会議声明
 

会議声明(仮訳)
−アジアの巨大都市と地球の持続可能性−

1. アジアの巨大都市の現状認識と課題
2. アジアの巨大都市と世界の持続可能性のための政策のあり方
3. 学術分野が貢献すべきこれからの課題

2004年11月10〜12日に東京で開催された、日本学術会議主催「持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議2004−アジアの巨大都市と地球の持続可能性−」の参加者は、以下の認識と提言を共有する。

 

1. アジアの巨大都市の現状認識と課題

経済成長と環境
アジアは世界人口の約6割が居住し、これから活発な経済成長が期待される地域である。地域の中に経済先進国と多くの経済発展途上国を抱えている。経済先進国では社会を支えるエネルギーと物質の過剰消費が課題となっている一方、経済発展途上国では劣悪な生活環境が重要な課題となっている。経済先進国ならびに経済発展途上国の両者において、巨大都市にはそれぞれの課題が凝縮してあらわれている。

公共サービス
都市空間には各種の公共的なサービスを提供する社会的共通資本が整備されている必要がある。自然資源・環境、社会的基盤・居住システム、社会・教育制度など、これら社会的共通資本すべてが有機的に機能していなければならない。アジアの経済発展途上国の巨大都市では、都市内の地区間、社会間での貧富の差がはげしい。経済的な負担能力の相違に配慮した社会的インフラ整備の政策が必要である。経済発展途上国においては社会的インフラが未整備であり、経済先進国においても社会的共通資本の劣化(たとえば、自然資源・環境の喪失)などが進行している。持続可能な都市社会の実現のためには解決すべきさまざまな課題がある。

変化する社会
世界の持続的開発の長期的な展望を考えるとき、経済先進国での物質・エネルギーの過大消費が重要問題であることは明らかである。一方、経済発展途上国の社会においても、物質とエネルギーの過大消費に向かって急速にその歩を進めている。物質・エネルギーの過剰消費志向の強い社会構造を省資源・循環型に改善する必要があり、そのための積極的な戦略が求められている。同時に地球温暖化対策と省エネルギーのために、環境への負荷が小さい革新的な技術が期待されている。

環境の悪化
経済的発展途上国では、大気汚染、水質汚濁、固形・有害廃棄物問題など都市の環境の悪化が著しい。都市環境の悪化が、居住環境の劣化や処理システムの不備と相まって、都市に住む人々の健康に対する大きなリスクになっている。これらのリスクをできる限り小さくするための都市環境管理政策と戦略、ならびに、都市域の健康に関する新しい研究が求められている。

人口流入
経済発展途上国では、都市部や都市周辺地域への無秩序な人口流入が、人間居住の質を悪化させている。最も典型的には貧しい農村からの流入であり、都市貧困層とスラムを増加させている。スプロールの問題も大都市における共通の課題である。どのようにして秩序立てて人口を受け入れ配置できるかが、巨大都市の大きな課題である。

安全と治安
都市の安全性はすべての国にとって喫緊の課題となっている。都市部の社会的インフラとその管理の不備は、災害、犯罪、テロリズムなどに対する現代の都市の脆弱性を招いている。

交 通
それぞれの巨大都市は交通(人の移動と物質の輸送)についても大きな課題を抱えている。経済発展途上国における都市内交通は大量輸送機関と道路が未整備のため、モーターバイクなどを中心とした非効率な手段に頼りがちであり、都市の生活・生産の効率の低下と大気環境の汚染を引き起こしている。一方、経済先進国においては、自動車の普及と道路整備の不整合が、都市内での交通渋滞を招くことが多い。高齢者や障害者など社会的に弱い立場にいる人々の移動性やアクセス手段を改善するために、適切かつ効率的な交通システムと都市構造の構築が必要である。

都市ストックの更新
都市ストックの老朽化に対応できる、長期的な更新のビジョンが必要となっており、長期計画の早い段階からの立案が重要である。また、多くの国で高齢化、少子化が進行しつつあり、将来の人口の減少も考慮した政策も求められている。

社会生活
巨大都市空間における社会生活は、人間の精神衛生面に悪い影響を及ぼしうる。特に巨大都市内では、子供が育ち成長する生活環境への配慮が重要である。

歴史的遺産
都市の歴史的遺産が、都市の巨大化と高密度化に伴い失われてきている。文化をより良い状態で次の世代に継承するには、社会の認識、教育、参加の一体化により開発と保全の調和を図ることが必要である。

科学技術
現代科学技術の二つの側面は、巨大都市の中に顕在的に現れている。現代科学技術文明の恩恵なしには、都市における高密度な居住、商業活動、生産活動は維持しえない。一方、都市は人工的物質と人工的システム群に覆われており、生活環境の悪化、健康へのリスクの増加などが進み、さらに自然の豊かさを享受することが難しくなっている。

2. アジアの巨大都市と世界の持続可能性のための政策のあり方

柔軟性
アジアの経済発展途上国の巨大都市は、地方からの人口流入の急激さ、経済の成長と集中の急激さ、科学技術の発展の急激さ、社会・文化の分裂、ならびに、経済・情報知識の地球化(グローバル化)の急激さという、主に5つの奔流をいま同時に経験している。これは他地域の経済先進国が経験していない状況である。アジア諸国のこの現状に対応し、持続可能な開発を進めるためには柔軟な都市政策が必要である。

居住環境と健康
経済的発展途上国における巨大都市内の貧困層の居住環境とその健康状況の改善は喫緊な課題であり、国際的な連携が必要である。

連 携
経済先進国と経済発展途上国間の連携は現状では不十分であり、アジアの巨大都市の持続的発展のためにはより強い連携が必要である。効果的な連携体制を築くためには、巨大都市間に共通する課題を抽出し、共有すると共に、風土、歴史、文化の相違による様々な差異について相互に尊重した政策を生み出す必要がある。

教 育
巨大都市を担う未来の世代の能力開発が重要であり、持続可能な開発に関する教育を、学校教育、学校外教育、生涯教育などさまざまな場において強化することが必要である。

ガバナンス
都市の戦略と政策は、その透明性の確保、住民参加の促進、ならびに、実施計画の評価のための実績指標の活用などグッドガバナンス(良き統治)に重点を置くべきである。

3.学術分野が貢献すべきこれからの課題

以上の認識と討議の結果に基づいて、われわれは次の諸点を提言する。

・アジアの巨大都市の問題を解決するためには、分断された学術専門領域の知識とその知識から導き出される政策の集積のみでは不十分である。持続可能な都市政策を生み出すためには、都市管理にかかわるさまざまな学術分野の融合による新しい学術からの働きかけが必要である。学術分野間のネットワーク化および新しい融合的学術分野の確立を図らなければならない。

・経済先進国も経済発展途上国も含め、アジア諸国の巨大都市が健全な発展を遂げられるかどうかは、世界のこれからの持続可能な発展にとって最も重要な点である。健全な発展のためには、都市政策に関する普遍的な知識の共有と個別特異的な歴史、文化、社会の相互の理解と尊重が必要である。この目的のために、アジアと世界の都市に関するデータベース化と共同研究ネットワーク化を推進しなければならない。

・巨大都市の未来を担う人材の能力強化が重要であり、幅広い学術分野での都市管理に関する教育と研修プログラムが、国際的な連携の下で進められる必要がある。この分野での教育のネットワークと相互交流、そして都市固有の知識のデータベース化が早急に求められる。また、都市の持続可能性に資する国際的な学術機関・プログラム間の連携も急務である。

・都市の計画・管理を健全で持続可能なものにするためには、利害関係者すべての政策決定への参加など、グッドガバナンスが強く求められている。このために、巨大都市の管理指針を策定するための合意形成に関する理論と実践方法の開発が必要である。

・アジアの巨大都市において、持続可能な社会を計画、設計、構築するためには、われわれは科学と技術に基づいた強固な構想、および、その政策実施のための手段を持つ必要がある。現在と未来にわたって、科学と技術に関わるわれわれ学界がその力を集約し統合しなければならない。日本学術会議は、世界の持続可能性を実現していくために、研究者間の知識の深い交流を促進する主導的な役割を担っていく。


主催:日本学術会議
共催:国際科学会議(ICSU)、国連大学(UNU)、国連大学高等研究所(UNU-IAS)
後援:GCP, IAC, IAP, IGBP, IHDP, PSA, SCA

2004年11月12日