国際関係法学の教育研究環境の現状


「国際関係法学研究連絡委員会報告」


平成12年5月29日
日本学術会議
国際関係法学研究連絡委員会


 この報告書は、第17期日本学術会議国際関係法学研究連絡委員会の審議結果をまとめたものである。

国際関係法学研究連絡委員会

委員長
東 壽太郎 (日本学術会議2部会員、流通経済大学経済学部教授)

幹事
場 準一 (日本学術会議2部会員、日本大学法学部教授)
村瀬 信也 (上智大学法学部教授)

委員
木棚 照一 (早稲田大学法学部教授)
桜田 嘉章 (京都大学大学院法学研究科教授)
中村 道 (神戸大学大学院国際協力研究科教授)
廣部 和也 (成蹊大学法学部教授)
松井 芳郎 (名古屋大学法学部教授)


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国際関係法学の教育研究環境の現状

目 次

T 国際関係法学専攻の院生の受入等について
(1) 国際関係法学専攻の指導院生数について
(2) 国際関係法学の院生の受け入れについて
(3) 国際関係法の授業科目について
(4) 学位授与の状況
(5) 課程博士の学位取得を促進するための方策
(6) 外国人留学生による課程博士の学位取得を促進するための方策
(7) 修了生の数と進路

U 国際関係法研究者の研究環境について
(1) コンピューターの設置状況とその購入費用について(14 、15 )
(2) 国際関係法の研究・教育に関する施設・設備について(16 、17 )
(3) 大学院関連(18 ,19 .20 ,21 )
(4) 図書の充実及び図書費について(22 、23 、24 )
(5) 研究助手の制度について(25 )
(6) 研究環境の整備に関する意見(26 )

V 通信方法の変革と研究・教育におけるその影響について
(1) 日本にない研究資料の入手方法について
(2) 研究活動と電子的機器との関係
(3) 電子メール環境について
(4) 新しいメデイアの使用・利用と学術研究との関係

W 研究成果の公表について
(1) 研究成果公表の経験について
(2) 研究成果公表の諸条件について
(3) 研究成果公表に関する今後の課題について

X 国際学術交流について
(1) 外国人教員・研究員について
(2) 国際的学術交流のための具体的措置・財政的援助について
(3) 個人の研究活動における国際学術交流の意義
(4) 留学・在外研究、外国での教育経験等について
(5) 国際的な学術交流活動への参加


 国際関係法学研究連絡委員会は、これまでに、「国際法、国際私法及び外国法の情報・資料の整備並びに利用方法について」(14期)、「国際関係法の開講状況」(15期)、国際関係法学の教育研究環境の現状「大学院における国際関係法に関する研究教育の現状と課題」(16期)という一連のアンケート調査とその分析を行ってきた。

 これは、いわゆる国際化の進展に伴って、国際関係法学の授業科目を開設する大学・大学院が急速に増加し、この分野の研究者も増加したために、こうした状況について検討を加え、より良き発展の方向を探る必要から求められたものであった。

 17期では、こうした過去の調査研究をふまえて、国際関係法学の教育研究環境の現状を多角的に調査、検討することにした。



T 国際関係法学専攻の院生の受入等について

 国際関係法学専攻の院生の受入等に関する質問は、大きく五つに分けられ、指導院生数、院生の受入、授業科目、学位授与及び進路に関する項目から構成されている。
 そのうち、院生の受入に関する(2)(アンケート項目6から8)、国際関係法の授業科目に関する(3)、(同9)学位取得の促進策に関する(5)(6)(同11、12)では、複数回答可としたうえで、自由記述を求めている。


(1)国際関係法学専攻の指導院生数について

 解答総数224のうち、指導院生をもつ者は、国際法関係専攻者73、国際私法関係専攻者24の合計97名であり、全体の43.3%にあたる。
 その内訳を回答者の年代順にみれば、20・30代で9名(同年代で指導院生をもっている者の占める割合、22.5%)、40年代で28名(38.9%)、50・60年代で60名(56.1%)となっている。
 博士前期課程(以下、修士課程を含むものとする)の指導院生の数は全体で330名となり、指導院生を持っている者の一人当たりの平均では3.40人になる。
 博士後期課程の指導院生は全体で142名、研究生(以下、単位履修生等を含むものとする)は46名であり、一人当たり平均でいうと、それぞれ1.46 人、0.47人になる。しかし、一人の指導院生数にはかなり大きな差があり、20名を越える院生を指導するとされる者もみられる。

 専攻別にみると、国際法関係専攻者については、博士前期課程244名、博士後期課程121名、研究生29名であり、指導院生を持っている者の一人当たりの平均では、それぞれ3.34人、1.66人、0.40人になる。
 国際私法関係専攻者については、博士前期課程86名、博士後期課程21名、研究生11名となり、指導院生を持っている者の一人当たりの平均では、それぞれ3.58人、0.88人、0.71人になる。
 専攻別に比較すると、博士前期課程と研究生については、国際私法関係専攻者の方がやや多くの指導生を抱え、博士後期課程では、国際法関係専攻者の方がやや多い指導院生を担当していることになる。

 国公立大学と私立大学とで比較すれば、国公立大学については、博士前期課程147名、博士後期課程80名、研究生22名であり、教官一人当たりの指導院生は、それぞれ 2.83人、1.74人、0.48人になる。私立大学については、博士前期課程183名、博士後期課程62名、研究生24名となり、教員一人当たりの指導院生は、それぞれ3.56人、1.24人、0.46人になる。
 博士前期課程では私立大学のほうが、博士後期課程研究生では国公立大学の方がやや私立大学より指導院生が多いことになる。
さらに専攻別にクロスしてみてみると、国際法関係専攻者については、国公立大学においては、博士前期課程136名、博士後期課程74名、研究生15名であり、教官一人当たりにすると、それぞれ3.51人、2.00人、0.41人になる。

 私立大学においては、それぞれ3.17人、1.31人、0.39人であるから、国公立大学の方が院生の種類を問わず指導生が多いことになる。
 それに対して、国際私法専攻者については、国公立大学においては、博士前期課程17名、後期課程6名、研究生7名であり、教官一人当たりそれぞれ1・29人、0.67人、0.78人になる。私立大学においては、博士前期課程69名、後期課程15名、研究生10名であり、教員一人当たりにすると、それぞれ 4.60人、1.00人、0.67人になる。
 したがって、国際私法専攻者について博士前期課程および後期課程を比較すると、私立大学の方が教員一人当たりの指導生が多いことになる。


(2)国際関係法学の院生の受け入れについて
 院生の受け入れについて感じている問題点について、全回答数160中における各選択肢が選択された割合をみてみよう。
 差し当たり、その他53(33.1%)を除けば、院生が少なすぎて困るとするものが37(23.1%)で最も多く、高度専門職業人養成に重点が移りすぎているが31(19.4%)、院生が多くなりすぎる、留学生比率が多くなりすぎる、受け入れ段階での発言機会の保証が不十分がそれぞれ13と同数で(8.1%)となっている。
 その他の自由記述では、外在的要因による職業的進路の不確定性、就職先や進路について十分指導できないなど進路に関する問題の指摘が最も多くみられた。
 そのほか、進学目的の多様性から共通の講義が困難、大学院入試に関する問題、基礎学力低下とその訓練のためのシステム構築の必要性、国内法の勉強が不十分(国際私法関係)などの指摘がみられた。
 その他が最も多かったということは、選択肢の作り方に工夫を要することを示すものと受け取らざるを得ない。

 専攻別に選択率をみると、国際法専攻者については、高度職業人養成が20.8%と最も多く、院生数が少なすぎるが20.0%、留学生比率多くなりすぎるが9.6%、院生が多すぎるが8.8%、受け入れ段階での発言が7.2%の順となっている。
 国際私法専攻者については、院生が少なすぎるが34.3%と最も多く、高度職業人養成が14.3%、受け入れ段階での発言が11.4%、院生が多すぎるが5.7%、留学生比率が2.9%となっている。

 回答者の年代順で選択率をみると、20・30代では、院生が少なすぎるが25.9%と最も多く、ついで留学生比率と受け入れ段階での発言機会がそれぞれ7.4%、院生が多すぎると高度職業人養成がそれぞれ3.7 %となっている。
 40代では、高度職業人養成が22.0%と最も多く、ついで院生が少なすぎるが14.0%、留学生比率と受け入れ段階での発言機会がそれぞれ10.0%、院生が多すぎるが6.0%となっている。
 50・60代では、院生が少なすぎるが27.7%と最も多く、ついで高度職業人養成が22.9%、院生が多すぎるが10 .8 %、留学生比率と受け入れ段階での発言機会が各7.2%となっている。

 現在院生の指導を担当しているものに限ってみると、院生が少なすぎると高度職業人養成が各21.4%で最も多く、ついで院生が多すぎるが14.6%、留学生比率が12.4%、受け入れ段階での発言が7.9%となっている。
 現に院生指導を担当していない者に比べて、高度職業人養成に関する問題が多く意識されていることが分かる。

 つぎに、国際関係法専攻の院生増加策(アンケート項目7)についてみてみよう。

 全回答数366のうち最も多いのは、ロー・スクール構想等のなかでの位置付けの97(26.7%)であり、ついで院生の外国留学等の充実の95(26.5%)、学部における国際関係コース設置等の84(23.0%)、シラバス等の充実の39(10.7%)、その他の23(6.3%)、研究者養成課程の充実の17(4.6%)、入試制度の改善の11(3.0%)となっている。
 選択肢の2,5,7に自由記述が置かれいるが、2のスタッフ確保策については、国際機関、外務省の関係者、企業の国際法務担当者を受け入れる、国内の大学で相互に教員を派遣し合う、海外でPh.Dをとった人を積極的に採用する等の方策が出されている。
 5の入試制度の改善については、外国語の配点を高くすること、英語による入試の導入、口頭試問の重視、多様な言語を入試に加えることなどが提案されている。7のその他においては、学部段階での基礎学習の充実、修了後の進路の見込めるプログラムの充実、熱意のあるスタッフの充実、外国語による講義・試験・論文作成の導入等が挙げられている。

 回答者の年代との関係でみれば、全体として一番多いロー・スクール構想等の中での位置付けは、20・30年代で一番高く31.2%、40年代では29.1%、50・60年代では22.5%と年代が上がるにつれて同年代の回答全体に占める割合は減少する。
 2番目に多い院生の外国留学等の充実は、20・30年代では21.2%、40年代では24.4%、50・60年代では28.9%と年代が上がるに従い割合が増加する。
 3番目に多い学部における国際関係コース設置等については、20・30代で24.2%、40代で22.8%、50・60代で22.5%とどの年代でもほぼ同じ割合を占めているが、4番目に多いシラバス等の充実については、20・30代では7.6%、40代で11.0%、50・60代で11.6%と年代が上がるに従い割合が上昇する。

 専攻別にみれば、国際法関係専攻では、上位三つの選択肢を選択した者の割合に殆ど差異がなく、24%程度であるが、国際私法関係専攻では、ロースクール構想等の中での位置付けが34.0%と最も高い割合を占め、ついで院生の外国留学等の充実の29.3%、学部における国際関係法コース設置等は、19.6%となっている。
 この点については専攻科目によって問題意識の差が出ているように思われる。

 現在院生の指導を担当しているものに限ってみれば、一番多いのは院生の外国留学等の充実を挙げる者が29.7%、つぎにロースクール構想等の中での位置付けで27.5%、学部における国際関係法コース設置等が18.1%、シラバス等の充実が12.1%であり、他の選択肢を選択したものはいずれも4%程度であった。

 つぎに外国人院生の受け入れについてみてみよう。
 一番多いのは、外国語による答案等の作成許容で回答総数387中101(26.1%)、それについでチューター制度等の活用の97(26.1%)、院生のための日本語コース設置の75(19.4%)、入試制度の改善の53(13.7%)、学位授与等の改善の32(8.3%)、その他の29(7.5%)であった。
 選択肢5と6については自由記述が設定されている。
 5の学位授与については、外国人向けの博士・修士学位の導入、1年の修士コースの導入、博士学位の積極的授与等の記述がみられた。
選択肢6のその他については、国庫による4奨学金制度の充実、博士授与基準の国際的基準を踏まえた容易化、日本の学位の信用を低下させない配慮の必要等が指摘されている。

 回答者の年代との関係では、一番多い外国語による答案等の作成許容とつぎに多いチューター制度等の活用については年代によって余り変化がみられない。
 しかし、3番目に多い日本語コース設置については、20・30代では24.2%、40代では20.3%、50・60代では17.1%と年代が上がるに従って選択者が減少する。逆に、4番目に多い入試制度の改善については20・30代では9.1%、40代では13.3%、50・60代では15.5%と選択率が上昇する。

 専攻別にみれば、国際法関係の専攻者では、外国語による答案等25.4%、チューター制度等の活用24 .3%、日本語コース設置等21.5%、入試制度改善14.3%、学位授与制度等の改善4.9%となっている。
 国際私法関係の専攻者では、外国語による答案等28.3%、チューター制度等の活用27.3%、日本語コース設置等13.1%、入試制度、学位授与制度の改善各12.1%となっており、国際法専攻者と比べれば、外国語による答案等やチューター制度等の活用を選択する者の割合が多く、日本語コース設置等を選択する者の割合が少なくなっていることが分かる。

 現在院生を指導している者のみについてみれば、全回答数217中、外国語による答案等54(24.9%)、チューター制度の活用等50(23.0%)であり、日本語コースの設置等と入試制度の改善はそれぞれ36と同数(16.6%)となり、学位授与制度の改善33(15.2%)となっている。
 現在院生を指導していないものを含めた場合と比較すると、各選択肢の選択率の差が少なくなっている。


(3)国際関係法の授業科目について

 回答総数344のうち、実務畑からの講師招聘に関するものが最も多く、124(36.0%)であった。
 ついで学際的研究の推進に関するものが68(19.8%)、社会人の高度専門教育に関するものが60(17 .4%)、伝統的科目の内容的充実に関するものが46(13.4%)、外国語による科目設置に関するものが31(9.0%)、国家試験対策に関するものが6(1.7%)の順であった。
 その他は9(2.6%)であり、実務と研究との接合、学際的アプローチの強化によって現実の問題解決に役立つ教育を行うこと、先端的科学技術のよりよい管理に向けた法的枠組の研究・教育の重視、外交官、国際公務員等に必要とされる知識、能力を養成する為の講義、演習の充実、 現在の若手教員をプロ教員にするための再トレーニングの必要性等が挙げられている。

 専攻別選択率にみると、社会人の高度専門教育、実務畑からの講師招聘、外国語による科目設置については、国際私法関係専攻者の方がそれぞれ20.5%、37.2%、15.4%と国際法関係専攻者の16.5%、35.7%、7.1に比較すると選択率が高くなっている。
 それに対して、伝統的科目の内容的充実、学際的研究の推進については、国際法関係専攻者の方がそれぞれ15.4%、20.7%と国際私法関係専攻者の6.4%、16.7%と比較すれば選択率が高い結果となっている。

 回答者の年代別に選択率をみると、実務畑からの講師招聘については、40代が537.4%と最も高く、20・30代と50・60代では選択率に殆ど差異がない(各35.5%、35.3%)。
 学際的研究推進については、20・30代で22.6%と最も高く、40代と50・60代で殆ど差異がみられない(それぞれ19.1%、19.2%)。
 社会人の専門教育については、20・30代19.4%、40代18.3%、50・60代16.2%と年代が上がるにつれて少しずつ選択率が低下する。
 逆に、外国語による科目設置については、20・30代で4.8%、40代で8.7%、50・60代で10.8%と、年代が上がるにつれて選択率が上昇する。伝統的科目の内容的充実については、20・30代で14.5%であり、40代13.0%、50・60代13.2%と比べれば、20・30代で選択率が高いことになる。

 現に院生を指導している者の回答に焦点を合わせてみれば、全回答数185のうち、実務畑からの講師招聘は62(33.5%)であり、ついで、学際的研究推進の40(21.6%)、伝統的科目の内容充実の24(13.0 %)、外国語による科目設置の21(11.4%)、国家試験対策の4(2.2%)となっている。学際的研究推進と外国語による科目設置の選択率が指導院生を持っていない者を含めた場合と比べて上がっていることが注目される。


(4)学位授与の状況

 前回(平成8年)の調査結果によると、「過去3年間に提出された(課程)博士論文は7本にとどまる。・・・博士論文として提出される論文の数が圧倒的に少ないことは、深刻な問題として受け止めなければならないであろう。」とされている。
 この指摘を念頭において、その後3年間の学位授与の状況を調査した結果は、次のとおりである。

学位授与の総数(61名)
課程博士の内数(15名) 留学生の内数(11名)
論文博士の内数( 6名) 留学生の内数( 0名)

 ここでは、学位授与の総数および課程博士と論文博士の内訳、またそれぞれについて留学生の内数を質問したが、上記の回答実数では、学位授与の総数が予想外に多い一方で、総数が内数の合計と大きく食い違うため、判断に苦しむところである(そうした顕著な回答例を挙げると、授与総数10:課程博士0(内留学生2)・論文博士0とするもの、授与総数8とのみ回答するもの、授与総数3:課程博士5・論文博士3とするもの、授与総数18:課程博士3・論文博士0とするもの、などがある)。
 これは、学位授与について、一つに、指導教員の立場にある者だけでなく、集団指導体制の一員ないし審査委員の一員である場合も含めて、二つには、課程博士と論文博士を明確に区別せずに、回答されたことによるものであろうか。

 このような問題点はあるが、課程博士と記されないものをすべて論文博士として扱うと、学位授与の総数は予想に反して多いが、その4分の3が論文博士ということになる。
 他方、課程博士の数は3年前の調査と比べて倍増してはいるものの依然として少なく、またその大半が留学生である。
 問題の課程博士に関する限り、状況はあまり好転していないように思われる。
 今後とも、課程博士の学位取得を促進することが重要な課題となる。

 専攻領域別(複数回答あり)にみた学位授与総数の内訳は、国際法・国際組織(機構)法・EU法38名、国際私法・国際取引法・国際民事訴訟法31名(その他1名)であり、両者の間でさほど大きな差はない。
 学位授与の回答をした人は22名であり、国公立・私立の内訳は、国立6、私立15、その他(大学校)1であり、また年代別では、20代1、40代5、50代4、60代以上12となっている。
 学位授与数が特に多い人として、18(国際取引法、私立、60代以上)、10(国際法、私立、60代以上)、8(国際法、私立、60代以上)と回答した人がそれぞれ一人ずついる。


(5)課程博士の学位取得を促進するための方策

 一般的に課程博士の学位取得を促進することが重要な課題であることは、上記の調査結果からも窺われるが、ここでは実際に行われている若干の具体的方策を揚げ、そのうちいずれを必要と思うか(複数回答可)、また必要と回答としたものについては所属機関で既に実施されているかどうか、およびその他の意見を調査した結果は次のとおりである。

 「特に何も行う必要はない」との回答が8(回答者中3.5%)あったが、必要と挙げられた具体的方策を回答数の多い順に揚げると([ ])は既に実施中と回答したもの)、
1) 単位取得退学後、数年以内の論文提出を認める:109(48.2%)[51(22.6%)]
2) 論文作成の年次計画を設定:73(32.3%)[34(15%)]
3) 予備的な選抜方法(candidacy)の採用:29(12.8%)[9(4%)]
4) 課程修了の要件として、授業科目の単位取得を要求しない:17(7.5%)[12(5.3%)]、となっている。

 自由記述では、一般的に、「学位授与に関する大学院担当者の意識改革」、「課程博士を認定する意思が必要である」とした上で、上記の具体的方策のいずれでもよく、要はそれらを徹底させ効果を挙げるように工夫することであるとの指摘があり、「常時、院生の指導に努める」とともに、「日常的に月に2〜3回、継続的に進度を確認し、適宜、実質的指導を行う」、「中間発表の機会を設ける」、さらには「論文の質・量に関する基準を緩和する」、「博士のハードルが非常に高い」などの意見もあった。
 このうち、学位論文の基準は、意識改革や認定する意思とも関係するが、学位取得の促進策というよりも、むしろ我が国における学位制度自体についての検討を必要とする事柄である。

 課程博士の学位取得を促進するため、在学中の具体的方策として、論文作成の年次計画および予備的な選抜方法の採用を挙げるものが多い。
 後者は、博士論文提出のハードルを設定するよりも、論文作成を促進することを目的とする場合は、前者の一環として考えてよい。
 ただし、この点については、「博士1年次修了時に論文の一章にあたるものを提出させ、2年次進学生をふるいにかける」との意見もある。
 他方、退学後の具体的方策としては、かなりの大学院が、単位(または論文提出資格)の取得を条件として数年以内の論文提出を認め、かかる論文については課程博士に準じた取扱いをしているときく。
 調査結果はこれを裏付けかつ支持するものと思われるが、この方策が効果を挙げるためには、「課程退学前に論文計画書を出させる」などの措置が必要と指摘される。
 なお、これらの具体策については、いずれも、その必要を認める者の約半数が、所属機関で既に実施中と回答している。


(6)外国人留学生による課程博士の学位取得を促進するための方策

 外国人留学生は、日本人の大学院生と違って、学位の取得を最大の目的・動機として入学してくるほか、異国での修学に伴う種々の困難を抱えていると思われる。
 そこで、とくに外国人留学生による学位取得を促進するための具体的方策について、上記(5)と同じ要領で調査した結果は、次のとおりである。

 「特に何も行う必要はない」との回答が12(回答者中5 .3%)あったが、必要と挙げられた具体的方策を回答数の多い順に揚げると([ ])は既に実施中と回答したもの)、
1) 外国語による論文作成を認める:98(43.4%)[45(19.9%)]
2) 留学生の日本語論文作成を補助する制度を設ける:78(34.5%)[23(10.2%)]
3) 留学生の学位取得を目的とする特別コースを設ける:36(15.9%)[1(5.8%)]
4) 留学生には、課程修了の要件として授業科目の単位取得を要求しない:8(3.5%)[10(4.4%)]、となっている。

 自由記述では、一般的に、「(学位)取得基準を下げる」、「留学生向けに特別コースを設けることなく、博士を取得させる『特別の』配慮を行う」、「テーマ設定、文献検索、論文の書き方等についてきめ細かい(親身になった)指導が必要」などの意見があった。

 外国人留学生の学位取得を促進するための具体的方策として回答が多いのは、外国語での論文作成と日本語論文作成の補助であり、両者は表裏一体の関係にある。
 また、特別コースもこれらと密接に関連する。
 とすれば、留学生の学位取得に言語の問題が大きく関わることは広く認識されているといえる。
 しかし、外国語での論文作成については、これを必要と挙げる者の所属機関でも半数以下しか認められておらず、また日本語論文の補助については、3分の1以下でしか制度化されていないのが実状である。
 この点に関連して、「『日本』に留学したのだから、日本語を用いて論文を作成するのは当り前」、「(外国語による論文作成は)専攻分野により異なる意見がでるであろう」、「日本語能力をつける手立てが必要」、「(日本語)補助者が論文に精通していなければ誤訳になることがある」などの意見もあった。


(7)修了生の数と進路

 近年、大学院は、主要国立大学の法学・政治学系大学院の重点化、国際開発・協力系大学院の新設、専修コースの設置、ロースクール・ビジネススクール構想、社会人の高度専門教育要請など、制度と機能の両面で多様化している。
 このような動向のなかで、とくに研究者養成と高度専門職業人養成の側面に着目しつつ、国際関係法学専攻の修了生の数と進路の概要を調査した結果は、次のとおりである。

 専修コースの修了者(総数298)
[進学(他大学を含む)25、大学その他の研究機関7、国際機関6、官公庁25、公団・事業団7、法曹会界、民間企業192、その他28]

 博士前期課程(修士課程)の修了者(総数249)
[進学(他大学を含む)96、大学その他の研究機関9、国際機関2、官公庁24、公団・事業団5、法曹界0、民間企業63、その他36]

 博士後期課程(博士課程)の中退・修了者(総数52)
[大学その他の研究機関32、国際機関0、官公庁0、公団・事業団1、法曹界6、民間企業2、外国留学6、その他5]

 以上の調査結果は、各コース・課程の修了者総数とそれぞれの進路について、クロス検索により少なくとも国公立と私立の内訳を明らかにする必要がある。
 また、ここでは、従来の法学・政治学系大学院と新しい国際開発・協力系大学院(両者の間では、一般に、研究者養成と高度専門職業人養成の側面で情況が大きく異なる)を区別して調査されておらず、社会人として入学する学生や進学後に就職する学生(専修コースや国際開発・協力系大学院に多くみられる)が把握できていないなど、「制度と機能の多様化」に着目した大学院の実状調査としては不十分であり、有用性にも限度があることは否めない。

 しかしこれらの難点はあるものの、上記に揚げた回答実数だけからも、各コース・課程修了者等の総数のほか、とくに進路について、次のようないくつかの傾向がはっきりと窺われる。

1) 専修コース修了者の進路のうち、進学・研究機関は限られており(10.7%)、民間企業が4分の3を占める。
2) 博士前期課程修了者の進路のうち、進学・研究機関は半数近くを占め(42%)、民間企業は4分の1にとどまる。
3) 博士後期課程修了者の進路は、外国留学を含めると、大学その他の研究機関が大部分である(73%)。
4) 官公庁等(国際機関と公団・事業団を含む)に進む人数は、専修コースと博士前期課程の修了者の間でほとんど差がない(12.8%、12.4%)。
5) 法曹界に進む人数は、博士後期課程修了者に1割程度あるが(11.5%)、専修コースと博士前期課程の修了者については極めて限られている(0.2%、0%)。


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U 国際関係法研究者の研究環境について

 研究環境に関する質問は、コンピューター及び施設・設備の設置、大学院教育に関する負担、図書及び図書費に関するものの三点を中心に梼成されている。
 他に、研究助手の有無と研究環境整備に関する自由記述を求めている。


(1)コンピューターの設置状況とその購入費用について(14、15)

 勤務先の個人研究室の研究用コンピューターの設置状況に関して、全体として214の回答があり、設置されていると答えた者=184、設置されていないと答えた者=30、無回答が10であった。
 回答があったもののうち、約86%が設置していることになる。具体的な利用状況は不明であるが、国際関係法の研究者にとって、コンピューターの普及はごく当然のことになっているということであろう。

 設置しているもののうち、私立大学=114、国公立大学=61、その他が9である。
 設置されていないとの回答のうち、所属大学との関係では、国公立大学=4、私立大学=23である。
 この数字を見る限り、国公立大学の設置状況は、約93.8%であり、設置されていない場合が例外的ということになろう。
 これに対して、私立大学の場合は、約83%であり、大部分で設置されていることは確かであるが、国公立大学との間に差があることは否定できない。

 購入費用については、公費(ここで公費とは所属機関である大学が直接に負担したという意味である)によりスタッフ全員に支給されたと答えた者は49(国公立=18、私立=26、その他=5)、公費により希望者に支給されたものは46(国公立=12、私立=31、その他=3)、大学から支給される通常の個人研究費により個別的に購入した者61(国公立=25、私立=34、その他=2)であり、私費による購入は19(国公立=3 、私立=16)である。
 個人研究費も大学からの支出であるので、支出の仕方には違いはあるが、公費による場合が156とほぼ9 割近く(約89%)を占め、私費による場合が1割強である。
 ただし、私費の場合のほとんどは私立大学であり、国公立大学は3と国公立の中で占める割合は5%に過ぎないのに対して、私立の場合は、私費の占める割合はその3倍の約15%に当たる。


(2)国際関係法の研究・教育に関する施設・設備について(16、17)

 この問に関しては、所属機関単位で回答を求めたのではなく、それぞれ個人による回答であるため、所属大学別の統計にはなっていない。
 このため、施設・設備が大学単位のものであることを考慮すれば、問自身が極めて不十分であり、回答が重なる部分があるため、回答は実情を反映していない。
 それでもなお一定の状況・傾向を示すものとして受け取ることが可能であると思われるので、回答の状況を示しておこう。

 問に対して、「ない」と答えた者が188、「ある」との回答は11に過ぎない。
 つまり「ない」場合が圧倒的に多いということである。
 「ある」場合で最も多い施設・設備は、模擬国際法廷であり、7件、いずれも私立大学である(念のために、この数字は107つの大学に模擬法廷があると言うことを意味しない)。
 模擬国連総会は、1件、私立大学である。
 その他として挙げられていたのは、パソコンで情報検索を行うことの出来る教室とそれを利用した授業料目があること、及び、国連寄託図書館や欧州委員会寄託図書館である。
 しかし、パソコンの場合は通常の授業でも用いられるものであり、国際関係法特有のものではなく、この点では、通常の模擬法廷や衛星放送による授業を挙げている回答があったが、この回答をした者はそれらをいずれも国際関係法の施設・設備とは理解していない、つまり、「ある」の回答はしていなかった。
 また、国際組織の寄託図書館・資料室・資料センター或いは国際法政資料室を挙げている回答は他にも見ら
れたが、いずれも、「ある」との回答ではなく、施設・設備と理解していないと言うことであろう。

 国際関係法を専攻する立場からどのような施設・設備を望むかと言う質問に対して、最も多かったのは、国際関係・国際組織に関する寄託図書館・資料センター・文献センターなどであり、次いで、模擬国際法廷・模擬国連総会、模擬安保理などであった。
 他に、同時通訳設備のある国際会議場、放送衛星・インターネットを利用しての授業設備、専門の財団等が挙げられていた。


(3)大学院関連(18、19、20、21)

 大学院の担当資格については、「資格がない」の回答が59(国公立=9、私立=43、その他=7)、「前期課程のみ」の回答は34(国公立=12、私立=21、その他=1)、「博士課程担当の資格がある」の回答は108(国公立=42、私立=64、その他=2)であった。
 大学院の有無、担当資格有無の基準等が前提となっていないので、地位や年齢との関連を云々出来ないが、約70.6%強が大学院担当の資格があるということである。
 ただし、研究指導・論文指導に関しては、「担当資格あり」とした者は91、「担当資格なし」とした者は7であった。

 コマ数との関係では、全て開講した場合のコマ数で最も多かったのは、2コマで45、次いで、1コマ=24、3コマ=22、4コマ=18、2.5コマ=9、1.5コマ=7、3.5コマ=1であり、その他として、0.5コマ及び5.5コマが1件ずつ挙げられていた。
 そして、実際に担当している時間数としては、最も多い1コマ=42で、次いで、2コマ=32、3コマ=17、4コマ=8、1.5コマ及び2.5コマ=7、3.5コマ=2であった。
 実際に開講している場合がやや少ないとはいえ、本来担当すべき時間数との関係では大きな隔たりはないと言えるであろう。

 このような状況に関して、学部の担当時間数との関係もあり、どう評価するかは困難であるが、問題は、当事者としての負担感がどうかということである。
 研究を阻害するような負担感があるかどうかについては、「非常に負担だと思っている」=6(国公立=2、私立=4)、「かなり負担だと思っている」=12(国公立=5、私立=7)、「負担だと思っている」=28(国公立=10、私立=18)、「それほど負担だとは思っていない」=64(国公立=26、私立=36、その他=2)、「負担ではない」=20(国公立=7、私立=11、その他=2)である。

 総数130のうち、負担と思っている数は46、負担と思っていない数は84であり、ほぼ三分の一強が負担感を持っているということである。
 どのように負担かとの問に対しては、学部のコマ数も含めて担当時間数の多いことが最も多く挙げられており、次いで、研究指導・論文指導に関する負担であり、指導学生数が多いこと、テーマや関心とのギャップ、学生の力量の違いなどが挙げられている。
 他に、学生の学力が低いこと、行政上の役職による負担等がみられた。
 このような負担感があるとの回答は、研究環境の中での阻害要因と考えているということと思われる。
 しかし、より正確には、更に、学部教育・大学院教育と研究との関係をどのように捉えているかを調査してみる必要があろう。


(4)図書の充実及び図書費について(22、23、24)

 この調査項目の場合も施設・設備の場合と同様、大学単位での調査ではないので必ずしも実情を示すものとなってはいない。
 しかし、全体的な状況を表していると思われ、また、自己を取りまく文献の状況に対して、研究者が個人的にどのように受けとめているかを示すものであり、その点で参考になると思われる。

 図書費との関連では、同一大学に所属する研究者が複数の回答をしている場合、或いは、異なる数字を回答している場合があるとも思われるので、ここに示した数字は、実情とは異なることを承知した上で示してある。
 しかし、大学単位としての数字そのものは参考になると思われるので、回答内容はそのまま示してある。

 図書費の回答は多岐にわたり、まとめることは極めて困難であるが、総額で見た場合、最も多いのは737 万円(国立1件)、最も少ないのは、0円(公立=2、私立=1)という場合を除いて、10万円(国立=2件、私立=1件)であり、この間に全ての数字が入る。
 ただし、この最も多い大学の場合、人数が25人となっており、或いは、国際関係法のみではない可能性もある。
 これを間違いとして除けば、最も多いのは400万円(国立=3件・6人・7人・4人、公立=1件・4人、私立=1件・7人)である。
 以下、多い順に100万円までの内容を挙げておけば次のようである。

 350万円(団立=2件・3人・7人、私立=3件・2人・3人・不明)、332万円(公立=1件・4人)、300万円(国立=3件・6人・2人・不明、私立=4件・4人・6人・5人・3人)、280万円(私立=1件・7人)、250万円(国立=1件・40人)、240万円(国立=2件・3人・3人、私立=1件・3人)、230万円(国立=1件・3人)、222万円(私立=1件・6人)、220万円(私立=1件・3人)、208万円(国立=1件・3人)、205万円(私立=1件・5人)、200万円(国立=1件・3人、公立=1件・3人、私立=3件・3人・4人・3人、その他=1件・3人)、180万円(国立=1件・3人、私立=1件・3人)、160万円(私立=2件・4人・4人)、150万円(公立=1件・3人、私立=6件・2人・2人・3人・3人・不明・不明)、142万円(私立=1件・2人)135万円(私立=1件・3人)、130万円(私立=1件・4人)、120万円(国立=1件・1人、私立=4件・2人・2人・3人・3人・4人)、110万円(その他=1件・1人)、100万円(国立=8件・1人・2人・2人・2人・2人・3人・3人・3人、私立=13件・121人・1人・2人・2人・2人・2人・2人・3人・3人・3人・4人・10人・不明、その他=1件・2人)。

 以下、図書費の数字だけを示しておけば、90万円、80万円、70万円、60万円、50万円、54万円、40万円、48万円、36万円、35万円、30万円、25万円、20万円、18万円、15万円、10万円である。

 図書の充実度について、同じ大学に所属する複数の研究者が同じ回答をするとは限らないので、あくまでも個人的に自己の研究との関係でどの様に受けとめているかと言うことに過ぎない。
 それぞれの研究者が、自分の図書に関する研究環境をどの様に捉えているかを示している点で興味深い。

 単行書に関しては、和書の場合、非常に充実=8 (国立=4、私立=4)、充実=28(国公立=12、私立=15、その他=1)、普通程度=67(国公立=19、私立=46、その他=2)、やや不十分=54(国公立=19、私立=32、その他=3)、かなり不十分=46(国公立=9、私立=32、その他=5)であった。

 洋書の場合、非常に充実=5(国立=3、私立=2)、充実=23(国立=11、私立=11、その他=1)、普通程度=49(国公立=16、私立=32、その他=1)、やや不十分=43(国公立=12、私立=28、その他=3)、かなり不十分=83(国公立=21、私立=56、その他=6)であった。

 和書の場合、非常に充実及び充実を併せて回答全体の約17.7%であり、普通程度を含めて約50.7%が一応備わっていると判断しているが、約半数が不十分と考えているということである。

 洋書の場合、非常に充実及び充実を併せて回答全体の約13.8%であり、和書の場合に比して少し劣ると共に、普通程度を含めて約37.9%が一応備わっていると判断しているが、約62%が不十分としており、和書の場合と比べれば、不十分の程度がかなり高いと言えよう。

 雑誌については、和雑誌の場合、非常に充実=9(国立=4、私立=5)、充実=37(国公立=16、私立=20、その他=1)、普通程度=69(国公立=16、私立=50、その他=3)、やや不十分=30(国公立=11、私立=17、その他=2)、かなり不十分=58(国公立=16、私立=37、その他=5)であった。

洋雑誌の場合、非常に充実=7(国立=3、私立=4)、充実=34(国立=14、私立=18、その他=2)、普通程度=39(国公立=12、私立=26、その他=1)、やや不十分=37(国公立=10、私立=24、その他=3)、かなり不十分=85(国公立=24、私立=55、その他=6)であった。

和雑誌の場合、非常に充実及び充実と併せて回答全体の22.7%であり、普通程度を含めて56.6%が一応備わっていると判断していると言えよう。

これに対して、洋雑誌の場合、非常に充実及び充実と併せて回答全体の約20.3%であり、普通程度を含めて約39.6%が一応備わっていると判断しているが、約60%が不十分と判断していると言うことである。
洋雑誌は、和雑誌に比べて、かなり不十分の度合いが高い。

 不十分と判断している内容として最も多いのは、絶対数の不足である。
量的に少ない理由は、様々であるが、図書予算が少ないこと、大学や学部が出来てまだ日が浅いこと、専門家の不在など従来からの蓄積がないこと、必ずしも専門の学部・学科に所属していないこと、研究用図書に対する理解がないこと等が挙げられている。
中には、全くない或いは殆どないとの記述も見られた。
 しかし、基本的な観点として、図書の収集に関してはいずれにしても限界があり、充実すること自体に無理があるとの認識は随所に示されており、今後、このような図書についての研究環境がどのように改善されて行くべきかが大きな課題と言えよう。

 他の国内実定法の分野と比べて、国際関係法に特有の問題があると思われるかとの質問について、「異ならない」としたものが135と圧倒的に多かったが、他方、「異なる」としたものも59あり、約30%が異なるとの認識を持っている。
 異なると考えている点で、最も多くみられたのは、国際関係法に関する文献の多くが洋書・洋雑誌であり、単価が高く、世界各国に広がっていると共に、他の分野に比して絶対量が多いということである。
 しかも、国際関係法の分野を構成する人員は国内実定法に比べて少数であり、同じ比率で購入している以上追いつかず、また、予算の総額・配分も少ない。
 他に、担当者が少ない割に収集対象が広いこと、司法試験科目重視の傾向が強く国際関係法は軽視されていること、国際関係法担当者間の連絡・調整が必ずしも十分ではないことなどが挙げられている。


(5)研究助手の制度について(25)

 研究助手の制度については、「制度はない」=157、「制度がある」=52であった。
 約4分の1にあるということである。
 制度があるとした者の内訳は、国公立=26、私立=21、その他=5であり、ないとした者の多くが私立大学であることを考慮すれば、国公立大学と私立大学とではかなり異なる状況にあると言えよう。
 更に、制度がある場合の内容について、「貴方1人に助手1人がいる」=6(国公立=3、私立=3)、「国際関係法専攻者のグループに1人いる」=9(国公立=5、私立=3、その他=1)、「貴方が専攻する学科に1人いる」=12(国公立=5、私立=6、その他=1)であった。
 他に、学部に1人、5−8名に1人、学部全体で5人、学科に3人、学科に2人等の回答がみられた。


(6)研究環境の整備に関する意見(26)

 研究環境の整備に関して自由な意見の記述を求めたが、次のようなものがみられた。
1) 学術研究と実務家との交流を密接なものとする。
2) 国際関係法図書館を各大学が協力、または、国の援助の下に、日本各ブロック或いは各都道府県に重点大学を決めて一つずつ設直する。
3) 在外研究・在外での資料収集の機会を出来るだけ増加する。
4) 助手・副手の制度を設ける。
5) 国際会議・国際学会への出席或いは資料収集のための海外出張の族費を確保する。
6) 国際関係法担当者の増員を図る。
7) 研究支援の助手或いは職員を導入する。
8) 図書費の増額を図る。
9) インターネット関連機器を充実して検索可能な状態にする。
10) 図書・資料などの文献を整備すると共に更に充実する。
11) 在外公館・国際機関・外国企業等への実習・研修派遣制度を設ける。

 以上の各項目は、類似と思われる記述をある程度まとめる形で表してあり、内容的に幾らか重なると思われるものもある。
 たとえば、(4)と(7)同じようにも見えるが、少し異なることを意図しているようにも思われる。
 また、(3)と(5)についても、単に機会を増やすことだけを求めているのか、問題は旅費の調達にあるのかは必ずしも明確ではない。
必ずしも詳細な記述を求めてはいないこと、それぞれの研究者の現在の環境が必ずしも明確ではないことなどもあり、それぞれの意味することは、同じ様な表現を用いていても同じものが意図されているか否かは必ずしも明確ではない。
 ただ、これらの記述の中で比較的多くみられたのは、(2)の項目であり、図書・文献に対する要望が極めて高いことを示しているものと思われる。
 図書館を通じての相互貸出やインターネットの利用がかなり普及しているとはいえ、なお、研究者にとっては、身近に充実した図書・文献のあることが不可欠との認識を示しているとも言えるとともに、切実な要望を示すものでもある。


[結び]研究環境に関するまとめ

 研究環境に関して、調査項目との関係ではそれぞれの箇所で若干の内容分析をしている。
 しかし、既に述べたように、質問項目・内容の不適切もあり、適切な回答を得られず、必ずしも全ての点で実情を反映できなかった。
 しかし、ある程度の全体的な傾向を把握することはできたのではないかと思われる。
 このことから、今後に何を求めるかは更に検討を要するであろう。
 そして、研究者の研究環境をより改善するために何が必要であるかを詳細に知るためには、単に、国立大学、公立大学、私立大学等の所属機関だけではなく、それらの歴史・場所、所属学部など個々の研究者の置かれている現在の状況との関連で求められている事柄の詳細を調査する必要がある。

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V 通信方法の変革と研究・教育におけるその影響について

 本節では、近時に於けるメデイアの発達が研究・教育活動に如何なる影響を及ぼしているのか、この点の考察の手がかりを得ようと努めてみた。
 以下で括弧内に示されている数字は、原則として、当該の設問に対して予め用意されていた回答を実際に選択した者の合計数である。
 ただし、アンケート回答者の全員が全ての設問に必ずしも答えてはいない。
 したがって、その集計の正確さには多少の疑義を禁じ得ない。
 大体の傾向を示すものとして理解して頂ければ、幸甚である。


(1)日本にない研究資料の入手方法について
 主としてデータ・ベースの利用状況から問題を探り出そうと考えて、設問を用意した。
 各研究者が、その研究課題の追究に不可欠の資料の存在をどこで知り、どこからその資料を入手しているのか、そのような入手を不可欠とする資料はどのような形態のものか、これらを先ず確認しておくことが不可欠であると、考えたからである(設問29ないし30)。


1)資料の存在・所在の情報源
 著書・論文・報告書などが、今日でも第一位の情報源である(143)。
 これらの現物を60代の3分の2、20・30代でも5分の3が、必要と回答している。
 第二位は書誌類(74)であるが、第三位に研究仲間が登場するのは、興味深い(65)。
 良い研究仲間の存在、およびそれらとの良好な関係の重要性が、示されていると解されるからである。
 他方では、孤立して研究を追究しなければならない立場にある研究者への支援態勢の必要性が、示唆されているとも考えられる。

 書誌類を第一位の情報源とする者が予想以上に少ないのは(26)これを活用しての資料検索の方法への接近の利便性と習熟度、書誌類そのものの品質の如何、これらについての調査の必要を感じさせる。
 今日的なデータ・ベースも基本的には書誌類と同等の機能をもち、新規性のあるのは資料の収録やアクセスの形態の点のみである、からである。


2)資料の存在・所在に関する情報源の所在
 それでは、一体どこを探せば有用・不可欠な資料の存在を検索できるか、このいわば「情報の情報」を各研究者はどこに求めているか。
 ここでも多くの研究者が、先ず第一に挙げるのは、伝統的な著書・論文・報告書・書誌類などの「現物」である。
 それは「書類」であって、電子的なデータ・ベースではない(141)。
 しかし、第二次的な情報源としては、インターーネット(57)またはデータ・ベース(48)に頼っている。
 これらと、データ・ ベースを第一位の情報源とするもの(24)とを合わせると相当の数となり(129)、全体としては、上記の「現物」と並んで、電子的データの重要性を無視できないことを示している。


3)必要資料の形態
 必要資料の特定とその所在の探索の次は、その入手である。
 ここでも先ず第一に書籍・雑誌・報告書などの現物 ― 紙と活字による資料の媒体 ― を求めるのが最も多い(119)。
 それが手に入らないときは、そのコピーの入手を望んでいる(85)。
 CD資料の需要は第三位ではあるが、その求め方に、世代間の有意な相違はほとんど無いようである。
 書誌・各種資料・図書書籍などがCD の形で提供される機会が増えると共に、ペイパー資料よりもデイスク資料への需要も増加するであろう。
 第三位に求められるものとしては、CD形態の資料が最も望ましいとされているようである(27(うち11は40代))。
 データ・ベースを第一位に求めるのは、いまのところ僅少である(5)。


4)海外のデータ・ベースの利用について
 利用しないと答えた者と利用すると答えた者とは78:94の比率である。
 しかし、利用しないと答えた者のうち、近々利用する(16)あるいは将来利用する(53)と答えた者とを合算すると 相当の数になる(69)。
 逆に、利用するという者のうちで、殆ど利用しない者と(26)たまに利用する者(60)とを合わせてみると、利用するとはいうものの、実質的な利用度はそれほど高くはないと観ることも可能である。
 50代・60代にも良く利用するグループがあり(10)、60代にも常時利用する者が3名いることを考えると、ここでは世代間の格差が必ずしも有意ではないことを、うかがわせる。
 これ以外は利用しない、という回答が20・30代に1つある。研究対象とその方法とに特殊性がある、場合であろうと思われる。

 利用されているデータ・ベースの所在地は、米国にあるものが極度に多く(106)、英国(26)カナダ(11)と続く。
スイス(6)がアクセスされるのは、同地にある国際機関の資料に魅力があるからであろう。
 以上は要するに、この種の資料整備の実状― その地域的偏在、およびそこにおける情報提供への姿勢(情報公開度) ― を反映した回答であり、その整備状況の変化によって、当然に回答も異なってくるであろう。

 現在すでにデータ・ベースを利用している場合、それは具体的に何れかという設問には、LEXIS(74),NACSIS-IR(22),JURIS(13)の順で回答がなされている。
 これも、使い勝手による率直な答であり、それはそのまま、これらのシステムの質 ― 内容と利便性 ― を示していると、言えるであろう。


5)海外のデータ・ベースを利用しない理由
 最も多い理由は、使い方が判らない(45)というものである。
60代の57名中の11が、この理由を挙げるのは理解もできるが、20・30代の40名中の7という回答は予想外であった。
 第二の理由は費用がかかるということである(40)。
 次は手間がかかる(25)という理由であるが、この点では各世代間に差違はない。
 資料検索方法の効率化、資料転送速度と確実性の向上、そして何よりも資料そのものの提供形態の合理化、これらによって、改善されて行くであろうと思われる。

 なお、データ・ベースなど無くとも研究には支障がないという回答もある。
恐らく研究の対象と方法の違いとも無関係ではない。
 また、海外のデータ・ベースを自分で探索しなくとも、関係の官庁から入手できるからという理由を挙げるのは、特別な立場にある研究者に固有の事情の反映と、思われる。


6)有料データ・ベース使用料金の公私負担区分
 データ・ベースを利用しない理由の一つに、費用がかかりすぎることを挙げる者がいるであろうことは、容易に予想できた。
 ことに、その利用料金を私費で負担しなければならないときは、首肯できる理由である。
 その点の実態を探ろうとしたが、結果は、国公私立の間に格別有意な相違もなく、公費負担が83に対し私費負担は44で、私費の方が多いという傾向は認められない。
 自宅だけで使用している場合には、もちろん格別の考慮が必要である。


(2)研究活動と電子的機器との関係
 研究者間での資料ファイルのやり取りのことを想定し、この設問を用意した。

1)研究作業中のノート取りの方法
 ここにもIT 革命は浸透し、ワープロのみによるとする者の数が回答者のほぼ半数を占め(105)、手書きは60代(14)を中心に総計36、手書きとワープロの両刀使いは72である。
 この最後のグループの者もワープロ優先が手書きを主とする者の二倍になる。また、ワープロ使用の場合、その専用機に頼る率は60代がやや多めであるが、若年層になるほどパソコンのワープロ・ソフトを利用する者の比率が高まり(121)、40代以下ではこれが圧倒的となる。
 ただ、最近の進化したワープロ専用機は、それ自身でもインターネットへの接続機能を備えており、ワープロ機能しか使わないパソコン利用者との間の実質的な違いはほとんど無い、とも考えられる。


2)研究成果の保存方法
 FDでの保存方法が何と言っても第一位で(125)、なま原稿(63)がこれに続き、HDは第三位である(47;これを第二位の保存方法とする者は20)。
 自分の原稿をDBにまで編成する者は50代に3名いるだけで、MOとなると20・30代の1名だけになる。
 HDによる原稿保存がもっと多かろうと予測していたが、必ずしもそうではないことが明らかとなった。


3)パソコンでワープロ処理をしている場合の使用ワープロ・ソフト次の質問に対する回答から容易に推測できるように、ウインドウズ系統のソフトが一般的である。
 それも、日本語に関しては一太郎、外国語に関してはマイクロソフトのワード、これらが普通であろうと考えていた。
 しかし、日本語にマイクロソフト・ワードを第一順位で使用する者が60(一太郎の使用者は65)、外国語のときでも、一太郎を第一順位で使用する者15(同じくMSワードは76)という回答は、興味深い。
 ワードパーフェクトの利用者も、日本語の場合には僅少であるが(3)、外国語では17である。
 オアシスが意外に伸びず(日本語7、外国語3)、クラリスの少なさは(日本語6、外国語4)、マックの使用者が少ないことに、対応していると言えようか。
 また、それぞれに個性的なエデイターが、10名ほどの者によって、利用されていることも見過ごせない。
 ファイルの内容(和文・英文)またはファイル交換の範囲にもよると推測され、この点の精査が望まれる。


4)主に使用するパソコンの機種・OS
 予想通り、マックの使用度は少数である。
 有効回答総数217(人数)のうち、マックの使用数は計25に留まる(11.5%)。
 よく使われているOSがウインドウズ系統であることは、当然であろう(139)。
 それも98よりは95が多く、回答者の多くが、必ずしも常に、最新のOSやアプリケーション・ソフトを追っかけては居ないことが、確認された。
 ワープロおよびメール以外の利用方法がないとすれば、ある意味では理解できる状況でもある。


(3)電子メール環境について
1)メール・アドレスの利用度を聞いてみた(設問37ないし39)。
 アドレスを使っている者が有効回答数217 のうち133を占め(61.3%)、使っていないのは40だけである(無回答は71)。
 メール使用者の多くは自宅(16)よりも勤務先での利用(90)が普通のようで、勤務先及び自宅の双方で使用しているものも少なくない(42)。
 その際に使用するコンピュータに関しては、自宅でも複数台、様々なタイプのものを使用している者が10数名いる。


2)研究上の個人的な連絡方法として、電子メールがどの程度普及しているか、これが次の設問の趣旨である。
 いまだにファックスによる通信が少なくない。
 長文の資料などの通信方法を聞いていないので、断定は避けねばならないが、パソコンの普及度を考えると、電子メールによる連絡方法がもっと増えても良いと、思われる。
 国内通信では、ファックスが94で電子メールは122、国際通信のときは、ファックスが66で電子メールによるのは114である。


3)学会事務局その他の編集委員会など学会の執行機関との連絡方法について見ると、国内関係では、ファックスが63、電子メールは80という回答で、60代でも6名、20〜40代ともなればこの約2倍・3倍がメールを使用する。
 国際関係では、ファックスが39に対し、電子メールは57である。
 60代でも4名がメールを使い、20〜40代ではその約3倍がメールによっている。

 しかし、個人的な連絡方法に比して、メールによるのが少ないのは、学会事務局の対応― 物的・人的に ― の方に問題が在ろうかと、推測される。
 会員あるいは担当者の全体を相手にして業務を行わねばならない学会事務局には、全員がメールによる連絡に習熟していない現状の下で、全ての連絡をメールに頼ることは不適当だと思われるからである。
 学会の中に於ける各種の役割を担う年齢層が若年化するにつれて、こうした学会内の公的連絡にも、電子メール方式が増加するものと、予見できる。


4)研究・教育に関する会議・会合・打ち合わせの代わりにインターネット・電子メールをよく使いますか。
 この設問に対しては、国内連絡においても、メールによるとするものが伝統的な手段(同席対面の会議方式)を追い抜いているようである。
 今後の方向を示すものと考えたい。
 国内連絡に電子メールを使用するものが112 (60代でも8)に対し、使用しないのは68である。
 国際関係では、使用するもの77、使用しないのは64である。
 詳細に観ると、国際通信では、60代(6と20)と20・30代(5と23)という使用・不使用の比率はほとんど変わらない。
 40代でのメール使用者と不使用者との比は、国内通信が13:5、国際関係では、11:7である。


5)特にインター・ネットの利用について
 利用していないものは少なく(30)、利用する予定である者(11)と既に利用している者(142)とを合わせると、全有効回答数(217)の65.4%がこれの利用者である。
 利用していない者としている者との人数は、20・30代では36と40、40代が36と68、50代になると37と56、60代でも22と57である。
 しかし、利用しているとは言うものの、たまにしか利用しない者(22(50代では、たまの利用者は少ない))と、必要になれば利用する者(41)が居ることを考慮すると、
 今後一層の普及が予測される。
 原則として利用する者32(60代に2名いる)と必ず利用する者51(60代でも3名が常時利用)との合計は、全有効回答数の38.3%に達している。利用しないのは、関心がないか(5)、使い方が判らないか(8)である。後者のグループに60代の6名がいるが、使い方を覚えれば活用することになるであろうか。
 利用価値を認めないものもあるが(7)、これはコンテンツならびに検索方法がより合理化・簡便化されるにつれて、改善されることになると思われる。


6)自分のホーム・ページの有無について
 開いていない、という回答が圧倒的である(142)。
 開く予定はないのは27であるが、その理由として、必要なし、(随時アプデイトする)時間がない、プライバシーに問題がある、などと指摘される。
 他方、既に開設している(19)および開く予定を持つものは(20)、勤務先で、授業やゼミナールの案内用というのが多い(31)。

 開設に対する制限の有無については、回答した者の全てが制限なし(36 )という。
 けれども、各教育者が勤務先の教育上の目的で、授業内容の案内等のためページの開設を要請されるのが最近の傾向である。教務・学務関係部局が統一的にページを開設・管理する場合はともかく、個々の教員がページを自由に設定するときは、特にそれが学生・院生などとの共同製作にかかり、双方向的に機能することを許す場合など、問題が生じるであろうと思われる。


7)メール・アドレスを使っていない場合
 現在は必要を感じないか(23)、必要になれば使うか(31)である。
 また、自分は使わないが、研究補助者が使っている(2)という回答もある。
 したがって、問題は、本人が必要を感じているか否かである。


(4)新しいメデイアの使用・利用と学術研究との関係
 電子的メデイアを使用することによる変化の有無を、幾つかの点について、聞いてみた。

1)学術の研究方法について、変化を肯定する者が94で、否定するものと(44)、どちらとも言えないとするもの(42)の合計(86)より多い。
 20・30代では肯定する者が(23)否定する者(4)の約6倍となる。
 これは、この年代の研究者が事態の変化に急速に対応できたことを意味するのであろうか。
 60代では否定説(16)が肯定説(13)をやや上回るのは、逆に変化への対応が遅れていると言えるのか。
 ちなみに、40代の32が変化を肯定し、それを否定するのが19である。
 50代では、肯定が26に対し、否定は5 である。


2)研究連絡や研究論文に使用される言語、および論題の選定について、その変化の有無を質問してみた。いずれについても、変化を肯定するものが比較的に僅少である(それぞれ29、11、16)。
 どちらとも言えないという回答の多さが、事態を示しているであろう(それぞれ63、60、58)。
 IT革命は、もともと実質ではなく手段・方法に関するものと解されるであろうから、当然の結果であろう(参照、設問46ないし49)。


3)資料の選定において、変化を認めるかどうか。
 この点では、肯定説がやや多い。
 肯定62に対し、否定は52。どちらとも云えないが43である。
 40代以上の者には変化を認める数がやや多いと観られるが、20・30代では、変化を認めるものの方が(22)、認めないもの(5)の約4倍もある。
 設問の仕方を変えて資料選定の「手段」「方法」の変化を問えば、恐らくは多くが変化したことを肯定したであろうと、思われる。


4)46以下の設問に変わったと答えた場合、どの様に変わったか、その変わり方は良い方向に向かってのことか、悪い方向への変化か。
 この問への具体的な答を自由に記入して貰った。
 必ずしも回答者の全員から意見を得たわけではないが、全般的には良い方向と言うのが多かったと云える。
 在外資料へのアクセスの容易化・広範囲化と、その入手の迅速化を挙げる者が一般的である。
 結果として、より豊富で充実した資料を、何人でも勤務地や環境・資格・立場の如何に関わらず、自由に援用できるようになったと答えている。
 内外の研究者と直接・随時に意見交換が出来るようになり、研究者間のネット・ワークが国境を越えて形成されつつあることが示唆されている。
 悪い点としては、資料の地域的・言語的・事項的偏在が指摘され、加えて、その質的な信頼性・確実性の保障を、求める声が少なくない。

 他方では、迅速な資料の入手に対応して、研究の成果自体も迅速な公表を促され、慎重な検討を重ねる機会を失い、内容的に浅薄になる傾向があり、必ずしも無条件に歓迎できるものではない、という批判もある。
 より重要な問題は、新しいメデイアによって提供される資料に研究が規定・拘束され、そのような方法によっては入手できない資料に基づく研究の意義と価値が、軽視されることになりはしないか、というところであろう。

 法学の分野でも、専攻領域によっては、電子ジャーナルを創刊したり、ニュース・レターなど学会内での広報活動には、電子メールに依ることを原則とするものも出始めている(たとえば、家族法国際学会など)。
 日本の法学関係の学会でも、同様の態勢を整備する方向に踏み出すであろうか、興味が持たれるところである。
 これまで紹介してきたアンケートの回答に見る傾向からは、そうした決断を迫られる日も、そう遠くはないように、思われる。

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W 研究成果の公表について

 ここでは研究成果の公表状況と、そのために設けられている各種の便宜の現状、およびそれが抱えている問題点について尋ねた。

(1)研究成果公表の経験について
 研究生活開始、つまり大学院進学後の成果発表の経験については平均して1人当たり、20代・30代で口頭発表(座長、パネリスト等を含む。以下同じ)が3件、著書・論文等が11件、40代では口頭発表が16件、著書・論文等が80件、50代では口頭発表が12件、著書・論文等が47件、60代以上では口頭発表16件、著書・論文等54件となる。他方この3年間の経験では、20代・30代で口頭発表が1・5件、著書・論文等が4 件、40代では口頭発表が6件、著書・論文等が15件、50代では口頭発表が3件、著書・論文等が10件、60代以上では口頭発表4件、著書・論文等15件となる。
 設問において「著書」、「論文」などの定義を行わなかったのでどのくらい意味のある数字かは不明であるが、印象的にいえば日本の国際関係法学は文運隆盛というべきか。
 ただし、いかなる形でも成果発表を行っていない人が20 代・30代で3名、40代と50代で各2名、60代以上では5名いた。

 論文発表の舞台に眼を移せば、共著による書籍に収録したもの29.4%、学会機関誌に発表したもの25 .4%、所属機関の機関誌に発表したもの21.8%、市販の雑誌に掲載されたものは5.6%で、その他の形によるものは17.9%という数字である。
 著作(単著)については合計72点の内、商業ベースで刊行したものは53点(73.6%)、何らかの形で助成を受けたものは18点(25%。
 所属機関の助成9点、科研費の助成2点、外部の財団等の助成7点)、自費出版のものが1点(1.4%)であった。
 商業ベースで刊行できたものが意外に多いが、これは教科書や解説書の類を含む数字であるから、必ずしも研究書の出版条件がよくなったことを意味するのではないと思われる。

 何らかの形で出版助成を受けたものは、所属機関別に国立大学23%、公立大学0%、私立大学22%、研究所等で66.7%、平均では25%となるが、公立大学と研究所等は母数が少ないので除くと、国立大学と私立大学では大差はない。
 他方、同じ割合を年齢層別に見れば、20代・30代では66.7%、40代では38.9%、50代では19.5%、そして60代以上では41.7%となり、50代をボトムとしてそれより年齢が低い層と高い層に助成を受けるものの割合が高くなるという結果である。
 全体として下記(2)の記述と合わせて考えると、助成機会が少ないという問題点が浮かび上がる。

 なお、以上のような研究成果を得た研究方法を共同研究と個人研究に分けて尋ねたところ、以下のような結果となった。
 共同研究によるものは、20代・30代で合計29点、40代では74点、50代では82点、60代以上では74点、合計259点である。
 これに対して個人研究によるものは、20代・30代で230点、40代では774点 50代では559点、60代以上では854点、合計2,417点。
 全体に占める共同研究の割合は9 ・7%で、まだ決して多いとはいえない。

 過去3年間における外国語による発表経験(口頭発表、著書・論文の双方を含む)を持つ者については、20代・30代が13名(1人当たり1〜3回で、9回および19回という者各1名)、40代は15名(1人当たり1〜6回。24回という者1名)、50代は27名(1人当たり1〜10回。21〜25回の者計3名)、60代以上は22名(1人当たり1〜9回。15回・16回の者各1名)、合計では77名となる。
 使用言語は、英語107、フランス語12、ドイツ語6、その他8(日本語4(もちろん日本在住の外国人研究者の場合である)、ロシア語・中国語・韓国語・ポルトガル語各1)で、二か国語以上を使用した人が15名いる。
 他方、この期間内に外国語による発表を行っていないが、それ以前に行ったことがある者は39名、近く行う予定の者は3名、予定はないが機会があれば行いたい者は55名で、行うつもりがないとする者は14名に留まり、合計すると外国語による発表経験者は116名で回答者合計175名の66・3%と三分の二に及ぶ研究者がこの経験を有することになる。
 さらに、その経験はないが予定や意欲がある者を加えると、圧倒的多数の研究者が外国語による発表に関心を持っており、この点は(3)で述べる今後の課題とつながってこよう。


(2)研究成果公表の諸条件について
 以上に見たように、日本の国際関係法学における研究成果の公表は、部分的な問題にも関わらず全体としては相当活発だと評価できると思われるが、それではこのような研究成果公表をめぐる諸条件はどのようなものか。

 既発表の著書の出版形式については上記(1)に示したが、今後の可能性について尋ねたところ、商業ベースで刊行できるとする者84名、助成を得て刊行できるとする者78名、自費出版以外にないとする者は17名であった。
 20代・30代のみ商業ベースで刊行できる者がなく、助成を得て刊行できる者が11名、自費出版以外にない者が7名、それ以上の年齢層では商業ベースで刊行できる者の割合が多くなる。
 これに関して、所属機関に研究助成制度があるとする者121名、ないとする者は77名、計画中とする者は7名。
 全体として「ある」割合は59%だが、この点では国立大学(43%)は公立大学 (72.8%)、私立大学(66 .4 %)よりかなり低い。
 出版助成の内容は、全額助成28(内、自大学出版会に限るもの12)、一部助成95(内、自大学出版会に限るもの3)であった。
 出版会は、あるが66、ないが144、計画中が2で、全体として「ある」割合は31%だが、国立大学ではこの割合が高い(47%)。

 日本語による雑誌論文の公表については、全体としては希望通りのものが多い(172に対して不自由を感じる者が23)が、20代・30代では相対的に不自由を感じるものが多い(希望通りが23に対して不自由を感じるが14)。
 不自由を感じる理由としては、掲載できる雑誌がないあるいは少ないと編集上の制約が厳しいが各8で、あとは刊行回数が少ない(3)、他の専門と一緒(1)など。
 そこで所属研究機関における機関誌の所在等について尋ねたところ、機関誌が部局にあるとする者178、他の部局と共同であるとする者は31、ないとする者は1で、部局にある場合が圧倒的に多い。
 年間刊行回数は1回が29、2回が64、4回が79、6回またはそれ以上が29であって、この点については所属機関による有意の差はないようである。
 機関誌の性格としては、法律学専門41、政治学専門1、法律・政治学専門92、国際関係専門18、その他の専門と共同が51。
 他の専門との共同の雑誌が少なくなく、何らかの専門誌との比率は、国立大学で40−10(4対1)、公立大学で7−4(1.75対1)、私立大学で100−29(3.45対1)となる。
 編集については、希望に応じて掲載するもの112、編集委員会が寄稿を依頼するもの23、編集委員会が審査を行うもの45。
 つまり、審査制の割合は25%である。
 レフェリー制は、ないものが148(74%)、部内にあるもの44(22%)、部外者を含めてあるもの8(4%)で、本格的なレフェリー制はまだ例外的である。

 外国語による雑誌論文の公表に眼を移せば、全体では希望通りが93(55%)に対して、不自由があるとする者は76(45%)。
年齢が上がるに従って希望通りが増える (20代・30代では希望通りが11に対して不自由があるが15、40代と50代では両者はほぼ等しく、60代以上では27−13となる)。
 これを所属機関別で見れば、国立大学では希望通りが27に対して不自由があるが16、公立大学では12−5、私立大学では54−53、研究所等では2−1で、不自由を感じる者の割合が私立大学で高い。
 不自由を感じる理由としては、掲載雑誌がないとするもの16に対して、語学上の問題(語学に自信がない、語学校閲の機会がない)は55で、後者の割合が相当高い。
 その他の理由としては、時間がかかりすぎる(2)、校閲者が勝手な変更を行い言いたいことが十分に表現できない、機関内の校閲(検閲?)がある、英語にすることが難しい(「語学に自信がない」に入るか?)、外国の現状把握に関して不安がある、校閲を私費で行うために費用がかかる、といったことが挙げられた。
言語校閲については、必要ない者(23)を別にすれば、雑誌編集部が行う(30)より私的に解決する(身近の者に依頼、有料で専門家に依頼)が多い(36)。
 なお、所属機関に外国語の機関誌があるとする者28、日本文の機関誌に外国語による発表が可能とする者が130で、外国語による要約のみ掲載するもの7、外国語による掲載がないもの24に比べると、何らかの形で外国語による掲載を認めるものが圧倒的に多い。


(3)研究成果公表に関する今後の課題について
 以上のような分析を踏まえ、かつ設問の自由記載欄に示された回答者の希望も考慮しながら、 研究成果の公表について今後改善するべき点を検討するなら、以下のようなことがいえるのではないかと思われる。

 著書の刊行については、過去の経験では商業ベースで刊行できた者が四分の三に近い数字となったが、今後の見通しとしては商業ベースで刊行できる者(84 名)より、何らかの助成を必要とする者(78 名)と自費出版以外にないとする者(17 名)を加えた数字のほうが多く、とくに20 代・30 代の若手研究者にはこの傾向が顕著である。

 所属機関に研究助成の制度がある割合は59%であるが、この点では国立大学での割合が低く(43%)、また、出版助成についていえば必要費用の一部の助成が多数を占めていて条件がよいとはいえない。
 この点についてはとくに、この3年間に刊行された著書の合計72点のうち科研費の補助を受けたものがわずか2点(2.8%)であることが目立ち、出版助成、とりわけ公的な助成の拡充が望まれる。
 自由記載欄に記載された希望としては、出版費用の全額を助成する、助成の機会を増やす(4件。NGOなどとの共著にもという希望、科研費が取りにくいという指摘があった)、大学に出版会を設置する、安い価格の本を出版することが出来る出版社を公的に設ける、などがあった。

 日本語による雑誌論文の掲載については不自由を感じている者はそれほど多くなく、事実ほとんどの所属機関に機関誌がおかれているが、年間刊行回数が1〜2回のものが46%を占め、また他の専門との共同の(したがって同じ専門の読者に読まれる機会が少ない)ものが四分の一あるといった点で、内容的にはまだ十分とは言い難い。
 今後の機関誌充実計画は、刊行回数の増大が18、専門誌の刊行が4、外国語機関誌の刊行が1、その他の拡充が3に対して、特になしとしたものは144であった。
 この点の改善に関しては、所属機関の紀要の刊行回数を増やす(2)、複数の大学で共同して専門の紀要を刊行する、といった希望が出されている。
 また、編集等の改善については、レフェリー等による審査を制度化する(2)、若手が公表できる機会を拡充するとともに、公表を義務づけまたは慣行化するといった点が挙げられており、その他、インターネットを通じた成果の公表を推進する(3。剽窃の危険がないような形でという条件を付けたものがある)、政府系研究機関でも発表の自由を確保する、という指摘があった。

 外国語による発表機会の拡充については、全体としてこの点に関する意欲は高いものの、雑誌論文の公表については不自由を感じている者が45%あり、とくに若手研究者と私立大学所属者にこの傾向が強い。
 所属機関の機関誌の大部分は何らかの形で外国語による論文の掲載を認めているが、その大部分は日本語による紀要に外国語論文も掲載可能というもので、この場合には広く国外に読者を求めることは困難と思われる。
 この点で不自由を感じている理由の大部分は語学上の問題で、これは個人的な努力によって、あるいは語学教育全体の充実によって将来改善される側面はあるものの、語学校閲の問題を私的に解決する事例が多いことを考えると、何らかの制度的な手当が必要とされる側面も否定できない。
 もっとも、外国語による発表機会の拡充については個々の所属機関よりもむしろ学会レベルでの改善が期待されており、学会として外国語による発表の機会を拡充する(2)、Japanese Annual of International Law に本格的な欧文論文の寄稿を認める、などの希望が表明された。

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X 国際学術交流について

 ここでは国際学術交流、とくに人的側面の交流について質問し、研究者個人の立場から、その現状と要望を調査した。


(1)外国人教員・研究員について
 最初に人的な国際学術交流の制度的側面について調査したが、以下の数値は、大学(機関)別に調査したものではないので、国際関係法学に従事する者の研究教育環境について一般的な傾向を示すに止まるものであることを予めお断りしておきたい。

 まず、所属の学部(研究科ないし研究機関)における国際関係法分野の外国人の専任教員を採用については、「採用していない」が159(74%)、「採用している」が46(22%)、今は採用していないが将来は採用したいと考えているものが8(4%)であった。
採用しているものの内、採用人数については、2名採用が9例、3名が4、4名が2、5名が4、さらに7名、9名、10名がそれぞれ1で、数名と答えたものが1であった。
 また、その国籍に関しては、米国・韓国・中国が最も多く、ドイツ・イギリス・台湾・ロシア・オーストラリア・ニュージーランド・タイがそれに続き、カナダ・スリランカ・アフガニスタン・ユーゴスラビアなども含まれている。
 しかし、国際関係法分野で外国人教員を採用している例が、全体の5分の1程度に止まるという実態は、やはり、今後の改善が強く望まれることを示していよう。

 外国人教員を採用している場合、そのステイタスは、正規の教授として採用している例が39、客員教授が11、その他が4であった。
外国人客員教授のステイタスについては、もとより国公立・私立との法制上の差異があり、客員教授の意味も一義的ではないため、数字上もやや混乱があるが、正規の教授と同じというものが31、年限が限定されているものが41、授業担当に制約があるとする例が3、教授会出席義務や行政的負担がないというものが41であった。
 やはり、言語等の障壁もあり、外国人教員については、行政面での負担を軽減している例が多く見られる。
なお、外国人客員教授の制度はないとする回答は54 あった。

 次に、外国人客員研究員制度において、受け入れの範囲に制限があるかについては、回答の圧倒的多数(109(88%))が、とくに制限はないとしている。
 国費またはフルブライトなど公費・公的制度による研究員に限るとする例が4、その他が11。
その制限内容としては、人数制限・予算上の制限のほか、協定校に限る、原則として大学・研究機関等に属している研究者のみに限る、などの条件を課している例が挙げられる。
 なお、受け入れのための手続として、委員会等による承認が必要というのは、かなり一般的な条件であろう。

 さらに大学院における国際関係法専攻の外国人研究者の受け入れに関して、とくにどのような問題点があると感じるかについては、外国の大学・研究機関との提携協定・交換協定などを充実し、実質化することを援助する制度が必要である、というものが68、科学研究費、校費等による外国人研究者の短期滞在制度を充実する必要があるとする回答が61、科学研究費・校費等による外国人研究者の長期滞在制度を充実する必要がある、というものが53、日本に来訪した研究者を大学に招き、研究会・セミナー・シンポジウムなどを行うための制度とそれを促進する資金的援助が必要であるという意見が68、という数値が示された。
 また、その他として、@宿舎等の受け入れ態勢(学内のサポート体制)・手続の明確化(期限付契約の明確化など)を求める(3)、A共同研究を可能にする機関の設置を求める(1)、などの指摘があり、また、長期で来られる人がいない、といった指摘もあった。
 いずれも、外国人研究者の受け入れ態勢に関する物理的・財政的基盤の充実が強く求められていることを示している。


(2)国際的学術交流のための具体的措置・財政的援助について
 国際シンポジウムの開催(回答数41)について、その予算規模は、50万円から1000万円まで多様である。
 共同研究プロジェクト(受け入れと派遣の双方を含む)の推進(26)に関しては、予算規模は100万円から500万円、さらに、外国人研究者の招聘制度を有するという回答は52で、予算規模は30万円から1800万円まで多様であり、毎年1−2名、あるいは3−4名とする例もある。
 また、その他として、内容を特定せず、50万円の予算措置をとる例(1)、あるいは、これら全てを併せて総額1億円(10年間総計)とする例(1)もある。逆に、とくにそうした制度はないとするものは102に及ぶ。

 国際関係法を専攻する研究者として、所属大学(研究機関等)における国際交流制度につき、どのように考えているかという質問には、一応充分であるとの回答が48(25%)、不充分であるとするものが140(70%)、その他が10(5%)であった。
 感想としては、@地域が偏りすぎている、A国際関係論・国際政治に偏っている、B大学と言うよりは全国共同利用施設の設立が望ましい、のほか、Cそのようなことを考える余裕がない、というものもあった。
 こうして、各大学(機関)とも、国際学術交流のために一応の努力は払っていることが窺えるが、7割の研究者が未だこれを不充分と考えていることが銘記される。


(3)個人の研究活動における国際学術交流の意義
 以下では、研究者としてのより個人的な側面について調査した。まず、それぞれの研究活動において、国際的学術交流はどのような位置を占めているかについては、極めて重要との回答が53(26%)、ある程度重要というものが126(61%)、余り重要ではないとするものは28(13%)であった。
 全体の9割近くが、極めてないしある程度重要、と答えているのは、国際関係法学に従事する研究者集団としては、当然のこととも考えられる。

 「極めて重要」との回答者はその理由を次のように述べている。
すなわち、
 ・研究を共有し、評価できる研究者が国内だけでは少ないため
 ・グローバリズムを研究の基礎に置く時期にきている
 ・研究テーマの関係上、外国の研究者・実務家の協力無くして成り立たない研究だから
 ・研究分野(国際法)の性質上、必然的
 ・国際法という性格上、国際的に自分の研究成果が理解されなければ意味がない
 ・環境法の性質上、国際的・学際的協力交流の必要
 ・国際組織法専攻なので組織の活動について経験のある人との交流が重要
 ・ILA国際委員会の委員長を務めている
 ・専門の性格上、先行大国の動向が重要となる
 ・研究上、日常的に米国の指導教授とコンタクトをとっている
 ・情報交換、啓発、刺激
 ・自らの研究を助長し視野をひろげてくれる
 ・世界の最先端の研究者と日常的に接することにより、その成果を日本に取り入れつつ、他方で日本研究者に世界の研究をリードする役割を担うべきであるなど。

 次に国際学術交流が「ある程度重要」とする回答者が挙げた理由は次のようなものである。
すなわち、
 ・研究テーマの関係から
 ・対象学問の性質から
 ・日本だけで完結する分野ではないから
 ・海外学会への参加・外国人学者との情報・意見収集あるいは交換
 ・比較法的研究の推進
 ・将来、留学等するための基礎作り
 ・Think globally, act locallyの視点
 ・モティベーションと意見交換
 ・国際機構の実行を把握するため
 ・情報源として
 ・海外の研究者との個人的な情報交換が可能となるなどであった。

 これらに対して、「余り重要でない」とした回答理由としては、
 ・外国に依存することはない
 ・すでに老齢のため
 ・今は大学行政に専従
 ・学内行政で時間がなく交流をしても頭がついていけない
 ・語学力に自信がない
 ・研究テーマの性格上
 ・現在のところ国内的学術交流で足りている
などが指摘された。


(4)留学・在外研究、外国での教育経験等について
 留学・在外研究の経験について、あると答えたものが156(73%)、ないとの回答が51(24%)、今後2年以内に予定しているとの回答が8(3%)であった。全体の4分の3以上が留学・在外研究を経験している(近く予定している者を含む)ことになる。
 留学先については、米国・58、カナダ・12、英国・44 、フランス・19、ドイツ・11、イタリア・2、オランダ・10、スイス・16、オーストラリア・4、オーストリア・2、アイルランド・2、ベルギー・2、さらに、イスラエル、中国、フィリピン、ポーランド、ユーゴスラビアが各1 であった。
 なお、主要留学先としては、一位・米国・ 17、二位・英国・14、三位・ドイツ・9、四位・フランス・5の順であった。

 留学・在外研究の回数については、1回というものが65、2回が40、3回以上が48であった。
また期間は合計で、6ヶ月未満が8、6ヶ月以上1年未満が28、1年以上2年未満が55、2年以上3年未満が29、3年以上が35であった。

 留学・在外研究の費用の主要な部分をどのように充当したかについては、自費が57、所属大学の助成が89、文部省21、留学先の国の国費(その内訳は米国・17、英国・3、ドイツ・8、フランス・6、その他、オーストラリア・4、オランダ・3、ベルギー・2、スイス・2、イスラエル、カナダ、ポーランド各1)、さらに、日本の財団等が19、留学先の財団等が17、その他(人事院在外研究、助手としての手当、留学先大学、海外研修、日本の行政機関、国連、政府など各1)と多様であった。

 外国での教育経験(講義等)がある者は33(16%)、今後数年以内に予定している者が6(3%)、これに対して、ないとの回答は163(81%)であった。


(5)国際的な学術交流活動への参加
 上記のような留学・在外研究・教授以外に、海外における国際的な学術交流として、どのような活動に参加したかについては、海外での学会参加が挙げられる。
 学会への参加者としての経験がある者は79、学会での報告者として参加した者は57、座長を努めた例も10ある。

 また、国内での国際会議等の参加については、参加者として85名、報告者としての参加が49、座長として12、さらに、海外の研究者との共同研究は39、外国大学・研究所等での講演が45、その他、研究会、セミナー等の参加も若干名あった。

 国際会議、国際シンポジウムなどの企画等に関わったことがあるか、ある場合、最も苦労した点は何かについては、財政的問題を挙げた者が48、テーマの選択が9、報告者の選定が14、相手先の団体・大学等との交渉が13、逆に日本側団体との交渉に苦労した者が7、その他、実働部隊の人材の確保・語学が出来て的確な判断でサポートできる院生レベルの人材という点を上げるものもあった。

 最後に、国際関係法学分野における国際学術交流の推進・企画の母体として、どこが最も適切と考えるかについては、学会という回答が107、大学が45、小規模の研究会が27、日本学術会議が28、その他14に分かれた。

学会が最も適当という回答の理由としては、
 ・多くの会員からの意見アイデア等を集めることができる
 ・大学や研究会では負担が大きく、日本学術会議では間口が広すぎる
 ・他の母体に比べ実質性が高い
 ・人材(専門家)や財源の裏付けがあるから、関わる者の負担も減少し交流が何度も可能
 ・開催の労が多いとしても、テーマの設定等に円滑性がある
 ・研究テーマ、内外報告者を適切に絞り込んでの交流を進めることができる
 ・学問分野として最も適当(しかし財政面では重い負担となりうる)
 ・関心を等しくする多くの会員に協力参加を求めることができる
 ・外国の学会との合同会議という形や、日本の学会による外国人招聘の企画など、形態もさまざまで、最もオープンな形で国際学術交流がなされると思われるためなどの指摘があった。

大学が最も適当という理由としては、
 ・柔軟に対応できる
 ・他の分野との関係を考えることができる
 ・資金の面さえクリアーできれば運営しやすい
などが挙げられた。

小規模の研究会を母体とするのが適当という理由としては、
 ・学会の場合、特定の個人に偏りがち故、財政的には問題があるが、個々の研究者グループが自由に交流するほうがベター
 ・テーマ選定を含め、研究者のオリジナリティが発揮され易い
 ・実質的に内容のある交流が可能
 ・率直な意見交換が可能
 ・特定のテーマで継続的に行うことが可能
などの意見があった。

日本学術会議が最も適当とする回答の理由としては、
 ・国際学術交流の運営面(財政・スタッフの確保)からすれば、日本学術会議が母体となる方がベストと思われる(尤も、逆に同方法では規模が大きくなりすぎ、議論を深めるには問題があるかも知れない)
 ・各大学には大学ごとの制約があるので、とりわけ企画は学術会議のような立場の機関がまとめていく方が望ましい
 ・複数の専門分野にまたがるのであれば望ましい
 ・各学会レベルでは負担が大きすぎる
 ・財源の裏付けがあるから、等の理由が示されていた。

 さらにその他としては、総合研究所、財団、ないし個人による主催等が望ましいという意見もあった。その理由としては、妥協により特色のないものにしなくて済む、という見方もある。
 また、テーマに応じた研究者を一つの共同利用施設に集め、一定期間継続して共同研究できるのが望ましい、というアイデアも示された。このほか、
 ・上記の多様な方法を選択的に活用して、それぞれの特色を生かせばよい
 ・どこの部門でも積極的に進めるべきである
 ・テーマ・形式の如何によって異なり得る、多様化が必要
 ・母体の多様性を維持することが、テーマ・方式・参加者の多様化に資す
などの意見があった。
以上

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