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代表派遣会議出席報告
1 名 称   哲学諸学会国際連合運営委員会
        Steering Committee of the International Federation of Philosophical Societies
2 会 期  平成23年9月18日~22日(5日間)
3 会議出席者名 佐々木 健一(連携会員)
4 会議開催地  ツレス市(クロアチア国)
5 参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)
   21カ国、25名(この会議は、FISPの business meeting とクロアチア哲学会主催の国際会議「東南ヨーロッパにおける哲学的潮流」を合わせたかたちのもので(この会議にFISPの運営委員会が招待された)、
   この数字はFISP運営委員会だけの数字です)。
   日本人参加者は佐々木健一
6 会議内容

   ・日程及び会議の主な議題
     9月18日 参加者到着(多くはザグレブから移動)、レセプション
     9月19日~21日 午前・午後 開会セレモニーとコンフェランス
     9月20日 夜、21日~22日 運営委員会
     9月23日 参加者移動(多くはザグレブへ)
     運営委員会の主要議題は、会長、事務局長の会務報告(特に、国際哲学デイ、国際哲学オリンピアードを含むUNESCOとの関係)、出納係の会計報告、2013年のアテネ大会のための諸問題(特に、残されたシンポジウムのスピーカー、
    一般セッションの責任者の決定)、北朝鮮からの「主体概念に関する国際会議」への代表派遣要請、諮問委員会の報告、FISPへの新規参入申請審議など。

   ・会議における審議内容・成果
     重要なポイントは3点に絞られる。ひとつは哲学を含む人文学に対する攻撃、締め付けが、引き続き世界各地で続いていることに関するものである。この攻撃の動機、理由は、人文学が「役に立たない」ということにある。FISPからの抗議にも
    拘らず、閉鎖されたり縮小された哲学科が現れている。今年の会議で報告された新しい動きは、ユネスコのネガティヴな動きで、事務局長の交替によるところが大きい。具体的には、世界各地で順繰りに開催され、それぞれの土地における哲学
    の振興に貢献していた「世界哲学の日」が、パリ(ユネスコ本部)のみでの開催に限られるようになったこと、雑誌『ディオゲネス』への補助金打ち切りなどである。第2は、次回世界大会(2013年アテネ)に関係することで、これが二つに分かれる。
    ひとつは昨今急速に進んでいるように見えるギリシャの財政状況の悪化が、大会の開催に影響を与える懸念である。これは極めて深刻な問題で、ギリシャの組織委員会の状況も、続行への意志を除いて明らかでなく、対応策も話し合われたが、
    決め手を欠いた。来年早々にも臨時の委員会を開く提案もあったが、会長と事務局長による対応と、必要に応じてメール会議を開くことに落ち着いた。大会に関する二つ目の話題は、候補者の辞退によって空席となっていたプレナリー・セッション
    およびシンポジウムのスピーカー、一般セッションの議長の選定である。日本からは、すでに3人が選出されていたが、今回「哲学と宗教」のシンポジウムに関根清三氏が選出された。昨年の報告でも書いたが、3人というだけでもかつてないこと
    だが、4人という成果はわたし自身、信じられない思いがする。三つ目の重要主題は、北朝鮮からの「主体概念に関する国際会議」への代表派遣要請だが、代表派遣は問題外とし、個人参加にとどめることとなった。

   ・会議において
     運営委員会という性格上、国単位での役割というようなものはない。わたしは日本人スピーカーについて説明を行ったほか、北朝鮮の会議への参加に強く反対した。

7 会議の模様
     運営委員会としては、次回大会の開催可能性そのものについて、大きな懸念を残している。ギリシャの組織委員会が開催の強い意志を示しているので、どのようなかたちでもこれを実現するほかはない。あと2年弱に迫った状況のなかでは、他国
    がこれを引き受けることは不可能であろう。また、いまや経済的に余裕のある国はない、とも言える世界不況であるから、学問的会議のありかたについてのイメージそのものを変える必要があるように思う。この大会が開催されるなら、日本から4人
    のスピーカーが招聘されることは大きな成果で、今後、哲学の分野で日本の存在が大きくなってゆくことが期待される。
     この運営委員会は、最初に書いたように、クロアチア哲学会主催の国際コンフェランスと併せて開催され、FISPの委員も何人かが、研究報告を行った。そこで、この研究集会の方についても記しておきたい。
     コンフェランスは、クロアチア哲学会の創立20周年記念に当たる。開催地のツレスはリゾート地だが、同会は創立以来、この地で、ここに生まれたルネッサンスの哲学者の名を冠した「フラーネ・ペトリッチの日」として年次大会を開催してきている。
    今年の主題は「南東ヨーロッパにおける哲学的潮流」で、創立20周年を意識したものと思われる。コンフェランスは英語(とドイツ語)のセッションとクロアチア語のセッションに分けて運営された。Plenary sessions は英語で、FISPの委員は英語のセッ
    ションに参加した。主題は敢えてローカルなもので、「南東ヨーロッパ」とは、バルカン半島と呼ばれてきた地域を呼び換えようという主張に立っている。
     地域の特殊性に焦点を絞ったテーマなので、この地域外からの学問的参加は難しい(皆無ではないが、ハンガリー、チェコからの発表は地域的にも近い。カナダのスウィート氏の発表は、宗教と哲学の関係についての理論を示し、それをこの地域に
    適用可能なものとして提示するものだった)。しかし、この地域のなかでも場所によって事情が異なる。スロヴェニアからの発表は、自国の過去20~30年の哲学の動向を語るものが多く、ギリシャのヴィルヴィダキス氏の発表は、古代ギリシャの哲学
    や神学の伝統の「継続」を論ずるもので、これは他の国の学者には適用できない。厳しい動乱の歴史を生きたクロアチアをはじめとする旧ユーゴスラヴィアの哲学者の場合、政治哲学に強い関心を示し、哲学と状況の相関性を証したのが興味深い。
    また、クロアチアが独特の生命倫理学を展開してきたことも、注意を引いた。

   次回開催予定:2012年10月中旬



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