学の拡張が行われ、国立大学では教職員及び学生定員が大幅に増加した。一方私立大学、公立大学においても大幅な拡張が行われた。大学の拡張は学部のみではなく、大学院にも向けられ、大幅な定員増加が行われた。平成10年10月に発表された大学審議会の答申によれば、1960年(昭和35年)の大学院在学生は1万6000人であったのが、1998年(平成10年)には10倍を超える約18万人に増加している(図1)。

大学院を置く大学としては、私立大学が国立大学の3倍あるが、学生数では国立大学の方が私立大学の約2倍の在学者を有している(図2)。大学の学部及び大学院におけるこのような学生数の増員は、比較的良質の人材を多数社会に供給することにより我が国の経済成長を支える役割を果たし、また大学院学生の増加は我が国における基礎研究、及び応用研究の研究戦力を充実させ、研究水準の向上に貢献した。

 しかしこのような大学及び大学院における人員の拡充はそれに相応しい施設、設備の充実を伴わずに推進されたため、多くの大学において過密状態を招き、大学における研究環境は大幅に劣悪化した。大学、大学院学生の大幅な量的拡充にもかかわらず、これまでの文部省関係の文教施設にはこのような拡大に見合う投資が行われなかった。図3−1、3−2に示すように昭和39年(1964年)以降の施設整備費予算の年次推移5は、新設大学設置及び巨大科学関係の施設費を除外すると、一貫して低く抑えられてきた。既設大学に対する建物の新設、補修、増設の費用は我が国の約100校の全国立大学に対して数百億円にも満たない額でしかない。バブルの最中でも大学等への投資は低く抑えられたままであった。かえって、予算編成上、ゼロ・シーリング、マイナス・シーリングの影響を大きく受け、平成2年度、3年度には、既設の国立大学に対する施設整備費は僅か100億円前後の未曾有の低水準に抑えられた。

 その中で、平成5年度、7年度の施設整備予算が図3−1にあるように、他の年度に比べて過去の水準の数倍と突出しているのは、補正予算によるものである(予算額に関しては図3−2参照)。しかし、この時期における投資額でも、必要量の一部を充足するに過ぎなかった。長期的視野に立って、未来に向けて大学施設の整備を行うのではなく、その時その時の社会情勢、財政情勢によりようやくある程度の投資が行われてきた状況がみてとれる。

 大学の施設は順繰りに建て替える場合が多く、急には多くを整備できない。老朽化、狭隘化施設の整備は、計画的、継続的に行われなければならない。しかし、これまでの整備状況は極めて不十分であり、未来に対する投資をしてきたとはとても言えない状況である。今後は、現状を少しでも改善するための投資を行うとともに、予測される大学院生の急増に対して充分な先行投資が必要である。

2.1.2 国立大学における施設の老朽化、狭隘化の現状

 多くの大学の施設は、材料が粗悪な時代に建てられたものが多く、改造、建て直しを要する老朽化した施設が多い(図4)。また、「耐震改修の促進に関する法律」の施行に伴い、昭和56年以前に建築された現行の耐震基準を満たさない建物については、早急に耐震改修等を進めることが必要になっている。小中高校および官庁建築に対しては中央省庁・自治体により耐震診断・耐震改修が進んでいるが、大学では全く対策が進んでいないと言っていい状況にある。つまり1981年以前の建築物については地震に対して建物自体が危険な状態にある。また、狭隘化が進んでいるため、火災、爆発、毒物拡散などの二次災害発生の危険が増している。このような状況に対する改修整備は非常に遅れている。もし、平成9年度予算ペースで改修整備が推移したと仮定すると、およそ10年後には、経年20年以上の建物は現在の1.4倍になり、全保有面積に対する比率は7割を越えると見込まれている。平成10年度の国立学校施設全保有面積2,193万m2のうち、建築後20年以上経過した建物が55%、そのうち建築後30年以上経過した建物は約50%に上る。老朽化した建物を更新するだけでも、今後多額の経費が必要になると予測される(図5)。文部省資料によれば、平成7年5月現在で、改築を要する建物面積は、180万m2(全保有面積の約1割)に上り、整備不足面積も380万m2となっている。図6に国立学校施設の必要な面積を示す(図6)。

 また、自然科学系の実験室では、研究の高度化に伴い、各種の特殊実験室、実験棟が必要になっているが、そのような状況変化に対する対応はほとんど行われていない。

 人文社会科学系においても、研究態様は最近大幅に変化してきており、高度な情報処理による新しい歴史的事実の発見や、膨大なフィールドデータの解析等が行われており、従来の個別学問並立型から分野統合型研究が進められているが、施設不足のため、これらの要求は応えられていない。

 さらに、我が国の国立大学では減価償却の概念がなく、保守に対して充分な予算が手当てされていないため、建物の寿命を縮めている例が多い。欧米の感覚から言えば、建設後30年の建物がそれ程劣化していると言うのは理解しにくいことであろう。建て方、材料が粗悪であったか、メインテナンスが極めて悪いか、そのどちらか、あるいは両方であると考えられよう。特に大戦後の材料の粗悪な時代に建てられた建物には劣化が激しいものも見受けられる。また、メインテナンスが悪い為に劣化を加速している例も見受けられる。今後は営繕費にも充分な手当が必要である。また、建物の断熱が不十分な場合が多く、冬期には暖房コストがかさみ、居住性が劣る建物が多い、と外国からの訪問者も指摘している。

 文部省における施設面積の基準は約40年に渉って固定されたままであったが、平成6年に一部の見直しが行われ、狭隘化対策として、大学学部、大学院校舎、附置研究所・付属研究施設を対象に、約20%増の基準面積の改訂が行われた。改訂理由は、助手、留学生の研究室、実験室の確保および教授・助教授の研究室の面積加算、大学院学生の実験室の面積加算、および共用機器室・資料室の面積加算となっている。

 しかし、自然科学系の大学、大学院では、急速な技術革新により各種の機器類の設置が行われているため、研究者のためのスペースが圧迫されており、しかも、学生や、留学生、研究生、ポストドクトラルフェロー等の研究者数が急速に増加しているため、改訂された基準でも依然として現実の要求を反映しているとは言えない。実験系で安全でゆとりある研究環境を実現するためには、将来的見地からは3倍の面積の充当が望ましいが、最低現在の2倍の面積が必要である。しかし、現状はこれとは程遠く、また面積増が認められても、実際に面積拡張が実現するには、年次計画に従ってかなりの遅れが生ずるため、このままでは、狭隘化解消の可能性は全く見えない。

 図7−1に国立学校の現有面積と学生数に応じた必要面積の年次推移を示す。6 平成6年度から学生数に応じて必要と考えられる建物面積が急に増加しているように見えるのは、この改訂による必要量を見込んだためである。多くの自然科学系実験室における実際の状況はこれより深刻なことに留意する必要がある。

 一応この改訂された基準によって計算するとしても、国立大学の学生数に応じて必要と考えられる建物面積は2,619万m2と見積もられている。それに対して、現在の保有面積は約2,200万m2であり、そのうち健全面横は約2,100万m2であり、差し引き不足面積は約500万m2にのぼる。因みに、東京大学の平成10年の全建物延べ面積は100万m2であり7、500万m2は同大学5校分、東京工業大学規模8では17校分に相当する。

 しかも、もしこの基準が充足されたとしても、実際の狭隘さはまだまだ欧米の水準から懸け離れた劣悪なものにとどまるに過ぎない。災害時の危険を除き、過密状態を解消するには、国立大学だけで1000万m2は必要である。

 建物建設単価を仮に30万円/m2とすると、500万m2の建物建設に必要な経費を試算すると1.5兆円になる。1000万m2の建物建設に必要な金額は、約3兆円である。これはたしかに莫大な金額であり、財政再建が優先された時代には考えられもしない巨額の投資である。しかし、科学技術基本計画で5年間に科学技術関係に17兆円を投資することがうたわれていることを考え、最近景気振興のために投入されている国費の額を思えば、支出不可能な額ではない。「新社会資本」の一つとしての科学技術研究基盤への投資は何よりも未来への投資であり、また波及効果があり、実効のあがる経済対策であると考えられる。

 以上資料の入手しやすい国立大学の施設について考察してきたが、公立大学、私立大学においては、大学によっては、国立大学におけるよりも更に狭隘化が甚だしい。大学の設置者がそれぞれ異なるため、公立大学、私立大学の問題は国立大学と同じように論ずるわけには行かないので、改めて考察する。

2.1.3 大学院拡充による狭隘化の進行

 産業界の理工系大学院卒業生採用増加の傾向により、大学院進学者の割合は急速に増加している。文部省もこの傾向に合わせて大学院重視の施策を採用し、大学院在学者数は、平成3年の約10万人から、平成10年には約18万人へと、7年間で1.8倍の増加を見た(図1)。

 大学院生は学部学生と異なり、自然科学系の学生が多く、その大部分が実験研究に従事する。したがって大学院生が増加すれば、それに対応する研究施設(スペース)が必ず必要になる。(平成12年度の文部省の予測では、大学院生全体の75%が理系であり、全必要面積の91%は理系の大学院生のために必要な面積である。)さらに、ポスドク1万人計画や、留学生10万人計画、産学共同研究の推進等により、大学に在籍する研究者の数は激増しており、大学の過密化には拍車がかかっている。

 図7−2に昭和62年(1987年)から平成9年(1997年)度間の学部学生、大学院学生、留学生の在籍人員の増加傾向を示す。学部学生の増加の割合に比べて大学院学生、留学生の増加傾向が顕著で、10年間に2倍以上に増加していることが分かる。国立学校等施設の全保有面積を総学生実員で除した、学生一人当たりの占有面積は1〜2割減少している。しかしこの図はキャンパス全体における学生密度の増加をあらわしているものであり、大学院生の増加による研究室狭隘化の実態を反映していない。

 大学院生数の増加、及び教官数の増加によって研究室の狭隘化が進行している状況は、研究室の総面積の統計がないためすぐには算出出来ない。そこで便宜的に国立学校施設の総面積と大学院生総数の年次推移を図7−3に示す。また補足資料として、表1に昭和40年(1965年)から60年(1985年)にかけての国立大学建物の保有面積と文部省基準により学生数に応じて必要と考えられる建物面積を示す。図7−3は昭和60年(1985年)頃から大学院学生数が急速に増大しているのに比べ、国立学校施設の総面積は僅かしか増加していない状況を示している。したがって、大学院学生数あたりの国立学校施設面積は昭和60年と現在を比較すると約1/3に減少している(図7−4)。この比は大学院生一人当たりの保有面積を直接あらわすものではないが、年次推移をみることにより狭隘化のおおまかな傾向を読み取ることは可能である。

 一方、国立大学における大学院担当教官(教授及び助教授)の総数は、表2に示すように、昭和50年(1975年)と平成8年(1996年)を比較すると13,000人から30,000人に、約2.3倍に増加している。(私立大学の増加の傾向もほぼ平行しているが、建物面積のデータが得られないので、ここでは国立大学の年次推移を示す)。この間の総面積の増加は1.6倍程度であり、狭隘化が進行している。

 図7−5に国立学校等施設の全保有面積と国立大学大学院教官(教授+助教授)数の年次推移を示す。約10年程前から始まった大学院重点化に伴う教官数の増加に対応すべき面積の増加が大きく遅れている様子がみられる。

 図7−6に国立大学施設の全保有面積と大学院教官数の比の年次推移を示す。大学院教官数が増加しても、それに見合った建物面積の増加が追い付かないため、増加した人員を既存の建物に収容している結果、大学院教官当たり平均約3割の狭隘化が進行している。この狭隘化した空間に、この間に2倍以上に増加した大学院生、留学生、ポストドクトラルフェロー、会社からの研究生が詰め込まれ、しかも研究機器類が増加しているため、狭隘化に拍車がかかっている、というのが数字からみた国立大学の研究環境の劣悪化の現状である。

 理工系私立大学では状況は一般にこれよりも更に深刻である。これまで、国からは人件費に対する補助金は支給されてきたが、建物、施設に対する助成は行われてこなかった。最近になってハイテクリサーチセンターに対する半額助成が行われるようになったのは大きな変化であるが、全体から見れば僅かな大学にしか助成は行われておらず、大学院を拡張した私学では狭隘化が進行している。

 公立大学では自治体の財政状況により、事情は大学によりかなり異なる。しかし、面積基準はほぼ国立大学に準拠しており、それを上回る投資が行われている公立大学は少ないと思われる。最近になって、各自治体の財政状況の急速な悪化により、大学の建物にまでは手が回らない自治体が増加していると思われる。

2.1.4 今後の見通し. 大学院拡充により予測される施設面積の一層の不足

 大学審議会は、大学院進学者の増加傾向は今後さらに続くと予測し、平成22年には大学院在学者数は25万人を突破すると推計している。

 現状でも研究室の狭隘化が急速に進行しているのに、大学等における施設関係の投資が格段に改善されることなしに、大学審議会の予想しているような大学院学生の増員が行われれば、教育研究環境のこれまで以上の劣悪化が進行することは明らかである。これまでの大学拡張期に施設の拡充が常に後手後手に廻り、大学における教育研究環境悪化を招いた事態が再現されることは確実である。大学がこれ以上劣悪な研究環境に陥らないようにするためには、施設建設に対する、思い切った先行投資が必要である。しかし、現状の施設充実に当てられた投資額は極めてすくない。

2.1.5 不十分な建物改修費、先行投資

 国立大学の建物のうち、戦後に建設された建物は粗悪なものが多く、補修、改修を要するものが多いが、特に国立大学における建物管理は悪く、そのために建物の寿命を縮めている例が多く見受けられる。償却費の観念がほとんどないのも一つの原因であろう。図7−7に年度別一般改修費を示す。文教施設費の10%以下しか、改修費は見込まれていない。戦後に建てられた多くの建物が老朽化、劣悪化している現状では、もっと改修費への投資が必要であろう。

 しかし建物を改修、新設しようにも、限られたキャンパス内敷地では老朽した建物の取り壊しと新しい建物の新設は順繰りに行わなければならないから、建て替えには代替地が必要であり、新築にはそのための敷地が必要である。しかし、不動産購入費は極めて少なく、平成8年度1,334億円の文教施設費に対して65億円(5%未満)に過ぎない(図7−7)。建物新築にたいして、長期計画に基づいた投資が行われず、大学におけるスペースの改善が遅々として進まない原因がここにも見られる。

 また、多くの大学において、陳腐化した機器等が廃棄されずに実験室を占領しており、それでなくても狭隘なスペースを更に狭くしている例が見られる。規則の問題なのか、使用者側の問題なのか、大学側としても検討すべきである。

 これまでは、主としてある程度の資料が入手可能な国立大学について考察してきたが、前にも述べたように、私立大学でも研究施設が狭隘で劣悪な状況は、国立大学と同様か、あるいは大学によってはさらにひどい。私立大学は数が多く、各大学における状況は大きく異なるため、一概に結論を出すことは困難であるが、以前に行われた化学関係の研究環境の調査結果(後述)では、私立大学の化学系の研究環境は国立大学よりさらに劣悪で、実験者一人あたりの占有面積は国立大学の半分に過ぎなかった。

 公立大学においても、基準面積に関して国の基準を上回る大学は殆ど無く、研究環境は劣悪で、狭隘な大学が多い。しかも、バブル経済崩壊後自治体の財政事情は一様に悪化しているので、今後の施設の改善には大きな困難が伴うと予想される。

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.研究環境アンケート調査結果の考察

 以上、我が国におけるこれまでの研究環境関係の整備状況を主として国立大学について考察してきたが、以下研究者に対する最近のアンケートに基づく調査結果によりスペースに関する現状を考察する。12

 この調査は、平成8年11月から12月にかけて、約8,500人を対象として行われたもので、回答のあった約5,000名の研究者について調査結果の解析が行われている。調査は研究環境全般に関するものであるが、ここでは研究スペースに関する結果に関してのみ考察する。

3.1 研究室等の面積

 この調査に回答した研究者は、当面最も重要な課題は何かという質問に関して、「研究室の面積」を選んだ者が最も多く、67.8%に達した。この次に多かったのが「情報化への対応」で36.7%である。また、「研究施設の老朽化」を選択した人の割合も23.0%あった(表3)。

 大学の研究者一人(学生を除く)が実質的に使用しているおよその面積は、全回答者の平均で61.3m2となった(図8)。この内訳は、設備、机、書棚等の占有面積が38.2m2、その他のスペースが22.7m2であった。研究者が使用できるフリースペースは、研究室床面積の約1/3である。研究室の面積は、国立大学では、計75.3m2であり、公立大学の47.6m2、及び私立大学の50.0m2よりかなり広い。研究分野別に見ると、自然科学系74.3m2に対して、人文社会科学系では計26.5m2であった。

 回答者の研究分野別では、自然科学系においては「研究室の面積」の問題が最も深刻で73.8%が最大の課題としてあげている。人文社会科学系では面積の問題の他に情報化対応が問題になっている。(表3)

3.2 研究室等の面積が少ない理由

 面積の少ない理由は、自然科学系と人文社会科学系ではかなり異なっており、自然科学系全体では、「実験設備の増加」(58.5%)と「大学院学生・研究生数の増加」(51.5%)と回答した人が最も多く、「情報処理関係設備の増加」(42.2%)がこれに次いでいたが、人文社会科学系では研究論文・蔵書の増加を選択した人が最も多く、「情報処理関係設備の増加」がこれに次いでいた(図9)。

3.3 不足しているスペース

 拡大する必要のあるスペースとしては、自然科学系では実験作業のスペースが第1位であり、人文社会科学系では「個人の研究、執務スペース」を選択した人が最も多く(55.1%)次ぎが「ゼミ等の共同研究作業スペース」(30.6%)であった(図10)。

3.4 新たな研究設備の設置スペース

 「研究室が狭くて、新たな実験設備を置くスペースがない」と回答した人が自然科学系回答者の40.8%で最も多かった。次ぎに回答の多かったのが、「設備の大きさいかんによっては設置できないことも予想される」であり、36.8%である。これらをあわせると、「新たな研究設備を設置する余地が不足している」と回答した人が77%に上るという状況であり、スペース不足が研究の発展を阻害している状況が露呈している(図11、図12、円グラフ)。

 図13に研究施設における当面の課題に対する回答結果を図示する。

 国、公、私立を問わず、研究室の面積が当面の最大の課題である、と応えた研究者が圧倒的な割合を占める(図13)。

3.5 日本学術会議第14期第3常置委員会による調査結果との比較

 日本学術会議の第14期第3常置委員会では、研究環境について研究者の意識調査を行い、30歳代から40歳代の研究者2,038名にアンケート調査を行った。9 この調査は研究環境の各面について行われたものであるが、そのうち研究室の面積に関する各部の研究者の満足度に関する調査結果を表4に示す。第2部のみ不満度が半数を割っているが(49.3%)、他の部の研究者はすべて狭くて困る、と回答している。特に狭いと回答した人の多い部は5部と7部であった。現在もう一度調査をしたとしたら、情報機器の設置のため、狭くて困ると回答する人の割合は増加しているであろう。

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.各専門分野別の研究室スペースの状況

 全般的なスペース不足の状況は以上の調査結果から明らかであるが、スペース不足の深刻さは専門分野によりかなり異なる。一般に、化学、生物系が狭隘の程度が甚だしいと考えられる。

 次ぎに日本化学会2 . 3及び日本学術会議化学研究連絡委員会と日本化学工業協会が協力して行った調査4に基づいて考察を行う。

4.1 化学関係の研究環境に関する調査結果

 日本化学会は昭和61年に化学関係主任に対して、研究環境に関するアンケートを行い、その結果を昭和63年に発表した。2 同学会は、基礎と応用の両分野にまたがる研究者、技術者を擁しており、この調査は自然科学の一分野に関するものではあるが、自然科学系の他の多くの分野に関してもその結果は参考になるものである。

 この調査結果では、85%の学科がスペースが足りない、または極度に不足していると回答していた。また、スペースの不足は特に私立大学において著しいという結果であった。同調査によれば、国立大学1講座当たりの平均専用面積245.5m2に対し、私立大学のそれに対応する面積は170m2であり、教員あたりの学生数が通常私立大学の方が多いことを考慮すると、私立大学の化学系学科における過密状態は一般には私立大学のほうが甚だしい。

 その後、1995年度に、前回の追跡調査の意味も込めて、同学会は国公私立大学化学系学科・専攻における教育研究基盤に関する調査を行い、1996年に発表した。その結果によれば、国立、公立、私立大学のいずれにおいても、研究室面積増、安全・環境対策を含む施設設備費の増額が優先度の第1位を占めた。特にスペースに関する要求は旧帝大及び東工大、筑波大、広島大学の国立10大学において優先順位が高かった(図14)。

 一方、日本学術会議化学研究連絡委員会(化研連)では、以前から研究室のスペースの問題について大きな関心を持ち、第14期には欧米の大学の実情とも比較して調査を行い、報告書(平成5年2月25日)「大学の研究室における安全確保と実験環境の改善について」の形でまとめている。10

 この報告では、我が国の化学系実験室が非常に狭隘で、研究者一人あたりで比較すると、欧米の大学と比べて1/2から1/3の広さしかなく、実験台や戸棚などの占める面積を勘定に入れると、実質的には1/3から1/4のスペースしかない現状が明らかにされた。さらに、狭隘であるばかりでなく、実験室の換気などの衛生や安全面からもはなはだ望ましくない状態になっていることを報告し、注意を喚起している。11

 さらに第15期には、化研連で化学安全小委員会を発足させ、日本化学会、日本化学工業協会の協力を得て、化学関係実験室の安全実態調査を行った。その結果、実験室の狭隘さからくる各種の問題点が指摘された。この調査団の訪問先の化学実験室の二人あたりの面積は、最低6.2m2 最高16.7m2であり、6.0−8.0m2の研究室が最も多かった。実験台や装置の占める面積を除くと、一人当りの実際に占める面積はこれよりずっと狭いので、この数字からだけでも過密状況がうかがわれる。

 この報告では、化学研究連絡委員会(化研連)化学安全小委員会が平成4年に行った調査に基づく報告であり、化学系の学部では、1講座(25人−30人)当たり1,000m2程度のスペースを確保し防災設備、ユーティリティを完備すること、その他の提言を行っている。

 化学系の多くの実験室では、消防法の規定に適合する実験室が少ないほどであり、もしも阪神大震災級の地震が大都市を襲い、地震により火災等が発生した場合には、時間帯によっては大きな惨事が起きると危惧される実験室が少なくない。

 以上、調査結果の発表されている、化学系の例をあげたが、生物系の研究室でも実情はそれ程変わらないところが多いと考えられる。天災に人災が加わって被害を大きくしないよう、危険の予想される分野に対しては、特に配慮が望まれる。

4.2 化学以外の理工系関連研究室の実情

 理工系の施設に関しては、各大学とも非常に劣悪な環境にある。国立大学8大学(旧帝国大学+東京工業大学)工学部長懇談会では、8大学工学部、工学研究科における施設設備の状況を調査し、平成3年に、「未来を拓く工学教育−大学院改革のための検討と提言−」12をまとめ、さらに平成5年に「未来を拓く工学教育(続編)大学院を中心とする研究教育施設の再建整備のための検討報告書」 13を発表している。同報告書によれば、国立大学の種類により狭隘化の実情は異なり、大学院中心の大学ほど狭隘化の程度はひどく、8大学工学部系において特に狭隘化の程度が甚だしいと述べている(図15−1)。同様の指摘は日本学術会議第5部(工学)の報告「工学系の大学学部等における教育研究環境−学長・学部長からの回答に基づいて−」(1991.3)でもなされている。

 工学系と言っても、専門分野により研究室の使い方には、図15−2のように大き違いがある。(8大学工学部長会議の報告(1993)による)

 いずれの分野においても実験室の占める割合は大きいが、特に、化学系、材料系では、講座専用面積中で実験室の占める割合が著しく大きい、と指摘されている。

 各専門分野において、講座専用面積のうち、実験室の占める割合は以下のようである
(1993年報告)。

電気系 20−60%
建設系 30−50%
機械系 50−70%
材料系 60−75%
化学系 70−90%

 8大学工学部の調査では、各大学は基準面積のほかにそれぞれ基準特例面積を所有している。ただ、基準特例面積所有の状況は、専門分野により大きな差がある(図15−3)。なかでも化学・生物系では、基準特例面積が他の分野に比べて、著しく少ないと同報告は指摘し、これが安全上大きな問題になっていると述べられている。

 平成10年の国立大学工学部長会議の要望書 14の中でも、「現状で大学院入学希望者の増加が著しく、学生の実験・学習に支障がでるおそれが指摘されている。特に実験室、実験棟が狭隘で、実験設備が輻輳し、学生の安全管理上の問題も含んでいるため、工学系学部の基準面積に格段の配慮が必要である。」と提案している。同要望書にあるように、阪神大震災において、大阪大学の2キャンパスに限っても被害総額が施設関係で約11億円、物品で約10億円に達したことを教訓としなければならない。老朽施設を再開発し、地震時における教官、学生、職員の安全のための余裕スペースを確保する対策を施すためにも、施設の整備拡充は急務である。15, 16

4.3 人文社会科学系における問題点

人文系における「スペース問題」
 人文科学系においては、理系・工学系などと比べて、「スペース問題」はあまり深刻ではないように思われるが、そうではない。

 人文系の多くの場合は、研究室として個室が与えられ、図書・資料類の収納スペースがあればよいように思われてきた。教官の研究室としては書架や書類戸棚等が配置された個室が与えられ、大学院の演習なども教官研究室を使って行なわれることが多い。増大する大学院生の研究環境は劣悪で、大部屋に雑居させられて、学習机1つが与えられていれば良い方である。

 図書・資料類を収蔵する施設は、研究の場に可能なかぎり接近していることが望ましい。人文系の場合は、図書・資料類を古くなったからといって廃棄することは出来ないために図書・資料類は増大する一方である。古い設備に制約されて、研究室や図書室は、蔵書・資料類の収蔵スペースに悩まされている。

 人文系の多くの場合は、施設・設備が改善されることなく放置されている。比較的近年に開設された講座や設備が改善された組織などでは情報機器への対応などもなされているところも少なくないが、建物が古い場合は老朽による条件の悪化が問題となる。近年の情報科学の発達と普及、あるいは各種の機器類の増加などによって、人文系の研究室の状況にも大きな変化が生じている。パーソナルコンピュータが普及してほとんどの人文系の教官研究室にもパソコンや周辺機器が置かれており、大型機器類も使われるようになってきているからである。また、共同で利用する大型機器類も増加しており、パソコン室などの必要も生じてきている。従来の人文系研究室の状況とは大いに変化しており、そのような点で基準の見直しが必要と考えられる。

4.4 生物系実験室の実情

 以下は生物学分野における国立大学の状況を考えたものであるが、公立大学や私立大学においても同様あるいはさらに劣悪な状況にある。

 他の分野にも共通することであろうが、大学院(特に博士後期課程)の拡大充実、ポスドク1万人計画、留学生10万人計画、産官学共同研究の推進等により、大学に在籍する研究者数が激増しており、その傾向は活発な研究を展開しているところほど高い。これらの施策・計画の実施にあたっては、研究施設の大幅な拡充が必要であるにもかかわらず、その手当ては著しく遅れている。これは、学科等の新設においても同様で、学生、教官、ついでかなり遅れて教育・研究施設という順序で揃っていくため、必然的に教育・研究施設がかなりの期間にわたって不足となる。本来、最低限必要な面積であったはずの設置基準面積すら充足されていないうえに、これらの問題が重なり、教育・研究施設(特に研究室・実験室)はひどく狭隘となっている。

 さらに生物学分野では、革命的ともいえる学問領域自体の急速な変貌と膨張により、必要とされる設備や施設も急激に高度化、多様化、大型化しているうえ、技術革新のスピードを反映して、実質的に利用可能な年数が著しく短縮化している機器が少なくない。また、実験動物等の飼育・管理環境の拡充とレベルアップは研究上の要請のみならず社会的常識にすらなっているにもかかわらず、生物学分野では動物飼育施設が設置基準面積の特例として認められていない。このため、それでなくとも足りない設置基準面積のなかから相当の部分をこれに充てなければならないのが現状である。

 これらのいずれから見ても、生物学分野における設置基準面積の大幅な見直しとその完全実施が緊急に行われる必要がある。もっとも基本的なインフラストラクチャーの一つである「空間」が確保できなければ、科学技術基本法などをうけて立案された素晴らしい諸施策や計画も、画餅に終わり空中分解しかねないのではないかと危惧している。

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.国立大学附置研究所における状況

 文部省所轄の研究所には、大学共同利用機関16、大学附置研究所62(内共同利用型20)があり、各研究所の設置目的、学問分野が多様なことから、一概には言えないが、研究所のスペース不足問題は最近特に顕著になっている。その大きな原因は、

1)大学院教育に参画している研究所では学部から派遣される大学院生の数が激増していること、

2)出資金等による大型研究費の取得によって、大型設備の導入が急増していること、

3)国際化に係わる外国からの研究者が増加していることなどである。

 大学附置研究所のスペース不足の面積は研究所によりまちまちであるが、全般的に見て基準面積には遠く達していないところが総てであり、戦前または戦後直後の古い建物の改築や改修が必要なところが多いのが現状である。その上、近年の大学院生、留学生、ポストドクトラルフェロー等の増加に対応するスペースについては、全く対応されていない。

 大学附置研究所は、設置目的に沿って常に新分野の開拓が求められており、この研究所としての重要な機能を発揮するには、これに対応する研究スペースを確保する必要がある。

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.公立大学、私立大学における状況

6.1公立大学における状況

 公立大学における施設・スペースの状況は大学によって大きく異なっているので、一般的なデータを示すのは困難である。しかし、設置権者である自治体の財政状況は、経済バブルが弾けて以来一様に悪化しており、大学における施設・スペース改善のための特段の投資は期待し難いように思われる。経済事情が今より良かった時代に建設された建物においても、大学や部局の設立時に大学設置審議会(設置審)の審査をパスする最低の基準を満たすように計画されている場合が多く、決して十分ではない国立大学の基準を上回るスペースを有する公立大学は殆ど無いと思われる。従って、今後においても、国立大学の状況が改善されない限り、なかなか地方自治体の設立した公立大学の研究環境の改善は難しいであろう。

 一例として東京都立大学の状況を付属資料に示す。また、いくつかの大学における研究室のスペース事情も同付属資料に示す。東京都立大学が現在地に移転したのは比較的最近であり、その頃は東京都の財政事情も余裕があったので、新キャンパスにおける研究教育環境は全体としては以前にくらべれば格段に改善された。しかし、各研究室ごとについて見れば、かえって縮小されたところもあり、自然科学系では極めて狭隘な研究室が多い。国の基準が現在の科学技術研究の状況に合わせて改善されない限り、新しい土地を求めて新キャンパスを建設しても必ずしも状況は改善されないという一例といえよう。

 大都市周辺の他の公立大学では、一般に実情は厳しい。大学の移転や立替えが施設を更新する最大のチャンスであるが、自治体の財政事情の改善が当分見込めない状況では、研究環境を改善する見通しは立ちにくい。

 公立大学の教育研究環境に関しては、文部省内でも対応する課、係が無く、各公立大学と所轄自治体との個別の対応に任されているため、全国的な見地から状況を把握し、改善するための方策を立てることも困難な状況にある。

6.2私立大学における状況

 6.1の公立大学の項において述べたように、私立大学の場合にも大学の設置者は国でなく、学校法人であるから、各大学における研究教育環境の整備は設置者の責任である。しかし、国全体として教育・研究のレベルを高く保つことは国益にかかわる事柄であり、その国の将来を左右する重要な問題である。したがって、欧米諸国においては、私立大学に対しても、各大学の自主努力と共に、国からも研究・教育の環境を高いレベルに維持するため何らかの形で助成が行われている。

 わが国においても、国庫から私立大学の人件費に対する助成は行われてきたが、最近まで建物、施設の建設、維持に対しては国からの助成はなかった。その結果、一般的には国立大学に比べて私立大学の教育研究環境は不充分な状況になっている。現在、私立大学はわが国における大学教育の重要な一端を担っており、また研究面においても国際的レベルの優れた大学が存在する。そのような大学における研究環境を改善することは科学技術基本法の精神に合致し、国益に沿った政策である。現在のように科学技術の進歩の著しい時代に、それに合わせて研究環境を整えることは財政能力の限られた私立大学にとって大きな負担である。さらに、最近は国立大学の大学院重点化政策に呼応して私立大学でも大学院へのシフトが起きており、特に自然科学系研究科では、大学院学生が急増している。それに伴って以前にも増してスペース問題が深刻になっており、研究環境の急激な低下が起きている。このような状態を少しでも早く改善し、私立大学の研究教育の能力を高いレベルに保つことは急務である。

 科学技術基本計画策定後、私立大学が半額負担するならばその大学におけるハイテクリサーチセンター建設に対して建設費に関する助成が行われるようになった。これは、これまでの助成方針の転換であり、高く評価される。国立大学に対する助成と同様、バランスのとれた助成が今後私立大学に対しても十分になされるべきである。

 ハイテクリサーチセンター建設に対する助成の開始を契機として、今後実情に応じ、私立大学における建物建設に対しても国家助成が行われることが望ましい。しかし、わが国における私立大学は数が多く、また規模も教育研究の目的も多種多様であるから、一律の助成は合理的ではなく、ハイテクリサーチセンターの場合のように、一定の水準を満たし、助成の効果が上がるような大学に対して、重点的な助成を行うことが合理的であろう。

 ただ、現在文部省によって行われているような、ハイテクリサーチセンター建設に対する国家助成には次のような問題点があることが指摘される。これまで助成を受けた大学について見た場合に、多くの大学では、財政事情が厳しく、敷地面積が限られているために助成によって建設すべき建物の規模が限られ、小さな建物が限られた敷地の中に一杯に建てられる場合が多い。キャンパスの細切れ的な使用は、大学におけるアメニティ保持のためにも、また敷地の将来的有効利用の観点から望ましくない。同様な問題は補正予算に基づく建物建設の場合等において国立大学の場合も生じているが、私立大学でも将来計画に沿った長期的プランが立てられるよう、継続的な助成が行われることが望ましい。

 理工系学部・大学院を有する私立大学のうち、都市型大学の例として早稲田大学の例と、最近新キャンパスを都会を離れて建設した立命館大学の例を付属資料に示す。早稲田大学は東京都の都心にある大学として学生を引き付け発展してきたが、スペース面では極めて過密な状況にある。一方、立命館大学は新キャンパスに展開して新しい発展の契機を掴もうとしており、慶應大学藤澤キャンパスとともに、理工系私学が発展の余地に乏しい大都市を離れて近郊に展開した成功例としてマスコミなどでも取り上げられている。しかし、都心を離れて近郊に展開した他の私立大学の場合に、アルバイトがしにくい等の理由で学生が都心を指向する傾向のため、学生の応募が減少するなど、必ずしもその後の展開が順調とは言えない大学もある。現在私立大学の大半が経営を学生の納付金に依存している状況では、現在のスペース状況が窮屈であるからと言って簡単に郊外へ移転するわけには行かない。理系の学部・大学院を擁している都市型の研究大学ではどこでも深刻な悩みを抱えている。また、郊外へ移転した大学においても、実験室の基準面積等は、現状では不十分な国立大学の基準を上回ることはほとんど無いので、実験室内の過密状況は改善されていない大学が多い。

 私立大学の環境を改善するためには、民間からの寄付行為による協力が重要なポイントである。しかし、米国等に比べると民間からの大学に対する寄付は桁違いに低いのがわが国における現状である。これは一般人の学術・文化助成のための寄付に対する考え方の相違とともに、税制の違いも関係している。わが国における教育研究の重要な一角を担う私立大学に対して、一般社会からの寄付等が行いやすくなるよう、例えば個人の私立大学に対する寄付を全額控除の対象にするなど、寄付行為に対する税金の減免措置に関して充分な考慮が払われるべきである。

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.他省庁の研究機関における状況

7.1 国立試験研究機関における状況

 国立試験研究機関(国研等)は、設置目的も様々であり、各省庁の所管であるため、施設状況は充分には把握出来ない。ただ、科学技術庁の調査報告書によれば、研究者が望む研究環境に関する調査において、研究施設・設備の充実を上位に挙げた研究者の割合はそれ程高くないので、他の切実な問題に比べれば、この問題は大学におけるよりは緊急性は低いように思われる(図 16−1、図16−2)。

 一例として、通産省関係の工業技術院物質工学研究所の敷地面積と職員数を表5.1に、科学技術庁所管の5研究所における研究職員一人当りの建物敷地面積を表5.2に示す。大学と違って学生等の実験者がすくないため、大学における状況よりはかなり余裕があるようである。ただ、この面積のなかには、大規模の試験研究施設等が含まれているので、直接的な比較は出来ない。

 しかし、国立試験研究機関についても、建築後20年以上を経た施設が3分の1を超えており、既に修繕を必要とする時期を迎えているものもある。また、試験研究機関によっては、外部機関からの測定依頼、外部機関(地方自治体を含む)との共同研究が増加し、また大学院学生等を所外から受け入れている研究所では面積が狭隘になり、困っているところもある。しかし、大学にくらべれば、一般的には狭隘の程度は少ないと言えよう。科学技術基本計画(平成8年7月2日)によれば、現在、国立試験研究機関全体の老朽施設の改築、改修に約80万m2が見込まれており、これらについても整備をすすめると述べられている。

7.2 理化学研究所の場合

 次に、大学の状況と比較するため、科学技術庁所属の理化学研究所の場合を見てみよう。理化学研究所は、昭和33年に科学技術庁傘下の特殊法人として文京区本駒込を拠点として再出発した。昭和38年に国から現物出資として、現在の和光市に約22万m2の土地の提供を受け、計33研究室が物理学、工学、化学、生物学、医科学と多岐にわたる研究を行っている。日本の大学の研究室と比較するとある程度余裕があるが、米国の研究所と比較すると狭く、最近の急速な定員外研究者の増加、測定機器の多様化により各研究室での一人当たりの研究スペースは急速に減少しつつある。

 和光本所の中核研究施設である研究本館は、建設後30年以上を経過し、老朽化が著しく進んでいるおり、新しい研究室の発足に伴う改装、設備の老朽化に伴う改修を実施する程度で、本格的な見直しの検討は2〜3年前から始まったところである。全国の大学を管轄する文部省と異なり、科技庁直轄の理研に対する施設予算等の手当てはある程度機動的に対処できるようであるが、日本のCOEの一つとして見た場合には、米国等の研究所と比べて施設関係に関して言えば見劣りすると言わざるを得ない。(附属資料参照)。

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.外国の大学における実情との比較

 外国の研究スペースに関する実情は簡単には分からない。化研連の調査では、欧米の大学では平均して日本の3倍から4倍の余裕を持った実験室で、排気装置の完備した条件下で研究が行われているデータが得られている。欧米からの訪問者が日本の大学の化学実験室を訪問して一様に驚くのは、その過密ぶりである。ある外国人訪問者は、大部分の日本の大学の化学系実験室は安全基準を満たしていないとして、彼の国だったら当局から即刻閉鎖命令を受けるであろう、と指摘していた。

 国立K大学工学部、工学研究科化学系の外部評価を外国人を含む評価者に依頼した結果の報告でも、評価者からは異口同音に研究内容及び設備のレベルは高いが、施設関係は極めて劣悪であると厳しい指摘があった。そのコメントの一部を引用する。

 (1)建物は理想的なものとは程遠い。(2)狭い、の一語に尽きる、安全上、防災上、放置できない。(3)非常に悪い、文部省は細かいことを言うより研究環境の改革に注力すべきである。(4)外国人にはその狭さは理解を超えている。(5)事故が起きないのが不思議なくらい、一刻も早く改善を急げ、その他スペース問題に関する指摘が続く。

 この専攻は研究活動が活発なため、かえってスペースが狭くなっている、という事情はあるが、他の学科、専攻でも企業や外国人を含めた外部評価を実施すれば、似たようなコメントが得られるであろう。

 また、どの大学でも建物の断熱が不十分で、冬などは特に寒く、また暖房費もかさむとの指摘もあった。日本人は慣れてしまってそれ程感じなくなっていても、欧米の水準をはるかに下回る研究環境では優秀な外国人研究者が来日に二の足を踏む状況である。

 国際化が奨励され、外国からもポストドクトラルフェローを採用する可能性が増してきているにもかかわらず、研究環境の劣悪さのために優秀な研究者を招聘できない状況がどの大学でも見られる。

8.1 米国における施設整備の状況

 外国の事情に関する一例として、NSF(全米科学財団)の大学の施設に関する調査報告書内容の一部を紹介する。17 アメリカ政府は、学術研究施設は国にとって決定的に重要な国家資源であるととらえており、NSFは、大学における研究施設の状況を把握し、その結果を2年毎に議会に報告する義務を有する。この報告は、525の大学における科学及び工学(science及びengineering)関係の研究施設に関する調査結果をまとめたものである。以前は冊子体に印刷され、配られていたが、最近はインターネットのホームページを開けば、誰でもデータにアクセス出来る。日本における不十分なデータ収集状況と比べて格段の違いがある。

 1992年の初めにおいて、全米の科学及び工学関係の研究機関には1兆2200万平方フィート(1130万m2)の施設面積(Net assigned square feet, NASF)があり、これは1988年に比べ、1000万NASFの増加(9%)である。1988年からの10年間を比較すると、面積増は28%である(図17−3)。

 図17−1から図17−5に見られるように、建物の修理、新設に対して投資額は1986年以降一貫して増加しており、毎年20億ドル以上の投資が行われており、修理費も相当に計上されている。米国では科学技術の発展に相応して充分な投資が行われている様子が見られる。その結果研究者の満足度も日本の場合とは比較にならない位高く、施設の状況は27%が最先端の研究にも適している、34%がほとんどの目的に合致していると回答している(図17−4)。科学及び工学関係の大学施設に対する投資先は、理工系の充実した、上位100校に集中している傾向が見られる(図17−5)。

 結論として、国では科学・工学系の施設の充実は、一国の将来に欠くべからざる基本条件である、との認識が確立しており、長期的な視点にたった一貫した投資が行われているということができる。長期的な展望がなく、研究環境が劣悪になった、という現実が噴出するまで事態を放置しておく我が国のこれまでの科学技術行政と際立った違いが見られる。

8.2 他の外国における研究環境

 米国以外の欧州先進国においても国力に応じた投資が科学技術関係の施設に対して行われており、日本のような劣悪な研究環境を放置している国はほとんど見られない。発展途上国においても、それなりの投資が行われており、日本における施設関係の状況は一部の発展途上国に比べても劣る有り様である。

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.科学技術基本法と学術研究環境

9.1 科学技術基本計画の策定と計画実施状況

 我が国では今後4半世紀のうちに生産者人口が1200万人減少し、65歳以上の高齢者人口が1400万人増加する。今後引き続いて技術革新がないとすれば、GDPは減少に向かわざるを得ない。平成7年11月の国会で全会一致で制定された科学技術基本法は、科学技術立国以外に我が国のとるべき道はない、という視点に立って、科学技術の振興を我が国の最重要政策課題の一つ、として位置付けたものであった。同基本法には、科学技術振興のための条件の一つとして、研究開発機関における研究施設等の充実に必要な施策を講ずることがうたわれている。続いて制定された科学技術基本計画では、研究開発投資額の早期倍増を図るため、平成8年度より12年度までの間に、総額17兆円規模の科学技術関係経費を投資することが定められた。特に研究開発基盤の整備・充実のため、国立大学等における狭隘化の解消と老朽施設の改築・改修に約1200万m2の整備が必要であると具体的な数字をあげて述べている。たしかに各省庁への予算配分を含めて科学技術関係への投資額は大幅に伸びた。しかし、科学技術研究を支える最も重要な基盤を充実させるための、長期的な視野に立った建築計画による研究環境の改善は遅々として進んでいない。1200万m2の一応の整備目標のうち、5年計画の半ばを過ぎた平成10年12月の時点において僅かに80万m2が建設されたに過ぎない。しかも、5年間の基本計画の残された期間に、計画を達成しようとする方策も意志も見えない。最近大学等において建設された建物にしても、既設の建物の間を縫って建設された低層棟が多く、長期計画に基づく建設計画の一環として建設されたものは少ない。このような状況になってしまうのは、新施設の建設が長期的計画に基づいた当初予算により行われたものではなく、補正予算により急に配当された予算に見合うように、その場しのぎで建設が行われたことが一因であると思われる。

 この調査報告書の目的は、問題点を指摘することにあり、解決策を述べるにはさらに議論を重ねる必要があるが、少なくとも次の点を指摘しておきたい。研究スペースの確保には土地の確保と建屋の高層化・地下利用の両側面によって実現が可能である。土地の確保には、移転によるもの、キャンパス周辺地域の再開発計画の中に位置づけられたもの、あるいはキャンパス内の敷地の整理・統廃合によるものなどがある。こうした土地の確保と高層化・地下利用とを組み合わせた中長期的対策をなるべく早く立案し、それに沿った建物建設が行われるべきである。国立大学の施設部についても、その役割を再検討すべきである、という指摘がある。

 いずれにしても、建物・スペースの確保は、研究基盤の根幹をなす重要事項である。この報告書で述べてきたような、建物・スペースに関する極めて劣悪な現状が改善されないまま時間が過ぎてゆく状況は、長期的視野に立って科学技術創造立国を宣言した科学技術基本法の精神にもとるものと言わなければならない。大学等の施設の老朽・狭隘化状況を改善するために、一刻も早く長期的計画を策定し、それに沿った合理的投資を進める必要がある。

9.2 大学側にも責任

 最後に、大学等における研究教育環境の劣悪化を招いた責任に関して言及したい。研究教育環境がここまで劣悪になった責任の大半は、これまで必要な投資を怠った政府にある。しかし、劣悪化した状況を知りながらそれを看過し、研究能力増強のために学生定員の増加を歓迎し、狭隘度、危険度が高まることを黙認した大学人、研究者にも責任の一端がある。大学審議会が答申したような、大学院増員計画がそれに見合う投資を伴わずに進行すれば、狭隘化劣悪化はさらに促進されるであろう。それに対する対処如何によって、我が国における学術研究の明日の研究環境は決まる。我が国の未来のために、安全でゆとりのある研究環境を準備するのは、政府のみならず大学人の責任でもある。

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10.まとめ

1.我国の大学等における研究施設は積年の過小投資のため必要面積に対して極度に不足し、研究環境は劣悪化している。多くの実験室は危険な程の狭隘・過密状態にあり早急な改善が必要である。

2.現有建物の老朽化を改善し、大学院学生等の実験者の急増に対応する建物の改修、新設が早急に必要である。

3.現在の劣悪な研究環境を改善し先進国並みの水準に近づけるために、自然科学系研究室では、望ましくは現有面積の3倍、最低2倍程度の建物面積が必要である。

4.研究環境改善のための投資は、長期的視点に立って継続的に行われなければならない。建物建設のための土地取得の先行投資を計画的に行うべきである。

5.国立大学等における専門別建物基準面積研究従事者の増加、設置機器の高度化、情報化対策を考慮して妥当な水準に改定されるべきである。

6.教育研究の重要な役割を分担している、私立、公立大学に対しても適切な助成が必要である。私立大学に対する寄付金への税金の減免措置が考慮されなければなら
 ない。

7.最近景気対策としての有効性に関して疑問が提出されている従来型の公共投資に比べて、多数の研究者及び将来の研究開発人材を擁する大学等の建物設備に対する投資は波及効果が大きく、「新社会資本」充実に対する投資として有効である。

8.科学技術基本法では、「科学技術創造立国を目指し、科学技術の振興を我が国の重要政策課題の一つとして位置づけ、関連施策の総合的、計画的、かつ積極的な推進を図る」とうたわれており、科学技術基本計画では、5年間で17兆円の国費の投入が計画され、老朽化・狭隘化改善に1,200万m2を整備する、とされている。そのためには総額数兆円の投資が必要である。これまではこの目標を達成するには程遠い額の予算措置しかなされず、基本計画の実施は大幅に遅れている。科学技術の健全な発展には日本の将来がかかっている。そのための最も重要な基盤である施設の充実を強く訴えたい。

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付属資料1 人文社会科学関係

1.1 研究スペースの経済学(大山道廣委員)

 研究環境は、経済学的には研究のための公共財(Public goods)としてとらえることが出来る。公共財は、社会的なニーズが高く、多数の人々によって共同利用され、しかも固定費がかさむ(あるいは規模に関して費用が著しく逓減する)ため、市場を通じた個人ベースの支出では十分な供給が確保できないような財である。公共財の例としては、道路、港湾、鉄道、国防、警察、消防、公園、学校、博物館、図書館などがあげられる。一国の財政の重要な課題は、限られた予算をこれらの公共財の供給にいかに効率的に配分するかである。公共財に対する社会的ニーズは時代とともに変化する。従来、重視されてきた地方の道路、港湾、鉄道などの供給は相対的に高い水準を実現し、その限界的な便益が限界的な費用を下回るようになってきた。最近では、都市圏のインフラ整備、情報通信、ヘルスケア、環境サービスなどを支持する公共事業の立ち遅れが指摘されている。大学や研究機関の研究環境も、社会的ニーズにくらべて供給が過小になりつつある事例のひとつである。なかでも、研究スペースの不足はとりわけ顕著であり、その克服が急務となっている。

 研究環境の構成要素には種々のものがある。具体的には、研究者ないし(その卵としての)大学院生の質と員数、個々の研究者が利用出来る研究スペース、研究者に一括して与えられるパソコン、本棚、机、椅子などの設備・備品、秘書・研究補助員などの研究支援サービス、さらにはイントラネット、インターネット、図書館、資料室などの研究インフラ、研究者を高いレベルに維持するための組織的な仕組み(たとえば業績主義による給与やポジションを差別に付与するインセンティブ・メカニズム)など、多くのものが考えられる。研究者が個人的に購入する設備・備品、書籍、文房具、資料などは研究環境とはいえないが、そのための原資となる研究費の支給体制は、研究環境の重要な一環である。

 このように、研究環境という公共財も多様であり、限られた予算をこれらの間に効率的に配分することが必要である。研究スペースが重要な研究公共財であることは確かだが、あくまで他の研究公共財との相対関係において考察されなければならない。その場合、社会的ニーズ、予算規模、スペースと他の公共財の相対費用(価格)、他の公共財との代替性、補完性、研究領域の特性などが重要な考慮事項となる。たとえば、社会的ニーズから研究者や大学院生を増員する必要があるとすれば、それと補完的な研究スペース、実験設備などを増やさなければならない。この場合、研究環境予算を増やすことが望ましいが、それは政府予算や他の公共財のニーズを勘案して決められるべきことである。仮に研究環境予算の増加が不可能だとすれば、研究スタッフの員数とそれほど補完的でない他の研究公共財、たとえば共用の図書、資料、コンピューター設備などの手当は薄くせざるを得ない。

 予算規模が所与であれば、スペースの単価が他の研究公共財にくらべて高いところでは、研究スペースおよびスペース補完的な公共財(たとえば大型の設備)を少な目に、他のスペース代替的公共財(たとえばパソコン)の供給を多めに手当するのが効率的である。具体例としては地代の高い大都市中心部の研究機関について考えてみよう。このようなケースでは、スペース集約的な研究環境を構築することは一般に得策ではなく、(1)あまりスペースを必要としない研究領域に特化する、(2)スペース節約的な研究設備(たとえば多数の研究者が共同で利用できる研究設備)を導入する、(3)研究棟の高層化をはかる、(4)地代の低い都市周辺部や地方に移転する、といった対策を講じるべきである。

 実際の研究環境は、必ずしもこのように経済合理的に設計されているとは言えない。自然科学系や人文社会科学系の一部の研究領域や分野で、研究スペースの不足が共通の深刻な問題として取り上げられているのは、予算規模が小さすぎて最低限必要なスペースすら確保できないか、何らかの理由によってスペースヘの予算配分が過小になっているためではないかと考えられる。前者の場合には総予算規模の拡大が必要であり、後者であれば予算配分の修正が求められる。スペース不足を考察するに当たっては、これら2つの要因を峻別するとともに、両者が併存する場合にはそれぞれに配慮した総合的な対策を講じる必要がある。

1.2慶應義塾大学(人文社会科学系)の状況

 慶應義塾大学三田キャンパス(文学部、経済学部、法学部、商学部)では、すべての学部の研究者を一括して収容する研究棟がある。各学部の研究室と研究者数の割り振りは次表のとおりである。

            研究室数        スタッフ数
文学部          88           112
経済学部         66           68
法学部          69           64
商学部          61           61

 研究室の面積は16.38m2、約5坪。研究室の利用状況は学部によって異なる。文学部はスタッフ数が研究室数を大幅に超えているため、1人室が69、2人室が18、7人室が1となっている。経済学部では4人室が1、他が1人室、商学部では2人室が3、他は1人室、法学部ではすべて1人室である。

 研究棟1階には、受付、共用の談話室 1、共用会議室 4、小会見室 2、名誉教授室 1がある。研究棟地下には訪問研究者のための研究室が6室あり、現在11名の研究員によってシェアされている。また、古文書室、心理学実験室、各学部の小会議室がある。この他、別棟に大学院生の為の研究スペース、産業研究所、地域研究センターがあり、それぞれ若干の研究室、会議室を持っている。

 文学部に見られるように、全体としてのスペースは明らかに不足している。他の学部では助教授以上のスタッフ全員に個室が当てられているが、現在のスペースはパソコンや増加する文献・資料を収容し切れなくなっている。とりわけ、文献研究、データベースの構築が必要な領域(学説史、経済史、実証分析等)ではスペースの問題はきわめて深刻である。あるスタッフは、自弁でトランク・ルームを借りてあふれた文献・資料を保管している。訪問研究者のためのスペースも十分とは言えない。すべての研究者に対して原則として同じスペースが与えられているため、個々のニーズとの間のミスマッチがあることも問題である。

 一般に、人文社会科学系では、米国にくらべて従来は大学院への進学率が低かったが、所得水準の上昇、文教政策の転換、それにともなう入試の緩和などの要因によって、最近大学院生が急増しており、彼らの研究スペースの狭隘化と大学院教員の不足が重大な問題になっている。慶應義塾大学も同様の問題に直面していることは言うまでもない。

 他の研究公共財については、共通の図書費が利用可能であるほか、申請ベースで研究費が査定の上支給される。共通の秘書サービス、研究助成サービス、インセンティブ・メカニズムはなきに等しい。研究領域によっては、欧米の大学にくらべて、スペースよりもこうした研究支援体制の不足ないし欠如が痛感されている。なお、理工学部、医学部については、人文社会系にくらべてスペースの不足は遙かに深刻と言われている。

1.3 人文社会科学系におけるスペース問題の深刻化(名古屋大学文学部 辻敬一郎教授まとめ)

1.「書架・書籍・机」−文系研究環境のイメージ−
 人文社会科学系においても、理学・工学系と同様に「スペース問題」はきわめて深刻である。国・公・私立を問わず、いわゆる文系の部局では、予算額と研究室面積の基準が理系部局と異なる値に設定されていた上、近年の学問状況の変化によって、その研究環境はもはや放置できないまでに劣悪化している。

 それにもかかわらず、文系の研究室といえば「書架・書籍・机」というイメージが依然として根強く、実情についての正しい認識・理解が得られにくいので、すこし現状を説明しておく必要があろう。

2.個室中心の研究環境−その経緯と問題点−
 心理学・地理学などの一部の実験系専攻を別とすれば、旧来の人文社会科学の多くの分野では個人研究が中心であったが、それには次のような大学の事情によるところが大きかったと思われる。

 いま人文学を例にとれば、欧米先進諸国では複数の学部として並立している哲学・史学・文学・行動科学系の個別学問分野が、わが国の国立大学の場合、小規模な文学部の1〜2小講座(教官数にして2〜4名)に圧縮されているのが実情である。そのため、同一講座に所属する教官が共通の研究課題を扱うよりも、それぞれの専攻領域をもつことによって相互補完的な教育研究活動を行うことを優先させるという教室運営方式を選択せざるをえなかった。

 学問の方法論的性格に加えて、この事情もまた活動の「個別化」、研究環境の「個室化」を促し、それが学部や講座内の研究連携に抑制要因としてはたらいてきたように思われる。

3.大学の組織改革と研究環境−不協和発生の現状−
 20世紀最後の四半世紀の間に、新たな学問的要請によって、旧来の教育研究の見直しが行われるようになった。多くの大学で学部改革が行われ、小講座を基本単位とする「個別学問分野並立型」組織から大講座化をともなう「分野統合型」組織への移行が進められた。

 それにもかかわらず、研究環境(ハードウェア)が改善されない現状では、新たな教育研究体制(ソフトウェア)を充分に機能させることができない。

4.文献研究も座学ではない−新しい教育研究環境スペースの設計−

(1)歴史学系の場合:主として文献学的方法に依拠する学問分野においては、一次資料の保管と利用が大きな問題となりうる。ここにいう一次資料とは、たとえば日本中世史研究において、その時代の社会制度や民衆生活を記録した古文書のように、事象を再現するために欠かせない原資料をさす。その種の資料は寺社などに残る貴重なものであるにもかかわらず、二次・三次資料としての印刷物としばしば混同され、その扱い充分な配慮がなされていない場合が少なくない。

 この種の資料については、長らく専門家による内容解読がおこなわれてきたが、近年そればかりでなく、文字やその筆跡を画像処理して書かれた年代を特定するなど、旧来とは異なる資料の処理法が導入されるようになった。

(2)心理学や社会学など行動科学系の専攻においては、最新の情報環境にキャッチアップできる研究環境づくりが求められている。たとえば膨大なサンプルを対象に意識調査資料を得る場合とか、社会的相互作用や集団現象のシミュレーションにゲーミングの手法を用いる場合などのように、コンピュータ・インターネット上の情報交換を活用することが有効だと考えられるので、旧来とは異なる方式の研究環境設計が必要となろう。

(3)以上に紹介したのは人文学諸分野の集合体である文学部の例であるが、教育・法・経済学部などの場合も現状にはさほど違いはないと思われる。学問動向に即応するように研究環境を整備することは、人文社会科学系部局に共通の緊急かつ最重点の課題である。大学は資料の積極的活用に道を拓く一方で、収蔵・作業・解析・機器操作などに充てることのできるスペースをぜひとも確保しなければならない。その意味で、単に個室を教員数に応じて配置するというような対策ではなく、理学・工学系の実験室に匹敵する人文科学・社会科学系の研究環境の改善が強く要請される。

 その際、部局ごとにではなく、学問の性格に照らして研究環境モデルを設定することができると考える。

1.4 人文社会科学系におけるスペース問題の深刻な事例(岩崎委員)

 他の研究分野とくらべて人文系の場合は、国立大学共同利用機関、大学附置研究所など研究所の数は多くはない。教育と研究の場が一体となっている学部・学科など教育組織と研究所などの研究環境は、いくぶん異なっている。

 東京大学史料編纂所は、東京大学の附置研究所として明治期以来一貫して『大日本史料』や『大日本古文書』などの根幹的史料集の編纂出版事業を継続してきただけでなく、近年は史料学や画像史料解析などの新研究分野の開拓において学界をリードする活動を行ない、また、各種史料の収集・整理、情報化のめざましい進展によって「開かれた史料情報センター」としての実を備えるにいたった。しかし平成9年3月に実施された東京大学史料編纂所の「外部評価報告書」によれば「スペース問題」はきわめて深刻で、施設面の老化・劣悪化が進み、新しい種々の事業展開を阻害していることが指摘されている。たとえば歴史資料の情報化の面で、東京大学史料編纂所は先鞭をつけた研究を進めているが、新たなコンピュータ関連機器を導入する場合もスペースが不足し、研究室ばかりか閲覧施設部分にまで溢れている。また大量かつ貴重なマイクロフィルムを収集・保存しているが、空調管理を必要とする重要なマイクロフィルムの保管設備がきわめて劣悪な状況にあることも憂慮すべき事態である。

1.5 文系学部におけるスペース・図書館面積事情(北海道大学の場合)

 表6に示すように北海道大学の文系4学部では、基準面積に対して1/3位建物面積が不足している。このため、各大学院研究科では、学生が個人研究用の机も持てない状況が普通になっている。配当の基準が理系よりもはるかに少ないスペースが更に不足しているため、非常に狭隘である。図書館についても、スペースが不足なため、学生の閲覧室、大学院生や若手教官の研究用に図書館の供与する個人閲覧室を潰して書庫にしなければならない状況である。北大における文系の学部の重点化は今年から始まる予定なので、今後大学院生の増加が予想され、狭隘化は一段と進行するものと考えられる。大学院重点化に伴って建物の基準面積も25%増加するはずであるが、実際に建物が建設されるまでの期間はスペース不足の程度が甚だしくなるため、対策に苦慮している。

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付属資料2 化学関係研究環境(実験スペース、安全性)に関する化学系学科、専攻主任のコメント

 1995年度の日本化学会教育研究基盤調査委員会のアンケート調査3の際、化学関係学科主任、専攻主任に研究環境に関するコメントをお願いした。以下は、その中の実験スペース、実験環境に関する各主任から寄せられたコメントの要約である。

2.1 スペース関係

○学生数が多いところは学生用の机がないケースが多い。

○合成を主とする研究室では実験台のスペースが大きく、自分用机を持たない場合が多い。

○有機化学系と物理化学系で学生居室の態様がかなり違う。前者は実験室=居室で、後者は測定室と居室を別にしている。

○実験系と非実験系とでは大きく状況が異なる。共通機器・大型機器などの設置スペースを別途保証する必要がある。

○大学院専任講座(改組によって新しくできた講座)には部屋がない(0m2)。教授室(29m2)だけを何とかひねり出したが実験室は他の研究室を借りている。

○NMRの測定室は全く居室には使えない。実験設備の大きさによって自由面積に大きな差が出る。

○有機化学系研究室の方が、自由面積も机の数も少ない。

2.2 安全関連(高圧ボンベ等)

○法令で定められている規定数量をはるかに上回るボンベがある。これらの解決手段としては、専用ボンベ置場からの配管設備の敷設が必要であるが、管理者の問題も含め現時点での見通しは明らかでない。

○高圧ガスボンベの専用保管場所の数が少なく、屋内配管ができない。

○ボンベの専用保管場所を作るようにいわれているが、予算がない。

○常に消防署より改善の指導がなされているが対応できていない。スペースと予算がないため。

○全く無防備で他大学から来た者には恐ろしい気さえする。

○ボンベを保管場所から実験室に移動する要員と設備の不足から実験室にボンベを放置することが多い。ボンベ用のリフトの設置を要求しているが、ここ5年間実現していない。

○今後特殊ガスの使用が多くなることが考えられる。そのため安全管理について充分の配慮が必要である。

○スペースがなくどうしようもない。

2.3 安全関連(危険物取り扱い等)

○専用保管庫の購入予算と設置場所が不足している。近年の危険物取り扱いに見合った予算措置が必要。

○予算が大幅に不足している。

○保管庫がないため、本来保管庫に保管すべき溶媒・薬品を実験室内に持ち込んで保管している。

○危険物薬品の保管場所の不足。

○保管量に対応する防災区画や倉庫がつくれない。

○廊下に薬品棚、溶媒を置いている。薬品倉庫を別棟に設置できると良い。

○スペースの絶対的不足。廊下に障害物(ロッカー・冷蔵庫・書棚)が置いてある。

○研究室が狭いため、危険物を廊下の戸棚に保管してある例がある。研究室の面積を大きくすることは緊急の課題である。

○廊下に物品を置いているが部屋が狭くてもちこめない。

○廊下に(戸棚等)物を置いてはいけないといわれているが、それ以外に置くところがない。

2.4 安全関係(毒物、劇物取り扱い)

○毒物・鉱物の専用保管庫の購入予算と設置場所が不足している。近年の危険物取扱いに見合った予算措置が必要。

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付属資料3 電気情報系関連研究室の実情

3.1 電気系関連研究室の実情(東工大 荒井滋久教授まとめ)

 電気系に限られることではないが、1970年代以降、わが国の高度経済成長期には、欧米の科学技術に比肩できるような教育研究水準を実現することを目的に、新分野の設置や科学研究費の拡充が行われてきた。コンピュータの出現と情報化時代の発展に伴い、1970年代中頃から情報工学や集積回路分野の研究教育環境拡充のため新学科や新コースが電気系学科に併設されるようになり、入学学生定員も当時に比べて現在ではほぼ倍増している。また、科学研究費等の公的研究費の拡充により、大学で研究教育に携わる教官自らのアイデアを実証するための実験装置・設備の導入が著しく進んだ。しかし、半導体材料・磁気記録材料およびそれらを用いる電子・光デバイス等の試作研究にはかなりの大型装置や多くのプロセス装置等が必要であり、従来の考え方による基準面積では対応不可能な大きな研究スペースや安全に研究するための実験環境が必要となっている。また、コンピュータ教育や半導体デバイスおよび集積回路試作実験等、学部教育課程における実験・実習内容の更新や学生定員の増加に伴い、必要となる学生実験室スペースも増大している。

 特別なクリーンルームを配した実験棟や研究センターとしての建物が僅かながら整備されつつあるものの、現在の研究スペースの不足分解消に対しては焼け石に水の状態であり、ほとんどの教官は居室スペースを削って実験スペースに当てているのが実情である。一方、現在では個人個人が机上にパソコンを置かないと勉学・研究に支障をきたす状況になっているにも拘わらず、所属する学生1名あたりの居室スペースは1970年代以降下降の一途を辿っている。典型的な居室スペース1単位(約20−25m2)あたり8−10名の学生および研究者が机を並べている現状では、外国からの客員教授・客員研究員受け入れをも躊躇せざるを得ない状況にある。「技術立国日本」の重要性が唱えられて久しいが、将来それを支える学生に対する待遇は年を重ねる毎に悪くなっている。

(東京工業大学電気・情報系では、輪講室の利用最終時間枠を従来の7−8時限(午後4時30分)〜11−12時限(午後7時30分)まで増やすことによって、それまで10部屋あった輪講室を5部屋に減らす努力をしてもなお、教授には4単位、助教授には3単位のスペース配分しかできず、昨年の新任助教授3名には2単位しか配分できない状況になった。教官が学生あるいは実験装置と同居せざるを得ない状況も生まれつつある。)

3.2 情報工学系研究室の実情(東工大 古田勝久教授まとめ)

 情報工学系における研究室スペースの実情について、新設の大学院専攻である、東京工業大学情報理工学研究科の例について述べる。

 東京工業大学の情報理工学研究科は1994年に工学部と理学部の一部を大学院重点化として改組することにより発足した研究科である。改組による研究科であるため、発足当時は新任教官分の面積が十分に手当されなかった問題や、ある専攻では研究室がキャンパスの最南端から最北端まで分布したためにまとまりのある教育環境構築が困難であったなどの問題があり、研究科棟の建設は研究科の願いであった。そのため建物の概算要求を繰り返した結果、1997年から3期に分けて大岡山キャンパスに新棟を建設し、それを情報理工学研究科が使用することとなった。

 このように新棟が建設されることにより、十分な研究環境が保証されると研究科では期待していた。事実、研究室のほとんどがOAフロアになるなど設備の点では使いやすい建物になるように設計されている。しかし、面積の点では下記のような理由により期待ほどは改善されなかった。

  1.建物高層化によるトイレ・階段・エレベータなどの共通部分の増加
  2.高度情報化による計算機ネットワークのための共通スペースの増加
  3.学内措置等による研究スペースの削減

 情報理工学研究科棟は11階建てで、1フロアの面積が少ない。しかし、各フロアに必要なトイレ、エレベータ、階段等の共通部分面積は建物の高さに関わらず一定であり、また、上下水道のためのパイプスペースなどはかえって増加する。単純計算でも、建物の高さが2倍になればこのような非居住共通部分は2倍強になり、研究室の面積を圧迫することになる。また、近年の高度情報化により計算機ネットワークはライフラインとも呼べるものとなっている。しかし、これを建物に敷設するためには電気配線と同じようなパイプスペースと共に、サブネット化するためのルータやサーバをおくための共通スペースが各フロアに必要となる。これらも研究スペースを圧迫する原因となっている。

 限られた敷地で新築が行われる場合には、高層化、高度情報化が進めば進むほど研究スペースが減少することを認識し、それを考慮に入れた建物面積を算定することが必要であると考えられる。

 ただ、新棟で面積が期待するほど改善されなかった理由は上記のような物理的理由のみではなかった。学内の諸般の事情により大学の全学事務の一部と学部の講義室が新設の建物に収容されることになり、建物の10%程度が研究科外で使用されることとなった。この研究科外使用の妥当性を知るために建物の面積算定基準を事務に問い合わせたところ、これは丸秘で公開不可とのことであった。

 この例を見れば建物建設により研究環境(面積)が改善されるためには、次の点に留意する必要があることを指摘したい。

 1.建物固有の問題(例えば限られた敷地面積上での高層建築等)や高度情報化による共有スペースの増加を考慮した建物面積算定の必要性。

 2.建物建設に関する情報を公開し、各部局に与えられた面積が基準値をどれだけ満たしているか等を教官側で検討できるようにすること。

 3.事務局の基準面積を従来より広くし、教務を含めた事務局の使用する面積が研究スペースを圧迫するようなことが無いようにすること。

 特に3に関して、本学の事務局が狭い面積で苦労を強いられていることを明記したい。特に現状の教務課では面積不足と窓口不足により学生サービスの面で支障をきたしていること、これを改善するためには教務課のためにデザインされた広い新たな面積が必要となることは理解できる。また、現状の事務局に対する基準面積は学生サービス等の面でも不十分であることも理解できる。事務局に対する基準面積を広げることは学生サービスを充実させる意味でも、また、研究スペースを事務が圧迫することが無いようにするためにも必要不可欠な措置であると考える。

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付属資料4 生物関係実験環境 (菅野、星、岡野委員コメント)

4.1 共通する全般的状態

1)新しい学問の急激な進展に伴って、
  (1) 新しい機器の設置
  (2) 特殊な部屋(DNA組換え室、クリーンルーム、細胞培養室など)の設置
  (3) コンピューターなどの通信機器の設置

  が必要となり、スペースが大変狭くなっている。新しい機器を置くスペースがないところも多い。コンピューターに占領されデスクが狭くなっている。

2)研究者数の増加:大学院生、研究生、留学生、パートの技術者などが増加して働くスペースが狭くなっている。

3)事務的、秘書的業務が増え、パートの秘書が必要となっている。このためにスペースをとられている。

4)研究の進展のスピードが早く、機器等の改良が早いので、大小種々の機器はすぐ古くなる(まだ使える)ので、新しいものを買うことになり不必要に機器が並ぶことになる。

5)したがって、廊下にもモノが溢れ、消防署といざこざが絶えない。

6)多くのところでは、現在使っていない(まだ充分使える)モノを格納する場所がない。結局捨てることになる。

7)先人の(いや現人のものでも)貴重な研究資料や記念すべき機器、道具など(archives)を保存すべき場所がない。これらの文化的資産・遺産はみすみす捨てられている。したがって、学問の歴史や伝統を伝えることができない。その結果、本当の学問を産み出すことができないでいる。

8)知的空間の確保:研究活動をすすめる上で欠かせないラボ以外の、談話室、読書室、図書室、セミナールーム、快適な食堂などの知的空間の充実が、今後の日本科学の創造に不可欠と考える。これらは、ラボや事務室の拡大によって消滅しつつある。

4.2 資料の保存、保管を必須とする研究領域

1)医学歯学系
  (1)私(菅野委員)の属する病理学では、ヒトの疾患材料(手術、切除、生検、解剖などの材料)とその記録を長期間保管しておく必要がある。
  (2)臨床医学では、患者の記録、写真、フィルム等々膨大な関係資料を長期間保管する必要がある。

2)生物学、農学、薬学系の学問でも、動植物体、水産物、種子、微生物等、その変異体、さらに多くの化合物、合成化合物などは整然と保管され、いつもリファレンス可能にしておく必要がある。
 
 以上の資料の保管とその利用は大きいスペースと人力を必要としている。これらの学問はかつては枚挙の学として軽視され経済的支援もなく壊滅状態に陥りつつある。

3)古い学問に新しい波
 このような古い学問といわれる領域がバイオテクノロジーの進展、殊にゲノム解析の進展によって様子が一変しつつある。学問的には生物の発生、分化、進化、多様性の研究が花開くことになる。一方、有用遺伝子の探索、有用変異体の作成、疾患因子の解析と治療法の発見などが期待され計画されている。また、遺伝子資源として人類共通の財産であり、国策上からも重要である。しかし、これらを新しく生かすためには、これらが整理され、使える状態になければならない。現状は極めて憂慮すべき状態である。これに関連して、博物館、水族館、植物園の充実も必要である。

4.3 優れた研究拠点の充実

  日本に多くの優れた研究拠点がある。そこでの研究スペースについてみてみたい。名前を上げた方が分かりやすいと思われるので、必要に応じて名前もあげることにする。

1)優れた研究所
  東京大学医科学研究所は、日本最大の生物医学系研究所で、世界的に知られた優れた研究所である。寄付講座もあり、スペースも他に比して大変恵まれている。岡崎の基礎生物学研究所と生理学研究所、三島の国立遺伝学研究所もこのグループに属するといってよい。しかし、ゲノム研究、ゲノム発生学、構造生物学、脳研究などの新しい学問に本格的にかつ体系的に取り組もうとするとき、スペース が圧倒的に足りない。新技術、新しい機器を揃える場所がなく、国際的レベルで新しいサイエンスに対応できない状態にある。対応には、基準面積などにとらわれない国レベルの大所高所からの研究推進方策の実行が必要である。なお、地理的にみて、大阪大学微生物病研究所、九州大学生体防御医学研究所も、上記3研究所並の拡大充実が望まれる。

2)狭いスペースに苦しむ研究所
  東京大学分子細胞生物学研究所、広島大学原爆放射能医学研究所をはじめ、多くの大学附置研究所では優れた研究がすすめられている。しかし、過去に新事態に対応するため改革を繰り返し講座数が増したが、施設がそのままであるため、一講座当りのスペースが減少し、細分化に苦しんでいる。これらの多くは、施設も古くなっており、新築、改築などの根本的対応が必要である。その際、基準面積にとらわれない措置が必要である。

3)優れた研究室
  優れた業績を上げている大学等の研究室の担当教官は、大型研究費の配分、企業との共同研究などによって研究費、新しい機器、研究者、研究補助者にはあまり困らない状態になってきたことは喜びに耐えない。しかし、スペースの狭さに苦しんでいる。基準面積は満たしているのだからどうにもならないと事務当局にいわれ正式に取扱ってもらえない。そこで一時しのぎにプレハブなどの研究スペースを増やすことになる。プレハブは仮設物であるから認可を受けないで済むという利点がある。事務的にも建てる場所さえあればこの方法をすすめることになる。結果的には企業のサポートで安易に一時しのぎに対応しようとすることになる。このため、国による施設拡充という正式ルートを通してマシーナリーを動かす方策を自分から閉じていることにつながっている。これは由々しきことである。この風潮は断固断ち切る必要がある。日本でも本格的な格調高い産官学の共同体制の確立が緊急であるが、プレハブ対応は、これを矮小化し阻害するもので賛成 できない。あくまでも緊急避難に過ぎないと認識すべきものと思う。

4)以上、見てきたように、優れた研究をすすめるためにはその場所、ラボを充実することが必要である。これは、画一的スペースを原則としてきた従来のやり方ではダメであることを示している。基準面積に縛られるのではなく優れたところを大きくするという不平等主義、能力主義に立脚しなければならない。これは国際的ルールでもある。この考え方は、これまでの学術会議の平等主義と違うことかもしれない。もしそうだとすれば、学術会議の方を変える必要がある。おそらく現在でも全国を足して割れば、平均してみればスペースは充分間に合っているのではないかと思う。

4.4 病院

 大学病院を中心とした研究病院のことは第4常置委員会の関係する事項外のことであるかもしれないが、現在から将来へのトレンドについて簡単に記す。

1)病院では、入院患者1人当りのベッドとその周囲の空間(床面積)を単位スペースとしている。日本の医療は、総ての人への低コストと充実した診療を特徴としているが、日本の病院は、患者を大部屋にギュー詰めにしている、といわれてきた。日本の1ベッド当たりの床面積はアメリカの1/4である。18多くの欧米の人の方が身長も幅も体重も大きくベッドサイズも大きい必要があるが、ともかく空間に余裕がある。

2)日本でも、最近は患者のアメニティやプライバシーの点から、
 (1)床面積を広くして患者の空間を拡げる(例えば1床当り6m2から8m2)、
 (2)いわゆる大部屋をやめて4床室くらいにし、便所も共同から小人数用の分散便所にする。
 (3)看護単位を70床から60床へ、さらに50床へ小さくして、より充実したきめ細かい看護を行うようにする。このためナースステーションの数も増やす必要がある。
 (4)救急治療室の1床当り面積を広くする。
 (5)緩和ケア病棟(病室)の設置など終末期医療の充実をはかること等々が望まれている。このため病院は、スペースの拡大が要求され、看護要員の増加が必要になる。厚生省は、保険の支払いによって拡大したスペース分をカバーすることにしている。事実、このために内部改装を行っている病院があり、新築病院はこのガイドラインに従う形でつくられていることが多い。

3)病院は、病床数に応じたパーキングスペースを用意すること、病院の大きさに応じて緑の木を植えることなどが決められているなどの来院の便、環境の保全に配慮することになっている。

4)地域の病床数
 厚生省の指導の下、都道府県の衛生部が中心になって、地域の病床数の制限、すなわち、人口当りの病床数の基準化が行われており、自由に病院をつくることはできない。医療費抑制と共に医療の適正化を計るためであるとしている。

5)臨床医学と研究に関連する問題
 臨床医学の場合の研究についてはいくつかの課題がある。例えば臨床的な統計、特殊な症例の詳細な検討、治験への関与など臨床と直結した研究以外にかなり基礎的な研究が実際に行われている。これらの研究を実施するにあたっては相当膨大なスペース、設備が必要とされるが、現状ではそのための施設が不足している。特に生化学的、分子生物学的な研究を行う場合、基礎医学教室と共同の施設を使うこともあるが、基礎医学系教室との共同使用が行われる場合には、互いに狭隘なスペースが更に圧迫される状況が起きている。

 また臨床医学部門では当然のことながら患者の診療があるため、時間的には大きな制限があり研究のための時間として夜間、土、日曜などを用いざるを得ないことが多い。このことは臨床系の大学院生の問題とも関係し、共同で使用している研究室の使用時間の配分等に関して困難な状況が生じている。

4.5 オープンラボの提案

 科技庁の科学研究費の中に、狭義の研究費のみならず、研究者、研究補助者の給料、研究スペースの借料までを含む年限付の丸抱え方式がある。これは一種のベンチャー型研究費といってもよいだろう。

 この方式は、これまでの文部省の固定的な科研費制に楔を打ち込んだもので、風通しをよくする効果がみられている。ある組織で、無理にでもスペースをつくって、それまでになかった研究グループを招いて、その組織の活性化を計ろうとする気運が少しずつできてきている。

 外国の研究所や日本でも企業研究所などで、新しく研究棟をつくるとき、1〜2のフロアーを空けておき、将来の発展に備えるやり方はこれまでも一般的であった。これは自社の発展を予定したものだったが、いまは、室貸しと一緒にこれまでと違った研究者(群)を歓迎しようと変わってきており、オープンラボラトリーといわれている。日本の大学等でもこのような傾向がみられることを期待する。

 このようなオープンラボ方式の導入は、日木の大学等にとって、大変望ましいものと思われる。そこで、(1)大学等で新しい施設をつくるときにオープンラボを用意することと、(2)現在の施設で空いているところを積極的に整理してオープンラボに転用し、大学の活性化を計ることを提案したい。

 国有財産の使用等のいろいろな問題もあろうが、それをクリアしたい。

4.6私立大学、公立大学生物系におけるスペース事情

 国立大学以外の研究室のスペース事情の例を次に示す。

1.早稲田大学教育学部生物関係研究室の例
    構成:教授 1、講師 1、嘱託 2、大学院生 11、学部生 6、
    研究生 2、計 23名
    居室面積 29m2、実験室面積 174m2、人口密度 8.2m2/人

2.束京都立大学理学部生物関係研究室
    構成:教授 1、助教授 1、助手 1、大学院生 10
    学部学生 1、研究生 1、計 15名
    実験室面積:120.5m2、人口密度 8.6m2/人

3.横浜市立大学理学部生物関係研究室
    構成:教授 1、博士研究員 2、大学院生 4、学部学生 2
    研究補助員 1、計 9名
    居室面積 19m2、実験室面積 95m2、人口密度 8−9.5m2/人
    横浜市立大学は助教授以上は独立で、教員1名あたり95m2の配分

4.7農学系における問題点

 農学は作物ならびに生物生産物、さらに生産の場を扱う学問である。したがってフィールドが重視されるのは当然であるが、近年、生命そのものを扱うようになって、フィールドのラボ化とでも言うべき状況が生じている。すなわち大規模な人工環境室や水圏設備、あるいは大動物を扱える施設をラボに設置するようになった。その結果、基準面積が確保されていないということと相俟って、ラボスペースの不足は極めて深刻な問題となっている。したがって、基準面積の確保だけではなく、基準面積の見直しも差し迫った課題である。

 ところが現状は基準面積さえも満たされていない。実態を北大、東大、名大、九大のデータで示す。

表:北大、東大、名大、九大、各農学部の基準面積達成率


 面積の単位は平方メートル、達成率とは基準面積に対する保有面積の%である。上表には農場、牧場、演習林などの施設は含まれていない。それらの施設は多くが老朽化した木造等の危険建物であることも指摘しておきたい。

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付属資料5 研究環境に関する日本学術会議のこれまでの取り組み

 日本学術会議ではこれまで大学等における研究環境問題に関し、政府に対して次のような提言(勧告、要望、報告を含む)を行ってきた。

1.平成元年4月20日 勧告「大学等における学術研究の推進について−研究設備等の高度化に関する緊急提言」

 日本学術会議第107回総会の議決に基づき、我が国の大学等における研究設備の老朽化、陳腐化が進行していることを指摘し、特に研究設備等を緊急に充実させることを勧告した。

2.平成3年5月30日 勧告「大学等における人文・社会科学系の研究基盤の整備について」

 日本学術会議第111回総会の決議に基づき、前項の勧告に続いて、人文・社会科学系の大学等における研究基盤を早急に改善し、整備するよう勧告した。

3.平成5年3月25日 会長談話「大学等における研究環境の改善について」(日本学術会議月報 平成5年4月号)

内容

1)日本学術会議化学研究連絡委員会報告(付属資料5参照)で明らかになったように、大学等における研究室の実態は、単に施設・設備の老朽化、陳腐化が進み、独創的・先端的な学術研究を推進していく上で大きな障害になっているばかりでなく、学術研究に従事する研究者や学生の人命にも直接かかわるほどに深刻な状況になっていることを指摘した。

2)次に、まず、大学等の関係者に対し、研究室の安全確保のための組織体制づくりなどの自らの対応措置を望むとともに、改めて広く関係各位に対し、大学等における研究施設・設備を初めとする研究環境の抜本的改善の緊急性を訴え、関係方面におけるなお一層の努力を要望した。

3)特に政府に対し、大学の研究施設・設備の整備は、その成果が国の資産となって後まで残り、国民全体が利益を享受することを指摘し、景気対策策定の際には、学術研究推進という観点からのみならず、社会資本整備の一環として最優先で考慮されることを要望した。

 3月25日、近藤次郎会長は河野内閣官房長官と会見し、本会長談話を手交し、大学等における研究環境の改善について要請した。

4.平成3年7月16日 日本学術会議第5部報告「工学系の大学学部等における教育研究環境−学長・部局長からの回答に基づいて−」

  日本学術会議第5部(岡村総吾部長)は、工学系大学学部等の教育研究環境に関し、107大学の大学長、学部長を対象として行った調査結果に基づき、教育研究のための人員・経費・施設設備の現状を分析し、我が国の工学系の大学の教育研究環境が極めて劣悪な状態に置かれていることを指摘し、施設設備等の老朽化、研究費の極端な不足、支援体制の不備等が大学における教育研究の根幹を揺るがすに至っていると訴えている。特に、建物面積については、次ぎのように分析している。講議室・実験室の面積は学生当たり27m2であり、博士中心大学では11m2、修士中心大学では39m2、学部中心大学では32m2である。研究室の面積は大学の性格を問わず教授助教授当たり平均66m2である。したがって、学部、修士、博士中心大学の順に狭隘さが厳しくなり、博士中心大学では、研究者一人当たり平均8.5m2に過ぎないと報告している。

5.平成7年10月25日 日本学術会議要望「高度研究体制の早期確立について」

  我が国の学術研究に対する政府の負担割合を欧米先進国並みに引き上げ、政究開発投資額を早期に倍増させることを要望した。特に優秀な研究者を確保する観点から、劣悪な状況にある研究環境を早急に改善することを要望した。

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付属資料6 平成5年2月25日化学研究連絡委員会報告

−大学の研究室における安全確保と実験環境の改善について−(説明)
(平成5年2月25日 日本学術会議 科学研究連絡委員会)

 「文化国家」や「科学技術立国」を唱えながら、我が国の大学が先進諸外国の大学と比較していかにも貧弱であることは、近頃漸く方々で声が上がり始めて来た。外国からの訪問者たちは「これが経済大国日本の大学ですか!」と驚く。例えば、前期における、化学研究連絡委員会(化研連)の調査報告によると、我が国の大学の研究実験室での研究者一人当たりの面積は、欧米各国の大学に比較して、実質的に1/3%から1/4%しかないことが明らかになったし(平成2年5月)、単に狭隘であるだけでなく、実験室の換気など衛生や安全の面からも、はなはだ望ましくない状態になっている(平成3年6月)。

 昨年、当時日本化学会の会長であった岸本昭和電工会長が、東京大学のある研究室を御覧になって、「実に惨憺たるものですね」と驚かれ、このような状態は安全確保の見地からも、一日も放置することはできないから、我が国の化学工業の企業の集まりである日本化学工業協会の安全関係の専門家達に、安全確保のためにはどうしたらよいか、調べてもらいましょうということになり、日本化学会も協力して、全国旧制国立大学38研究室を手分けして実地に調べることになった。これらの専門家達は、本業をおいて、綿密な下打ち合わせの上、実に熱心に動かれ、行き届いた報告書ができ上がり、それを基にして、化研連が報告を作り上げ、2月25日の学術会議の運審でお認めを頂いた。

 このように民間の人達が国立大学を査察(?)したことは、これまでになかったことである。もちろん、企業での安全対策と大学のそれとは必ずしも同じではない。しかし大学だから安全でなくてもよいというわけではなく、世界的にも企業と大学との安全対策の差はドンドン狭くなっているのが実情である。今回の報告書では、まず、結論として、現在の大学の研究実験室の実態は安全管理の面から見ると相当に深刻な状態であり、災害に至る潜在的危険性が極めて高いことが指摘された。企業では到底考えられない危険な管理箇所も処々に見られ、設備、施設の貧困、運用予算の制約等から、やむを得ず日常的に、著しく安全性を欠いた状態で研究室を運営せざるをえない例が少なくなく、大規模な火災や地震が起きた場合、避難すら困難であり、二次的な災害へと拡大する恐れがあり、このような状態は一刻も放置すべきでない。殊にこれからますます重要となる国際的研究協力の推進や、留学生の受け入れ数の増加などは、この面からも大きな問題があり、早急に改善されなければならないことが明らかであると結論している。

 具体的な指摘としては、まず第一に、実験室のスペース不足がひどく、それが安全確保を困難にする最大の原因になっているということ、換気装置などが少なく(外国の大学では臭い有毒ガスのある中で実験するなど考えられないが、我が国では不備で外国の人達が驚くのが現状である)。老朽化した備品の廃棄、更新が不十分、事故に備えた保険制度の不備、などなど、やはり基本的には大学自身が、安全面に対する努力をもっと尽くさなければいけないことは明らかで、実験室の中の整理整頓はもちろんのこと、、組織としての安全対策、管理方式、訓練、教育の徹底、改善が必要とされる訳である。

 今回の調査は化学を中心にして行われてはいるが、大学の研究室一般の安全と環境の保全については、化学専門以外の分野の研究室でも全く同じことである。一つには化学というものが、物を造ったり、扱う分野に広く拡散して来たことにもよる。事実一昨年起こったある国立大学での人身事故でも、電気の研究室での出来事であったことでも分かる。今回の報告は次のように結んである。「世の中では、今後ますます安全・環境の確保が厳しく求められる。大学の実践を通して、このことをしっかり身につけ、社会的要請に応える科学者・技術者を育成する大学の責務は大きい。『快適な教育、研究環境の形成』の第一前提として、まず安全確保、そしてよりよい研究環境の整備は焦眉の課題であり、実現に向けて、出来るだけ速やかに、所轄官庁や大学自身の実効ある対応・措置を強く望むものである」

田丸 謙二(化学研究連絡委員会・委員長)

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付属資料7 国立大学附置研究所における状況 −東北大学における現状−

 東北大学には6研究所が附置されている。これらの研究所の中で金属材料研究所を例として現状を紹介する。この研究所では、26研究部門に加え、4つの客員部門、3施設(1施設は大洗)、技術部、事務部、他に所内処置として情報・広報室、クリスタルサイエンスコア、分析コアが設置されており、全職員約320名の他に約175名の大学院生や研究生が研究に励んでいる。その他、民間との共同研究、全国共同利用としての短期訪問者の数は年間延べ4,000名にものぼる膨大なものである。さらに最近、COEとしての活動が盛んになり、国内外からの客員の数も増加の一歩をたどっている。この様な人員状況にあるにも拘わらず、これに対応すべき研究室などのスペースに対する措置は何らなされておらず、狭い研究室をやりくりしているのが現状である。次に具体的な数値を示しながら説明する。

1.現在必要な基準面積

 平成7年度に改正された基準によれば、本所における基準面積は27,368m2、スーパーコンピューター棟のような特殊な建物に与えられる基準特例面積は3,400m2であり、総計の必要面積は30,768m2となる。この中には、平成7年度改正で認められた大学院学生用のスペースも含まれている。

2.充足率

 本所の現有建物総面積は、現在22,987m2であり、基準面積との差の7,781m2が不足面積となり、充足率は74.7%である。従って、本所では、この現状の1/4という大きな不足分面積を概算要求により獲得する必要がある。

3.困っている例

 a.ある研究室では、科学研究費で購入した大型装置の適当な設置場所がなく、ドアを塞ぐ形で設置している。このような消防法違反の現状を招来しているのは、建物の面積が不足していることを如実に示している。

 b.本所では24時間体制での研究が行われており、実際の滞在時間は各人平均12時間を越えるが、部屋には実験装置、計算機、文献、図書、情報機器などの全てのものがところ狭しと置かれ、さらに居室机が隙間を埋めていると言う状況である。

4.大学院教育への対応

 研究所には本来大学院生は居ないと言う定義から、最近までこれらの研究スペースは全く認められていなかった。実際には、本所だけでも160名を越える大学院生が在籍して研究に励んでいるにも拘わらず、彼らに対する居室すら認められていなかったために、装置と雑居している状況にあり、勉学に支障を来しているのが現状である。平成8年になって、ようやく研究所における大学院生用スペースが認められる様になったが、その面積は学部の半分しか認められておらず、しかもまだ全く処置されずに放置されている状況にある。

5.大型プロジェクトヘの対応

 最近、文部省や他省庁の大型研究プロジェクトに対するスペース確保が問題になっている。これらの資金は研究遂行が可能なことを条件としているため、設置スペースの所内確保を約束せざるを得ないことが挙げられる。そのため、現有のスペースに無理に装置の設置と研究者居住場所を確保しているのが実状である。

6.全国共同利用研究への対応

 本所は、全国共同利用研究所として既に10年の歴史があり、毎年延べ4,000人以上の滞在研究者がある。これらの訪問者に対する居室の整備は全くなされておらず、セミナー室などに仮居住してもらっているのが現状である。

7.国際化への対応

 先進欧米諸外国では、研究者には通常1人1部屋が確保されるのが普通である。しかし、現状ではこの対応は極めて難しいのが実情である。外国人の教授、客員研究員からは独立居室の要求が強く、その実現がない限り、優秀な客員教授の招聘は困難である。また、ポスドク、大学院生レベルでも欧米では2人1部屋(相当広い部屋で)が標準的である。この様に、現在のスペースでは、国際化への対応は名ばかりのものになってしまう危険性がある。

8.理想的なスペースと建物

 設置基準面積の充足率は74.7%であるが、理想的な建物面積はどの位かを具体的に検討しなければならない。まず、最低上述の狭隘さを解決することに焦点を絞れば、以下のようになる。すなわち、現在の人員構成の基での必要面積は、教授・助教授・講師、客員教授用に1人1室とすると70室(70×25m2=1,750m2)、大学院生用を2人1室とすると75室(75×25m2=1,875m2)、COEなどの研究員用として30室(30×25m2=750m2)大型プロジェクト用実験室として10プロジェクト×10室(100×25m2=2,500m2)、これらを総計すると、6,875m2となる。勿論、建物には、廊下、階段、その他の共用スペースも必要であるので、約1万m2となる。これが、現状で不足している最低のスペースということになる。さらに、現在未だ認められていない必要な基準特例面積が約1万m2あることから、今後整備すべき最低の要求基準面積の総計は4万m2という結論を得る。理想的には、機能性、居住性、安全性等を考慮すれば、上述の1人当たりの部屋面積は25m2を35m2位に増加させる必要があると考えられ、金属材料研究所に対して望ましい建物面積に対して現在約5万6千m2が不足していることになる。

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付属資料8 公立大学におけるスペース事情

 東京都立大学大学院(理学研究科、工学研究科)の状況 (理学研究科 井上博夫教授まとめ)

 東京都立大学は平成3年4月、都内目黒区および世田谷区のキャンパスから八王子市南大沢キャンパスに全学移転をした。学生数は大学全体で約30%増、校舎面積については「現状移転」の条件で移転した。校舎面積は移転計画時の大学設置基準で算定されている(昭和31年文部省令第28号)。移転前の都立大学は都内にキャンパスが存在したこともあり、敷地内に附属の都立大附属高校の面積まで「借用して」設置基準を満たすという惨状であったので、設置基準通りの現状移転ではあったが実質的に校舎面積は全体平均で約30%近く増加した。しかしながら、移転前には校舎面積の狭隘さのしわよせで各学科単位で学生実験室、製図室、演習室、学生ロッカー室、ゼミナール室、図書室、共通機器室、などの大学として当然備えていなければならない共通スペースに十分に面積を割くことができない状況であったので、移転計画の段階でこれらの面積を本来の大学としてあたりまえの面積に拡充することとした。その結果、例えば、工学部応用化学科(当時工業化学科)では各研究室が独自に使用できる面積は移転前に比べて約10%減少するという奇妙な現象も発生している。移転前から容易に予想されたことではあるが、校舎面積の狭隘さは移転直後から毎年深刻な問題となっている。近年の大学院進学率の上昇、研究活動の一層の活発化により校舎面積は相対的に益々狭くなっている。一部の研究室では助教授室はもちろん教授の研究居室にも大学院学生が同居する状態になっている。毎年3月〜4月には各研究室で新しく入学する大学院生、卒論生を研究室の面積でどのように収容するかを深刻に思案するのが通例である。都立大学理学部・工学部は平成9年4月に公立大学では先がけて大学院部局化に移行した。平均して各専攻の大学院入学定員を約30%増加させたが校舎面積は現状のままである。下表に示すように教員一人あたりの校舎面積は国立大学(平均75.3m2)、公立大学(平均47.6m2)、私立大学(平均50.0m2)(科研費報告書「大学の研究者を取り巻く研究環境に関する調査報告書」平成9年、研究代表者太田和良幸による)に比べて見かけ上、国立大学なみの数字に見えるが、学生実験スペースなどの共通部分を除くと、例えば工学研究科・応用化学専攻および理学研究科・化学専攻では教員一人当たりの研究スペースは45m2と最低レベルの数字となっている。大学院重点化大学としては信じられない数字である。都立大学の場合には今後いかにして校舎面積を確保するかが最大の課題になっている。

表 東京都立大学(理学研究科および工学研究科)の校舎面積


大阪府立大学工学部,工学研究科の状況

(工学部と工学研究科は施設を共用している。)
研究室総面積(講義室,学生実験室,廊下等を除く) 16,563m2
教員数   (教授+助教授+講師+助手の実員)  240名
教員1人当たりの面積  69.0m2
学生数 学部4年次生  417名
    大学院 前期  566名
        後期  104名
      計     1087名
研究者1人当たりの面積 12.5m2/人

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付属資料9 私立大学におけるスペース事情

(1)早稲田大学理工学部・理工学研究科スペース事情
 早稲田大学理工学部・理工学研究科は、都市型の大学における理工系キャンパスとして独自の発展を遂げてきた。現在本部のある早稲田地区の狭隘化に対処するため、本部地区から大久保キャンパスに昭和38年から42年にかけて移転し、その後年を追って増加する学部学生及び大学院学生在籍者を収容して現在に至っている。

 この間の大久保キャンパスにおけるスペース事情の推移を図18−1に示す。同地区では、利用できる敷地が極めて限られているため、スペースを最大限に活用して高層化が図られている。増加する学部学生および大学院学生、教職員、研究設備の高度化に対応するため、移転後に新築された建物としては、化学棟(6階、大学本部負担)及び学部80周年事業による55号館(建物面積21,000m2、地上9階地下1階、半額民間寄付による)がある。更に、最近は半額国庫助成による文部省私立大学ハイテクリサーチセンターとして低層2棟(建物面積4,500m2、地上2階地下2階)の建設が行われた。この他に最近、東西線早稲田駅近くの喜久井町キャンパスにも理工学総合研究センターの新研究棟2棟3,200m2(半額国庫補助によるハイテクリサーチセンター)が建設されつつある。これらの内、学生用共通実験室、事務室、会議室、講義室を除いた、専属教員の研究室、研究プロジェクト関係の総面積は約25,000m2である。また、将来の展開を見越して埼玉県本庄市にある本庄キャンパスには、同程度の規模の学術フロンティア研究棟が建設されている。理工キャンパス全体で、移転以来今日に至るまでの建物面積増加は90%増である。

 これに対して、このキャンパスで主として研究教育に従事している専属教員の総数は計269名であり、一人当たりの研究室、実験室の面積は約93m2である。一方、図18−2に示すように大学院在籍者は10倍に増加しており、約2100人の大学院学生が在籍している。大学院学生一人当たりの研究室面積は11.9m2である。これに加え各研究室には4年次以降の学部学生が約2000人の卒業研究のため配属されているから、実験者当たりの研究室、実験室面積はこの半分である。したがって、キャンパス内部、特に研究室は極めて過密になっている。

 大学としては敷地を有効に生かして教育・研究環境を良好に保つべく大きな努力を払っているが、このような建物の新設によっても理工キャンパスにおける過密状態は解決とは程遠い状況にある。根本的な過密状態の解消方法として、地方への展開による新キャンパスの建設が考えられるが、18歳人口が減少し大学への入学希望者が全体として減少することが見込まれる時点において、新キャンパスを建設することは経営上困難と考えられる。現状では、大久保キャンパスに唯一残った空き敷地を活用して高層建物を建設することが過密状態解消のために不可欠となっている。

(2)立命館大学におけるスペース事情
 立命館大学理工学部は6学系8学科より構成されている。びわこ・くさつキャンパス(BKC)は敷地総面積611,024.32m2であるが、ここには理工学部のほか、経済学部と経営学部がある。

1)BKCおよび理工学部関連の建物
 BKCの建物総面積は、理工学部、経済学部と経営学部を含め148,031.47m2である。このうち理工学部のみの建物面積を算定することはできないが、主として理工系の研究者、学生が使用している建物面積を総計すると、おおよそ55,179.16m2となる。

2)理工学部の教員数
 理工学部は教員総数230名であるが、このうち、常勤の教員数は、客員教授・チェアプロフェッサー3名、教授112名、助教授43名、専任講師3名、及び3号助手と言われるパーマネントな助手3名の合計は161名である。

3)理工学部の学生数
 学部入学定員数は学科によって異なるが、80名−140名で、1学年の入学定員は1,310名である。現在在学している学部学生の総数は5,882名である。大学院学生の収容定員は1研究科(理工学研究科)5専攻で博士前期課程では1,000名、後期課程では225名であるが、在籍学生の数は前期課程で890名(充足率89.0%)、後期課程では72名(充足率32.0%)で、総数は962名(平均の充足率は78.5%)である。

4)理工学系研究室の面積
 各教員の個人研究室の面積は19.2−22.75m2である。実験室の面積はさまざまな事情により学科により異なるが、およそ105m2(化学科)−172m2(情報学科)である。教授、助教授の数が155名なので(専任講師、助手は配属学生の主たる指導者にはならない)、これに大学院学生962名と学部4回生(4回生以上の学生を含む)1,535名を均等に配分するとすれば、教員1名あたりの学生数は16.1名(学部学生のみの場合は平均9.9名)となる。したがって1研究室における学生1名あたりの面積はおよそ10m2程度と見積もることができよう。実際には各種共同研究室、共同実験棟等の建物を暫時(場合によってはほぼパーマネントに)利用する教員があるので、実際に使用している建物面積はこれより多くなる場合もあるが、それらは研究室の事情に大きく依存している。

 実際には、150m2前後の実験室に各種実験装置と大学院及び学部学生のデスク、椅子が置かれ、研究室によってはかなり過密なところもある。応用化学系の実験室のうち、合成化学関係の研究室の実験台にはすべてフードがついており、健康には配慮されている。(大瀧仁志教授資料提供)

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付属資料10 理化学研究所におけるスペース事情

 理化学研究所は、昭和33年に科学技術庁傘下の特殊法人として再出発した。発足時は、文京区本駒込を拠点として、研究活動を展開していたが、研究の進展とともに手狭になり、昭和38年に国から現物出資として、約22万m2の土地の提供を受け、現在に至っている。

 和光本所での研究の中核施設である研究本館は、U期に分け建設した。現物出資を受けた1963年3月着工、1968年6月竣工し、地下1階、地上6階で、延床面積は、22,395m2である。建物の特徴は、地下1階から地上3階までは、物理系実験室仕様、4階から6階までは、化学系実験室仕様となっている。理研の研究分野は、物理学、工学、化学、生物学、医科学と多岐にわたっていることに加え、分野間での境界領域研究が増加しており、物理系及び化学系実験室だけで全ての研究に対応することは困難な状況になってきている。

 一方、生物科学研究棟は、東京外環道建設に理研の一部を用地として拠出する必要が出てきたため、これまで、数ケ所に分散していた生物系研究室を一つの建物に収容する方針で建設した。1990年着工、1992年竣工、4階建て、延べ面積は、11,914m2である。研究本館は、現在22研究室が研究活動を行っており、様々な研究テーマ、研究制度の新設等により研究室の研究者数は年々増加している。従って、研究員一人当たりの研究スペースは減少してきている。

 生物科学研究棟は、11研究室が入っているが、建設当初の研究スペース計画にある程度の余裕を考慮したため、研究本館の研究スペースと比較して狭隘ではないものの、研究の進捗とともに研究員一人当たりの研究スペースは減少してきている。

 理研は、フロンティア研究システム、脳科学研究、ゲノム科学研究を推進する全ての研究者に契約制を導入したほか、若手研究者の育成という観点から基礎科学特別研究員制度の導入等我が国の自然科学研究機関の牽引的な役割を担ってきており、基礎科学研究における制度面での改革、拡充を図っている。

 しかしながら、和光本所の中核研究施設である研究本館は、建設後30年以上を経過し、老朽化が著しく進んでいるおり、新しい研究室の発足に伴う改装、設備の老朽化に伴う改修を実施する程度で、本格的な見直しの検討は2〜3年前から始まったところである。今後、学問領域等の変化に柔軟に対応できる施設の充実が望まれる。(資料提供総務課)

理研(和光地区)における研究スペース(加速器施設を除く)


表の研究者とは学生以外の常勤者であり殆どが学位保有者である。床面積のうちおよそ65%が研究スペースとすると、研究者一人あたりのスペースは:

  研究本棟(工学実験棟、レーザー科学棟を含む):44m2
  生物科学研究棟:   59m2
  国際フロンティア棟: 36m2
  脳科学棟:      38m2

であり、全体平均で一人当たり約50m2となる。
研究室によって異なるが、職員数と同数から倍程度の学生がさらに研究に参加しているのが一般的である。大学に比べれば学生数は格段に少ない。ちなみに筆者の研究室(研究本棟化学系)では研究室全面積324m2、研究者当たり25m2、学生も含めて一人当たり約16m2である。研究本棟には化学系と工学系の研究室があるが、工学系は工学実験棟とレーザー科学棟にも装置を置くことが認められており、スペース平均値を装置の占める面積が押し上げている。

 実感できるスペースの広さを比較するには研究室に在籍する学生も含めるのが妥当と思われるが、その様にして化学系の研究室を比較する限り、理研は日本の平均的大学研究室より研究スペースに恵まれてはいるが、恵まれている大学からの研修学生に聞いてみると、あまり変わらないという答えが返ってくる。米国の大学、研究機関と比較すると理研は3〜5割狭いと感じられる。欧州の大学、研究機関と比べた場合はその差は小さくなるが、和光地区で最も古い(築31年)研究本棟における各人の机スペースと実験室の一体化、人数当たりのドラフト数の少なさなどは見劣りする。

 歴史的にみると近年の急速な定員外研究者の増加、測定機器の多様化により、理研の各研究室は一人当たりのスペースが減少しつつあると感じている。以前は研究費が研究規模を律したが最近では研究スペースが研究の規模を制限する最大の要因であると云える。この点を改良すべく、また学問領域の変化、装置類の高度化に柔軟に対応できるよう将来計画の検討が始まっている。(若槻康雄主任研究員提供資料)

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付属資料11 地震による危険

(名古屋大学工学部 林・谷口・福和・名執・久野教授意見、まとめ久野教授)

1.地震による危険について
 大学における地震による危険は、2種類ある。一つは大学の建築物の多くが既存不適格建築物(現行の耐震基準を満足しない建築物=1981年以前の建築物)であるということで、もう一つは狭隘化に起因する火災・爆発・毒物拡散などの二次災害の危険である。ここでは、大学における建築物の構造安全性について述べる。

 1981年に、新耐震設計法(施行令改正)が発布され、現在までこの設計法により建築構造設計がなされている。1995年兵庫県南部地震において、この81年以降の建築物には被害が少なく、それ以前の建築物において被害が甚大であることが判明した。この地震を契機として、既存不適格建築物に対して、耐震改修促進法が1995年12月25日に成立し、以降、小中学校においては文部省補助により、高等学校においては地方自治体、官庁施設については中央省庁・地方自治体により、耐震診断・耐震改修が進んでいる。しかるに、大学のみが補助もなく取り残されている状況である。文部省からの各大学への指示は、通常経費内において各建築物の耐震改修を行うようにとのことである。名古屋大学においても、工学研究科は既に耐震診断を一部実施しているが、他部局においては耐震診断を専門家に外部発注する費用が無く、本部施設部掛員が自前で耐震診断を行っている状況である。

 ちなみに、建築基準法は1998年に改正され性能規定化が行われ、2000年6月施行令および新検証法告示の予定で準備が進んでいる。この性能規定化という概念は、例えば兵庫県南部地震でも建築物が損傷しない、あるいは損傷はするが人的被害はないという耐震性能のランクを明示するというものである。これに伴い設計法も一部改定されるが、当面は前述1981年の新耐震設計法と両立させることになっている。

 いずれにしても、81年以前の建築物に対しては、早急に耐震診断・耐震改修を行わねばならない。

 また、兵庫県南部地震以降の大学病院においては、免震構造が採用され始めて来ている。免震構造とは、地震時における建築物の損傷を防ぐだけでなく、地震時の揺れも減少させる構造形式である。病院において免震構造が採用される理由は、地震時においても機能維持されねばならないためである。すなわち、手術時および点滴等治療時には強震による寸時の中断もあってはならないからである。

2.狭隘化について
 基準算定面積による必要面積に対し、名古屋大学では全学平均約75%(工学研究科では約70%)の充足率である。すなわち、まず基準算定面積すら施設充足が達成されていない。

 この基準算定面積には、共用部分・教育用面積・研究用面積全てが含まれている。教育用面積としては、学部・学科によって学生実験室・製図室などが必要な場合があるが、特例面積として考慮されていない。昨今の情報化に伴い、計算機室・端末室など設置しなければならない状況にあり、大学院重点化による院生の増加から小規模のゼミ室も必要となり、従来の教育用面積と質も量も変化してきている。

 一方、実験室など研究用面積も、超大型の実験設備は共同利用施設として整備されるべきであるが、研究の高度化に伴い、各研究室あるいは学科規模でクリーンルーム・電磁シールド実験室・無振動実験室・実大実験室あるいは実験棟が必要な状況になってきている。特例面積として認定されるべき実験もあるが、認定の有無に関わらず面積が絶対的に不足している。

 さらに、科学技術基本法の制定、基本計面の実施に伴い、大型プロジェクトの導入が図られ、また従来からある民間等との共同研究も多くなったため、大学における研究員が急速に増加している。新しい実験装置の導入も図られている。また、国際化・研究の高度化に伴い、留学生のみならず外国人客員教授・外国人共同研究員も増加している。このように全体的に研究費が増加し、日本の研究が国際的に認められているにも関わらず、施設整備に資金の導入が図られていないため、狭隘化が益々深刻な事態になってきている。

 このため、危険物管理に関しても十分なスペースがとれず、地震時など災害時のみならず日常時においても、安全管理に不安がある状況となっている。

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参考資料

1 平成9年の科研費基盤研究によるアンケート調査報告書「大学の研究者を取り巻く研究環境に関する調査報告書」(研究代表者 太田和良幸).

2 日本化学会研究委員会研究費調査小委員会報告「日本の化学をとりまく研究環境−化学関係研究費・設備に関する調査−」昭和63年.

3 日本化学会教育研究基盤調査委員会報告書「国公私立大学化学系学科・専攻における教育研究基盤」1995年度調査報告書

4 日本学術会議化学研究連絡委員会平成5年2月25日報告「大学の研究室における安全確保と実験環境の改善について」

5 太田和良幸、高等教育研究紀要、No.16,63(1998)

6 文部省大臣官房文教施設部「国立学校施設実態調査報告書」

7 東京大学報告書「東京大学 現状と課題」

8 東京工業大学報告書「東工大 自己点検報告書」平成8年

9 日本学術会議「日本の学術研究環境−研究者の意識調査から−」、日学資料、日本学術協力財団、平成3年5月

10 日本学術会議化学研究連絡委員会報告「−大学における研究環境、特に研究実験室のスペースについて−」平成2年5月25日

11 日本学術会議化学研究連絡委員会報告、平成3年6月

12 8大学工学部長懇談会「未来を拓く工学教育−大学院改革のための検討と提言−」1991年

13 8大学工学部施設整備懇談会「未来を拓く工学教育(続編)大学院を中心とする研究教育施設の再建整備のための検討報告書 1993年

14 第48回国立大学工学部長会議要望書(平成10年7月23日)

15 理化学研究所、理研シンポジウム「学術研究機関における安全」報告集、1995.5.29

16 第22回国立大学51工学系学部長会議要望書(平成10年12月)

17 National Science Foundation, NSF 92-325, "Scientific and Engineering Research Facilities at Universities and Colleges: 1992"

18 今後の国立大学等施設の整備に閥する調査研究協力者会議「国立大学等施設の整備充実に向けて−未来を拓くキャンパスの創造−」平成10年3月

19 大学審議会答申(平成10年10月26日)「21世紀の大学像と今後の改革方策について−競争的環境の中で個性が輝く大学−」

図 1 全国の大学院在学数の推移

図 2 大学院を置く大学数と在学者の状況

図 3−1 文部省文教施設整備予算の推移(消費者物価指数を用いて平成7年度価格に換算したもの)

図 3−2 国立学校文教施設整備費予算額の推移

図 4  国立大学等施設関係整備状況

図5 経年20年、30年以上面積の推移と予測

図6 国立学校施設の必要な面積

図7−1 国立学校保有面積の年次推移

図7−2 学生1人当たりの面積等の推移

図7−3 国立学校等施設の全保有面積(●) 及び大学院学生数(◆)の年次推移

図7−4 国立学校施設面積/大学院学生数

図7−5 国立学校等施設の全保有面積(●)及び大学院教官数(◆)の年次推移

図7−6 国立大学施設の全保有面積/大学院教官教の年次推移

図7−7 国立学校施設整備費予算額の推移

図8 大学の研究室等における研究者1人当たりの面積

図9 研究室等の面積が少ない理由(複数回答)

図10 不足しているスペース

図11 新たな研究設備の設置スペース

図12 新たな研究設備の設置スペース(自然科学系)

図13 研究施設における当面の課題(回答2つ以内)

図14 化学系研究室における研究環境の充実・改善事項の優先度

図15−1 研究者1人当たりの研究室面積

図15−2 工学系研究室の人員配置の実態例(各大学各学科別)

図15−3 工学系基準特例面積の専門別の面積比較(1991年現在)

図16−1 研究者が望む研究環境

図16−2 科学技術基本計画に対する評価

図17−1 米国における科学・工学関係研究施設の新設・補修予算の推移

図17−2 米国の科学・工学関係研究施設に対する新設・補修<BR>予算額の推移(2年分毎)

図17−3 米国の科学・工学関係研究施設の年次推移

図17−4 科学・工学関係研究施設の整備状況自己評価

図17−5 科学・工学分野の研究スペースと他分野のスペースの比較

図18−1 早稲田大学大久保キャンパス(理工系)建物面積累計

図18−2 早稲田大学大学院理工学研究科学生数の年次推移

表1 国立学校建物面積の年次推移<BR>(昭和40年から昭和60年(5年刻み)の面積)

表2 大学院担当教員(教授・助教授)の年次推移

表3 研究施設において当面している最大の課題

表4 研究室の面積に対する満足度の各部別比較

表 5.1 通産省工業技術院関係研究所建物面積と研究職員数

表5.2 科学技術庁所轄国立研究機関の研究環境について

表6 北海道大学文系4学部・図書館面積比較表

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