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第1回世界加速器会議
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)第1回世界加速器会議
         (英文)The First International Particle Accelerator Conference (IPAC’10)
(2)報 告 者 : 第1回世界加速器会議組織委員会委員長 生出 勝宣
(3)主   催 : 社団法人日本物理学会、日本加速器学会、社団法人日本原子力学会、日本学術会議
(4)開催期間 : 平成22年5月23日(日)~ 5月28日(金)
(5)開催場所 : 国立京都国際会館(京都市)
(6)参加状況 : 32ヵ国/地域・1,244人(国外871人、国内373人)

2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
 当会議が開催されるまでは、粒子加速器に関する国際会議は、北米、欧州及びアジアにおいて、(北米)加速器会議(Particle Accelerator Conference:PAC)、欧州加速器会議(European Particle Accelerator Conference:EPAC)及びアジア加速器会議(Asian Particle Accelerator Conference:APAC)という名称で、それぞれ独立に開催されてきた。しかし平成19年6月に米国で開かれた、国際加速器会議連合(International Association of Particle Accelerator Conferences:IAPAC)の会合において、これら3つの会議を世界加速器会議(International Particle Accelerator Conference:IPAC)としてひとつに纏め、これら3つの地域を3年周期で移動して、全世界で統一的に開催するという日本の主張が認められ、その第一回目を日本で開催することが決定された。この背景には大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構のBファクトリー加速器が世界最強の加速器として多くの物理成果を生み出しており、また大強度陽子加速器施設(J-PARC)や、RIビームファクトリー、X線自由電子レーザーといった世界最先端の施設が稼動を始めようとしていたこと、世界規模の共同研究プロジェクトである国際リニアコライダーに関しても、我国が積極的に貢献していたことがある。さらに、SPring-8やフォトンファクトリーに代表される放射光利用による研究においても日本が世界の最先端であり、基礎科学以外にも、加速器は粒子線がん治療など、医学分野でも利用が進められ、粒子線によるがん治療では我国が世界をリードしつつあることが、日本での開催の要望を高める要因となった。
(2)会議開催の意義:
  粒子加速器は、素粒子・原子核物理学の実験において、中核をなす装置であり、それを学問的に研究する加速器・ビーム物理学は、さまざまな先端技術からビームの物理までを含んだ、非常に幅広い学問分野である。特に、最近は国際リニアコライダー計画や、高エネルギー加速器研究機構のBファクトリー加速器のアップグレード(SuperKEKB)、欧州合同原子核研究所(CERN)のLarge Hadron Collider(LHC)の運転開始と、加速器分野において今までよりも一層の世界的協力体制が必要となっている。この時期に全世界が一体となって、この分野の中心となる国際会議を開催した事は、今後の加速器科学のみならず、物理学にとっても、誠に時宜を得たものであった。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
 「素粒子・原子核等の基礎物理学からがん治療等の応用に至る加速器の発展の現状と今後の展望を世界の共通認識とする」をメインテーマとして、円形加速器、ハドロン加速器、加速器応用、リニアコライダー、ビーム計測、放射光・自由電子レーザー、ビームダイナミクス、企業への技術移転、新加速技術等。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
 我国及び世界の加速器の研究及びその応用の発展に大きく寄与することができた。素粒子・原子核を初めとする基礎物理学から蛋白質の構造解析、更に粒子線によるがん治療に至る加速器ビームの応用にいたるまで、様々な研究発表と活発な議論により、これまでより一層、研究者間の交流及び情報交換が行われ、共同研究が促進された。また、この第一回目の会議をアジアの日本で開催することで、我国のみならず広くアジア各国の粒子加速器に関する研究成果を、全世界にむけてアピールすることができ、また同時に日本のリーダーシップが確認された。
 また、当会議では100名近い国内外の学生や若手研究者を招聘する事ができた。彼らの中には外国の国際会議に初めて出席した者も多く、彼らにとって加速器科学の最前線で活躍する研究者の発表を目の当たりにし、また世界第一級の研究者と直に話す機会が与えられた事は非常に有意義であった。この分野の若手研究者養成も、当会議の重要な目的の一つでもある。
(5)次回会議への動き:
  第2回目は2011年9月、スペインのサンセバスチャンに於いて第2回世界加速器会議が開催される事が既に決まっている。世界加速器会議はこの分野の全体会議であるため、テーマは基礎物理学から加速器の応用に至るまでの全てのテーマを網羅する。加速器はますます複雑化、高度化、多様化して発展し続けており、こうした進化を絶えずとらえながら、発表題目は自から決まっていくとも言えよう。
(6)当会議開催中の模様:
 5月23日の初日は夕刻からStudent poster sessionがあり、120件余りの発表があったのを皮切りに、翌24日の開会式の後、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY) のA. Wagner氏による”International Collaboration with High Energy Accelerators”と題された招待講演があり、加速器分野の歴史から今日の国際プロジェクトへの取り組みまでが報告された。これを始めとして、最終日の28日までに約100件の口頭発表、約1500件のポスター発表があり、企業展示も盛況であった。
 口頭発表は京都国際会館のメインホールと2階の会議場Aの2会場で、一部をパラレルにして行われ、3000平米を有するイベントホールでは、ポスター発表と企業展示が行われた。ポスターはここだけでは足りず、他に2会場を使用しており、企業展示も第2会場を作っている。その他にもサテライトミーティングが2つ、企業セミナーが1つ、IPAC関連の委員会がいくつか行われており、広い京都国際会館のほぼ全館を借り切った状態であったが、どの会場も参加者で溢れ、至る所で活発な議論や交流が見られた。
 5日目の5月27日(木)の午後には会議の母体国際学術団体IAPACを代表して、アジア将来加速器委員会(Asian Committee for Future Accelerators:ACFA)から最近で最も重要かつ独創的な研究を行ったとして、若手部門ではブルックヘブン国立研究所のMei Bai氏、全体部門では中国清華大学のJie Wei氏、この分野で特に際立った功績を挙げたとして、欧州合同原子核研究所(CERN) のSteve Myers氏が表彰され、それぞれ講演を行った。これに引き続き会議の運営、プロシーディングスの編集に貢献したJACoWチームの表彰及び初日のStudent Poster Sessionの審査に合格した2名に賞が授与された。引き続き、茶道裏千家の千玄室大宗匠による“The Spirit of Tea”と題する日本文化に関する含蓄の深い特別講演が行われ、聴衆に深い感銘を与えた。プログラムの充実はもとより、参加者数や発表数が予想よりも遥かに多かった事、発表会場の設備の充実、組織立った運営に、参加者は非常に満足しており、今後もこの会議を毎年、亜欧米の順に開催して行く事が閉会式に於いても確認された。
(7)その他特筆すべき事項:
 世界が一体となり、毎年、亜欧米を3年周期でまわす全世界統一の加速器会議の開催を日本が提案したことは既に述べた。しかし、アジアのAPACは元々3年毎、北米と欧州のPACとEPACは2年毎の開催であったため、それらを3年毎に変える事をまずは説得しなければならなかった。また、PAC、EPACが毎回、約1,000名前後の参加者を集めているのに対し、APACは300名規模であったため、果たしてアジアでの開催で欧米規模の参加者を集められるかとの懸念もあった。しかし、加速器科学の分野でもCERNのLHCや国際リニアコライダー計画のような国際的な協力の下に行う巨大プロジェクトが進行しており、今後もますます国際協力体制が必要になるとの共通の意識があり、世界加速器会議を提案した日本に対する欧米の数名の委員の後押しも手伝って、第一回目を日本で開催するという国際加速器会議連合の決定にこぎつける事ができた。
 また、IPAC’10を名実共に全世界的なものにするため、国際組織委員会はもちろん、特にプログラム委員会の委員はアジアからの委員50%と欧米からの委員50%で組織されたことも全世界からこの会議が支持され、成功裏に終わった要因のひとつであろう。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成22年5月28日(金) 16:00~18:45
(2)開催場所:国立京都国際会館 大会議場
(3)主なテーマ、サブテーマ:加速器の果たす役割-基礎物理学からがん治療まで
(4)参加者数、参加者の構成:約400名、主として一般市民(高校生を含む)
(5)開催の意義:
 元放射線医学総合研究所所長の平尾泰男氏、京都産業大学教授の益川敏英氏からそれぞれ「重粒子線がん治療、過去・現在そして未来」、「学問を進めてきたもの」とのタイトルで1時間強の講演を頂いた。ノーベル物理学賞の受賞で脚光を浴びた益川氏の基礎物理学に関する一般市民に向けた丁寧な講演及び平尾氏の重粒子線がん治療の多数の実例を示した講演に聴衆は深く感銘を受けた様子であった。講演後は討論時間一杯まで活発な質疑応答がなされ、一般市民の基礎物理学や重粒子線がん治療に対する関心の大きさが感じられた。そして先端医療が加速器によって可能になる事を知った人も多く、一般にはあまり知られていない加速器科学の重要性を伝える好機となった。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
  加速器科学の分野は基礎物理学から最先端の応用まで非常に幅広い学問であり、実社会の色々な部分と関わりの深いものである。しかし、そうした事があまり一般には知られてこなかった。特に、当公開講座のように、世界第一級の科学者による基礎物理学と最新の加速器科学の医療への応用の講演を聞ける機会はめったにない。この機会を有効にするため、要所要所にポスターを貼るだけでなく、京都府及び京都市の教育委員会の後援を受けて、中学校、高校にもポスターを配布した。さらに、近隣の病院や公民館等にもチラシを置いていただき公開講座の周知に努めた。また、期日の前に記者会見を行い、いくつかの新聞に記事が掲載された。この結果、高校生を含む多数の参加があり、この学問の意義を一般に知らしめる絶好の機会となった。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 日本学術会議と共同主催になった事により、日本国内のみならず、外国に於いても学術的社会的な評価が高まった。運営面でも他の学術団体や大学・研究所からの協力も得る事が容易になり、国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)からも援助を受ける事ができた。この結果、若手研究者や学生を多く招聘することができ、加速器科学の将来を担う若手研究者養成に役立った。また、加速器科学の発展に日本国が力を注いでいる事を内外に示すことができた結果、今後のこの分野の発展に大きく貢献できたと自負している。また、学術会議との共同主催がなければ、当会議の成功の鍵である会場を設備、人的協力体制、京都という地の利の三拍子揃った京都国際会館に設定する事は容易ではなかったと考えている。


(ポスターセッション)

(セッション)

(バンケット)

(市民公開講座:平尾泰男氏の講演)

(市民公開講座:益川敏英氏の講演)


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