■科学者の道を志した理由
第6部会員 中野政詩
  大学院に進学して、勉強すれば何か素晴らしい知が得られるかもしれないと思い、暇さえあれば図書館に入り手当たり次第に自分の専門に拘ることなく理系から文系にいたる様々な分野の図書や学術雑誌を手にとって広げていた。しかし、目に映るもの全てにただただ驚愕し、混乱し、戸惑うばかりで、心の充足感は希薄であった。もっと他に自分がのめり込めるようなことが有るのではないか、悪魔の囁きにも悩まされていた。大学助手の職について、学位論文を提出するように指導教授に指示され、そんなことを考えて何の役に立つのかと周りから問われて答えに窮しつつ土壌がなぜ水を含むことができるのかとこんこんと考え続け、実験に没頭した。そのあげくとして土壌が水を含むあらゆる様態を数式表示してみたとき、この知が環境問題の解決や地球の物質循環の統合的解明に役立つことに気がついた。このとき、科学することには心身を虜にする何かがある。面白さ、楽しさをはじめとする人間のあらゆる情感が味わえる、時間を意識の外においてしまうような毎日の充実感が味わえるという思いを持った。それならもう一度この感覚を味わってみよう。この思いだけで今日まで来たような気がする。


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