International Cooperation for Development
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会議概要

会議声明

 2007年9月7~8日、「持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議2007」が東京で開催された。日本学術会議の主催で毎年開催されるこの会議は今回が5回目となる。本年のテーマは「国際開発協力」。出席者による発表ならびにその後の討議に基づき、以下の点について幅広い合意が得られた。

 国際開発協力は発展途上国の経済成長という面から検討されることがほとんどであるが、今日の世界は、気候変動、汚染の増加による環境悪化、生息地破壊、地震・津波・洪水などの自然災害に対する脆弱性の増大といった形で起こる新たな問題に直面している。その一部には都市部の人口増加や巨大都市の形成が関わっている。こうした新しい問題は発展途上国に対し特に被害を及ぼす可能性がある。旧ソ連圏諸国や中国も含め、今や世界のあらゆる国々が「グローバルな市場システム」に参加しつつあるため、立案すべき戦略は、競争の激しい市場経済の世界に適合したものでなければならない。

 地球温暖化は人間社会の未来に対する脅威となっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最近の報告書は、温暖化の主な原因が、化石燃料の使用によって人為的に排出される温室効果ガスであることを明らかにした。温暖化の経済的影響は全世界に及ぶが、中でも世界で最も貧しい人たちが多く住む熱帯地域の諸国にとって最も深刻な問題となることが予想される。これまで、自然環境(空気、水、生態系利用)は無料の財と見なされてきた。この結果は当然のことながら、GDPがほぼ世界中で伸びたにもかかわらず、環境面では自然資源が―資源そのものの減少と既存資源の質の低下の両面で―劣化するに至った。今や、社会は個々の自然資源に価格を設定する必要がある。国家の発展の度合いは、GDPではなく、その国の「すべての富」を反映した指標で測るべきである。すべての富という言葉で我々が表わしているのは、生産された資本(道路、建造物、機械)、人的資本(知識、技能、健康)、公的に知りうる知識、自然資本(大気、石油・鉱物、森林、生態系一般)といった、ある国の資本資産全体の社会的価値である。自然資本に対し価格を創出するためには、例えば財産権制度の変更などを通じて優遇措置を講じなければならない。しかし、多くの自然資源(大気、大規模な水塊など)は国境を越えた広がりを有する。こうした資源の効率的利用を維持するために創られるべき優遇措置には国際協力が必要だ。実際、国際協力がなければ、国際社会が持続可能な発展を実現するのはおそらく不可能であろう。

 人類の安全は貧困からの自由、恐怖からの自由によって達成され得る。紛争の原因を取り除くことが重要である。それにより、農業生産高の拡大、輸出産業の振興、社会的保護など保障制度の構築、人材開発による能力拡大など、より生産的な方向に努力を向けることができる。こうしたすべての取り組みにおいて不可欠なのは、たとえ当初は先進国からの多大な支援が必要だとしても、発展途上国が自発性を持ち、取り組みを独力で維持できるだけのシステムを構築することである。国や地域によって状況が違うということに留意するのも重要である。将来の方向性を探る上で、過去の成功体験(南アジアや東南アジアでの「緑の革命」、アジアの一部の国における労働集約型産業による経済成長など)は、今後進むべき方向を考える際によい手本となる(緑の革命の考え方をサハラ以南アフリカに応用するなど)。

 科学と技術はこれらの問題の多くに対して多大な貢献をなしうる。特に重要なのは、世界的または地域的な規模での危機を招く恐れがある自然発生的な現象(気候変動、自然災害、伝染病の発生・再発など)への対応力である。こうした現象の多くは非常に稀にしか起こらないが、実際に起こったときの損害は計り知れない。多くの場合完全な予測は難しいが、備えを持つことは極めて重要である。備えを持つために有効な手段は観察と監視である。科学的な情報を適切な時期に、理解しやすい方法で一般市民に伝えなければならない。科学界と政府がしかるべく連携すれば、情報を活用して市民の理解を深め被害を軽減する、あるいは発生が予想される災害に対して適応を図ることができる。そのためには調査研究、観測システム、情報伝達メカニズムなどに投資する必要がある。また、自然現象は国境を簡単に越えるので、国際協力(情報共有を含む)も欠かせない。

 国際協力を実りあるものにする上で、能力開発や統治は極めて重要な課題である。多くの場合、分権化が、中央政府と直結していない人々を訓練し、意欲を持たせる機会を提供する。過去の経験によれば、地方の自発性を促し、地方の人々に自らの問題を自らの手で解決する機会を与えた国際プログラムは、当初のプロジェクト終了後も地域社会に好影響を残すことが多い。失敗も時にあるとはいえ、発展途上国が持続可能な発展を実現するためには、その国独自のシステムを作り上げる必要があるのだから、そうした取り組みは推進すべきである。社会基盤の構築は、持続可能な自律システムを発展させる上で必須の要素であり、これらに対する先進国の援助は最優先されなければならない。

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