グローバルネットワークの構築と企業行動の変貌


「企業行動研究連絡委員会報告」

平成11 年11 月29 日

日本学術会議
企業行動研究連絡委員会



企業行動研究連絡委員会組織
 この報告は,第17期企業行動研究連絡委員会の審議結果を取りまとめて発表するものである。
委員長
栗山仙之助(日本学術会議第部会員・摂南大学学長)

幹事
菊池敏夫(日本学術会議第3 部会員,日本大学名誉教授,
山梨学院大学経営情報学部客員教授)
横沢利昌(亜細亜大学経営学部教授)

委員
桑田耕太郎(東京都立大学経済学部教授)
能勢豊一(大阪工業大学工学部教授)
山田善靖(東京理科大学理工学部教授)グローバルネットワークの構築と企業行動の変貌


グローバルネットワークの構築と企業行動の変貌
−概要−

1.背景

 従来の企業に伴う行動におけるシステム変革は、現状が急激に変化したとき、マネージャが適切な調整あるいは意思決定によって、安定を取り戻すことであった。しかし、工業化社会から情報と知識に支配される社会へ移行するにつれて、世の中はダイナミックに変化し続けるようになり、常に不安定な社会へと様変りしてきた。また、情報・通信技術の発展によるネットワーク社会の到来は、企業における経営資産の流、。、動化を促し全世界規模の経営が求められるようになったこのような情勢にあってシステムの変革は常となり、マネジメントは、現状維持のための一時的対応から変化に対する継続的プロセスとしての役割に代わってきている。つまり、現代の多くの先進的なシステムは、ネットワークの特徴を一層重視することにより、安定よりもむしろ変化を取り込むシステムとして設計されるようになったといえる。このような変化に対応できるスピード経営が、ネットワーク社会における企業行動の基本となりつつある。

 以上のような観点から本報告ではダイナミックに変化し続ける社会環境においてグローバルネットワークに焦点をあて、企業行動に与えるその影響を明らかにする。ここでは、グローバルネットワーク時代の企業環境、戦略、経営モデル、組織といった側面について言及し、グローバル化に伴う企業行動やその評価についての指針を示す。

2.企業行動研究の将来に向けて

 グローバルネットワーク社会における企業行動は、利益追求型の組織から脱皮し、新たな目標、評価尺度を持つ組織として生まれ変わることが求められている。その動きは、ビジネスプロセスリエンジニアリングに始まり、いまや生産現場のハードウエア、ソフトウエアの固有技術領域での議論を超えた経営全体の仕組みを論じる領域の問題にまで発展して来ている。本報告では、そのような観点から「顧客満足から顧客価値」へ展開される経営コンセプトの転換、アウトソーシング、コンカレント・エンジニアリングやサプライチェーン・マネジメント等にみられる企業におけるスピード経営への取組み、そのための企業組織とコーポレート・ガバナンス問題への対応、グローバル化に伴うデファクトスタンダードと日本的経営あるいは品質・環境管理の標準化と会計基準国際化への影響の多面的な問題点について問題提起を行った。

 さらに本報告では、これらからのグローバルネットワークにおいて期待される企業行動として(1)開発途上国との協力、(2)長期的な発展をめざす、(3)組織の柔軟性を持たす、(4)地球環境を考慮する、という4 点を掲げておきたい。また、今後考慮さ(4)れるべき経営の評価指標についても言及している。


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目次

第1 章はじめに

第2 章グローバルネットワークと企業環境

第3 章グローバルネットワークと企業戦略

第4 章グローバルネットワークと新しい経営モデル

第5 章グローバルネットワーク社会における企業組織

第6 章グローバル化と企業行動

第7 章企業行動の評価のための課題

第8 章おわりに

付録資料・略語説明


第1 章はじめに

 1990 年代後半の国際的な需要低迷と製品価格の下落が同時に進むデフレスパイラルは年までのバブル崩壊後の高コスト体質と過剰設備投資に苦しむ日本企業に更なるリ1990ストラクチャリングを加速させた。このような背景のもと,企業の主眼は,価格低下により利幅の縮小したハードウェア分野から,より付加価値の高いソフトウェアやサービス分野へと転換が進んでいる。すなわち,このことは多くの企業が今や,物(ハード)造りのみでは利益を上げることが困難な産業体質になっていることを示している。それと共に,企業側のモノを作るスタンスも「製品の供給」という発想ではなく「顧客満足の提案」,あるいは「生活環境の提案」という新たな発想への転換が見られる。そのための情報ネットワークを核とした企業の変革と新しい企業文化の創造が求められている。

 このような企業システムの変革とは,現状が急激に変化したとき,マネージャが適切な調整あるいは意思決定によって,安定を取り戻すことが目的であった。しかし,工業化社会から情報とアイデアに支配される社会に移行するにつれて,世の中はダイナミックに変化し続けるようになり常に不安定な社会へと様変りしてきたこのような社会にあってシステムの変革は常となり,マネジメントは,現状維持のための一時的対応から変化に対する継続的プロセスとしての役割に代わってきている。つまり,現代の多くの先進的なシステムは,ネットワークの特徴を一層重視することにより,安定よりもむしろ変化を取り込むシステムとして設計されるようになったといえる。このような変化に対応できるスピード経営が,ネットワーク社会における企業行動の基本であるといえる。

 企業変革の原動力となったインターネットは,いまや社会全体を同期化し,いつでも,どこからでも,だれもが自由に市場参入し,自由に競争も協調もできる透明で公平な仕組みをグローバルに提供した。そこに出現した新しい経営環境は,独自の閉じたシステム作りを目指すのではなく,グローバル標準のもとにオープンなシステムを構築することが絶対的条件となる。

 組織形態が,バーティカルであるときは,効率追及の立場からその組織は固定化されると共に,一方向通信となりやすい。それに対して,オープンシステムが当たり前になるグローバル経営は,ホリゾンタル組織あるいはネットワーク組織のもとにインタラクティブな通信が可能となる。そこでは,どのノードと通信を行うかによって生成される知識や情報は異なってくる。したがって,新しい知識あるいは商品開発が可能となり,従来の組織にないダイナミズムが生まれる。組織をバーティカル型からホリゾンタル型に置き換えたとき,インタラクティブ性の強いバーチャルコーポレーション(仮想企業)やバーチャルモール(仮想商店)ができ上がるテーラー以降の経営の近代化は専門化分業化「自動化」という手段によってプロセスの効率化はシーケンシャルエンジニアリングの形で進化した。一方で組織の素人集団化が進み,今日それが更なる効率化への弊害として問題視されるようになった。このシーケンシャルエンジニアリングに対抗して提唱されるコンカレントエンジニアリングは,同時並行的にしかもフレキシブルに作業形態を変えて更なる効率化を図るものである近年話題の「一人生産システム」「グループ生産システム」あるいはセル型生産システムもこの範疇の産物といえるまた「アウトソーシング」「SOHO(Small Office Home Office)」「サプライチェーンマネジメント」「超並列型(コンカレント)マネジメント」など,新技術,新管理手法,新システムの提案がグローバル経営の息吹を感じさせる。

 本報告では以上のような観点から第2 章においてグローバル経営における企業環境を第3 章においてその企業戦略について述べる。また第4 章では,従来からの経営モデルに対するグローバルネットワーク時代の新しい経営モデルについて考察する。さらに第5 章でグローバルネットワークと企業組織の特徴を明らかにし,第6 章でグローバル化と企業行動について検討し,第7 章で企業行動の評価について論じる。最後に第8 章でグローバルネットワークによって変わる企業行動および世界の調和,地球環境に言及している。

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第2 章グローバルネットワークと企業環境

1 .企業内環境

 企業のグローバル化は,支社や事業部の海外進出に続いて行われる。特に海外における製造・販売拠点の布石が完了し,子会社が成長した後,世界的視野に立った活動がなされる。ここでは,各国子会社で重複する活動を同期・調整したり,製造品目を整理して専門的な活動を実施させ,規模の経済をいかして費用の節減を目指すものが多い。また,世界共通の宣伝コピーの使用や販売促進手段の利用がマーケティング費用の節約だけでなく会社イメージの統一に役立つことにもなる。さらに,資本調達の管理を一本化することによる合理化も考えられる。[A-1]

 グローバルネットワークに即した企業内環境を構築することが,企業活動の効率性,柔軟性に多大な影響を及ぼすこととなる。しかし,企業を受け入れるそのような環境は各国各様で,文化・風土も違えば,各子会社ごとの発展の度合いも異なってくる[A-2]。このような状況下で企業組織すなわち企業内環境をどのように整備していくかが重要となる。

(1)組織(情報資源)のグローバル化
 グローバルネットワークを構築する際に,その血管となる部分が情報伝達網となる。情報伝達網に情報が流れることで,物理的に遠く離れた組織間がつながれる。また,世界各国に広がる組織内に対して迅速に情報を流すことが要求される。情報の流れが,管理の流れに置き換えることができ,組織の形態とみなされる。以下に,国際化からグローバル化に変化していく情報の流れ(組織の形態)を示す。

@垂直型
 国際化の段階における情報の流れは,図のような垂直型として表される。この形態2-1は,初期の段階で多く見受けられる。管理の面では,本社に決定権があり,各海外支社が本社に意向を尋ねる.情報は本社に集中し,海外支社同士の情報交換は行われていない。主要な機能は本社に残されている。

図2‐1 垂直型


A水平型
 グローバル化においては,図2-1のような本社と各海外支社が支配・従属の関係から発展していくことでネットワークが構築されていく。ここでは,各地域,各国の需要や文化の特性に応じた組織が要求され,現地化が進められる。現地のスタッフを増やし,現地での部品調達などの割合を増やす。そうして,意思決定の多くの部分が海外支社に任されるようになる。各支社は本社を介して情報網が結ばれ,本社との関係も独立性が高くなるにつれて,従属から共同に変わってくる。この関係は図2-2に示される。

図2‐2 水平型

Bネットワーク型
 国際化から現地化を遂げ,海外支社が個々に活動を行える体制になった後,ネットワーク型への移行がなされる。支社単位で効率化を図るより,グループ全体で効率化を行った方が有利なためである。これらの統合化においては,情報の流れ,組織の形態は,垂直型に戻るのではなく,図2-3に示されるようなネットワーク型となる。ここでは,支社間の情報伝達も活発となり,意思決定も共同活動の中で行われる。また,意思決定の機関も本社に限定するのではなく,材料調達,資金調達,製造計画など機能で分担したり,地域別に小集団を構成して,各集団単位で効率化を進める。

図2‐3 ネットワーク型

 必要な機能,能力はグループ内でそれらを持つものから得る。そうして,補完的な関係を作り,ネットワーク全体で一つの有機体にしていく。重複している機能は統合し,足らない機能は共同で利用する。この形態によって効率性の高い組織が構築される。


(2)柔軟性を兼ね備えた組織


 海外に拠点を進出させる国際化の段階から,現地化の動きを経て,ネットワーク型の共同活動が可能な組織となる。しかし,ネットワーク型になれば,全て効率的になるというわけではない。


 一旦,現地化が行われた海外支社は,当然のことながら,自社の利益を追求する1 企業体として独立しているこの点が組織の強みとなると同時に弱点ともなるすなわち各支社単位で意思決定が行えるようになったことから,グループ全体の効率性より,個々の利益を優先する結果となりやすい。そのため,ある程度の管理を本社が行う必要が出てくる。しかし,この管理が厳密に行われると,組織間の相互協力が行われにくくなる。

 クリストファ・バートレット等[A-2]は,この点について次のように述べている。
 「グローバル企業は,中央に集約された資源と能力を活用し,すべての活動において潜在的な規模の経済性を実現することによって高い効率を実現する。しかし,このような組織では,各国の海外支社が資源と責任を欠くことから,各国の市場ごとに存在するニーズに応えるための動機と能力が開発されない可能性がある。同様に,知識と技能を集中することにより,これらのグローバル企業は革新的な新製品やプロセスを開発してマネジメントしていく際に,高度な効率を達成し得る。しかし,本社の各グループは本国市場以外の海外市場に存在するニーズや製造の現状について十分に理解できないことが多い。その海外支社には十分な資源が備わっておらず,その経営に限定された役割しか任されていないことからグローバル企業は本国以外の各国に存在する学習の機会を生かすことができないこれらの問題こそグローバル企業がその世界規模の効率という切り札を犠牲にしない限り,克服し難い問題なのだ」。

 バートレットは,グローバルな組織について「企業家精神をもった組織の集まり」が,望ましいとしている。これは,グローバル化を進める上で,権力分化,機能分化は必然的に起こるものであり,これらの分化が進んだ後で統合化を行うことが困難な状況を踏まえている。個々の組織が独立した状態で共存共栄を模索することが組織全体の柔軟性,収益性につながると考えられる。

(3)グループウェア

 情報網を利用する際の環境も変化しつつある。個人がグローバルネットワーク環境で利用する道具として代表的なものがグループウェアといわれている。従来,ワープロ,表計算などが同時に使用できなかったものがコンピュータの処理能力が向上して,を搭載したが登場した。そして,様々なアGUI(Graphical User Interface) OS(Operating System)プリケーションが同時に使用できるようになった。これらのアプリケーションに加えOS,て,さらに電子メール,稟議書類などのコミュニケーション手段ならびに個々のアプリケーション環境統一を図っている。
 グループウェアはネットワーク上で利用され,遠隔地との情報交換,電子会議などを実現させている。

2 .企業間環境

 グローバルネットワークによって企業内の組織が大きく変わっている。これと同時に,自社以外の企業との関わりにも変化が起こっている。アウトソーシングなどの効率的な組織構成により,製品の製造においても,部品製造,部品輸送,組立加工,製品配送などのいくつかの部門で外部組織の協力を得ているケースが増えている。これらの補助的な組織もグローバルネットワーク上に存在することで,従来の下請企業のように完全な支配下のものではなくなっている。そのため,複数の企業・組織といかにして共存共栄するかが今後の課題となっている。製品の製造には,多種多様な材料,部品,労力が必要となる。特に,グローバルネットワーク上では,調達拠点,製造拠点,販売拠点の設定によって,大きく費用が異なってくる。国別による生産能力や供給能力の違いや,市場の大きさの違いを十分考慮しなければならない。さらに,各国のもつ政治情勢や潜在的能力,市場の違いをも把握しなければならない。そして,製品コストの低減だけでなく,グローバルネットワーク全体が発展するような分担,配分が望まれる。

3 .グローバルネットワークでの企業環境変化の事例

(1)自動車産業

 わが国の自動車産業は,戦後飛躍的に成長した。その結果,輸出に大きく依存する形となり輸出規制を受けるに致ったそこで自動車メーカは生産拠点の海外進出を始めた折しも1985年から円高が深刻化し,価格競争力が落ちたわが国の自動車メーカは,海外市場への進出,現地生産,現地調達,現地での開発,販売提携などの新たな企業関係を構築しなければならない局面となった。

 A 社は,この状況下で「現地主義」を掲げて,@ヒトの現地化,Aモノの現地化,Bカネの現地化,C経営の現地化を目指した[A-3]。ここで「ヒトの現地化」とは,現地人,の採用,育成を意味する「モノの現地化」は,現地のニーズに応えた製品の開発,材料調達の現地化を意味する「カネの現地化」は,利益の供与を現地中心とし,現地の雇用増大経済効果を狙うものといえるそして経営の 現地化は経営陣の現地化を行い単なる国際進出を超えて,新たな組織を創造する。
以上の主義の下,世界の各エリアにおいて,新たな企業群を作り上げ,現地の発展に寄与している。
 ただし,ここでも完全な分離分割がなされているわけではなく,必要に応じて開発拠点間の技術供与,技術協力がなされており,柔軟な組織形態となっている。

(2)電気機器産業

 電気機器産業においても自動車産業と同様に海外進出がなされている。電気機器産業において特に注目されるのは,広範な情報ネットワークによる開発とコスト管理で伝達し,技術面での市場優位を得るために迅速に製造する。世界中に点在する優秀な人材が,情報ネットワーク中で協同,協調作業を行うことで,相乗効果を上げ,世界をまたにかけた研究組織の構築がなされている。
 また,製造面では,徹底したコスト低減を図る。などの自動化技FA(Factory Automation)術の進展から,グローバルネットワークにおいて製造技術の複製が容易になっている。どの拠点においても同じ品質の製造が行えることから,調達材料の費用低減,人件費の費用低減を徹底的に考慮することができる。


 引用文献
[A-1] 田中拓男著:日本企業のグローバル政策,中央経済社,1991.

[A-2] C.A. Bartlett, S. Ghoshal MBA 「」著:のグローバル経営,日本能率協会マネジメントセンター,.1998
[A-3]寺本義也,宮下幸一,神田良,岩崎尚人,山口哲朗著:「日本企業のグローバル・ネットワーク戦略」,東洋経済新報社,1990.

 参考文献
[B-1] D.A. Heenan, H.V. Perlmutter著: 「グローバル組織開発」,文眞堂,. 1990
[B-2] 井上隆一郎著:「グローバル企業の盛衰」,ダイヤモンド社,1993.
[B-3]石川昭著:「グローバル情報ネットワーク 」,日刊工業新聞社, 1992.
[B-4]田中拓男著:「日本企業のグローバル政策」,中央経済社, 1991.
[B-5]吉原英樹,林吉郎,安室憲一著: 「日本企業のグローバル経営」,1991.

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第3 章グローバルネットワークと企業戦略

1 .企業戦略とその変遷

 近代の企業経営においては必ず経営方針が存在しており企業行動のもとになっている。この経営方針は次の3 つの要素から構成されている[A-1]。第1 番目は経営基本方針であり,経営体の存在意義を示しており経営理念とも呼ばれている。これは,その経営体の持っている使命や進むべき方向,存在価値となる。一般には,社会に貢献することを唱った内容のものが多く,恒久的といえる。2 番目は,経営実践方針であり,経営理念を達成するための手段を示している。例えば「より良い品質のものを,より安くより良いサービスで社会に提供する」といった内容のものであり,これも不変といえる。この実践方針を達成する方法論が経営戦略であり,その具現化したものが経営計画となる。さらに3 番目としては,経営運営方針があげられる。これは経営目標ともいわれ,経営戦略や経営計画を達成するための年次計画のことである。この計画は,中・短期経営計画もしくは事業計画のことである。経営運営方針は,経営基本方針や経営実践方針とは異なり,環境の変化に対応している。

 このような経営戦略に対して経営情報システムは,2 種類の役割を持っている。ひとつは,市場の環境や変化を意思決定者に迅速に伝えることにある。この情報に基づいて意思決定者は,製品の供給量を決定する。すなわち,意思決定支援システム的な役割となる。もう一方は,製品を市場により多く,もしくは付加価値を高めて供給するための仕組みであり戦略情報システム的な役割を持っている企業競争が激化している現代においては経営情報システムにはこの2 種類の機能が必要とされている。

 また企業戦略はその経営環境の変化に応じて変化している従来の企業戦略の基本は囲い込みといわれる戦略であった[A-2]。これは,多くの経営資源を確保し,その使用効率を高める考え方である。すなわち,原材料の確保から販売チャネルにいたるまでを専用に持つことで他社を排除し,競争優位を高める戦略といえる。このなかには,人材の長期的な確保も含まれている。この戦略は,1900年代に大量生産・販売方式が確立されたことがきっかけとなっている。必要な経営資源をすべて自社内に確保することで,より安く市場に製品を安定して供給できるからであるこれはフォードシステムともいわれている当時は,今ほど物質的に恵まれておらず需要が急激に伸びていたことが,この戦略を支えていた。この後,市場に他種類の製品が供給され豊かな社会になり需要の成長が鈍くなると,需要に応じて製品を供給するプロダクト・アウトの考え方が浸透した。しかし,それでも囲い込みは製造業の基本戦略となっていた。

 ところが今日のように多くの製品の成熟期になると多くの経営資源を維持することが企業の負担になる。そこで,新しい仕組みづくりが不可欠となった。まずは,市場のライフサイクルの短命化に対応するために,製品の開発から生産・流通までのサイクルを同時並行的に進めることでその短縮化を図るコンカレント・エンジニアリングであるそして効率の悪い資源を他社にまかせることで,多くの経営資源を待ちすぎないためのアウトソーシングが不可欠となる。この2 つが1994年頃話題となったリエンジニアリングの柱になっていたと考えられる。これらの戦略をすすめるためには,情報機器のプロトコルなどの標準化が必要となりの考え方が浸透した。また,最近でCALS(Commerce At Light Speed)は,サプライチェーンといわれる経営戦略もある。次節以降では,それぞれの考え方について事例をまじえて概説する。

2 .コンカレント・エンジニアリングと企業戦略


 大量生産・販売システムにおいては,1 つの製品のライフサイクルが終わりに近づくにつれて販売単価を下げていくことで需要の喚起を行い,デッドストックを減少させる方式をとっていた。しかし,今日のようにライフサイクルが短命化すれば企業は十分な収益を得ることができなくなってきた。そこで,製品の開発・設計の期間を短縮することで市場の要求を満たす製品を供給する必要がでてきた。また,従来のシステムは,
@部門中心であったために部門の引継過程にロスが生じたり,
A請負的な製品開発業務のために製品の性能・機能追求が中心となったり,
Bベテランのノウハウと部分的なCAD(Computer Aided Design) に頼っていたためにスタッフ全員の総合力が発揮できずに工数がかかったり,
C図面中心のために図面ができるまで製造や販売の準備ができず待ち時間の発生が指摘されていた[A-3]。
さらに,製品の設計・開発段階で原価のほとんどが決定されてしまうために,この段階で製造技術者とのすりあわせも大変重要である。そこで,時系列的に仕事が部門間を移動していく仕組みを同時並列的に処理する仕組みにかわった。これがコンカレント・エンジニアリングである。

 例えばB社では,図3-1のように設計開発のながれを変えた[A-4]。図に示されるとおり製品企画はマーケティング担当者が主導で進められるが,開発・品質保証・製造・販売サービス担当者も参加して完成させる。これは,企画段階で製品のほとんどが決まってしまうのが現状だからである。すなわち,これ以降に設計をかえることになると大きな手戻りが発生することになる。さらに,コンカレント・エンジニアリングをうまく運用するためには,グループウェアのツールが不可欠となる。

 このコンカレント・エンジニアリングは,1986 年によりIDA(Institute for Defense Analyses)次のように定義されている[A-5]。コンカレントとは,製品およびそれにかかわる製造やサポートを含んだ工程に対し,統合されたコンカレントな設計を行おうとするシステマチックなアプローチである。このアプローチは,品質,コスト,スケジュール,ユーザの要求を含む,概念から廃棄に至るまでのプロダクト・ライフサイクルのすべての要素を,開発者に最初から考慮させるよう意図されている。


 コンカレント・エンジニアリングは,様々な業種に広がっている。例えば,ノート型パソコン,磁気テープ等,最先端のOA(Office Automation)機器と関連ソフトウェアの開発・製造・販売を一貫して行うグループ会社の自主独立会社の一つであるC社で導入されている。主要製品のノート型パソコンが近年では非常にライフサイクルが短期化しているために,顧客ニーズを先取りした新製品をタイミング良く市場に提供する必要がある。従来は,製品企画をグループ本社が担当し,開発・設計や試作の評価といった基本設計を本社事業部で行った後に,本社事業所とが打ち合わせを行う形態をとっていた。そのために,最終的な決定まで3 ヶ月かかることもあり,新製品の開発から量産開始までの期間は8 ヶ月かかっていた。そこで,開発・設計の大半を本社事業所に移行し,CADの導入により構造設計等を同時並行作業とすることで3 ヶ月半まで短縮することができた。また,コンピュータシミュレーションにより試作品を作る手間も省けるようになった。さらに,設計者が開発段階から原価管理に加わることにより,コストの低減を行うことを可能にした。
この事例については,次章で詳述する。



図3‐1 コンカレント・マネジメント


3 .アウトソーシングと企業戦略

 アウトソーシングとは「従来,内部で調達していた人,物,金,情報等の経営資源を, コスト低減のため外部からの調達に切り替える戦略」と定義できる。今日のように,物質 的に豊かになった社会において顧客満足競争を行うためには,一つの企業が必要な経営資 源のすべてを確保して顧客の満足度を高めていくことは,もはや不可能になってきたとい える。IBM社をして「自らが開発し,自らが生産したものを,自らが売るという時代は 終わった」といわしめている[A-6] 。すなわち,顧客満足を目的として,よりビジネスライクに相互補完を図ることが必要な経営環境になりつつあるといえる。これは,従来の戦 略が垂直統合を図り自社のシェアを高めて市場でのスケールメリットを図っていたのに対 して,横のつながりを強化することで自社の中核業務に経営資源を集中的に投入し回転率 を高める新しい経営パラダイムとも考えられる。

  このアウトソーシングを積極的に活用した経営がオープン型経営[A-2]といわれている。 これは(1)外部との取引に標準インターフェイスを採用することにより他企業との連携 がしやすい体制を作った上で,(2)提供商品を絞って主たる事業領域に資源を集中的に投入し,(3)自社事業領域内でも自社が必ずしも得意としない部分は積極的に他企業に補完 させながら最終需要を満たしていく経営戦略」といえる。しかし,我が国におけるこのパ ラダイム転換には,囲い込み型の経営が日本に繁栄をもたらしてきたという成功体験や, 特に雇用調整を伴うことも指摘されている。また,情報システムの世界的な標準化が必要 になると考えられる。さらに,企業の評価についても新しい考え方が必要となる。


 このアウトソーシングを実践している企業として,金型部品の販売を行っているD社 がある[A-2]。D社では,社内に経営資源を持たず外部の資源を極力活用する方針をとっ ている。もともと商社であるから生産ラインは存在せず,物流は宅配を使用し,情報システムまでもE社にアウトソーシングしている。この結果,1971年に従業員42名の小企業 が1994年には東証2 部へ上場するほどの成長ぶりである。1993年の3 月期には売上高2,176千万円で売上高営業利益率は9 %の成果を残している。

4 .CALSと企業戦略

 継続的調達とライフサイクル支援と和訳されるCALSは,紙による調達と運用の情報をデジタル化して,自動化し,統合化し,併せて業務の改善を達成する米国国防総省と米国産業界の戦略である。CALS運動はネットワークを通しての製品データの作成,貯蔵,使用に重点がおかれているこの運動によってシステムサブシステム間のデータの統合,交換アクセスを用意にし技術重複をなくすことを目的としている[A-7]。 CALSによってデータは一度つくられ,製品のライフサイクルの間,幾度も使われるのである。この他にも多くの定義があるが,我が国においては通産省が提唱する通り,生産・調達・運用支援統合情報システムと訳したり,Commerce At Light Speed( 高速電子商取引)の略とすることが相応しいと考えられる。[A-8]

 軍事目的から始まったCALSではあるが,商用目的では電子データ取引システムによって世界規模の共同企業体を実現し,ペーパレスでリアルタイムに仕事ができるようにすることを目的としている。そして,商品の開発から運用サービスにおける図面,マニュアル等の商品のライフサイクル中に必要な情報をデジタル化してリードタイムの短縮,コストの低減,品質向上などを同時に実現しようとしている。[A-9]。

 この考え方は情報システムを含んだ世界的な標準化運動であると考えることもできる。そして,1980年代後半の CIM(Computer Integrated Manufacturing)や前述のコンカレント・エンジニアリング,アウトソーシング等の概念を取り入れられている。

F社では, 550機のボーイング747を世界中で使用している。これらの機体のメンテナンスには,15億ドルが必要である。また,メンテナンスのマニュアルが紙なので膨大なドキュメントになっている。そこで,F社は4,000万ドルを投入してCALSを導入して電 子データ化することを試みている [A-9]。これにより,保守部品在庫数を 10億ドルから2億ドル以下に低減すると同時に,1 日あたりの補修機数を30機から5 機に減らし1 日あたり21万ドルの経費節減を目指している。このように,デジタル情報化と情報システムの標準化は経営の効率化に大きな効果を示す。

5 .サプライチェーン・マネジメントと企業戦略

 低迷を続ける日本経済において,その日本的経営の問題点として,次の点が指摘されている。[A-10]

(1)売上高追求中心の経営は,資産効率,キャッシュフローの悪化を招いている。
(2)含み資産を活用した借金依存の拡大経営が破綻している。
(3)横並びの総合化は,経営資源の分散,事業特性にあわないマネジメントを生み,世界的な競争を低下させている。
(4)かつては強さを生んだ垂直的統合は,閉ざされた競争の中でたくましさを失い,世界大競争を勝ち抜いてきた独立独歩のグローバル企業との競争に敗退を始めている。
(5)かつての成長の原動力であった,事業部制による社内競争が,事業部ごとの特殊性,閉鎖性を生み,顧客とサプライヤーとのオープンなシステム構造の構築を阻害している。

 そこで,キャッシュフローを向上させるアプローチが必要となる。すなわち,事業分野の選択と経営資源の集中,戦略的な設備投資が不可欠である。しかし,経営のオペレーショナル部分では在庫量を削減しビジネス全体のリードタイムの短縮化が不可欠である。これを実現するのがサプライチェーン・マネジメント(Supply Chain Management; SCM)である[A-10]。具体的なアプローチとして,次の点が重要である。

(1)連続するサプライチェーンを同期化させてスループットを高める。
(2)サプライチェーン全体の中でボトルネックを発見して重点的にアプローチする。
(3)需要の動向をいち早く読み,その動向に対して柔軟に対応する。
(4)サプライチェーン全体の経営資源の能力を平準化し過剰能力を最小化する。
 すなわちサプライチェーン・マネジメントは,従来のロジスティックスやトータル物流とは異なり,生産・物流・販売を統合する収益性のマネジメントであり収益構造全体を対象としている。さらに長期的・戦略的な観点からは,工場のロケーション,集中化・分散化という政策課題にも原価と物流費のトータルコストを最小化する観点からアプローチする必要がある。さらに,リードタイムの短縮化による事業機会の増大,スループット増大による売り上げ増大が重要視される。[A-11]

 このサプライチェーン・マネジメントへの企業からの期待は,そのパッケージソフトの市場規模の拡大で理解できる。この背景には,次のような成果が公表されているからである[A-11]。キャタピラー社では,スループットが1 日350台から550台となり仕掛品在庫は50%削減され,リードタイムは40日から12日になった。ティムケン社では,利益率が2 %から4 %となり,プランニングパワーに関しては10人の削減となったといわれている。ダノン社では,18週間で在庫回転率が30%向上している。ワーナー・ランバート 社においては,サプライチェーン・コストが2,200,000ドル削減され,受注充足率99%まで向上した。モトローラ社では納期達成率が60%から90%になった。このように海外では,画期的な数字を残している。

 現代の情報技術の進展,すなわちコンピュータの処理速度の飛躍的な向上と通信技術のめざましい発達は,管理技術の水準を大きく変化させるに至っている。MIS(Management Information System)時代のシステムエンジニアの理想がいよいよい実現する時代に至っている。これからは,より創造的な企業戦略の立案とその実現が企業行動に課せられている。

6 .顧客満足から顧客価値の戦略経営へ

 ここで顧客満足(Customer Satisfaction : CS)と顧客価値の違いについて3 つの段階に分類して説明する。

図3‐2 「顧客3段階」

 

図3-2からも理解できるように,

 第1 は顧客軽視の段階である.これは一方的に押し付けるものである。上下関係の官僚的組織,横並び事後的対応,補助金待ちの体質のため顧客よりも上司を見て仕事をしている。それは,いわゆる無関心,冷淡,恩着せがましさ,規制ずくめ,タライ回し,長時間待ち,等で代表される「経営不在」の段階である。

 一般的に企業よりも官公庁病院大学などがこの段階であるが程度の差こそあれ「顧客第一主義」を目的とする企業もその担当部署だけ,当該期間だけで,まだこの段階の企業(事業)が調査の結果からみても多いようである。

 第2 は顧客満足の段階である。これは1980年代に「CS運動」で始まり,お客様相談室などを設置して受け身(事後的)ではあるが部分的に対応してきた。その後「CS戦略」の時期に入り,かなり積極的に全社的に取り組む企業(事業)も出てきて現在はこの段階である。

 しかし,その多くは企業からのマーケティング戦略活動の一環として一方向的であり,CS部やマーケティング部が担当するため,どうしても部分的になっている。その対象は既存の顧客を中心とする経営である。一方で,近年マーケティングも概念を拡大・変化していることも事実である。タテマエとしては認識しているが,その実践としての「深さ」「広さ「長さ」に課題が残る。」

 第3 が顧客価値の段階である。ここでの視点は,全体的な戦略経営の枠組みにおける質の経営および価値に焦点があてられ顧客とは対等で双方向(コラボレーション)の関係性である。そして過去・現在・未来の顧客を対象にし,相互に価値を共有できる重点顧客に焦点を当てるのがその特徴である。これらの顧客が評価する価値やクオリティの変化に対応して全体的な戦略経営で対応し,トップやそれに相当する部署が担当することになる。そこで重要なことは,経営環境全体のバランスの中で対応するため,出資者,社員(働く人,地域社会,自然環境等にも良い結果を生むということである。)


 ここで顧客満足と顧客価値の違いの一例をモデルで説明する。今日までの「顧客満足」のモデルはサービスも含めて程度の差はあれ製造業を中心としたモデルであった。そこでの価値製造の流れは「連鎖型付加価値」であり川上から川下へと流れていく。それはまさに組み立てラインを代表するモデルである。個人,部門,企業全体は,このモデルにそって配置された相対的な地位をもっている。このモデルは,現実に対して線形型,一方向型,逐次型の特徴をもっている。また,価値は実際に「創造される」のではなくて,ステップを踏んで「付加される」だけである。

 それに対して「顧客価値」は,現在,情報通信技術(マイクロ・プロセッシング技術)と,その関連技術やそれらが触媒による社会変貌に代表されるように,価値を創造するためのいくつかの新しい選択肢を持っている。

 つまりそれは「並行型」「同時進行型」「分布型」「協同加工型」「共同生産型」という形容詞に象徴されるネットワークやコラボレーションやインターラクティブ等の一連のキーワードが,今日までの戦略モデルに固有だった時間,空間,インターフェース,役割にまつわる制約を中央突破する新しい可能性を示しているのである[A-12]。

 引用文献
[A-1]栗山仙之助著:「総合経営情報システム研究」,日本経営協会総合研究所,1995.
[A-2]國領二郎著:「オープン・ネットワーク経営」,日本経済出版社,1995.
[A-3]鈴木歳夫著:「コンカレントエンジニアリングの進め方」,日本能率協会マネジメントセンター,1992.
[A-4] 斉藤実著:「実践コンカレントエンジニアリング」,工業調査会,1993.
[A-5] D. Eカーター、B. S.ベーカー著:「コンカレントエンジニアリング」,日本能率協会.マネジメントセンター,1992.
[A-6]高桑郁太郎著:バーチャル・コーポレーション・マネジメントダイアモンド社1994.
[A-7] 水田浩編著:「CALSの可能性」,生産性出版, 1995.

[A-8]栗山仙之助:“新情報化時代における経営システム,オフィス・オートメーション”,Vol.16, No.4-1, pp.29-33 1995.
[A-9]根津和雄著:「CALS成功の条件」,工業調査会,1995.
[A-10] 福島美明著:「サプライチェーン経営革命」,日本経済新聞社, 1998.
[A-11] 今岡善次郎著:「サプライチェーンマネジメント」,工業調査会,. 1998.
[A-12]R.ノルマン, R.ラミレス(中村元一・崔大龍訳「ネットワーク型価値創造企業の時代」,産能大学出版部,1996 .

参考文献
[B-1] 岡本豊訳: 「セムラーイズム」,新潮社,.1994
[B-2]横澤利昌編「顧客価値経営」,生産性出版,. 1998

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第4 章グローバルネットワークと新しい経営モデル

1 .従来の経営モデル

 製造・販売業における経営という概念は,経営目的を達成するために資金や労働力,原 材料,機械,設備などの諸要素を調達し,これらを結合して製造を行い,製品を販売して いく一連の諸活動である。そして,経営体はそれを継続して統一的に営む組織体といえる[A-1] 。経営活動において,マネジメントは中枢的分野を占めるものであり,これまでに もいくつかの経営モデルを用いて,マネジメントの観点から経営環境変化への適応や経営 の効率化が行われてきた。

 20世紀初期,フォードシステムの出現によって少品種大量生産が可能となり,高品質 で安価な工業製品が大量に市場へ供給されるようになった。しかし,それ以後市場の成熟 化に伴い,顧客のニーズは多様化し,生産システムは多品種少量生産を要求されることに なる。このため少品種大量生産ゆえに可能であった製品の低コスト,高流動生産の両立が 困難となった。そこで多くの企業は,大ロット生産による低コスト化のみを志向すること になる。

 ここではまず,個々の工場内の効率化・最適化をめざした従来型の経営モデルに ついて概観する。 テイラーの科学的管理法を近代的な工場管理の出発点として,工業的な生産活動が効率 的に行われるために,様々な生産管理技術が開発されてきた。そして,フォードによって 開発されたベルトコンベヤによる流れ作業方式(フォード・システム)は「標準化(standardization) 」, 「単純化(simplification) 」,「専門化(specialization)」の3s を志向し,大量生産方式を確立した。しかし,その後,市場の成熟化に伴い顧客のニーズは多様化し,生産システムは多種少量生産を要求されるようになる。

  1960 年代には,米国でコンピュータの使用を前提としたMRP(Material Requirements Planning MRP :資材所要量計画が開発されその考え方は急速に世界中に広まった。MRPは最終製品(Master Production Schedule)に関し基準生産スケジュールをたて,部品展開表(Bill Of Materials)と在庫ファイルInventory Statues File)を用いて素材から完成品までを時間ベースで管理するシステムである。

 さらにその拡張としてはMRPで用いられる情報を生産能力のチェックに適用するCRP(Capacity Requirements Planning)や関連する全部門で利用するMRPII(Manufacturing Resource Planning II)がある。またMRPを流通に応用し,保管費用の低減を可能にしたものがDRP(Distribution Requirements Planning)である。

 1970年代にはイスラエルにおいてOPT(Optimized Production Technology )[B-1]が開発された。OPTとは,ボトルネック工程の利用率最大化を目的とした考え方およびソフトウェアパッケージであり,その詳細なアルゴリズムは非公開である。

 わが国においては,1973年のオイルショック時に日本企業のほとんどが赤字に追い込まれるなか,G社だけは例外であったことから,JIT(Just In Time)生産システムあるいはトヨタ生産方式[B-2]が脚光を浴びることになった。G社でJIT開発,推進されてきた生産システムは,この多種少量生産の条件のもとで低コスト化と高流動性を両立した画期的な生産システムである。

 このJIT生産システムは,近年海外において,トヨタ生産方式の同義語として,あるいはその中核をなすJITを実現するためのかんばん方式として広く使われている。トヨタ生産方式は,徹底的なムダの排除によるコスト低減をめざした生産システムで,その基本理念は平準化を基礎とするJITと自働化である。JITとは,必要な物を,必要な時に,必要 なだけ生産するという理念で,この理念のもとで,大野耐一[B-2]は,後工程引き取り,後補充生産方式を創造し,工程内,工程間で必要な情報を必要なときに伝える手段としてかんばんを創案した。すなわち,いつ,何が,どれだけ必要かが最も早く,正確にわかる後工程が,使った分だけを前工程に引き取りに行き,前工程は引き取られた分だけを生産し,補充するという生産方式である。この時,後工程は前工程から引き取る部品の種類,量が平均化するように生産しなければならない。さらに,JIT生産システムを支える理念として,需要変動に応じて作業者を柔軟に変化させる少人化,作業者自らの提案により継続的な改善活動を進める創意工夫等がある。

 1990年には,米国マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology; MIT) の研究グループによって,JIT生産システムをもとにした,リーン生産システムが提唱された[B-3]。フォード生産システムとの最大の差異は,完成されたシステムなどおおよそこの世には存在しないと考え,地道に漸新的かつ継続的な改善活動をつみかさねるところにある。機械設備は工場にて稼動を始めた途端に陳腐化が始まり,生産された製品は市場に投入された瞬間からもはや新製品ではなくなると考えられる。リーン生産システムの特質は,そのシステムが採用する管理手法や技術手段自体もさることながら,こうした手法や手段を工夫し改善してシステムの漸新的な変化を生み出していくメカニズムの存在に本質があると考えられる。そして,さらに重要なことはその変化を生む仕組み自身も,時間と場所が変われば少しずつ変容を遂げていくし,変化が求められることである。[A-2]

 これまでの経営モデルにおいては,主として各部門ごと(例えば生産工程)の効率化を目指すことに焦点がおかれていた。需要が供給を上回り「作れば売れた」時代には,個々の部門効率が評価されたが,ネットワーク化され,グローバル化した現代の変化の激しい時代においては企業全体としての評価がより重要になる。

2 .新しい経営モデル

 世界各国の経営体は,コスト低減を中心とした事業のリストラクチャリングを進めている。その一方で経営体の体制は,日本,米国,欧州,アジアの4 極化を目指している。すなわち,各地域単位で市場・生産にかかわる情報を収集し,地域単位での戦略計画を立案し,実施することを目指している[A-1]。さらに,インターネットをはじめとする今日の情報通信技術の進展に伴い,距離的に離れた海外に存在する経営体との間で,必要な情報の共有化が容易となった。これにより,従来は国内における経営体のみで十分と考えられていた経営の意思決定から,海外の関連企業をも考慮したトータルな意思決定が要求されるようになった。ここでは,部品調達から製造,物流,販売チェーン全体の最適化をめざした新しい経営モデルとして,前章で述べたサプライチェーン・マネジメント(SCM)を取り上げ,その問題解決アプローチとなる制約条件の理論(Theory of Constraints; TOC)について概説する。

 SCMにおけるサプライチェーンとは,顧客−小売業−卸売業−製造業−部品・資材サプライヤー等の供給活動の連鎖構造を指す。サプライチェーンのダイナミックな最適化のためには,第一に部門の壁,地域の壁を越え,企業活動における情報がリアルタイムに供給されている統合的な業務システムを構築することが重要である。統合的な業務システムの実現に関しては,これまでばらばらであった「購買」「生産」「販売」「会計」等のシステムを「一つのデータベース・アーキテクチャ」をベースとして一元的・体系的に整備したERP(Enterprise Resource Planning)の登場が注目される。さらにこうしたデータベースをもとにして,データウェアハウスを構築することで,今までは,容易でなかった多次元的な視点からのデータ分析が可能となり,市場動向の構造的な把握が可能となった。第二に納期,特定顧客,稼働率,調達可能材料など,種々のプライオリティに応じて,即座に生産・販売・配送計画の調整を可能とする仕組みが必要である。[A-3]

 このSCMをシステムとしてとらえた時「システムの目的(ゴール)達成を阻害する制 約条件を見つけ,それを活用・強化するための経営手法,およびその支援ソフトとしての「SCM製品」のことを制約条件の理論(TOC)という。TOCの源泉となる生産スケジュー リングソフトは,OPTである。OPTの全体成果目標の性能を決めているボトルネックに 着眼するという考え方は,生産スケジューリングに限らず,あらゆる問題の全体最適化に適用できるため,その後二つの方向に進化することになる。一つは「ボトルネック」を,さらに一般的に通用する「制約条件」という用語に置き換えることによって,その適用範囲が,生産全体,マネジメント全般に拡張された。マインドウェアとしてのTOCの誕生であるいま一つはサプライチェーン全体の制約条件を考慮した計画ソフトとしてのSCM製品への進化である。[A-3]

 TOCによれば,通常の営利企業システムの目的である「現在から将来まで金儲けを続ける」ということは,以下の三つの条件を満たせばよい。

(1)スループット(製品を販売することで企業に入ってくるお金,つまり売上高から資材費を引いたもの)を増大させること。
(2)総投資設備や棚卸しといった製品を製造・販売するためにシステムに投資したお金を低減すること。
(3)経費(資材費以外の総経費,つまり固定費)を低減すること。

  TOC ではこれら三つの要素を皆改善しようとするが(1)のスループットが最も重要で次が(2)の総投資低減,最後が(3)固定費低減であるとされている。 [A-4]

 スループットは,企業に流入してくる正味のキャッシュフローとしての売上高から,資 材費を引いたものと定義される。このため,生産力に余裕がある場合にはスループットが プラスである限り(間接費や固定費を案分した標準原価計算ではマイナスであっても,) 売価を下げても受注を増加させることが有利に働く,という従来の標準原価計算では見い だせなかった意思決定を可能にすることである。これはスループット会計と呼ばれる。ス ループットそのものは新しい概念ではなく,管理会計の限界利益に相当する。TOCの貢 献はこの増大を企業の第一のゴールとして制約条件と結びつけたことである受注から 部品調達,製造,納品と経て,入金までの企業活動におけるサプライチェーンを考えた場 合,スループットは最も弱い制約条件の活動に影響されるので,スループット増大のため には,この制約条件を探し当て,それを強化することが唯一の手段となる。[A-3]

3 .ネットワーク活用の企業事例[A-5]

 本節ではネットワークの活用事例として,C社におけるノート型パーソナルコンピュー タ(以下ノートPCと略)開発において,時間競争戦略を基調とするコンカレントエンジ ニアリング(Concurrent Engineering: CE)を導入して顧客満足を向上させる考え方,および イントラネット/エクストラネットを使ったコラボレーションについて紹介する。 C社は1989年のPCノート事業化に当たって,競合他社が先行してPCノートを発売し CE たことに対し,同様のコンセプトで計画していた製品の商品化時期を繰り上げるため を導入,従来8 カ月要していた開発期間を3.5カ月に短縮し,この分野でのシェアを奪回 することに成功した。 CEは製品設計と生産,保守等の関連プロセスを同時に展開するためのアプローチで, 特に開発初期段階を重視している。製品の大半の特性は概要設計で決まってしまうためで あり,この段階で製品ライフサイクル全体を考慮し,また,品質の上でも後戻りを避け, 設計・製造コスト等を最小限に抑えることが可能になる。

  C社が実践しているCEは「システム」「組織」「支援技術」の3 つに体系化できる 近年は製品のライフサイクルが短命化しており“最初から良い製品を,より速く市場に, 提供する”ことが,益々重要になってきている。そこでC社ではCEについて3 区分 14 要素に整理・体系化し,Quality(品質),Cost(価格),Delivery(リードタイム)の全体最 適化を図るとともに,CEを時間競争戦略として位置づけ,情報システムを組み込んで最 大限に活用することにより,市場競争における優位性を確保している。

(1)最初から良い製品にする「システム」

 CEを実現するツールとして高品質設計(ロバスト設計)を位置づけている。 C社では 設計の頑健性(ロバストネス),安定性を短期間で実現することに主眼をおき,社内外の 実例をスタディする“ベンチマーキング”とパラメータ設計を実現する“田口メソッド” による設計展開プロセスを構築している。その他,仮想試作により機能試作工程をスキッ プして大幅に開発期間を短縮すると同時に,設計段階でのミスや不具合を外部に流出させ ないため,独自の新評価システムを導入している。

(2)情報の共有化を図る「組織」

 C社では部門横断プロジェクトチームを開発〜生産の基本体制としている。プロジェクC トチームは,プロジェクトマネージャのもとに設計・生産技術・生産管理・資材調達など のキーマンを集め,設計の初期段階から一体となり開発業務を進めていく。これにより以 下のような効果が生み出されている。

@部門間の情報共有化が早い時点で出来る。
A機能別各部門自身のアクションアイテムが明確になり,事前処理が的確に出来る。
Bパラレルデザイン(下流活動を上流活動にフィードバック)が効果的に出来る。
Cチームに商品化プロセスの責任を持たせることにより,意識の高揚が図られる。

 こうした部門横断チームを成功させるには,関連するメンバーが同一場所または近接配 置環境で仕事を進めるCo-Location環境を作り,部門間のコミュニケーションの向上を図 ることが重要となる。CEを実践する上で一番重要なことは情報の共有化であり開発 製造,資材調達,品質管理など,開発プロジェクトに関する情報について全部共有されて いることがCEの基本である。 C社では,従来,物理的に近接配置を行うための大部屋開 発の手法を取り入れて実践してきたが,PC市場の拡大およびPC関連技術の進展に伴い, グローバルにコラボレーションが必要となってきた。すなわち,マイクロプロセッサやオ ペレーティングシステムは米国,メモリなどは日本,プリント基盤等の汎用部品は東南ア ジア・中国といった具合に,それぞれが最先端の技術とノウハウを持ち,かつ,ローコス ト化を可能とするグローバルな分業(適材適所)が必要となってきている。

 C社では,そ れまでの物理的な近接配置からグローバルな仮想Co-Locationを実現するため,製品デー タ管理などのコラボレーション環境を提供するCEWB(CE WorkBench)を導入しており,情 報の共有化に効果を挙げている。CEWBは新製品の開発や既存製品の改良に必要な全ての データを一元管理するための設計・製造統合データベースを構築し,電子メディアと世界 に張り巡らされたネットワークを高度に駆使して商品企画,設計開発,資材購買,生産技 Co-Location CEWB 術製造販売等の各部門で必要な情報を共有する環境を実現している には大きく6 つの機能があり,現在運用されている4 つの機能を以下に紹介する。

  「設計データ管理:各設計パートの進捗状況や各設計パートのインターフェース整合,」 設計変更などの全ての設計データをデータベースとして関係部門が共有し,総合設計の目 標管理を行う。 「設計原価管理:設計時点での製品原価を早い時点から予測し,量産時に目標原価で製」 品が生産されることを可能とする。

  「部品情報検索:ノートPC に使用する部品に関する機能,性能,品質,コストなどの」 情報検索により,部品調達や代替部品の選定などの業務を支援する。 「設計品質情報管理:設計完了後の評価に加え,設計段階での評価を組織的に行い,そ」 こで検出したミスをデータベース化することによって再発防止に役立てている。 このデータベースはC社だけでなく,その本社や兄弟会社等グループ各部門から構築 され,それぞれが必要な情報を共有・活用している。

(3)強力なツールとなる「支援技術」

 上述した組織編成などの属人的要素でかなり改善が可能となるが,さらに支援技術を加 えることでシステム全体の完成度を高くしている。特にCADの活用が重要であり,C社 の場合,構造設計等の全分野で活用しており,その効果は絶大となっている。 CEの本質は開発から製造に至る過程を如何に短く,また,最初からパーフェクトにす るかということを関係各部門のコラボレーションにより実現するものであるこれにより ユーザが真に欲するものを欲する時に提供することで,CSの向上を図るのが目的である といえる。C社における事例は,これまでの技術を見事に整理,体系化して応用しやすい ネットワーク活用型経営システムを構築したものといえよう。


引用文献
[A-1]栗山仙之助著:「総合経営情報システム研究」,日本能率協会総合研究所, 1995.
[A-2]小林靖雄編著:「企業の国際化と経営」,同友館, 1994.
[A-3]ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部編:「サプライチェーン理論と戦略−部分最適から「全体最適」の追求へ−」,1998.

[A-4] 稲垣公夫著:「TOC 革命制約条件の理論」日本能率協会マネジメントセンター1997.
[A-5]益津力:“「エクストラネットによる競争優位の確立」,ネットワーク社会と企業行動資料集“,企業行動研究連絡委員会シンポジウム,pp.9-13 1998.

参考文献
[B-1] E.M. Goldratt and Jeff Cox:「The Goal」 North River Press Inc.1992
[B-2] 大野耐一著:「トヨタ生産方式」,ダイヤモンド社,1978.
[B-3]ジェームズ・P ・ウオマック,ダニエル・ルース,ダニエル・T ・ジョーンズ(沢田博訳):リーン生産方式が世界の自動車産業をこう変える」,経済界,1990.

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第5 章グローバルネットワーク社会における企業組織

1 .技術発展の転換と競争形態の変化

 近年の科学技術の発展は,バイオ・テクノロジー,新素材,情報通信などの分野にみら れるように境界領域研究や分野の融合化・複合化によってもたらされ,技術発展の多様化 傾向が増幅している点に大きな特徴がある。このような状況変化に対応するために,企業 は戦略的提携によって組織される共同開発研究プロジェクトを重視している。さまざまな 産業分野においても,多くの企業がグローバルな規模で共同開発プロジェクトや技術提携 を戦略的に行っている。

 ところで,企業の戦略的提携によるグローバルな規模での共同開発プロジェクトや技術 提携の基礎には情報通信技術の発展がある。情報通信技術は,多数の要素を同時に管理す ることを可能にし,またそれぞれの要素の関係をより多面的に捉えることを可能にしてい る。今日,それぞれの分野において高度な研究開発能力をもつ企業は多数存在するが,情 報通信ネットワークによって,各企業は産業分野を越えてゆるやかに連結し,一方では相 互に他社の研究開発能力に依存しつつ固定資産やリスクの分散を行い,他方では各企業の活動をジャスト・イン・タイムで調整することができるようになった。グローバルな規模 で形成される共同開発プロジェクトや技術提携は,このような情報通信技術によって支え られており,さらに情報通信技術によって技術発展の多様性が増幅されてしているといっても過言ではない。

 企業の戦略的提携によって企業間関係のネットワーク化が今後着実に進展していくもの と仮定すると,企業の組織構造にも影響が出てくる。アルベール・ブレッサン[A-1]によ れば,企業間関係のネットワーク化が進展するような環境のもとでは,企業資産を,中核 資産,共有資産,結合資産に分類すべきであると主張されている。中核資産とは,企業が その戦略面および組織面の両方からコントロールできる資産であり,特定企業の私的所有下にある資産である。これに対して共有資産は,企業の組織境界の外にあるが,ある程度 戦略的なコントロールができる資産であり,結合資産は,企業の組織的なコントロールの 下にあるが,他の経済主体の戦略的コントロールの下におくこともできる資産である。

 今日進行している企業の戦略的提携は,合弁事業,技術協力,OEM (Original Equipment Manufacture :相手先ブランドによる生産),共同研究開発など多様で複雑な企業間関係を グローバルに形成させることになった。ブレッサンによる企業資産に関する定義を用いる ならば,それぞれの企業は結合資産および共有資産という間企業的領域(グレイゾーン) を自己に有利なかたちで組織することによって,地域的特異性をもつ複数の市場環境と技 術発展の多様性に柔軟に対応しようとしている〔A-1〕。さらに企業相互の利点を連結して リスクとコストを分散しながらイノベーションの連鎖反応を組織することが可能になる。

 つまり企業間ネットワークの複合化が進展すると,各企業の競争力は既存の市場環境を前 提にした市場競争よりも共有資産,結合資産という間企業的領域を自分に有利になるよう に組織することに大きく依存するようになる。自律分散協調ゲーム論的とでも形容すべき状況である。 ここで注意すべきは,情報通信技術をはじめとして先端科学技術においてアメリカの企 業が開発した技術がデファクトスタンダード(事実上の技術標準)になっているケースが 多数存在していることである。

 現在,アメリカの企業が開発した技術とその知的所有権を 軸にグローバルな規模での間企業的領域の組織化をめぐる競争が激化しており,企業競争 のあり方は年代に入って急激に変化してきている。1990 かつて日本企業の戦略は,発明よりも改良を重視した研究開発の組織化に力を注ぎ,既 存の製品とその製造工程に改良を加え,より低コストでより高品質の製品を製造し,市場 競争力を強化することにウェイトを置いてきた。それは,1980年代には世界から注目を 浴びたのだが,経済の比重がエネルギーおよび資源集約産業から知識集約型産業へとシフ トするにつれ,その意義を急速に失いつつあるようにみえる。

2 .複合的ネットワークと企業組織

 インフォメーションテクノロジーの驚くべき進歩に端を発した第三次産業革命が,社会 全体にひろく浸透しつつある現在,従来型の経営システムがうまく機能できなくなったの は当然のことである。特にその象徴である階層型組織は,環境の変化に適応できなくて深 刻な問題を露呈している。 これに対する処方として脚光を浴びているのがネットワークの考え方である。その後, ネットワークの考え方は社会のあらゆる領域に浸透してきている。

 最近のインターネット ブームなどはそれを象徴している。 そもそも階層型組織の陳腐化が取り沙汰されるようになった原因は,現在は工業化時代 の終焉と,知識時代の始まりが交錯する時期にあたるからだといわれている。この階層型 組織の基本的な命題は体制の管理と維持であり,環境が変化しても柔軟に対応することが ほとんどできない。規制された上下関係の下では,柔軟な対応など望むべくもないのであ る。 したがって,これを打破するために,プロジェクト組織やマトリックス組織が提案されてきた。

 しかし,体制の基盤の部分は依然として従来のままであるから,せっかくの対応 策も充分には功を奏していないのが現状である。そこで,この行き詰まりに燭光を与えて くれたのがネットワーク思想である。[A-2] 今日,企業競争のあり方が90年代になって大きく変化し,アメリカ系企業の開発した 技術標準を軸にグローバルな規模での企業ネットワークの組織化とネットワーク間競争が 激化している.そして共同研究開発,戦略的提携を自分にとって有利になるように組織す ることがますます重要になっている。そこで,企業間関係のネットワーク化とネットワー クの複合化,および,融合化について考え,そのことによって企業はどのような活動を迫 られるのか考えてみる。

(1)企業内(イントラ)ネットワーク

 企業内ネットワークの主要目的は,同一企業内でエンドユーザーが情報や処理能力を共 有し,日常業務をよりよくコーディネートすることにある。電子ネットワークによって, 顧客についての情報をリアルタイムで伝送・処理・配信することができるようになった。 さらに,工場の間でも双方向通信によって複数の工場を一体化した生産設備として管理す ることができるようになった。

 現在では企業の全体的な競争力は,企業内ネットワークの 展開に依存するようになっている。多くの企業において特定のニーズ(例えば在庫管理や 生産)のために開発された専用ネットワークが次第に相互接続され,統合された企業内ネ ットワークとなりつつある。 グローバルに事業展開している企業の多くは,市場変動に対する柔軟性を強化するとと もに,顧客との取り引き関係をより緊密にし,できるだけ不確実な要因を減らそうとして いる.

 日本の自動車製造企業の製造システムはリーン生産システムと呼ばれ,アメリカ, ヨーロッパ連合のみならず世界各国から注目を集めてきた。この生産システムは,多品種 生産に情報通信技術を活用し,同時に労働生産性と品質の向上も達成し,国際競争力を増 強した生産システムとして世界によく知られている。 リーン生産システムにおける情報システムの大きな特徴をなすのが CIMである。 CIM は,情報通信技術を用いて技術情報や管理情報のフローと資材や部品のフローを迅速に同 期化し,製品開発,部品調達,製造工程,販売などの活動を統合しようとするシステムで ある。これによって外部環境に変化が生じても,そのような事態に柔軟に対応するととも に,取り引き関係をより緊密にすることができる。

(2)企業グループ内(トランス)ネットワーク

 第2 のタイプの企業ネットワークは,企業と部品などの供給者,顧客,提携相手との間 を電子的に結ぶ形態のものである。きわめて詳細なデータ・フローによって顧客と供給者 とのコーディネーションが可能になる。需要変動に対する柔軟性の向上,品質の向上,在 庫や遅延の低減が,主要な目的である。日用雑貨メーカーは,1960年代からコンピュー タとネットワークに莫大な投資を行い,現在では工場,研究所,販売会社,物流拠点,セ ールスマン,小売店を結ぶ物流と情報のネットワークを完成させ,注文から24時間以内 での配達を可能にした。今後の課題としては,ダウンサイジングによる自律分散処理が可 能なネットワークの構築であろう。

 EDI(Electronic Data Interchange)の直接的な効用は,コストの節減とビジネスのスピードア ップだが,その長期的な影響は,供給者,生産者,顧客相互の関係の質的な変化をもたら し,企業グループ内ネットワークは,需要と供給との相互作用を連続的に深めてゆく。そ の結果として企業はつぎのような効用を獲得することができる。

1)ニーズの把握
2)顧客のニーズと生産者の能力との微調整
3)新しい製品開発・販売の市場機会の発見

さらに,取り引きの開始・決済機能が付加されれば,企業グループ内ネットワークが取 り引き用のネットワークになり,事実上の市場になる。この場合,ネットワークの規範的 な側面が重要になる.明確で信頼性の高い運用規範を確立しなければならない。そのよう なネットワークのみが多くの参加者を集めることができる。

(3)企業間(インター)ネットワーク

 企業ネットワークの第3 のタイプは提携や合弁事業などの伝統的な形態のものである 企業間ネットワークが急速に発達した理由の1 つに戦略的な監視(モニタリング)へのニ ーズがある。ビジネス環境を監視(モニター)することによって,海外・国内を問わず, 起こりうる可能性のある変化に対して迅速に対応することができる。多様な関連業種に資 本参加することによって,企業は多額の投資をしなくても市場動向を監視することができ る。ある重要な動向が進展し,影響が現れてくれば,監視のために使われている弱い結合 関係を,資本参加の度合いを強めたり合弁会社を設立すことによって強い結合関係に変え ることができる。もはや閉鎖的な事業体というこれまでの企業概念では,競争に生き残る ことは困難になってきている。

(4)メタ(企業超越)・ネットワーク

 第4 のタイプは,企業活動をとりまく外部環境に影響を与えることを目的としているも のであり,ロビイスト団体は伝統的な形態の1つである。EDIの展開は,技術標準および 規範の開発・普及にとってメタ・ネットワークが重要な役割を果たすことを示している。 上述した4 つのタイプのネットワークは,それぞれまったく異なった起源と目的を持っ ている。前者の2 つはデータ管理を中心とし,後者の2 つは非データ型,戦略的情報を中 心に形成される。

 しかし,4 つのタイプのネットワークは,しだいに融合しつつある。 まず,
(1)企業内ネットワークおよび(2)企業グループ内ネットワークは,主としてデー タ・フローの効率的管理を目的としたものである。
企業グループ内ネットワークと企業内 ネットワークとが接続されると,2 つのタイプのネットワークの間にシナジー効果がみら れ,企業組織の内部と外部の境界がぼやけ,内部組織と供給者または顧客との間に緊密な 結合関係が進展する。

また,(3)企業間ネットワークおよび(4)メタ・ネットワークは,デ ータ・フローではなく,知識や戦略的意思決定の形成を目的に形成される。この2 つのタイプも1 つに融合する傾向がみられる企業間ネットワークおよびメタ・ネットワークは ゲームの規範やルールに影響を与える役割を果す。

  さらに(1) と(2)のネットワークの組み合わせと (3) と(4)のネットワークの組み合わせの間 には相互作用が生じる。戦略的な目的で形成された(3)と (4)のネットワークは,その情報 のフローを管理し,標準化するために,(1) と(2)のネットワークに対する依存度を高め, それに伴い当初はデータ処理を主要目的としていた(1) と(2)のネットワークは戦略的提携 のための基盤をなすようになる。

 このようにして企業間関係のみならず市場のネットワー ク化とその融合化が進展してゆくと,経済活動にとって関係性がきわめて重要なファクタ ーとして立ち現れてくる。そこでは,企業は需要と供給に関連するあらゆる次元を考慮に いれ,そうした関係を自己に有利になるように組織化するために戦略的スキルを生かそう とするようになる。そして流通システムや関係のネットワークの全体が,生産性向上のた めの戦略的ツールになるのである。

 グローバルな規模で情報基盤が整備されてくると企業関係のネットワーク化が進展し ネットワーク間競争はより激しさを増すだろう。それに対応するために企業はグローバル な規模で展開するネットワークの進化を戦略的に取り込んだかたちで積極的にネットワー クに参加しなければならないだろう。その際,留意すべきは,すでに述べたように,情報 通信技術に関してはアメリカの企業が開発した技術がデファクトスタンダードになってい るケースが多数存在しており,アメリカ系企業が開発した技術とその知的所有権を軸にグ 。,ローバルな規模でネットワークの組織化をめぐる競争が激化していることであるさらに これからの競争において,デファクトスタンダードを有し,ネットワークの組織化を推進 するアメリカ系企業の優位が強まる可能性は高いといえる。

 しかし,今後はネットワークの複合化が進展すると思われるのだが,そのような複合的 ネットワークに重複参加することによって,別の可能性も拓けるものと考えることができ る。今後は,複数のネットワークに重複的に参加することによって,技術発展のパラダイ ム転換とネットワーク間競争のプロセスで仮想空間を自己に有利なかたちに組織し,自ら の創造力を増強することが重要になる。

  ここにいう創造性とは,複数の異なった事柄を関係づけ,さらには関係づける様式その ものを変化させる人間活動の特性である。人は誰でも,それぞれ異なった複数の活動領域 をもち,それらの活動領域の情報をそれぞれ特有の仕方で関係づけることによって自らの 活動総体を統合している。そして,複数の活動領域から得られるさまざまな情報を関係づ ける様式によって個性が発現する。

 情報通信技術を有効に利用すれば,さまざまな情報を 関係づけるとともに,関係づける様式を変化させることによって,人間の創造性を伸張さ せることができる。このような人間の創造性こそが,高度な判断能力やコミュニケーショ ン能力の発揮を可能にするのだが,このことは企業にも同様に妥当すると考えている。 もしこのようなことが可能ならば,その企業は新たな技術発展の軌道形成とネットワー ク間競争を自己に有利なかたちに組織することができるだろう。

引用文献
[A-1] アルベールブレッサン著(会津泉訳):「ネットワールド」、東洋経済新報社 ,1991.
[A-2] 田中一成著:「グループウェアマネジメント」,日本実業出版社,1996.

参考文献

[B-1] 野口宏貫隆夫須藤春夫編:「現代情報ネットワーク論」、ミネルヴァ書房 ,1992.
[B-2] J. R.ガルブレイス, D. A.ネサンソン(岸田民樹訳):「経営戦略と組織デザイン」,白桃書房,1989.
[B-3]青木昌彦著: 「日本企業の組織と情報」,東洋経済新報社,1989.
[B-4] http://www.isics.u-tokyo.ac.jp/p-study/sudou1_jp.html
[B-5]M.S.スコット・モートン編「情報技術と企業変革〜 MITから未来企業へのメッセージ〜」,富士通経営研修所,.」1992.

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第6 章グローバル化と企業行動
―国際標準への対応―

1 .デファクトスタンダードと日本的経営

 グローバル経営とは端的にいって世界に認められる経営であるといわれる国際化 グローバル化時代の経営は,一方にとって合理であれ,不合理であれ,一旦お互いがルー ルとして認めてしまうと,それが基本となり,事実上の法律となってしまう。デファクト スタンダードとは,このようなプロセスのもとに形成されるルールを指し「標準化機構, が定める規格の有無とは無関係に,市場競争の結果,事実上市場の大勢を占めるようにな った規格」[A-2]と定義される。

 パソコン世界のデファクトスタンダードは,1981年に発 表されたIBM-PCが打ち出した「パソコン仕様のオープン化」路線に始まる。それに続くPC-AT互換機発表の折りには,IBMが「Technical Reference Personal Computer AT」という技 術資料を公開したものの,ネットワーク時代のコンピュータに必要な接続性を保証する電 気特性や物理特性まで規定したものではなかった。

 そのため実質的にはデジュールスタン ダード(公的規格)の存在しない状況下で,パソコンメーカ,周辺機器メーカ共,市場で 売れている製品との整合性,互換性を取りながら開発を進めるのが常識となった。その結 果,現在のパソコン規格は,デファクトスタンダードを追認してデジュールスタンダード になったものが多い。そのため,デファクトスタンダードを獲得した個々の部品を組み合 わせたり複数の機器を接続したときに問題となるのがパソコン世界に独特の「相性」、「食い合わせ」である。

 今日のようにデジュールスタンダードに先行するデファクトスタンダ ードが望ましくないのかというとそうでもない。コンピュータやその周辺技術が「ユーザ による選択」という洗礼を受けて,今のような標準を獲得していることを考えれば,よし としなければならないのかも知れない。

 デファクトスタンダードの場合,メーカ数社が集 まってある程度固めたものから規格化がス夕ートする。ビデオ規格で繰り広げられたベー タ方式とVHS 式のように必ずしもその時点の製品品質がベストのものが採用されるとは 限らない。なぜならいくら優秀な技術であっても大多数の企業がその技術を実現し,共有 できなければデファクトスタンダードにはなりえない。

 日本的経営の特徴は,「暗黙知(言語化できない体験)」と「形式知(言語化可能な知)」を 常にインタラクティブに補完させ,スパイラルな形で新しい知識を創造してきたところに あるという。中でも特徴的な点は,同質単一民族の間で培われた「暗黙知」に負うところ が大きいといわれる[A-1]。

 いちいち細かく言葉を尽くして説明しなくても,また,文章 化,マニュアル化しなくても暗黙知の領域で通じ合う,いわゆる「あうん」の呼吸というも のである。日本的経営のこの部分は,日本国内ではうまくいったもののグローバル経営が 目指す「世界に認められる経営」にはそのままでは受け入れられなかったようだ。

 東南, アジアを始め,米国でも,一時はこの日本的経営という企業文化移植の試みは成功したよ うにみえたが,どうやらこの「暗黙知」の部分は理解されなかったようだ。そもそもこの 暗黙知については形から入って体得させるという日本的な伝承法であるため説 明ができない「わかってもらえない」という気持ちが日本人側にある。したがって,そ」 ういった企業文化を受け入れる側の違和感と抵抗は想像するに難くない。

 日本的経営の発想は,QCD(Quality,Cost,Delivery),すなわち「品質」「コスト」「納期」の3 つのツボを押さえることであった。そのために現場で発生するデータを巡って繰り広げら れるPDCA (Plan-Do-Check-Action)活動が日本的経営の源泉とも捉えられてきた。そこで は,品質の保証された製品を,所定の場所に必要な数量だけ,許容されるコストとタイミ ングで供給しようという企業内標準化活動があったこの活動はトップダウンという「形式知」とボトムアップという「暗黙知」による伝承を通じて,現在の日本における高度信 頼社会を築き上げてきたといえる。

 ところが,経営のグローバル化とそれによる企業の無 国籍化,あるいは様々な規制緩和の進行とともに,日本的経営が得意としてきた「暗黙知 による伝承」部分が,不透明で,不公平な仕組みの根源のように取り扱われる風潮が生ま れ,その高度信頼社会が失われようとしている。

2 .情報ネットワークと情報の共有化

 「情報の共有化」とは,人々が各々に意見を述べたり,議論するなかで新しい知識を獲 得したり新たな合意を生んだりするものとの定義があるまた情報を共有する目的は 共通の場を持つためでありそれは共通の意識と共通の通い合う発想を持つためでもある 企業が持つ情報ネットワークは,このような観点から,異なる能力,才能の人間が集まる ことで新しい情報が生まれることを前提とすべきである。したがって,情報システムは, 生産性や効率化という観点で利用するのではなく,新しい価値創造という高いレベルの観 点で利用することでネットワークにおける情報共有化の意味も生まれる。

  インターネットは社会全体を同期化し,いつでも,どこからでも,だれもが自由に市場 参入し,自由に競争も協調もできる,透明で公平な規制緩和された環境を地球レベルで生 み出した。そこに出現した新しい環境は,従来QCDが保証した製造品質,技術品質に関 する社内標準に勝るグローバル標準の重要性をわれわれに示したといえる。このような環 境のもとに,個別企業であれ国であれ,独自の閉じたシステム作りを目指すのではなく, あくまでグローバルな標準のもとでのオープンシステム作りが絶対的条件となる。そうい った意味からの日本的経営が,IS09000やISO14000において十分な評価が得られていな いことは残念であるが,オープンシステムの相対的条件としての役割は大きいといえる。

 経営の効率は,いまやーつの経営体内だけの閉じた世界における最適化だけで論じるこ とができないところまできた現在あらゆる製品がマーケットから鮮度を求られている 一方,リエンジニアリング,グローバル経営,企業提携やアウトソーシングなど,世の中 はますますその複雑さを増大させる傾向にある。そのような環境下にあって,企業が過剰 在庫を抑え,しかも機会損失を最小限にして企業収益を高めるには,もはや生産という枠 組みの中だけでの解決は困難な状況となっている。考えなければならない因子としては, 経済環境因子,政治環境因子,社会環境因子,自然環境因子など,むしろ生産現場に存在 する因子よりも経営全体に占めるウエイトが大きくなってきている。

 生産グローバル化, スピード化と共に「人」,「金」,「モノ」の面でさまざまなビジネスパートナーと連係を, 持つことで,原材料調達から生産,物流,販売までその一つーつを最適するのではなく, 全体の流れの最適化を図ることの重要性が認識されてきている。 シリコンバレー型経営の原型といわれるヒューレットパッカード社は,権限を委譲され た少人数編成のプロジェクトチーム,18ヶ月で損益分岐点に達するスピードとイノベー ションの経営,レイオフをしない雇用保証と人間尊重の社風,チームワークの重視等,日 本的経営に近い根本思想を有している。このような例を見ると,今後,オープンシステム あるいはグローバル経営の,あるいはグローバル経営の相対的条件として「暗黙知によ, る伝承」を取り入れた日本的経営がデファクトスタンダードとして再び浮上する可能性もある。


3 .情報の共有化とシステムのオープン化

 コンピュ−タネットワークの歴史はOSI(Open Systems Interconnection)によるオープンシス テム化と標準化の歴史でもある。1970年代のコンピュータネットワークの問題点は,
@ メーカや機種の異なるコンピュータ間の通信方法がない,
Aコンピュータ間通信に適した 通信回線がない等の重大な問題を抱えていた。
それが,1974年にはIBMが自社製品間の 通信を標準化するための「SNA (System Network Architecture)」を発表して以来,主要コンピ ュータメーカは次々と独自の標準を発表することになった。

 これによって,従来アプリケ ーションあるいは機種毎に用意されていた通信プログラムの問題が解消されることになっ た。しかし,この段階ではまだいずれも自社製品のコンピュータあるいは端末の開発や販 売を有利にするための標準にとどまっていたもので,同一メーカ同士でのネットワークア ーキテクチャが構築されたに過ぎなかった。

 その後,ISO等がOSI TCP/IP (TransmissionControl Protocol/Internet Protocol)や を示し,システム内,システム間におけるプロトコルの水 平性と独立性の維持を図る仕組みが標準化され,異種メーカ同士の間でもネットワークア ーキテクチャの構築が容易になった。この時点で@の問題は解決されることになった。

 さ らに,LAN 技術の進歩,通信自由化,インターネットの普及等に見られるようにAの問 題も解決され,@,Aの様なハード,ソフト面での固有技術的側面での標準化から利用技 術面での標準化の問題に移ってきたような感がある。たとえば,電子取引き手続きの標準 化ではEDI (Electronic Data Interchange),電子取引き文書の標準化等「取引」に関する問, 題あるいはネットワークとプライバシーなど「人間」にかかわる問題のようなシステマテ OSI ィックに行動するには複雑すぎる各種課題が山積している。いまやネットワークは, の物理層,データリンク層,ネットワーク層,トランスポーテーション層等の下位から中 位のレベルにおいては,問題なく接続できるプロトコルが出来上がった。これからのネッ トワ−クシステムの問題は,大きくは2000年問題から小さなレベルではプライバシーと いったセキュリティに関わる問題がクローズアップされると考えられる。


4 .品質・環境管理の標準化

 企業をとりまく環境要因のグローバル化は急速に進行しつつあるが,それは国際標準化の 方向にむかっている。企業間競争の過程においてそれぞれの市場でデファクト・スタンダ ードが形成され確立されることによって企業の競争優位性が確保されているがここでは つぎに国際的な機関の制定した標準または国際的に影響力をもつ大企業群の間で慣行とし て確立している経営システムの標準が,日本の経営システムにどのようなインパクトを与 えるかについて考察してみたい。

 この場合,グローバル化によって推進されつつある標準 化の局面として1) 品質・環境管理のISOによる標準化,2)コーポレート・ガバナンス,3) 国際会計基準への対応について言及することにする。 経営管理論の発展過程をふりかえると,管理の方法および管理原則の普遍性の主張に対 して管理原則および管理方法の個別性または条件性が主張された時期がある。1960年代 にはそうしたコンティンジェントな考え方および理論(コンティンジェンシー・セオリー) が主張され,管理方法および管理原則の普遍性に対する批判がなされたことは知られてい るとおりである。しかし,経営管理システムのなかで,品質管理および環境管理の領域に おける近年の動向は,管理原則および管理方法の普遍性を基礎に国際的標準化に向かう動 きが急速に発展しており,ISO9000 およびISO14000の制定はその一例である。

 これらの国 際的な共通規格(metastandard)は極めてテクニカルな性質をもつものであるが,それが企 業行動に与える影響は計り知れないほど大きいといってよいであろう。それは経営管理シ ステムのほとんどすべての領域にわたる見直しを要求しているからである。また海外の大 企業は,自社への資材,製品の供給業者に対してISO9000の規格を実施するような圧力を かけている例があるが,この規格の採用および実施が,顧客,業者団体,政府機関などか ら要求されている。の共通規格は法規制ではないが,しかし,これが法規制と密接なISO 関連を有していることに注意したい。

 たとえば欧州連合は,安全性が重要な意味をもつ製 品の供給者に対してISO9000を採用することを定めた新しい規則を制定している。また, アメリカの法規制のなかには組織がの共通規格を採用し遵守していない場合は,そのISO 組織の経営者および従業員は市民としての義務を怠り法的責任を追及されることを定めた ものがあり,このことがISOの共通規格の採用を促進している。このように国際的な共通 基準の導入ないし採用が事実上,法規制と密接に関連しあって進行していることは注目さ れる。

5 .コーポレート・ガバナンス問題への対応

 コーポレート・ガバナンスの形態ないしシステムは,各国の経済的,社会的条件を背景と して各国の企業制度や経営慣行として形成されているが,それらを類型化すれば英米型, および欧州大陸型に大別することができる。しかし,コーポレート・ガバナンスのグロー バル・スタンダードという場合,しばしば英米型,とりわけアメリカ型取締役会の構成と 機能がモデルとしてとりあげられ,また,このモデルの導入が日本のコーポレート・ガバ ナンスの課題であると考えられている場合が多い。

 日本の大企業の間で進められている取締役会の改革としては,取締役会の人数の削減,執 行役員制の導入,取締役会内部に各種委員会を導入することなどがあげられており,こう した動きは英米型取締役会の導入に向かって改革が進められていることを示している。英 米型の取締役会の構成としては,
1)10人前後の取締役会の規模,
2)その構成の半数近く, または過半数が社外取締役で占められていること,
3)取締役会内部に外部取締役を委員長 とする各種委員会の設置,
4)取締役会と執行役員とが分離されていること,などに要約で きる。
 英米型のモデルでは会社制度上の機関である取締役会が執行活動を監視する機能を 発揮できるように構成されていることが株主・機関投資家から強く要請されており, 1990年代以降,機関投資家の企業の評価は取締役会の構成と機能発揮の点にしぼられてきてお り,カルパースの対日コーポレート・ガバナンス原則にも明確に示されている。

 英米型の ガバナンスの導入に向かう改革路線には,これまでの経営慣行および考え方の転換が必要 であることはいうまでもないが,次の問題を検討することは避けられまい。その1 つは, 社外取締役の導入である。取締役会内部に各種委員会を設置してもこれらの委員長が内部 取締役で占められていたのでは効果は期待できないからである。

6 .会計基準国際化への影響

 企業が国際的資本市場で資金調達を行う場合,財務諸表を作成するさいに準拠する会計 基準については,どこの国の証券市場でも通用する会計基準の採用が要請される。いま, わが国では国際会計基準への会計システムの変更が行われているが,会計システムにおけ る一連の変更のなかで,重要なものは証券取引法における企業内容開示制度(ディスクロ ージャー制度)が個別情報中心から連結情報中心へ移行したことである。

 企業内容が連結 情報によって評価される仕組みができあがると,企業経営は「連結経営」を意識せざるを えなくなるという面がより重要である。これと並んで重要なのが金融商品の会計の設定で ある。実際の企業経営においては程度の差はあれ二つの評価が併用されており,一般に実 現時,過去的評価に基づく経営を「原価的経営」と呼び,継続的・現在的評価を重視する 経営を「時価的経営」と呼んで区別する考え方がある。原価的経営が長期的視野に立つの に対し,時価的経営は短期的視野に立つ,といった指摘も可能であろうし,時価的経営へ の移行がどのようなインパクトを与えるかの検討も重要な研究課題である。

引用文献
[A-1]東谷曉著:「グローバルスタンダードの罠」,日刊工業新聞社、B&Tブックス, 1998.
[A-2]山田英夫著:「デファクトスタンダード」,日本経済新聞社, 1997.
[A-3]日経 BP pp.2-23,日経社:特集「デファクトスタンダード」の基礎知識,日経パソコン,pp.204-221 1998.
[A-4]能勢豊一:「経営情報とその標準化」,オフィス・オートメーション,オフィス・オートメーション学会,Vol.18, No.5, pp.64-71 1998.
[A-5]能勢豊一:「経営の情報化−ソフト化と仮想化−」,オフィス・オートメーション,オフィス・オートメーション学会,Vol.17, No.1, pp.27-31 1996.
[A-6]東迎良育:「国際標準化問題とわが国の活動−日本に求められるもの−」,経営システム誌,(社)日本経営工学会, Vol.8, No.1, pp.3-6 1998.
[A-7] ( )藤田昌宏:「国際標準化が今なぜ重要なのか」、経営システム誌、(社)日本経営工学会、Vol.8, No.1, pp.7-11 1998 .
[A-8]能勢豊一:「経営情報とその標準化」,オフィス・オートメーション,オフィス・オートメーション学会,Vol.18, No.5, pp.64-71 1998.
[A-9]能勢豊一:「デファクトスタンダードと経営のグローバル化」,オフィス・オートメーション,オフィス・オートメーション学会,,.Vol.19, No.2, pp.51-56 1998.

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第7 章企業行動の評価のための課題

1 .グローバルネットワークにおける企業行動

 グローバルネットワークは,企業の行動規範を大きく変えた。世界を見据えての経営活 動が行われ,輸配送を含む原料調達費用の削減,効率的な生産体制が実現されていった。 しかしながら,グローバルネットワークにおいては,従来の国内だけの場合と異なり,為 替や法律など国々によって異なる環境,不確定な要素を考慮しなければならない。そのた め,企業の収益性や,安定性の評価も当然,複雑になってくる。グローバルネットワーク における企業行動の変化について簡単にまとめ,それらを評価する際の問題点,そして, グローバルネットワークにおいて企業が期待される行動について示し,評価方法について 述べる。

 企業は次の3 段階を経て,グローバル企業になっていく。まず,国際化の段階では,人 件費の安い地域での製造や新しい市場の開拓を目的とした機能の一部の進出が見られる ここでは,海外に存在する組織,施設はあくまで本国からみた下部組織となる。 国際化が進んで,海外に存在する組織,施設が大きくなってくると,海外のあるエリア 内で,一つの組織が構成できるようになる。

 そこで,エリア毎に組織を再構成し,ひとま とめの企業とする。この現地化によって,国際化の段階で下部組織だった海外支社が,独 立した1 企業となり,現地からも受け入れられやすくなる。 そうして,現地化によって独立した企業が構成された後,ふたたび,一つの組織として 活動を行おうとする。ここでは,各現地企業が重複した機能を持つことによる非効率性, 部材調達など,規模による経済効果が期待できる部分に関する費用削減が主眼となってい る。しかしながら,国際化当初のような本社による管理下になるわけではない。独立した 海外組織がお互いに効率化を狙って共同活動を行うのである。

2 .企業行動の評価に関する問題

 グローバルネットワークが広がるにつれ,多くの組織がそれぞれ異なった場所で,多種 多様な条件を有して活動を行われているのが顕著になっているこれらの各組織の評価は 企業にとって重要な問題となる。グローバルネットワーク上で二つの同じ人数,同じ構成 の組織があったとして,この組織の評価を考えると簡単にはいかない部分がある。同じ人 数,同じ構成だからといって,収益の大小で組織の優劣を図ることができない。その組織 が置かれている国の情勢,文化の違い,市場の違い,制約条件などをふまえた上で判断し なければ,公平な評価とならない。

 以前は,日本の効率性を持ち込むことが発展途上国に対して有意義なことといわれてき たが,必ずしもそうとは限らない。この違いを鑑みてこそ,真のグローバルネットワーク が成立する。国によっては,長期的な技術供与によって後々の発展に寄与する効果を狙う 場合もあるし,また,短期的な利益を追求することが,市場の崩壊を早める場合もある。 これらの様々な特性を考慮して,評価がなされないと,我が国から海外勤務に向かうもの にとっての障害となってしまう。短期的な利益追求ではない,長期的な安定を重視した施 策が必要となるグローバルネットワークでは,その構成員,組織に対する評価も,新しい ものに替えていかなければならない。例えば,組織が存在する地域に対する社会貢献など が挙げられる。しかし,社会貢献が即ち企業の業績向上に繋がるわけではない。だからこ そこのような部分の評価が要求されるがその評価尺度の設定は大変困難になっている

3 .グローバルネットワークにおいて期待される企業行動

 利益追求型の組織から,新たな目標,評価尺度を持つ組織がグローバルネットワークの 中で現われる必要性がある。これらからのグローバルネットワークにおいて期待される企 業行動として次の事柄が挙げられる。[A-1][A-2]
(1)開発途上国との協力
(2)長期的な発展をめざす
(3)組織の柔軟性を持たす
(4)地球環境を考慮する
 まず,グローバル化をめざすに当り,多くの企業が製造拠点にアジアをはじめとする運 営費用の低い発展途上国に進出した。製造拠点が作られた現地では,雇用が創出され,所 得が増大した。所得の増大が経済の発展を招き,人々の生活レベルが向上した。また,技 術協力,技術供与を行っていく中で,現地人の教育も行った。

  このような活動は,発展途上国の進展に寄与するものであり,望まれるものとされてい る。しかし,急激な発展は,経済のもろさを引き起こすものでもあり,また,自然破壊な どの後々に影響を与える危険性もある。そのため,各国の地理条件や人口,そして文化に 適した協力を行うべきであろう。

 経済情勢,技術開発など現在では,時々刻々と変化していく要因が企業行動を取り巻い ているそのような状況下では今最適な状態に企業行動をコントロールしたとしても それが即ち正解とは言えない。状況が変化しても継続的に発展できるような組織が必要と なる。変化に対して,それを新たな機会として次なる拡大を目指す姿勢並びに,体制でな ければならない。そのためには,ある程度の非効率性を含む必要がある。

 これは,今,効率の悪い組織があっても,その効率の悪さが外的な要因によるものか,それともその組織 自体の問題かを見極め,状況によっては効率性を持ち得るものなら,それらを他の組織に よって支えるようにする。長期的な視点に立って,短期的に低い評価を受けるものも残し ていく,共生ネットワークの構築が急務になっている。 そして,最後に地球環境に対する問題として挙がっている。フロンガスのように,先進 国がフロンガスを使って製造を行い,その結果,オゾン層の破壊を招いた。そして,先進 国の技術を受けた途上国が従来の製造を踏襲してフロンを使おうとした時に,規制が必要 となった。

  ここで,途上国が憤るのも一理ある。先進国が発展した筋道を正しいとして,先進国は 国際化を進めるに当り,途上国に技術を開示していった。そして,それに合わせて,国も 変わってきたのに,何故,急に同じ道を通るなというのか。先進国は途上国も含めた地球 環境を傷つけながら発展したにも関らず,途上国は地球環境を守る義務を負わされながら 発展しなければならないのか。

 一方,これを認めて途上国に環境を破壊する自由を認めるというのも納得のできないも のであろう。ここで,改めて浮き彫りになるのは,先進国にせよ,途上国にせよ,判断の 規準が国単位ということである。  自国の利益を優先したい自国の環境を守りたいこのレベルで各国が行動していては 当然,不利益を被るものが現われる。なんといっても地球自体は自らの利益を主張してく れる国民を持たないわけだから深刻な環境破壊にも繋がる。だからゆえに,各国の垣根を 取り払うグローバルネットワークが重要になってくる。地球環境を地球全体で考える行動 が必要となる。また,グローバルネットワークに加わること自体が経済の発展や経済の安 定化につながるものとなることが途上国にとって有意義なことと思われる。 そうして,地球規模での生産調整,販売調整が行えるネットワーク,それらを支援する 企業行動というものが現われることが切に望まれる。

4 .グローバルネットワークにおける企業評価システム

 グローバルネットワークを前提とした企業活動を評価するのは,様々な尺度が存在するため困難といえる。しかし,ネットワーク上で広範に点在する事業所,部門を効率的に管理しなければ,真のグローバル企業とはいえない。ここで,企業評価システムについて考える。
(1)事業所別・部門別・責任場所別管理システム

 企業評価を行う上で,企業活動をどのように管理するかが重要となってくる。グローバ ルネットワークという巨大なフィールドにおいては,その大きさに反して,より細かな管 理が必要となってくる。このような管理を実現するために,事業所別・部門別・責任場所 別管理システムが必要となってくる。

 グローバルネットワークでは,組織同士が協調・協同の関係を構築して発展していくこ とが理想とされている。しかし,協調・協同活動は,あくまで,個々の組織が発展するた めになされる。また,グローバルといえども,組織ごとに評価されることで,構成員の達 成感,モチベーションにもいい影響を与える。したがって,エリア別,国別の事業部単位 で長期目標,中期目標,短期目標を設定して,その達成を目指し,行動,評価されなけれ ばならない。

  さらに,各事業所内で部門別にも管理を行う。より小さい単位として部門別に評価を行 うことは,その部門が担当する分野によって,他の分野との複雑な関係があるため難しい こととされている。しかし,昨今の変化の激しい状況では,各部門の活動に関る環境も多 種多様に変化することから,厳格に公平にならないとしても,部門ごとに評価を行うべき と思われる。製造部門,販売部門等の様々な部門が,部門間の相互関係の善し悪しに一喜 一憂するのではなく,個々が変わりゆく環境に,いかに適応していくかを模索することが グローバルネットワークでの企業活動には肝要となる。

 以上のことから,複雑な状況にお いても部門別の評価システムが必要となる。 責任場所別の管理は,原価管理で提唱されているものであり,企業活動に含まれる要因 を詳細に評価し,各組織,また,その構成員に自らの活動に対する責任を明示するもので あるここでは利益を産み出す構成要素を洗い出す分析活動を絶え間なく行いそして その活動を改善していく。この働きこそ,わが国が大きく成長した管理の徹底の精神を具 現化するものであり,この成功則はグローバルな活動においても不変のものと思われる。 以上のように,巨大な組織を分割し,管理することで,活動の改善がなされることにな り,このことが,環境の変化に対する柔軟な対応につながるといえる。

(2)評価指標と評価方法

 上に挙げた事業所別・部門別・責任場所別管理システムは,従来の企業活動においても 有用な評価システムとされている。しかし,グローバルネットワークにそのまま適用でき るとまではいかない。ここで,考慮されるべき経営指標について以下に示す。
1)成長ベース
2)利益ベース
3)価値ベース
成長ベースの評価においては,売上高の変化,マーケットシェアの拡大,従業員数など が指標として考えられる。利益ベースの評価においては,売上高利益率,一株当たり利益 など,収益性の観点から分析される。価値ベースは,企業がどれだけの付加価値を産み出 すことができたかをみるものであり,社会貢献も含めて,今後の重要な指標となるといわ れている。 いずれの場合においても,企業・組織を取り巻く環境の変化を考慮して,評価を行う必 要がある。さらに,今後,ベースの多様化が進むだけでなく,指標間の有機的な関わりも 複雑になることから,一元的な企業評価を行うのは難しくなる。

5 .グローバルネットワークにおける会計システム

5 .1 会計基準を取り巻く状況

 グローバル企業を評価する際には会計システムのグローバル化も考えなければならな い。投資家が企業の状態を判断する上で,会計による評価は重要な要因となる。特に,多 数の企業が密接に関り合う現在では,連結財務諸表に示されるように企業,グループの連 結決算が必要となってくる。また,評価尺度も従来の利益から利益収支(キャッシュフロ ー)を対象とする要求が高まっている。

(1 )国際会計基準

 国際会計基準(International Accounting Standards)は,先進国の会計士団体が中心となっ て定めているものである。世界中の投資家に対して,企業の姿を正しく伝えること,そし て,世界の企業を同一の基準で比較可能にすることを目的としている。

(2 )連結財務諸表

 連結財務諸表は,企業群を構成する法的実体別の各会社についての財務諸表を結合する ものである。そして,個別財務諸表だけでは表しきれない企業集団の財務状態,経営成績 などの事業業績を総合的に報告することを目的としている。近年,子会社などを通じて企 業の経済活動が拡大し,海外を対象とした資金調達活動の活性化が起こるとともに,わが 国の企業の多角化・国際化が急速に進展した。くわえて,海外投資者がわが国の証券市場 に多く参入したきたことによって,投資意思決定情報としての連結情報に対するニーズと 重要性が一段と高まってきている。

(3 )キャッシュフロー

 利益が収益から費用を引いたものであるのに対し,キャッシュフローは収入から支出を 引いたものである。国際会計基準では「現金及び現金同等物の流入と流出をいう」と定, 義されている。2000年3 月からの公開企業の新しい決算書として「連結キャッシュフロ ー計算書」の作成が義務づけられている。

5 .2 グローバル企業の会計システム

 これからの企業は,資金調達を効率的に行うために,国際的資本市場に進出するのは間 違いない。ここでは,投資家に企業の状態を正確に知ってもらうために,国際会計基準に 沿った連結財務諸表を作成しなければならない。特に,キャッシュフローを考慮した会計 システムを構築する必要がある。 このことは,たんに会計処理上での問題ではない。グローバル企業の活動においては, キャッシュフローと同様に,実現時,過去的評価をもとにする「原価的経営」ではなく, 継続的・現在的評価を重視する「時価的経営」への切り換えも必要だからである。時価的 経営を行うには,情報の即時性が重要となり,情報システム,情報ネットワークの発展的 な構築が不可欠であろう。

 また,企業の情報の取り扱いも新たな問題として浮上するであ ろう。会計では,情報開示が必須となり,企業内外の活動をいかに行うか,そして,いか にその内容を公開していくかの基準を設定してくことも問題となる。それとともに,企業 内部の機密情報をいかに保護するかもネットワークセキュリティとしての課題となる。 このような,ハード,ソフト両面を内部の状況と外部の要求に合わせて構築していくこと が会計システムのみならず企業の情報システム,企業活動においてより重要になるであろ う。

引用文献
[A-1] D. A. Heenan, H. V. Perlmutter著: 「グローバル組織開発」,文眞堂,1990.
[A-2]中村久人著:経営管理のグローバル化,同文舘, 1991.
[A-3]栗山仙之助著:総合経営情報システム研究,日本能率協会総合研究所,1995.

参考文献
[B-1] C. A. Bartlett, S. Ghoshal著:「MBAのグローバル経営」,日本能率協会マネジメントセンター,1998.
[B-2]土井秀生著:「グローバル戦略とリスク・マネジメント」,ダイヤモンド社,1990.
[B-3]石川昭著:「グローバル情報ネットワーク」,日刊工業新聞社,1992.
[B-4] D. Julius著:「グローバル企業と世界経済」,ミネルヴァ書房,1991.
[B-5] 中村久人著:「経営管理のグローバル化」,同文舘,1991.
[B-6]吉原英樹,林吉郎,安室憲一著:「日本企業のグローバル経営」,1991.

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第8 章おわりに

 本報告は,情報化社会の進展によって実現したグローバルネットワークにおいて変わる 企業行動についてまとめた。 インターネットに代表される情報技術の発達,そして,われわれの生活への浸透は,当 然のことながら企業行動の変化を要求した。さらに,異なる文化,環境を有する世界の各 地がネットワークによって結ばれることにより企業環境は変化し,企業は今までとは異な る新たな視点を持って企業活動に当らなければならなくなっている。

 グローバルネットワークを前提としたことで,顕在化した新たな問題に対して,企業戦 略,経営モデル,経営組織もより高度に,そして,柔軟性をもとめられて変化してきてい る。これらの動きは,グローバルネットワークという新たな大陸に挑む開拓者の姿を彷彿 とさせる。 また,企業の行動が変化していくとともに,企業がまわりに与える影響も大きく様変り してきている。こうした状況の中で,新しい企業行動の評価も登場している。

 企業行動研究連絡委員会では,斯界の先駆者にご協力を賜り,新しいフィールドである グローバルネットワークで企業行動はどうあるべきか,また,何を考慮して行動していか なければならないかについて検討を行った。 これらの成果を,本報告書において,包括的にまとめている。今後,グローバルネット ワークにおいて,世界の調和,地球環境などを視野に入れた企業活動の展開が,われわれ 人類にとって,文化間の相違を乗り越えた新たな発展につながることを切に願い,本報告 の結びとする。

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付 録
 本研究委員会では以下の日程で,日本学術会議において企業行動に関するシンポジウムを開催した。
平成10 年7 月9 日(木)詳細は(資料1 )参照
平成11 年7 月8 日(木)詳細は(資料2 )参照-39-



(資料1 )

〜企業行動研究連絡委員会シンポジウム〜
「ネットワーク社会と企業行動」

1.主催
  日本学術会議企業行動研究連絡委員会1.
2.日時
  平成10年7月9日(木)13時30分〜17時00分
3.会場日本学術会議講堂
〒106-8555東京都港区六本木七の二十二の三四 ・03-3403-5706
地下鉄千代田線乃木坂駅徒歩30秒
4.参加費無料
5.次第
○総合司会(13時30分) 山田善靖 [企業行動研究連絡委員会委員]
                     [東京理科大学理工学部教授]
○開会の挨拶(13時35分) 栗山仙之助[日本学術会議第部会員]
                     [企業行動研究連絡委員会委員長]
                     [摂南大学学長]

発表と討論@(13時40分〜14時40分)
「21世紀の企業評価」
発表者倉重英樹[プライスウオーターハウスコンサルタント(株)
[代表取締役会長兼社長]
司会者 山田善靖[企業行動研究連絡委員会委員]
           [東京理科大学理工学部教授]
発表と討論A(14時40分〜15時40分)
「エキストラネットによる競争優位の確立」
発表者 益津力[米沢日本電気株式会社社長]
司会者 能勢豊一[企業行動研究連絡委員会委員]
[大阪工業大学工学部教授]
・・・・・・・・休憩・・・・・・・(15時40分〜15時 5分)5
発表と討論B(15時55分〜16時 55分)
「ネットワーク社会において多様化する企業行動」
発表者 高木晴夫[慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授]
司会者 桑田耕太郎[企業行動研究連絡委員会委員]
[東京都立大学経済学部助教授]
○閉会の挨拶(16時55分)横沢利昌[企業行動研究連絡委員会委員]
[亜細亜大学経営学部教授]


(資料2 )

〜日本学術会議周年記念〜
企業行動研究連絡委員会シンポジウム
「グローバルネットワークにおいて変わる競争と協調」

1.主催 日本学術会議企業行動研究連絡委員会

2.協賛 オフィス・オートメーション学会、日本経営行動研究学会、組織学会2.
(アイウエオ順)(社)日本オペレーションズリサーチ学会、日本経営学会、
(社)日本経営工学会、日本経営システム学会(社)日本品質管理学会、、

3.日時 平成11年7月8日(木)13時30分〜17時00分
4.会場 日本学術会議講堂(1 階)4.

[〒106−8555東京都港区六本木7-22-34]
[交通地下鉄千代田線乃木坂駅下車1 分]
[電話 TEL03−3403−5706]
5.対象 企業の経営者、管理者、社員、学校関係教職員、学生、一般社会人等
6.参加費無料
7.次第
○総合司会(13時30分)横沢利昌[企業行動研究連絡委員会幹事]
[亜細亜大学経営学部教授]
○開会の挨拶(13時35分)栗山仙之助[日本学術会議第部会員]
[企業行動研究連絡委員会委員長]
[摂南大学学長]
◎発表と討論(13時40分〜14時 40分)
「グローバルネットワーク時代の新しい経営モデルとしての
サプライチェーンマネジメント」
  発表者
    福島美明(株)日本ビジネスクリエイト専務取締役
  司会者
    能勢豊一企業行動研究連絡委員会委員大阪工業大学工学部教授

◎発表と討論@(14時40分〜15時 40分)
「グローバルネットワークにおける企業行動−国際会計基準の影響と対応−」
 発表者
   柴健次先生関西大学教授

 司会者
   桑田耕太郎企業行動研究連絡委員会委員東京都立大学経済学部助教授
・・・・・・・・休憩・・・・・・・(15時40分〜15時 55分)

◎発表と討論A(15時55分〜16時 55分)
「グローバルスタンダードと企業行動」
 発表者
  吹田尚一三菱総合研究所顧問敬愛大学教授

 司会者
  山田善靖企業行動研究連絡委員会委員東京理科大学理工学部教授
○閉会の挨拶時分)菊池敏夫日本学術会議第部会員企業行動研究連絡委員会(16 55 [ 3
幹事
日本大学名誉教授・山梨学院大学経営情報学部客員教授

略語説明

CAD : Computer Aided Design
CALS : Commerce At Light Speed
CE : Concurrent Engineering
CIM : Computer Integrated Manufacturing
CRP : Capacity Requirements Planning
CS : Customer Satisfaction
DRP : Distribution Requirements Planning
EDI : Electronic Data Interchange
ERP : Enterprise Resource Planning
FA : Factory Automation
GUI : Graphical User Interface
IDA : Institute for Defense Analyses
JIT : Just In Time
MIS : Management Information System
MIT : Massachusetts Institute of Technology
MRP : Material Requirements Planning
MRPII : Manufacturing Resource Planning II
OA : Office Automation
OEM : Original Equipment Manufacture
OPT : Optimized Production Technology
OS : Operating System
OSI : Open Systems Interconnection
QCD : Quality, Cost, Delivery
SCM : Supply Chain Management
SNA : System Network Architecture
SOHO : Small Office Home Office
TCP/IP : Transmission Control Protocol/Internet Protocol
TOC : Theory of Constraints.

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