代表派遣会議出席報告

会議概要

1 名 称   原子力エネルギー安全シンポジウム
        (Nuclear Energy Safety Symposium)

2 会 期 2011年10月13日(木)

3 会議出席者名 成合 英樹

4 会議開催地 南アフリカ共和国(プレトリア)

5 参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)
         ・参加国 南アフリカ科学アカデミー会員を中心にした南アフリカ、及び講演を行った米、日、仏、テレビ討論参加の英、の5カ国、その他である。
         ・参加者数 約100名
         ・日本人参加者 成合英樹、小沢俊朗南ア日本大使、菅野将史南ア日本大使館一等書記官

6 会議内容

・会議の趣旨

 南アフリカ科学アカデミーでは毎年、年次総会に合わせて特定テーマでシンポジウムを行っている。本年は、南ア政府が今後20年間の総合電源計画(Integrated Resource Plan for Electricity, IRP2010)をつくり、このレビューを南ア科学アカデミーに依頼した。
 この計画では20年間に3000万kWの発電設備建設のうち、960万kWを原子力発電で行うとしていることもあって、原子力に係わるシンポジウムを行うこととした。南ア政府が昨年末につくられたこの総合電源計画を承認したのは、東日本大震災が発生した3月11日の6日後の3月17日である。福島原子力発電所の事故は南アフリカの科学者にも強いインパクトを与え、日本学術会議へも講演依頼が来たものである。

・会議における講演内容

 会議では9件の講演がなされた。この発表のパワーポイントは、南ア科学アカデミーのホームページ(※外部サイトへリンクします。)に載せられている。成合は、”Lessons Learned from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident”(福島第一原子力発電プラント事故からの教訓)と題した30分の講演を行った。講演の概要は、大震災を生じた地震と津波、東北・関東地区の原子力発電プラントの被災、福島第一原子力発電所の事故の概要、事故に至らなかった11プラントの状況、住民の避難、事故収束へのロードマップ、ステップ1の達成とステップ2の進捗、事故からの教訓、教訓への対応、事故に対するコメント、である。質疑では、福島原子力発電事故による死者はいたのか(放射線・放射能等原子力事故による死者はゼロと回答)、最初のプラントはターンキー契約によるということだったが、その点はどうか(米国のプラントはトルネード対策もあって非常用ディーゼルを低い地下等に置いておりそのまま導入したが、日本ではトルネードより津波等他に重要なことがあったと考えると回答)、等があった。

・会議において日本が果たした役割

 シンポジウム終了後、南ア科学アカデミーの年次総会のセレモニーが行われたが、シンポジウム実行委員長の南ア科学アカデミー会長Prof. Robin Crewe氏と来賓の科学技術大臣Naledi Pandor女史を挟んで、成合とフランスからの講演者Prof. Robert Guillaumontが主賓席に座るなど、大変丁寧な歓迎であった。南ア科学アカデミーとしては、海外から導入する原子力発電プラントについて、技術力の高い日本の経験から学ぶことの重要性を改めて認識できたと考える。

・その他特筆すべき事項
 日本大使館の小沢南ア日本国大使と菅野一等書記官には大変お世話になった。小沢大使は今回の件でも何度か南ア科学アカデミーのCrewe会長と話をしており、Crewe会長が今回のシンポジウムに成合が参加したことを大変喜んでいたこと、日本から直接説明できたことが大変良かったこと、を言っておられた。

7 会議の模様

・シンポジウム会場

 このシンポジウムは南アの首都プレトリアの中心から南東20km近い所にあるイノベーションセンターで行われた。ここには、南ア科学アカデミーもあり、センター内の会議場でのシンポジウムであった。科学アカデミー会員は約350名と聞いており、今回のシンポジウムは年次総会にあわせたもので、出席者も会員が主のようであった。海外からの講演者はこのイノベーションセンターから車で4,5分のロッジに宿泊したが、このロッジでも集会を行えるようになっている。

・会議内容

 シンポジウムのプログラムと講演者の略歴は別添1(PDF形式)を参照。プログラムにあるエネルギー大臣Ms. Dipuo Peters氏のキーノート講演がキャンセルになった以外は予定通りに講演が行われた。挨拶・講演順に概略を記す。また発表のパワーポイントは別添2(PDF形式)を参照。
 (1)Crewe会長より、歓迎と本シンポジウムの趣旨の挨拶。(要旨)政府より科学アカデミーに対してIRPに関するコメントを求められた。国際的視点から検討すべく日本等外国へも出席依頼をした。
 (2)米国エネルギー省Ms. Anne Hamington氏:(要旨)世界のエネルギー需要は今後20年で50%増加し、その内途上国が70%を占める。15カ国で65基の新設炉計画があり、米国でも26基の設置申請が出されている。低炭素社会へ向おうとしているが、利便にはリスクが付きもので、安全以外にもテロリストの核物質の盗難もリスクである。これを防ぐには国際的な協働が必要である。
 (3)南ア原子力産業協会Dr. Alex Tsela氏:(要旨)南ア政府はIRP2010を承認したが、鍵はリスクである。安全性は言うまでもないが、原子力プラント建設におけるリスクであって、初期投資(コスト)が大きく高い技術が必要なこと等から来る。現状では、規制プロセス、経済性、製造者の局在性、スケジュール、技術力、国民の受容性、など全てが問題で、これらを解決してプロジェクトが達成される。
(4)成合の講演:概要は上記。
 (5)フランス科学アカデミーProf. Robert Guillaumont氏:(要旨)フランス科学アカデミーは本年6月に福島原子力事故に関してのレポートをまとめている。それをベースに核燃料の性質(高温特性や化学的な挙動)を説明すると共に、福島事故における新しい課題をあげて、安全性の向上について考察した。
 (6)南ア原子力エネルギー会社Prof. Rob Adom氏:(要旨)原子力エネルギーの資源の開発や量について広くレビューし、さらに原子炉の開発過程と第四世代原子炉についての考えを示した。
 (7)南ア北西大学Prof. Piet Stoker氏:(要旨)IAEAの安全要件やガイドラインは膨大なもので、これを1頁10分で読むとして全部読むのに41年かかる、というところから始まって、原子力安全をシステム工学的に扱おうというものである。この方法の理論的なやり方を原子力知識マネジメントの視点から説明した。
 (8)南ア原子力規制官Advocate Boyce Mkhize氏:(要旨)原子力規制官として、規制機関の役割、運転者と規制者の役割と安全文化、国際的な安全の枠組み、今後の原子力安全の展開を説明した。
 (9)南ア科学技術サービス研究所Dr. Alex Tsela氏:(要旨)今日の原子力の推進には公衆の声を無視できなくなっている。そのためには公衆を巻き込んだ進め方が重要として、その手法について説明した。
 (10)英国Royal Society Prof. Roger Cashmore氏:ビデオ会議として英国にいるCashmore氏が講演し、会場からの質問に答えた。(要旨)原子力ルネッサンス時代における核燃料サイクルの進め方についての議論で、核不拡散の視点からの問題提起である。(英国The Royal Societyではこの課題に対してレポートをまとめている。)原子力はSafety, Security, Safeguardsの3つを一緒に考えないといけない。この内SafetyとSecurityは国の問題であるが、核不拡散は国際的なレベルの問題であるとして、それらの進め方に関し検討内容を説明した。
 (11)Prof. Rob Adom氏:(要旨)会議のサマリーとして、日本の成合の発表を含め、福島事故を念頭に置いた発表のレビューを行った。
 (12)Prof. Roseanne Diab氏:(要旨)終わりの挨拶として、4カ国からのゲストや日本大使館に対しての感謝等がなされた。
  ・南ア科学アカデミー年次総会後のセレモニー 科学技術大臣Mrs. Naledi Pandor氏より挨拶、新会員への科学技術大臣よりの会員就任状授与、南ア科学アカデミー賞の授与等が行われた。

会場のイノベーションセンター 南ア科学アカデミーの看板 講演風景
英国Cashmore教授のビデオ講演 南ア科学技術大臣Pandor女史 右:派遣者(成合英樹)左:小沢南ア日本国大使
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