常置委員会 キーワード群

18期−13
各国アカデミー等調査報告書


1.各国のアカデミー
 各国アカデミー設立の歴史を見れば、当然、欧州諸国のそれは古く、米国・アジアは歴史が浅い。調査対象アカデミー中で、最も古い歴史を持つものはイタリアのリンチェイ国立アカデミー(Academia Nazionale dei Lincei)である。これは、1603年、王室と学者メンバーにより自主制定された定款によって設立された。同じく、17世紀に設立されたアカデミーとしては、英国王立協会(The Royal Society:1660年設立。1663年チャールズ2世により設立勅許が与えられた。)、フランス科学アカデミー(French Academy of Sciences:1666年、ルイ14世によって設立)などがある。他の欧州諸国においては、スウェーデン王立科学アカデミー(Royal Swedish Academy of Sciences:1739年設立)、ロシア科学アカデミー(Russian Academy of Sciences:1724年設立)、ドイツ学術アカデミー連合(Union of German Academies of Sciences and Humanities:1893年設立)など、その国を代表するアカデミーのほとんどが18〜19世紀中に設立されている。欧州で比較的新しいのは、ポーランド科学アカデミー(Polish Academy of Sciences:1952年設立)、スペイン学士院(Institute of Spain:1938年設立)などである。
 一方、米国を代表するアカデミーは、全米アカデミーズである。これは以下の4つの組織、全米科アカデミー(National Academy of Sciences:1863年設立)、全米工学アカデミー(National Academy of Engineering:1964年設立)、医学院(Institute of Medicine:1970年設立)とそれらの実働部隊である全米研究評議会(National Research Council:1916年設立)から構成され、それぞれの設立の経緯を持つが、比較的歴史が浅いと言える。また、アジア諸国のアカデミーは、調査国中では全てが20世紀に入ってからの設立である。アカデミーの設立の歴史は、当然、その国の建国の歴史と無関係であるはずはない。
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2.アカデミーの設置形態−欧米とアジアの差
 各国アカデミーの現在におけるその組織の設置形態には、欧米とアジア諸国のアカデミー間で明確な差異が認められた。すなわち、全米科学アカデミーが独立民間非営利組織であるのを始め、欧米各国の代表アカデミーは、ほぼ全てが非営利団体・法人などの非政府組織である。これとは対照的に、日本を含めたアジア諸国のアカデミーの大半は政府機関の中に位置付けられている。欧米のアカデミー≡非政府組織、アジアのアカデミー≡政府組織の枠組みにあてはまらないのは、ポーランド科学アカデミー(Polish Academy of Sciences:1952年設立、国立の学術団体)イタリア学術研究会議(Consiglio Nazionale delle Ricerche:1923年非営利組織として設立。1945年の法的位置付けにより、以降、政府機関)、タイ科学技術アカデミー(Thai Academy of Science and Technology:1997年、法令により設立。非政府組織)である。
 アカデミー設立の歴史においてややユニークな例は中国である。中国の法体系には各省庁の設立について詳しい規定はない。そのため、国の代表的アカデミーである中国科学院(Chinese Academy of Sciences:1947年設立)、中国社会科学院(Chinese Academy of Social Sciences:1977年設立)は共に政府機関であるにもかかわらず、法律的な設立根拠を持たない。しかし、いずれの機関も指導者の意志に基づき設立が決定されたという経緯があり、国家学術界の頂上組織であることにかわりはない。特に、中国科学院は中国における科学技術面での最高諮問機関として位置付けられている。
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3.アカデミーの任期−終身制と任期制の問題点
 会員の任期・定年に関して、各国のアカデミーでは、会長・理事などに3〜4年程度の任期制を布く機関はあるものの、ほぼ大半の場合、普通会員は終身である。あるいは、70歳程度の定年制を布いている機関が若干ある。普通会員で任期制を布くのは、調査・判明した欧米機関の中では、ハンガリー科学アカデミー(Hungarian Academy of Sciences:3年(再選可))、スイス自然科学アカデミー(6年以内)など3機関、あと、アジアに3機関あった。日本学術会議のように期制をとり、3年×3期、すなわち9年を最長任期とする方式はむしろ非常にユニークであると言える。
 アカデミーの水準を高いものに保つには、会員は高い学術評価を受けた者で構成されるべきであろう。学術上の高い功績は普遍的な価値を持ち、その評価は終身のものであるというのが、任期終身制を採用する最大の理由であると考えられる。他方、終身制の問題点も指摘されている。例えば、ポーランド科学アカデミーは終身会員制を布くが、アカデミー会員は一般的国民より寿命が長いため、結果的に高齢者の比率が高くなり、若い世代の研究者にとってアカデミーが自らの代表であるという意識を持ちづらくなってきているということである。いわゆる、終身制による会員構成の硬直化による弊害の一例であろう。逆に、日本学術会議のような現行の期制では、全会員が一斉に交替することになり、同一性、自立性を保った会員組織が中長期的観点に立った継続的立場で活動する体制をとることが困難になる可能性がある。また、会期を越えた審議の継続性・迅速性・効率化という点で問題が出る可能性もある。いずれにしても、将来の日本学術会議の会員制度は、会員の流動化による学術団体としての機能の活性化と活動水準維持の両面を兼ね備えた制度でなくてはならない。
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4.会員の選出方法−推薦
 会員の選出方法に関して、日本学術会議は既存の学会・研究団体から選出されるのに対し、各国アカデミーは、ほぼ全ての機関において、そのアカデミー内の会員により推薦・選出される方式(co-optation)を採用している。これは、アカデミー会員は学術上高い評価を得た者で構成されているべきであり、会員選出の判断はアカデミー会員のみによって可能であるという考え方に基づくと理解できる。他機関からの寄与を排除することにより、アカデミーとしての独立性・中立性を保ちつつ、社会に対しての自己責任を負うことで、ひいては社会からの信用性を高めることにもなろう。勿論、いかなる選出方法においてもその透明性を確保することは欠かせない。
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5.アカデミーの規模−対科学者比では日本は最低
 会員数が最大のアカデミーは全米アカデミーズである。全米アカデミーズは、全米研究評議会を除く3機関で計約4,400名の実働会員を有する。名誉会員、外国人会友等を含めると、その総数は約5,500名に達する。これほど規模の大きな組織は他にはなく、他の諸国の単一アカデミーの会員数はほぼ数百から一千人程度の規模である。日本学術会議の会員数は210人であり、この範疇に属するので、一見、適正であるように見える。しかし実際には、国内の全科学者数約73万人に対する会員の割合(3,500人に1人の割合)で比較した場合、これは他の先進諸国の例、米国(220人に1人の割合)、英国(80人に1人の割合)、フランス(820人に1人の割合)、ドイツ(210人に1人の割合)、イタリア(420人に1人の割合)、カナダ(50人に1人の割合)、スウェーデン(100人に1人の割合)に較べ、非常に少ない。
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6.栄誉・顕彰機能
 諸外国のほぼ全てのアカデミーは、栄誉機関として、各国学術界の最高組織として位置づけられている。これにより、学術上功績顕著な科学者に対し価値ある顕彰を可能にしている。スウェーデン王立アカデミーは、ノーベル物理学賞、ノーベル化学賞、アルフレッド・ノーベルを記念する経済学賞の3賞の授与機関として知られている。ちなみに、ノーベル文学賞は、スウェーデン・アカデミー(The Swedish Academy)が選考・授与を担当している。日本においては、日本学士院が栄誉機関として位置付けられ、顕彰機能を行使している。日本学術会議と同様に、栄誉、顕彰機能を主に持たないアカデミーとして、ドイツ研究協会(Deutsche Forschungsgemeinshaft)、ドイツ学術アカデミー連合、カナダ人文・社会科学連盟(Humanities and Social Sciences Federation of Canada)、スイス科学アカデミー、ポーランド科学アカデミー、米国学術団体評議会、米国社会科学研究会議などが挙げられる。
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7.助成機能
 欧米の半数以上のアカデミーは助成金制度を有し、直接資金を持って科学技術の振興に貢献する役目を果たしている。日本学術会議は文部科学省科学研究費補助金配分審査の一部には関与しているものの、基本的には研究助成の機能を持たない。日本においては、助成金制度の機能は日本学術振興会及び文部科学省が役割を担っている。ちなみに、アジア諸国のアカデミーで助成金制度を持つものは、タイ国家研究会議(National Research Council of Thailand)、フィリピン社会科学会議(Philippine Social Science Council)の2機関のみであった。欧米先進国のアカデミーの大半は、ひとつの機関の中に、日本学士院、日本学術会議、日本学術振興会の3つの団体の機能を併せ持つ。その点で、日本における機能分担は比較的稀のように映る。
 一方、スウェーデン王立科学アカデミー、ポーランド科学アカデミー、イタリア学術研究会議などのように、幾つかのアカデミーでは、自ら下部研究機関等を保有し、直接、科学の進展を図っている例が見受けられた。中国科学院では120余りの研究所を有しており、国家レベルの研究を推進しているとの自負を持っている。実行・実践を通しての活動は、アカデミーの活力増強に有益な側面もあると感じられた。
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8.助言機能
 アカデミーが持つ機能で最も重要なものは助言機能であろう。欧米・アジアを問わず、ほぼ全てのアカデミーは政府・議会に対して基本的に中立な立場で助言を行える体制になっている。政府や議会に対し、政策決定のための科学的助言をいかに行えるか、また、民間や国民生活に対し、いかに科学的知見を提供できるかでアカデミーの真価が問われる。この助言機能は通常、報告、勧告、答申、談話の形で出される。報告書の内容のレベル、信頼性がアカデミーの地位の重みを位置付ける。また、実際に報告内容がどの程度、採用・実行されたかでアカデミーの存在価値が決まる。
 報告書には、アカデミーが自発的に作成するものと、政府及び民間とのコントラクトにより作成されるものに類別できる。日本学術会議と同様、各国ほぼ全てのアカデミーで自主作成による報告書が出されているが、コントラクトによる報告書の作成数は、日本学術会議に較べ、諸外国のアカデミーの方がはるかに多い。この違いが日本学術会議と欧米諸国のアカデミーの活力の差となって表れていると感じられた。
 アカデミーが出す助言は常に中立な立場からのものでなくてはならない。アカデミーの運営体制が如何なるものであろうとも、時の権力、思想に左右されることなく長期的・普遍的価値のある質の高い報告書を特定の機関・省庁に対してだけではなく、政府全体及び社会・市民に対して提供し得るかどうかが最大の課題であろう。この点で、諸外国のアカデミーの方が実績があり、日本学術会議は諸外国のアカデミーに倣うべきところが多い。諸外国のアカデミーでは、既に社会の中でその位置付けが定着していることに加え、コントラクトによる緊張感が常にその位置付けを高水準なものにしていると考えられる。
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18期−18
創造的な若手研究者を養成するために
−基本的考え方と日本の現状の問題点−


1.レフェリーの国際化
 競争的・客観的な審査プロセスを経て先端的・野心的な研究課題を選択的に助成する制度においては、助成対象とされる研究課題を的確に審査するレフェリーの専門的な識見・能力・誠実が、最も重要な役割を果たすことは当然である。特に、基礎研究に対しては的確・公正な審査の重要性はとりわけ高いため、ピア・レビューを他の分野以上に重視すべきである。そのためにも、研究課題の意義と成果の期待を的確・公正に審査できるレフェリー層を、広範に確保する必要がある。日本の研究者集団の内部に的確なレフェリーを質・量ともに十分求めることができるほど、先端的な研究者層が厚い専門分野であれば問題はないが、審査対象となる研究課題次第ではレフェリー層の母集団を日本の研究者コミュニティに限定すべき特別の理由はない。アメリカのナショナル・サイエンス・ファウンデーション (NSF) などは、国境に捕われずにピア・レビューを最適なレフェリーに依頼している事実があるだけに、相互性の観点からいっても、日本の研究者が申請する研究課題の客観的な評価を国境を越えて依頼することには、なんの不自然さもないことを強調したい。先端的研究における競争に国境はなく、成果の評価も国境とは無関係に普遍的な観点から行われる以上、研究課題の審査に際して的確なレフェリー層の厚みを増すひとつの手段として、また若い先端的研究者が飛躍する機会を広げるひとつの効果的な手段として、必要に応じて審査機構の国際化に踏み出すべきである。
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2.研究助成と競争メカニズム
 競争メカニズムというと、弱肉強食という表現に象徴されるように、日本では必ずしも明るいイメージがもたれていないように思われる。だが、競合する様々な研究課題のなかから自らを客観的に合理化できるプロジェクトが上昇の螺旋に取り付くことを可能にするために、競争メカニズムが優れた研究課題を発見する手続き (discovery procedure) として他をもっては替え難い意義をもっていることは、研究助成の制度設計に際しても忘れられてはならない。競争メカニズムの影の部分に対する配慮の必要性は認めるべきだが、とりわけ先端的・野心的な研究課題を助成するリーダーシップ養成型助成の場合には、競争的・客観的な選択プロセスの採用は必要不可欠である。
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3.優遇的助成措置の制度化の二つの意義
 優秀な先端的研究者の飛翔を支援するために、潤沢で伸縮性を備えた優遇的助成措置を制度化することには、少なくとも2つの重要な意義があることを指摘したい。第1に、優秀な先端的研究者に対して正当な評価と格別の処遇の機会が競争的に公開されていれば、ともすれば優劣の序列化よりも処遇の形式的平等性に傾斜しがちな日本の研究助成制度に戦略的な機動性を導入するとともに、若い研究者に一層の努力を行う誘因を賦与する効果を期待することができる。第2に、格段の優遇的助成を事後的に合理化する成果が実際に得られたかどうかを観察すれば、評価者の評価能力をも事後的にチェックすることができる。評価にはどうしても主観性が避け難いだけに、評価者の立場に身を置くことは、まさしくひとつの特権である。この特権が的確に行使されたかどうかを事後的に評価することは、優遇的助成制度の効率性と衡平性を担保するために、非常に重要な手続きとなるのである。
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4.国際的な研究・教育ネットワークへのアクセス機会の拡大(1)
 研究機関の多国間交流システムをさらに拡充して、大学院学生および若手研究者が様々な国際共同研究・教育ネットワークに継続的・主体的に参加できるように、制度的に配慮する措置が考えられる。ヨーロッパのいくつかの研究・教育機関では、国と国が隣接していることもあって大学院レベルの共同研究・教育ネットワークが有機的に形成されて、複数の大学・研究所がそれぞれのスタッフの比較優位を補完的に活用しあう共同研究・教育システムを実現している。しかも、複数の共同研究・教育ネットワークが競争的に共存して、ヨーロッパにおける教育と研究の活性化に大きく寄与していることが注目される。日本の大学・研究機関がこのような既存の共同研究・教育ネットワークに参加して、大学院学生やポスト・ドクトリアル・フェロー (PDF) を含む若手研究者が国際的な研究活動のネットワーク外部性を享受する機会を拡大すること、日本の研究者が蓄積した研究・教育の知的資産を既存の共同研究・教育ネットワークに提供して、国際的ネットワークの価値あるメンバーとして恒常的に貢献することは、長期的にみて日本の研究・教育の国際的インフラストラクチャーの充実に寄与することは間違いない。それのみならず、アジアにおける国際共同研究・教育ネットワークの形成に日本の大学その他の研究機関がリーダーシップを発揮することができれば、日本の研究・教育システムの国際的プレゼンスを改善することにも寄与できる。このような措置は、日本の若手研究者層の国際的な活躍の場の拡大にも繋がって、若手・中堅研究者層の処遇の改善に対しても積極的な意義をもつことが期待される。
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5.国際的な研究・教育ネットワークへのアクセス機会の拡大(2)
 外国人研究者を招聘して共同研究の推進を援助する制度を一層充実させて、大学院学生および若手研究者層が国際的な研究ネットワークにアクセスする機会を飛躍的に拡大する措置を講じる必要がある。優れた研究者を一定の期間日本の研究機関に招聘して公的な研究資金で共同研究を推進する以上、その研究者が体現している知的資産ができるだけ日本の若手研究者層に公共財的な外部効果をおよぼす配慮が必要であることは、公的な研究資金配分の効率性と有効性の観点からいって、むしろ当然のことである。招聘した研究者・招聘された研究者を中心として、関連する先端的な研究者を国の内外から招待して共同研究テーマを巡る最先端の国際ワークショップを開催すれば、当該招聘計画を契機として、その研究テーマに関する研究が国際的にも国内的にも飛躍する端緒が開かれることを期待することができる。
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6.国際的な研究・教育ネットワークへのアクセス機会の拡大(3)
 若手研究者が積極的な国際的情報発信に値する先端的な業績を挙げた場合には、彼らが置かれている当面の研究環境や地位・背景には関わりなく、その業績の敏速な認知と拡散が体系的に実現できるように、国際的にも国内的にも学会レベルの情報伝達メカニズムを充実させる必要がある。例えば、権威ある国際学会の年次大会や世界大会の機会に、最近1ー2年の間にもっとも優れた業績を挙げた複数の若手研究者を招待講演者として招聘する仕組みをつくれば、彼らの業績に対する国際的な認知度は飛躍的に高まることを期待できる。それのみならず、優れた成果に対して正当な国際的認知の制度的枠組みが存在することが、後に続く若手研究者層に対して多大な激励的効果をもつことは、改めて強調するまでもない。このような制度的枠組みの萌芽は、いくつかの研究分野の最先端の学会においては、現に観察されている。この傾向の一層体系的な制度化を、若手研究者を養成する仕組みを充実させる企ての重要な一環として、強固に位置づける必要がある。
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18期−20
学術資料の管理・保存・活用体制の確立および専門職員の確保とその養成制度の整備について

1.史資料保管の現状
 史資料のなかでも代表的なもの、指定文化財などについては、しかるべき保存措置が講じられ代表的な博物館・美術館などに収められ、公開する方途が定着しているが、その他の学術データとして一括することができる資料についてはどのように管理・活用されているかの実態すらも不明である。資料の内容は実にさまざまであり、どのような資料がいかに保管され、活用されているか、総合的な実態は全く不明といってもよい状況にある。
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2.埋蔵文化財関係資料の実状
 標本資料の管理・保管の実態が比較的明らかなのは埋蔵文化財の分野である。文化庁によってほぼ実態が把握されている。過去20〜30年間に実施された各種工事に先立つ埋蔵文化財の事前調査によって全国の自治体などに保管されている資料は、0.05立方メートル強のプラスティック製の容器に換算して600万個に達し、さらに毎年数十万個が増加する。その管理は行政にとって大きな問題になっている。代表的なものは、整理作業終了後に種々の場で展示されているが、それはきわめて限られたものである。
 このように、埋蔵文化財関連の資料の実態はほぼ把握されてはいるが、その保管の実状は惨めの一語に尽きるところが多い。屋内に保管場所が確保できないためビニール・シートをかけ屋外に積まれている例、高架道路などの下に置かれている例、郊外の林間学校・臨海学校の校地に分散保管されている例などは論外としても、空いた公共施設などに分散保管されている場合には、保管する場所に関係者はいないので、活用はおろか日常の管理すら覚束ないところが多い。
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3.文書類の保管の実状
 文書類についても、公文書館などをはじめとして図書館・博物館・市町村史などの各種編纂室・社寺・旧家などにも保管されており、保管の現状は多様である。その本質的な実態は明らかではない。現状の打開に向けた悉皆調査とそれを基礎にした総合的な保管・活用体制の構築措置が速やかに執られなければならない。これらの場所に保管されている諸文書は政治・外交等の資料として欠かせないばかりでなく、歴史的、社会的、文化的な価値をもっている。近年、自治体史などの編纂事業が進み、それらの過程で多くの公文書・私文書が収集・整理されてきたが、事業終了後の継続的な収集・整理は十分とはいえない。
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4.近代化遺産関連の資料
 「近代化遺産」などと呼ばれる日本の近代化を跡づける具体的な資料も再開発などの要因により急速に姿を消しつつある。一部の資料については指定文化財・登録文化財として保存が図られるようになりつつあるが、それはごく限られたものに過ぎない。また、これらの資料の設計図などの資料も保管施設の狭隘化などの理由により廃棄される事例が増えている。近代以降、諸分野で実施してきた観測・計測記録なども将来の学術の進展に重要な役割を果たすことが期待される。観測・計測機器類の実物も重要な近代化遺産である。これらにも劣化・廃棄の危機が生じている。これらの資料は日本の近代化を実現した歴史を具体的に物語る学術資料である。保存・活用をぜひ図らなければならないが、現状はきわめて憂うべき状況にある。
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18期−23
科学における不正行為とその防止について


1.急増するデータ捏造事件
 近年、国内外で研究上の倫理にもとる科学者の行為あるいはその疑いがもたれる事件が相次いで起こっている。米国研究公正局(Office of Research integrity,ORI)では1993-1997年に、生命科学関係で約1000件の不正行為の申し立てを受け、218件を調査し、76件に不正を確認したという。
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2.最近の有名なデータ捏造事件

(1)Alsabti事件(1977-1980)
Alsabtiはイラク出身の若い医学者であり、他人の論文のタイトルと著者名を自身の名前に変えて知名度の低い別の雑誌に発表して業績を作った。同僚の疑問、被論文盗用者者の指摘などにより不正行為が発覚した。
(2)常温核融合事件(1989-1991)
ユタ州の2大学およびこれら大学の有力学者の間で研究費獲得などの動機から研究競争が始まり、世界に波及した。常温核融合を、簡単な装置と穏和な条件で実現するためにエネルギー問題を解決する大発見として、データ確認が不十分なまま大フィーバーとなった。その後、常温核融合は間違いとわかり短期間で沈静化したが、誤りが判明した以降も国家プロジェクトが遂行されたことが話題になったりした。
(3)Schoen(Bell研)事件(1998-2002)
若手ドイツ人研究者Schoenは、分子性有機結晶を使った超伝導の発見、電子素子の開発、など個体物理関係者が期待していた重要な成果を次々にあげ、短期間にScience、Natureなどに多くの論文を発表し、さらに表紙をも飾った。ノーベル賞を複数回受賞しうる成果との評判もあったが、重複データの存在、多すぎる論文数、追試による再現不能性などから不正行為が発覚した。図1は、ノイズまで告示した二つの異なる実験データで、捏造の有力な証拠となった。結局、論文のほぼすべてが撤回された。 
(4)旧石器発掘捏造事件(2000-2003)
記憶に新しいわが国の事件。2000年11月、報道機関により石器発掘現場がビデオ撮影されたことから発覚したとされる。その後、前・中期石器の発見の多くが「神の手」による捏造であることが疑われた。加熱した報道を続けたのも、不正の確認をしたのもマスメディアであった。考古学のコミュニティには、発掘当初から疑問視する声があったが、不正行為の継続を抑制する有効な手段を持たなかった。学術に託された人々の夢と期待を裏切る行為であった。
(5)遺伝子スパイ事件(1999-)
1999年米国から日本の研究機関(理研)に採用され帰国した日本人生命科学研究者が、渡米中、作成した試料(DNA、細胞株溶液など)を無許可で持ち出し、これを用いて日本で研究しようとしたとされる事件。国の関与した産業スパイ事件として経済スパイ法により米国司法省により起訴された。研究者個人の倫理に加えて、国際間、産業上の問題を提起した。
(6)Baltimore, Imanishi-Kari事件(1986-1996)
日系ブラジル人女性博士の分子生物学に関する論文(共著者のBaltimore博士はノーベル賞受賞者)について、実験ノートと発表論文間のデータの違いが指摘され、同僚により捏造として告発された。告発者は倫理賞を受賞したが、Baltimore博士は学長を辞任した。しかしながら、告発10年後に潔白が証明された。不正行為の立証の難しさと代償の大きさを示す事例である。この事件における立証の困難さが、米国研究公正局ORI(Office of Research Integrity)設立の契機のひとつになった。

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3.なぜ、科学における不正行為(ミスコンダクト)が問題か?
 科学技術の成果が社会に浸透しその影響が大きくなった現在、科学における<不正行為>は、人々の生活に重大な影響を与え、人権を損なう恐れもある。また、人々が科学と科学者に託した夢と信頼を裏切ることになる。したがって、現代においては、科学研究における信頼と誠実さがいっそう求められるのである。
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4.科学における不正行為−FFP
 (a)捏造(Fabrication:存在しないデータの作成)
 (b)改ざん(Falsification:データの変造、偽造)
 (c)盗用(Plagiarism:他人のアイディアやデータや研究成果の適切な引用なしで使用)
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5.科学における新たなる倫理問題
 「不正行為」は、所属する組織のルールからの逸脱であるが、独立行政法人化や、大学発ベンチャーを背景として、複数の組織に同時に所属するための問題が顕在化している。組織の種類と受益者を以下にあげる。
 (a)アカデミック共同体(受益者は、構成員)
 (b)専門サービス組織(受益者は学生、患者)
 (c)公益的組織(受益者は、一般社会)
 (d)ビジネス型組織(受益者は、所有者)
例えば、(c)と(d)の両者に所属する場合、(c)の視点からは科学的成果は公開することが望まれるが、(d)の視点からはこの科学的成果を知的財産として私有化することが望まれる。両組織の利害が相反するために、両組織のルールを守るべき研究者の倫理問題は複雑化し新たなる倫理問題を生み出している。
 また、上記の同じ範疇に属する組織間の競争が<不正行為>を生み出す場合もある。例えば、最近の大型研究費の獲得競争に伴う計画書の誇大表現である。
 さらに、前記複数の組織が連携する産学連携において、研究が歪められる場合がある。すなわち、(a)と(d)、(c)と(d)などの組み合わせである。
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6.海外の動向と日本
 米国は、1980年代から生命科学分野を中心に立法を含む様々な取り組みを進めている(米国研究公正局)。倫理に関するガイドラインと不正行為に対応する組織を設けている大学や研究機関が多い。欧州でも、1992年から北欧諸国、1995年には英国、1998年にはドイツで研究不正に関する委員会が設立された。中国北京大学は、2002年FFPに加え、研究成果の意図的誇張、無許可の成果発表などを含む不正行為に対する調査や罰則を規定している。
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18期−53
エネルギーと持続可能な社会

1.ICSU(国際学術連合会議)の経験
 他の学際的団体と共に、あるいは、合同イニシアチブの下に、ICSUは国際的な環境問題との取り組みの場で、主として次に示す学際的なプログラムを通して、重要な役割を演じてきた:
  WCRP(気候変動国際協同研究計画):1980年にWMOと合同で設立。後にIOCも加わった。
  IGBP(地球圏・生物圏国際協同研究計画):1986年に設立。
  IHDP(地球環境変化の人間的次元の国際研究計画):ISSCとの協力の下に1995年に設立。
  DIVERSITAS(生物多様性科学国際共同プログラム):2000年に設立。
これらの科学研究プログラムは、意思決定に必要となる科学関連情報を提供することによって、世界的規模の環境変化の分野における国際的な政策の立案に当たってその影響力を発揮してきた。特に気候変動のケースでは、ICSUは科学コミュニティーの意見を公式発表する上で重要な役割を演じ、政策決定者の関心を二酸化炭素の役割や地球温暖化に向けることに成功した。これはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の設立を促し、このパネルは政策決定者のコミュニティーに対して、FCCC(気候変動枠組み条約)に基づいた国際交渉のための基盤として、気候変動に関する総合的な科学知識を提供することになった。
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2.開発途上国とエネルギー消費
 歴史的な解析をしてみると、エネルギー消費はGDPと共に増加するが、これら二つのパラメーターの比率は国によって大きく異なっている。特に、急速な開発途上にある国ではエネルギーのニーズを激烈に増加させる。このような国では、エネルギーのほとんどは、目下、限られた資源である化石燃料から生産されている。今世紀中これらのニーズに応えられる唯一の化石燃料は石炭であって、これは炭素を最も多く排出する化石燃料でもある(二酸化炭素と煤の形で排出され、これらの影響は地球の温暖化を助長する)。更には、石炭は二酸化硫黄又は一酸化窒素などの他の汚染ガスも排出する。従って、二酸化炭素排出の削減は、エネルギー消費を低減させる必要性、若しくは、代替エネルギー源への転換を示唆するものである。関連する政治的判断の選択肢は、明らかに、エネルギーのコスト若しくはその希少性、予測される人口増加、及び、経済開発の度合/速度によって大きく影響を受ける。
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3.「エネルギーと文化」に関する研究
 エネルギー、エネルギーの価値と質、及びエネルギーと文化との間の相関性に関する哲学的考察。ここでは、エネルギー生産における物理的知識の役割をエネルギー消費における人間性と結び付けることができるだろう。エネルギーを単に物理的にしか見ようとしない供給側と、人間的な行為には無限の可能性が秘められているとする需要側との間には、利害の不一致が存在する。如何にして「公衆の関心」という概念をこの利害の不一致に持ち込むべきかを究明することによって、持続可能性は検証される。
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4.「エネルギーと社会経済的ニーズ」に関する研究
 統治概念、エネルギーに関する経済学説の体系化、エネルギー安全保障の総括的研究、並びに、エネルギー消費の結果生じる環境負荷の解析、等に係わるエネルギー政策の政策決定プロセスについての国際的な比較研究が必要である。このアプローチを通して、21世紀に人類が対決せざるを得ない最も高い可能性を秘めた種々のエネルギー・ポリシーに関連する課題に向けてその方向が定められ、諸解決策の方向が提案されるだろう。エネルギーの価値は社会科学の観点から見たひとつの経済的概念として定義されるだろう。
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5.「技術と社会」に関する研究
 エネルギー技術と社会、過去と将来のエネルギー技術、エネルギー資源と科学技術、及び、エネルギー技術と教育活動、等の間のパートナーシップに関する分析が必要となる。人間活動におけるエネルギー技術の役割を研究し、科学、技術、及び社会の間に介在する相互作用の観点から、将来技術的なエネルギーの選択肢を評価することが必要である。
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18期−54
日本学術の質的向上への提言

1.提言1
 「分野によっては個別のデシプリンに埋没し、どちらかといえば事後的姿勢の研究が支配的であったが、日本社会の生の諸問題を素材にして、俯瞰的、予防学的視角の研究を推進すべきである。」
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2.提言2
 「特に人文・社会科学の研究において不可欠であるが、日本社会の実態について、フィールド・ワークを行う。そのフィールド・ワークにもとづいて、妥当な理論を独創的に構築・提示する。そのような研究を高く評価し促進するような学術体制を確立すべきである。」
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3.提言3
 「分野によっては独創的研究を行ううえにおいても、専攻しようとする分野の実務経験をもつことが大切である。そのような分野においては数年間、実務経験を積んだうえで、研究生活に入るような体制を確立すべきである。」
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4.提言4
 「通説を批判する独創的研究、新しい分野の研究などを積極的に評価する研究環境の確立、閉鎖的な研究体制の改善、研究補助者などの充実、研究施設などの整備・充実などを行うべきである。」
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5.提言5
 「日本の学術的業績の世界的水準に関する評価システムを普及させるべきである。科学研究費補助金の成果を評価するシステムを整備・普及させ、併せて成果の国際専門誌掲載を奨励するシステムを確立すべきである。」
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6.提言6
 「日本人の大学卒業者及び大学院修士課程修了者などの若手研究者についてはもとより、中堅クラスの研究者などについても、たとえばその海外派遣期間を3年ぐらいに延長するなど海外派遣制度のいっそうの充実を行うべきである。優秀な研究修業後の帰国者に高水準の待遇を用意するなどの方策を導入すべきである。」
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7.提言7
 「俯瞰的、独創的研究を醸成するようにするために、初等・中等教育を含めて、学校教育などのあり方を抜本的に改善すべきである。」
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8.提言8
 「日本で、従前のものに加えて、各分野の学術資料の収集・蓄積・公開、データ・ベース化を組織的に行い、世界的にも注目され信頼される学術センターのいっそうの設置・整備、また、日本人のすぐれた学術の伝統と歴史を伝えるさまざまな学術博物館などの設置や国際共同研究体制などの整備・充実を行うべきである。特にアジア、日本の風土、文化、社会などに根ざした独自の研究を積極的に行うようにすべきである。」
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18期−59
行政改革と各種施設等独立行政法人化の中での学術資料・標本の管理・保存専門職員の確保と養成制度の確立について

1.アーキビスト
 資料・標本の管理・保存の専門職員養成については、文書館の専門職であるアーキビストの早急な制度化が望まれる。欧米諸国の文書館や資料館にはアーキビストが配置され、文書館の中心的な活動を担っている。我が国では公文書館法の制定後、国立公文書館をはじめ都道府県や市町村で37の文書館あるいは文書館的施設が設置されている。しかし、我が国は、このアーキビストの制度化と配置が遅れている。膨大な公文書を選別し、整理・保存するためには専門的な職員が欠かせない。私文書まで含めた歴史資料の整理・保存、あるいは展示・教育は、頻繁な異動をともなう一般職員だけでは到底不可能であり、本格的なアーキビストの養成と適切な配置が必要である。
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2.キュウレータ・コンサベータ
 文化財・埋蔵文化財や人体・動植物標本、鉱物標本などの自然科学分野にも跨る資料・標本の管理・保存の専門職員である、いわゆるキュウレータ・コンサベータの養成については、抜本的に検討する必要がある。
 成熟した社会は、その多様な文化的資源をかかえる状況にあり、日本が経済的にはそのような社会となった今日、その教育・文化の質的な向上を保障する学芸員や司書、さらにはアーキビスト・キュウレータ・コンサベータ等の十分な確保は急務な課題である。これらの専門職員の適切な配置とその身分、待遇の確保、そして高度な専門職養成制度の早急な整備が強く望まれる。
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18期−61
情報化社会における政府統計の一次データの提供形態のあり方について

1.政府統計の公表形態とインターネット
 政府統計の公表形態は、これまでの印刷物での冊子体からマイクロフィルムへ、さらには磁気媒体等によるなど急速に多様化している。これによってこれまで報告書非収録で、当該省庁での閲覧によってのみ利用可能な統計表が、一般人でも手軽に利用可能になってきた。さらに政府省庁のホームページ等、直接個人の計算用機器にネットワークを介して取りこむことも可能な公表形態が、特に速報値の公表場合には、増えてきている。後者は、これまでの省庁の窓口での速報数値の公開と異なり、記者クラブ等に所属しない一般人でも広く利用が可能になったのであり、その公開度と利便性は極めて高くなったといっても過言ではない。
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2.調査報告書の詳細再集計とIT技術
 政府統計の公表形態の多様化に伴って、その保存がどこまで十分になされているかは、新たな問題である。特に磁気媒体で保存するとき、その情報を永久保存するにはこれまでとは異なった次元の配慮が必要である。また集計技術と集計用機器の発達は、これまで集計不可能であった詳細な多重集計表の作表を可能にしてきた。それは、個別調査結果の調査個票段階でのデータが適切に整理・保存されているならば、調査結果報告書の公表の後に詳細再集計が可能になることを含意しており、そのような再集計要求が出現する可能性を持っていることになる。
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3.100年条項
 翻って海外先進諸国の状況をみると、多くの国で人口センサスデータの個票については俗に100年条項と呼ばれる規定があり、100年を経た統計調査結果の個票については、学術目的には開示を可能にし、欧米の歴史統計の世界ではこの時限が到着したため、現実には競って解析が始まっている。日本の場合は宗門人別帳では特段の秘匿規定がないので、解析が進んでいるけれども、一方では、明治以降の近代統計調査では、大正9年の第1回の国勢調査以来調査後すべての個票は焼却処分をしており、欧米のような再利用は可能ではない。ただ近年の磁気媒体化以降については、匿名化措置を講じて、住所・氏名等を削除したいわゆるミクロデータは、かなりの程度までフアイルとして保存される傾向にあるが、まだ十分とはいわれない。将来日本においても、各国の100年条項に相当するものが制定されたとしても、このままでは、過去のデータに遡及して活用することは不可能である。さらに省庁再編に伴っての国立公文書館での行政記録開示に関する法施行に対応する保存規定はこの点に関してはまだ十分ではなく、資料の保存の将来については楽観を許さないといっても過言ではない。
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4.ミクロデータの保存について
 政府諸統計、特に重要な指定統計に留まらず、統計報告調整法による諸統計についても、その個票データに基づくミクロデータのデジタル情報は、永久保存を行い、蓄積媒体・読み取り機器の技術変化に対応することを可能にする必要がある。(現在の個別調査規則ごとの規定から包括的規定の作成が望ましい。)さらにこれらのミクロの一次情報に関しては、将来の多様な集計要求に答えられるように、あらかじめ多次元集計表の作成を行っておくと同時に標本データの利用要求に備えて、当初計画の集計計画の中に標本データの作成を含ませることも考慮されるべきである。この標本データの作成を統一的かつ効果的に、全省庁的に行うためには、アメリカのセンサス局の例に倣って、例えば総務省統計研修所の研究官組織などの既存の組織の活用なども考えられる。
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5.ミクロデータの開示について
 過去のデータから現在のデータに戻るならば、欧米におけるミクロデータ開示に相当する道がまだ開けていない。特に平成5年10月29日付け総務庁長官諮問第242号に対する平成7年3月10日付け統計審議会答申「統計行政の新中・長期構想」では、「標本データ(個票データから必要に応じて抽出を行い、地域区分や世帯番号等の固体の識別子を消去するなど個体の識別を不可能にしたもの)の提供」について、「個体の秘密保護の担保方策を中心に、外国の制度及び提供例、国内外におけるニーズの実態、現行法制度との関係、具体的な提供方策等について、おおむね2-3年を目途に専門的・技術的研究を行う必要がある」と極めて具体的な提言がなされている。これに対して確かに政府当局において各種の検討がなされていることも事実であり、第15期の日本学術会議の経済統計学研究連絡委員会でも積極的に協力することを企画し、文部省の科学研究費特定領域研究を得て、各種実験と調査研究が行われてほぼ問題点の解決には近づいたといえる。しかし、新規な調査の実現であるとか、調査方法の改善であるとかいった答申の他の項目と異なり、恒常的に組織的に対応する形では答申を実現するには至ってない。
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