核融合炉工学の再構築と体系化について


「核科学総合研究連絡委員会核融合専門委員会報告」


平成12年5月29日

日本学術会議
核科学総合研究連絡委員会核融合専門委員会


 この報告は、第17期日本学術会議核科学総合研究連絡委員会・核融合専門委員会の審議結果を取りまとめ発表するものである。

【核科学総合研究連絡委員会・核融合専門委員会】
委員長 宮 健三 (東京大学工学系研究科附属原子力工学研究施設教授)

幹事 阿部勝憲(東北大学大学院工学研究科教授)
岸本 浩(日本原子力研究所那珂研究所理事)
藤原 正巳(核融合科学研究所長)

委員 柴田 徳思(日本学術会議第4 部会員 高エネルギー加速器研究機構教授)
三井 恒夫(日本学術会議第5 部会員 東京電力(株)顧問)
秋山 守(日本学術会議第5 部会員 (財)エネルギー総合工学研究所理事長)
伊藤 智之(九州大学応用力学研究所教授)
玉野 輝男(筑波大学プラズマ研究センター教授)
西川 雅弘(大阪大学大学院工学研究科教授)
西川 正史(九州大学大学院工学研究科教授)
日野 友明(北海道大学大学院工学研究科教授)
三間 圀興(大阪大学レーザー核融合研究センター教授)



「核融合炉工学の再構築と体系化について」

要 旨

 第17期日本学術会議核科学総合研究連絡委員会核融合専門委員会では、核融合炉工学小委員会を設置して、核融合炉早期実現のための工学分野のあり方について、重点的に検討を行ってきた。

 その中で、核融合エネルギーの早期実用化のためには、実験炉の研究開発を行うとともに経済性の観点から原型炉技術の研究開発を同時に実施することが重要であり、かつこれらの研究開発を効率的に進展させるためには、従来の核融合炉工学に見られる分野集合的な側面から脱却し、包括的な核融合工学の体系化が企られるべきであるとされた。
 この視点から現在の核融合炉工学を構成する各分野の特徴を分析すれば、新しく構築されるべき学理的基盤は「現象の解明と予測」を中核とする「核融合総合工学」を体系化したものでなければならない。
 即ち、材料・機器と環境負荷の相互作用を単に理解するだけではなく、核融合システムにおける複雑現象の予測を長期にわたって可能としなければならない。

 「核融合総合工学」を以上の観点に基いて推進するには、現時点での重要課題を重点的に取りあげ包括的に解決していくことが必要である。
核融合炉が要請する技術目標及びその達成度の両面を分析すると、(1)構造材料とブランケットシステム、(2)保全工学とシステム統合工学、の二つが重要課題として挙げられる。
 従って、これらの課題を中心として「核融合総合工学」を構築するための研究体制を整備することが急務となる。その具体策は以下に示す通りである。

(1)核融合総合工学の最重要課題である構造材料及びブランケットシステムの諸問題を解決するため、核融合炉環境を模擬する強力中性子源をできる限り早期に建設する。
 このための組織整備を緊急に行う必要がある。
 また、全体技術であるシステム統合と保守管理等に関わる保全工学についても早急に研究体制を作り上げ予算措置がなされることが必要である。

(2)包括的な工学体系である「核融合総合工学」を、核融合現象の「解明と予測」に基づいて体系化し、現在のネットワークを基盤として、全日本的な情報・研究ネットワークが整備されるべきである。

 ブレークスルーを喚起する基礎研究の充実が重要であり、大学の研究室レベルの基礎研究をより推進するため、更なる研究拠点の整備に必要な予算措置が必要である。
 また、大学とプロジェクト的研究開発を実施している核融合科学研究所及び日本原子力研究所との研究協力を推進するための体制がより一層強化されるべきである。

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