商学教育の現状と方向
〜商学系大学のカリキュラムの調査結果〜


「商学研究連絡委員会報告」


平成12年4月24日

日本学術会議
商学研究連絡委員会


 この報告は、第17期 商学研究連絡委員会の審議結果を取りまとめて報告するものである。


○商学研究連絡委員会

委員長 小林太三郎(日本学術会議第3部会員・早稲田大学名誉教授)

幹事 江田三喜男(明治大学商学部教授)
宮原義友(横浜商科大学学長)

委員 阿部真也(日本学術会議第3部会員・福岡大学商学部教授)
石崎悦史(関東学院大学経済学部教授)
小川孔輔(法政大学経営学部教授)
下和田功(一橋大学商学部教授)
椿弘次(早稲田大学商学部教授)
西澤脩(早稲田大学商学部教授)
西田安慶(東海学園大学経営学部教授)
西村林(郡山大学大学院人間生活学研究科講師・拓殖大学名誉教授)


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目次


T はじめに

U 調査結果の要約

V 調査の概要

W 調査結果について
A 教育理念・教育目標
B カリキユラム
C 商学教育

X 調査結果を踏まえて
(1)商学研究・教育の変革期
(2)ネットワーク論としての商学
(3)商学系カリキュラムの点検・評価
(4)商学系カリキュラムの再編成
(5)基礎理論科目の充実
(6)消費者問題関連科目の充実
(7)商学部のアイデンティティの確立

Y おわりに

付1.調査対象校リスト
付2.質問票


T はじめに

 この報告書は、第17期商学研究連絡委員会の活動の成果を取りまとめたものである。

 第16期の商学研究連絡委員会は「商学教育・研究の社会への対応と要請―現在と将来―」というテーマで、主として商学研究連絡委員会関係登録学術研究団体の機関誌をもとに、商学研究についての動向を中心に分析を行い報告した。
 これを受けて第17期では、「商学教育の現状と方向」を研究テーマとした。

 商学研究が時代や社会の要請を受けながら、新しい分野の研究に対応しているように、商学教育は時代や社会の要請にどのように対応しているかを明らかにすることを目的とした。

 この研究目的を達成するために、当研連では日本の商学系大学(商学部、商学科、商経学部を有する大学及び旧高商系の大学‥内訳:私立大学43校、国公立大学18校)計61校を対象にアンケート調査を実施した。
 調査内容は商学部や商学科の教育理念や教育目標の有無、1988年(昭和63年)以降の商学系カリキュラムの変更の有無とその内容、および今後の変更計画の有無、時代や社会の変化に対する商学教育の在り方に関する設問であった。

 調査は郵便による郵送質問法を採用し、平成11年6月〜7月にわたって実施した。
有効回収票は47校、回収率は77%であった。

 この報告書は、調査結果の要約(調査結果の重要なポイントのまとめ)、調査結果(質問毎の調査結果の説明)、調査結果を踏まえて(各委員のコメント)、おわりに(調査結果から解明できなかった課題など)で構成されている。

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U 調査結果の要約

1)大学の教育理念・建学の精神
 「国際化に対応した国際人の養成、および人類文化への貢献」に代表されるように、最近のグローバリゼ−ションに対応した教育理念や、「広い知識と専門教育の充実」や「国家社会に貢献する人材の育成」、「教育基本法に基づく教育」などごく普遍的な教育理念も多い。

2)学部(学科)の教育理念
 商学部という性格を反映して、「国際社会への対応」、「産業に役立つ人材の育成」、「実学教育の重視」などが多い。

3)学部(学科)の教育目標
 教育理念とほぼ重複するが、「広い教養と専門知識」、「国際的視野の重視」、「産業界で活躍できる人材育成」などが多い。

4)商学系カリキュラムの変更
 1988年(昭和63年)以降商学系のカリキュラムを変更した大学は33校70.2%であった(内訳は私立大学26校、国公立大学7校)。
 1988年から1998年までの期間でカリキュラムの変更が最も多かったのは1998年で19校である。 
 1991年(平成3年)に出された「大学設置基準の大綱化」以降、毎年多くの大学でカリキュラムの改訂・変更が行われている。
 カリキュラムの改訂内容で最も多いのは「科目の新設」であり、ついで「科目の名称変更」、「科目の廃止」が多い。
 時代、社会の動向を反映したものと思われる。
 「新設科目」は科目数では120科目と極めて多岐にわたっているが、「国際経営論」、「外国為替論」、「生命保険論」、「証券論」はそれぞれ5大学で開設されている。
 「廃止科目」では「商品学」が最も多く8校である。
科目新設の理由としては、「カリキュラム全体の見直し」、「新学科の設置や学科の改組」、「時代のニーズヘの対応」などが多い。
 科目廃止の理由としては、「時代の変化への対応」、「カリキュラムの見直」し、「学生のニーズが少ない」などが指摘されている。
 現在(1999年)カリキュラムを検討している大学は37 校、検討していない大学は12校である。
 カリキュラムを検討している内容としては、「科目の新設」、「名称変更」、「廃止科目」などが多い。

5)コース制の採用
 学習の一環としてコース制を「採用している大学」と「していない大学」はそれぞれ25校である。
 ただし私立大学ではコース制を採用している大学が21校であるのに対して、国公立大学は4校である。
 一方、コース制を採用していない私立大学は15校であるのに対して、国公立大学は10校である。
 コ−スとしては、「マーケティング・コ―ス」、「会計コ―ス」、「経営コース」などが多い。

6)国際化・情報化などの環境変化と商学系カリキュラム
 多様な回答があるが、基本的には環境変化に対応して商学系カリキュラムを改訂すべきという見解が多い。
 一方、環境の変化に対応して商学系カリキュラムを余り改訂すべきではないという見解もある。

7)商学教授法の重点
 「少人数教育の重視」、「理論と実際の統合」、「社会人(企業人)の講義導入」などが指摘されている。

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V 調査の概要

T 調査目的
   大学における商学教育の現状と方向を把握すること

T 調査対象校
   商学部、商学科、商経学部を有する大学および旧高商系の大学
    (内訳 私立大学43校、国公立大学18校)計61校

T 調査方法
   郵送質問法

T 調査期間
   平成11年6月〜7月

T 回収状況
   回収校数47校、回収率77%(内訳 私立大学32校、74%、国公立大学15校、83%)

T 集計・分析
   明治大学江田研究室

T 報告書作成
   商学研究連絡委員会

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W 調査結果について

A.教育理念・教育目標

<教育理念>
 アンケートに対して、私立大学から26校の回答をいただき、国公立大学からは15校の回答をいただいた。
ただ回答の様式が記述式のフリーアンサーの形態をとったため、回答は大学によってさまざまなものとなった。
したがって結果を簡明に示すため、回答結果をいくつかのタイプに分けて整理した。
ただし整理の仕方がある程度主観的・恣意的なものとならざるをえなかったことを、御了承いただきたい。

 整理の結果が表1に示されている。ここで以下の3点を付言しておく。

@回答文が長く、多くのことが述べられている場合、たとえば「個性の尊重、自由の尊重、国際的感覚の涵養」という記述は3つの項目に分けて整理されている。

A質問が「教育理念あるいは建学の精神を教えてください」となっているため、教育理念か建学の精神かいずれかひとつしか答えていないものがある。

B教育理念か建学の精神か不明のままで記述がなされているものも一校あった。これは両方の項目に加えられている。
以上のような理由から、回答校の数と項目ごとの回答数は一致しない。


表 1 教育理念



 さて表1の回答結果について若干のコメントを加えておく。

「国際化への対応」という項目に13校の回答があり、もっとも多くなっている。
 これは後述するカリキュラムの変更にかかわる新設科目のなかで、国際化関連のものが多いのと共通しており、ひとつの大きな流れといってよい。
 ただ全学的な教育理念のところでは、「情報化への対応」というのは意外と少なく(2校のみ)、むしろ後述の学部レベルでの教育目標のところで、その数が増加するかたちになっている。

 私立大学と国公立大学の回答で特徴的な点を指摘しておくと、私立大学に対して国公立大学の回答比率がかなり高くなっている項目には、「広い知識と専門教育の充実」と「教育基本法にもとづく教育」がある。
 前者については私立大学でもかなりの回答校(5校)があり、国公立大学にくらべて回答項目が多方面に分散したため回答数が少なくなったと思われる。
 後者については国公立大学にとってかなり切実な問題といってよい。

 国公立大学にくらべて私立大学での回答比率が比較的高くなっているものには、「学問の自由と独立」、「キリスト教による全人格的教育」などがあるが、このほか「個性の尊重」や「仏教精神による報恩感謝」などとともに、私立大学のもつ自主独立の精神や宗教的色彩を反映したものとして興味深い。


<建学の精神>
 この点についての回答を整理した結果は、表2に示されている。
特徴的な点といえば、さきの教育理念のところでは「国際化への対応」に関する項目がトップとなっていたが、ここでは「近代国家に有用な人材育成」という項目がトップとなっている。
 前述の教育理念のところでも「国家社会に貢献する人材育成]という項目はあったが、順位では総合で3位となっており、したがって教育理念と建学の精神とで順位が逆転したかたちになっている。
 この理由は必ずしも明らかではないが、ひとつ考えられることは、建学の精神の多くが比較的古い時期に設定されたものであり、国家主義的背景のもとで考えられたものが多いと思われるのに対して、教育理念のほうは時代の変化に弾力的に対応して改定されることが比較的容易であるためといえよう。

 つぎに私立大学と国公立大学で対照的な点を指摘しておくと、これは前述の教育理念とほぼ同様、私立大学で「自主独立の個性的な人材育成」や「積極的な進取の精神」を重視するものが比較的多いのに対して、国公立大学では、「豊かな教育と専門知識」、「教育基本法の精神の尊重」が相対的に多くなっている。


表 2 建学の精神



<学部の教育理念>

 回答結果を前述の質問と同様の基準で整理したものが表3である。
ここでも項目別では「国際社会への対応」が合計9校の回答でトップとなっており、前述の大学レベルでの教育理念でみられた傾向と同一の流れを読みとることができる。

 ただ全学レベルでの回答と、商学部(商学科)を中心としたここでの回答との大きな違いは、「産業に役立つ人材の育成」と「実学教育の重視」という項目での回答がかなり多くなっていることである。

 この2つの項目はほぼ共通した内容のものであり、それを合計すると回答校は13校となりトップの地位を占めることになる。
商学教育の特色を示したものといってよい。またこのいわば実学志向の傾向が、国公立大学の場合よりも私立大学においてかなり高い回答を維持しているのも注目される。

 他方、国公立大学のほうで比較的回答比率の高い項目では、「創造力のある個性的人材の育成」や「少人数教育の重視」などがある。
 ただし、全学レベルでの建学の精神についての設問において「自主独立の個性的な人材育成」との回答が、私立大学の分野でかなりの回答数となっていたことや、つぎにふれる学部レベルでの教育目標のところで、私立大学でも「少人数教育の重視」と答えたものがあるのを考えると、これらの回答項目がとくに国公立大学に固有のものとは言いがたい。


表3 学部(学科)の教育理念



<学部の教育目標>

 回答結果は表4に整理されているが、ここでも学部教育理念に対する回答と同様、「産業社会で活躍できる人材育成」が私立大学10校を含んで合計12校の回答となってかなり多い。
 これに「理論と実学のバランス」の合計3校、さらに回答項目ではトップとなっている「広い教養と専門知識」(核をもったゼネラリスト)をほぼ類似の項目として一括すると総合計は29校となり、商学部(学科)における実学志向が教育目標においても示されているといえる。

 また、教育目標のところで特徴的なことは、これまで他の回答ではあまり大きな比重を占めていなかった「情報処理による意思決定能力の向上」という回答が合計6校あり、かなり多くなっている点がある。
情報化への対応という課題は、全学レベルの教育理念や建学の精神にはなじみにくく、むしろ学部教育の具体的なレベルで取上げられていると考えられる。

 これに対して「国際的視野の重視」という回答はここでもかなりの回答数(合計14校、うち国公立大学が6校を占め比率的にやや高い)を維持している。
ここに示されている「国際化への対応」は全学レベルでの回答結果でも、また学部レベルでの教育理念のところでも多くの回答を得ていたことを考えると、大学全体、学部をとわず今日の大学教育の大きなトレンドとなっているといえる。


表4 学部(学科)の教育目標


B.カリキュラム

<カリキュラムの変更>
 1988年(昭和63年)以降に、商学系カリキュラムを変更したと回答した大学は、33校、70.2%であった。
これを私立大学と国公立大学に分けてみると、私立大学は26校、81.3%、国公立大学は7校、46.7%が変更したと回答している。
このことから、商学系カリキュラムの変更については私立大学のほうが積極的に取り組んでいると言える。

<カリキュラム変更の年次別経過>


表 5 カリキュラム変更の年次別推移



 カリキュラムを変更したと回答した33大学にカリキュラムを変更した年を質問した結果は図1のとおりである。
この図から明らかなように、カリキュラムの変更が最も多かった年は1998年で19校、ついで1994年が17校、1993年と1997年がそれぞれ15校の順となっている。(表5・図1参照)。
平成3年の「大学設置基準の大綱化」以降、各大学共積極的にカリキュラムの変更に着手している。

 つぎに年次別にカリキュラムの変更の内容について説明する。
(複数回答)(表6参照)1988年には11大学でカリキュラムの変更が行われている。
その内容は「科目の新設」が最も多く6校、「名称変更」が4校、「科目の廃止」が3校、「配


表6 年次別カリキュラム変更



当年次変更」と「セメスター制の導入」がそれぞれ2校、「必修・選択の変更」が1校である。

 1989年にも11大学でカリキュラムを変更しているが、その内容は「科目の新設」が最も多く9校、ついで、「科目の廃止」「名称変更」「必修・選択の変更」がそれぞれ8校、「配当年次変更」「卒業要件」がそれぞれ6校、「セメスター制の導入」が3校、「一般・専門の廃止」が2 校である。この年はさまざまな面でカリキュラムの変更が行われている。

 1990年にカリキュラムを変更したのは8校である。
その内容としては「科目の新設」が6校、「科目の廃止」と「配当年次変更」がそれぞれ5校、「名称変更」「必修・選択の変更」がそれぞれ4校、「卒業要件」が2校である。

 1991年には13校でカリキュラムの変更が行われた。その内容としては「科目の新設」が8校、「科目の廃止」と「配当年次変更」がそれぞれ7校、「名称変更」、「卒業要件」、「必修・選択の変更」がそれぞれ6校であった。

 1992年には8校でカリキュラムの変更が行われた。その内容としては「科目の新設」と「名称変更」がそれぞれ5校、「卒業要件」が4校、「科目の廃止」と「必修・選択の変更」がそれぞれ3校、「配当年次変更」が2校であった。

 1993年には15校でカリキュラムの変更が行われた。
その内容としては「科目の新設」が12校、「科目の廃止」と「名称変更」がそれぞれ8校、「配当年次変更」と「卒業要件」がそれぞれ7校、「必修・選択の変更」が6校、「一般・専門の廃止」が5校、「セメスター制の導入」が4校、「その他」が2校であった。

 1994年にカリキュラムの変更を行った大学は17校であった。
その内容としては「科目の新設」と「卒業要件」がそれぞれ13校、「必修・選択の変更」が12校、「科目の廃止」が10校、「名称変更」と「配当年次変更」がそれぞれ9校、「一般・専門の廃止」が6校、「セメスター制の導入」が1校、「その他」が3校であった。

 1995年にカリキュラムの変更を行った大学は14校であった。
その内容としては「科目の新設」と「配当年次変更」がそれぞれ10校、「名称変更」が9校、「科目の廃止」と「必修・選択の変更」がそれぞれ8校、「卒業要件」が6校、「一般・専門の廃止」と「セメスターの導入」がそれぞれ、4校であった。

 1996年にカリキュラムの変更を行った大学は11校であった。
その内容としては「科目の新設」と「名称変吏」がそれぞれ7 校、「科目の廃止」が6校、「配当年次変更」、「卒業要件」、「必修・選択の変更」がそれぞれ3校、「一般・専門の廃止」が2校、「セメスターの導入」が1 校であった。

 1997年にカリキュラムの変更を行った大学は15校であった。その内容としては「科目の新設」が10校、「卒業要件」が8校、「科目の廃止」、「名称変更」、「配当年次変更」がそれぞれ7校、「必修・選択の変更」が5校、「一般・専門の廃止」が3校、「セメスターの導入」と「その他」がそれぞれ2校であった。

 1998年にカリキュラムの変更を行った大学は19校で、1988年以降では最も多かった。
その内容としては「科目の新設」と「名称変更」がそれぞれ8校、「卒業要件」が7校、「科目の廃止」が6校、「セメスター制の導入」が5校、「配当年次変更」と「必修・選択の変更」がそれぞれ4校、「一般・専門の廃止」が1校であった。

 1988年から1998年までに行われたカリキュラムの変更を内容別、私立大学、国公立大学別にグラフ化したのが図2である。この図から明らかなように、「科目の新設」が最も多く94校(私立大学73校、国公立大学21校)、ついで「名称変更」が75校(私立大学57校、国公立大学18校)、3番目は「科目の廃止」が71校(私立大学53校、国公立大学18校)、4番目は「配当年次変更」と「卒業要件」でそれぞれ62校(「配当年次変更」は私立大学51校、国公立大学11校,「卒業要件」は私立大学40校、国公立大学22校)、6番目は「必修・選択の変更」で60校(私立大学46校、国公立大学14校)、「一般・専門の廃止」は23校(私立大学14校、国公立大学9校)、「セメスター制の導入」は22校(私立大学11校、国公立大学11校)、「その他」は10校(私立大学3校、国公立大学7校)の順であった。

 以上のように各大学においては「科目の新設と廃止」、「名称変更」など商学系科目を点検し、時代に即応した科目に改めていることがうかがえる。
それに伴い配当年次変更、必修・選択科目の見直し、卒業要件の変更等授業方法の面でも改善の努力が伺える。
さらにセメスター制を導入した大学は22校である。



表7 私立・国公立別カリキュラム変更の内容



<新設された科目>

表8 新設科目(2校以上、私立、国公立別)



 カリキュラムの変更で最も多かった科目の新設について具体的にみてみると、科目名は120で極めて多岐にわたっている。
新設された科目で2校以上のものをあげてみると(表8参照)、国際経営論(私立大学4校、国公立大学1校)、生命保険論(私立大学5校)、証券論(私立大学4校、国公立大学1校)、外国為替論(私立大学5校)が最も多く、ついで国際マーケティング(私立大学3校、国公立大学1校)が続いている。

 さらに流通政策(私立大学3校)、国際物流論(私立大学2校、国公立大学1校)、銀行論(私立大学3校)、損害保険論(私立大学3校)、国際会計論(私立大学3校)がそれぞれ3校となっており、国際会計論(私立大学1校、国公立大学1校)、マーケティング・リサーチ(私立大学2校)、広告論(私立大学2校)、消費者行動論(私立大学2校)、国際関係論(私立大学2校)、国際金融論(私立大学1校、国公立大学1校)、リスク・マネジメント(私立大学1校、国公立大学1校)、ファイナンス市場論(私立大学1校、国公立大学1校)、金融システム論(私立大学1校、国公立大学1校)、商品先物市場論(私立大学2校)、会計史(私立大学2校)、経営戦略論(私立大学2校)、地域経済論(私立大学2校)、日本経済論(私立大学2校)がそれぞれ2校となっている。

 新設された科目で目につくのは、国際経営論、国際マーケティングなどに代表されるように「国際」をつけた科目が多くなっていることである。

 ジャンル別では国際流通系と金融・保険系に新設科目が多い。


<廃止科目>

 カリキュラム変更に伴い、廃止になった科目も多く、73科目にのぼっている。
表9は2校以上で廃止になった科目名を私立大学と国公立大学別にまとめたものである。
この表から明らかなように、廃止科目で最も多いのは商品学で8校(私立大学7校、国公立大学1校)となっている。
ついで商業経営論(私立大学3校)、貿易政策(私立大学2校、国公立大学1校)、産業心理学(私立大学2校、国公立大学1校)がそれぞれ3校で廃止になっている。

 さらに、流通論(私立大学2校)、協同組合論(私立大学2校)、マーケティング・マネジメント論(私立大学2校)、商業政策(私立大学2校)、商業総論(私立大学2校)、貿易論(私立大学1校、国公立大学1校)、外国為替論(私立大学1校、国公立大学1校)、交通論(私立大学1校、国公立大学1校)、銀行論(私立大学2校)、証券市場論(私立大学1校、国公立大学1校)、経営分析(私立大学2校)、経営学史(私立大学2校)、経営統計(私立大学2校)、経済法(私立大学2校)、地域経済論(私立大学2校)など15科目が2校で廃止されている。

 廃止になった科目の中には、商品学、商業経営論、流通論、貿易論、銀行論、交通論など、従来商学系カリキュラムにおいて中心的な科目とされていたものも数多くある。


表9 廃止科目(2 校以上、私立、国公立別)私立大学国公立大学合計




<カリキュラム変更の理由>
 カリキュラム変更の理由を新設科目と廃止科目について回答して貰った。
その結果は、新設科目の設置理由について回答があった大学は36校(私立大学25校、国公立大学11校)であった。
 また廃止科目の理由に回答があった大学は24校(私立大学20校、国公立大学4校)であった。

 まず新設科目についてみると、「カリキュラム全体の見直し」、「開講科目の充実」「新学科の設置や学科の改組」、「時代のニーズヘの対応」など全般的な理由を回答した大学と各科目について具体的な理由を回答した大学があった。
 科目新設の理由を総括してみると、経済・社会の変化に伴うカリキュラムの見直しによって、旧来の科目では十分に対応し切れないためや新学科の設置や学部・学科の改編のためなどである。

 つぎに廃止科目については、「時代の変化に対応するため」、「大学設置基準の大綱化によるカリキュラムの見直しのため」、「学生のニーズが少ないため」、「担当教員の退職、転職のため」、「時代にマッチした科目の名称にするため」などの廃止理由があげられている。
 また「学生が科目名を見てもイメージがわかないため」といった廃止理由もある。

 以上のことから明らかなように、時代の進展、経済・社会の高度化などによって科目の意義や役割が変わったり、学生からみて科目のイメージや内容が理解できにくくなるなど、カリキュラムの再編成によるものと考えられる。


<現在商学系カリキュラムの検討の有無>
 検討中という回答が私立大学について多く、約90%の私立大学が検討中であると回答している。
 それに対して国公立大学では50%以下である。
 私立大学では受験者の減少に対して少しでも歯止めをかけようと言う努力の現れと理解され、検討している大学ではカリキュラム委員会や将来構想を検討する機関を設けて検討している。


表10 現在カリキュラムの検討



<検討内容>(重複回答)
表11 カリキュラムの検討項目


 私立大学でカリキュラムの検討項目が多いのは、第1に科目の新設、第2 に名称変更、次いで科目の廃止、配当年次変更、卒業要件の変更となっている。
 国公立大学では、第1が科目の廃止と専門・教養の廃止で、次いで科目の新設、科目の名称変更の順となっている。
以上の検討の主たる目的は、近年の学生資質に対応したものと推測され、商学部の教育目標をどのように理解させ、段階的・体系的履修をさせるかにあると理解される。
 具体的には、キャリアー教育やスペシャリスト教育指向であり、その手だてとしてインターンシップ制を導入することになる。

 また注目すべきは、セメスター制の導入を検討している私立大学が約20%あり、期間的に国際条件に合わせる事になるが、単位数では4単位を2単位にするに止まり3単位・6単位への移行は見られない。


<コース制の採用>

表12 コース制採用の有無 

 コース制の採用は私立大学約60%、国公立大学で約30%である。
 私立大学でコース制を採用する理由は、学生数が多いので、学習効果を上げるために学生を分散させ、体系的学習を推進するためと推定される。
 また、採用している場合、全学生を何れかのコースに帰属させるケースと学部内に選択可能な履修体系として設置するケースに分かれる。

 また、コース制を採用していない場合に、学科を細分化しコース制以上の実効を図る学校もある。
大綱化によって学科の改組等が弾力化されたことも一因であろう。


<コース制の名称>
 コースの名称は、若干の変異を含んではいるが概ね1「流通・マーケティング」、2「会計」、3「金融」、4「国際・貿易」、5「経営」、6「その他」に分類可能である。


表13 コース制の名称


 私立大学の流通・マーケティングコースの名称の詳細は、流通(5)、マーケティング(3)、流通・マーケティング(2)、流通・マーケティング・交通(1)、市場流通システムコース(1)、商学(1)、商業・流通(1)、商学総合(1)、商業・貿易・金融(1)である。同様に会計コースについては会計(15)、会計・商学(1)である。

 金融コースは、金融(4)、金融市場システム(1)ファイナンス(2)、経営コースは、経営(8)、経営情報(4)、情報(2)、情報科学(1)、ビジネス(1)、経営政策(1)、管理科学(1)である。

 さらに、国際・貿易コースは、国際ビジネス(5)、貿易(1)、国際経営(1)、国際商業(1)、国際流通(1)、国際コミュニケーション(1)、国際英文秘書(1)であり、その他コースは、経済(3)、経済産業(1)、都市と産業(1)、消費経済(1)、消費と生活(1)、社会行政システム(1)、企業法・行政(1)、地域経営(1)、総合学際(1)である。

 以上のようにコースの名称は多様であり、また、名称からその内容が比較的容易に推定されるものもいくつか散見される。ここから各学校の腐心の様子が散見される。

 国公立大学の流通・マーケティングコースは、流通システム(1)、マーケティング(1)であり、会計コースは会計(2)である。

 全員がコースに所属することになる私立大学(29 校)のコースの設定数の最大値は7で最小値は2であり、その平均は4.5となる。

 コース制採用の際に問題となる点は、学生の選択の偏向であり、受講者の完全平準化は望めないので、可能な限りの誘導をするのか強制を採用するかになる。



C.商学教育

<環境変化と商学系カリキュラム>
 この設問に対しては27校(私立大学19校、国公立大学8校)から回答があった。
 その内容は多様であるが、基本的には環境の変化には対応すべきであるとする回答が多い。

 例えば、「商学部のカリキュラムはその学問的性格を反映して、現実の社会や経済の動向に敏感に対応する傾向を持っている。それゆえに国際化、情報化、サービス化あるいは消費者の価値観の変化や技術革新の進展には大きく影響を受けていることは避けられない」また、「商学は実学なので、時代の変化・潮流に対応したカリキュラムが求められるために、常時、見直し、改訂が必要である」などである。

 同時に、「環境の変化は実際に商業教育に大きな影響を与えているが、それらが直ちに特定科目の新設や廃止を導くものとはいえない」とか、「商学系カリキュラムを時代の流れ、国際的環境変化に対応させるべく改変させるとしても、本来の商学の本質を確実に基礎的知識として学生に徹底させる必要がある」といった意見もある。


<商学の教授法の重点>
この質問に対する回答も記述式のフリーアンサーのため、前述した大学の教育理念や商学部の教育理念などと同様、回答をいくつかのパターンに整理し表示した。
表14がそれである。


表14 商学の教授法で重視されている点


 回答のなかでもっとも多いのが、「ゼミを中心とした教育体系」を重視するというものである。
 これは私立大学・国公立大学とも同様に多くなっている。「少人数教育の重視」という回答も合計10校となっており、これを加えると計26校がゼミを中心とした少人数教育を重視する方向を選んでいる。
 具体的には1年生では入門ゼミ、2年生では基礎ゼミ、3年生では専門ゼミ、4年は卒論ゼミという内容で、入学から卒業までの一貫したゼミ教育を考えているケースが多い。

 他方、「理論と実際の統合」、「社会人(企業人)の講義導入」などの、実社会との結びつきを重視する教育が、私立・国公立ともかなりの大学で施行されている。
 この2つの回答を合計すると30校となり、第1位の回答率となる。これは先述した商学部(学科)の教育理念や教育目標をたずねた際に、「産業に役立つ人材育成」や「実学教育の重視」と答えた大学(学部)が多かったのと共通する傾向である。

 「理論と実際の統合」として具体的におこなわれているものとして、「商業調査実習」などの科目がある。これは毎年フィールド(市レベル・県レベル・県外レベルなど)を決めて、それぞれの専門領域での「問題発見型」の実態調査をおこない、報告会で報告し、報告書にまとめるというものである。

 また、フロンティア・スピリット・プログラムと呼ばれるものもあり、海外の大学で8週間のスクーリングをおこなったあと、4週間以上の企業研修をおこなうという。企業だけでなく県や市などの自治体で研修をおこなうものも多い。

 「社会人(企業人)の講義導入」も多くの大学で試みられているが、「トップ・マネジメント講座」と呼ばれるこれらの講義では、企業等のトップを非常勤講師として招聘し、たとえば前期講義のテーマとして「現代企業とコーポレート・ガバナンス」、後期講義のテーマとして「日本の金融ビッグバン」が選ばれているという具合である。

 以上のほか、学部での教授方法という具体的な質問に対して、「情報処理教育の重視」という回答が比較的多いのが注目される。
これは本報告書の最初に述べた大学の教育理念や建学の精神をたずねた際にはほとんどみられなかった回答であり、具体的な教育レベルでは情報化教育に対してもある程度の配慮がなされているのがわかる。

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X 調査結果を踏まえて

 ここでは、今回の調査結果を踏まえて、商学教育が当面している問題点、今後の商学教育の在り方を考えるヒントといった視点から、本委員会委員の所感を収録した。

 ここには、商学教育を考える上で重要な論点が含まれており、今後商学教育の在り方についての議論が広く行われることを期待して論述したものである。

(1)商学研究・教育の変革期

 2年ほど前に、今期(第17期)の商学研連が開始された当初、今期の研究テーマを何にするかが議論された。その際、「商学とは何か」、それはどのような学問なのかが話題になり、それをめぐって何度か会議が開かれている。
 結局、その時はまとまった結論は得られないまま、とりあえず商学教育の実態を調べてみようということで、今回の調査となった。

 関係大学の御協力のおかげで貴重な調査結果がまとまり、そこから多くのことを知ることができた。
調査結果の全体をみて考えさせられたことのひとつは、「商学とは何か」というわれわれが当初議論した問題であり、われわれももう一度「ふりだし」にもどって検討を始めねばならないような気がしている。

 調査結果で明らかになったことのひとつは、商学教育における強い実学志向、産業界や実業界との結びつきの強化を求める動きであった。
 これは学部・学科の教育理念や教育目標をたずねた際に、「産業に役立つ人材の育成」や「実学教育の重視」と答えた大学が非常に多いことなどに、端的に示されている。

 これは商学教育の他とは異なる固有性・独自性を示したものとして評価してよいと思う。
しかし実学志向に走りすぎるあまり、「理論と実際の統合」や「理論と実学のバランス」がうまく保たれているか、もっと言えば、  商学教育の理論的体系が明確にされたうえでの実学志向なのかが、気になるところである。
実学志向ということだけであれば、別に大学でなくても各種の専門学校や短大などで十分対応できるものではないか。

 この点と関連して、商学教育における科目の新設や廃止について詳細な結果が明らかになっているが、それによると、商業経営論や流通論、マーケティング・マネジメント論などの従来の商業系カリキュラムで重要な科目とされていたものが廃止され、それ以上に多くの新しい科目が設けられている。
 新設されたものには、国際マーケティング、国際経営論など国際化の進展という最近の新しい現実の動きを反映したものが多く、時代の変化に対応した科目の新設が急速に進んでいる。

 これもまた、商学のもつ実学的性格、つまりそれが現実の社会や産業経済の動向に敏感に反応する性格からすれば、当然の結果であり、それ自体は非常に望ましい傾向といえる。
 ただこの点についても、新科目がつぎつぎと増設されていくなかで、商学教育の全体系は一体どうなっていくのか、個別的・実際的な対応に終始して、学部・学科での教育体系の全体像はどうなっていくのか、これらの点についての配慮に欠けるところがないかどうか、やはり気になるところである。

 さらに、商学関係の学部・学科で採用しているコースについてたずねた結果があるが、中心となるべきマーケティング・流通コースを設けているのが私立大学で16校となっているのに対して、経営コースや会計コース、貿易コースや金融コースなどがほぼそれに匹敵する数で数多く設けられているのが示されている。
 これは広義の商学という場合、以前はそのなかに経営や会計、金融や貿易なども含むものであったから、ある程度予想された結果であるが、しかし今日ではこれらの学問分野は経営学や会計学等々のかたちで独立した教育・研究体系を形成してきているのを考えると、このままでよいのかという不安がよぎるのである。

 調査結果からは、今日の商学教育は新しい外部環境の変化に対して弾力的に対応し変化を遂げているという、満足すべき状況が示されている。
しかしその現実対応としての変化のなかで、私的な極論として言えば、商学の教育・研究体系は四分五裂の状況にあるといえないだろうか。科学や学問は分裂と統合をくり返しながら発展するという観点からすれば、商学教育や研究の体系はいま大きな変革期を迎えているといえるかもしれない。


(2)ネットワーク論としての商学

 今回の調査結果から以下のような感想をもった。
 商学研究連絡委員会としては本来の目的であるはずの商学の定義、あるいはその教育内容が不明確であることである。
 そこが不明確なままで各大学がカリキュラム改革に取り組んでいる。
 商学の定義、あるいはその教育内容にたいする回答は実は非常に難しく、多数の同意をえることはより以上に難しいと考えられる。

 歴史のある各大学の商学部が看板はそのままであるが、現実には経営学を中心とした学部になってしまっているのは事実であろう。
 たしかに経営学で体系的にマネージメントを勉強するほうが現代的なニーズに適応しているのではないかと思われる。
 しかし経営学でカバーできない領域が商学にはあるはずでそれを明確にできなければ、商学の出番はないということになる。
それでは商学の本質とはなにかということに関しては、「ネットワーク論」であると考える。

 明治時代に現在の商学部の中心的な科目である「交通論」「保険論」「証券論」「銀行論」「商品学」などの、まさに今回の調査結果で廃止対象になったような科目が設置され、それが現在まで継続している。
 そこでは各個別に経済活動の対象別によって分割されているだけで、相互に体系的な関連があるわけではない。
 したがって個々の講義科目を全部履修しても商学についての全体像を把握できるわけではないという限界があった。
 ではそこになんの関連もないかというと、上記の科目の内容はネットワークを社会的に組むことによって成立しているものであり、そのネットワークによって社会にサービスを提供するものである。一言でいってしまえば、ネットワークサービスであり、それが商品形態をとっているとかんがえられる。

 廃止科目の筆頭に商品学があげられている。
 それは商品学についての情報発信の不十分さを示しているとも言えるのであるが、商品学の内容も大きく変わっている。
 ネットワーク商品論、商品を成立させる市場メカニズム、ビジネス対象としての商品の成立条件の研究などが中心になってきているので、それぞれについての情報発信を増大させていかなければならない。


(3)商学系カリキュラムの点検・評価

 大綱化の実施以来、各商学部のカリキュラムは独自性を打ち出そうと努力の跡が、設置科目名称の多様化からもうかがい知ることが出来る。
 それは時代の動きにキャッチアップし、学生の関心を高めようとの証しでもあろう。実際の学部の動きとは別に、商学部のカリキュラム編成の基本はどのようなものであろうか。

 社会科学系の近接学部である経済学部や経営学部ほどに学問体系の区分が明確ではないと考えられるので、いくつかの要素の複合体とならざるをえず、その要素の一つがマーケティングと流通である。
両者は従来商業学に内包されていたが、現在では両者共に独自に展開している。

 学問体系からカリキュラムを編成する上では、整合性を重要視するあまりに多くの科目を配置すると、学生が困惑することにもなるかもしれない。
逆に、それを恐れて科目数を少なくし選択幅をなくすと、抽象議論に長けていない学生の興味を失わせることになるかもしれない。
 また、商学の実学的性格を強調してカリキュラムを編成すると、科目名称は現代に適合したものが並ぶにしても、基礎的・体系的学習に欠けてしまうことにもなりかねない。

 さらに、マーケティング・流通の概念規定は多様であるので、何を基礎学習科目にするか、中核科目は何か、応用科目は何かの範囲が異なることも生じる。
 例えば、マーケティング・流通は経済的交換のみなのか、拡張概念である社会的交換概念まで含むのか、あるいは合理性概念は手段・目的関係の範囲で止めてよいのか、より広範な合理性概念によって構成すべきか等々の問題に直面することになる。

 そこでカリキュラムの編成は、関与している構成要素、すなわち教員、学生、教育設備・環境等からの影響を受けることになる。
 その際、各構成要素が自己の主張を強力に主張したら、カリキュラム編成が無原則化する可能性があろう。
 すなわち、総合的な意味での勢力の強い主体が編成の主体となるのであり、体系や環境の動きとは無関係になるのである。
 このような考え方に対しては、市場原理が働いて望まれる「もの」が残ると言う主張もある。ある側面では、カリキュラムにも市場原理の作用が及ぶことは、よい方向に向かわせるのであろう。
 しかし、市場原理は万能ではないことに注意が必要である。
 また、大綱化と同時に自己点検・評価の制度が導入されたが、外部機関による点検・評価も欠かせないのは当然である。


(4)商学系カリキュラムの再編成

 大学のカリキュラム改革にあわせて、大半の商学系学部ないし学科でもカリキュラムの変更を実施済みないし現在検討中であることが今回のアンケート調査で確認されている。
 本報告書の「環境変化と商学系カリキュラム」(19〜20頁)でも指摘されているように、商学系カリキュラムはその実学的性格を反映して社会経済変動に敏感に対応する傾向や必要があり、近年の国際化、情報化、サービス経済化等の影響も受けて、見直しや改定が実施ないし検討されていると思われる。
 実施・検討されている変更項目は多様であるが、その中で科目の新設・廃止の動向が注目される。

 今回の調査対象校の中では、保険学関係の教育科目を廃止している学部・学科は国公立大学、私立大学ともに1校もなく、生命保険論(私立大学5校)、損害保険論(私立大学3校)、リスクマネジメント論等が特に私立大学で新設されているという結果がでている。

 保険学関係科目の新設理由が回答理由の一つにあるように、「時代のニーズ」に対応した結果であるとすれば、誠に時宜に適したものである、と考えられる。
 しかし、別の調査結果によれば、社会保障関連の科目の著しい増加とは対照的に、保険関連教育科目は長期的には減少傾向にあるとの指摘もあって、危惧している関係者も多い。

 実際に第16期商学研究連絡委員会でも、商学系諸科目の社会的ニーズや重要性は増大しているにもかかわらず、大学でのこれら授業科目の提供や定員は減少傾向にあるという「ミスマッチ」が問題にされて、調査研究が行われた経緯がある。

 今後の課題として、1,2年生への対応の問題と大学院重点化に伴う3,4年生及び大学院生への商学教育の問題がある。教養部が廃止され、4年一貫教育へ多くの大学が移行したが、受験勉強から開放された新入生や2年生を対象とした、専門教育への導入・転換教育の在り方が問われており、その点で商学関連分野のカリキュラムも現在暗中模索の段階にあるといってよい。

 また、一部の大学では大学院の部局化が進められ、大学院重視の教育体制がとられようとしている。これと関連しては商学関係分野ではケーススタディや実務教育を重視するアメリカ型ビジネススクールの移入も急がれている。
さらに社会人教育や生涯教育が重要になって、そのために大学の教育体制そのものも変わろうとしている。

 こうした流れの中で、商学関連分野の重要性やニーズは増大しているはずであるが、新規の概算要求は中々認められず、実際はスクラップ・アンド・ビルドで教育体制の再編成が行われるために、時代の脚光を浴びている例えば情報関連や金融関連の一部の学科が拡充される煽りを受けて、商学関連分野の縮小される例が幾つかの大学ですでに出てきているようである。

 これは憂慮すべき事態であり、もっと長期的視点にたった、バランスの取れたカリキュラムの再編成が行われることが重要と思われる。


(5)基礎理論科目の充実

 カリキュラムの変更が、近年、盛んに行われてきたことが、この調査から良く理解できる。「時代のニーズへの対応」、「大学設置基準の大綱化によるカリキュラムの見直し」、「時代にマッチした科目の名称にするため」、「学生からみて科目のイメージや内容が理解できにくくなっている」などが、変更の理由のようである。
 一方、「国際」と冠する科目が多くなっている。

 このことから、次のような疑問を感じる。
高校までの教育内容とのつながりはどのように考えられたのであろうか?「国際」を抜いたところで、基礎理論をしっかり学習させているのであろうか?学生のイメージや社会のニーズという、やや抽象的なものにとらわれて、社会人として経験を積んでゆくとき、「大学でこの科目を履修しておいて良かった」と感じさせる基礎理論科目が脇におかれているのではないのか?

 商学は、社会科学の一分野として、経済史、経済学、私法学、数量分析を基礎に持ち、取引の衡平(公平)と効率を目標にしていると思う。それを基に、経営学、会計学、商業・金融の理論的学習をするのが、学部段階の重要な課題であろう。
これに、言葉を正確に扱い理解する能力を養うことが加わると思う。
 したがって、開講科目の数を競ったり、目先の変化を求める傾向には、やや疑問を感じる。

 学科目の体系的履修に関して、科目番号を付して科目間の相関と履修学年を明示することは、今後の単位互換の促進のためにも不可欠であろう。

 このように考えれば、カリキュラムの変更が、基礎理論の理解や古典学を通じて批判的に考える能力の養成に背く恐れを孕んでいないかと危惧する。
この危惧を取り除くためには、早い段階で演習的科目を必修化し、古典的文献をじっくり検討する社会科学的教養教育が重視されるべきであろう。

 次回の調査に、演習科目のあり方が含められることを期待したい。
そして、学んだ原理や論理から正しいと信じるものを選び取り、それらに人が殉じなければならない、と考える学生を増やすカリキュラムでありたいと思う。


(6)消費者問題関連科目の充実

 新しい時代の商学教育はどうあるべきか、調査結果を基に考えてみたい。
 教育目標として多くの大学が掲げているのは、国際的視野をもった人材の育成であり、また広い教養と専門知識をもって産業社会で活躍できる人材(核をもったゼネラリスト)である。
 それに対応して多くの大学で伝統的な商学科目に加えて国際マーケティング、国際経営論などに代表されるように「国際」をつけた科目を新設している。
 ジャンル別では国際流通系と金融保険系に新設科目が多い。
 このような方向性は21世紀の更なるグローバル化を考えれば当然のことであるが、ここではもう一方の視点である「消費者志向」の重要性を強調したい。

 これからの商学教育にとっての重要な柱の一つは、企業と消費者とのコミュニケーションをより密接にするための教育を推進することである。
 そのために「消費者政策」、「消費者問題論」、「消費者教育論」といった科目が新設されることが望ましい。
各大学にとって専門教育充実のためにどの科目を新設し、どの科目を廃止するかは様々な要因に左右されるが、今後の課題として「消費者問題」に関わる科目の新設を提唱したい。 

 21世紀を目前にして消費者の生活は、これまで以上に著しく変貌しようとしている。
たとえば、国際関係の深化に伴う消費の国際化、日本経済の多様化・個性化、高度情報化の進展による購買行動の変化、レジャー活動の増加、高齢社会の進行など、消費生活の変貌を促進する様々な要因がある。

 加えて、生命・健康を脅かす安全性や品質問題をはじめとして、サービスや販売方法、契約問題、幼児から高齢者までをターゲットとして展開される悪質な販売方法による被害など、消費者問題は一層大型化し、多様化している。

 これらの問題点を整理して、その対応策を体系的に教育する必要性を指摘したい。
いま、企業においては「お客様相談室」といったセクションを設けており、また行政に於ても「消費生活センター」を設けて消費者問題に対応している。

 流通を研究対象とする商学に於ても、消費者問題を研究と教育の一つの柱とすることがいま求められていると考えるものである。

 以上、伝統的な商学教育のコア科目や「国際」関連科目に加えて、「消費者問題」関連科目の新設の必要性を指摘した。
 いま、一部の大学で「消費者政策」、「消費者保護論」、「消費者問題」といった科目が開設されているにすぎないが、今後の方向性として全ての大学(商学系)で「消費者問題」関連科目を新設するよう提唱したい。


(7)商学部のアイデンティティの確立

 第16期と第17期の2期にわたり商学研究連絡委員をつとめ、第16期では商学研究への社会への対応と要請について、第17期では商学教育の現状と方向について調査・研究を行った。

 これらの調査・研究を通して、商学教育・研究は、時代の流れや社会の変化に対応して大きく転換しつつある姿が判明した。

 今回の商学系大学を対象とするアンケート調査の結果を見ると、まず教育理念・目標では、国際化の進展に対応して「国際人」の育成などが揚げられており、特に商学部の教育理念・目標では、より具体的に「国際社会での対応」、「産業人の育成」などが多い。
 次に、カリキュラムについても「国際経営論」、「国際マーケティング論」などに代表されるように「国際」という名称の科目が数多く新設されている。
さらに、教授方法についても「理論と実際の統合」、「社会人の講義導入」など環境の変化に対応する姿勢がうかがえる。

 一方、廃止科目を見ると、商学の客体である商品を研究対象とする商品学や、国際間の取り引きを研究対象とする貿易論、生産物の社会的移転を担当する商業を研究対象とする商業総論などが多い。
 これらの科目は、従来の商学教育においては中心科目として設置されていたものである。
 今 回のアンケート調査の結果、平成3年の大学設置基準の大綱化以降、各大学の商学部は、時代の流れにそった魅力ある商学部づくりに努力していることが判明した。

 反面、時流にのって商学系科目を新設に従来の科目を廃止してしまうのは商学部のアイデンティティを稀薄にし、商学部・商学の存在自体を危うくすることになるのではないかという疑問もある。

 時代が移り社会が変わるなかで、商学とはなにかを明確にし、商学研究・教育の重要性を明示することが問われていることを感じた。

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Y おわりに

 商学系大学に対するアンケートを通して、商学教育に関する具体的な知見を得ることが出来た。
 商学系大学の多くは時代の二ーズに合致するためにカリキュラムを見直し、社会の変化に対応して科目を新設したり、従来の 科目の名称を変更したり、あるいは廃止している。
 さらには学部や学科を改組している大学もある。
 このようなカリキュラムを変更する動きは、1991年(平成3年)の「設置基準の大綱化」以降特に顕著であり、商学教育を時代の流れや社会の変化に対応させようとしていることがうかがえる。

 一方では、時代や社会の変化に左右されず、普遍的な教育理念のもとで伝統的なカリキュラムを維持している大学もある。

 今回の調査結果は、商学の周辺領域が大きく拡大していると同時に、商学固有の領域が不明確になりつつあることを示している。

 今回の調査では、商学系カリキュラムの現状を明確にできなかったこと、また集計・分析に際して量的処理を行ったため、本来行うべき定性的分析に踏み込めなかったこと、すなわち、教育理念・教育目標とカリキュラムを目的と手段という関連で分析しなかったことが課題である。

 ただし、個別大学毎に教育理念・教育目標とカリキュラムの関連を分析すれば、その結果は事例研究になり、今回の調査目的とはずれることになる。

 この報告が、商学系カリキュラムを検討している方々に何らかの参考になれば幸いである。

 最後に、今回のアンケート調査に快くご協力下さった大学関係者、またアンケート調査に当たり、多大なご協力をいただいた商学研究連絡委員会関係登録学術研究団体の方々に心よりお礼申し上げます。

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付1 . 調査対象校リスト

(*印回答校)
*札幌学院大学    *久留米大学
*函館大学       *西南学院大学
*北海学園北見大学 *福岡大学
*八戸大学       *熊本学園大学
*上武大学       *千葉商科大学
*東京国際大学     大阪商業大学
*流通経済大学     近畿大学
*中央学院大学    *日本文理大学
 慶應義塾大学     沖縄国際大学
*専修大学        九州国際大学
*高千穂商科大学  *大阪学院大学
*拓殖大学       *小樽商科大学
*中央大学       *一橋大学
 日本大学       *横浜市立大学
*明治大学        大阪市立大学
*早稲田大学       奈良県立商科大学
*横浜商科大学     神戸商科大学
 神奈川大学      *福島大学
 山梨学院大学    *横浜国立大学
*愛知学院大学    *東京大学
*中京大学       *富山大学
*名古屋学院大学   *名古屋大学
*名古屋商科大学   *滋賀大学
*名城大学        *和歌山大学
*同志社大学      *神戸大学
*関西大学        *香川大学
*阪南大学        *山口大学
*関西学院大学     長崎大学
 流通科学大学    *大分大学
*岡山商科大学
*広島修道大学
 九州産業大学


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※以降は、PDFファイルをご参照下さい。
 (付2.アンケート)

付2

質 問 票




(別紙)

商業系カリキュラム


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