代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  (和文)   国際憲法学会第9回世界大会
               (英文)   IX World Congress of Constitutional Law
  2. 会 期  平成26年6月16日~20日(5日間)
  3. 会議出席者名  辻村みよ子
  4. 会議開催地  ノルウェー王国 オスロ市 University of Oslo
  5. 参加状況  (参加国数、参加者数、日本人参加者)
      88か国、608名、日本人10名 (以上登録数、実際には90か国、650人程度)
  6. 会議内容  
    • ①日程と主な議題
      第9回世界大会の総合テーマは、Constitutional Challenge: Global and Local.「憲法の挑戦――グローバルとローカル」であり、グローバル化・国際化と、地域の統合・分権化とが同時に進行している今日の憲法状況を、多文化共生・多様化やジェンダー平等などの視点を含めて、広範に問題にすることを目指している。

      1) 第1日
      2014年6月16日は、ムンクの絵画で飾られたオスロ大学Domus Media にて、ノルウェー王国Haan 皇太子の臨席を得て開会式。主催の国際憲法学会 Martin Scheinin会長、オスロ大学公法・国際学部局長、法学部長らが挨拶。第9回世界大会の総合テーマは、Constitutional Challenge: Global and Local. 午後の第1回全体会では、米国の社会学者サスキア・サッセン教授ら4名の基調報告と討論。テーマは、The Quest for Constiutional Harmony:From Enlightenment Constitution to a Legaal Plurlalistic World.. 18時からレセプションが開催された。

      2) 第2日
      6月17日は午前中に第1~6分科会が開かれ、日本から江島晶子教授、西原博史教授らがそれぞれ第4・5分科会で報告した。午後の第2回全体会Embedding the Constitution in Society では、キャサリン・マキノン教授ら4名の基調報告と討論が行われ、国家と宗教、ジェンダー平等の問題などが議論された。

      3) 第3日
      6月18日は、午前に第7~12分科会が開催され、筆者(辻村)はリプロダクティヴ・ライツの第7分科会に出席して質疑討論に参加した。予想に反して100名以上の会場は満杯で、若手研究者、女性のみならず男性研究者の参加が特徴的であった。午後は、国際憲法学会の総会にあたる評議会(Coucil)があり、副会長の長谷部恭男東大教授のほか、評議員として、辻村日本支部副代表と西原早稲田大学教授が出席した。主な議題は次期4年間の会長・理事等の選出であり、日本からは、辻村日本支部副代表が理事に選出された。18時より市庁舎でレセプション。

      4) 第4日
      6月19日は、午前中に第13~17分科会があり、日本から岡田信弘教授が、直接民主主義をテーマとする第16分科会で、山口いつ子東京大学教授・西貝小名都首都大学東京准教授が、メディアの問題を扱う第14分科会で報告した。長谷部教授が同分科会の司会を担当。午後は、第3回全体会「宗教と憲法」があり討論が行われた。18時から新理事会が開催され、日本からは辻村新理事が出席して、今後のラウンド・テーブルの予定等に関する議論に参加した。

      5) 第5日
      6月20日は、午前.第4回全体会(憲法裁判官討論「憲法訴訟における比例原則」)が開催され、ヨーロッパ人権裁判所元判事の司会で、ヨーロッパ司法裁判所判事、ドイツ憲法裁判所判事、モロッコ憲法裁判所判事、南アメリカ(コロンビア)の憲法裁判所判事などが出席して、比例原則の手法や普遍的性格の有無などを巡って熱心な議論が展開された。12時半から閉会式が開催され、オスロ大学への感謝とともに、次期新会長(コロンビア大学、CEPEDA教授)による挨拶が行われ、盛会裏に閉幕した。

      (分科会テーマ・提出ペーパー一覧は、http://www.jus.uio.no/english/research/news-and-events/events/conferences/2014/wccl-cmdc/index.htmlを参照されたい)。

    • ②会議における審議内容・成果
      20世紀末以降の世界の憲法動向は、グローバル化と国民国家の衰退、新しい人権の展開と多文化社会の課題の問題を引き起こしてきた。そこで近年の国際憲法学会世界大会でも、外国人の人権や欧州連合と国際的人権保障の問題が大きな比重を占めてきたが、今回の第9回大会も例外ではなく、より明確に、グローバル化のもとでの憲法状況を問題にしている。
      すなわち、総合テーマ自体が、「憲法の挑戦――グローバルとローカル」というもので、グローバリゼーション下の統合と分権化の進行と矛盾の解消をテーマとしており、全体会でも、多文化社会の宗教と憲法の問題などが正面から取り上げられた。17に及んだ分科会でも、テロリズムや憲法的対話の問題、非民主的国家・途上国の憲法問題、リプロダクティヴ・ライツなどの新しい人権問題などがテーマになっている。
      とくに今回の世界大会では、参加国数が90か国近くになり、欧米の先進諸国だけでなく、中南米、アジア、アフリカ諸国からの参加者の増加が目立った。スカーフを被ったイスラム女性を含め、多様な人種・民族・宗教に属する参加者が一堂に会して、各国や世界、EUなどの憲法問題・人権問題を議論し、総合的視点に立った理論的課題を語り合ったことの意義と成果は非常に大きい。

    • ③会議において日本が果たした役割
      国際憲法学会は1983年に設立され すでに30年の歴史を持つ。この学会の創立には、小林直樹・樋口陽一東大教授(当時)が重要な役割を担っており、特に樋口教授は共同代表として国際学会の組織化に関わるとともに、1985年に日本支部を設立した。以後、1987年の第2回大会(パリ、エクス・アン・プロヴァンス)、1991年の第3回大会(ワルシャワ、ポーランド)、1995年の第4回大会(東京、日本)、1999年の第5回大会(ロッテルダム、オランダ)、2003年の第6回大会(サンチャゴ、チリ)、2007年の第7回大会(アテネ、ギリシャ)、2011年の第8回大会(メキシコシチィ、メキシコ)を経て、今回第9回大会まで、日本支部は、国際憲法学会共同会長(のち名誉会長)に樋口陽一東大名誉教授、副会長長谷部恭男東大教授(現早稲田大学教授)、長谷部教授・辻村理事などを輩出して、重要な役割を果たしてきた。とくに1995年には日本学術会議の支援も得て、東京で世界大会を開催し、2007年には、横浜でラウンド・テーブルを開催した。
      日本は、今後も、アジア地域での中心的役割を担うべき地位にあり、重要な役割を担ってゆくことになろう。世界大会が4年に一度の開催であることもあって、日本学術会議加入の国際学会にはなっておらず、いわゆる第3分野の代表派遣にとどまっているが、今後も世界の憲法課題の克服のために、引き続いての代表派遣と多大なご支援を期待したい。


会議の模様

会議のテーマ・報告者・および成果は、上記①②に記載したとおりである。
参加国90か国・参加者約650名という大規模な国際憲法学会世界大会が、オスロ大学やノルウェー王国、オスロ市などの後援によって、盛会裏に終えたことは大変に大きな意味がある。特に、今年は、世界最古の憲法の1つである1814年憲法の300周年にあたっており、ノルウェー国会での常設展示やレセプションでの憲法の紹介などがあり、充実したものとなった。
これまでの世界大会のうち、1987年大会以降(1回を除き)すべての世界大会に出席してきた筆者の目からしても、今回の第9回大会の大成功は、国際憲法学会の発展を示すものとして輝かしいものに映る。反面、グローバル化し多様化した世界の憲法が抱える問題の多大さからして、憲法学の今後の課題(地域紛争やテロ、少数者の人権侵害、民主主義・国際理解の課題など)の重さを思い知ることができた大会でもあった。
参加者の中には、筆者のように30年近くこの国際憲法学会の活動に参加してきた者も多いほか、今回はとくに若手研究者(女性研究者や途上国出身者)の参加と活躍が目立った。テーマにも、リプロダクティヴ・ライツや同性婚などを扱う分科会が大盛況であったこと等にも、近年の傾向がうかがえる。また、中国の他、台湾・香港からの出席者が急増し、活発に議論に参加していたことが印象的であった。
本国際学会は、フランス語と英語を公用語としており、分科会では、原則として通訳なしで実施されるため、日本からもこれらの言語で発表できる若手研究者の積極的な参加が期待される。(今回は、理事会やセレモニーでは、フランス語が主流であったものの、分科会では、英語が中心になっていた印象がある)。
また、参加者の著しい増加によって、各分科会(9時半~13時)での各人の報告時間が5分から15分程度に抑えられる例も多く、理解や議論を深めるには不十分なセッションもあった。近年では、従来行われていたようなペーパーの印刷・配布がなくなり、すべてウェブ上の配信にとどまった。このため、会場にパソコンを持ち込むことは勿論としても、事前に必要な準備をしておかないと、会場で同時にいくつかのペーパーを比較検討することはできない仕組みとなった。どの国際会議でも同様の傾向にあるが、相互理解や懇親、人材交流の機会以上に、理論を深める機会にするためには、各参加者の相当な対応が求められることも事実である。


次回開催予定は、2014年11月の理事会で最終決定されるが、候補地の一つとして、オーストラリア、メルボルン市、メルボルン大学主催が検討されている。日程やテーマも追って決定される。
次回には、日本からより多くの研究者が参加して活発な議論を行うことを期待している。


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