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代表派遣会議出席報告
1 名 称  第19回世界土壌科学会議
       (19th World Congress of Soil Science)
2 会 期  2010年 8月 1日~6日(6日間)
        (council meeting各国代表者会議は7月17日および7月25日に開催)
3 会議出席者名  犬伏和之・波多野隆介・小崎隆
4 会議開催地  オーストラリア(ブリスベン)
5 参加状況 (参加国数、参加者数、日本人参加者)  約50か国、約2000名(うち日本人 約100名)
6 会議内容

・日程及び会議の主な議題
8/1:理事会、参加登録、歓迎レセプション
8/2:開会式、基調講演(国際稲研究所長;イネと世界食糧保障-減少する資源と気候変動、OSIRO代表;オーストラリアにおける土壌と土地管理の挑戦)、シンポジウム、ポスター発表、執行委員会、部門会議(4年間の活動報告と今後4年間の活動方針・計画の検討など)
8/3-5:基調講演(全8講演)、シンポジウム(全72テーマ)、ポスター発表(全1100件)、公開講演、執行委員会、部会会議、学術誌編集幹事会
8/6:基調講演(国際水管理研究所長、国際肥料開発センター所長)、シンポジウム、閉会式(次回2014年大会開催国の韓国の紹介など)
・ 会議における審議内容・成果
執行委員会では次期事務局長・次長の選出、2018年大会開催国のブラジル決定、会長選出特別委員会の設立など規約改正や世界土の日の策定が認められた。包括的土壌分類体系に関する現地検討などが行なわれた。 部門会議では4年間の活動報告と今後4年間の活動方針・計画などが検討された。日本土壌肥料学会刊行のSoil Science and Plant Nutrition誌がIUSS協力誌として認定された。
・会議において日本が果たした役割  
100件近い発表(口頭およびポスター)、座長としてのシンポジウム運営、次期開催国韓国や東アジア東南アジア土壌科学連合諸国との連携、新役員5名を含め4年間の活動方針の策定など。
・その他特筆すべき事項
地球規模での炭素循環における土壌への炭素貯留の重要性が国連などでアピールされることになった。 IUSS名誉会員として熊澤喜久雄東大名誉教授と久馬一剛京大名誉教授がその功績に対し選出され、晩餐会で満場の拍手で祝福された。

7 会議の模様

 今回の会議においては、前回の会議(2006年7月にアメリカ合衆国フィラデルフィアで開催)から4年間で蓄積された最新の興味深いデータによって、土壌科学研究の主流が形成されていた。330の口頭発表と1100のポスター発表によって、会場である Brisbane Convention and Exhibition Centre には知識の交換の場として非常に活気ある雰囲気が形成されていた。「生きている地球の皮膚」といわれる土壌をより深く理解することがどれくらい重要であるかは今回の会議のテーマであった「世界を変えるための土壌ソリューション」によってよく説明されていた。開会式では英国王室の流れを窺わせる州総督の開会宣言でも農業および土壌の重要性に触れられ、また農業の草創期を思わせる原住民アボリジニの歓迎の踊りや音楽も披露されたことは感慨深い。
 初日の基調講演では、国際稲研究所(IRRI)の所長 Robert Zeigler博士が、耕作面積が減少傾向にある現状において、増加し続ける世界の飢餓人口にどうやって対処するか、について講演した。世界の約半分の人々にとって主食であるコメの問題はますます複雑になっており、問題解決のためには、より学際的分野におけるつながりが必要とされている。 気候変動のダイレクトな負の影響の1つとして、多くの東南アジア諸国においてコメの収量損失につながる夜間気温の上昇が挙げられた。 また、博士は稲作にとっては水危機も重要な課題であると指摘した。そして、AWD(Alternate Wetting and Drying)と呼ばれる水稲の間断灌漑技術は従来の灌漑技術と比較潅漑用水の30%を節約できること、また AWD によりもたらされる好気的期間の増加によってメタン排出量のかなりの削減も可能であることを述べた。
 Neil McKenzie博士(豪、CSIRO)は世界の人口増加が2050年に92億で安定するという国連の中間シナリオを紹介し、私たちが少なくとも2050年までにやらなければならない急を要する対応の一つは、多くの穀物の実際の収量と潜在的な収量のギャップを減少させることである、と述べた。 高度な植物バイオテクノロジーにより高収量のハイブリッド穀物は実現したが、これらハイブリット穀物が持つ潜在的な収量を完全に実現させることはできていない。そこで博士は、これら新しい高収量のハイブリット穀物が持つ本当の能力を「目覚めさせる」ために土壌-農業生態系研究にシフトしていくべきである、と指摘した。
 67に及ぶシンポジウムでも土壌と食糧・環境との調和的関係や土壌汚染・土壌損失、あるいは土壌の文化的意義や土壌教育の重要性、政策決定者への提言など活発な議論が行なわれた。今後、4年間あるいは更に長期的視野に立って、様々なアプローチが試みられ計画が練られた。アジア諸国からの参加者は前回より多かったが、途上国から多数が参加できる状況ではない。優れた若手研究者をも招聘できるような、また学際的横断的シンポジウムも企画できるような経済的基盤の充実が期待される。

 次回開催予定 2014年6月8~13日、韓国、済州島で第20回世界土壌科学会議が、また2012年には同地で国際土壌科学連合IUSSの中間会議が開催される。


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写真1:開会式の様子。IUSS会長Roger Swift 博士、クイーンズランド州総督、組織委員会メンバーらの前で歓迎演奏するアボリジニー。
写真2:大会会場のBrisbane Convention and Exhibition Centre
写真3:執行委員会の様子。

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