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代表派遣会議出席報告
1 会議概要
1)名 称 (和文)国際気象学・大気科学/海洋物理科学/雪氷圏科学協会合同総会  
       (英文)IAMAS/IAPSO/IACS Joint Assembly MOCA-09
2)会 期  平成21年7月20日-24日(5日間:IAMASのみ29日まで8日間)
3)会議出席者名 若土正曉連携会員、今脇資郎連携会員、山形俊男連携会員、中島映至会員ほか
4)会議開催地 カナダ・モントリオール市  会場名 国際会議場 
5)参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)    約60カ国、約1350名(うち日本人参加者約130名)
6)会議内容
・日程及び総会・シンポジウムの主な内容:

  地球温暖化問題に密接に関わっている三つのコミュニテイ合同による総会(MOCA-09)が7月20日午前8時半からモントリオール市内にある国際会議場で開催された。現在、世界で最も注目されている研究分野の一つと言ってもよい地球温暖化に関する、全部で54 のテーマ(そのうち IAMAS18件, IAPSO10件, IACS5件, JOINT21件)が用意され、それぞれの会場に分かれて口頭発表とポスター発表が行われた。会場によっては最初からかなりエキサイテイングな議論が戦わされたところもある。各セッションにおける口頭発表は、招待講 演(30分)と一般講演(15分)に分類されていた。
 大気、海洋、雪氷及びJOINTの各セッションに分かれて進められた上記の講演とは別に、オープニングセレモニーや直後の基調講演と、初日と23日の二回に分けて行われた、 IAMAS,IAPSO, IACS それぞれの代表者による特別講演等は全員参加の場で行われた。それら全員集会を含むすべてのプログラムが、同じフロア内の各会場で進行したため、短時間に 会場間の移動が可能であり、多くの講演を効率良く聞くことができ、参加者には好評であった。

 IAPSO については以下10件のテーマに分かれてプログラムが進行した。いづれのテーマも、地球温暖化を直接意識したものというより、海洋物理学における依然として最も 基本的かつ本質的な諸課題が取り上げられた。これら古くて新しい諸課題についての理解を深めていくことは、本来の海洋学の発展に最も重要なことであり、それが結果的に地球温暖化問題等の解決にも繋がっていくのだとの海洋物理学研究者の信念と今後への強い姿勢を示したものだろう。
・Mesoscale Ocean Eddies
・Effects of Climate Variability on Nearshore Coastal Environments: Physical, Geomorphologic and Biological Interaction
・Argo and Operational Oceanography
・Overflows and Abyssal Currents
・Physics and Chemistry of the Oceans: General Topics
・Ocean Mixing Processes and Consequences
・The Southern Ocean: Its Physics, Chemistry, Biology and Links to the Global Climate System
・Coastal Currents and Large Marine Ecosystems
・Deep Ocean Exchange with the Shelf
・The Variable Atlantic Meridional Overturning Circulation - Characteristics, Causes and Consequences for Climate

 しかし、今回の総会・シンポジウムの特徴は何と言っても、掲げたテーマである 地球温暖化問題に最も関与している大気科学、海洋物理科学、雪氷圏科学のコミュニテイに属する研究者が一堂に会することでしかかなわない試みとして、全部で21からなる JOINT のテーマを取り上げ、それぞれのセッションで活発で建設的な議論を展開できる場が与えられたことである。
 ちょうど IPY (国際極年)終了後ということもあり、JOINTセッションでは、特に南北両極域における研究成果が多く紹介された。南極氷床・グリーランド氷床融解進行による海水面上昇、北極海海氷融解量の急増や北大西洋北上流海水の昇温化による降水量増大からの北大西洋深層水の淡水化といった地球温暖化と直接関連する話題について議論するには格好の場であった。中でも、北極海陸棚上に発達する沿岸ポリニヤで精力的に実施された現場観測の研究結果について、人工衛星・大気・海洋・海氷物理の様々な角度からなされた多くの研究報告は、時期的にも強いインパクトを感じた。ただ、多くの結果はまだ解析途中であり、今後の進展が大いに期待されるところである。地球温暖化問題における自然科学からのアプローチという点では、上記研究対象は今後さらに力を入れて取り組み、緊急に解決していくべき研究課題と位置づけられている。しかし、過酷な環境下での現地観測がまだあまりにも少ない上に、人工衛星観測等によるグローバルな変動を捉えるための観測手法も依然として不十分 であるのが現状である。今後さらなる若手研究者の育成や観測技術開発も含めた革新的な研究展開が大いに期待されるところである。

 一方、IAMAS では、次のIPCC報告への貢献を意識したかなり意欲的な研究成果が多く紹介された。例えば、適度に簡略化した大気循環モデルに地球温暖化時を設定した放射強制を与えて、ハドレー循環や大規模波動と偏西風の相互作用、付随するラグランジェ輸送を観る数値実験による研究等が注目を浴びた。また、今やIAMAS の主流の一つにもなっている大気海洋相互作用分野については、今走っている多くのプロジェクト研究に本来の基礎研究をいかにうまくからませることができるかが、学問のさらなる深化という点で今後の大きな課題となっている。

 最後に、IACS はコミュニテイとしてまだスタートしたばかりであるので、今回独自のセッションは5件に留まったが、地球環境科学研究には欠かすことのできない極めて重要な分野であるので、今後大気、海洋分野とのさらなる建設的な連携研究が大いに期待されている。 (尚、各セッションにおける研究発表の内容を要約したレポートは、日本海洋学会和文誌「海の研究」(18(6)、2009)に掲載されるので興味ある方は参照されたい。) 。

・会議における審議内容・成果:
  
 今回の合同総会は、何か決定しなければならないといった議題があるわけでなく、それこそ最新の研究成果を発表・議論し、今後の地球温暖化対策に自然科学者の立場からの貢献をしようとするものであった。その点からも、今回のIAMAS/IAPSO/IACS共催の総会・シンポジウムへの参加は、現在の世界における最先端の研究動向を把握でき、今後の研究の方向性を共有しつつ、さらなる発展を目指す上で絶好の機会であった。  
・会議全体の所見および日本が果たした役割:    
   IAPSOに関しては、4年に一度開催のIUGG 総会の年とは別にその中間の年にも、つまり2年に一度の総会を開催している。今回は地球温暖化(Our Warming Planet)をテーマ に、大気、海洋、雪氷というこの課題に最も関与する三つのコミュニテイ、IAMAS、IAPSO、IACS合同による総会・シンポジウムを開催できたことはまさに絶好のタイミングというべきであろう。  会議全般に関する所見としては、日本人参加者が全体の参加者総数の約1割を占め、研究発表(日本人による発表数も全体の約1割)はもちろんコンビーナー、座長などにも多くが参加し、今回の総会・シンポジウムの盛り上げに大きく貢献したことは高く評価される。具体的な研究成果としても、北極海氷の急激減少メカニズム、南極氷床コア解析による過去の復元、大気海洋相互作用を背景とする発見的研究など、地球温暖化研究における近年の日本人による貢献は決して小さくはない。
 また、参加者総数が約1350名であったのに対して、参加国数がほぼ60ケ国と多く、地球温暖化における世界各国の関心の高さを痛感した。地球温暖化問題における昨今の動きとして、温暖化対策が政治的課題として活発な議論が展開されている。しかし、自然科学者として我々が先ず為すべきことは、この地球環境を形作っているシステム全体のそもそもの成り立ちを明らかにすることである。その上で、より正確なモデルを用いた将来予測に基づいて今後の具体的な対応策が講じられるべきである。この地球上には、様々な時空間スケールの、我々の知らない自然が作る多種多様な地球環境システムが存在しているはずである。従って、今後さらに英知を結集して、システムを一つでも多く見つけ出すことに努め、それらの成り立ちと地球環境で果たす役割を解明していかねばならない。   
2.会議の模様
 1. 基調講演・受賞講演等
 各セッションの講演とは別に、オープニングセレモニー直後の基調講演(Keynote Lecture)や初日と23日の二回に分けて行われた、IAMAS, IAPSO, IACS それぞれの代表者による特別講演は全員参加の場で行われた。地元カナダ・西オンタリオ大学のG. McBean 博士による 基調講演"Climate Change and Its Impact on Global Security" では、今回の総会のテーマである「地球温暖化」が、自然だけでなく社会に与える影響が余りにも大きいことから、本来の純科学的究明だけに留まることなく広い視野で、細心の注意を払って取り組むべき重要な課題であることを強調されたのが強く印象に残った。
  また、IAPSOのハイライトともいうべき、Prince Albert賞の受賞者(5人目)、 Prof. Brydenによる受賞講演が22日午前に大ホールで行われた。大西洋を東西に横切る断面での南北流量をモニターする観測網を確立させた自身のこれまでの業績について、謙虚な人柄が滲み出た講演を行った。終了後、何人かの海洋物理学者と話をしたが、彼のこれまでの業績を讃えるとともに、やはり現地観測、特に海洋循環のモニタリングはさらに重要になってくること、 それも今後は鉛直循環の本格的計測にチャレンジしていくことが海洋学に残された最も重要な観測だということで一致した。

 2. IAPSO General Business Meeting
 中日(なかび)の22日午前は、IAPSO General Business Meeting (GBM) が開催され, 今脇IAPSO前総裁とNational Correspondentとして若土が出席した。 SCOR/IAPSO WG が現在取り組んでいる三つの重要課題や近年の大きな流れの中でのIAPSOの独自性をどう明確化させるか、等について議論した。
 最初に、三つの重要課題;
(1) Thermodynamics and equation of state of seawater (by Trevor McDougal)
(2) Deep Ocean Exchange with the Shelf (by John Johnson)
(3) the OceanScope (by Tom Rossby)
 についてそれぞれのWG の代表から内容紹介があった。既に、メールなどでのやりとりもあり、すべて問題なく承認された。
 (1)の塩分の新定義については、国内のIAPSO委員会でも議論され、絶対塩分の抽出法にまだ幾分問題があるものの、考え方そのものについては賛同することで一致しているし、IOC総会でも既に承認されている。その内容の詳細については、海洋研究開発機構の河野健氏によって、海洋学会和文誌「海の研究」に近々報告される。
 (2)は、海洋学における古くて今なお新しい研究課題である。それだけに対象の幅があまりにも広く、例えば、南極底層水生成に代表される Meridional Overturning Circulation における deep water transport に繋がる問題から陸棚上での様々な未解決の海洋力学に至る物理学基本問題から、河川から流出した栄養分や大気から吸収した酸素・二酸化炭素などの外洋内部への輸送といった生物地球化学過程を含む物質循環問題、さらには油汚染に代表される災害問題など様々である。実際に、このテーマに関する研究は既に活発に展開され ているが、今後はどこにより力点を置くかについて、ある程度の方向性を出すことも必要のように思われる。
 (3)については、近年の海洋学がある意味でWOCEとARGOという二つの異なる視点からの観測研究により革新的大発展をしたという歴史的経緯がある。そこで、さらなる飛躍を目指した新しいスコープを見出そうとの狙いからの WG が立ち上がった。今後の議論でどのような夢のある提案がなされるか期待大であり、IAPSO GBM としても全面的に協力していくことで合意した。
 次に、近年の大きな流れとしての学際的研究、特に、Biogeochemistry (生物地球化学)と一緒になって展開する研究、が注目されていることもあり、IAPSO としての今後目指すべき方向性について、名称変更も含めて議論しようということになった。結論としては、生物、化学など関連する研究分野との積極的な研究交流は確かに重要であるが、一方で、IAPSOのめざす本来の方向性(海洋物理学)を今後とも全面に出すことが独自性を高めていく上で大切なことだとの強い意見もあった。この問題は本質的で極めて重要なことであるので今後と も議論を継続させていくことで合意した。
 最後に、研究発表・講演以外の行事として、初日の研究発表終了後にレセプションがあり、参加者全員が大ホールに集合し、形式ばった挨拶の全く無いリラックスした雰囲気の中で、国際交流を大いに楽しんだ。また、期間中の夜に何度か専門家によるざっくばらんな情報交換の場が設けられた。ある夜、会合を終えホテルに戻る途中、非常な盛り上がりをみせていた野外コンサートに偶然出くわした。幅20m、高さ15mくらいの鉄骨で作った5段からなる多 重ステージに200名ほどの混声合唱団が配置され(時々、その前面が大スクリーンに変身し、迫力満点の映像が映し出され)、スキンヘッドで魅力たっぷりの指揮者と見事なフランス語による美しいハーモニーを心ゆくまで堪能した。思いがけず、現地の庶民文化の一端に触れることができ、日本の北国の夏を思わせる爽やかモントリオールの夜を幸せな気分で過ごす幸運に巡り合った。
 次回は、2011年(6月27日ー7月8日)にオーストラリア・メルボルンで開催される第25回IUGG 総会の中で行われる。テーマは「Earth on the edge: science for a sustainable planet(危機に瀕する(崖っぷちの)地球;持続可能な地球にするための科学(若土訳)」 である。また、 その次のIAPSO総会は2013年7月22日ー26日にスエーデンでストックホルムに 次ぐ大都市といわれるイエーテボリ市で開催することが内定した。
<略号(主なもの)>
IACS: International Association of Cryospheric Sciences
   国際雪氷圏科学協会(仮訳)
IAMAS: International Association of Meteorology and Atmospheric Sciences
   国際気象学・大気科学協会
IAPSO: International Association for the Physical Sciences of the Oceans
   国際海洋物理科学協会
ICSU: International Council for Science
   国際科学会議(旧 International Council of Scientific Unions)
IUGG: International Union of Geodesy and Geophysics
   国際測地学及び地球物理学連合
SCOR: Scientific Committee on Oceanic Research
   海洋研究科学委員会
WOCE: World Ocean Circulation Experiment
   世界海洋循環実験
ARGO: A Global Array for Temperature/Salinity Profiling Floats
   全世界中層フロート観測網
 
                 

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