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2008年国際炭素材料学会議開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 : (和文)2008年国際炭素材料学会議
         (英文)International Conference on Carbon 2008 (Carbon 2008)
(2)報 告 者 : 2008年国際炭素材料学会議  議長 遠藤 守信
                     実行委員会委員長 阿久沢 昇
                           副委員長 羽鳥 浩章
(3)主   催 : 日本学術会議、炭素材料学会
(4)開催期間 : 平成20年7月13日(日)~ 7月18日(金)
(5)開催場所 : ホテルメトロポリタン長野、ホテルサンルート長野(長野県長野市)、(市民公開講座)須坂市文化会館メセナホール(長野県須坂市)
(6)参加状況 : 30ヵ国/1地域,682人(国外292人、国内390人)

2 会議結果概要
(1)会議の背景(歴史)、日本開催の経緯

  現在この会議は、米国炭素材料学会The American Carbon Society (ACS)、欧州炭素材料学連合The European Carbon Association (ECA)、アジア炭素材料学連合The Asian Association of Carbon Groups(AACG)が毎年輪番で開催する会議であり、 活性炭などの伝統的カーボン材料からカーボンファイバー、そしてカーボンナノチューブに代表される先進のナノカーボン材料まで、炭素材料に関わる基礎科学から応用までの全ての領域を対象にして、 炭素材料科学の学術的進歩と産業発展ならびにそれらを応用し人類社会の福祉と文化の発展に寄与すること、炭素科学者の国際連携と持続可能社会のための協調の推進を目的とする。
 本会議の前身として、1953年を第1回として、1990年代まではACSが米国内で2年に1回、奇数年毎に、Biennial Conference on Carbonと称して第24回まで炭素材料学会議を開催してきた。 またヨーロッパでも独・仏・英・スペインが中心となってEuropean Carbon Conference を米国開催の間に隔年(偶数年毎)で開催してきた。一方、日本炭素材料学会は、 米国炭素材料学会の設立年である1957年に先立ち、1949年にすでに設立され、炭素繊維(現在でも日本メーカーが世界のおよそ8割のシェアを有する)の発明、カーボンナノチューブの発見などに代表されるように、 現在まで日本の炭素材料学研究は世界をリードする高い研究レベルを維持し続けている。日本炭素材料学会は独自に1964年(東京)、1982年(豊橋)、1990年(つくば)、1998年(東京)の四度にわたって炭素材料科学に関する国際会議を開催した経験をもつ。 1990年代後半になって、日本以外のアジア諸国の炭素材料学の進展により、1996年にはAACGが設立され、1998年7月フランス/ストラスブールのEuropean Carbon Conference(ECA主催)の折りに、ACS、ECA、 AACGの三者が毎年輪番で国際炭素材料学会議を開催することで合意、2000年のベルリン会議を第1回として現在の開催形態に発展してきた。2008年の日本開催については、2004年の国際炭素材料学会議において、 三つの連合代表者会議の了承を得て、初の日本開催が正式に決定された。今回は、前回の2007年ACSの主催のシアトル市ヒルトンホテルでの開催に続くものである。
(2)会議開催の意義
 炭素繊維の発明やカーボンナノチューブの発見に代表されるように、現在まで日本の炭素材料学研究は世界をリードする高い研究レベルを維持し続けている。 日本企業によって開発・実用化が達成されたリチウムイオン電池については、炭素材料学の基礎的研究レベルの高さが実用化を後押しし、また、カーボンナノチューブについては、現在でも世界中で活発なトップレベルの開発競争が続けられている。 本会議を日本で開催することは、我が国における本分野の高いレベルの研究成果とともに、産業界も含めた強固な技術基盤を世界に示す恰好の機会となる。合わせて発展著しいアジア諸国の力強い科学と技術の支援にも繋がるものである。
(3)当会議における主な議題(テーマ)
 本国際会議では、「活性炭などの伝統的カーボン材料からカーボンナノチューブに代表されるナノカーボン材料まで、炭素材料学の基礎と応用」をメインテーマとして発表・討議が行われた。 今回は「地球環境との共生」をサブテーマとして掲げ、生命・環境分野や省エネルギー分野に貢献する炭素材料についてのセッションが設けられた。また、市民に開かれた国際会議として、 ノーベル賞受賞者であるH.W.Kroto教授の一般市民や中学生向けの特別講演を須坂市文化会館メセナホールにて開催した。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割
 本国際会議では、これまでの国際炭素材料学会議の中で過去最高の600人を超える研究者が参加し、発表・討議が行われた。水や大気の環境浄化用の材料として使われている炭素材料、 あるいは二次電池等の省エネルギーデバイスとしてすでに多大な実績のある炭素電極材料の更なる高性能化と将来像に注目した本セッションでは、次世代材料創出に関わる質の高い議論が交わされ、 炭素材料に関する基礎科学の中から、今後新たな応用の芽が生まれるものと期待された。また持続的発展を実現する環境、エネルギー、バイオ・医療、また生体影響に関しても基礎科学と技術の両面で革新的成果が示された。
(5)次回会議への動き
 次回国際炭素材料学会議は、2009年6月にフランスBiarritzにて開催される。地球環境保全やエネルギー問題解決が人類共通の課題であり、今後も、環境分野や省エネルギー分野に貢献する炭素材料に関する研究が重要なテーマの一つになる。 毎年の国際炭素材料学会議は、炭素材料学研究者間の国際連携を進める上で最も重要な機会となるが、今回も活発に国際連携強化のための会合が開かれ、アジア炭素材料学連合の連携強化とアジア炭素材料学会議の開催 (2009年インド)などが合意され遠藤がその議長に推挙され就任した。その他、日独間のセミナー、アジア3国会議開催など、本国際炭素材料学会議を中心としたサテライト会議開催の計画が立案され準備が開始されることとなった。 かかる機会の確立に本会議が大きな貢献を果たした。
(6)当会議開催中の模様
 7月13日午後、学生・若手研究者向けのチュートリアルにおいて世界各国から250名が参加し、炭素材料分野における世界の権威者が炭素研究のコツを分かりやすく解説した。 夕刻にはおよそ300人が参加して歓迎レセプションが開かれた。翌14日朝の開会式で5日間のテクニカルセッションがスタートし、招待講演、口頭発表、ポスター発表が行われた。17日には、須坂市文化会館メセナホールにて、 ノーベル化学賞(1996年)のH.W.Kroto教授による市民、中学生を対象にした市民公開講座が開催された。会議参加者はエクスカーションにて、須坂市民の歓迎を受け国際文化交流を図った後、研究者を対象としたH.W.Kroto教授の特別講演会に参加した。 同日夜にはメイン会場に戻りバンケットが開催され、Japan Carbon Award授賞式が行われた後、研究者間の活発な交流が図られた。翌18日のセッションは午前中で終了し、閉会式が行われた。 本会議の議長である遠藤教授の閉会の挨拶の後、次回会議の主催者であるフランスの代表者からの開催概要紹介があり次年度へと引き継がれ、本会議は盛会裏のうちに閉会した。今回、新規材料であるカーボンナノチューブに関する報告は本会議でも多数あったが、 カーボンナノチューブの安全性が最近特に注目を集めていることから、その分野の世界の最先端研究者を欧米日各国から集め、「カーボンナノチューブの安全性、成功に向けた安全性」に関する講演とパネルディスカッションを、 エクステンデッド・セッションとして緊急に開催した。最近話題の分野であることから極めて活発な議論が交わされた。この議事報告書を遠藤議長が中心となって発表者等がまとめ、国際誌に発表する予定である。
(7)その他特筆すべき事項

 当初国際会議運営会社での会議運営も検討したが、最終的には、ホームページ管理、アブストラクト集の編集、プロシーディングスCD-ROMの編集・作製などを事務局にて行い、 また地域自治体・市民の支援・協力を仰ぎながら日本炭素材料学会が中心となって手作りの国際会議運営を行ったことによって、ことに内容の濃いハンドメイドの、そして世界トップレベルの会議が開催できた点が特筆される。 その一方で、今回の会議開催にあたって、民間企業から当初の予想を超える援助金が寄せられた。これまで日本企業によって実用化されてきた炭素繊維、リチウムイオン電池などは、炭素材料学の基礎的な知見を基に開発されたものであるが、 炭素材料関連の産業が日本ほど発達した国は他には無く、国内民間企業からの支援が充実していたことが、国際炭素材料学会議の歴史上最多の参加者を集めて、本会議を盛況に開催することができた一つの要因である。 また、駅前の歓迎のバナーやエクスカーションでの一般市民の歓迎、日本学術会議共同主催ならびに首相メッセージなどによって会議ステータスも上がり、かつ実行委員会もその名に恥じないよう最善を尽くした結果、 最高級の国際会議が実現できた。海外の参加者からは、市民・行政の手厚い支援・歓迎に対して賞賛と感謝の声が寄せられた。
開会式の模様セッションの模様







     (開会式の模様、遠藤議長の挨拶)             (セッションの模様)

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成20年7月17日(木)14:30-15:30
(2)開催場所:須坂市文化会館メセナホール
(3)主なテーマ:
 蔵の町並みキャンパス 08元気スクール「クロトー先生の楽しいサイエンス教室」と題して、 ノーベル化学賞受賞者であるH.W.Kroto教授による科学のおもしろさを伝える講演を行うとともに、500名の中学生参加者に配られたC60フラーレンの構造模型の組み立てを、 講演者と会場参加者が一体となって行った。市民ボランティア50名も参加し、会場で文化交流も実施された。
(4)参加者数、参加者の構成:須坂市内の中学生500人を含む、一般市民約700人が参加。
(5)開催の意義:一般市民の科学技術への理解を高め、将来を担う子供たちの科学への夢を育む恰好の機会となった。また日本学術会議などについても理解が深まった。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 今回、国際炭素材料学会議は、社会に広く開かれた国際会議を目指し、長野県、長野市、須坂市など地域社会との連携を密にし、多大な支援を受けながら開催された。 他方、地域社会における科学技術の浸透と国際交流を促すべく、本市民講座の開催や参加者と市民の間の交流を図るエクスカーションを企画し、双方より大好評であり、多くの感動が寄せられた。
(7)その他:パンフレットの作成・頒布、中学生参加のための調整など、本市民公開講座は三木須坂市長以下市役所スタッフ30名の全面的協力の下で進められた。
市民公開講座の模様1市民公開講座の模様2市民公開講座の模様3







(市民公開講座の模様)

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 セッション参加者の一部による集合写真炭素繊維やリチウムイオン電池を実用化し、炭素材料関連企業が発達している日本においては、炭素材料学研究分野での産学の連携はすでに強固なものがある。これに加え、 日本学術会議との共同主催により国・地域行政と学会との間の官学の連携が生まれた。このような産学官が一体となった研究・学会への支援は、海外からの参加者から驚きの声が挙がるほどであった。 本研究分野での日本の研究レベルの高さは、すでに世界的にも認められているところであったが、今回、日本の炭素材料学を支える社会基盤の強さを世界に強烈にアピールしたことで、 本分野での日本の地位をさらに確固たるものとすることができた。このような機会をいただいた日本学術会議に大きな謝意を表する。また、多々具体的な支援を賜った長野県村井知事、同商工部、長野市、 須坂市、信州大学、日本学術振興会、さらに長野県テクノ財団、万博協会、その他各種団体、炭素協会、支援企業、および炭素材料学会に厚く御礼申し上げる。



(7月15日、セッション参加者の一部による集合写真:長野駅前にて)



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