古生物学の現状と将来:基礎理学の重要性に鑑みて
委員会名  古生物学研究連絡委員会
報告年月日  平成15年6月24日
議決された会議  第995回運営審議会
整理番号 18期−34

作成の背景

 基礎理学とは自然現象を対象とし、その成り立ちや自然を動かしている原理・仕組みを明らかにしようとする学問分野である。基礎理学研究の原動力は「なぜだろう?どうなっているのだろう?」という人間の知的好奇心に基づいており、「自然を動かしている原理」を解明すること、あるいは「地球-生命観」を確立することが目的である。したがって、世の中の役に立つ結果を求めることが第一の目的ではない。もちろん、基礎理学分野の成果があってこそ現代科学技術の発展があるのだが、それは副産物に過ぎない。本報告書で対象とする古生物学は基礎理学を担う学問分野の一つである。 

現状及び問題点  

 21世紀早々に、学界の再編が始まろうとしている。国立大学、国立研究機関の独立行政法人化が始まり、また科学者コミュニティーを代表する日本学術会議の見直しがおこなわれている。これらの再編に用いられる評価の視点と論理は、学術が人類社会にどれくらい貢献し、どれくらい人類社会を物質的に豊かにしてくれるのかという学術の経済的効率に関することが一義的に重要視され、学術が自然観の確立にどれくらい貢献しているのか、また自然の一員としての人はどのように振る舞うべきなのかという科学哲学の視点に立ってはいない。この価値観はマーガレット・サッチャー首相時代に英国の科学界再編に当たって導入され、今では世界の工業先進国で評価のものさしとして使われている。明治の日本にあっては、富国強兵が尊ばれ、工学・医学・農学といった実学が振興されていたのは事実である。しかし、その時代にあっても、基礎理学は営々と実績を積み上げてきている。しかし、昨今の状況は実学偏重が徹底されすぎている。このような流れの中にあって、古生物学をはじめとする基礎理学分野は、今一度原点に立ち戻り、自分たちの学問がどのようなものであるのかを問い、また学術と社会との関係および距離を考え直す時に来ている。その過程を経て、現在、私達が問われている「基礎理学は、自分たちの学問の成果を政策に反映させることや、社会に影響を与える事ができるのだろうか?」という問いに答えることが出来る。 

改善策・提言等

 日本学術会議第4部古生物学研究連絡委員会は、本報告書において、日本の平和繁栄、福祉、および自然を尊ぶ精神風土の発展を願う観点から、上記のような基礎理学軽視の風潮を憂慮し、以下のような意見を表明する。
@ 我々は生物学が現生種に偏って議論していることを批判し、過去の生物も含めた理解が重要であることを主張したい。
A 古生物学は「地球はどうして生物に満ちあふれた星になったのだろうか?」という問いに答えることができる重要な分野である。
B 激変する地球環境の中で、生物はどのように工夫をして生き抜いてきたのだろうか?地球と生物の歴史の語り部となることを通じて人類は地球環境とどう関わるべきか、そして将来どのように生きるべきかを伝播することができる。この点が、古生物学が人類社会に資するメリットである。

報告書原文  全文PDFファイル(38k)

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1.古生物学の分野2.古生物学の歴史における分析解析技術3.最近の古生物学と新しい分析解析技術4.沿岸汚染の評価における古生物学の役割5.地球環境問題と古生物学の役割

関連学協会
大学理学部、海洋科学技術センター固体地球統合フロンティア研究システム領域、国立科学博物館地学研究部、国立歴史民族博物館


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