代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  

    (和文)   国際宗教学宗教史学会 理事会
    (英文)   International Association for the History of Religions (IAHR),Executive Committee Meeting
    (IAHRの地域学会の一つである南アジア・東南アジア宗教学会[SSEASR]の大会に合わせて開催された)

  2. 会 期

    2017年7月8日~12日(5日間)

  3. 会議出席者名

    藤原聖子

  4. 会議開催地

    ベトナム国・ホーチミン市

  5. 参加状況  (参加国数、参加者数、日本人参加者)

    ①国際宗教学宗教史学会 理事会
     参加国名 デンマーク、オーストラリア、スイス、フィンランド、インド、スウェーデン、リトアニア、日本 (他に米国とドイツから部分的にスカイプ参加)
     参加国数 8か国
     参加者数 8名(うち日本人 1名)

    ②ヨーロッパ宗教学会
     参加国名 ベトナム、タイ、インド、カンボジア、ヨーロッパ諸国、米国他
     参加国数 46か国
     参加者数 約200人(うち日本人 4名)

  6. 会議内容  
    • 日程及び会議の主な議題

      国際宗教学宗教史学会・理事会(平成29年7月8日12~19時、9日15~18時)
      ・事務局長代行の選出と任命
      ・会長、副事務局長、会計担当、出版担当による報告
      ・2018年国際委員会の準備に関する検討
      ・予算案の決定
      ・各国・地域の宗教学会の状況、地域学会承認に関する審議
      ・次期世界大会開催校からの進捗状況に関する報告
      ・学会アーカイブ計画に関する検討
      ・国際哲学人文学会議(CIPSH)に関する報告と検討
      ・その他

      本理事会開催の約1か月前に、事務局長(Secretary General)が辞任したため、会議は新たに事務局長(Acting Secretary General事務局長代行)を選出することから始まった。ホーチミン市に来ることができなかった理事2名はスカイプで参加し、計10名で話し合った結果、筆者が選ばれた。国際宗教学宗教史学会(IAHR)は1950年に創立されたが、欧米、特にヨーロッパの宗教学者が長らく運営の中心であったため、アジア人が事務局長を(代行であれ)務めるのは初めてであり、女性でも初である。新たな歴史を日本から切り開くことができたのも、日本宗教学会はIAHR発足時からその会員になり、これまでに2回世界大会を開催したほか(1958年、2005年)、早期からほぼ継続的に理事を出し、副会長をも度々務めたという実績により、信頼を勝ち得ていることによるところが大きい。すなわち、欧米諸国以外でそのような国は他にないのである。「無宗教」な人が多いと言われる日本において、宗教に対する学術的研究(伝統的な「神学」とは異なる、中立的・科学的な宗教研究)は、他の多くの国々に比して盛んであり、このような国際的学術組織でもその実力を認知されていることは、日本国内でもほとんど知られていないのではないかと思われる。

      このところ欧米の宗教学会では、純粋科学を掲げる宗教学者と社会のニーズに直接応えようとする実践的な宗教学者の間で対立が深まっている。前者は「科学化=自然科学化」という理解のもと、哲学的宗教学にも批判的である。この状況は、IAHRが世界各国に加盟学会を増やしていく上で大きな問題となる。というのも、(南アジア・東南アジア宗教学会[SSEASR]はその典型なのだが)、開発途上国の宗教学は実践的・応用的傾向が強いため、先進国、とくにヨーロッパ諸国の宗教学者から批判が出されるためである。このような状況において、日本の宗教学は大きな役割を果たしうる。歴史上、日本の宗教学はヨーロッパのそれとは異なり、大学において哲学科に隣接して存在してきたために、哲学的宗教学と経験科学的宗教学の間には、ヨーロッパのような敵対関係が生まれることはほとんどなかった。日本学術会議でも宗教学が「哲学委員会」に所属しているのは、このような歴史的経緯によるものである。ゆえに、日本の宗教学者は、世界の宗教学界の対立を調停し、科学性と哲学的反省力を保ちながらも社会的責任を何らかの形で果たすような方向へとIAHRを牽引していく役目を果たしうるのである。岐路に立つIAHRにとって重要なポジションに位置していると言える。



会議の模様

理事会の2日目から開催された南アジア・東南アジア宗教学会は、今年で7回目の大会となり、ベトナムでは初開催である。社会主義国でどのような宗教学会が開かれるのか、実際に現地に入るまではIAHRの理事にも見当がつかなかった。結果は、開会式が開催機関の僧侶たちの読経と合掌から始まるという、日本や欧米諸国に比べてはるかに「宗教色」の強い会議となった。式典で壇上に登るのは男性の高僧ばかりだったが、セッションの司会の中には尼僧の姿もあった。また、会場が実質「お寺」であったため、メイン会場である礼拝ホールにはエアコンがなく、東京を上回る暑さと湿度の中、開会式・閉会式、ならびに主要な研究発表が行われた。会場で出される昼食・夕食もみなベジタリアンのベトナム料理だった。

興味深いことに、大会のテーマが当局の意向により直前に変更された。もとのテーマは「アセアン地域の宗教と文化―過去と現在の対話?―」だったが、社会主義以前の過去と対話する必要はないという理由から(と理事会は後から聞かされたのだが)、「アセアン地域と南アジア―東南アジアの仏教と文化のるつぼ―」に変わったのである。しかし、諸外国から集まった研究者による個々の発表までは介入できるはずもなく、それぞれに用意していたペーパーを発表し、暑さに負けない熱気あふれる討論が展開された。

レセプションではカルチャー・プログラムとして、現代風にアレンジされた仏教の歌と踊りが披露された。そのいくつかは愛国心と社会主義の要素がブレンドされたもので、宗教学的観点から非常に興味深いものであった。付け加えれば、東南アジアの学会ではこれが初めてのことではないが、多数の学生がボランティアとして大会運営に参加し、並々ではないホスピタリティを示した。一歩街に出れば日本企業の進出が目立ち、また、参加者が集団で滞在したホテルの隣はベトナム戦争証拠博物館だったが、そこでは日本人の戦場カメラマンが何人もクローズアップされていた。ベトナムと日本の関係を今後宗教学の分野でも築いていくことの重要性を知らされた。


会場外観 参加者と受付のボランティア 発表風景

次回開催予定 2018年6月末


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