地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)

の促進について








平成11年4月


本 学 術 会 議

地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)の

促進について(勧告)

平成11年4月21日

第130回総会

国際科学会議(The International Council for Science, 略称ICSU)は1986年開催の第21回総会で、地球圏−生物圏国際協同研究計画(International Geosphere - Biosphere Programme, 略称IGBP)の実施を決定した。この決定を受けて、日本学術会議は第109回総会の議決に基づき、平成2年(1990年)4月に「地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)の実施について」勧告を行った。以来、我が国の研究者はIGBPに積極的に参画し、極めて大きな国際的貢献を果たしてきた。そして平成11年(1999年)に、平成2年の勧告に示された期間の最終年を迎える。しかしIGBP執行部は、地球という複雑なシステムの科学的理解に基づく地球環境問題への国際的な対処の必要性が一段と強まっている現状に鑑みて、この国際協力事業を2000年以降も間断なく実施し、その科学的成果の統合と、グローバルな変化と地域的変化の関連に関する研究を並行して行い、人類社会のよりよい未来のために積極的な活動と提言を行っていく方針を決定している。すでにIGBPはその研究成果を、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change,略称IPCC)等に反映させ、国際レベルにおける政策決定に関わりつつある。この国際協力事業の重要性と我が国がこれまでに果たした実績からして、我が国が今後もIGBPに参画することの意義は極めて大きいものがある。したがって政府はこの国際協力事業の終了まで、IGBPへの分担金の拠出と、我が国におけるIGBPに関わる研究の促進、成果の統合、国際対応、研究者の養成などの体制の維持並びに予算等に関し引き続き万全の措置を講じられたい。

本信送付先

内閣総理大臣

本信写送付先

外務大臣

大蔵大臣

文部大臣

厚生大臣

農林水産大臣

通商産業大臣

運輸大臣

郵政大臣

労働大臣

建設大臣

自治大臣

国家公安委員会委員長

北海道開発庁長官

経済企画庁長官

科学技術庁長官

環境庁長官

沖縄開発庁長官

国土庁長官

(説明)

地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)について

これまでの経緯

 国際科学会議(ICSU)は、1986年にベルンで開催された第21回総会で、地球変化の研究を行う地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)の実施を決定し、各国がこの問題に取り組むことを要請した。この決定を受けて、日本学術会議は第109回総会の決議に基づき、平成2年(1990年)4月に「地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)の実施について」の勧告を行った。この勧告ではICSUの決定に基づき、IGBPを「1990年から10年間国際協力により実施する」と述べている。(ICSUの正式名称は、International Council of Scientific Unionであったが、1998年の総会で新名称、The International Council for Scienceに変更された。ただし、新名称の略称はICSUのままに残された。)

日本学術会議の勧告を受けて、文部省では平成2年7月に学術審議会が、「大学等における地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)の推進について」の建議を行った。同省ではこの建議に基づき、「大学等における地球圏−生物圏国際共同研究計画(前期計画)」を平成4年度〜8年度の5年間実施し、9年度からは後期5ヵ年計画として「陸域生態系の地球環境変化に対する応答の研究」を実施中である。また同省では、平成2年以降、IGBP事務局(スウェーデン王立科学アカデミー内)に対し、一般会計予算から拠出金として、2年度から6年度まで10万米ドル、7年度は12万5千米ドル、8年度から15万米ドルを支払っている。文部省以外の省庁においても、科学技術振興調整費(科学技術庁)、地球環境研究総合推進費(環境庁)等により、IGBP関連の研究は多数行われている。

IGBPの目的

IGBPの目的は、「生命を支えるユニークな環境である全地球システムを支配している相互に関連する物理的、化学的、生物的諸過程と、このシステム内で起きている変化、及びその変化に人間活動が及ぼす影響を記述し、理解すること。関連する分野の中で、とくに数10年ないし100年の時間スケールの変化に関連する重要な基本的相互作用のうち、人間による擾乱を最も受けやすい生物圏にかかわる課題を特に重視し、研究の成果は実用的で予測能力につながることを目指す。」と設定されている(IGBP DIRECTORY, 1998, p.5)。

IGBPの内容

 IGBPの加盟国数は現在77ヵ国である。IGBPの研究は、地球のサブシステム別に立ち上げられた研究組織である以下のコアプロジェクトとそれらを支援するフレームワーク活動を中心に、相互に関連を保ちつつ進められている。

・コアプロジェクト(8)

1. IGAC(International Global Atmospheric Chemistry Project,地球大気化学国際協同研究計画)事務局:米国、1990年発足。大気微量成分の大気化学的・生物学的過程を明らかにすることにより、現在起こりつつある大気組成の変動を理解し、将来起こるであろう変動の予測を行うことを目的とする。

2. JGOFS(Joint Global Ocean Flux Study,全地球海洋フラックス合同研究計画)事務局:ノルウェー、1990年発足。海洋における炭素及び関連する親生物元素について、それらのフラックスを制御する過程の解明と地球規模での収支を評価し、海洋物質循環システムへの人間活動の影響の予測を行うことを目的とする。

3. GCTE(Global Change and Terrestrial Ecosystems,地球変化と陸域生態系合同研究計画)事務局:オーストラリア、1990年発足。地球変化を気候・大気組成・土地利用の変化として捉え、地球変化が農林業を含めた陸域生態系に及ぼす影響を予測すること、及び陸域生態系の変化が気候システムに与える影響の機構を解明することを目的とする。

4. BAHC(Biospheric Aspects of the Hydrological Cycle,水循環の生物的側面研究計画)事務局:ドイツ、1991年発足。陸域生物圏が水循環に果たす役割の解明、生物圏と地球物理システムとの相互作用に関するデータベースの開発、及び生物圏と水循環との相互作用を記述するモデルを構築することを目的とする。

5. PAGES(Past Global Change,古環境の変遷研究計画)事務局:スイス、1991年発足。過去数十万年の地球規模の環境変化の復元を行い、近い将来起きる可能性のある地球環境の変化を予測することを目的とする。

6. LOICZ(Land-Ocean Interactions in the Coastal Zone,沿岸域における陸地−海洋相互作用研究計画)事務局:オランダ、1993年発足。地球変化に関連した、沿岸域における物質輸送特性、海岸生物地形の動態、温室効果気体の動態、及び地球変化が沿岸域に及ぼす社会経済的影響を解明することを目的とする。

7. LUCC(Land Use/Cover Change,土地利用・被覆変化研究計画.IGBPとIHDPの合同プロジェクト)事務局:スペイン、1996年発足。人間活動に起因する土地利用・被覆変化によって、物質循環や生態系の多様性が損なわれる過程の動態を解明することを目的とする。

8. GLOBEC(Global Ocean Ecosystem Dynamics,全球海洋生態系動態研究計画)事務局:英国、1995年発足。地球温暖化や海洋汚染等が多様性に富む海洋生態系に与える影響の解明、海洋生態系の変化が炭素循環や地球変化に与える影響の解明、及び地球変化の海洋生物資源に対する影響を予測するモデルを開発することを目的とする。

・フレームワーク活動(3)

1. GAIM(Global Analysis, Interpretation and Modelling,地球変化の分析・解釈・モデリング)事務局:米国、1990年発足。IGBPの研究成果を基礎にして、大気大循環モデルと結合可能な地球規模の生物化学システムモデルを開発することを最終的な目的とする。

2. IGBP-DIS(IGBP Data and Information System, IGBPデータ情報システム)事務局:フランス、1990年発足。IGBPの目標達成に必要な、信頼できる、効果的なデータシステムを開発することを目的とする。

3. START(Global System for Analysis, Research and Training,地球変化の分析・研究・研修システム)事務局:米国、1992年発足。地球変化に関する3つの国際協同研究計画であるIGBP、地球環境変化の人間次元国際協同研究計画(International Human Dimensions Programme on Global Environmental Change,略称IHDP)、及び気候変動国際協同研究計画(World Climate Research Programme,略称WCRP)に共通して必要な、地域ネットワークの構築と研究能力構築(Capacity Building)を目的とする。

これらの研究計画の詳細は、それぞれのコアプロジェクトごとに設けられた科学運営委員会(Scientific Steering Committee,略称SSC)やタスクチーム等で企画立案される。我が国の研究者は、IGBPの全体計画を立案する科学委員会(Scientific Committee for the IGBP,略称SC-IGBP)に初期の段階より現在まで委員として参加しているほか、すべてのコアプロジェクトの科学運営委員会の委員、及びタスクチームの委員等としても参加し、その実行に大きく貢献してきた。

評価と方向づけ

IGBPの活動を評価し方向性を与えるために、IGBPの科学諮問委員会(Scientific Advisory Council for the IGBP,略称SAC)が設けられている。1995年10月に北京で開催された第4回科学諮問委員会では、前期5年(1990-1994)のIGBP活動に対する外部評価委員会の報告が行われた。その結論として、1)IGBPは卓越した科学計画であり執行状況もよいと評価されたほか、2)地球変化科学へ進化するための今後の戦略の明確化、3)途上国の人材養成のための戦略の開発、4)国際連合内外の関連する研究機関との連携戦略の開発の必要性が指摘された。また外部評価委員会は、当初本世紀末終了の予定で発足したIGBPに対して、さらなる継続の必要性は認めつつも、永久的な正式機関への移行は危険であり、官僚化することなく研究計画をバランスよく戦略的にリードすべきこと、IHDP(地球環境変化の人間次元国際協同研究計画)、WCRP(気候変動国際協同研究計画)、及び生物多様性科学国際協同研究計画(An International Programme of Biodiversity Science,略称DIVERSITAS)との協力に努力すべきこと等を進言した。

また、1998年9月にナイロビで開催された第5回科学諮問委員会では、IGBPの今後の方向として、1)IGBPの成果をIPCC(気候変動に関する政府間パネル)等を通じて各国の政策決定者や資源管理者に伝えるための枠組みの強化、2)地球規模の変化と地域規模の変化の関係を解明するための研究の開発、3)地球変化の原因となっている人間次元の要因を取り入れた研究の重視の3点が明確にされた。また、これまでに得られたIGBPの研究成果を統合するという基本方針が示された。

今後の方向

現在IGBPは、先発のコアプロジェクト(IGAC、JGOFS、GCTE、BAHC、PAGES)については、研究の到達度の評価及び今後の問題点の摘出と、研究成果の政策への反映を目的に、これまでに得られた成果の統合を開始しており、1999年5月に我が国で開催される第2回IGBPコングレスはそのための最も重要な会議と位置づけられている。統合のための作業は2000年まで続けられ、2001年開催のIGBP科学会議(IGBP Open Science Conference)において、統合作業の結果を印刷物として公表する予定である。上記以外の後発のコアプロジェクト(LOICZ、LUCC、GLOBEC)については研究が継続されている。2001年のIGBP科学会議の後は、IGBPは組織を再編しつつ、その活動を続行する予定になっている。

略称一覧

BAHCBiospheric Aspects of the Hydrological Cycle

水循環の生物的側面研究計画

DISData and Information System(IGBP-DIS)

IGBPデータ情報システム

DIVERSITASAn International Programme of Biodiversity Science

生物多様性科学国際協同研究計画

GAIMGlobal Analysis, Interpretation and Modelling

地球変化の分析・解釈・モデリング

GCTEGlobal Change and Terrestrial Ecosystems

地球変化と陸域生態系合同研究計画

GLOBECGlobal Ocean Ecosystems Dynamics

全球海洋生態系動態研究計画

ICSUThe International Council for Science

国際科学会議

IGACInternational Global Atmospheric Chemistry Project

地球大気化学国際協同研究計画

IGBPInternational Geosphere-Biosphere Programme

地球圏−生物圏国際協同研究計画

IHDPInternational Human Dimensions Programme on Global Environmental Change、地球環境変化の人間次元国際協同研究計画

IPCCIntergovernmental Panel on Climate Change

気候変動に関する政府間パネル

JGOFSJoint Global Ocean Flux Study

全地球海洋フラックス合同研究計画

LOICZLand-Ocean Interactions in the Coastal Zone

沿岸域における陸地−海洋相互作用研究計画

LUCCLand-Use/Cover Change

土地利用・被覆変化研究計画

PAGESPast Global Changes

古環境の変遷研究計画

SACScientific Advisory Council

科学諮問委員会

SC-IGBPScientific Committee for the IGBP

IGBPの全体計画を立案する科学委員会

SSCScientific Steering Committee

科学運営委員会

STARTGlobal Change System for Analysis, Research and Training

地球変化の分析・研究・研修システム

WCRPWorld Climate Research Programme

気候変動国際協同研究計画