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第21回国際結晶学連合会議開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 : (和文)第21回国際結晶学連合会議
         (英文)XXI Congress and General Assembly of the International Union of Crystallography (IUCr2008)
(2)主   催 : 日本結晶学会、日本学術会議
(3)開催期間 : 平成20年8月23日(土)~平成20年8月31日(日)
(4)開催場所 : 大阪国際会議場(大阪府大阪市)
(5)参加状況 : 64ヵ国/2地域、2,617人(国外1,648人、国内969人)

2 会議結果概要
(1)会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:

  国際結晶学連合(International Union of Crystallography, IUCr)は、ユネスコのもとにある国際科学会議の下部組織として存在する19のユニオンの1つであり、結晶学に関する国際協力、 国際基準の整備、研究分野の発展と他分野への橋渡しを目的とする国際学術団体である。その活動分野は、結晶学、鉱物学、物理学、化学、地質学、無機材料科学、有機材料科学、生命科学、及び薬学などの幅広い範囲にわたる。 日本における主催学会である日本結晶学会は、我が国の結晶学及びこれに関連する学問の進歩を図ることを目的として設立された学術団体であり、結晶学の発展、普及に関する幅広い活動を行っており、 国際結晶学連合及びその下部組織であるアジア結晶学連合(Asian Crystallographic Association:略称AsCA)の運営に参画している。
 日本結晶学会及びその関係者は日本における結晶学及び関連研究分野の発展のため、2002年8月に開催されたIUCr2002会議(第19回国際結晶学連合会議)総会において、2008年における日本開催を提案し、 IUCrの会長をはじめとする理事会の全面的な賛同によって、日本を候補地とすることの了承を得た。その後、2005年8月のIUCr2005会議(第20回国際結晶学連合会議)総会において、IUCr2008会議 (第21回国際結晶学連合会議)の日本(大阪)開催が正式に決定された。
(2)会議開催の意義・成果:
 結晶学は物質の立体構造を解析し、物質の持つ物理的特性や化学反応性等を明らかにする学問である。例えば、超伝導体、磁性体、誘電体などの構造と機能の関係、有機・無機分子の構造に基づく化学反応性の解明、 蛋白質・核酸からウィルスに至る分子の構造とその生理機能の関係の解明に大きく寄与するものである。
 また、結晶学は地球上の生物を取り巻く環境すべての物質に関連しているため、結晶学分野の研究は、地球上の生物を取り巻く環境をより精緻に解明し、制御し、また活用するための基礎科学、基礎技術のほとんどと関連しており、 その重要性はますます増大していくものと思われる。
 また、結晶学分野における日本の学術貢献は、X線回折・電子線回折の黎明期(1900年代初期)に始まり、近年大きな進歩を遂げつつある。貢献する研究分野も多様化しており、西播磨放射光研究施設 (SPring-8)の国際利用や、アジア結晶学連合(AsCA)の設立、ユニオンの運営など、我が国の国際貢献度は非常に大きなものがある。結晶学は、わが国における放射光施設の整備に伴って飛躍的に進展し、 わが国の結晶学関連分野の研究者によって世界の最高水準の成果が次々と生み出されているところである。
 このような状況の中で、本会議を日本で開催したことは、我が国の結晶学のみならず、物理学、化学、生物学、地質鉱物学などの基礎的な科学、さらに、材料科学、高分子科学、応用化学、農業化学、薬学、 医学などの研究分野の発展に大きな刺激を与えるものであった。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
 今回の会議では、「物質のダイナミックな構造変化と機能の解明」をメインテーマに、結晶学に関連する装置や実験手法、構造解析手法、各種計算プログラム等の開発といった基礎的研究から、 生体関連物質、有機化合物、無機化合物、鉱物等の構造解析、材料、表面、界面、液晶、薄膜への結晶学の応用、回折物理、結晶成長等の研究の他、データベースの開発利用、結晶学教育法や結晶学の歴史等を主要題目として、 幅広い分野についての基調講演、学術セッション、ポスター発表等が行われた。
(4)次回会議への動き:
 次回の第22回国際結晶学連合会議は、スペインのマドリッドで8月22日―29日に開催されることとなった。会議のテーマは、会議の時代を反映し、その時代の関連分野の科学技術の進歩に合わせて設定されているが、 それは次回会議のためのIUCr国際プログラム委員会で審議され方向づけられるものである。国際プログラム委員会委員長は開催地から選出されるため、開催地組織委員会の意向も反映されたものとなっている。
(5)当会議開催中の模様:
 会議は、1日目は受付及び開会式、ウエルカム・レセプション、2日目から8日目まで7日間学術セッションが続き、8日目の最後に閉会式を行った。最終日にはコングレスツアーを行い、 Spring-8見学会を実施した。学術セッションの一日の構成は、全体講演2(2日目と8日目)、全体講演;ノーベル賞受賞者 Kurt Wu¨thrich 教授基調講演(3セッション平行、午前と夕方に1日2回開催、合計36講演)、マイクロシンポジウム(7セッション平行、 午前と午後に1日2回開催、合計98マイクロシンポジウム)、ポスターセッション(500ポスターを2日間展示で3サイクル、合計1,500ポスター)となっている。また、ポスターセッション会場の一角で商業展示 (55社)を行った。会議では、総会を学術セッション終了後に計3回開催したほか、各種委員会を会期中に随時開催した。
 また、IUCr2008会議は国際結晶学連合創立60周年に当たるため、記念式典および記念講演を開会式に先立って開催した。その他に、本会議と前後して日本各地において、プレシンポジウム及びポストシンポジウムを合計9件開催した。
 さらに、後述の市民公開講座を合計5セッション開催したほか、日本文化を紹介する各種プログラムを実施し、会議参加者間の交流を図った。

(全体講演;ノーベル賞受賞者 Kurt Wüthrich 教授)
(6)その他特筆すべき事項:
  第16期結晶学研究連絡委員会(16期結晶研連、委員長:大橋裕二)は平成7年(1995年)第19回国際結晶学連合会議 (IUCr2002) の日本(パシフィコ横浜)への誘致を決議して、 同年8月に開かれたExecutive Committee(理事会)に誘致立候補を通知した。誘致が決定されるためには、6年前のIUCr総会において予備決定される必要があったためである。平成8年(1996年) アメリカのシアトルで開かれたIUCr1996において、日本を含む4カ国が立候補演説を行い、投票となった。このときはパレスチナ問題の平和解決が目前に迫るという政治的状況を反映して、エルサレムが2002年の会場に決定した。 17期結晶研連(委員長:藤井保彦)も引き続きIUCr2005の日本誘致を目指して準備した。前回の誘致で登録料の高さが指摘されたので、経費節減を目指し、会場を名古屋国際会議場に変更して立候補した。 平成11年(1999年)、英国のグラスゴーで開かれたIUCr1999において再び選挙となり、イタリアのフローレンスと競ったが、わずかの差で及ばなかった。第18期結晶研連(委員長:坂田誠)は種々の状況を検討した結果、 再度IUCr2008の日本誘致を決議して準備を始めた。会場の再検討により大阪国際会議場を選定して、再度、IUCr2002の総会に向けて誘致活動をした。今回は、IUCrの会長をはじめとする理事会が日本開催に全面的に賛同した結果、 候補国の立候補を一本化することに成功した。IUCr2002は本来、イスラエルのエルサレムで開催されるはずであったが、パレスチナ問題が悪化したためエルサレム開催が困難となり、会場がスイスのジュネーブに急遽変更された。 このIUCr2002の総会において、満場一致で大阪開催が予備的に承認された。その後、平成17年8月、フローレンスにてIUCr2005総会が開催された。日本結晶学会は、以上の誘致活動に結晶学研究連絡委員会と共同してあたり、 ついに日本招致に至っている。
 平成17年8月25日開催の第20回国際結晶学連合会議(フローレンス大会)総会は、第21回国際結晶学連合会議 (IUCr2008) を平成20年に大阪で開催することを決定した。
 これを受けて、日本結晶学会(会長:大隅一政)と第19期結晶研連(委員長:佐々木聡)は、すでに大阪開催のために組織されていた準備組織委員会(委員長:大橋裕二)を改組して、 第21回国際結晶学連合会議組織委員会を正式に発足させた。 IUCr創立60周年記念講演;Edward N. Baker 教授IUCr創立60周年記念式典;大橋裕二IUCr会長から記念品を贈られるAndre´ Authier IUCr元会長




(左:IUCr創立60周年記念講演;Edward N. Baker 教授)
(右:IUCr創立60周年記念式典;大橋裕二IUCr会長から記念品を贈られるAndré Authier IUCr元会長)


IUCr創立60周年記念講演;Edward N. Baker 教授IUCr創立60周年記念式典;大橋裕二IUCr会長から記念品を贈られるAndre´ Authier IUCr元会長





(左:開会式;歓迎講演をする橋下 徹大阪府知事)
(右:閉会式;ポスター賞受賞者)


3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成20年8月23~27日の5日間
(2)開催場所:大阪国際会議場メインホールおよび小ホール、C1001+1002会議室
(3)主なテーマ、サブテーマ:
 ・60周年記念式典中の記念講演:Edwarl N. Baker 教授、「Crystallography and the World around Us」
 ・イブニングセッションにおける4人の元IUCr会長の講演と関連講演
  André Authier 教授;「History of X-ray diffraction – looking deeper and deeper into the structure of matter」
  Theo Hahn 教授;「2500 years symmetry in science, art and music」
  Hedrik Schenk 教授;「X-raying a crystal to see atoms and molecules, solutions and results」
  Phillip Coppens 教授;「What crystallography can tell us about molecules in the test tube and in life」
  細谷治夫教授;「Origami: Crystal model production with paper folding」
  吉朝 朗教授;「Artificial Crystals and amazing characteristic of minerals」
 結晶学が取り扱う物質及びその概念は、私たちの身の回りの世界にごく普通に見られるものであり、それだけにすべての科学技術の基礎になるものでもある。そのような視点から、結晶学に関する基礎的、一般的な講演を実施し、一般市民へも公開した。
(4)参加者数、参加者の構成:それぞれの講演には50名前後の一般市民の参加があった。加えて、会議参加者が200名前後参加し、どの講演会も盛会であった。
(5)開催の意義:
 結晶学は、あらゆる分野の科学技術の基礎を支えている研究分野である。結晶は、一般市民の日常生活の中にも、宝石、鉱物、食品などで身近なものであるが、 それがどのようにして作られているか、どのような性質を持ち、どのように利用されているか、といったことはほとんど知られていない。国際会議開催を機会に、結晶学分野では超一流の研究者による平易で一般的な講演を開催することによって、 一般市民が結晶に親しみ、知る機会を提供できたことは、得難い機会であり、意義深いものであった。講演と演習、実験を組み合わせて行ったことも大きな特徴である。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 市民公開講座を開催する大きな目的は、大学や研究機関で行われている研究活動やその成果を公開することにある。社会は、学術研究活動が市民の健康や社会の平和に寄与し、 その成果はそれらの発展に役立てられるものであることを期待している。結晶学は、21世紀に重点課題となっている生命、環境、情報分野に広く関連しその発展に貢献している。このような情報を、 市民公開講座によって公開し、その理解を求めたことは、結晶学分野の学術発展の基礎となりうるものであり、意義深いことと考えられる。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
市民公開講座;結晶学、絵画、音楽に共通するシンメトリーに関する講演をするTheo Hahn 教授とピアニストの津久田智子さん 国際結晶学連合(IUCr)は国際科学会議(ICSU)に属するユニオンの1つであり、日本学術会議も国際科学会議に属する各国政府機関の1つである。日本結晶学会が日本学術会議と共同して、 国際科学会議の1つのユニオンの会議を開催することは、日本の科学組織の大きな成果として国際的に評価されるであろう。また結晶学は、物理学、化学、生物学、鉱物学、材料科学、薬学、医学など、 科学の広範な分野に関係しているので、学術会議と共同主催することで、今回の国際会議の開催に当たりこれらの研究分野の学会の協賛を得て国際会議の開催に協力することが可能になり、今後、 この国際会議を通して得られた結晶学の進歩が広くこれらの研究分野に広まってゆくことが期待できる。


(市民公開講座;結晶学、絵画、音楽に共通するシンメトリーに関する講演をするTheo Hahn 教授とピアニストの津久田智子さん)



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