「21世紀に向けた無機材料の研究開発について」

−セラミックスの現状と研究開発の推進−



「物質創製工学研究連絡委員会無機材料専門員会報告」


平成11年5月31日

日本学術会議
物質創製工学研究連絡委員会無機材料専門委員会


 この報告は、第17期日本学術会議物質創製工学研究連絡委員会無機材料専門委員会の審議結果を取りまとめ発表するものである。


委員長 曽我 直弘 (日本学術会議第5部会員、滋賀県立大学工学部教授)
幹 事 牧島 亮男 (東京大学大学院工学系研究科教授)
     小久保 正 (京都大学大学院工学研究科教授)
委 員 一ノ瀬 昇 (早稲田大学理工学部教授)
     平野 真一 (名古屋大学大学院工学研究科教授)
     水谷 惟恭 (東京工業大学大学院理工学研究科教授)




「21世紀に向けた無機材料の研究開発について」


−セラミックスの現状と研究開発の推進−


要  旨

 わが国のセラミックスの科学技術は、戦後の産業構造の変化に対応して、大きく変貌し、産官学の国をあげての取り組みにより、学術的にも産業的にも世界の最先端のレベルまでに進歩した。しかしながら、最近我が国を取り巻く社会情勢は大きく変化し、従来の産業振興のための材料研究から、地球環境、福祉、国際性などを考慮に入れた材料研究への変換が必要になってきている。

 一方、これまでのセラミックスの研究開発を支えてきた大学や国立研究機関を取り巻く環境も省庁再編などで急激に変化しつつある。材料の一つの柱であるセラミックスの科学技術を今後に向けて発展させるには、これまでのセラミックスの科学技術をもう一度見直し、21世紀へ向けて研究開発の方向を探っておくことが望まれる。

 そこで、本専門委員会では、第16期材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会で行われたセラミックスの科学技術の現状と研究開発の推進に関する調査研究をふまえ、21世紀に向けて行うべき方策を探る立場から批判・検討を求めるべく、委員会対外報告として取りまとめた。

 報告書では、まず、セラミックスの科学技術、産業をとりまく環境を分析して、セラミックスの現状と問題点について、産業界、研究、教育の現状を詳述した。次に、無機材料の科学技術の研究分野として、セラミックスの基礎科学、新エネルギー対応材料、電子・情報分野の材料、生体関連材料、環境の保全と改善についての5分野について問題点の提示と今後注力してゆく重要性を述べた。

 さらに、今後望まれる研究開発と人材育成のために施策として、無機材料に関する理解のすそ野の拡大、高等教育の充実、セラミックス博物館設立の提案、留学生支援などの具体的な政策を提示するとともに、学協会活動への公的支援の重要性を強調した。

 最後に、これらをまとめて以下の具体的な提言をした。

 ○ 産学官の新しい連携による研究開発体制の確立
 ○ 国際研究交流・共同研究の推進
 ○ 地域の科学技術テーマの発掘
 ○ 研究・技術情報の流動化促進
 ○ 青少年や社会人へのセラミックスの啓発・普及,セラミックス博物館の設立
 ○ 高等教育への基礎的カリキュラムの整備
 ○ 技術資格制度の検討
 ○ 学協会活動への公的支援


要旨画面へ



目  次

1.はじめに

2.セラミックスの科学技術、産業をとりまく環境

3.セラミックスの現状と問題点              
   3.1 産業の現状
   3.2 研究の現状
   3.3 教育の現状

4.セラミックスの科学技術の研究分野

5.セラミックスの研究と人材育成に望まれる施策
   5.1 研究開発への施策
   5.2 教育および人材育成への施策
   5.3 学協会活動への公的支援

6.提言のまとめ         


1. はじめに 

 ガラス、セメント、陶磁器、耐火物を中心とする伝統的窯業製品は、現在でもその生産量や用途から見て、金属材料、有機材料とともに3大素材を構成する無機材料の主要な部分を占めている。窯業製品は日用品や芸術品として古くから我が国の代表的輸出品の一つとして知られていたものであるが、第2次世界大戦後の高度成長期にこれらの伝統的製品が基礎素材として我が国産業の発展に大きく貢献したことは言うまでもない。

 その後、我が国の産業構造は重厚長大型から高付加価値を生み出す型に移行したが、この産業構造の変化は全ての材料関連の学術と産業に大きな影響を与えた。この科学技術、産業の急激な発展の時期におけるファインセラミックスの登場により、セラミックスの学術と産業は大きな変貌を遂げた。

 特にファインセラミックスが国家プロジェクトとして採り上げられ、産・官・学が一体となってその研究開発の推進に当たり、多大な成果を挙げたが、さらに、この国をあげての取組みは、我が国のセラミックスの科学技術全般を飛躍的に進展させ、今や我が国のセラミックスを学術的にも産業的にも世界の最先端のレベルにまで進歩させた。
 これらの発展の状況と期待については、第14期日本学術会議材料研究連絡委員会セラミックス分科会の報告書「セラミックス研究の最先端とその未来予測」、および第15期日本学術会議材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会の報告書「無機材料における微視的制御」に記載されている。

 しかし、近年我が国の科学技術を取り巻く状況はさらに大きく変化し、単に産業空洞化対策としての科学技術から、地球環境、福祉、国際性などの視点に立って、その転換を図らねばならない時機に立ち至っており、この時期においてセラミックスの科学技術をもう一度綿密に見直して、21世紀へ向けての一層の発展を期すべきと思われる。
 そこで、第16期日本学術会議材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会では、無機材料として主要な位置を占めるセラミックスの重要性に鑑み、日本セラミックス協会ビジョン委員会の協力を得て、その科学技術の現状と研究開発の推進について調査研究を行った。
 その結果は第16期の材料工学研究連絡委員会において審議されたあと、内部資料の中間報告として纏められた。

 一方、平成8年7月2日に科学技術基本計画が策定され、我が国としての新たな研究開発システムの構築に向けた総合的、計画的施策が急速に展開されるようになった。その結果、セラミックスと関係する物質材料系研究開発についても、広範多岐にわたるニーズを背景に、各省庁において様々な研究開発が活発に進められるようになった。

 例えば、科学技術会議政策委員会研究開発基本計画等フォローアップ委員会(物質・材料系科学技術)の報告書には、既存の限界を越えた高性能・新機能物質や材料の研究開発を推進する積極的な対応に対する期待が述べられており、科学技術振興調整費や創造科学技術推進制度、国際共同研究事業、産業科学技術研究開発制度などによって幾つかの具体的な研究課題が実施されている。これらにより、先の中間報告書に盛り込まれた研究開発推進のための方策の幾つかは実現の方向に進んでいるものの、我が国が技術立国としての地位を確立するためには、これらをより積極的に進める必要がある。

 さらに、我が国の科学・技術の発展に中核的な役割を担ってきた組織についても、行政改革における中央省庁の再編に伴い大きな変動が起こりつつある。伝統的セラミックスの技術開発で中心的役割を果たした通産省工業技術院の技術試験所やそれを受け継いだ技術研究所、セラミックスの先進的な研究を行ってきた科学技術庁無機材質研究所等の国立研究所機関の独立行政法人化が打ち出された。

 また、国立大学についても大学改革の一環として独立行政法人化が検討されることとされており、2003年までに結論を出すこととなっている。これらの最近の情勢を考えると、我が国の無機材料の研究開発について従来の伝統的な分野や既存の組織を越えて総合的に見直し、将来の発展につなげる時期に来ているといえる。

 このような将来展望には、現状の認識と問題点の整理、および今後の研究課題と具体的方策を知ることが不可欠である。この観点から、第16期の材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会で作成された中間報告は、セラミックスを主な対象としているものの、我が国の無機材料の今後の研究開発の方向を俯瞰的な視野に立って見極めるための基礎資料として極めて有用である。そこで、本無機材料専門委員会として、第16期で作成された中間報告に加筆・訂正を行い、「21世紀に向けた無機材料の研究開発について−セラミックスの現状と研究開発の推進−」として改めて公表することとした。今後の議論や施策の策定に際して本報告書が有効な指針となれば幸甚である。

TOP


2. セラミックスの科学技術、産業をとりまく環境

 セラミックスとは、高温反応や化学反応を利用して合成された非金属無機固体材料である。その内容は伝統的には天然の粘土、けい砂、石灰石、石墨等を原料として製造した陶磁器、耐火物、研削材、セメント、ガラス、炭素等からなっていた。科学技術の進歩とともに多様な元素が取り込まれ、出発物質の厳密な調製と焼成条件の選択により材料組織の制御技術が開発されてきた。その結果、ファインセラミックスやニューガラスと呼ばれる一群の高性能な機能材料が得られるようになった。更に、セラミックスと金属や有機高分子との複合化により、関連する材料の範囲は拡大しつつある。 

 セラミックスは、本来物性的に耐熱性、耐久性に優れ、安定な代表的材料である。最近の研究の進展に伴い、断熱材から熱の良導体、電気の絶縁体から超電導体、透明から不透明までの相反する性質の材料が開発され、衣食住の生活関連、土木建築、電気・電子、情報・通信、機械部品・工具、原子力、医用材料と非常に広い分野において使われ、それぞれの製品や設備の機能を支配する重要な材料となっている。

 また、セラミックスは化学組成、構造・組織において多様であり、今後とも新規な特性の発見される可能性が非常に高く、科学技術立国を目指す我が国においてセラミックスに対する期待は極めて大きい。

 このセラミックスを取り巻く環境も変化しつつある。人口の増加、経済活動の活発化によって、有限の地球における人間の収容能力及びその活動の範囲は次第に限界に近づいてきている。セラミックスの製造においては、原料鉱物の採取から製造、消費、廃棄に至るまでの過程で地球環境に与える負荷が高く、エネルギー多消費産業であって炭酸ガス発生量も多い。
 一方、セメントのように他産業の廃棄物の処理を製造プロセスに組み込み、環境浄化に貢献している分野もある。セラミックスにおいても、今後は省エネルギー、リサイクル、廃棄物の有効活用等に一般市民も巻き込んだシステムの中で、より真剣に取り組まねばならなくなっている。また、廃ガスの浄化用触媒、廃液処理用フィルタなど無機材料に適した応用範囲は広く、環境保全材料としての重要度は今後一層増してくる。

 社会環境に関する問題では、急速な科学の進歩と生活への利便性、技術内容の超高度化が日常の機械装置の仕組みをブラックボックス化してきたため、社会人さらには中学生・高校生の理科離れという現象を引き起こしている。このことは将来の技術者の減少につながり、我が国の貴重な財産である“技術力”の低下が懸念されている。また高度の工業化に伴う技術者の増加は技術者の地位の相対的低下を招いた。今後若者の技術者への憧れを増大させるには、技術者の社会的地位の向上を図ることが重要である。

 技術の国際化もセラミックスを取り巻く環境における重要な課題である。米国セラミック学会は積極的な海外戦略を展開している。ヨーロッパはヨーロッパセラミック学会を作り、ECのセラミックスの飛躍的発展を狙っている。アジアでは、産業のアジア地区への移転の進展、アジア地域の技術力の向上がめざましい。これに伴い、今後のアジア地区の指導者の養成について、米国などの先進国はアジアへの接近を精力的に進めて、主導的立場を強化しつつあることに注意を払うべきである。日本セラミックス協会は1998年9月の韓国における「PacRim 3」において「アジアセラミックス連盟」の構想を各国に打診している。

 技術の事実上の世界標準(defacto-standard)の進展も注目すべき問題である。我が国はセラミックス電子部品の世界への供給基地となっている。この優位性を活用し、電子部品のみならず先端的セラミックス全般について、国際規格における主導的立場を確立する必要がある。

TOP


3.セラミックスの現状と問題点

3.1. 産 業 の 現 状

 我が国のセラミックスは、歴史的には焼き物から始まり、多くの人々に愛用される貴重な日用品として作られてきた。。しかし、今日我々が身近に接する耐火物、研削材、衛生陶器、碍子、板ガラス、各種ガラス製品、セメントのような現代の生活や各種の産業を支える材料としてのセラミックスは欧米諸国からもたらされ、明治時代に工業生産が始まったものである。
 その後、我が国のセラミックス産業は歴史と伝統に育まれ、しかも絶えまぬ研究開発の成果も加わって、順調に力をつけ、今やその全ての分野で世界のトップクラスの生産量を誇るに至っている。そしてセラミックスは国民の生活と産業の中に深く根を下ろしているばかりでなく、雇用の面でも大きな貢献をしてきた。

 セラミックス産業の規模は、耐火物、セメント、ガラス、陶磁器、炭素製品からファインセラミックス等広範囲な製品をカバーする我が国の基礎素材として、平成8年における製品出荷額として10〜11兆円、製造業全体に占める割合は3.3%(10兆3千億円/313兆円)である。この出荷額は平成2年以来ほぼ横這いの状態である。平成8年におけるセラミックスの事業所数は18,851 で、製造業全体の事業所数369,612に対して5.1%であり,その従業員数は41.8万人で製造業全体の1010.3万人の4.1%であった。出荷額は横這いであるが、高機能製品への移行が進んでいて、製品や事業内容の変化が著しい。

 セラミックスのうち、最近進展の著しいファインセラミックスについてみると、日本ファィンセラミックス協会の産業動向調査によれば、セラミックス材料の中のファィンセラミックスと言われるものの生産額は、平成8年において15,186億円である。そのうち65.9%(10,006億円)を占めているのは電磁気・光学用部材で、機械的部材に属するものは16.5%の2,505億円、熱的部材・原子力関連部材が5.4%の816億円、その他化学用・医療用部材などが12.2%の1,859億円である。機械的部材の85%を占めるのが工具・高硬度部材であって、これらはWC、サーメット、酸化物セラミックス、ダイヤモンド、CBNもしくはこれらにコーティングを施した工具類等である。

 なお、近年登場して産業的に重要な役割を果たしている主なセラミックスの開発製品を見ると、フェライト、圧電体、カラーCRT、固体レーザー、鉄鋼用マグネシアカーボン煉瓦、自動車排気ガス浄化用のハニカム触媒担体、合成石英ガラス、透光性アルミナ、ITO透明導電膜、炭素繊維、光ファイバー、高温超伝導体、新種スパークプラグ、酸素センサー、高周波誘電体、生体活性セラミックスがあげられる。このうちには我が国が独自に開発したものも少なくない。

セラミックス産業における生産技術の大きな流れを見ると、その初期には経験と技能に支えられた製造技術が支配的であった。高度成長時代へ入ると自動化を取り入れて労働力への依存を減らし、低コストの部品の大量生産技術が確立された。石油危機は省エネルギー対策によって乗り切り、現在では生産技術に加えて製品設計にも着目し、その機能の多様化と高信頼性化に重点をおく時代となっている。


3.2. 研 究 の 現 状

 セラミックスに関連する研究者は、多くの学術団体に所属しているが、この分野の日本における最大の学術団体である(社)日本セラミックス協会の個人正会員数の推移をみると、平成7年度5,806人、同8年度 5,574人、同9年度 5,413人、平成10年度 5,455人(12月末現在)となっている。会員の構成については大学980人、国立研究機関 290人、公設試験研究所 260人、その他主に企業関係
3,925人である。

 セラミックスの研究は、これに携わる大学、公的研究機関、民間研究所等のいわゆる研究実施機関の成果に負っている。セラミックスについての公的研究機関としては大学のほかに、科学技術庁の無機材質研究所、通産省の物質工学工業技術研究所、電子技術総合研究所、産業技術融合領域研究所、名古屋工業技術研究所、大阪工業技術研究所、九州工業技術研究所をはじめとする多くの工業技術研究所、および第三セクターのファインセラミックスセンターがあり、それぞれ重要な役割を果たしている。また地域の公立研究機関は地場産業の育成と転換に貢献している。

 平成10年版科学技術白書によれば、我が国の研究費の総額は平成8年度では14.9兆円で、民間負担が79%、国の負担が21%である。研究費の総額は平成4年を境に横這いから微減していたが、平成7年度から増加に転じた。また、総務庁統計局「科学技術研究調査報告」によれば平成8年度の窯業関連企業の総研究費は2,137億円、研究者数8,853人である。しかしこの数値には電気機械、金属、あるいは化学関連の企業の無機材料に関する研究費は含まれていないので、実際には相当多いと思われる。この総研究開発費は民間の全体の研究費の2.1%で、研究者一人当たりの研究費は全産業の平均値とほぼ同じくらいである。


3.3. 教 育 の 現 状

 無機材料にかかわる大学の学科・講座・分野を日本セラミックス協会会員の所属機関から調査した結果、大学・大学院総数は51校、これらに所属する学科・講座・分野数は366であった。これらの学科・講座は次の5系列に分類できる。

  1.総合的な系列
  2.基礎的な系列
  3.材料・物質を中心とした系列
  4.応用を中心とした系列  
  5.その他の系列

 全体的には、工業化学系と材料物性工学系を基本とする1〜3が主であるが、セラミックスの応用の広がりとともに精密構造材料、エレクトロニクス機能、生体機能に主体を置いた講座や分野、さらには地球環境やエネルギー、資源のような工学の進歩に伴い、これらと融合した無機材料関連の講座や分野も設立されつつある。

 我が国のセラミックスが現在世界において先導的地位にあることは、このような広範な教育環境に支えられているためといってもよい。今後ともこれまでの我が国の知的財産である「技術力」を維持していくことが望まれる。大学における無機材料の教育あるいは研究が分化するにつれて、基礎的なカリキュラムとは何か、またその修学の程度はどの程度か、あるいは問題解決能力はあるレベル以上にあるかというような基準が必要となろう。

 最近の「理科離れ」現象から生じる理系志望学生の減少は、華やかなソフトやエレクトロニクス関係はともかく、「物作り」の材料分野への志望の減少をもたらしている。小中学校教育において材料に対する適切な考え方を導入することが重要である。

 また、近年国際的な傾向として、技術者の資格PEの制度化がクローズアップしつつある。産業技術について国境の垣根が低くなりつつある今日、本件は検討するに値する重要な問題である。「材料技術士」の資格がないために、「化学」の中に組み込まれがちであり、「材料屋」の一人立ちが強く望まれる。

TOP


4. セラミックスの科学技術の研究分野

 セラミックスは結晶質材料と非結晶質材料に分類できる。このうち結晶質材料の機能は、組成、構造、組織、形態に依存している。すなわち、材料における主構成結晶の結晶構造の探索・決定、主成分から超微量成分に至る組成の制御と、ナノメートルから数ミリの規模に至る組織の制御が特性発現の基礎となっている。このための材料創製のプロセッシングが研究の主題である。
 
 また、今後はセラミックス単独での材料化にとどまらず、無機・有機ハイブリッド、無機・金属融合材料による、機能融合が重要となろう。そのためには、セラミックスの研究分野ばかりでなく、有機材料や金属材料の分野との強い連携がとれるような体制が必要となるであろう。また、この広領域にわたる材料開発が可能となる融合材料研究の推進とそのための組織化を検討することも必要であろう。

 セラミックスの今後の研究の動向を考えてみると、材料自体の設計に研究の先端が移るように思われる。光通信のような新しい用途に最も適した物性を備えた材料を分子設計し、理論的に決定された組成と構造・組織を備えた材料を気相、液相からの薄膜技術等を駆使して合成し、これをデバイス化する時代が遠からず到来するものと思われる。目標とされるのは、特性が正確に制御された電子セラミックス、選択機能が高く高感度なセンシング材料、自らの欠陥・傷を探知し、自己修復するような高信頼性の複合材料など、高度の機能を備えたインテリジェントセラミックスである。

 いうまでもなく、セラミックスの組成と組織は複雑であって、目標とする物性と構造とを結びつける理論はまだ未熟であるが、高分子材料や電子材料を対象としたコンピュータ科学が発展しており、セラミックスの分野にも適用できる環境が次第に整ってきている。希望する特性をもった材料を原子レベルから造り上げることは、材料研究者の目指す方向である。セラミックスにおいてもこれを実現する曙光が見えてきたのであるから、その実現のために一致して努力すべきであろう。

 従来のセラミックス研究の流れを発展させたものとして、有機・無機、無機・金属、または有機・無機・金属ハイブリッド物質の創製研究が台頭しつつある。原子・分子レベルからミクロンオーダーでのハイブリッド物質の創製とその機能の研究は過去においても検討されてはきた。しかし、ゾル・ゲル法、CVD法、プラズマ法、アトムマニュピレーション等の最近の合成法、構造制御法の高度化と測定、計測技術の高精度化に支えられ、有機ポリマー・無機、有機分子・無機、生体・無機、金属・無機等の新ハイブリッド物質が出現している。これらのハイブリッド物質の形態、構造・組織は、バルク、薄膜、微粒子として、また界面、表面において重要な役割を果たし、多種多様である。プロセスと機能の種類もそれに劣らず多い。物質創製工学研究の視点から21世紀において予想される新潮流であろう。

 セラミックスの将来に向けたもう一つのキーワードは、「地球環境への貢献」であろう。二酸化炭素の増大による温暖化、フロンによるオゾン層破壊、酸性雨、森林破壊、砂漠化、海洋汚染などなど、地球環境保護のための問題提起が急激に多様化している。これは地球を守ろうとする人類の自覚の現れである。
 セラミックス産業は天然の原料を多量に必要としていること、高温の熱処理が不可欠であることから、環境に影響を与えていることは否定できない。公害物質の放出を減らすための努力はもちろん必要であるが、むしろ積極的にセラミックス部品を利用した新エネルギー、省エネルギー、省資源技術、さらにCO2、NOx、SOxの固定化、PCB、ダイオキシン、フロン等の有機ハロゲン化合物の分解・無害化、放射性廃棄物の固定化など、新しい公害除去・防御技術の開発を行うことがより重要であり、これが地球環境への大きい貢献をもたらすものと期待される。

 研究の実施について考えると、セラミックスの製造プロセスに関する技術では日本はトップランナーとしての地位を得ている。従来これを支えた我が国の研究はどちらかというと部分的課題の深化した研究によることが多かった。しかし、全体をシステムの観点から眺めてみると、これらの個々の技術を統合・デザインして生かし得るコンセプトの確立を達成していないので、最先端技術の活用を全体的・総合的な整合性の考え方(システム・コンセプト)に立つ他の先進国に大きく遅れを取っている。このような課題の解決のための調査・研究を行い、総合的技術の向上と国家的戦略に貢献する必要がある。

 我が国の研究開発は狭い分野を深化する傾向がある。国の研究助成策も縦割りのため、セラミックスという広い分野も狭い範囲に細切れにされて研究開発がなされるのが実状である。無機材料全体をとらえるような視点に立った研究開発が進められることが望まれる。

 研究テーマ区分として注力する必要があるものとして、次のものがある。

  ○ セラミックスの基礎科学
  ○ 新エネルギー対応材料  
  ○ 電子・情報分野の材料
  ○ 生体関連材料
  ○ 環境の保全と改善

 特に我が国の最も得意とする電子・情報分野は本質的に民間に委ねられてきたが、今後も電子・情報分野で産業も含めて世界のトップとしての地位を維持するためには、材料としての特性も限界に近づきつつあるので、新たなブレークスルーを要する研究が切実に求められる。

 第5回科学技術庁技術予測調査「2020年の科学技術」によれば、無機材料に関連した技術の進歩は以下のように展望されており、無機材料はこれらの技術を支える重要な材料であり、是非これらを実現するための無機材料の研究を進める必要がある。

 ・光ファイバー利用コヒーレント光通信技術による長距離大容量通信方式の実用化(1999)
 ・1チップあたり1GBメモリー以上の超LSIの実用化(2002)
 ・強い耐熱性と強度を併せ持った傾斜機能材料の実用化(2004)
 ・都市内交通に耐える充電容量を持つバッテリーを備えた電気自動車の普及(2004)
 ・固体界面の構造や性質を原子レベルで制御する技術の開発(2005)
 ・変換効率50%以上の積層太陽電池の実用化(2010)
 ・水素吸蔵合金を用いた水素燃料自動車の普及(2011)
 ・二酸化炭素の排出量が現在の20%減まで低下する(2015)

TOP


5. セラミックスの研究と人材育成に望まれる施策

 セラミックスはその定義や境界がはっきりしないほど領域の拡大が続いており、それに伴い素材としての重要性は高まりつつある。そのため、そこで取り組むべき研究内容とともに研究戦略も重要である。ここでは、研究開発と教育および人材育成の観点から取り上げることとする。

5.1. 研究開発への施策 

 重要課題として基礎研究の拡充をあげる。具体的には、基礎研究の担い手である大学、学術団体や国立試験研究機関などにおける学術の振興と研究開発投資の増強や知的基盤の整備が必要である。

 最近科学技術庁がまとめた科学技術基本計画の進捗状況によれば、政府の研究予算や若手研究者の育成計画などは5ヶ年の目標をほぼ達成できる見通しであるが、大学・国立研究機関の老朽化した研究施設の改善などでは目立った進展がない。産業界から国立研究機関や大学の研究強化という現行の計画に批判的な意見がでているものの、予算的には産業技術の強化など新産業開拓につながる研究に対する取組みが求められることから、それに添った研究課題が取り上げられることが多くなっている。我が国が世界のトップランナーとして技術立国を目指すためには、このような応用開発という川下のみでなく、今後ともより一層川上の基礎研究にも力を入れる必要がある。

 この基礎研究拡充の必要性は、1990年代の経済構造の変化によってもたらされた産業界における研究開発の取り組み方の変化とも関係している。産業界ではデバイス指向が強くなるとともに、基礎研究からの撤退が起こっている。それに伴い、大学・国立研究所の基礎研究と企業の応用研究との間にギャップが発生してきている。それと並行して情報の流動化が進展するとともに、研究の国際化と地域の科学技術振興が益々重要になってきている。したがって、今後以下のことを勘案して積極的な活動を行っていく必要がある。

(1)産学官の新しい連携の確立

 産業界が求めている新しいニーズと大学・国立研究所で育まれたシーズを有機的に連携する新しい方策を探ることが求められている。とりわけ、今後の研究進展に向けての新しいテーマの発掘・提案と共に、これまでの研究基盤を整備するための材料・計量の標準化などに取り組む必要がある。

 また、材料・計量の標準化は技術基盤の向上のために必要であり、セラミックス分野を広くとらえたJISの国際整合化と、新分野での我が国の優位性を確立する作業を率先して行うことが必要である。さらに、研究者派遣・採用情報を含めた人的交流の促進に貢献することも肝要である。

 新しく発掘したテーマは、通産省「産業科学技術研究開発制度」、NEDO「独創的産業技術研究開発促進制度」、文部省「科学研究費」、日本学術振興会「未来開拓学術研究推進事業」、科技庁「振興調整費」、科学技術振興事業団「戦略的基礎研究推進事業」などの国家プロジェクトへの提案課題として反映させる。この調査・発掘を実施するために、上記制度に関連した調査費の獲得や「産学官基金」などを設けることが考えられる。

 これまでの連携は、産官学がはっきりした同一の目的、戦略のもとに実施されていたとは必ずしも言えない。また、その評価も多分にあいまいであり、やはり、特許とか試作品の外部評価などのはっきりした評価基準を設けると共に、TLO(Technology Licensing Organization 技術移転機関)の設置を全国的規模で進めるなどの方策が必要である。

 このためには、大学間や国立研究機関間のより緊密な相互協力が必要になるが、同時に各種機関や学協会の相互協力についても十分考慮する必要がある。日本セラミックス協会は通産省ファインセラミックス室の指導下にある。別組織の日本ファインセラミックス協会もそこに属して、独自の活動を行っている。
 また、セラミックス産業の業種別に各々工業会がある。設立の経緯や活動内容も互いに異なっているこれらは、現在のところ必ずしも有機的関係には至っていない。今後国家的な戦略の基でプロジェクトや政策を進めるためにも、互いの協力と情報交流は不可欠である。

(2)国際研究交流・共同研究の推進

 現在すでに、各研究機関・大学では個別・個人レベルで国際化が進展しているが、先進諸国との研究交流、およびASEAN諸国との研究交流を目標とした組織化された独自の国際研究交流を展開する必要がある。そのために公的資金を活用した次のような活動を行い、国際的なイニシャティブをとった国際交流計画を実践する必要がある。

 ○我が国で開催されているセラミックスの学会活動を国際化するための国際セッションの設置
 ○科技庁「二国間・多国間共同研究制度」を活用した専門的な国際会議の開催
 ○我が国の国際フェローシップの情報発信・受信基地の設置
 ○通産省「国際研究共同研究助成」を活用した国際共同研究の推進
 ○文部省科学研究費補助金による国際会議の開催
 ○日本学術振興会「国際交流事業」による国際研究集会の開催、国際共同研究の推進
 ○日本学術会議との共同主催による国際会議の開催

 国際的なセラミックスの研究・技術者達のまとまりを高めるために、平成10年度からセラミックスに関する我が国唯一の学術団体である日本セラミックス協会が国際セラミックス連合(ICF)の事務局業務を受け持ち、その活動を強力に支援することとなった。特に、アジアにおける研究牽引のための有効な手段として学術講演会をアジア各地で毎年開催することも重要である。

 そのためにも、日本セラミックス協会をはじめ各国のセラミックス団体に呼びかけてアジアセラミックス連盟を創設することが望ましい。米国セラミックス学会の年会は国際的であり、欧州セラミックス協会も汎ヨーロッパ的規模である。アジアではPacRimと呼ばれる環太平洋セラミックス会議が2、3年ごとに開催されているが、アジア地区としての連帯感は弱い。アジア地区には日本、韓国、中国、バングラデシュなどにセラミックス協会があるものの、これらの連係は極めて薄い。アジア地区は世界的にも陶磁器の古い歴史があり、また、優れた製品を生み出していた。21世紀はアジアの時代であり、日本へのアジアからの留学生も非常に多い。日本が現在持っている科学技術力をもとに指導力を発揮して、アジア地区の無機材料の科学と技術を飛躍的に向上させ、産業としての位置付けをさせることが望まれている。

 国際間の課題として、セラミックス産業の整備のための標準化の問題がある。特に、ISO-TC206の幹事国として国際関連のプロジェクトを進める必要がある。

(3)地域の科学技術テーマの発掘

 今後地域の特異性に基づいた地域テーマの発掘に積極的に取り組む必要があろう。通産省「地域大プロ」や科学技術庁「生活者ニーズ研究」を活用して、地域の魅力あるセラミックス振興に貢献する試みが考えられる。日本には瀬戸、有田、会津地域をはじめ焼物の産地が全国に散らばっており、そこでは民芸調の陶磁器が数く生産されている。焼物の他に生活用品への色々な工夫がなされており、伝統的な技術を産業用品へ応用する試みも多く見られている。これらの地場産業を学術的・技術的に支援し、向上させる戦略とそのシステムを確立することが不可欠である。機能もさることながら、デザインや色調などの感性工学的な取り組みを加えて、豊かな日常生活への貢献をめざすことも重要である。

(4)研究・技術情報の流動化促進

 セラミックスに関する研究成果や特許の交流の場を整備し、埋もれた技術を広く活用し、工業化への道をつける技術移転の推進を提案する。この制度によって、研究者の志気も高まり、産業の活性化にも役立つと期待される。

 材料開発にも多くの情報の公開と相互交流が不可欠で、そのためのリエゾンの役割を早急にシステム化することが望まれる。特に異分野、例えば、触媒、電子、電気、化学品、バイオなどに幅広くアクセスできるフレキシビリティーが必要である。日本学術会議、日本セラミックス協会をはじめとする関係団体や通産省、科学技術庁、文部省の関係省庁との調整を行い、活力あるシステムを作り上げることが必要である。


5.2. 教育及び人材育成への施策

 セラミックスに係わる産業の更なる発展のためには、次世代を担う人材の育成と教育を通じた底辺人口の拡大が不可欠であり、独創性に溢れた研究者、熟練した技術を持った技能者、進取の気性に富んだ企業家を育て、輩出させる基盤を築くことが必要となる。

 我が国においても、大学におけるセラミックスの研究が事業化され、大きく育ったものがある。例えば、東京工業大学のフェライトの研究が現在のTDKを、また、京都大学の誘電体の研究が村田製作所に発展し、いずれも世界のトップランナーとなっている。その他、発熱体、ボールミルなどを挙げることができる。しかし、現在も大学がこのようなベンチャー企業を育てる芽を提供しているとは言い難い。
 日本が「物作り立国」として進むためには、研究だけで終わることなく、事業化というはっきりした戦略を持って大学と企業とが連係してこれに臨むことが望まれているところである。特に21世紀の創造・未来材料といわれるセラミックスをいかに人類のために用いるかは若い人材に委ねられており、研究・事業化、技術者・ベンチャー精神育成は当分野においてますますその本領発揮が求められている。

 先に述べたように、セラミックスの教育、研究に携わる教育者・研究者の専門領域は非常に多角的な分野に広がっており、セラミックスが将来に向けて広い分野で期待される材料であることと相まって、我が国にはセラミックスを大きく発展させる土壌があることが分かる。また、セラミックスに関しては世界的に見ても既に先導的地位にあり、リーダーとしての力を持ち得ていることが分かる。そこで、今後、この土壌を肥えさせ、種を蒔き、大きく有用に育てるための提言を以下に述べる。

(1)無機材料に関する理解のすそ野の拡大

 初等・中等教育及び社会人に対して次のような啓発活動を実施する。これらを行うためには多大の労力と資金を要するので、実現するためには公的助成あるいは企業との連携が必要である。

小学生・中学生・高校生に対して、セラミックス教室を開催し、これに触れる機会を作る。

  ○社会人・一般学生に対してセラミックス講座を開き、理解を深める。
  ○実務技術者に対して技術講習会を開き、技術力向上の機会を提供する
  ○アジアにおけるセラミックス分野のリーダーとしての地位の確立を図る。

 なお、教育においてはあくまでも技術的センスと技術に興味をもった次世代の後継者の育成が重要である。学校教育において直接的指導に携わっているのは小学校・中学校・高等学校の教師であることを踏まえると、教育者としてセラミックスの基になる理科を教える環境を作ることを同時に行わなければならない。

(2)高等教育の充実

 高等教育では次の点に留意することが望ましい。

 ○多様化するセラミックスの基礎を身につけるための、時代に即した
   横断的カリキュラムのデータベースと教科書を作成する。
 ○個性を引き出す教育をする。問題の本質を考えることを身につけ、問題解決能力をつける。
 ○起業家的素質のあるものと、定型的処理を得意とするものを早期に分けて、
   それぞれの特長を育てていく環境作りをする。

 なお、専門が細部に分かれ、深化する方向に進みつつあるため、セラミックスの専門技術者の認定制度を具体化する必要がある。この制度は海外にも通用するものとし、そのための教育機関のカリキュラム、教育や設備の具備条件も検討する必要がある。現在、日本工学会と日本工学教育協会で総合的な検討が進められているので、その情報を取り入れながら進めることが望ましい。

 最近のセラミックス研究の細分化専門化により、セラミックス全体を見る目を養うことがおろそかにされつつある。特に研究者が教育者でもある大学ではその傾向が強く、大学院重点化がこれに拍車をかけている。セラミックスが単に高機能化や新機能発現に向けて猛進する時代は終わり、いかに他の素材と共存共栄させるかが課題となる。そのため、学部と大学院における教育システムとプログラムには広い視点からの素養教育が求められている。

(3)セラミックス博物館設立の提案

 20世紀の100年間における産業用セラミックスの発展は目をみはるものがある。セラミックスが容器や建材以外の用途に用いられることにより、使用分野は著しく拡大し、また新しい機能をもつ製品が登場した。これらの技術の発展を文献ではなく、実物資料として収容、整理、保存し、また新しいセラミックスの製造プロセス、構造解析、機能発現機構、さらに各種分野における利用の実際にビデオライブラリーや、コンピューター学習、実験などを通して、セラミックスのおもしろさに体験的に触れる場を提供することは青少年や社会人へのセラミックスへの関心を喚起し、夢を育てることになる。

 日本には残念ながら、系統的、網羅的に収集、展示し、体験学習させる機関が全くない。大学での学科の再編成、企業のリストラ、地場産業の変化が急速に進む中で科学技術博物館の設立は急務である。展示や観覧に加えて、体験を中心とした「夢工房」やデザイン型教育など従来とは全く異なった入館者主導型の科学館としての役割も持たせる。さらに製品や技術の世界的な伝播状況を単なる考古学的興味で追うのではなく、科学技術移転と発展のプロセスとして研究して温故知新から先人の高い技術力を解明し、21世紀の人類の発展に貢献できる知恵の獲得を目指すことなども本館の重要な役割と考えられる。このような視点でのセラミックス全般に関する博物館は世界に全くない。もし完成すれば世界中の材料関係者の注目するところとなろう。

(4)留学生支援

 留学生10万人計画はやや鈍化しているが、現在は5〜6万人のアジアを主とした留学生が日本で教育を受けている。セラミックスの分野でも中国、韓国、インドネシア、タイなどの国・地域から多くの留学生が大学等で学んでいる。これらの留学生の専門分野、国別などの人数については全く把握されていない。
 また、大学や大学院修了後、日本で研究開発に携わる外国人も増えてきている。日本セラミックス協会などの学会を通じて早急に調査を行い、在日中あるいは帰国後の研究教育におけるアフターケアや自国での産業育成への支援などの相談窓口を整備するなど、きめの細かい政策が望まれる。

5.3. 学協会活動への公的支援

 既に述べたように、セラミックスに関連する学協会は科学技術創造立国のために課せられた重要な課題を多く背負っている。しかし、変動する社会情勢の中で、今後とも社会と時代が求める役割に答えながら事業活動を継続するには、学協会活動の中で社会の認知と支持を得られる部分については公的支援を必要とする状況に立ち至っている。

 日本学術会議では、平成9年5月28日付け「学術団体の支援について(要望)」を出し、政府関係機関においても学術団体すなわち学協会への支援の拡充のための様々な施策を講じているところであるが、その公的支援の現状はいまだ十分であるとはいえない。学協会は専門分野の科学者・技術者の研究活動や社会貢献のための活動の基盤となる場であるので、その学協会活動の強化・活性化が、専門分野の科学・技術の発展を推進するものであることは言をまたない。したがって、上記の要望に挙げられた多項目にわたる公的支援が速やかに拡充・実施されることが望まれる。

TOP


6.提言のまとめ

 セラミックスが地球環境、福祉、国際性などを考慮に入れた材料として、科学技術の面でも、産業の面でも世界における現在のリーダーシップを持ち続けうると共に、21世紀における我が国の産業技術を支えるために、各章で述べられている方策が実現されることを強く望むものである。それらをまとめると次のようになる。

  1.新たな研究開発の方向付けとその推進

  2.情報化社会への対応とセラミックス情報の交流・発信

  3.国際的なイニシャティブを実践

  4.初等・中等教育分野のセラミックスに対する興味の喚起

  5.セラミックスの教育・研究・産業分野への人材の供給


 これらの活動は、セラミックスに携わる関係機関・団体・個人がボランティア的に行うべき非常に重要な役目であって、自助努力による実施が基本ではあるが、公共的な活動に対しては公的な支援を強く求めたい。そのために以下の提言をする。


  1.産学官の新しい連携による研究開発体制の確立

  2.国際研究交流・共同研究の推進

  3.地域の科学技術テーマの発掘

  4.研究・技術情報の流動化促進

  5.青少年や社会人へのセラミックスの啓発・普及、セラミックス博物館の設立

  6.高等教育への基礎的カリキュラムの整備

  7.技術資格制度の検討

  8.学協会活動への公的支援


TOP