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第20回色素細胞学会国際連合学術大会(IPCC)・第5回メラノーマ研究学会国際コングレス(IMRC)合同会議
開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 : (和文)第20回色素細胞学会国際連合学術大会(IPCC)・第5回メラノーマ研究学会国際コングレス(IMRC)合同会議
         (英文)20th International Pigment Cell Conference 5th International Melanoma Research Congress (IPCCIMRC2008)
(2)報 告 者 : 第20回色素細胞学会国際連合学術大会(IPCC)・第5回メラノーマ研究学会国際コングレス(IMRC)合同会議
         組織委員会委員長 神保 孝一
(3)主   催 : 日本色素細胞学会、日本皮膚悪性腫瘍学会、日本学術会議
(4)開催期間 : 平成20年5月7日(水)~ 平成20年5月12日(月)
(5)開催場所 : ロイトン札幌(北海道札幌市)
(6)参加状況 : 28ヵ国、530人(国外302人、国内228人)

2 会議結果概要
(1)会議の背景(歴史)、日本開催の経緯

  第1回の色素細胞学会国際学術大会(IPCC)は、1946年米国ニューヨークにおいて、Myron Gordon 教授の主催で開催され、今回の札幌での開催は20回目を迎え、設立約60周年目となる。この間、日本においては、1987年に第11回会議が故清寺眞氏(東北大学医学部皮膚科学講座教授) を会長として仙台にて、1990年に第14回会議が、三嶋豊氏(元神戸大学医学部皮膚科学講座教授;本国際会議顧問)を会長として神戸にて、第17回会議が1999年、伊藤祥輔氏 (藤田保健衛生大学衛生学部教授;本国際会議運営委員)を会長として名古屋にて開催され、何れの会議も成功裡に終了している。第1回のメラノーマ研究国際コングレス(IMRC) は米国フィラデルフィアで2003年に開催され、今回の国際学会は第5回を迎える。今まで一度も日本で開催された事はない。
(2)会議開催の意義
 本国際会議に参加するメラノサイト、メラノーマの色素細胞学をテーマとする研究者の研究領域は幅広く、しかも両国際学術大会・コングレスに共通している。 これらは①生物科学、化学、生化学等の複合領域、②動・植物科学、生態・環境生物学、細胞生物学、遺伝学、分子生物学、人類学・民族学等の基礎生物領域、③基礎工学、応用物理等の工学領域、 ④農学、畜産学、獣医学等の自然保護領域、更には、⑤解剖学、生理学、薬理学、実験動物学、病理学、免疫、感染症、癌・老化、出生・発達障害、脳・神経学、感覚器医学、内分泌学、化学系・ 物理系薬学、生物系薬学等の医学領域と多くの分野にまたがる。しかもその取り扱う対象は、植物、下等動物からヒトにわたり、その成果は21世紀における予防医学・個別化医療を基盤とする人々の 健康の向上と生活の質の向上に貢献する事が期待された。
 メラノサイト、メラノーマに関する研究は近年著しい進歩をみせている。例えば、色素産生に関与 する酵素、たんぱく質、受容体の遺伝子が次々と同定され、色素細胞、 メラノーマ細胞に関する分化、増殖の制御機構に関する分子機構が解明されつつある。又先天性遺伝性色素異常疾患やメラノーマの遺伝子レベルでの病因の解明も進んでいる。 更にメラノーマに関しては分子標的療法の開発が近年急速に進歩している。これらの進歩を総括的に討論する学術会議の開催は急務であった。
(3)当会議における主な議題(テーマ)
 色素細胞生物学は、動物、植物における色素細胞の発生、分化更に腫瘍性増殖(癌化)を主な研究領域とする学問であり、メラニン、メラノサイト、メラノーマは、 主要な研究テーマである。この国際会議は、色素細胞学会国際連合学術大会(IPCC)、メラノーマ研究学会国際コングレス(IMRC)に共通する研究テーマであるメラニン、メラノサイト、 メラノーマ細胞に関する研究の成果を発表し、意見の交換を行う会議である。
 今回の会議では、色素細胞メラノサイトの発生・分化過程と分子生物機構に関する研究成果を色素細胞異常症、癌(メラノーマ)の病態、診断、治療に直接結び付け、今後の予防医学、健康管理の向上と人々の生活の質の向上を目指す。従ってメインテーマを「From Molecular Biology to Pigmentary Disease and Melanoma; Translational Research and Preventive Medicine(メラニン分子生物学の色素性疾患、メラノーマのトランスレーショナル・リサーチ及び予防医学への応用)」とした。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割
 本会議を日本で開催する事は、日本での研究が進んでいる色素細胞、メラノーマの分子機構と日本で研究が遅れている色素異常症の診断・治療法に関する意見の交換、 これにより日本で遅れているこれら疾患の先端医療の開発に関する研究の進歩が期待された。
 環境破壊に伴う、オゾン層破壊と皮膚色素異常症の増加とメラノーマの発生の増加が近年、社会的問題となり、その予防・治療に関する研究成果の交換は、必要である。殊に日本人に多く発生するメラノーマと白人に多く発生するメラノーマとでは、 発生部位と予後が全く異なり、日本人に発生するメラノーマは予後が極めて悪い。民族的臨床疫学の解明も緊急を要した。共通の研究対象であるメラノサイトを扱うが、運営が全く独立し異なる学会の会員が一堂に集まり、これら課題に対する最新の知見の発表、討論が出来た事は画期的なことであった。
(5)次回会議への動き
 第6回メラノーマ研究会国際コングレス(IMCR)は、2009年11月1日~4日に米国、ボストンにて開催予定。
 第21回色素細胞学会国際連合学術大会(IPCC)は、2011年にフランスのボルドーで開催される事が決定した。また、今回と同様、IPCCとIMRCとが合同会議を主催するかいなかについては、 前向きに検討するということで現在、調整中である。今後の合同会議のテーマは、今回の会議の成果を踏まえ、分子生物学の色素異常症、メラノーマの臨床疫学、診断、治療法への開発と応用となる。
(6)当会議開催中の模様
 本合同会議では、多数の参加者が集まり495名が正式に登録され、学会招待者・関連者等を含めると530名が参加した。そのうち海外からの参加者は、307名であった。 会議は、朝7時半から夜10時頃まで連日、各々の会場で多くの参加者が集まり、熱心に研究成果の意見交流が行われた。会議出席者自身も多くの研究者が深夜遅くまで熱心に参加し、 質疑応答を繰り返したことに対し、大変実りの多い会議であったというコメントが多数述べられた。演題数も総数297演題集まり、うちキーノートスピーチは4演題、プレナリーセッションは25演題、 コンカレントセッションは119演題、セミナーは16演題、ポスターは133演題が発表された。
 今回の合同会議を契機として、従来IPCCの機関誌であったPigment Cell Researchがメラノーマ研究学会と共同で新しい雑誌としてPigment Cell & Melanoma Researchとして発刊されることが決定され、 新しい雑誌の編集者が紹介されたことは、意義深いものである。さらにまた色素細胞メラノーマに対し、先駆的な研究を図った、Thomas B. Fitzpatrick(故ハーバード大学皮膚科学講座主任教授)の名をとり、 この雑誌社賞が設立され、また、新しいメダル(Thomas B. Fitzpatrickメダル)が設立されたが、この賞の設立に際しての記念講演がボストン大学皮膚科学講座のBarbara Gilchrest教授より講演があった。 また、Fitzpatrick教授のメモリアルレクチャーとして、開会式に引き続きAmerican Skin Associationの後援のもとにハーバード大学病理学講座 Martin Mihm教授より、メラノーマの診断治療に関する新治験という演題名で紹介された。 第1回のThomas B. Fitzpatrick の受賞者は、NIH(National Institute of Health)のDr. Heinz Arnheiterであった。
(7)その他特筆すべき事項
 IPCCが、3年おきに開催され、今回は第20回創立60周年目を迎える会議であった。この会議に色素細胞の癌化した細胞、メラノーマの国際学会(Society for Melanoma Research: SMR) と初めて合同で会議が開催されたことは、大変意義深いものである。そして、色素細胞の分子生物学的研究成果が直接、色素異常症、癌の診断・治療法の開発に重要であるということが会議出席者一同から認識され、 今後ともさらにこの合同会議開催の努力をするということが確認されたことが、本合同会議の大きな成果の一つである。 セッションの模様開会式の模様








          (セッションの模様)                    (開会式の模様)

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:
平成20年5月10日(土)、平成20年5月11日(日)
(2)開催場所:ロイトン札幌(北海道札幌市)
(3)主なテーマ、サブテーマ:皮膚の白斑とほくろの癌
(4)参加者数、参加者の構成:
  平成20年5月10日(土):約24名
  平成20年5月11日(日):約43名
(5)開催の意義:
  今回の合同会議おいて、IPCCからは、皮膚の色素異常症(皮膚の白斑と類似疾患)、IMRCからは、皮膚色素細胞の癌(ほくろの癌)に関し、公開講座が2日間に渡り開催されたが、 皮膚色素異常症、殊に白斑に関する市民公開講座が開催されたことは、日本国内では極めてまれであった。色素異常症(白斑)は単に皮膚色の変化のみならず、全身的な免疫異常も本疾患においては伴う事が最近判明してきており、 東南アジア諸国においては大きな社会問題となっているが、日本では多くの患者がいるにも関わらず、これら患者への治療が十分試みられておらず、放置されているのが現状であった。 このような中で本市民公開講座を開催することにより、一般人への啓蒙のみならず関心をさらに深めることができた。メラノーマに関しても同様で一般市民への関心は極めて最近高くなり、 テレビ等のマスコミにおいてもしばしば、報道されている。本市民公開講座を契機とした、今後の一般市民の更なる関心の向上が期待される。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
  色素異常症とそれに付随する皮膚癌、ことに尋常性白斑、白皮症、メラノーマに対する最近の診断・治療法の現況が供覧され、参加された多くの市民の関心を高めることができた。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
(1)開会式:
高校生対象講座1.JPG
 IPCC/IMRC合同会議のオープニングセレモニーにおいて、日本学術会議浅島副会長より開会挨拶を頂くとともに、内閣総理大臣メッセージも披露された。このことにより、 日本政府の支援を受けている会議であることが参加者に強く印象付けられた。
 また、当国際会議の名誉総裁である常陸宮殿下のメッセージが代読され、その中で殿下は、ご自身がアリゾナ・ツーソンで開催された第13回IPCCにご出席されご講演されたこと、 さらに日本での国際メラノーマ学会の草分けであった日米メラノーマシンポジウム(1987年11月開催)では、殿下ご自身のご研究を直接ご報告されたことを述べられた。 殿下の今回の合同会議に対する情熱は参加者全員に極めて深い感銘を与えた。
(2)会議開催の意義:
 今回の開催を機に、色素細胞だけの社会やメラノーマだけの社会に閉じこもらない総合的な見地か ら、色素細胞異常症に罹患し社会的適応に困難を感じている患者、さらには、転移性メラノーマ癌に より生命の危険にさらされている患者に対し、研究者一同が今後さらに前駆的な診断法・治療法・予 防法に関し努力することが認識された。このことも両国際学会にとって大変意義深いものであった。

(浅島副会長による挨拶:開会式にて)


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