日本学術会議に関するQ&A/4.日本学術会議の活動に関すること

      

4.日本学術会議の活動に関すること

問4-1 日本学術会議には、政府に勧告したり諮問に応えて答申するなど、科学に関する事項や社会的な課題に関して政府などに様々な意見を示しているそうですが、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

 日本学術会議法の第4条と第5条では、科学に関わる特に重要な事項について、政府からの諮問に「答申」したり、「勧告」したりすることができることになっています。これらは特に重要と思われる際に行われ、しかも答申には政府からの諮問が必要ですから、必ずしも頻繁に出されるわけではありません。
 これに対して、日本学術会議法の第3条は「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」を学術会議の「独立した職務」として定めています。これを受けて日本学術会議会則第2条は、1.要望、2.声明、3.提言、4.報告、5.回答を示すことができるとしています。学術会議が日常的に審議し、「意思の表出」として政府や社会に示しているのはこれらです。学術会議内の各種委員会・分科会では、科学的な検討が必要で政策的にも重要な科学や社会に関わる課題を見出し、専門的見地から審議し、結果を「提言」または「報告」として公表しています。政府その他諸機関に回答、提言等を手交、送付等するとともに、必要に応じて説明するほか、記者会見で発表するなど、政策や社会に反映されるよう努めています。
 また、政府の省庁などから重要事項について審議を依頼され、それに応えて「回答」する場合もあります。第24期では、「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」(文部科学省研究振興局長からの審議依頼)、「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」(環境省自然環境局長からの審議依頼)、「科学的エビデンスに基づく『スポーツの価値』の普及の在り方」(スポーツ庁からの審議依頼)の3件の回答がこれにあたります。審議依頼が行われると学術会議では、部を越えた分野横断的な委員会を設置して多角的な検討ができるようにしています。
 さらに、日本学術会議の審議の成果を広く公表するために、公開シンポジウム等を開催しています。新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、オンラインでの開催を進めています。

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問4-2 日本学術会議では、社会的に難しい課題について議論し、提言などの各種の文書をまとめているということですが、そのようなテーマについて、どのようにして提言をまとめていくのでしょうか?

 平成29年(2017年)10月から令和2年(2020年)9月までの第24期に日本学術会議が政府や社会に対して公表した各種の文書(「意思の表出」と呼んでいます)は政府関係機関からの審議依頼に対する「回答」が3件、各分野の分科会等が発出した「提言」が85件 、分科会等での審議の結果をまとめた「報告」が23件 にのぼります。またその時々の課題に応じて、会長談話や幹事会声明も出してきました。すべてこちらからご覧いただけます。
 扱うテーマとしては、例えば新型コロナウイルス感染症に関するものがあります。現在、新型コロナウイルス感染症の対策と感染症によってダメージを受けた社会経済の回復への対応が続いています。こうした状況においては、科学に裏づけられた政策がますます必要になっており、学術の立場から、具体的政策課題への貢献とともに、少し先の未来の社会を様々な角度から想定し、国と社会に提言していくことが、これまで以上に求められていると感じています。日本学術会議は24期において新型コロナウイルス感染症に関連して、幹事会声明と提言2本を発出するとともに、英語での情報発信も行っています。25期においても引き続き検討を進めることにしています。
 提言等は多段階のプロセスを経て作成され、発出されます。提言等の作成は委員会・分科会等において何回も審議を重ねながら行われます。作成された案は、まず委員会・分科会等が所属する部または委員会において、各部が指名する2~3名の査読者によって査読され、その査読結果に基づいて修正作業が行われ、委員会・分科会等が属する部または委員会の承認を受けます。その後に、案は幹事会に諮られ、そこで再度指摘・修正作業を行い、修正について了承を得た後、会長の最終確認を経て、はじめて公表となります。

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問4-3 日本学術会議は社会の緊急な要請に応える活動はしているのでしょうか?

 社会や学術全体へ影響を与える事柄について、専門的な知見を踏まえて日本学術会議としてタイムリーに「意思の表出」を行うことも重要です。
 日本学術会議として緊急に意思の表出を行う必要がある場合は、「幹事会声明」を出します。第24期の3年間では5件出しました。例えば、「医学部医学系入学試験と教育における公正性の確保を求める日本学術会議幹事会声明」、「『ゲノム編集による子ども』の誕生についての日本学術会議幹事会声明」、「日本学術会議幹事会声明:新型コロナウイルス感染症対策に関するみなさまへのお願いと、今後の日本学術会議の対応」などです。これらは、必要に応じて英訳され世界の科学者コミュニティと共有しています。
 また、学術会議に関する重要事項について広く社会へ意見を表明する「日本学術会議会長談話」があります。第24期では6件出しました。例えば、日本人ノーベル賞受賞に関することに加えて、「地球温暖化への取組に関する緊急メッセージ」、「新型コロナウイルス感染症に係るGサイエンス学術会議共同声明の公表」などです。
 提言は、問4-2に記したように、委員会・分科会での熟議を通して取りまとめられ、多段階の査読を経て公表されます。このため、通常は作成開始から半年以上の時間を要します。しかし、緊急性のある場合は、作成、査読のプロセスを加速し、2か月程度の審議を経て、緊急提言として発出します。その一つの例が、第24期に出されたサマータイム導入に関する提言です。本提言の作成開始時(平成30年(2018年)8月10日)の状況は、令和2年(2020年)東京オリンピックの夏季開催に向け、暑熱対策から与党内でサマータイム導入の議論が始まり、臨時国会で議員立法化の動きがあったものの、科学的議論となっておらず、判断が難しい状況でした。そこで、生物リズム分科会を中心に関連する分科会合同で緊急に審議を行い、すべてのプロセスを同年10月末までに終了し、提言「サマータイム導入の問題点:健康科学からの警鐘」を平成30年(2018年)11月7日に発出しました。日本学術会議の役割は、学術の立場から科学的根拠をもって審議し提言することです。その後サマータイム導入の動きは止まりましたが、日本学術会議は、社会の緊急な要請に対しても、できるだけ速やかに対応できるよう努めています。
 新型コロナウイルス感染症の拡大中への緊急対応については、政府内に設置されている新型コロナウイルス感染症対策分科会、国立感染症研究所等が中心となっていました。日本学術会議としては、学術の立場から将来を見据えた検討を行いました。まず、第二部が中心となって「大規模感染症予防・制圧体制検討分科会」を令和2年(2020年)2月に設置するとともに、同年3月6日には国民一人ひとりが感染予防に取り組むことを求める幹事会声明を発しました。
 さらに「大規模感染症予防・制圧体制検討分科会」においては、日本学術会議の幅広い専門性を活かして、主に中・長期的な視点でwith/postコロナにおける感染症対策や社会のあり方について議論しました。テーマの社会的インパクトの大きさと学術の担うべき役割の重要性を踏まえ、分科会の設置(令和2年(2020年)2月)から第一弾「感染症の予防と制御を目指した常置組織の創設について」(同年7月)、第二弾「感染症対策と社会変革に向けたICT基盤強化とデジタル変革の推進」(同年9月、第三部と共同)の提言を、日本学術会議を上げて議論に取組み、連続して発出しました。また、学術フォーラム、公開シンポジウムを通して、科学者コミュニティおよび市民との対話を新型コロナウイルス感染症に関係する様々なテーマに応じて推進しています。あわせて、ホームページで英語による情報発信も行っています。
【参考】各提言・声明等のHP掲載先
 ・幹事会声明「医学部医学系入学試験と教育における公正性の確保を求める日本学術会議幹事会声明―男女共同参画推進の視点から―」(平成30年(2018年)9月14日)
 ・幹事会声明「『ゲノム編集による子ども』の誕生について」(平成30年(2018年)12月7日)
 (英文)Statement by the Executive Board of the Science Council of Japan on “Genome-Edited Babies”
 ・幹事会声明「新型コロナウイルス感染症対策に関するみなさまへのお願いと、今後の日本学術会議の対応」(令和2年(2020年)3月6日)
 (英文)Statement from the Executive Board of Science Council of Japan: A Request on Measures Against Coronavirus Disease 2019 (COVID-19), and Future Activities of Science Council of Japan
 ・会長談話「『地球温暖化』への取組に関する緊急メッセージ」(令和元年(2019年)9月19日)
 (英訳)Urgent Statement by the President of Science Council of Japan on Climate Change and Call for Action
 ・会長談話「新型コロナウイルス感染症に係るGサイエンス学術会議共同声明の公表に際して」(令和2年(2020年)4月8日)
 ・提言「サマータイム導入の問題点:健康科学からの警鐘」(平成30年(2018年)11月7日)

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問4-4 日本学術会議が出しているマスタープランとはどのようなものなのでしょうか?

 「学術の大型研究計画に関するマスタープラン」は、科学者コミュニティの代表としての日本学術会議が、各学術分野が必要とする学術的意義の高い大型研究計画を網羅し体系化することにより、学術の発展に寄与するとともに、我が国の大型研究計画のあり方について一定の指針を与えることを目的として策定するものです。
 学術会議は、マスタープランを期(3年に一度)ごとに策定しています。マスタープランを取りまとめるにあたっては、学術会議の会員・連携会員だけでなく、広く学会や大学等にも呼びかけて公募し、選考を進めます。学術大型研究計画のなかでも特に速やかに推進すべき計画は「重点大型研究計画」に選定されます。
 マスタープランの策定は第21期、平成22年(2010年)から始まり、第24期では、重点大型研究計画に31件、学術大型研究計画には、前期から継続されているものも含めて計161件が挙がっています。第24期の重点大型研究計画には、例えば、「データ駆動による課題解決型人文学の創成」、「統合ゲノム医科学情報研究拠点の形成」、「宇宙探査ミッションを支える宇宙技術実証プログラム」などがあります。
 マスタープランは、予算を伴うものではなく、真に学術的観点から作成されるものですが、我が国の学術政策、関係省庁、大学、研究機関等における具体的施策に活用されています。例えば、文部科学省では、科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会の「学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会」が、大型プロジェクト推進にあたっての優先順位を明らかにする観点から、学術会議がまとめたマスタープランを踏まえつつ、「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ」を策定しています。最新の第24期のマスタープランについては、学術会議のウェブページをご覧ください。
 ・第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2020)
 ・広報用パンフレット

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問4-5 日本学術会議は、重要な課題について分野横断的な議論ができることが特色であるということですが、どのような例がありますか?

 日本学術会議ならではの特色として、特定の分野を越えて分野横断的な問題やテーマに学術的な観点から対応できることがあります。
 例えば、声明「科学者の行動規範」(平成18年(2006年)、平成25年(2013年)に改訂)を発出して、日本の科学者全体が自覚すべき社会的役割等について啓蒙活動も行っています。この声明は、平成23年(2011年)の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、改めて科学者の在り方について検討し、科学的助言に関する科学者の役割についての検討を行ったものです。さらに、この声明を土台として、学術会議の協力のもとに、日本学術振興会より「【テキスト版】科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―」が刊行されました。この冊子は、研究倫理教育の教科書として幅広く活用されています。
 また、学術会議では、文部科学省からの審議依頼を受けて、平成22年(2010年)に、回答「大学教育の分野別質保証の在り方について」を取りまとめました。その後、この回答で示された枠組みに沿って、学術会議のすべての分野別委員会により、各分野の参照基準が作成・公表されました。これらの参照基準は、大学の教育課程(カリキュラム)を作成する際の基準となるものです。
 政府からも、従来の議論の切り口では不十分な新たな社会的課題について、日本学術会議の横断的な議論に期待して日本学術会議に審議依頼が行われています。例えば、回答「人口縮小社会における 野生動物管理のあり方」、回答「科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及の在り方は、それぞれ環境省とスポーツ庁からの審議依頼を受け、専門分野横断的に日本学術会議として検討して回答を行ったものです。

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問4-6 日本学術会議の活動として、科学の役割についての啓発活動が含まれているそうですが、具体的にはどんなことが行われていますか?

 代表的なものに「サイエンスカフェ」があります。サイエンスカフェとは、科学の専門家と一般の人々が、カフェなどの比較的小規模な場所でコーヒーを飲みながら、科学について気軽に語り合う場をつくろうという試みです。今では様々な組織がサイエンスカフェを行っていますが、この活動の普及には、学術会議が大きな役割を果たしてきました。平成28年(2016年)からは、大都市圏だけでなく全国に展開することを目的として、「全国縦断サイエンスカフェ」を実施しています。これまでに、北海道、青森、宮城、東京、神奈川、石川、長野、三重、京都、大阪、兵庫、島根、岡山、広島、香川、愛媛、高知、鹿児島、沖縄で開催されました。詳しくは、学術会議のウェブページをご覧ください。
 他には、学術会議の幹事会メンバーが地方に出かけて行って開催する「地方学術会議」の活動もあります。詳しくは、問4-7を参照してください。

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問4-7 日本学術会議には、「地方学術会議」という活動があるということですが、具体的にはどのようなことが行われていますか?

 「地方学術会議」は、地方における学術振興を促進し、もって日本の学術のさらなる発展と地方創生への貢献を図るために、平成30年(2018年)から開催しているものです。会長をはじめ幹事会メンバーが各地に出かけて、科学者のみならず地域のリーダー等を巻き込んだ意見交換を通じて地域の課題の解決に貢献したり、若い世代の科学に対する興味・関心を喚起したりするような企画を実施しています。日本学術会議in京都「伝統文化と科学・学術の新たな出会い」に始まり、最近では日本学術会議in山口「AI戦略の地方への展開」まで4回開催されています。詳しくは、学術会議のウェブページをご覧ください。

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問4-8 日本学術会議には、「地区会議」とよばれる組織があるということですが、どのようなことが行われていますか?

 日本学術会議には、国内各地の地域社会における学術の振興を目的として「地区会議」を設置しています。これはそれぞれの地域に勤務ないし居住する会員と連携会員から構成され、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄の7つの地区があります。
 各地区会議では、それぞれの地域の科学者や研究機関等と協力しながら地域に密着したシンポジウムや学術講演会を開催したり、機関紙(地区会議ニュース)を発行したりして、学術の普及に尽力しています。例えば、第24期に行われた北海道地区会議主催の学術講演会「スポーツ・科学・社会」では、札幌に拠点を置く日本ハムファイターズの元コーチにも講演者に加わっていただきました。

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問4-9 日本学術会議のなかに、若手アカデミーがあるということですが、どのような組織でどのような活動をしているのですか?

 日本学術会議の45歳未満の会員または連携会員のうちから積極的な参加意思を持つ者が選考され、年齢、学問分野、男女比などのバランスに配慮して構成されています。広く内外の若手科学者との連携を図りつつ、若手科学者ネットワークの運営、若手科学者の視点からの提言、若手科学者の意見収集と問題提起、国際交流、産業界・行政・NPO等との連携、科学教育の推進などを任務としています。具体的な活動として、地方学術会議、筑波会議、STS Forum(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム)、Gサイエンス学術会議、S20(サイエンス20)、GYA(Global Young Academy)、WSF(World Science Forum)、INGSA(政府のための科学的助言に関する国際ネットワーク)、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)への参加や若手研究者支援パッケージに関する科学技術担当大臣との意見交換を行うほか、独自のシンポジウムやワークショップを日本各地で実施してきています。(若手アカデミーのウェブページ

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