日本学術会議に関するQ&A/3.日本学術会議の位置づけに関すること

      

3.日本学術会議の位置づけに関すること

問3-1 日本学術会議法とはどのような法律なのですか?

 敗戦後の我が国が貧困な資源、荒廃した産業施設等の悪条件を克服し、文化国家として再建すると共に、世界平和に貢献し得るためには、是非とも科学の力によらなければならないとの問題意識がありました。また、従来、個々の研究においては優れた成果が少ないとは言えないにも関わらず、その有機的、統一的な発達が十分ではなく、全科学者が一致協力して現下の危機を救い、科学の進歩に寄与し得るような体制を欠いていたという反省もありました。そこで、全国の科学者の緊密な連絡協力によって、科学の振興発達を図り、行政産業及び国民生活に科学を反映浸透させるための新組織を国の審議機関として確立することを我が国の科学振興の基本的な前提と位置づけ、昭和23(1948年)年7月に「日本学術会議法(昭和23年法律第121号)」が制定され、昭和24年(1949年)1月に日本学術会議が設立されました。日本学術会議の活動は、この法律に基づいて実施されています。

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問3-2 学術会議は内閣府に設置され、100%国費で運営されている組織なのに、政府と独立して活動を行うとはどういうことなのですか?

 日本学術会議法第2条で日本学術会議は、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする」ものとされ、内閣府設置法で「別に法律の定めるところにより内閣府に置かれる特別の機関」(第40条)として位置づけられています。さらに日本学術会議法の第3条は「日本学術会議は、『独立して左の職務を行う』」として「一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」、「二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること」と定めています。このように、日本学術会議の独立性は法によって定められています。
 「学術会議の独立性」の意味について、科学技術担当大臣のもとに設けられた「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」は平成27年(2015年)の報告書「日本学術会議の今後の展望について」のなかで、「真に学術的な観点に立った見解を提示する上で、非常に重要な要素」であると述べています。この報告書によれば、「近年、学術には、地球環境問題をはじめ、1つの専門分野の知識のみでは解決できない複雑な問題について、様々な分野の知識を統合し、解決に向けた選択肢が求められている」のであり、そのために時々の政治的判断から独立して「真に学術的な観点」に立った日本学術会議の役割の重要性がますます高まっている」とされています。学術会議が社会における様々な課題について、忌憚なく議論し、意見を発出することは、学術に対する国民の期待に応え、民主主義の充実に寄与する営みなのです。

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問3-3 多数ある学会や協会の活動と日本学術会議の活動は何が違うのでしょうか?

 学会や協会は、専門性の高い科学者が集まり学術交流する場であり、一方、日本学術会議は人文・社会科学、生命科学、理学・工学の幅広い分野の科学者の代表が集まって分野を越えた議論ができる場です。学術会議への協力団体として登録している学会等(協力学術研究団体)は現在約2,000団体です。学術会議は日本の科学者の内外に対する代表機関として、海外のアカデミーとの協働・連携を行うとともに、国内的には多くの学会連携の中心となり、ネットワークづくりに大きな役割を果たし、学会等は学術会議を通して国内の多くの学会等との連携協力の推進、国際的連携活動を進めています。日本の学術の世界レベルでの発展を目指す上でも、学術会議の役割は重要です。
 日本学術会議ならではの特色として、特定の分野を越えて分野横断的な問題やテーマに学術的な観点から対応できることがあります。例えば、声明「科学者の行動規範」(平成18年(2006年)、平成25年(2013年)に改訂)を発出したり、文部科学省からの審議依頼を受けて、平成22年(2010年)に、回答「大学教育の分野別質保証の在り方について」を取りまとめたりしてきました。また、各学術分野が必要とする学術的意義の高い大型研究計画を網羅し体系化することにより、学術の発展に寄与するとともに、我が国の学術大型研究計画のあり方について一定の指針を与えることを目的として、「学術の大型研究計画に関するマスタープラン」を期(3年に一度)ごとに策定しています。

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問3-4 学会等と日本学術会議の連携活動にはどのようなものがありますか?

 科学技術の発展とともに学術の世界は専門分化が進み、日本には2,000を超える多くの学会等ができました。一つの学問分野においても複数の学会が存在し、重要な議論がそれぞれの学会内で行われがちであり、学問分野に共通する課題を議論する場が求められています。このような背景から、日本学術会議は、分野ごとの学会ネットワークづくりに寄与してきました。例えば、日本歴史学協会(81学会)、日本経済学会連合(63学会)、生物科学学会連合(32学会)、日本歯学系学会協議会(93学会)、日本地球惑星科学連合(51学会)、日本化学連合(14学会)などです。学術会議は、これらの学会連合とともに多くのシンポジウムを開催するなど、長年にわたり連携して活動してきました。
 私たちの周りには、地球環境、人口問題、エネルギー問題、自然災害など、異なる分野の学会等が力を合わせて取り組むべき課題が多くあります。学術会議は、学会の縦割りを越えて、専門家の力を結集し、これらの課題解決に力を尽くしています。例えば、東日本大震災を契機に、日本学術会議を要として、防災に関わる58の学会が集まり「防災学術連携体」を結成しました。平常時から学会間の相互理解を深め、災害時には政府・自治体・関係機関との連携を図り、学術界から正確な情報発信と的確な対応に努めています。自然災害が激甚化するなかでこれまで多くの実績をあげてきました。
 また、例えばゲノム編集、AI 技術など、生命科学、理学・工学だけでなく、人文・社会科学の視点から多面的に検討すべき重要なテーマがあります。学術会議は、このようなテーマに関する科学者のネットワークづくりを担える唯一の組織として、その役割はますます高まっています。例えば、日本医学会連合( 129学会)は、今後の医学の重要な課題について、学術会議と連携して、文理融合の視点から多面的に協議する計画を進めています。

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問3-5 学術に関わる組織として、日本学士院がありますが、日本学術会議とはどのように違うのですか?

 日本学術会議は、日本学術会議法に基づき設立され、内閣府に設置されており、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし設立されています。わが国の科学者の内外に対する代表機関として、独立して、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること、科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること、を職務とし、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的としています。
 一方、日本学士院は文部科学省に設置されており、日本学士院法に基づき、学術上功績顕著な科学者を優遇するための機関とし、学術上特にすぐれた論文、著書その他の研究業績に対する授賞や、日本学士院会員が提出し、又は紹介した学術上の論文を発表するための紀要の編集及び発行等の事業を行うことを目的としています。
 学士院会員は終身制であるのに対して、学術会議会員の任期は6年です。顕彰機関である日本学士院と審議機関である日本学術会議とは役割がまったく異なります。

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問3-6 科学技術のあり方を審議する機関として総合科学技術・イノベーション会議というものがありますが、これは日本学術会議とはどういう関係にあるのですか?

 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は、内閣府設置法に基づいて設置された「重要政策に関する会議」(内閣府設置法第18条)の一つで、内閣総理大臣を議長に、科学技術政策担当大臣のリーダーシップの下で「科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策について調査審議」(同法第26条)しています。同会議は、現在策定が進められている「第6期科学技術・イノベーション基本計画」など、科学技術・イノベーションの計画的な推進を図っています。
 同会議は、閣僚、産業界や学識経験者からなる有識者、関係機関の長によって構成され、科学者の代表機関としての日本学術会議とは性格を異にしています。なお日本学術会議会長は関係機関の長として、総合科学技術・イノベーション会議の議員を務めています。
 学術会議の人文・社会科学系の第一部、生命科学系の第二部、理学・工学系の第三部の各部は基本計画の策定など、科学技術政策への科学者コミュニティの主体的かつ組織的な参加を行っています。例えば、学術会議では、提言「第6期科学技術基本計画に向けての提言」(科学者委員会学術体制分科会)を発出し(令和元年(2019年)10月31日)、CSTIでその内容を説明をしました。その結果として、提言の一部である若手研究者支援が「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」(CSTI、令和2年(2020年)1月)に反映されました。

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問3-7 日本学術振興会という組織がありますが、日本学術会議との違いは何ですか?

 日本学術振興会(学振、JSPS)は、「学術研究の助成、研究者の養成のための資金の支給、学術に関する国際交流の促進、学術の応用に関する研究等を行うことにより、学術の振興を図ることを目的とする」(日本学術振興会法第3条)とされています。独立行政法人で、独立した資金配分機関(ファンディング・エージェンシー)として科学研究費助成事業(科研費)をはじめとした研究助成事業、特別研究員事業などの若手育成事業、大学改革や大学のグローバル化への支援など多岐にわたる事業を積極的に実施し、研究者の自発的な研究活動を安定的・継続的に支援しています。
 これに対して、日本学術会議は、科学に関する重要事項を審議する機関であり、研究資金の配分などは行っていません。なお、日本学術振興会法の第16条には、文部科学大臣は、振興会の業務運営に関し、日本学術会議と緊密な連携を図るものとする、と規定されており、学術振興会の評議員として、学術会議の会長及び3部長の4名を推薦しています。

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問3-8 諸外国のアカデミーには民間や非政府組織が多いということですが、それらはどのように運営されているのでしょうか。また、国との関係はどのようになっているのでしょうか?

 各国のアカデミーの成立にはそれぞれの国ごとの事情や背景があり、設置形態もそれを反映していますから、あらかじめ「あるべき形」が決まっているわけではありません。王侯貴族の保護のもとで成立したもの、市民の創意のなかで生み出されたもの、あるいは国家の方針で設立されたものなど、様々です。そうした歴史的な経緯を反映して、アカデミーの設置形態は国ごとに異なりますし、予算のあり方や活動の内容も大いに異なることから、単純な国際比較をすることは困難です。
 なお、各国のアカデミーについてまとめたものは、少し古くなりましたが、日本学術会議でも調査研究を行い報告書を出したことがあります(国際協力常置委員会「各国アカデミー等調査報告書」平成15年(2003年))。
 令和2年(2020年)11月時点で入手できた最新の公開情報(決算書・HP等)によると、主要国の各アカデミーの状況は次のとおりです。
 例えば、世界のアカデミーでも長い歴史を持つ英国王立協会は、1660年に設立され、その後国王の勅許を受けました。これはcharityとされ、直訳すると公益団体となりますが、日本で言うNPO法人や新公益法人などに相当する団体の総称です。会員は外国人会員を含め、約1,700名おり、2018年度の年間予算は総額で約1.1億ポンド(約148.5億円)に達します。年により変動がありますが、そのうちの約7割程度が国からの助成金で賄われています。
 他方、比較的新しく1863年に議会令により設立された全米科学アカデミーは非営利組織ですが、会員約2,400人、外国人会員約500人を擁しています。全米科学アカデミーを含む、全米アカデミーズ(全米科学アカデミーに加え、全米工学アカデミー、全米医学アカデミーの三者で構成)は、2019年の年間予算は約4.5億ドル(約472.5億円)に達します。年により変動がありますが、5割から8割程度は国などからの公的資金で賄われています。
 ドイツでは、1652年に設立された自然科学アカデミーを起源とするドイツ科学アカデミーレオポルディーナが、独立した非営利組織のまま2008年に国家アカデミーとしてドイツ政府より認定されました。会員数は外国人会員を含め約1,600名であり、2019年の年間予算は約1,700万ユーロ(約21億円)で、そのうち約8割強が国などの公的資金で賄われています。

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問3-9 日本学術会議は海外のアカデミーと協力すると聞きましたが、どのようなことを行うのでしょうか。大学等も海外大学等と協定を結んで活動を行っていますが、それとは何が違うのでしょうか?

 日本学術会議は、日本の科学者の内外に対する代表機関として、学術会議発足時(昭和24年(1949年))から一貫して、国内の学会等をまとめ、海外のアカデミーとの協働・連携を促進し、強化してきました。個々の大学等が海外の大学等と行う連携との違いは、大学のような具体の研究等の協力ではなく、アカデミー間では学術的観点から国際的に問題等を討議する点です。
 まず、各国政府とは独立した国際学術団体にメンバーとして参加し、各国のアカデミーとともに、学術的観点から世界的に取り組むべき研究課題について討議を行い、その成果を交流し、必要に応じて、社会的な発信を行っています。例えば、学術会議が参加するインターアカデミー・パートナーシップ(IAP)(現在140ヶ国・地域以上の科学アカデミー等が加盟)は、新型コロナウイルス感染症に関して、ワクチンの開発と分配に関するコミュニケなどを発し、各国の政府やアカデミーに学術の観点から呼びかけをしています。
 地球規模の諸問題に取り組む生物学者の国際ネットワークである国際生物科学連合(IUBS)は、昭和24年(1949年)の加入以来、日本学術会議のメンバーが中心的役割を果たしています。地球規模の気候変動と生態系の変化、自然災害などに関連する様々な科学プログラムを推進し、最近ではUNESCOと協力して、気候変動の影響に関する教育アプリケーションの作成・普及も行っており、日本語のものも教育の場に提供される見通しです。
 G7/G8(主要国首脳会議)のアカデミーの間で連携するGサイエンス学術会議にも取り組んでいます。平成17年(2005年)以降、G7サミットに際し、サミット開催に先駆けてサミット参加各国のアカデミーが共同で、参加各国の政府首脳に対する政策提言をGサイエンス学術会議共同声明として取りまとめ、公表しています。日本学術会議が、日本のアカデミーを代表して、共同声明の取りまとめに向けた議論に参加しています。日本がG7の議長国を務めた平成28年(2016年)のGサイエンス学術会議会合では、日本学術会議が主催して2日間の会議を開催し、「脳科学」、「災害レジリエンス」、「未来の科学者」をテーマとする共同声明を取りまとめました。また、日本学術会議は、18か国・地域の32機関が加盟するアジア学術会議の取組をリードし、事務局(事務局長は日本学術会議会員等)も務めています。毎年度、各国持ち回りで会議を開催しています。
 さらに、日本学術会議では、世界の学術団体と連携し国際会議を開催するとともに、分担金の拠出や代表派遣を行っています。

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