新しい価値観の確立と古典学研究所の設置について


「語学・文学研究連絡委員会、東洋学研究連絡委員会、西洋古典学研究連絡委員会報告」


平成12年3月27日

日本学術会議
語学・文学研究連絡委員会、東洋学研究連絡委員会、西洋古典学研究連絡委員会


 この報告は、第17期日本学術会議語学・文学研究連絡委員会、東洋学研究連絡委員会、西洋古典学研究連絡委員会の審議結果を取りまとめて、報告として発表するものである。

語学・文学研究連絡委員会

委員長 石川忠久(第1部会員、二松学舎理事長、桜美林大学名誉教授)

幹事 北原保雄(第1部会員、筑波大学長)
別府恵子(松山東雲女子大学長、神戸女学院大学名誉教授)

委員 中西 進(第1部会員、大阪女子大学長、国際日本文化研究センター名誉教授)
平岡敏夫(第1部会員、筑波大学名誉教授、群馬県立女子大学名誉教授)
富士川義之(第1部会員、駒澤大学文学部教授)
阿部良雄(帝京平成大学文化情報学科教授、東京大学名誉教授)
雨海博洋(二松学舎大学名誉教授)
岩見照代(麗澤大学外国語学部教授)
小池生夫(明海大学外国語学部教授)
興膳宏 (京都大学大学院文学研究科長)
島村礼子(津田塾大学学芸学部教授)
田村すず子(早稲田大学語学教育研究所教授)
西原鈴子(東京女子大学現代文化学部教授)
半田公平(二松学舎大学文学部教授)
平野由紀子(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科教授)
三角洋一(東京大学大学院総合文化研究科教授)
宮下啓三(慶應義塾大学文学部教授)


東洋学研究連絡委員会

委員長 松井透(川村学園女子大学文学部教授、東京大学名誉教授)

幹事 奥村郁三(関西大学法学部教授)
戸川芳郎(第1部長、二松学舎大学大学院文学研究科長、東京大学名誉教授)
福井文雅(第1部会員、早稲田大学文学部教授)

委員 梅原郁(第1 部会員、就実女子大学文学部教授、京都大学名誉教授)
青木和夫(お茶の水女子大学名誉教授)
池端雪浦(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
石井米雄(神田外語大学長、京都大学名誉教授)
後藤明 (東京大学東洋文化研究所教授)
斯波義信(東洋文庫理事・図書部長)
服部正明(京都大学名誉教授)
濱下武志(東京大学東洋文化研究所教授)
御牧克己(京都大学大学院文学研究科教授)
宮治昭 (名古屋大学文学部教授)
山田辰雄(慶應義塾大学法学部教授)


西洋古典学研究連絡委員会

委員長 逸身喜一郎(東京大学大学院人文社会系研究科教授)

幹事 中務哲郎(京都大学文学部教授)
中畑正志(京都大学大学院文学研究科助教授)
本村凌二(東京大学大学院総合文化研究科教授)

委員 富士川義之(第1部会員、駒澤大学文学部教授)
内山勝利(京都大学大学院文学研究科教授)
大戸千之(立命館大学文学部教授)
木村健治(大阪大学言語文化科教授)
松本宣郎(東北大学文学部教授)
山本巍 (東京大学大学院総合文化研究科教授)



(要旨)

1.新しい価値観の確立と古典学研究所の設置について(報告)

2.報告の内容

(1)作成の背景
 本報告は、第17期第1部内の3研究連絡委員会(語学・文学、西洋古典学、東洋学)において検討された構想を内容とする。

(2)現状および問題点
a. 科学技術の発展とグローバル化の進展は、種々の局面における総合的かつ迅速な判断を要請しており、それを可能にす る「新しい価値観」の形成が緊要となっている。

b.人類の精神遺産である古典の科学的究明によって、諸文明や諸民族精神の明晰な認識が可能となる。
 これに基づくならば、偏りのない、堅実で豊穣な新しい価値観が生まれるであろう。

c. 現在日本の古典学界は、次の5 点の理由により、新しい古典学を創造するべき時期にあり、またそのことを各国から強く期待されている。

@近代古典学が内包する19 世紀西欧特有の価値観(合理的なものの編重、非キリスト教思想の軽視、西欧中心の世界観等)を見直す必要がある。

A欧米における古典学の縮小(講座削減、後継者減少)に対処するため、日本は各国と連係し、古典学再建の支柱となることが期待されている。

B日本の古典学(インド学、中国学、日本学等)において駆使されている高水準の情報処理技法は、内外の古典学進展に大きく寄与すると期待される。

C近代古典学は、19世紀以来、西洋、ユダヤ、イスラム、インド、イラン、中国、日本などの文明ごとに孤立的に行われてきたが、特定領域研究「古典学の再構築」は、史上初めてこれら領域の共同研究を実現し、顕著な成果を挙げつつある。

Dこうした古典学の全主要領域の連携は、各領域に高水準の研究者を擁する日本においてのみ可能である。

(3) 提言の内容
 わが国に古典研究の世界的中心を創設し、新しい古典学(一般古典学)を確立するため、大学共同利用機関としての「古典学研究所」の設置を提言する。
 それは日本の新しい価値観形成に資するばかりでなく、世界に対する日本の重要な貢献となるであろう。

 新研究所は、中心部(定員約20名)と周辺拠点(大学等)からなるネットワーク型の組織を備え、古典学諸領域の連携、ならびにミクロ研究(写本研究)とマクロ研究(文明研究)の連携を研究の中核的方法とし、それに応じた構造を有する。
 またデータベース構築、情報処理技術活用、および国際学界との緊密な連係を重視するものとする。

以上


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目 次

T.はじめに−現代世界と古典学
1.科学技術による近代化
2.現代世界の矛盾
3.現代における古典の役割−新しい価値観の創造
4.日本の古典学の現状と展望−日本の古典学がなし得ること

U.近代古典学の成立
1.前史
2.近代古典学の草創

V.諸文明の古典学−その歴史と現状
1.西洋古典学
2.中国学
3.インド学
4.イスラエル学
5.イスラム・イラン学
6.日本学
7.チベット学

W.古典学の再構築に向けて
1.多様な古典伝承の承認
2.研究者の連携による研究
3.情報処理技術の活用

X.古典学研究所の構想
1.設立目的
2.古典学研究所の構想と組織
3.業務と活動
4.他機関との関係


T.はじめに ―現代世界と古典学

1.科学技術による近代化

 近代西欧の科学技術文明は、20世紀に至り伝統文明世界に広く浸潤した。
さらにソヴィエト連邦崩壊後は、主としてアメリカ文明という先端的形態をとって、全世界を大きく変えようとしている。

 科学技術文明としての近代化は、多くの人々を苦役から解放し、貧困・飢餓・病気などから救出しつつある。戦争、環境破壊、薬害、交通事故など新たな問題を引き起こしつつも、その直接的恩恵は災禍に比べ比較にならないほど大きい。
また、それらの災禍は、科学技術の利用法改善および技術の高度化によって克服可能に見える。

 貧困と飢餓のうちにあって近代化推進が待望される地域も多く、近代化は、今後一層速度を増して全世界的に推進されるであろう。


2.世界の矛盾

 欧米では、科学の合理性に基盤を置く人間中心主義が、キリスト教に代わって、あるいは世俗化されたキリスト教とともに行為規範であり続けている。
 しかし人間中心主義は個人の自覚を拠りどころとするものであり、往時のキリスト教ほどの完成された体系と権威をいまだ付与されることなく、個人は功利的志向を強めている。

 交通・通信・情報処理技術が世界を狭めた結果、欧米を含む世界の各地において、伝統的モラルの枠組みが社会の変容に取り残され、あるいは伝統宗教、民族意識など異なる規範に基づく種々の行動が錯綜し、幾多の問題を惹起している(地域紛争・貧富の差の拡大・地球環境破壊・核兵器等々)。

 この新事態にふさわしい新しい価値秩序はまだ見えていない。


3.現代における古典の役割 ―新しい価値観の創造

 ヨーロッパ文明は、科学技術力によって全世界を席巻したが、世界観に関しては、キリスト教も、西欧人間中心主義も、ヨーロッパ文明という1地域文明の2つの産物にすぎない。
 中国、インド、イスラム、イスラエル、日本などの伝統文明は、それぞれヨーロッパに比肩する古典群を創造し、儒教、ヒンドゥー教、仏教、回教、ユダヤ教、神道など、独自の精神世界を形成してきており、それらの世界に西欧世界固有の価値観を敷衍することには無理がある。

 合理主義に基づき、人間の自由と尊厳を尊重する西欧人間中心主義は、17、8世紀の西欧に端を発して、19世紀から今世紀にかけて近代化の波とともに全世界に流布し、今日なお浸透しつつある。
 しかしそれは近代西欧の特殊性に限定された思想であり、科学に裏付けられた合理的思惟には優れるが、人間の心理、社会、教育、環境、情報などに関する総合的考察には、不十分なところがあると言わざるを得ない。

 諸文明に伝承される古典はそれぞれ、いわば人間の有るべき姿を語りかけている。
この語りかけに耳を傾け、よりよい生を知ることによって初めて、そのような生にそった新しい価値観が見出されるであろう。
 地球時代にふさわしい新価値観の形成は、ヨーロッパを含むすべての文明の古典を紐解き、それを正確に読解し、内容を充分に汲むことによって可能なのである。

 諸民族、諸文明の古典の提示する種々の人生観・世界観は、現代的観点からすれば正、負さまざまに評価されるであろうが、新しい価値観の構築は、それらすべての可能な限り正確な認識と、その評価から出発しなければならない。
 そしてかりそめにも科学技術による急激な世界の変容が、人の精神を毀損したり、よりよい生の実現を妨げることがないよう、調和のとれた価値観の形成を急がねばならない。

 この意味において、古典学は、現在もっとも緊要な学的領域の一つなのである。


4.日本の古典学の現状と展望 ―日本の古典学がなし得ること

 現在、日本の古典学界は、次の理由により、新しい古典学を創造する機が熟しており、またそのことを各国から強く期待されている。

(1) 近代古典学が内包する19世紀西欧特有の価値観(合理的なもののみの偏重、非キリスト教思想の軽視、西欧中心の世界観等)を見直す必要がある。

(2) 欧米における古典学の縮小(講座削減、後継者減少)に対処するため、日本は各国と連携し、古典学再建の支柱となることが期待されている。

(3) 日本の古典学(インド学、中国学、日本学等)において達成された世界最高水準の古典文献情報処理技法は、古典学の質を根本的に変容させつつある。
 この技法のさらなる発展と普及は、内外の古典学進展に大きく寄与すると期待される。

(4) 近代古典学は、19世紀の西欧に成立して以来、西洋、ユダヤ、イスラム、インド、中国、日本などの文明ごとに孤立的に行われてきたが、文部省科学研究費補助金特定領域研究「古典学の再構築」(平成10年度〜14年度)は、史上初めてこれら古典に関わる全主要領域の共同研究を実現し、顕著な成果を挙げつつある。

(5) こうした古典学の全主要領域の連携は、各領域に高水準の研究者を擁する日本においてのみ可能である。

 このように日本の古典学は、連携研究と高度情報処理という新方法によって世界に先駆けて新局面を開き、新しい価値観形成に向けての研究を遂行する能力を備えている。

 その成果は、日本社会の精神的再構築に寄与するのみならず、世界に対する日本の重要な貢献となるであろう。

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U.近代古典学の成立

1.前史

 古典学の再構築が日本においていかにして可能かを考える前に、先ず諸文明における古典学のあり方を概観しておこう。

 中国、インド、ユダヤ、ギリシャ、イラン、日本、イスラム、チベットなど、古い文明は、古来多くの古典を創造し、伝承してきた。あるものは不可欠の教養として主として修道士や貴族が保存と研究を行い、あるものは国の文化そのものとして国家が管理と保存に当たり、またあるものは宗教詩として至上の権威を付与され、完全な伝承を期するさまざな工夫を施されつつ伝承されてきた。写本、刊本、口承、注釈など、文明により伝承形態は時に重なり、時に異なりを見せるが、古典の伝承には、いずれの文明も格別の熱意と労力を注いできたのである。

 ヨーロッパにおいてはギリシャ・ラテンの古典伝承は、中世以降、主として修道院が担っていた。各地から写本を収集・伝写するばかりでなく、翻訳研究にも意を用い、13世紀にローマ教皇がパリ、ローマ、ボローニャ、オックスフォード等の大学にアラビア語講座を作らせたのも、アラビア語訳ギリシア古典学習の便を図ったものであった。
 15世紀以降、大航海時代の到来とともにヨーロッパ人の視野はギリシア・ラテン以外の伝統文明に対して大きく開かれることになり、17世紀以降はイエズス会士らによってインド、中国、日本、チベット等の研究が精神的に推進された。


2.近代古典学の草創

 しかし、産業革命を経、フランス革命をなし遂げた18世紀末の西洋が開始した古典研究は、科学と合理主義を旗印とし、堅固な文献学的手法に拠る点において、縦前のものと質的に異なったものとなった。
 先ずこのような近代古典学の中心となったのは、パリである。コレージュ・ド・フランスには、中国学(1814年、初代教授レミュザ)、インド学(1814年、初代教授シェジ)、エジプト学(1831年、初代教授シャンポリオン)の講座が次々に創設され、アジア学会(パリ・1822年)も設立された。
 これに刺激を受け、ヨーロッパ各国に古典学の講座が設けられ、また王立アジア学会(ロンドン・1823年)、アメリカ東洋学会(1842年)、ドイツ東洋学会(1847年)等の学会が創立された。
 王立アジア学会は1857年にアッシリア学を認定した。
 日本学は、関係の深かったオランダにおいてはJ.J.ホフマンが1835年にライデン大学教授となり、パリ東洋語学校ではレオン・ド・ロニーが1863年以来講じ始めた。
 後者は第1回国際東洋学者会議(1873年・パリ)では会長となって会議を差配し、議事録の3分の1を日本学関係の論文が占めた。

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V.諸文明の古典学 ―その歴史と現状

1.西洋古典学

 西洋古典に関する基礎研究は、紀元前3世紀にアレクサンドリアにおいて開始されている。
以後、アテネ、ローマ、ビザンチンを経、さらにキリスト教修道院において羊皮紙に筆写されつつルネサンス期以降西欧に流入するまで、その伝統は継承された。

 18世紀に始まる近代古典文献学は、多数の写本の比較による原典の正確な復元を第1の課題とするものであり、このような作業は近代となって始めて可能となったものである。
 古典の主要著作は現在では、ギリシャ、ラテンを問わず、アレクサンドリア以来の伝統の中で批判的に校訂され、CD-ROM化されており、ほぼ完璧な索引、語彙集などが作成されている。
 今後は情報処理による研究成果が徐々にその重要性を増して行くと考えられる。

 日本に西洋古典学が根づいたのはおよそ近百年のことで、草創期の東京大学に招かれたドイツ人学者ケーベルの門下から研究が芽生えた。
 本格的取り組みは、第2次世界大戦後に始まり、日本西洋古典学会は昭和24年に組織された。
研究レベルの向上に伴い、哲学、文学、史学、美術・考古学といった領域への専門化が進行しつつあるが、分野ごとの孤立化を避けるため、交流を回復しようとする努力もなされ始めている。


2.中国学

 漢の武帝(紀元前2世紀)は、易、書、詩、礼、春秋の5経博士を置き、儒教を国際化した。
 これは儒家の思想を基準として典籍を位置づける、すなわち国家による典籍管理という意味を持っていた。
 前漢末の劉向父子は古典籍を整理し、6類に分かって『七略』という最初の典籍目録を編纂した。
 これを承けつつ7世紀初めに編まれた『隋書』経籍志は、経(儒家の典籍)、史(歴史書)、子(諸子、自然科学書)、集(文学書)の4部に分類した。
 これは今日でも清朝までの古典籍の分類に用いられている。国家による典籍の保存と管理は、最後の王朝である清まで持続したが、それは一種の言論統制でもあった。
 秦始皇帝の焚書から文化大革命に至るまで、これが中国における古典のあり方の一側面である。

 近代になり、西洋の学術・分化との接触がなされるとともに、中国古典の継承・研究にも大きな変化が生じ、儒教という権威の枠組みから自由な価値評価が可能になった(例えば白話文学の評価)。
また20世紀に入ってからは、敦煌文献や馬王堆帛書などの新資料の発見が古典の領域を拡大することになった。
中国の古典を世界文化の中に位置付けようとする考えも有力になりつつある。

 我が国では、江戸時代までの長い中国古典の受容と研究の歴史があり、近代になってからは、その伝統を受け継ぐ一方で、清朝考証学やヨーロッパ近代古典学の方法にも学びつつ、新しい古典研究が進められている。
戦後50年の中国古典研究は、戦前の「漢字」からの脱皮によって再生を果たしたのであるが、「漢字」の伝統の中で培われた深く精密な読書力は、現代の研究者が追求すべきものであって、その意味では我々が過去に学ぶことは少なくない。


3.インド学

 インド最古の古典『リグ・ヴェーダ』は、その古層が紀元前18世紀に遡る祭祀文献である。
 これを承けて、紀元前12世紀ころまでにその他の3ヴェーダの韻文部分が編纂された。
 インドにおける文献学の萌芽は、これら4ヴェーダに対する注釈であるブラーフマナ文献(紀元前10〜5世紀ころ)に認められる。
 この文献学的潮流は、紀元前6、7世紀頃から、「ヴェーダ補助学」と称される「音韻論」、「韻律論」、「文法学」、「語源論」、「天文学」、「祭式学」へと結晶していった。
 また「総索引」も作成された。
 紀元前4、5世紀のパーニニが著した「文法」は、近代の言語学者によって「かつて存在した最も完璧な記述文法」と評される高水準に達し、19世紀西欧における近代言語学成立のきっかけとなった。

 これら祭祀聖典にせよ、西紀前後から民衆に膾炙した『マハーバーラタ』、『ラーマーヤナ』等の叙事詩にせよ、さらには哲学論書やその他の文献を含め、インド古典の第1の特徴は主として口承されたことである。
 第2の特徴は、成立年代未詳の文献が多く、また数世紀にわたる幾多の層から成る典籍も少なくないことである。
しかしごく近年の研究は、情報処理の技法を用いて徐々に相対、絶対年代を確定しつつある。

 我が国におけるサンスクリット原典研究は、平安朝以来の悉曇学が明治以降は衰微したのに対し、明治末年以降、ヨーロッパ留学生の帰朝とともに盛んとなり、大蔵経目録である『南条目録』(1883年)や『大正新脩大蔵経』刊行(1921年)など、漢訳仏典研究にたいする初期の重要な貢献をなした。
戦後は会員2,300人を擁する日本印度学仏教学会を中心として、欧米に比肩し、さらに近年はそれを凌ぐ研究も少なくない。

 以上は、インド・アーリア系文献に関してであるが、南インドには、言語系統を異にするドラヴィダ系文献が残る。
その研究は、15世紀末、主に宣教師達の手によって着6手され、19世紀半ばにドラヴィダ言語学が成立する。
 19世紀後半には、忘れ去られていたタミル古典が再発見され、テキストが次々に出版された。
 またタミル州政府主導で『タミル語彙集成』(6巻、1924―39)が編纂され、1964年には国際タミル学会も組織された。
 インド国外での研究については、欧州諸国では研究者がやや減ってはいるが、米国その他の地域(マレーシア、シンガポール、イスラエル、ロシアなど)では盛んになっている。
 我が国では、最近少数ではあるが、国際学会を先導する研究も現われ始めている。


4.イスラエル学

 ここでいう「イスラエル学」とは、「古代イスラエル宗教」、およびそれを継承する「ユダヤ教」(紀元前6世紀バビロン捕囚解放以後の「初期ユダヤ教」と、紀元1 世紀末以降の「ラビ的ユダヤ教」)、そしてユダヤ教の一発展形態である限りにおいての「初期キリスト教」、を主たる対象とする学問の総称である。

 イスラエル宗教の最も根本的な古典は、「古代イスラエル宗教」および「初期ユダヤ教」が産み出した「聖書」(キリスト教のいわゆる「旧約聖書」)である。
 1947年以降に発見された死海写本は、紀元前後の予言書を中心にした写本を大量にもたらし、ヘブライ語聖書本文の確定に寄与しつつある。
 「新約聖書」においても、「ナグ・ハマディ文書」、とりわけ「トマス福音書」 (紀元2世紀中頃成立)等の発見により、本文批評の問題域が拡大した。
 ギリシア語・ラテン語等々の古代語訳も本文研究に重要である。

 旧新約聖書の研究は、19世紀から歴史的批判的方法を駆使した「聖書学」として盛んになった。
これはイスラエル宗教共同体の諸伝承がどのようにしてモーセ五書、予言書、諸書、福音書等に編集されたのかという問いを、 いわゆる「様式史」や「編集史」、「伝承史」や「伝統史」等々、様々な方法に基づいて研究する。
 日本の研究も、この分野においては国際的に高い水準を示している。

 ラビ的ユダヤ教は、聖書の啓示を基礎にして社会形成を行い、タルムードなどの法規範、ミドラシュその他の聖書解釈、そして哲学・神秘主義に至る諸領域にわたって、様々な著述を残している。
 これらの研究は19世紀のドイツで「ユダヤ学」として成立し、今世紀には特に合衆国とイスラエルにおいて研究の進展が著しい。
 ユダヤ人による研究が抜きんでており、日本は立ち遅れていたが、最近タルムードの翻訳が進められている。


5.イスラム・イラン学

 中東地域は、7 世紀はじめのイスラムの出現を境に、大きく2 期に分けられる。
 イスラム以前については、イラン高原を中心に中東全域におよぶ大帝国を形成したアケメネス朝からササン朝にいたる古代イランとその文化が人類史上独特の地歩を持つ。

 イスラム時代については、クルアーンが古典中の古典である。
クルアーンをより正確に理解する必要から、預言者ムハンマドの時代を研究する学問が生まれ、理想的な初期のイスラム共同体の実体を解明する研究もはじまった。
 その一方、現在にいたるイスラムの歩みのなかで、その言語・文化圏の違いによってアラブ・イラン・トルコに三大別される研究分野が形成され、その広がりは中東を超えて、いまや地球規模となりつつある。

 古典学としてのイスラム学は、ヨーロッパにおいては十字軍以降、オスマン帝国との対峙から植民地経営などの局面をとおして多大の蓄積が積み重ねられてきた。
 欧米諸国の図書館に蔵される写本の質と量は、長いイスラム研究の成果である。

 日本におけるイスラム研究は、戦前・戦中に多少のめばえはあったものの、第二次大戦後、とくに1970年代以降において本格的に展開しだした。
 各種のイスラム古典の文献学的研究もなお少数にとどまるとはいえ、校訂・翻訳・注解などに優れた業績を生み出している。
さらに中央アジア史の分野では、欧米を凌駕する研究も出現した。とはいうものの、全般として見れば、日本のイスラム古典研究の基礎力は質量ともに不足しており、本格的な古典学研究の簇生が期待される。


6.日本学

 日本の古典に関する研究は、どの分野であれ、やはり日本国内での研究がもっとも進んでいる。
 研究者の数も多く、研究の量も圧倒的で、質も高い。
 分野の細分化も行われ、どの分野にも優秀な研究者がいる。
 これまであまり注目されなかった資料類も公刊されるようになっている。
 ただ、中国文化の影響に関する研究は、最近盛んになってきた分野で、優秀な若手研究者によって精力的に進められているが、まだ量は不足する。

 日本文学では、室町時代の五山文学の研究とキリシタン文学の研究があまり進んでいない。
五山文学は中国の宋・元代の文学との関連が深く、この時代の中国文学を理解することは国文学者には大変難しいこと、キリシタン文献についてはラテン語・ポルトガル語・スペイン語などの言語を習得する必要があって、やはり大きな負担であるからである。
 この二つのテーマは日本の日本文学研究の中で補わねばならない部分である。

 日本の仏教思想についての研究も多くの蓄積があるが、日本仏教が広範な仏教の伝流地域の中で占める位置や特色については、まだ十分に研究されているとは言えない。

 日本の政治体制を含めた歴史についても、多くの成果が積み上げられているが、個々の重要な点、たとえば、奈良時代に唐の律令を受け入れた際の日本的変容の問題などはまだ綿密には行われておらず、これからの研究に待つべきところである。

 国外の研究については、日本文化に対する興味を持つ人間は多くなってはいるが、日本語のレベルの高い研究者の数が少なく、全体に低調である。


7.チベット学

 チベット古典は、大きく仏教聖典とボン教聖典に分けられる。
仏教は、7世紀のソンツェン・ガンポ王時代に中国とネパールから伝来したが、8世紀末にインド仏教が正統と認められて以後は、インドから組織的に導入された。
 仏典は、主としてサンスクリットから翻訳された「大蔵経」と、チベット人の著作である「蔵外文献」から成り、また前者は「カンギュル」(経典の翻訳)と「テンギュル」(論書の翻訳)に分けられる。
9世紀初頭に編纂された『翻訳名義大集』はサンスクリット・チベット語を併記する語彙集であり、仏典の訳語統一を図ったものである。
 「大蔵経」は、14世紀に今日の形に編纂され、15世紀には木版本として刊行され、17世紀以降続々と開版された。
写本で伝えられた「大蔵経」もかなりの数が存在する。

 ボン教は、チベット土着宗教と考えられる古い時代の「古ボン教」と、11世紀以降に仏教の影響を受けて組織化される「新ボン教」に分けられる。
 「古ボン教」は生者と死者を仲介するシャーマン的役割を演じていた。
一方「新ボン教」には、仏教同様に「カンギュル」と「テンギュル」が存在するが、膨大な文献群は大部分が未研究のまま残されている。

 ヨーロッパには13世紀以来、神父や修道士のチベット報告が届いていたが、チベット学の基礎を築いたのは、19世紀前半に出たハンガリー人研究者チョーマ・ド・ケレスである。
 その後フランス、イタリアを中心に、ロシア、ドイツ、オーストリア、イギリス、ノルウェーなどで質の高い研究が継続されている。日本にも少数であるが高水準の研究がある。

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W.古典学の再構築に向けて

 ではいかにして古典学を再構築するべきであるか。それは古典の正確な読解と、その客観的評価から出発すべきであろう。その方法の要点を次に述べる。

1 .多様な古典伝承の承認

(1) 近代西欧的価値観の見直し
 かつて諸文明の古典は、1文明中において捧持され、その価値が相対化される機会を殆ど持たなかった。
19世紀に成立した近代古典学は、初めてこれらの古典を外部から体系的に評価したが、その評価は、近代西欧の価値体系による評価であった。
 我々は先ず、この視点が偏っていることの確認から出発しなければならない。

(2) 多様な古典の尊重と保護多様な古典の尊重と保護多様な古典の尊重と保護多様な古典の尊重と保護世界各地域の古典は、それぞれ固有の価値を持つものとして承認され、尊重されなければならない。
 政治的、経済的に脆弱な文明の古典、あるいは合理主義に悖(もと)る装いの古典がそのゆえに等閑に付されてはならない。
 また、たとえその価値が現在認識されなくとも、将来認識されることもあり得るから、すべての古典伝承を保護するべきである。

(3) 古典伝承者の役割古典伝承者の役割古典伝承者の役割古典伝承者の役割近代化はしばしば、伝統文化の桎梏からの解放によって達成されるため、古典が伝統的形態において伝承される地域は次第に狭まり、途絶が懸念される伝承が少なくない。
 それらはできる限り保存に努め、それがかなわないときには、古典学が細心の注意とともにその伝承を保護しなければならない。具体的には次の諸方策等が考えられる。

@.伝承者の保護
A.碑文・原本・写本・刊本の現物またはディジタル写真等の収集・保存
B.口頭伝承の記録・保存


2.研究者の連携による研究

 すべての古典を正確に読解し、そこに表される種々の価値観を解明し、記述する。
 たがいに他の研究者に理解可能な言葉で語り、同一分野内の研究者ばかりでなく、異分野の研究者とも連携することにより、新しい視点と価値の発見に努める。
 その主要な方法は次のようになるであろう。

(1) ミクロとマクロの両視点の獲得
 古典研究者は、古典を可能な限りその文明の内に生きる人の視点から、内在的に理解しようと努める。
すなわち作品を生み出した文明の状況―他の古典文献や、社会、経済、政治、歴史的諸条件―を詳らかにしつつ、1古典の理解を試みる。
 これは高度の語学訓練と膨大な知識集約が必要な作業であり、そのことを知るゆえに古典研究者は対象を絞り込み、狭い専門内に閉じこもりがちであった。
 専門の細分化は研究の高度化に伴う必然とも言えるが、そこでは研究の価値が客観的に問われることなく、先行研究の継続に終始する危険がある。
 新しい展望がこのような環境から開けることは少ないであろう。
 現代日本の古典学では、研究の伝統、資料等の蓄積や情報処理技術により時間的余裕を生じさせ、他の研究者との研究連携によって、この孤立状況を打開することが可能である。個々の写本のミクロ的研究に従事する研究者と、より広い視野を持つ研究者が連携し、互いの見解を交換しつつ研究を進めるならば、ミクロ研究者は広い展望を、マクロ研究者は正確で詳細な事実を獲得することができる。


(2) 古典学の異分野間の連携 一般古典学確立に向けて
 異なる古典学の領域は、たがいに多くの並行する研究主題を有するから、上記の研究連携を異分野間でも行うならば、大きな触発効果があるであろう。
 19世紀以来、孤立的に発達してきた古典諸学の初の研究つきあわせは、各領域に刺激を与え、新方法の創造と個々の古典の新しい価値の発見に繋がるに違いない。
 それは未成立の一般古典学確立への第1歩となるであろう。
 このような展望のもとに、古典諸学の研究者が連携し、たがいに理解可能な言葉で語り合うことが重要である。

(3) 歴史学、社会科学との共同研究及び近現代社会における受容の研究
 古典学のみならず法学、社会学、歴史学、経済学の専門家とも共同研究を行い、従来の古典学の殻を破った広い視野から古典を再吟味する必要がある。
 また古典は、近現代社会においても継承され、受容されることによって日々その生命を新たにしているから、近現代社会における継承と受容に関する研究も加えるべきである。

(4) 外国の研究者との連携
 日本が中心となって国際古典学会(仮称)を組織し、各国に日本と同様の古典諸学の連携を図る組織作りを促す。
 これと並行し、外国の学者との共同研究を実施する。
 また研究所に常時、1分野につき1人の外国人学者を研究員として招聘する。
 外国人研究員は、新しい研究成果ばかりでなく、日本人にない方法論的視点をもたらすであろう。
 また若手研究者の教育にも効果があるであろう。
 こうして日本の古典学を世界に開かれたものとし、方法、研究成果などを世界に向かって発信すると同時に、世界の古典学の情報を取得し、常に最先端の情報が所内に行き交うものとする。


3 .情報処理技術の活用

 コンピュータ利用は、古典学の方法を大きく変え、研究に質的変化をもたらしつつある。
 分析速度と精度の向上は、全体把握を容易にし、古典読解の精度を格段に高めた。
 古典学におけるコンピュータの主要な役割は、
 (1) 音韻、語形、語意、構文、韻律、物語・思想等の用例の網羅的検索、
 (2) その統計的分析、
 (3) 碑文、写本・刊本、遺物、遺跡等の画像処理、
 (4) 迅速な情報交換による共同研究、
の4点であろう。

(1)、(2) の効用については、多言を要しまい。これによって研究のまったく新しい局面が切り開かれつつある。
それは山上で霧が一気に晴れ上がったほどの新視野である。

(3)画像処理に関して。
a)碑文、写本・刊本の画像をテキスト読解の際に同時に扱えることの利点は大きい。
また、b)碑文、写本・刊本の複写保存には、劣化しない電子画像の信頼性は極めて高い。
さらに、c)遺物、遺跡などの写真は文明の実体理解に重要である。
d)赤外線写真による写本読解は、最近インド学において試みられつつある。

(4) 共同研究は、HTMLより遥かに精巧なXML を用いて世界の研究者を直接繋ぎ、インターネットによる日常的共同研究を実現する試みである。
 いわば1冊の研究ノートに世界中の学者が日々書き込み、共同利用しようとするもので、最近ハーヴァード大学インド学研究室が開発したシステムを用い、同大学と日本のインド学研究者を中心に開始されようとしている。

 以上4点のコンピュータ利用を促進するために、研究所は、情報処理の専門家および最新型コンピュータ設備を擁するものとする。

(5) データベースと利用技術の標準確立

 これに関連し、情報処理専門家を中心に、研究基盤整備のために次の2 点を遂行する。

@.研究基盤となる大規模データベースの構築・収集・公開
  a )テキストデータベース(プレインテキストとそのマークアップテキスト)
  b )碑文・写本・刊本データベース(テキスト・データベースとリンクした画像データベース)
  c )遺跡・遺物・絵画・現物の画像データベース

A.古典学に特化されたコンピュータ利用法の標準確立およびその普及
  a )世界の諸言語の同時処理システムの構築
  b )検索・統計表作成・統計分析プログラム・韻律分析プログラムの収集・作成
  c )画像処理プログラムの作成

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X.古典学研究所の構想

1 .設立目的

 我が国に古典研究の世界的中心を創設し、新しい古典学(一般古典学)を確立するため、古典学研究所を設置する。
 現在、各地の国公私立大学に存在する古典に関る諸講座(中国哲学・文学、インド哲学・文学、西洋古典学、国文学、倫理学等々)の中核となる研究所を設立し、諸古典学間の研究連携を確保することにより、また情報処理技術を積極的に活用することにより、新しい古典学と古典像を創造する。


2 .古典学研究所の構造と組織

(1) 構造構造構造構造
 @.中心部:教官(教授・助教授・助手)定員約20名。

 A.周辺拠点:主要大学の関連部分を指定し、その教官を客員教官として位置付ける。
 古典学研究は、上記のように「中心部」と「周辺拠点」からなるネットワーク型機関とし、既存の古典学講座に在籍する研究者を最大限にネットワークに組み込む。
 こうして大学において後継者育成に直接携わる研究者を組み入れることにより、「中心部」所属の教官も教育に関する視点を備えることができると考えられる。

(2) 研究組織研究組織研究組織研究組織
 @.研究部
  a .世界・人間観研究部
  b .生成・受容研究部
  c .本文・原典研究部

 A.情報国際部
  a .情報管理部
  b .連携国際部

 研究所には、「研究部」と「情報国際部」を設置する。
 「研究部」は古典学固有の研究を遂行し、「情報国際部」は、データベース構築、標準情報処理技法開発など、情報処理に関する業務と、国際古典学会と東西古典学会という、内外の2学会の事務局として雑誌の編集・発行業務などを行い、また外国の研究者との連絡、受け入れ等に当たる。

@.a. 世界・人間観研究部
 古典に認められる世界観、人間観の研究。「自然」、「国家」、「時間」、「言語」、「理性」等の抽象的事象と同時に、衣食住に関わる具象物の扱いについても研究する。
 それぞれの文明の感性的、理性的枠組みの全体がしだいに明らかにされるであろう。

@.b. 生成・受容研究部
 古典の創作契機と、同一文明内における伝承あるいは異文明への伝播の過程における変容を研究する。
 例えば同一典籍の異なるいくつかの文明への伝播をたどれば各文明の特質の一端が明確になるであろう。
 逆に外来要素を取り除いたとき、残る要素はその文明の特質に関わるものということもあろう。

@.c. 本文・原典研究部
 原典・写本・翻訳を校合し、読みを確定しつつ読解することは、古典学の基盤である。
 写本の材質、古文字、音韻、韻律、語形、語彙、構文、内容などの吟味に用いる道具として、コンピュータは今や不可欠である。
 情報管理部との密接な連携のもとに、文献学的研究と本文批評、本文解釈を行う。

A.a. 情報管理部
A .データベース・電子図書の収集・構築・公開
B .古典研究情報処理法と統計処理法の開発と普及

 今後の古典研究においては、古典本文、および本文の画像を可能な限り電子化して扱うべきである。
そのための道具作りをこの部において行う。

 SED, AWK, PERL 等の簡易言語は、今後、古典研究者には必須の道具として学習されなければならない。また統計処理の理論も文献研究に極めて有効である。

古典学にもっとも適した、必要な範囲の知識の標準を定め、その普及を図る。

 注意しなければならないことは、情報処理技術の進歩の速度はあらかじめ予想し難いため、あまり長期の計画を細部に亙って確定しないことである。
 中期的かつ柔軟な展望を持ち、常に新しい状況に対処しうる体制を整えておくことが肝要である。

A.b. 連携国際部
A .国際古典学会事務局・‘International Journal for World Classics' 発行
B .東西古典学会事務局・『世界古典学』発行・公開シンポジウム・公開講義

 古典学は、今後、欧米だけでなく、伝統文明の国々においても遂行されることとなると予想される。
当研究所は、ヨーロッパ中心のあり方から全地球的なあり方への変化を後押ししうるよう、欧米だけでなく、アジア、中東、南米、オセアニアなどの研究者とも密接な連携をたもちつつ、学会を組織し、学術雑誌を編集・発行するものとする。

(3) 分野別構成
研究部・情報国際部の研究者は、以下の専門分野構成とする。
 @.日本、中国、インド、西洋、法学―各6名
 A.イスラム、イスラエル、朝鮮、情報処理―各3名
 B.イラン、チベット、東南アジア、経済学、近現代思想―各1名
 W.客員―3名
合計50名(うち外国人10名)。

(4) 年齢別構成
外国人・客員を除く内訳:
20代―4名、30代―7名、50代・60代―各8名、40代―10名


3 .業務と活動

(1) 業務
@ .研究
a )古典学諸領域の連携研究:中国、インド、西洋、日本、イスラム、イスラエル、チベット、朝鮮等の古典学の連携研究。

b )ミクロ研究とマクロ研究の結合:「写本研究」「本文批評」と「文明研究」の連携研究。

A.教育・研究協力
大学院生、研究員・研修員(小・中・高・大学教員・社会人)の受け入れ。


(2) 活動
@.国際的受信と発信
a )日本主導による国際学会・国内学会の組織化(国際古典学会は世界に未成立)
b )国際誌・国内誌の発行
c )外国人教官の採用

A .情報処理技術の活用
a )テキストおよび原本・写本画像大規模データベースの収集・構築
b )デジタル化した図書を整備する・また図書のデジタル化をはかる。
c )古典学のためのコンピュータ利用法の標準確立およびその普及:
国ごと、個人ごとに異なる文字コードを統合するシステム等を開発し、研究交流の支障を除く。


4 .他機関との関係

(1) 大学との関係
 古典学ないしそれと関連する講座の存在する学部とネットワークを組み、連携研究を行う。

(2) 他の付置研究所、共同利用機関等との関係

 古典学の講座は、以下の機関等に存在する。

 京都大学人文科学研究所、東京大学東洋文化研究所、東京大学史料編纂所、国際日本文化研究センター、国文学研究資料館、国立民族学博物館、東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所、国立歴史民俗博物館、東南アジア研究センター等。

 このうち最も古典研究者数の多い人文研では、中国学、日本学が中心であり、東京大学史料編纂所、国際日本文化研究センター、国文学研究資料館は日本学研究者が大多数を占める。

 それ以外の機関では、地域研究、人類学研究、現代語研究、歴史研究が主であり、西洋、インド、ユダヤ、イスラムの古典研究は極めて限られている。
 従って新研究所との業務上の重複は中国学、日本学を除き僅少である。

 また古典学の多数の分野が連携した研究はほとんど行われていない。
 新研究所の研究は、大学およびこれらの機関の研究者と緊密な研究連携を保ちつつ、遂行するものとする。

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