生命科学の全体像と生命倫理 −生命科学・生命工学の適正な発展のために− |
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生命工学が医療分野のみでなく環境分野や食糧分野にも幅広く応用されるようになり、必然的に個人と社会、社会と環境(自然)との関係の調和といった論議にも焦点が徐々に当てられる時代になってきた。このように視点が広がると生命倫理論議において人が拠り所とする価値観は、歴史、文化、宗教、政治、経済などによって益々大きく左右されることになり、そこで判断基準を定めることは次第に困難になっていき、しばしば普遍的でない判断基準に頼らざるを得ない局面が出てきている。つまり、現在は、生命工学の社会への応用の良し悪しに関しては、まずは仮説的な価値体系が提唱され、それを前提として行動する中で決定されることになってきたと言える。そこでは変動する社会的背景と結びつくことによって多様な問題意識群が形成されることになり、より普遍的な価値体系を調和と統合によって生み出すことはより困難となっている。 |
20世紀末以降に急速に進歩してきた生命工学とは、ゲノム解析/遺伝子改変技術、胚操作/クローン胚作製技術、脳高次機能解析技術、という3つの生命操作技術である。これらの技術は、医学、薬学、農学、工学、水産学という学問を介して、ナノテクノロジーなど他の分野の技術と融合しながら少しずつ社会に応用されつつある。 これに伴って、生命倫理上の新たな問題として意識されることになるのが、@被験者への有害事象の増加、A遺伝的あるいは経済的に恵まれた人たちが陥りやすい優越感、B未来世代に対する責任など自己責任の増大、C臓器細胞移植などのための人体組織の商品化、D急速に進むグローバル化が招く価値対立の先鋭化や価値観の強制、などであろう。 21世紀に生きる私たちは、これらが知らず知らずのうち遺伝子差別による優生思想の復活、‘いのち’の操作や‘こころ’の破壊、クローン人間の誕生、生態系の不調和、といったことに繋がっていかないように最大限の注意を怠ってはならない。 |
我が国において生命科学と生命工学の適正な発展のためにどのようにすればよいかについては様々な意見があろうが、私たちとしては少なくとも次の五つの項目は直ちに国の責任で実行することが必要であると考えている。すなわち、 | |
@ | 我が国において最も広く学術団体からの意見を集約できる日本学術会議が行政に対して前向きで客観的な意見を常に言えるように再強化すること、 |
A | 第三者機関としての公的生命倫理研究機関を設立すること、 |
B | 安全性確保システムを構築すること、 |
C | 常に俯瞰的な考えで行動できる人材を育成するための教育システムを確立すること、および、 |
D | 必要な生命工学の利用を初期段階における負の効果の拡散を防ぐ中で適正に推進させるためのネットワークシステムとその拠点の形成である今後、それぞれの項目について具体的計画を立案することが急務である。 |
1.生命倫理とは,
2.個別の具体的難問と倫理的理論の探究,
3.生命倫理における二つの立場−功利主義と尊厳主義, 4.生命倫理と様々な立場, 5.生命倫理に関わる歴史上の出来事, 6.生命倫理 関連学協会 医学関係学会、農業関係学会、環境関連学会 |
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