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第9回超伝導国際会議
1 開催概要
(1)会 議 名 : (和文)第9回超伝導国際会議
         (英文)Materials and Mechanisms of Superconductivity - IX(略称 M2S-IX)
(2)報 告 者 : 第9回超伝導国際会議組織委員会委員長 秋光 純
(3)主   催 : 社団法人日本物理学会、社団法人応用物理学会、日本学術会議
(4)開催期間 : 平成 21年9月7日(月)~ 9月12日(土)(6日間)
(5)開催場所 : 京王プラザホテル(東京都新宿区)
(6)参加状況 : 31ヵ国/1地域・950人(国外352人、国内598人)


                       (開会式の模様)                         (レセプションの模様)
2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
  本会議は、「国際純粋・応用物理学連合」(International Union of Pure and Applied Physics, IUPAP)の凝縮系委員会(Commission on the Structure and Dynamics of Condensed Matter)が3年ごとに開催する会議であり、超伝導現象を示す物質および超伝導機構に関する基礎的研究、およびその工学的応用について最新の成果を討議することを目的とする。
  第1回会議は、昭和63年スイスのインターラーケンにおいて行われ、その後、欧米、アジアの各都市において開催された。このうち、第3回会議は、平成3年に金沢において行われた。今回の第9回会議は2度目の日本開催となった。超伝導科学の分野では日本の寄与が大きく、特に物質科学においては最近、日本から多くの重要な超伝導物質は発信されており、今回の日本開催に向けての大きな原動力となった。
  IUPAPの凝縮系委員会は平成18年7月13日に第9回超伝導国際会議を平成21年に日本で開催することを決定した。これを受けて、社団法人日本物理学会と社団法人応用物理学会は、日本開催準備のために、第9回超伝導国際会議組織委員会を設置した。
(2)会議開催の意義・成果:
  超伝導とはある温度以下で金属の電気抵抗が消失する現象である。超伝導現象は固体中の電子が示す最も劇的な相転移として多くの物理学者・化学者を魅了してきた。一方、電気抵抗がゼロであるという性質はエネルギーロスのない電力輸送・貯蔵や強い磁場の発生など、従来の材料では達成できない応用分野を切り開き、新規のエレクトロニクス材料や優れた省エネルギー材料として広範な工学的応用が期待されている。しかしながら、超伝導状態へ転移する温度(転移温度)がきわめて低いことが応用を視点に入れる超伝導研究の長年の問題であった。ところが、1986年のミュラー博士とベドノルツ博士による銅酸化物高温超伝導体の発見により、転移温度は液体窒素温度(?200℃)を超え、超伝導研究は新しいフェーズに入ることとなった。本会議はこの発見を契機として始まったものであり、以来、超伝導転移温度の上昇、超伝導機構の解明、新物質探索を目指して、20年にわたり続けられてきた研究成果を発表する場となっている。
 銅酸化物超伝導体の超伝導は、これまで知られていた単純な超伝導機構(BCS機構)で理解できないことはコンセンサスが得られたといってよい。しかしながら、BCS機構に代わる新しい超伝導機構の同定は、いまだ解決には至っていない。高温超伝導機構の問題は20世紀から21世紀にバトンタッチされた物理学の最大の難問のひとつである。超伝導機構の解明はさらなる高い転移温度につながる可能性をもち、室温超伝導の夢に向けて活発な研究が行われている。
 銅酸化物超伝導体の発見に触発されて、MgB2に代表される極めて転移温度の高い超伝導体やルテニウム酸化物、コバルト酸化物、分子性導体、重い電子系化合物などのBCS機構に従わない超伝導体が次々と発見されてきた。さらに昨年、東工大の細野グループにより、新しい鉄系超伝導体が発見され、その物質群は大きな拡がりを見せている。これらの物質群から、さらに高い転移温度の超伝導体を生み出し、BCS理論に従わない超伝導の学理を構築することが、新しい研究の流れとして着実に進展し、超伝導の基礎研究の分野はますます大きく発展しつつある。
 一方で近年の環境問題の深刻化やユビキタス社会へ向けた高度情報化の流れの中で、超伝導材料の実用化への要請はますます高まりつつある。銅酸化物超伝導体も約20年の研究を経て、ようやく市場への登場が始まりつつある。基礎研究ばかりでなく、実用へ向けた応用研究も活況を呈している。
 このような状況の下で、第9回超伝導国際会議が開催され、優れた講演や活発な議論が行われた。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
  (A) 銅酸化物高温超伝導の機構解明の進展
 伝導電子とボソン励起(格子・スピン)の結合、擬ギャップ状態、フェルミ面の二面性、 実空間不均一、ストライプ秩序、転移温度向上の指針
  (B) 鉄系超伝導体の発見と機構解明
 鉄系超伝導体の化学的性質、超伝導物性、母物質の物性、薄膜、臨界電流
  (C) 酸化物超伝導体
 ルテニウム酸化物、コバルト酸化物、オスミウム酸化物の超伝導、超伝導対の対称性
  (D) 炭素系超伝導体の展開
 ダイヤモンド、ナノチューブ、フラーレンの超伝導
  (E) MgB2超伝導体の展開
 マルチ超伝導ギャップの帰結、応用展開、ホウ化物超伝導体
  (F) 重い電子系超伝導体
  超伝導対の対称性、反転対称の破れた超伝導、量子臨界点超伝導
  (G) 分子性導体の超伝導
  超伝導対の対称性、金属絶縁体転移と超伝導
  (H) 新規超伝導体
  (I) 超伝導材料プロセス
 薄膜成長、超格子薄膜、バルクプロセス
  (J) 超伝導応用:パワー
 送電、超伝導磁石、電力貯蔵、モーター
  (K) 超伝導応用:デバイス
  SQUID、ジョセフソン素子、SFQ、超伝導Qビット
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
  本会議では、「超伝導現象の諸問題の総合的理解と室温超伝導への挑戦」をメインテーマに、新超伝導体の物質開発、鉄ヒ素超電導体の発見とその後の進展、銅酸化物高温超伝導体の超伝導発現機構、MgB2超伝導体の新展開、重い電子系や有機伝導体におけるエキゾチック超伝導、ダイヤモンドの超伝導機構、超伝導磁束の物理、薄膜・バルク試料の合成技術、実用技術の発展と展望、等を主要題目として、基調講演、総合講演、一般講演、ポスターセッションが行われた。参加者は世界31ヵ国、1地域から950人におよび、優れた発表と活発な議論が行われた。その結果、超伝導の物理と化学の理解が格段に進み、その工学的な応用に向けた大きな進展が得られた。
 本会議により得られた成果は、Physica C(エルゼビア・ジャパン株式会社)にプロシーディングとして出版され、参加者全員に配布される予定である。プロシーディングは冊子やネットワークを通して読むことが出来るので、会議に参加しなかった研究者にも広く公開されることになる。
  本会議は毎回3つの超伝導賞を与えている。今回の受賞者は、マティアス賞に細野氏、前野氏、カマリン オンネス賞にJ.C. シームス デイヴィス氏、アーロン カプチュルニク氏、ジョン トランクアーダ氏、 バーデン賞にデイヴィッド パインズ氏が選ばれた。各受賞者の受賞理由と記念講演に関する情報は、本会議のホームページに詳しく掲載されている。
  本会議の成功に関して、日本の超伝導研究者が果たした役割は極めて大きい。特に、鉄系超伝導における寄与は大きく、発見者である東工大の細野氏を筆頭に、多くの日本のグループから最新の研究発表が行われ、超伝導物質の化学的性質や超伝導現象の実験の進展、機構解明に向けた理論提案など、多くの優れた発表がなされた。超伝導分野における日本の優位性を示すとともに、今後の更なる日本の寄与を示唆するものとなった。
(5)次回会議への動き:
 本会議開催中、平成21年9月11日に国際諮問委員会・プログラム委員会が開催され、次回の第10回超伝導国際会議の開催について議論が行われた。米国・カナダ、中国、スイス、ニュージーランドの計4ヵ国から開催希望があり、それぞれの代表による会議誘致プレゼンテーションが行われた。これに対して質疑応答があり、投票の結果、次回会議は米国・カナダにおいて開催されることが了承された。正式にはIUPAP凝縮系委員会において決定される予定である。次回会議開催の予定は、平成24年であり、場所は未定である。
(6)当会議開催中の模様:
  本会議は、平成21年9月7日に参加登録が開始され、同日夕方から、歓迎式典が行われた。歓迎式典には300人以上の参加者があった。翌日午前9時に開会式が行われ、会議が始まった。開会式では、組織委員会委員長である秋光純氏の開式の辞のあと、主催者から、日本物理学会会長大貫惇睦氏、応用物理学会会長石原宏氏、日本学術会議副会長唐木英明氏の挨拶があった。さらに国際母体団体IUPAP会長潮田資勝氏の挨拶があり、内閣総理大臣メッセージが披露された。最後に、前回会議の組織委員長であるヨルグ・フィンク氏の来賓祝辞により締めくくられた。その後、3つの基調講演が行われ、午後には5つのパラレルセッション、および、ポスターセッションが行われた。夜には、招待講演者を囲んで歓迎パーティーが行われた。
  会議2日目には午前中に3つのパラレルセッションがあり、午後には5つのパラレルセッションが行われた。その後ポスターセッションがあり、夕方から、3つの賞の受賞セレモニーと受賞者による記念講演会が行われ、多くの参加者があった。
  会議3日目は2つの基調講演に始まり、3つのパラレルセッションが行われた。午後にはエクスカーションがあり、好天の中、参加者は富士山ツアーなどを楽しんだ。夜にはバンケットが開催され、200名以上の出席があり参加者間の友好が深められた。また、特別セッションとして、「Gender Issues in Physics Research」が開催され、物理学分野における女性研究者のおかれた様々な問題について議論が行われた。
  会議4日目には2つの基調講演、パラレルセッション、ポスターセッションが行われた。その後、国際諮問委員会・プログラム委員会が開催され、本会議についての説明と意見交換が行われた。さらに次回の第10回超伝導国際会議が米国で行われることが決まった。
  会議最終日には基調講演、パラレルセッションに引き続き、総括講演が行われ、本会議で行われた発表や成果についてまとめた講演がなされた。午後には一般の市民に会議の成果を広く知ってもらうために、市民公開講座が隣接の工学院大学において開催された。
(7)その他特筆すべき事項:
  本会議の日本開催は、前回会議のドレスデンにおいて国際諮問委員会・プログラム委員会で議論され、インドと日本の2国が名乗りを上げた結果、投票により日本開催が認められた。これまでの超伝導科学分野における日本の大きな寄与が国際的にコミュニティーに支持されてのものである。正式にはIUPAP凝縮系委員会において平成18年7月13日にその開催が了承された。
  本会議の開催にあたり、会議を有意義なものとするため海外の多くの研究者から意見を募った。また、日本国内の20名の研究者からなる運営組織委員会を立ち上げ、さらに実行委員会により会議の準備を行った。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成21年9月 12日(土)14時~17時
(2)開催場所:工学院大学新宿キャンパス アーバンテックホール
(3)主なテーマ・サブテーマ:
 「未来を変える新しい物質の科学」と題し、現代の科学技術を支える物質科学および物性物理学を俯瞰し、易しく市民に紹介することを主たる目的とした。このうち、マサチューセッツ工科大学教授・元米国物理学会会長であるミルドレッド ドレッセルハウス女史による"Some Future Grand Challenges to Condensed Matter and Material Physics" (邦訳「未来へ―物質科学の大いなる挑戦」)と題された講演においては、物質科学の基本概念である'emergent'(創発的)の概念が明快に解説され、生命科学や環境科学へと裾野を広げつつある物質科学の俯瞰講演が行われた。また、青山学院大学教授秋光純氏による「新しい超伝導の夢を追って」と題された講演では、物質の階層性における物質科学の位置づけが行われた後、超伝導研究の歴史から最先端研究の現状及びその応用例が丁寧に解説された。
(4)参加者数、参加者の構成:外国人を含む一般市民200人が参加。
(5)開催の意義:
 われわれの身の回りの物質を対象とする学問である物質科学は、物理学と化学の境界領域にあり、一般市民にとって馴染みのある学問であるとは言いがたい。本公開講座では、この分野のリーダーである2氏により「物理学者には物質はどのように見えているのか」を平易に解説してもらい、物質科学の魅力を広く市民に知ってもらうことができた。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 今回、超伝導国際会議では、活発に研究活動が進められている超伝導現象の理解、新物質開発の学術研究の発展を押し進めると同時に、超伝導応用技術研究のセッションを数多く設け、その成果が社会に還元されることを見据えて開催された。公開講座は、これらの成果を広く社会に発信する場と位置づけられ、超伝導を含む物質科学の現状とその未来展望を中学・高校生などの若い人々に伝えることができた。また、女性研究者であるドレッセルハウス女史の講演は、自然科学研究を志す若い女性研究者や女子学生を多いに激励するものであった。
(7)その他:
 本公開講座において、ドレッセルハウス女史の講演は英語で行われたが、一般市民を対象とするため東京理科大学、福山秀敏教授による通訳および平易な解説を随時行う、という試みをとった。これは単なる通訳に留まらず、講演者と通訳者による議論なども行われ、聴衆の理解を深めるのに大いに役立った。
(市民公開講座の模様)

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 本会議は、日本学術会議が加入する国際学術団体「国際純粋・応用物理学連合」の凝縮系委員会が3年ごとに開催する国際会議である。今回、日本学術会議との共同主催となったことにより、日本政府が超伝導科学の分野を支援していることを国内外に示すことができ、かつ、国内外の著名な研究者を招へいし、最新の研究成果を確認し合うことができた。
  一方、会議運営においても、日本学術会議との共同主催であることはあらゆる面において有利に働き、多くの団体、個人からの援助を得ることが出来た。また、開催された市民公開講座は極めて盛況のうちに行われ、会議の成果を広く社会へ発信するために役立った。

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