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2014年ニューロエソロジー国際会議 開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)2014年ニューロエソロジー国際会議
         (英文)2014 Joint International Congress of Neuroethology and Meeting of the Japanese Society for Comparative Physiology and Biochemistry (略称:2014 ICN / JSCPB)
(2)報 告 者 : 2014年ニューロエソロジー国際会議 組織委員長 岡 良隆
(3)主   催 : 日本ニューロエソロジー談話会、日本学術会議
(4)開催期間 : 2014年7月28日(月)~ 8月2日(土)
(5)開催場所 : 札幌コンベンションセンターおよび北海道大学学術交流会館(北海道札幌市)
(6)参加状況 : 32ヵ国/5地域・635人(国外407人、国内228人)


2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
ニューロエソロジー国際会議(ICN)は、国際ニューロエソロジー学会(International Society for Neuroethology: ISN)が1986年以来3年ごと(2010年以後は2年ごと)に開催する、国際会議である。1984年、日本・アメリカの行動生理学者・動物行動学者を中心ととしてISNが創設され、その第1回の会議を日本(東京、上智大学)で1986年に開催することとなった。この会議の成功により、脳科学・行動科学におけるニューロエソロジー(神経行動学)研究の重要性と、この分野における日本の研究者コミュニティーの多大な寄与に対する評価が確立するに至った。これを受けて、同会議終了後、国内におけるこの研究分野を発展させると同時にISNの受け皿としてはたらくために、日本ニューロエソロジー談話会(Japanese Association of Neuroethologists, JAN:会員約100名の国内連絡組織)が活動を開始し、今に至っている。一方、ICNは、以後3年ごとに主に欧米諸国を会場として開催され、毎回30-50名の日本人研究者が参加してきた。2010年3月、母体学会ISNは開催期間を2年ごとに変更すると共に、2014年の開催地を公募することとなり、ニューロエソロジー談話会JANは招致準備を開始した。2010年8月スペインで開催された第9回ICNの総会にて招致開催の提案を行い、投票の結果、北米の研究者が推す競合都市(エクアドル、キトー市)を抑えて、日本開催が第一位の票を獲得した。この結果を元に、ISN理事会は全会員に電子投票を呼び掛けたところ、電子投票においても日本開催が第一位の票を獲得した。これらを受けて、理事会は日本(札幌)開催を決定し、当時のISN会長ポール・カッツ(Paul Katz)は9月17日付電子メールにて、ISN全会員にこの決定を通知した。決定を受け、2011年9月までに、JANを拡大する形で国内実行委員会(Local Organizing Committee for ICN:LOC)を組織しISN理事会の承認を得た。その後、ISN理事会には日本より3名のJAN-LOC委員が参画し、密な連絡を取りながら準備を進めた。また、日本招致活動に際し、日本神経科学会・日本動物学会・日本比較生理生化学会・日本比較内分泌学会・日本動物心理学会・日本動物行動学会・計測自動制御学会・オーストラリア動物行動学会の協賛を得た。さらに、国際脳研究機構(IBRO)の活動とも連携し、IBROのアジアオセアニア支部に2014年ニューロエソロジー国際会議前のスクール開催を申請した結果、助成金を得ることができた。これにより、アジアオセアニア諸国から若手研究者計20名を集めて、国内外から講師を招聘して、神経行動学に関するスクール開催が可能となった。このように、本談話会JANは学会組織を持たないが、関連諸学会において主要な役職を担う研究者の連絡組織として機能し、本国際会議および関連するサテライトシンポジウムや公開講演会などすべての開催に関する全責任を持って準備・実施にあたった。

(2) 会議開催の意義・成果:
我が国及び世界の神経行動学の発展に寄与し、動物の脳と行動の進化に関する基礎科学の重要性に光をあて、人類の心とその健やかな発達を支える生物学的基盤の理解を促進することが会議の開催意義である。日本で開催する事によって、従来欧米を舞台として展開してきた統合的な行動科学・脳科学の中に、アジア各国の研究者を引き寄せ、研究の進展の場を設ける事を可能とすることを目指した。更に、急速に進展する周辺分野の研究者の注意を惹きつけて、新しい連携と共同研究の突破口を拓くことを期待した。さらに、市民公開講座を通して、動物の心に則した正しい動物福祉の理解を深めると共に、統合的な心と行動の理解を求める若者たちに向けて科学者への道のりを整える事を開催の意義と考えた。実際、海外からの400名を超える参加者を含めて600名以上の参加を得て、ICNおよび関連するすべての行事を成功裡に終えることができ、上述の開催目標を期待以上にかなえることができた。

(3) 当会議における主な議題(テーマ):「神経行動学の統合」
主要題目: 化学感覚(嗅覚・味覚)の情報処理、フェロモンと定位運動、環境センサーと化学生態学、バイオロボッティックス、学習の神経機構(刷り込み・さえずり・言語学習等)、微小脳の進化、ホルモン・神経修飾物質と行動、など。
さらに、日本で開催する事によって、(1)活力あるアジア太平洋地域の神経行動学分野の研究者の連携を呼びかけると共に、(2)関連する周辺分野(動物心理学・行動生態学・神経回路学・分子神経行動学・内分泌神経行動学など)の研究者の参入をテーマとした。

(4) 当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
国内外から600名を大きく超える参加者を得て、招待講演者10名、シンポジウム講演者74名、ポスター394演題の、最先端の神経行動学に関する研究発表を行った。特に、国内から従来のICN参加者の約5倍の多数の参加者を得て、若手を中心としてこの分野の研究の裾野を広げることに成功した。また、海外からは、国内参加者の2倍以上の多数の参加者を得ることができ、中でも、日本以外のアジアの各国から53名の参加者を得ることができたのは、ICN歴史上画期的なことであり、今回の日本におけるICNの開催がアジア地区におけるこの分野の研究者の発掘に大きく貢献できたと考えられる。さらに特記すべき事に、参加者のうち260名あまりが大学院生ないしポスドクという若手研究者であり、これはこの学問分野が次世代の若手研究者にとっても魅力的であり、これからさらに発展する可能性を秘めていることを物語っている。日本の当国際会議組織委員会は、本会議前の神経行動学IBROスクール、サテライトシンポジウム(Hokkaido Neuroethology Workshops 2014),社会心理学とのジョイントシンポジウム(Making of Humanities)、ICN2014本会議、および本会議後の公開講演会(動物行動の仕組みはどこまでわかったか?-神経行動学の世界へようこそ-)の全てにおいて、予想以上の参加者と高い評価を得て、上述の開催目標は十分に達成できた。また、今回の国際会議においては、従来はモデル動物と考えられて、あまりICN会議での発表・参加のなかった動物(線虫、ショウジョウバエ、マウス、ヒト、など)を用いた研究分野や、ロボティクスなどの研究分野など、日本が世界をリードしている分野の研究者の参画が目立ち、研究分野の多様化に果たした日本の役割も大きいと考えられる。実際、会議終了後の、ISN会員およびICN国際会議出席者へのアンケート調査でも、今回の国際会議は、今後の国際会議の良い見本となる、等と言った極めて高い評価を得ることができた。

(5) 次回会議への動き:
次回も今回掲げた研究テーマをさらに発展させるべく、生物材料の多様性において多くの研究者の注目を集めている、南米のウルグアイの首都モンテビデオで2016年に開催されることが、既に前回の2012年大会で決まっている。また、今回の札幌における国際会議の最後の総会において、次々回の開催候補地3カ国がアピールのための発表を行い、その後上述のアンケートにおいて、2018年の開催候補地としてオーストラリアのブリスベンが選ばれている。

(6) 当会議開催中の模様:
今回の国際会議では、日本開催の大きな意義として、従来ICNにほとんど参加実績の無かったアジアの諸国から、特に若手の研究者を参加させ、日本人の若手研究者との交流を図るとともに本会議への発表をしてもらうことにより、アジアオセアニア地区における次世代を担う研究者の開拓を図った。同時に、国際神経行動学会ISNの研究者層の多様化も諮るために、IBRO Advanced School of Neuroethologyというスクールを本会議の開始前に4日間開催し、アジアオセアニア諸国から若手研究者計20名を招待し、国内外から講師を招聘して、北大の大学院生TAの協力を得て、レクチャーおよび実習を実施した。上述したような多数の国内外の参加者を得て、極めて活発な国際会議が5日間にわたって開催された。初日のオープニングセレモニーに始まり、2回に分けてそれぞれ約200、計400近くのポスター発表を行い、この他、プレナリーレクチャー、および、3会場に分けて同時進行された多数のシンポジウムとMark Konishi博士記念シンポジウムを行った。こうして国際会議は大成功裡に終わり、閉会前に行われたISN総会において、本国際会議組織委員会、プログラム委員会、および北大を中心とする会場係のメンバー全てに対して、出席者全員のスタンディングオベーションによる最大限の賛辞をいただくことができた。総会では、Heiligenberg博士を記念した若手研究者のためのトラベル助成受賞者の表彰も行われ、その後会場を移して、参加者の9割近くがバンケットにも参加し、会議の幕を閉じた。さらに、本会議閉会翌日には、札幌市在住の中高校生を含む一般市民のために、北大キャンパスに場所を移して、公開講座が行われた。この公開講座では、本会議でプレナリーレクチャーの講演者を務めたブリストル大学のRoberts博士も日本語訳のスライド付きの一般向け講演を行ったほか、神崎・川崎両博士による講演や、実験動物や脳の標本を用いて顕微鏡や測定機器を使った実習を行い、中高校生を含む一般市民に神経行動学のおもしろさを体験してもらうことができた。

(7) その他特筆すべき事項:
日本の神経行動学者が国内で研究成果を発表する場合、日本比較生理生化学会(Japanese Society for Comparative Physiology and Biochemistry, 略称 JSCPB)をその場とする事が多い。また、JAN世話人会のメンバーの多くが、JSCPBの会長・副会長を初めとする中核的な会員として活動している。そこでJSCPBでは、2014年の年会としては ICN前日に総会と受賞者講演会のみを行い、会員の研究発表は本国際会議2014 ICNに合流して行った。大会ホームページやプログラムに表記する名称としては、2014 ICNと2014 JSCPB年会の両方を包括した名称、すなわち2014 Joint International Congress of Neuroethology and Meeting of the Japanese Society for Comparative Physiology and Biochemistry(略称2014 ICN / JSCPB)とした。国際会議終了後に行われたアンケート結果においても、この方式は大変高く評価され、今後のICN国際会議を実施する際のやり方のひとつとして強く推奨すべきだという意見もあった。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:2014年8月2日(土) 9:00~13:00
(2)開催場所:北海道大学札幌キャンパス 学術交流会館 第1会議室
(3)主なテーマ:神経科学と動物行動学の最前線に触れてみよう!
(4)参加者数、参加者の構成:参加者総数31名、うち小学生1人、高校生7名、大学生・大学院生14名、一般9名
(5)開催の意義:今回のICN国際会議に参加し、プレナリーレクチャーや招待講演などを行った、世界をリードする日本(神崎)、米国(Kawasaki)、英国(Roberts)の神経行動学の研究者から、主に札幌在住の、生き物に興味がある中学生・高校生や一般市民のために、研究の世界を分かりやすく解説してもらった。それに加えて、これらの研究者が実際研究に用いている動物やロボット、コンピュータ上で動く神経回路の実物を展示したり、動物の行動を計測するところを実演したりしてもらった。このように、第一線の研究者に、実物を交えて中高校生にもよくわかるような研究の話をしてもらうことによって、次世代の若い人たちにこの分野の研究のおもしろさを実感してもらうと共に、一般市民に対しても、このような基礎科学研究に対する理解を深めてもらうというところに重要な意義があった。
(6)社会に対する還元効果とその成果:時間内で質問の全てに答えることが難しいほどの大きな反響をもらった。これにより、若い世代を含めた一般市民にこの分野の研究に対して興味を持ってもらうと同時に、理解を深めてもらう、と言う当初の目的は達成できた。また、こうした、開催国の言語による、開催地の一般市民に対する公開講演を国際神経行動学会ISNが主催者に加わって実施する、ということは、ISN学会の本部から提案されて、今回の札幌における国際会議ICN2014において初めて実現された試みであった。その意味でも、本公開講座は、今後のICN国際会議実施上の良い模範となることができた。
(7)その他:公開講座において実物に触れることによって興味と理解を深めるために、講演者の先生方には、研究に用いている実際の動物(神崎、川崎)や測定器などをもってきてもらうと同時に、顕微鏡標本などももってきてもらった(Roberts)。さらに、オリンパスメディカルサイエンス販売株式会社の協力を得て、生物顕微鏡や実体顕微鏡を借りて、実験スペースも設けた。これにより、参加者が実体験を通じて生き物の行動のおもしろさや不思議さに触れることができ、より大きな効果を上げることができた。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
まずは、国際会議の会場として用いた札幌コンベンションセンターの会場費の多くの部分の支払に関して学術会議から大きな援助を受けたことは、参加費だけでは到底まかないきれない国際会議開催費用の調達に最大限の助けとなった。会場の札幌コンベンションセンターは、その規模や設備・スタッフの点において優れていることに加えて開催組織の現地スタッフが主に所属する北海道大学からの会場の便も相まって、会議終了後のアンケートにおいても、大変高い評価を受けることができた。したがって、学術会議の協力を得ることによりこの会場を使用できたことが、当国際会議を成功裡に終えることのできた大きな要因である。それに加えて、安倍首相からのメッセージや、春日副会長からの挨拶をいただいたことに象徴されるように、この国際会議が、国を挙げて国際化を目指す日本の科学政策の方向性にも合致し、大きなサポートを得たものである事が参加者一同に理解されたことは、共同主催の最大の成果ということができよう。

(オープニングセレモニー) (スクールの実習風景) (ポスター会場でのディスカッション)
(オープニングセレモニー) (スクールの実習風景) (ポスター会場でのディスカッション)

(プレナリーレクチャー) (若手研究者に対するハイリゲンベルグ旅費助成受賞者) (バンケット)
(プレナリーレクチャー) (若手研究者に対するハイリゲンベルグ旅費助成受賞者) (バンケット)

(公開講座講義風景) (公開講座実習風景)
(公開講座講義風景) (公開講座実習風景)


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