エネルギー研究開発総合戦略の確立について


「社会・産業・エネルギー研究連絡委員会報告」


平成12年3月27日

日本学術会議
社会・産業・エネルギー研究連絡委員会


 この報告は、第17期日本学術会議社会・産業・エネルギー研究連絡委員会及びエネルギー戦略検討小委員会の審議結果を共同で取りまとめ、社会・産業・エネルギー研究連絡委員会の名で発表するものである。

[社会・産業・エネルギー研究連絡委員会]

委員長 三井 恒夫(第5部会員、東京電力株式会社顧問)
幹 事 秋山 守(第5部会員、財団法人エネルギー総合工学研究所理事長)
委 員 植草 益(第3部会員、東洋大学経済学部教授)
石井 吉徳(アジア環境技術推進機構理事長)
小宮山 宏(東京大学大学院工学系研究科教授)
十市 勉(財団法人日本エネルギー経済研究所理事)
平澤 冷(科学技術庁科学技術政策研究所総括主任研究官)


[エネルギー戦略検討小委員会]

委 員長 三井 恒夫(第5部会員、東京電力株式会社顧問)
幹 事 秋山 守(第5部会員、財団法人エネルギー総合工学研究所理事長)
委 員 植草 益(第3部会員、東洋大学経済学部教授)
関根 泰次(第5部会員、東京理科大学工学部教授)
冨浦 梓(第5部会員、新日本製鐵株式会社顧問)
平田 賢(第5部会員、芝浦工業大学システム工学部教授)
松尾 稔(第5部会員、名古屋大学総長)
石井 吉徳(アジア環境技術推進機構理事長)
伊東慶四郎(財団法人政策科学研究所主席研究員)
内田 盛也(株式会社モリエイ代表取締役会長)
内山 洋司(財団法人電力中央研究所上席研究員)
太田 博光(東京電力株式会社主管研究員)
小宮山 宏(東京大学大学院工学系研究科教授)
佐川 直人(財団法人日本エネルギー経済研究所第2研究室室長)
鈴木 篤之(東京大学大学院工学系研究科教授)
鈴木達治郎(東京大学大学院工学系研究科客員助教授)
十市 勉(財団法人日本エネルギー経済研究所理事)
平澤 冷(科学技術庁科学技術政策研究所総括主任研究官)
松井 一秋(財団法人エネルギー総合工学研究所部長)
村田 稔(新日本製鐵株式会社エネルギー技術グループリーダー)
森口 祐一(国立環境研究所総合研究官)
山地 憲治(東京大学大学院工学系研究科教授)



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目次

1.背景と問題意識

2.エネルギー研究開発の現状と課題

3.エネルギー研究開発戦略の基本的構想
3−1.戦略の特徴とプロセスの重要性
3−2.公共利益重視の研究開発戦略へ
3−3.目標の設定:3E と3S
3−4.不確実性の認識:多様性、柔軟性、深層性の価値
3−5.技術革新能力確保と戦略的人材育成の重要性
3−6.市場原理の活用と公的研究開発の役割の明確化と評価基準の確立
3−7.ミッション型大型プロジェクトの将来:グローバルな公益の追求
3−8.グローバル・スタンダードへの貢献:安全性や基準の確立に向けて

4.エネルギー研究開発の枠組み
4−1.具体的目標の設定
4−2.総合ポートフェリオ戦略の活用と多様化の重要性

5. 研究開発体制と意志決定プロセスの構築
5−1.省庁を越えた意思決定過程の確立
5−2.調査研究機関の確立と協力体制の必要性
5−3.エネルギー技術ネットワークの再構築

6.提言

参考資料


1. 背景と問題意識

○世界のエネルギー研究開発を取り巻く環境は大きく変化している。特に、規制緩和によるエネルギー市場の競争激化とコストダウン圧力、途上国の経済成長によるエネルギー需給の逼迫、環境問題の深刻化・国際化が顕著である。

○我が国では、エネルギー問題への危機意識が薄れはじめており、国としてのエネルギー政策の再構築が求められている。

○一方、エネルギー政策のみならず、政府の政策決定に対する不信や行政改革への要求もましている。
事故や危機管理対策の不備も、国民の不安を増加させている。この背景にはエネルギー政策における基本的考え方の欠如、選択肢の幅の狭さ等があると考えられる。

 エネルギー研究開発を取り巻く環境は大きく変化しており、そのニーズも多様化している。
特に、市場のグローバル化と低価格安定傾向、さらに世界規模で進んでいるエネルギー市場の規制緩和(民営化、自由化)による研究開発予算への圧迫、環境問題の深刻化がエネルギー技術の選択に大きな影響を与えている。

 また、エネルギー低価格時代が続いており、国民のエネルギー問題への危機意識も薄れ始めている。
さらに政府の政策決定プロセスに対する官僚/国会に対する国民の不信感がましており、行政の効率化や透明性向上の要求が顕著である。

 また原子力関連の事故や危機管理対策の不備などにより、エネルギー安全保障への関心も資源の確保と言った「量」的な概念から、低コストでかつ安全で環境と調和するエネルギーの開発という、「質」的な概念に重点が移行してきた。国民の不安の背景には、将来に向けての明確なエネルギー政策における基本的考え方の欠如、ならびにエネルギー選択肢の幅の狭さなどがあると考えられるのである。

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2.エネルギー研究開発の現状と課題

○世界のエネルギー情勢を俯瞰すると、途上国(中でもアジア)のエネルギー需要増加、化石燃料消費による環境問題の深刻化が大きな課題であり、持続可能な発展のなかで、資源消費と科学技術力によるエネルギー創出のバランスを図る、という長期的なビジョンに基づくエネルギー技術開発戦略が是非とも必要である。

○エネルギー研究開発予算は世界的に停滞気味であり、このままでは21 世紀の課題克服は困難である。その中で、我が国予算は世界のトップレベルであり、その役割は極めて大きい。その特徴は、公的資金への依存度が高いこと、実証型開発に多くの資金が費やされており、革新的な要素技術や基礎研究への投資が比較的少ないことである。

○また、世界的に見ると、我が国では新たな知識を創造するための国家知識基盤の育成という視点や、長期的視点からの人材育成という視点が欠如しており、国際性のある研究インフラの構築が大きな課題とされている。

 まず、世界のエネルギー情勢を俯瞰すると、途上国のエネルギー需要の必要性と、地球環境問題から来る、長期ビジョンの必要性があきらかである。
 その中で、政策決定をするうえでは将来の不確実性がますます大きくなっていることも事実である。
 そう言った不確実性の中で、世界的に、持続可能な発展を実現させるためには、エネルギー需要の抑制(効率向上)、脱化石(炭素)燃料、クリーンで安全なエネルギー技術の開発などが不可欠となる。
 100年先を見据えた長期ビジョンの下で、エネルギー研究開発の総合的な戦略の構築が望まれる。

 一方、そのグローバルなエネルギー情勢の中で、我が国のエネルギー需給構造は、石油依存度の高さ、原子力/天然ガスによる電力部門の石油代替の成功、省エネの進展といった特徴を有してきた。

 今後は、上記のようなグローバルな持続可能な発展に貢献するためにも、また自国のエネルギー政策としても、あらたなエネルギー研究開発戦略の必要性が必要である。

 OECD/IEA の政府エネルギー研究開発予算比較、総務庁調査や科学技術庁による技術開発予算統計(我が国)等によると、主要先進国では、エネルギー研究開発予算が縮小気味であり、このままでは21世紀の課題克服は困難であると見られる。
一方、日本のエネルギー研究開発予算は世界でもトップクラスであり、その影響力が極めて大きいことを認識しなければいけない。

 その中で、我が国のエネルギー研究開発予算の特徴として、公的資金への依存度が高いこと、実証型開発に多くの資金が使われていること、革新的な要素技術や基礎研究への比較的投資が少ないこと、などが課題としてあげられる。
また、国際的に見ても、大学や研究機関インフラへの投資が不足しており、特に新たな知識を創造するという国家知識基盤の育成、継続的な人材育成の必要性などが、大きな課題としてあげられている。

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3.エネルギー研究開発戦略の基本的構想

○エネルギーが、我が国安全保障の基本的要素の一つであるとの認識から、国家としてのエネルギー研究開発の総合戦略を構築することが是非必要である。

○我が国の政策は、エネルギーのみならず、戦略的発想が乏しかった。「戦略」は「計画」と異なる次のような5つの要件を満たす必要がある:
[1]明確な目標(誰のための、何のための戦略か) 
[2]不確実性を考慮した筋書きとそれに対応する多様性、柔軟性、深層性 
[3]説得力ある論理構成による正当性、実行可能性、信用性 
[4]多様な選択肢を総合的に判断する基準 [5]それに基づく優先順位と資源の配分の在り方。
この戦略を実施するプロセスとそれを支える体制の整備も極めて重要である。

○これまでの政府主導型大型プロジェクト指向から、短期的なリターンを期待する技術開発に重点が移行しつつあるが、今後は世界の平和と安定に貢献し、途上国のニーズに配慮しつつ、かつ我が国国民の公益を十分に踏まえた公共利益重視の研究開発とすべきである。

○その目標としては、これまでの3E(エネルギー供給、環境保全、経済成長)に加え、3S(安全保障、安全性、社会受容性)を加えることにする。

○特徴として、不確実性を明確に認識した筋書きを描き、特に最悪のシナリオを念頭に置き、それに対応するため多様なエネルギー技術選択肢を継続して生み出していけるような技術革新能力の確保が重要である。
そのための計画的な人材育成とそのシステムの構築も研究開発戦略の重要な課題である。

○市場原理の効用と限界を認識し、公的研究開発の役割を明確化すべきである。
そのためには、研究開発の概念を「投資」と「保険」とに大別し、「保険」的な研究開発を公的資金の研究開発の柱と位置づける。そのような概念と多様な価値を包含した、総合的な技術評価基準の確立が必要となる。

○ミッション型大型プロジェクトは国際協力重視へと展開すると共に、グローバルな産業技術基準の確立など、グローバル経済化にあった産業政策に貢献する研究開発戦略を構築する。


3−1.戦略の特徴とプロセスの重要性

 我が国の政策には、エネルギー分野に限らず、戦略的発想に乏しかった点が指摘されている。
エネルギー政策について言えば、通産省総合エネルギー調査会の長期需給見通し、代替エネルギー開発目標や、原子力委員会による原子力開発利用長期計画などが、基本的な政策方針となっていた。

 これらは、ある一定の前提条件の下で、将来の見通しやそれに基づく「計画」を提示しているに過ぎず、ここで提案するような戦略とはその性質が大きく異なる。

 将来の見通しがますます不透明になり、かつ多様な価値観に基づく政策が必要とされ、さらにその信用度についても高めていく必要がある今、従来の「計画」的政策の枠を越えた、戦略的発想に基づく政策立案が必要とされているのである。

 「戦略」には単なる「計画」と異なる以下のような特徴を持つ。
[1]明確な目標(誰のための、何のための戦略か)
[2]不確実性を考慮した筋書きとそれに対応できる多様性、柔軟性、深層性
[3]説得力ある論理構成による正当性、実現性、信用性
[4]多様な選択肢を総合的に判断する基準
[5]それに基づく優先順位と資源の配分の在り方

 これらの条件を満たすには、立案していくプロセス自体が大きな役割を果たす。ここでは、国家の公的な戦略ということから考えれば、一般の国民にも分かりやすい、透明性と公開性が不可欠であり、そのためにはできるだけ多くの利害関係者(ステークホルダー)がプロセスに参加できるよう、考慮しなければならない。

 また、実施プロセスも、立案時と同様重要である。特に、実施に当たり予想外の状況に直面したときの対応や、実施面からの定期的なフィードバック・ループが明確に存在している必要がある。
これらの条件を満たして始めて、効果的な戦略立案と実施が可能となるのである。


3−2.公共利益重視の研究開発戦略へ

 これまでの技術開発の進め方を見ると、石油危機以降、政府主導の国家プロジェクトを中心とする、大型研究開発が石油代替エネルギー確保を主眼として重要な役割を果たしてきた。
 しかし、各国の情勢を見ると、エネルギー資源の流動性拡大と市場の規制緩和の流れに乗って、政府主導型の大型プロジェクトは予算が削減される方向にあり、民間においても、全体の予算の削減に加え、短期的なリターンを期待する技術開発に重点が移行しつつあるように見える。

 この傾向が続けば、長期的視点からの研究開発や、環境保全、安全確保、安全保障と言った民間企業が投資リスクを負えない分野での研究開発が衰退する可能性が高い。そこで、そのような公共利益を重視した研究開発戦略の構築を強調したい。
そのためには、公共利益が的確に反映されるよう、より民主的で(透明性の高い)、また説明責任のある意思決定過程の確立が不可欠である(5章参照)。

 公益を考える上で、世界の平和と安定が確保されていないかぎり、我が国の平和と安定も確保されないことは明らかである。また、我が国の研究開発の動向が、世界のエネルギー情勢に与える影響の大きさを考えると、グローバルな視点で考える必要がある。
 そこで、本研究開発戦略では、我が国の公益をまず第1 に考えて基本的な戦略を構築するが、その際、我が国国民がグローバル社会の一員として、共有できる目標を優先することにする。

 また、我が国の研究開発予算の規模を考えれば、21世紀の人類のために、我が国が主導的役割を果たす、という責任と自覚、リスクを負う覚悟も必要である。
 そうすることが、資源輸入依存度の高い我が国の国益、および国民生活の基盤となる産業競争力の強化にもつながるという認識が必要である。


3−3.目標の設定:3Eと3S

 従来、我が国のエネルギー政策目標として、3 E(エネルギー供給、環境保全、経済成長)が上げられてきた。これらの目標に加え、つぎの3つの目標を加えることにする。

*安全保障(Security):エネルギー需給中心の安全保障だけでなく、幅広い社会全体の、次いで近隣諸国を含む日本の総合安全保障確保に貢献しうるエネルギーの開発

*安全性(Safety):リスクのより少ないエネルギー、ならびにその利用、供給、貯蔵、配送技術の開発

*社会受容性(Society):社会に受容度の高いエネルギーと関連技術の開発、並びに社会合意のプロセス
これらの開発目標は、従来よりも幅広い研究開発戦略を目指すことを意味しており、研究開発の評価に際しても、多様な評価基準が必要となる。


3−4 .不確実性の認識:多様性、柔軟性、深層性の価値

 戦略と計画の大きな違いは、不確実性を明確に認識するかどうか、と言う点にある。
従来のエネルギー計画では、特定の前提の下で、固定的な需要シナリオを想定し、それに応じた供給計画を打ち出していた。
戦略とよぶためには、需要側も供給側も、シナリオに不確実性を明確に組み入れる必要がある。
不確実性とは、予測困難な事象や前提も考慮に入れることになり、状況に応じた柔軟でかつ多様なエネルギー選択肢を用意しておく必要がある。

 特に、最悪のシナリオを常に念頭に置き、それに対処できるような対策を考慮しておく必要がある。そのためには、単一的な対策ではなく、深層防護の概念を適応できるような、技術開発戦略が望ましい。
具体的には、研究開発のリスクを念頭に、つねに多重的な技術開発戦略を構築しておくことにつながる。
これが、次の技術革新能力の確保につながる条件である。


3−5.技術革新能力確保と戦略的人材育成の重要性

 多様なエネルギー技術選択肢を確保するためには、国全体として、多様なエネルギー技術選択肢を、将来に向けて続けて生み出していけるような技術革新能力の確保が必要となる。

 特定のエネルギー技術開発を目標にする前に、まずこの技術革新能力の確保を目標として明確に位置づける必要がある。
そのためには、研究開発の予算規模(「量」)にのみ注目するのではなく、むしろ研究開発の中身(「質」)にもっと注目する必要がある。

 また、技術革新能力の確保は、世界のリーダーとしての開発リスクを負う覚悟を持つことも意味する。
一方で、常に世界の先端を走る技術競争力を維持することにもつながるのである。
 このような能力を確保することにより、社会における科学技術の存在感や関心をより高めることになり、次世代の人材を惹き付ける効果も持つと期待される。

 事実、技術革新能力の確保とは、まさに優秀な人材を継続的に拡充していくことを意味するのである。
エネルギー技術に限らず、我が国の研究開発全体にいえることであるが、科学技術を指向する人材の確保とその育成は、まさに国家的課題として位置づけられなければならない。

 そのような人材育成のシステムを構築することも、研究開発戦略の重要な課題である。
具体的には、人材評価の新たな視点(多様性の尊重、失敗経験の肯定的評価)や、生涯教育・専門教育・再訓練教育などのシステムを継続的に見直し、必要であれば新しいシステムを構築していくことも考える必要がある。


3−6.市場原理の活用と公的研究開発の役割の明確化と評価基準の確立

 公的資金の研究開発戦略を構築するうえで、重要なのは、市場原理の効用と限界を十分認識することである。
 そこで、ここでは研究開発戦略を考えるうえで、二つの重要な概念目標が考えられる。

 一つは、「投資」という概念の基づくもので、これは研究開発がどの程度利益をもたらすかを大きな評価基準とする。
商業化に成功することが、大きな目標と考えられる。
 一方、「保険」という概念目標では、掛け捨てになる場合も含めて、利益の還元(商業化)を前提には考えない開発目標となる。不確実性への対応を柱とした場合、この「保険」としての研究開発投資が、極めて重要となる。

 一般的に言って、市場原理の下で行われる研究開発投資は、経済的指標を重視する「投資」と考えられ、リスク対応を重視する「保険」的研究開発は優先順位が低い(ただし、企業そのものの利益を守るための「保険」的研究開発は行われることもある)。
 一方、公的資金を用いる場合でも、実証研究になると「投資」的評価が要求される。最近では、基礎研究でも「投資的」評価を要求するケースもでてきている。

 しかし、本来公的資金による研究開発は、短期的な利益よりも、長期的な幅広いニーズに対応すべきものである。
そこで、不確実性への対応を柱と考えて、「保険」的研究開発を、公的資金の研究開発の柱と位置づける。これには、国家総合安全保障への自衛力(「バーゲニングパワー」)としての技術力という意味も含められる。

 保険と考えるということは、多様な選択肢の開発につながる要素技術や基礎研究の充実が重要となる。
ただし、投資規模への制限、保険としての効用に対する公正な評価基準が必要であることに変わりはない。
 その際、「社会的効用」の概念として、経済益のみならず、広く文化や教育面への効用も評価の対象に含める必要がある。

 このような役割分担を明確にすることにより、規制緩和が進むエネルギー市場においても、研究開発における官民の協力/責任分担も円滑にいくものと思われる。


3−7.ミッション型大型プロジェクトの将来:グローバルな公益の追求

 公的資金の研究開発として、これまでにも核融合や高速増殖炉といった、ミッション型大型プロジェクトが存在していた。これらは、長期的なエネルギー供給選択肢の確保という面で、「保険」としてあらためて、研究開発の進め方を考えていく必要があるだろう。

 しかし、今後も、重要な使命を早急に達成しなければならないような、プロジェクトを立ち上げる必要がでてくる可能性もある。そのような大型プロジェクトについては、おそらくグローバルな共通利益が明らかになっている可能性が高い。財政的にも、一国で負担できる範囲は小さくなっているうえに、冷戦の終了により、国際協力の実現はより容易となりつつある。

 このような大型ミッションについては、日本がリーダーシップをとる場合にでも、国際的な合意の下に、真にグローバルな共通利益を追求できるような国際協力プロジェクトに展開していくことが望まれる。ただし、この場合にも、我が国の国益が損なわれることのないよう、プロジェクトの結果、知的集積が確実に行われるよう配慮することが望ましい。


3−8.グローバル・スタンダードへの貢献:安全性や基準の確立にむけて

 グローバル化が進む世界経済の中で、安全性の確保やそのための技術基準の確立にむけての研究開発も重要である。
従来は、欧米の産業界と公的機関が世界のリーダーとしての役割を果たしてきているが、我が国も、研究開発基盤としての、規格基準、標準、分析、試験方法などに関る研究開発をすすめていく必要がある。

 これらはひいては、我が国の産業競争力の強化にもつながり、国民の便益向上にも大きな役割を果たしうる。
安全性についても、自らの判断で安全対応策がとれなければ、国民の安心は確保できない。
そのための、研究開発をもっと促進する必要がある。

 これらの研究開発は、民間と公的機関が協力しあって、それぞれの分担に応じた体制を確立する必要があるが、国民にとって信頼できる体制にしておかなければならない。

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4.エネルギー研究開発戦略の枠組み

○定量化可能な具体的目標として(1)エネルギーシステムの効率向上(2)エネルギー供給力の拡大(3)エネルギー技術選択肢の拡大(4)クリーンで安全なエネルギーシステムの普及(5)科学技術競争力・技術革新能力の向上、を掲げる。

○時間的視野(短期、長期、超長期)、分野(需要・供給、大型集中・小型分散、自然科学・社会科学)、研究開発段階(基礎、要素技術、実用)の3要素を総合的に組み合わせたポートフォリオ研究開発戦略を構築する必要がある。

 第3章までには、日本をとりまくエネルギー情勢の基本的要因とその変化について概括し、エネルギー研究開発戦略が不可欠な要素であることに触れた。本章では、エネルギー研究開発戦略を策定する上で必要となる枠組みについて述べる。また、その具体的実施における開発体制と意思決定プロセスに関しては、後章でまとめることとする。


4−1.具体的目標の設定

 前章で述べたように、本戦略では3E(エネルギー供給、環境保全、経済成長)と3S(安全保障、安全性、社会受容性)といった公益の達成を目標としており、研究開発の評価に際しても、多様な評価基準が必要となる。
この目標の下、数値で示すことのできる具体的な目標が明らかにされる必要がある。

本戦略では以下の5目標を掲げたい。

[1] エネルギーシステムの効率向上(例、エネルギー原単位の目標)
[2] エネルギー供給力の拡大(例、資源の可採年数の向上、再生可能エネルギーの拡大)
[3] エネルギー技術選択肢の拡大 (多様性インデックス)
[4] クリーンで安全なエネルギー・システム(環境負荷とリスク評価)
[5] 科学技術競争力向上、技術革新能力の向上(科学技術指標)

 これらの目標は、現状をベースに、時間軸を定めて明確な数値目標を設定し、マイルストーンとしてエネルギー研究開発の評価に重要な指標を与えてくれる。このような数値目標が欠如していると、定性的な方向性の示唆だけに終わり、戦略としては物足りなくなってしまうのである。


4−2.総合ポートフォリオ戦略の活用と多様化の重要性

 本節では、総合ポートフォリオ戦略を構成する時間的視野(短期、長期、超長期)、分野(エネルギー供給需要システムを構成する、自然科学各分野および社会科学各分野を含む)、研究開発段階(基礎研究段階、要素技術、実用段階)の3基本要素の適切な組み合わせが、不確実性を加味した情勢変化に強靱な研究開発戦略を構築する上で必要であることを述べる。

 また、広義のポートフォリオ戦略には、官民、国際的および分野間の役割分担の概念、規制的手段(環境規制等の公益実現のための各種制度)、普及直前期または普及期と考えられる技術に対する経済的手段(税制、補助金等)も含まれる。


(1)時間的視野と研究開発段階:多重技術選択肢開発戦略へ

 これまでは、できるだけ早期に、代替エネルギーの導入を図るため、原子力や新エネルギー研究開発も、大型実証開発を中心に行ってきた。
 しかし、エネルギー情勢の変化をふまえて、短期的な目標達成には、市場原理を最大限に活用した応用開発、長期的な開発目標には、革新的で多様な技術選択肢をうみだす基礎/要素技術開発に重点を移し、その組み合わせを最適に図っていく戦略(多重技術選択肢開発戦略)が必要となる。
 ただし、環境保全や安全性向上技術など、民間が負担できない技術開発、ならびに長期投資を必要とするビッグサイエンス、大型実証技術などの場合は、公的資金を補完的に活用することが必要である。
実証開発になれば、技術選択肢は絞られ、プロジェクトの効用評価を公正にかつ厳格に行うことが必要となる。

(2)供給重視から、需要とのバランスを図る戦略へ

 石油危機以降の日本のエネルギー戦略目標の一つは、石油代替であった。供給源(特に発電分野)においては、石油以外の分野への公的研究開発が、供給源多様化に一定の成果をあげたといってよい。
 一方、需要側では、省エネルギーへの投資が、民間中心に行われ、日本では民間の研究開発の大半(70%以上)が省エネルギー関係に集中してきた。
この研究開発の成果も、日本のエネルギー原単位の低減に大きな成果を挙げたと言える。

 しかし、今後は供給/需要分野における研究開発のバランスを、民生、産業、運輸各部門の需要構造変化、資源状況変化等の分析を踏まえ、公的部門、民間部門で上手く組み合わせていく必要がある。

 まず第一に、供給技術で民間が行ったほうがより効率的な研究開発もあり、またエネルギー効率改善で長期的な要素技術開発を公的に行ったほうがよい場合もあると考えられるからである。
特に、公的な研究開発の役割は、不確実性の対処と技術選択肢の増加にあることを念頭に、多様な研究開発課題を追求し、その成果を公共財として位置づけることが望まれる。
 その定量的評価の物差しの一例としては、具体的な技術開発課題と資源配分についての多様化インデックスとその最適化理論の応用などがあげられる。

 次に、需要側の分析を詳細に行うことにより、最も効果的な需要抑制対策を講じることができる。
例えば、90年代を通じて、最も伸びている需要は運輸部門と民生部門であり、産業部門の伸びは既に停滞している。
したがって、今後の省エネ技術開発の目標としては、産業部門より、運輸や民生部門に重点を移すことがより効果的であると判断される。
 エネルギー供給、特に発電技術開発に重点が置かれがちであったが、今後は需要側の技術開発とのバランスも重要となる。

 最後に、需要側分析で忘れてはならないのが、ハードのみならず、ソフトウエア、特に情報ネットワークを基礎とするエネルギー利用基盤技術の重要性である。
例えば、送配電ネットワークの効率改善、運輸システムの効率改善等は、情報ネットワーク技術が大きな役割を果たしてきている。
 その開発は、まさにソフトウエアの勝負であり、そのような視点での技術開発ももっと重視されるべきである。


(3)研究開発評価の研究、社会科学の関連研究の強化

 エネルギー研究開発投資といえば、当然のことながら、科学技術を中心とした自然科学分野が主役となる。しかし、公共利益重視を目指す新たな戦略の下では、開発目標の設定、その見直し、それに基づく技術評価や意思決定支援のための研究も進める必要がある。
 その場合、開発途中であっても、その方向転換や中止も含めた厳正な評価を行う必要がある。
例えば、エネルギー供給需要システムの社会受容性に関しては、意思決定プロセスの明示化と選択されたオプション群の比較評価が必要である。
 合理的かつ社会的意思形成基盤確立に向けて、自然科学、社会科学の各分野の関連研究強化が急務である。

 未完技術あるいは科学的評価の困難さと不確実性(科学で判らないこと)を持つ技術の開発を社会として選択する場合、その時点までに得られた科学的事実に基づき、現段階で採れる対策の選択肢を論理的に評価し、さらに世代間にわたる政策決定の仕組みを構築すること、などが必要である。
 このような国民的合意形成プロセスを構築し得ること自体が国民的共有財産の一つと考えられるべきであり、そのためには、国民の持つ問題意識を如何に表現し、社会と時代が必要とするであろう学問の枠組みをどう構築するかについてなど、社会科学・人文科学・自然科学の研究者が協力して研究を推進すべきである。

 エネルギー技術は国民生活のみならず、全人類の未来と地球環境の保全にも長期的には影響を及ぼすので、まさにエネルギー学の推進が求められる所以である。

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5.研究開発体制と意思決定プロセスの構築

○我が国にはエネルギー研究開発政策を、省庁を越えて総合的に議論し意思決定や提言を行う機関がなかった。そのような権威ある戦略の審議、立案機能の明確化を検討すべきだ。

○政策の信頼性を回復する意思決定プロセスの構築が必要である。その条件として、
(1)情報公開・透明性の確保(とくにデータの整備と公開)
(2)客観的な評価プロセスの確保
(3)説明責任の確保、
等が上げられる。

○政府の審議にあわせ、民間での研究評価・提言機関の設立が望まれる。また、国立/公立の研究機関、大学、民間の研究機関の協力体制と総合力向上が必要である。

○情報共有のスピードが速く、共通の知識基盤を持ち、各種科学技術の融合化を促進するネットワークの構築が必要である。このネットワークは、国内外、特にアジア諸国の新たなる人材の発掘や育成にも大きな役割を果たす。
 エネルギー研究開発戦略の基本的な考え方およびその枠組みに続いて、それらに基づく実行上の制度や仕組み(研究開発投資への税控除等)も同様に重要である。
 今後は次のような取組みを推進すべきである。


5−1.省庁を越えた意思決定過程の確立

 総合エネルギーに関する審議は、通産省総合エネルギー調査会で行われ、エネルギー研究開発計画については、科技庁、通産省、文部省をはじめ関係各省庁で議論された上、科学技術会議で審議する。これらの議論は、一見統合されているようであるが、現実は各省庁の予算請求を積み上げてきたものにかなり近い。エネルギー研究開発戦略を総合的に、議論する場は存在してこなかった。

 新たに、権威ある機関が望まれるところであるが、行政改革・省庁再編成後の体制を見ると、現実には継続される審議会、事務局が担当するほかないので、こうした特定の機関に、その機能を付与するよう明記し、そのなかで、エネルギー研究開発戦略についての総合的な審議が行われ、立案することを期待する。

 公的機関における今後の意思決定プロセスに必要な条件を明確にしておきたい。

@情報公開・透明性の確保:資金(税)データの明確化
 まず第一に、情報公開と透明性の確保である。特に、研究開発に投資される公的資金の流れについては、もっと明確なデータが公表されることが望ましい。研究開発戦略を構築するうえでも、詳細なデータが必要となる。今回の議論において、とくに不足していると思われたのが、基礎、要素、応用開発別の研究開発投資額である。また、資金の流れも明確に見えることが望ましい。効果的な戦略には、まずデータの整備が第一であり、そのデータができる限り公表されることが望ましい。

A客観的な評価プロセスの確保:公正な評価機関、議論の場の設置
 これまで、研究開発の評価もそれぞれの推進機関が、内部のレビュープロセスとして行ってきた。
しかし、これでは、客観的な評価が行われる保証がない。推進機関の内部評価とは別に、独自に客観的に技術評価を行える機関が必要である。その際、技術や経済性のみならず、該当技術の現状、社会的価値、行政的規制・管理の実態、各国における対応状況、などを総括的にながめ、問題を整理し、それぞれの課題に対する認識を改めた上で、幅広い議論を行う必要がある。

B説明責任(accountability)の確保
 説明責任とは、意思決定の内容を合理的にかつ正当性をもって説明することを意味する。そのためには、決定までのプロセスと論理を明確に示す必要がある。
 また、専門的科学情報を非専門家へ伝達するために、市民に判り易い言葉に変えること、即ち情報の翻訳とも言うべき努力が必要である。いかなる目的で、どのような計画を実行するつもりかはたとえその分野の専門的知識に欠けていても理解可能となすことは可能であるはずである。


5−2.調査研究機関の確立と協力体制の必要性

 政府におけるエネルギー総合研究開発戦略の審議にあわせて、必要とされるのが、調査研究機関の確立である。民間で客観的、総合的な判断、および政策提言を行う。
 産業界や学界との連携、さらにはNGO や市民団体とも連携しつつ、真に公共利益を反映した分析を行える機関とする。
既存の調査研究機関にそうした機能を付与することが望まれる。

 また、省庁再編、国立研究所の独立法人化などを機会に研究機関、評価調査機関を総合的に力を発揮できるようにする必要がある。研究開発機関相互の協力体制は単に美辞麗句の例にとどまることなく、真の研究交流、開発分担を実行すべく、人材交流を図るべきである。

 この研究機関相互の協力は、それぞれの研究機関を開かれた組織にして始めて効果が現れるものであり、競争と協調をバランスさせた、研究機関間の新しい関係構築が望まれるのである。

 その目標とするところは、国としての技術革新能力を総合的に高めていくことであり、そのための施策を国としても、大学や民間研究機関と総合的に確立していく必要がある。

 このような機関に必要な専門家の育成も重要である。これこそ、まさに「エネルギー学」の必要性につながるものであり、教育分野としてのエネルギー学の確立が望まれる。


5−3 .エネルギー技術ネットワークの再構築

 科学技術基盤の重要な要素の一つとして、組織間のネットワークを超えた、グローバルな専門家間のネットワークの存在が上げられる。この専門家間のネットワークは、一つのコミュニティーと考えられ、情報共有のスピードが速く、最先端の技術進歩や開発課題について、常に情報交換が行われる。

 エネルギー技術は特に総合技術であり境界領域のマネージメントが重要であり、各種科学技術の融合化を進める仕組み作りが必要と考えられる。
 また、産業が担当する生産系に係わる知識と智恵を基礎研究に纏めるという体系化作業によって生産系と教育系の知識断絶を排除する。

 現在、科学技術の巨大化により、科学者、技術者、技能者、の連携・一体感が崩れ、技術体系、即ち「基礎研究―工業化技術研究―生産技術―評価技術」という構成技術の各階層間に技術情報の断絶、技術伝承の難しさが起こっている。部分を全体の中で位置付け、埋没させないようにすることもネットワークの目的のひとつである。

 また、科学技術を実用化する場合、往々にして後になってその弊害に悩まされ対策に追われる場合が出てきているが、人間が制御できる範囲内に技術の水準を抑制する、など人間を中心に据えた技術を選択するというような考えが出現している。
どこまで安全や将来世代にたいする保証を考えるべきかなど、今後の技術開発、実用化、さらにわが国の技術者教育全体にわたる問題として、検討、議論されるべきと考えられる。

 このコミュニティーの存在が、新たなる人材の発掘や育成にも大きな役割を果たすのであり、高校生や大学生における科学技術離れを止めるためにも、このようなコミュニティーが確立され、強化されていかなければならない。さらに海外、特にアジア諸国との交流を通じ、人材の育成に寄与することも重要である。

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6.提言

 21世紀の世界のエネルギーの消費動向は、人口推移、特にアジア諸国をはじめ、発展途上国の急速な人口増加や、生活水準の向上、経済成長などに強く影響される。

 一方、化石燃料、ウランなどエネルギー資源の確保は困難さを加え、国際的なエネルギー情勢は、エネルギー消費に伴う地球環境問題とともに、100年を超える超長期にわたる総合的な究明をしていく必要性がある。

 この様な背景から、先に報告した「21世紀を展望したエネルギーに係わる研究開発・教育について」(平成11年2月22日)に基づき、「エネルギー研究開発総合戦略の確立」に関する論議を深め、科学技術創造の視点をも踏まえ「総合戦略」の枠組み並びに体制整備について報告するものである。

(1)「エネルギー研究開発総合戦略」は我が国の将来のエネルギー安全保障のため是非とも確立しなければならない

 21世紀の国際的エネルギー需給は、消費動向、資源の確保、地球環境問題 などを考えると、極めて不透明である。
 エネルギー資源の乏しい我が国は、特に厳しさが予測され、将来のエネルギ ー安全保障のためには、学界、産業界、国民、社会の意向を十分踏まえた「エネルギー研究開発総合戦略」を是非とも確立しなければならない。
 特に最近は規制緩和による、エネルギー市場の変化や事故に関連して不安感 が広がり、その策定が緊急の課題とされている。
 「総合戦略」によって、「エネルギー技術」に関する課題と方向性を、国民が共有し、国、学界、産業界が、相互に協力しつつ、それぞれの役割に沿っ た研究開発を効率的に推進することが期待される。


(2)「総合戦略」は柔らかいいくつかの選択肢を持ち、社会に受け入れられる「エネルギー技術」の研究開発を目指すものである

 「総合戦略」は、安全、環境を重視し、社会に受け入れられる「エネルギー 技術」の研究開発を目指すものである。このため、世界のエネルギー情勢を 十分把握し、理学、工学の自然科学面に加え、社会科学、人文科学を含めた俯瞰的な視点から「総合戦略」を構築しなければならない。
 「総合戦略」は、我が国経済社会の安定をもたらすだけでなく、科学技術、文化面での寄与、さらには国際的に広く貢献するものである。

 また「総合戦略」は「計画」と異なり、情勢の変化に柔軟に対応できるよう多くの選択肢を持つものとする。そうした選択肢を継続的に生み出すため、研究開発を国家的な大型プロジェクト型から多様な国民の公共利益重視型とし、さらに革新的な要素技術の研究開発や、大学、研究機関の基礎研究に重点をおくこととする。


(3)多種多様な「エネルギー技術」を総合して戦略を策定するためには、全般に通じる「評価基準」を作成する必要がある

 エネルギー技術は化石エネルギー、再生可能エネルギー、省エネルギー、原子力エネルギーや環境技術など多種にわたり、研究対象(需要、供給)、科学分野(自然科学、社会科学、人文科学)、達成期間(短期、長期、超長期)、研究開発段階(基礎、要素、実用)も多様である。
これらを総合して戦略を策定するためには、研究開発の目指す具体的目標値(利用効率向上度、信頼度、社会への寄与度など)を明らかにするとともに、目標値相互の関連、選択の論理を調査研究し、国際比較も参考にして、全般に通じる「評価基準」を作成する必要がある。

(4)国の「総合戦略」を策定する機能を明確化し、併せて、常時データを収集解析し、情報提供を行いうる調査研究機関を確立する必要がある。

 国のエネルギー研究開発は各省庁で実施されているが、これらを総合するた め、行政改革を機に、各省庁協議の上「エネルギー研究開発総合戦略」を審 議、立案する機能を特定の機関(審議会及び事務局)に明確に付与することが重要である。

 また、国の総合戦略審議に併せ、既存調査研究機関に、2100年に至る、エ ネルギー需給情勢、地球環境の推移、世界の研究開発動向を予測調査し、総合戦略の「評価基準」作成に資する、データの収集、解析、蓄積を行う機能 を保有させる。
さらに、政治、経済、文化などの諸要素を考慮し、国際的に 通用する精度の高い情報を広く提供するものとする。

 日本学術会議においては、関係学協会、各研究機関と協力して「総合戦略」の基盤構築に努める。


(5)調査研究機関を中心とし、内外の研究機関とのネットワークを通じエネルギー研究開発の人材を育成することが重要である。 

 調査研究機関は国内の大学、研究機関、産業界と連携するとともに海外の研究機関とネットワークを構成し、客観的、総合的視点から常に先端的な情報に基づく調査研究を進める。
さらに「エネルギー研究開発総合戦略」を国民が十分理解するよう透明な情報を積極的に公開、発信、伝達する。

 またこうしたネットワークを通じ、海外と相互に研究者の交流を進め、エネルギーに携わる人材をアジア諸国を含めて発掘、育成する。

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参考資料


わが国における研究開発のキャッシュフロー



主要国における政府エネルギー研究開発予算の推移


日本のエネルギー研究開発費政府と民間の比較(1997年)



戦略の用件:計画との違い



エネルギー研究開発戦略の目的


エネルギー研究開発の具体的戦略目標


エネルギー研究開発戦略の枠組み


ポートフォリオ戦略


エネルギー研究開発総合戦略の意思決定プロセス