代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称  (和文)   国際土壌科学連合(IUSS)世界土壌炭素会議
               (英文)   IUSS Global SOIL CARBON CONFERENCE
  2. 会 期  2013年6月03日~06日(4日間)
  3. 会議出席者名  波多野隆介(北海道大学)
  4. 会議開催地  マディソン市(米国)
  5. 参加状況  (参加国数、参加者数、日本人参加者)
      参加国数28か国,参加者数129名,うち日本人参加者8名
  6. 会議内容
     本会議は土壌炭素の総合的理解のために国際土壌科学連合(IUSS)事務局が特別に企画したものである。IUSSを構成する4部門22部会は,土壌の分布と変化,土壌の性質と過程,土壌の利用と管理,土壌の環境および持続的社会への役割において研究を進めており,土壌炭素は主要な研究対象である。土壌炭素は2500ギガトンあり,大気炭素の3.3倍,植物炭素の4.5倍に匹敵し,その63%は有機物に含まれる。土壌有機物は養分のプールであるとともに,土壌無機粒子と化合して団粒構造を発達させる。これが土壌の保水,排水,通気を良好にし,持続的な食料生産に寄与する。しかし農業活動は有機物を消耗させ,CO2を排出し,地球温暖化を促進する。これは全CO2排出の20%に達する。さらに土壌有機物が消耗すると,団粒構造は壊れ,農地は侵食を起こして劣化する。これらのことから土壌資源の適正な管理が強く望まれている。そこで,IUSSの部門部会を横断した研究者のネットワークを発展させ,これまでの成果と現状認識を共有し,問題解決のための研究レベルを高めることを期して本会議が開催された。
    本会議では,土壌炭素に関する『時空間変動』,『性質と過程』,『土地利用の影響』,『持続的社会における役割』の4テーマに14のサブテーマを設けて順次研究発表し,サブテーマごとに総合討論するミニシンポジウム形式がとられ,最後に総括が加えられた。毎日まず基調講演が行われ,各サブテーマ6題程度の研究発表と総合討論が行われた。3日間での発表総数は基調講演3題を含む94題であった。
    日本からは4つのテーマすべてに8題の研究発表を行い,土壌炭素研究を幅広く行ってきていることを象徴的に見せた。
    最終日にはマディソン近郊の大学付属農場における土壌炭素固定に関する研究サイトを視察し,会議での内容を振り返る良い機会に恵まれた。
    本会議での発表はSpringer社から「SOIL CARBON」(仮)として,年内に出版されることになっており,すでに原稿が集められ査読が進められている。


会議の模様

 1日目には,冒頭に,IUSS会長のJae Eui Yang教授(江原大学)から会議の意義について,IUSS事務局長のAlfred Hartemink教授(ウィスコンシン大学マディソン校)から会議の主旨が説明された。『時空間変動』のセッションが行われた。Alex McBratney教授(シドニー大学,IUSS事務局次長)の基調講演「The knowns and unknowns of soil (organic) carbon and its sequestration」では,時空間変動の解析と予測モデルの開発の現状が述べられた。続いて5つのサブテーマ「形態」「生成」「分布」「監視」「定量」について,それぞれ3件,7件,6件,9件,7件の研究発表と討論が行われた。日本からは,「生成」において犬伏和之教授(千葉大学,IUSS2.3部会長)が「Soil microbial biomass in Andosol for C storage index and buried paleosol」を発表し,特に日本に広く分布する火山性土壌の特異性を強調した。また,「監視」において高田裕介博士(農業環境技術研究所)が「Monitoring of soil carbon stock and soil management in Japanese agricultural land」を発表し,日本の647か所の農地の土壌炭素量の30年間の実測から,その時間変動が畜産分野と連動していることを示し,堆肥施与の重要性を述べた。
2日目にはDonald Sparks教授(デラウエア大学,IUSS元会長)の基調講演「Shedding light on carbon-mineral complexation in the soil environment: impacts on C sequestration and cycling」が行われ,土壌炭素の固定に非晶質鉄(フェリハイドライド)の貢献が極めて大きいことを多様な機器分析から紹介した。ついで『性質と過程』のセッションの4つのサブテーマ「化学性」「物理性」「生物性」「鉱物性」についてそれぞれ7件,5件,8件,8件の研究発表と討論が行われた。『土壌利用の影響』セッションのサブテーマである「土壌と水の保全」についても5件の研究発表と討論があった。日本からは,「生物性」において杉原創博士(京都大学)が「In situ short-term dynamics of CO2 flux and microbial biomass after simulated rainfall in dry croplands」を,「鉱物性」において渡邉哲弘博士(京都大学)が「Preservation of organic carbon in humid tropical soils by active Al and Fe」を発表した。
3日目には,まずRattan Lal教授(オハイオ州立大学)の基調講演「Soil carbon management and climate change」が行われた。人間活動がもたらした土壌炭素の消耗の歴史とそのメカニズムを述べるとともに,土壌が土壌炭素の蓄積により植物生育の培地として成り立っているかを説明し,農業が土壌炭素を涵養することが可能であることを示した。なお,Lal教授は元米国副大統領のアル・ゴア氏の著書「不都合な真実」の執筆において土壌炭素の消耗に関する多くの知見を提供したことで良く知られている。『土壌利用の影響』のセッションの2つのサブテーマ「土壌肥沃度」「植物栄養」についてそれぞれ6件,7件の研究発表と討論が行われた。ついで『持続的社会における役割』のセッションの2つのサブテーマ「環境」と「土地利用変化」についてそれぞれ5件,6件の研究発表と討論が行われた。日本からは,「土壌肥沃度」において舟川晋也教授(京都大学)が「Could soil acidity enhance sequestration of organic carbon in soils?」を発表し,また波多野隆介(北海道大学教授,IUSS4.3部会長)が「Farmyard manure application mitigates greenhouse gases emissions from managed grasslands in Japan」を発表し,堆肥施与が土壌炭素固定の向上に効果的であることを定量的に示した。「植物栄養」では白戸康人博士(農業環境技術研究所)が「Estimating carbon sequestration potential of cropland management in Japanese arable soils with the Rothamsted carbon model」を発表した。さらに『持続的社会における役割』では,小崎隆教授(首都大学東京,日本土壌肥料学会会長,IUSS3.5副部会長)が「土地利用変化」において「Dynamics of soil carbon, nutrients and microbial activity under shifting cultivation systems: clues about indigenous wisdom in the humid tropics」を発表し,移動耕作では栽培期間の土壌炭素の低下を6-7年の休閑が回復させることを示した。また波多野と共同発表でMalaysiaのLulie Melling博士は「Soil CO2 fluxes from different ages of oil palm in tropical peatland of Sarawak, Malaysia」を発表し熱帯泥炭の土地利用への注意を喚起した。
最後に全体の総括がKarl Stahr教授(ホッヘンハイム大学,IUSS1部門長),Martin Gerzabek教授(ウィーン天然資源および応用生命科学大学,IUSS2部門長),Rattan Lal教授により行われた。その中でKarl Stahr教授は「土壌炭素の地球レベルにおける時空間変動の解明」,Martin Gerzabek教授は「分子レベルから構造レベルをつなぐ性質と過程のモデル化」,Rattan Lal教授は「土壌炭素の維持と改善のための農法の構築」を今後の重要課題として挙げた。
4日目はマディソン近郊に広がる農業地帯にある大学付属農場における土壌炭素に関する研究サイトを視察した。2つの典型的な土壌タイプ(AlfisolとMollisol)の土壌断面観察では,この地帯のMollisolが低地窪地にありAlfisolの侵食と流亡土砂の集積の影響を強く受けていることが説明され,また下層に炭が多くみられ森林の開墾による炭素の蓄積効果についても議論があった。土壌炭素を向上させる輪作試験,バイオエネルギー生産と土壌炭素の向上を両立させるための試験,土壌炭素を減少させる侵食の抑止試験の視察もあり,米国における農業による地球温暖化対策の積極性をうかがわせる内容であった。
なお,本会議での発表はSpringer社から「SOIL CARBON」(仮)として,年内に出版されることになっている。すでに必要な原稿は提出済みである。2014年6月には韓国で国際土壌科学会議(WCSS)が開催予定であり,本会議での成果をWCSSで広く見せることにより,さらに多くの研究者が土壌炭素の研究を発展させることが期待される。また,WSSSにおいては,私を含め本会議出席者の数名がシンポジウムを企画しており,その中に本会議で示された3つの課題を発展させる要素を盛り込むこともできよう。
本会議は土壌科学者が土壌炭素の問題に対して一丸となって研究を進める機運を整えたものと思われる。

次回開催予定  未定

会議の模様 土壌断面観察
会議の模様 土壌断面観察
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