法科大学院と研究者養成の課題
委員会名  第2部
報告年月日  平成15年6月24日
議決された会議  第995回運営審議会
整理番号 18期−31

作成の背景

 法科大学院は、ビジネス系の新たな大学院とともに、「専門職大学院」のひとつと位置づけられている。司法改革の一環として必要とされたこの法科大学院は、大学院制度としてはさまざまな点で既存の制度とは異質なものを含んでおり、法科大学院の設立が他の分野にさまざまな影響を及ぼす可能性がある。法科大学院の制度設計にあたっては、そのことを十分に配慮する必要がある。

現状及び問題点  

  アンケートの結果、回答校のうち61校が法科大学院を設置する予定であるが、その多くは独立研究科の形を考えていることが明らかとなった。大半の大学は、法科大学院修了者が、修士論文なしに博士後期課程に入学することを認めている。スタッフ不足などによって、博士前期課程を縮小せざるをえないと考えている大学院が多い。
 法科大学院は、本来、現行の司法試験中心の制度を改め、法曹をプロセスとして養成していくとか、「人間性への深い洞察力」、「問題発見・解決創造能力」、「総合的分析力」をもつ法曹を養成するといった理念にもとづいて構想されたものである。しかし、現実には、設置が予定されている法科大学院において、教育の中心となるのは、法律基本科目である憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法であり、これらの法分野において法解釈を中心とした教育がなされることとなっている。それは、法科大学院の研究者養成機能を著しく低下させることになろう。
 とりわけ実定法分野においては、将来の研究者の多くは、法科大学院修了者から供給されることになる。しかし、法科大学院の教育内容が実定法科目中心で、基礎法科目や、政治学、隣接諸分野の教育が軽視され、しかも実定法科目の教育においても、解釈技術の修得や実務への対応に力点が置かれるとすれば、それは研究者としての素養を身につけるためには決して十分ではない。また、法科大学院を修了して新司法試験に合格した者が研究者になる道を選択しないため、研究者の供給源が枯渇するという問題も懸念される。

改善策・提言等

 以上のことを考えれば、少なくとも法科大学院におけるカリキュラムを抜本的に見直し、基礎法諸科目、外国法、政治学科目、隣接諸科学などの比重を大きく増大させることが必要である。このことにより、実定法分野の研究者志望者が幅広い知識を身につけることができるし、基礎法分野についても、研究者志望者が法科大学院での教育を経て、研究者として育っていく可能性も生じてくる。
 さらに、法学・政治学分野の研究者養成の機関については、これまでのように大学院博士課程だけでよいのかどうかを含めて、多面的に検討する必要がある。

報告書原文  全文PDFファイル(232k)

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1.我が国の専門職大学院2.法科大学院と法理論的および比較法的研究者の養成
3.米国のロー・スクールにおける教育4.法学部における政治学科5.ドイツにおける法学研究者養成の例

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