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代表派遣会議出席報告
1 会議概要
1)名 称 (和文)ILP会議"統合的固体地球科学における新フロンティア"および ILP国内代表委員会議,
      (英文)ILP Meeting "New Frontiers in Integrated Solid Earth Sciences"and meeting of ILP national representatives
2)会 期 2007年6月12日~13日(2日間)
3)会議出席者名 金尾政紀(日本学術会議特任連携会員)  
4)会議開催地 ドイツ国ポツダム市,ポツダム地球科学研究センター(GeoForschungsZentrum Potsdam)   
5)参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者) 16カ国,45名,日本人参加者1名
            
6)会議内容
・日程及び会議の主な議題
  
 初日(12日)は、「総合的固体地球科学における新フロンティア」というタイトルで終日シンポジウムが開催された(45名参加)。冒頭に事務局から、最近のILP全体の活動と近未来の展望について紹介があり、2007-2009の国際惑星地球年(IYPE)でのアウトリーチ活動について述べられた。その後、国際大陸深部掘削計画(ICDP)をはじめ、現在進行中の主要なタスクフォースや各組織委員会の学術的成果の紹介が順次あった(20件)。初日最後には、今後の新しい方向性として学際的研究への進展のために宇宙測地・高圧実験・レオロジー・数値シミュレーション等のテーマに関するキーノート・スピーチが行われた。また、会場ではポスター発表も同時に行われ(10件)、休憩時間を利用して個別に議論がなされた。
 二日目(13日)は、各タスクフォース責任者と事務局を中心に20名程度が参加し、ILPの活動・出版計画・将来展望に関する実務的な会合が午前中(半日)行われた。具体的には、ナショナル・レポートの作成、本シンポジウムのプロシ―ディングス、国際惑星地球年でのアウトリーチ活動、国際地質学会議(IGC)の2008年8月開催に向けての準備報告、新規プロジェクトの紹介(2件)、等である。議論の最後には、若手研究者掘り起こしのためILPとして優れた研究業績に対する表彰システムを設ける、外部資金の積極的な獲得の推進、各タスクフォースにレポート提出義務の確認、等がなされた。             
・会議における審議内容・成果
 現在活動中の新しいタスクフォース(Task Force; TF)は計13であり、そのうち次の報告がなされた。TF 1;地球の付加システム、TF2;火山体崩壊のテクトニックな原因と事前予測、TF3;リソスフェアとアセノスフェアの相互作用、TF4;超深部大陸地殻の沈み込み、TF5;古地震学的なパラメーター:断層のスケーリングと将来の地震災害、TF6;堆積盆地、TF7;応力・歪みの時空変遷、TH8;中部ヨーロッパの小規模プルーム。
 組織委員会については、欧州地域委員会: CC-1/3;TOPO-Europe(ヨーロッパの4D地形発達、隆起・沈降・海面上昇)、並びにCC-4;国際大陸深部掘削計画(ICDP)が重点的に報告された。またキーノート(Key Note)では、宇宙測地技術についてのレビューやプレート運動のレオロジー、土石流の物理探査、数値シミュレーションによる地球深部(内核)での部分溶融検証、地表のプレートモデルと地球内部トモグラフィー・核の熱対流の相互関連、等の発表があった。
 日本からは代表派遣者(金尾)のみが参加し、関連する組織委員会(CC-8;Committee on Interdisciplinary Lithospheric Surveys (COILS) :グローバル深部構造探査のための国際協力推進委員会、CC-8A;Lithospheric Evolution of Gondwana East from Interdisciplinary Deep  Surveys (LEGEND):学際的深部探査による東ゴンドワナ・リソスフェア進化研究計画、及びIGCP-474;Classic Transect:古典的地震探査トランセクト)に関係するポスター発表を行い、他の参加者とその詳細について議論した。

 現在のILPの旗艦的活動として、国際大陸深部掘削計画(ICDP)(CC-4; Continental Drilling)があり、概要・経過と成果・今後の予定について紹介があった。これまでに実施したプロジェクトは(書類受理のみの計画も含めて)計20であり、現在5つのプロジェクトの掘削を継続している。これまでに、バイカル湖などの陸湖、隕石の衝突構造、超高圧変成帯(UHP)、火山・地熱地帯(雲仙など)、活断層、資源探査、先カンブリアクラトン、など多くのテクトニック地域で掘削が行われてきた。今後は、北アナトリア断層やスバールバール諸島、台湾東方沖、さらに南海トラフ等でも計画されている。このように、"The thrill to drill"の意志に基づいて、ICDPでは多くの成果が得られている。   最近のILP活動で重点的に行われている組織委員会の一つとして、TOPO-Europe計画(CC-1/3)がある。これはヨーロッパの地形発達・隆起沈降・海面上昇の第四紀変遷過程を4次元的にシミュレートする試みである。様々な物理化学的手法を駆使し、地表~マントルまでを統合した各種地球科学現象のモデル化を目指す。例えば、ヨーロッパ直下の小規模マントルプルームと地殻変動、地震活動の関係性について示唆があった。 TOPO-Europeは広範囲であり、北欧(TOPO-Europe)やイベリア半島(TOPO-Iberia)等、地域を分割しての個別活動を相互に関連させ推進している。
 また新しいタスクフォースとして、DynaQlim(Upper Mantle Dynamics and Quaternary Climate in Cratonic Areas)計画の提案がなされた。これもバルト海周辺の北欧での計画であるが、氷床変動による地殻のアイソスタシー変化と第四紀の気候変動との関係を主なテーマとする。Topo-Scandesとの整合性を考えた場合、DynaQlim では気候変動との関係により重点が置かれる。GPSや重力・地震活動のモニタリングによりポスト氷河期の地殻リバウンド(PGR)を検出する。また、中国科学アカデミーを中心としたTOPO-Central-Asia計画もあり、ヨーロッパのTOPO計画とリンクして研究活動を実施する予定である。
・会議において日本が果たした役割
 地球史における大陸成長過程や、現在の地球表層のダイナミクスを考える上で、超大陸の離散集合プロセスの解明は重要である。これまでは主に北半球が中心であり、南半球は南極をはじめリソスフェア研究のフロンティアであった。かつてのゴンドワナを構成する各大陸の形成・分裂過程を研究するため、「学際的深部探査による東ゴンドワナ・リソスフェア進化研究計画(LEGENDS; CC-8A)」が進められており、これまでに、AGU, EGS, IUGGをはじめ多数の会合で、関係研究者で議論を進めてきた。
 この計画は、ILP下の「グローバル深部構造探査のための国際協力推進委員会(CC-8; COILS)」をはじめ、国際地質学連合(IGC)・地質科学国際研究計画(IGCP) の国際ゴンドワナ研究連合(IAGR)、南極科学委員会(SCAR)の南極域ネオ・テクトニクスグループ(ANTEC)等からも支持を得ている。研究で得られたデータの「共通ライブラリーシステム」構築についても議論し、我が国の島弧トランセクトを含めCrassic Transect ;IGCP-474として認識されるための作業方法に関する意見交換も行なった。
 今後は、我が国をはじめ東アジアの地域委員会(CC-1/4 Eurasia East)の申請・設立が望まれる。そのために事前準備として、韓半島や沿海州、極東域での関連プロジェクトの集計、ロシアを含む東アジア各国の関係者・グループとの調整・連絡が必要である。
・その他特筆すべき事項
 2007-2009に実施されるIYPE(国際惑星地球年)への具体的な取り組みについて意見交換を行った。現在進行中の各プロジェクトを継続して遂行すると共に、アウトリーチ活動に重点を置くことが共通認識された。青少年への科学教育については国ごとに対応が様々である。ドイツの場合には、国立研究所(GFZ等)と大学とでは状況がかなり異なる。例えばポツダムには地質学研究者がいないため、その分野の教育はできない状況にある。逆に、アメリカは組織的に遂行しているように思われる。しかしながら、ILP全体として組織的にアウトリーチ活動を行うという議論には至らず、各国研究者の個別対応に依存する形式となる。
 2008年度に開催予定の第33回国際地質学会議(IGC)について、現在の準備状況報告があった。この年はIYPE、IPY(国際極年)の中間年度に相当し、現代社会の重要な環境テーマについて固体地球科学全体での議論が必要との認識から、「Geoscience World Congress 2008」として8月にノルウェー・オスロで開催される。また、次回のILPシンポジウムについても準備状況報告があった。2008年秋にアメリカ・サンディエゴで開催される予定だが、IGCとの開催間隔を考慮に入れて、時期についてはさらに検討がなされる。
2.会議の模様
 今回の会議は、ポツダム郊外の地球科学研究センター(GFZ-Potsudam)で行われた。GFZ-Potsudamは、ドイツ全体の固体地球関連の研究を行うと共に、ILPの運営にも深く関与している。ここは世界で最初に地震計が作られた場所であり、世界の重力基準点、また地磁気観測の長期間のデータを取得している。特に2日目の会合は、世界最古の大望遠鏡(Great Refractor)の建物で行われ、閑静な環境で地球科学の議論に専心できたといえる。  
 本シンポジウムは、実際にはILP独自の最初のワークショップであり、来年以降も継続して行う運びとなる。参加国の人数はヨーロッパが多く、アジアからは日本・フィリピン・台湾のみと少ない。今後もアジア各国への働きかけが必要である。ILPへのかかわり方については、各国・グループ・個人単位により、かなりばらつきがある印象である。タスクフォースに採用された課題への配当予算は限られており、予算獲得の利点みからはILPに依存する必要性はあまり感じられない。事務局からは、外部資金の積極的な獲得が薦められた。
次回開催予定 2008年9月末 会議参加者の集合写真
(会議参加者による集合写真)


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