資料の紙質劣化の対策について(要望)


平成8年10月16日

第124回総会

 

 文献・資料など文書の紙質の劣化は、早急に対策が講ぜられるべき問題である。特に木材パルプ原料による製紙業が発達して一世紀以上を経た近年、「酸性紙」の耐久年数が到来しつつあることが明らかとなり、文化の保存と学術研究の上で、今や世界的にその対策の必要性が認識され、アメリカ、EU諸国、さらに中国などにおいて、それぞれ国家的なレベルで具体的な施策が講ぜられている。これに対し、我が国の場合は、明治時代の文書ばかりでなく、太平洋戦争から戦後の一時期(昭和16年−29年頃)までの文書は、「再生紙」ないし「再々生紙」といわれる粗悪な紙を用いているものが多く、これらの時期に印刷された貴重な資料の多くが、判読不明や保存ないし利用に耐えない状態が現実化している。
 こうした現状からみて、我が国においても、問題の重要性、緊急性を認識し、以下の2点について早急に強力かつ具体的な対策を講ずることを強く要望する。

  1. 劣化状況の調査について
     国公立、私立を問わず、主要な図書館においては一定の統一した基準をもって、徹底した調査の実施と結果の公表が行われるべきである。
  2. 劣化判明の文書の対策について
     既に劣化が著しいことが判明している文書(例えば主要国立大学図書館において平成6年時点で、10,488点の存在が指摘されている)については、順次マイクロフィルム化、ディジタル化などの対策が講じられるべきである。

 

(本信送付先)

内閣総理大臣
 

(本信写送付先)

内閣官房長官       防衛庁長官
法務大臣          経済企画庁長官
外務大臣          科学技術庁長官
大蔵大臣          環境庁長官
文部大臣          沖縄開発庁長官
厚生大臣          国土庁長官
農林水産大臣       公正取引委員会委員長
通商産業大臣       国家公安委員会委員長
運輸大臣          公害等調整委員会委員長
郵政大臣          最高裁判所事務総局事務総長
労働大臣          国立国会図書館長
建設大臣          国立公文書館長
自治大臣          全国知事会会長
総務庁長官         全国市長会会長
北海道開発庁長官    全国町村会会長

〔説明〕

 

  1. 劣化状況の調査の現状について
     国立大学図書館協議会(以下「国立図協」という)においては、平成元年以来「酸性紙」の劣化にともなう文書の磨耗に対する対策の緊急性を認め、継続的な調査を実施し、現在に至っている(調査結果は、「資料の保存に関する調査研究」が毎年作成されている)。しかし、この調査も、いまだ非常に不備な段階にとどまっている。例えば、雑誌について、イギリス、アメリカ両国の図書館の所蔵文献の劣化率は40%以上(強度が40.7%、軽度を含めれば56.4%)の調査結果が公表されているのに対し、上記の我が国の調査結果では単に3%以下の集計が報ぜられているにとどまり、かつ機関別調査結果のバラツキが著しく、各図書館の認識が低いこと、取り組み方に統一性のないことが示されている。国としては、当面の施策として、少なくとも創立が古く、所蔵図書の多い機関について、例えば学術雑誌をはじめ重要な定期刊行物(明治期から昭和35年までの刊行)の劣化を本格的に調査するなど、効果的な調査を実施し、成果を分析のうえ、公表する必要がある。
  2. 劣化判明の当面の対策について
     これまでの上記の調査などによって、例えば全国の主要国立大学図書館において10,488点が劣化が著しいと報ぜられており(国立図協「史料保存に関する調査研究」平成6年5月)、今後増加の一途をたどることは明らかである。これら著しい劣化の判明しているものについて保存対策としては、当面マイクロフィルム化が有効、かつ経済的と判断される。そのさい、特定の機関においてマイクロ化についての情報を一元的に管理し供与すると同時に、マイクロフィルムのネガ各一部を特定の機関が恒久的に保存することが必要である。将来的にはディジタル化も検討されるべきである。こうした方策が、紙パルプの資源節約をはじめとする環境保全の上にも有益であることを期待したい。