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第10回国際樹状細胞シンポジウム開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 : (和文)第10回国際樹状細胞シンポジウム
         (英文)The 10th International Symposium on Dendritic Cells (DC2008)
(2)報 告 者 : 第10回国際樹状細胞シンポジウム組織委員会会長 古江 増隆
(3)主   催 : 日本樹状細胞研究会、日本学術会議
(4)開催期間 : 平成 20年10月1日(水)?平成20年10月5日(日)(5日間)
(5)開催場所 : 神戸国際会議場(兵庫県神戸市)
(市民公開講座)神戸国際会館(兵庫県神戸市)
(6)参加状況 : 33カ国/1地域・727人(国外417人、国内310人)

2 会議結果概要
(1)会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:

 当国際会議は、国際樹状細胞シンポジウム(International Symposium on Dendritic Cells:略称ISDC)が2年ごとに開催する会議であり、全世界の樹状細胞研究者がその研究成果を発表し、 交流を図る樹状細胞分野の基幹となる国際会議である。樹状細胞の定義・概念に関して世界的に一致した見解がなかった中、一致した定義・概念を共有し、研究活動の推進を要望する機運が高まり、 1990年6月に第1回の会議が日本(山形市)で開催されることになった。その後、各国での開催を経た後、2004年10月の国際樹状細胞シンポジウム(ベルギー・ブルージュ)の国際諮問委員会において、 2008年10月の第10回国際樹状細胞シンポジウムを日本で開催することが決定された。これは、本シンポジウムの主催団体となった日本樹状細胞研究会の総意としての要望でもあった。
 樹状細胞研究の黎明期から、この細胞の機能・分布・細胞起源などに関する世界に誇れる優れた研究業績が日本の研究者によって発表されており、我が国の当該研究分野における研究活動は世界に大きく貢献している。 優れた研究業績をもつ日本人研究者を代表して、名誉ある招待講演者や優秀な若手研究者として研究内容を発表できる機会を得たいとの願いもあった。
(2)会議開催の意義・成果:
 一流の国外研究者の参加を得て、この会議を日本で開催することは、我が国の基礎系から臨床医学系の広範囲にわたる樹状細胞研究者が世界の多くの科学者と直接交流する機会を与え、 我が国の樹状細胞研究を、そして国民の健康維持・向上を一層発展させる契機となるものであった。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
 会議では、「ヒトの病気と樹状細胞 ―基礎的研究から臨床応用―」をメインテーマとして、樹状細胞の新たな機能解析(自然免疫、免疫学的寛容、T細胞免疫、制御性T細胞機能等)、 ヒトの病気(腫瘍免疫、ウイルス感染症、アレルギー、自己免疫疾患等)の成り立ちにおける樹状細胞の役割の解明、癌免疫療法の新展開、アレルギーと自己免疫疾患の克服に向けた樹状細胞の臨床応用までをテーマとして、 招待講演、若手研究者の口演、ポスター発表、市民公開講座などが行われた。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
1) 当シンポジウムを無事終了することができ、開催国としての大きな責務を果たすことができた。
2) 当初、参加国と参加者数をそれぞれ29カ国と600名(国内200名、国外400名)と予想していたが、実際には33カ国と727名であった。参加者数が予想よりも127名上回り、参加国も増加した。これは樹状細胞研究に対する関心の高さを伺わせる結果であり、主催者側として参加しやすい状況を設定できた結果でもあり、大きな成果であった。また、アフリカのナイロビからのHIVにおける樹状細胞研究の発表があり、小さな喜びであった。
3) シンポジウムは口演発表とポスター発表から成り、前者は招待講演とポスター発表(一般演題)から優秀作として採択された口演で構成された。内訳は、招待講演が42題、ポスター発表が372題、ポスター発表から採択された口演が32題であった。一流の国外研究者(コアスピーカー)による招待講演は、国内研究者のみならず参加者全員に、最新の研究成果に関する詳細な情報をいち早く提供できた。また、ポスター発表から優秀作として採択された口演者には、賞賛と栄誉を与えることができた。
4) 今回のシンポジウムでは、シンポジウム参加者の増員と若手研究者の育成を計る為に学術賞 (Award)を設定した。国外から申し出があったThe Journal of Experimetal Medicine (JEM) Award(2名)とNature Immunology Award(2名)に加え、組織委員会ではTravel Award(海外からの参加者で、学生およびPostdocを対象に20?25名)、Poster Award(国内からの参加者で、学生およびPostdocを対象に10名)、及びGood Paper Award(全一般演題から5名)を企画した。受賞者には賞賛と栄誉を与えることができた。
5) 口演やポスター発表では討論時間に比較的余裕を持たせたが、活発な討論があり、どのセッションでも時間が足りない程であった。
6) シンポジウムでは会議の間にコーヒーブレイクを設け、また昼食を広場で摂れるように設定して、国内外の研究者が自由に意見交換をできるようにした。天候にも恵まれ、会議中の討論時間では足りない分の意見交換ができたものと思われる。闊達な意見交換ができる雰囲気作りが成功したものと考えている。
7) 以上の成果は、我が国の基礎系から臨床医学系の広範囲にわたる樹状細胞研究者に世界の多くの科学者と直接交流する機会を与え、我が国の樹状細胞研究を、そして国民の健康維持・向上を一層発展させる契機となるものと予想された。
(5)次回会議への動き:
 第11回国際樹状細胞シンポジウムが、Antonio Lanzavecchia教授を会長として2010年9月26日~30日にスイスのルガノ (Lugano)で開催されることが決定した(http://www.dc2010.ch)。 ワクチン科学 (Vaccine Science)を主題として開催され、基礎科学者、臨床家、及び研究所所属の研究者による基調講演とポスター発表が行われる予定である。「基礎研究の最終目的は人類の健康維持にある」 ことを念頭に置いたものである。その他のテーマとしては、今回のシンポジウムを継続する形で、樹状細胞の基礎的研究と臨床応用や感染症、癌免疫、移植免疫、自己免疫疾患における樹状細胞の役割などが挙げられている。
(6)当会議開催中の模様:
1) シンポジウムは口演発表(招待講演と若手研究者によるもの)とポスター発表から構成された。両者が重複しないように、ポスター発表と口演発表とを別個に設定した。
2) 予想以上の出席者があった為に、シンポジウム前半では口演会場に立ち見がでる程であった。シンポジウム後半になっても出席者が多く(恐らく400~500名)、会場には熱気が漂っていた。
3) 口演発表の討論時間を比較的余裕を持って設定したつもりであったが、質問や討論が予想以上に熱心に行われ、予定の時間を過ぎる場合が多かった。また、座長による討論打ち切りの発言も何度かあった程である。
4) ポスター発表も大盛況で活発な意見交換・討論が行われた。ポスター会場の近くに飲み物や菓子類を準備したので、ポスター会場が混雑する程であった。
5) インターネット室の利用者も多く、待ち時間が出る程であった。
6) 昼食を野外で摂れるように設定したが、ほとんど満席であった。日本の参加者には弁当を、海外からの参加者にはサンドイッチ主体の昼食を準備したが、弁当は海外からの参加者に大変好評であった。
(7)その他特筆すべき事項:
1) 日本でのシンポジウム開催を企画するに当たり、日本樹状細胞研究会に国際交流委員を設けて、4年前から準備に入った。日本での開催は第1回開催に続いて2回目となる為に未開催国との競争があり、国際交流委員には日本への招致をかなり積極的にアピールしてもらった。
2) より多くの参加者を得る為に、参加費を極力安く(前回会議の半額以下に)設定した。
3) より多くの参加者を得る為に、Travel Awards、Poster Awards、及びGood Paper Awardを企画した。Awardの種類や受賞対象者数は、これまでの会議で最多となった。
4) 討論や交流をより有意義にする為に、飲み物や菓子類を準備した。
5) 昼食時間を有効に活用する為に、会場前の神戸市民広場を借用して、野外でも昼食が摂れるように企画した。
6) 参加者に会議を楽しんでもらう為に、第4日目の午後を自由時間として、姫路城の観光に当てた。また、同伴者の為に京都及び神戸観光を企画した。

開会式:古江組織委員会会長の挨拶オープニング・セッションの様子講演会の模様ポスターセッションの模様







(写真左より、開会式:古江組織委員会会長の挨拶、オープニング・セッションの様子、講演会の模様、ポスターセッションの模様)

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成20年10月5日(日)13:00?16:00
(2)開催場所:神戸国際会館9F大会場
(3)主なテーマ: 樹状細胞によるがん治療の最前線
(4)参加者数、参加者の構成:84名、参加者の構成:高校生 約3割・医療関係者 約1割・一般 約6割
(5)開催の意義:小安重夫教授による講演
 一般にはなじみのない『樹状細胞』の新たな機能解析の他に、ヒトの病気(腫瘍免疫、ウイルス感染症、アレルギー、自己免疫疾患等)の成り立ちにおける役割、癌免疫療法の新展開、 アレルギーと自己免疫疾患の克服に向けた臨床応用などについて解説し、併せて免疫のしくみ、免疫学のおもしろさも紹介した。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
  樹状細胞の概略についての講演(小安重夫教授・慶應義塾大学)と質疑応答に続いて、臨床応用に関する成果、すなわち樹状細胞を用いた癌の新たな予防法や治療法の可能性についての講演 (田原秀晃教授・東京大学)と質疑応答を行った。質疑応答では、樹状細胞の役割、癌治療応用への見通し、研究支援体制などについての質問が相次いだ。この市民公開講座を通じて一般市民や医療関係者に樹状細胞とその臨床応用について紹介できたことは、 我が国の医療向上に大きく資するものと期待される。
 日本での樹状細胞研究者の第一人者に、講師および座長を担当してもらった。「樹状細胞」の名前を初めて耳にする参加者がほとんどであること、また、参加者の年齢や職業などにかなりのばらつきがあることを想定して、資料を丁寧に作成した。市民公開講座の模様
(7)その他:
 市民公開講座のパンフレット5,000部を作成してPRに努めた。神戸市内の高校への参加呼びかけをする他、神戸市の共催協力をいただき、パンフレットの新聞折り込みでの配布、 新聞での広報などをもって一般参加者の募集をした。また会場には飲み物と菓子類を準備した。

(写真上:小安重夫教授による講演)
   (写真下:市民公開講座の模様)

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果

 日本学術会議と共同開催したことは、当シンポジウムの信頼性と知名度を高めることになった。また、開会式および抄録集において日本学術会議会長の挨拶及び内閣総理大臣メッセージを紹介できたことは、 日本樹状細胞研究会にとって至上の光栄であり、日本政府が当分野の研究に関心を寄せていることを参加者に印象づけることができた。


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