■大器ではないが、晩成の研究者もいる
第2部会員 町野 朔
  文学部進学予定で大学に入学したが、何をしたらいいのか、何がおもしろいのか、全然分からなかった。そこで、「潰しがきく」という評判の法学部に転進した。そうしたら、友人に誘われて司法試験を受けることになった。法律は嫌いだったが、就職して上司と喧嘩して会社をクビになったときに便利だと思ったこともある。しかし、司法試験の論文式の終わった頃には、企業の就職時期はとうに過ぎていた。運良く司法試験に最終合格しても、もう司法研修所に行くしかないが、そうすると、毎朝また早起きして、つまらない法律の授業を聞かされて、地味なスーツを着た法律家から冷徹に採点される生活しかない。  図書館前の芝生でふて寝していたら、「今年は研究室に残りたい人がいなくて、先生がたは困っている」という話声が聞こえてきた。もちろん、これは事実とは違っていたのであるが、真に受けた私は、「これだ」と思い、全然面識のない平野龍一先生(後の東大総長)のところに押し掛けて、刑事法の助手にしてもらった。  それから30年以上が経ち、ようやく、自分がいま何をしなければならないかが、少しだけ、分かるようになったと思う。


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