大学における「環境法学」・「環境政策学」教育の現状と課題
−大学および研究者対象アンケートの整理と評価−


「環境法学・環境政策学研究連絡委員会報告」

平成12年1月17日

日本学術会議
環境法学・環境政策学研究連絡委員会


 この報告書は、第17期日本学術会議環境法学・環境政策学研究連絡委員会の審議結果をまとめたものである。

環境法学・環境政策学研究連絡委員会

佐藤司(日本学術会議第2部会員、神奈川大学法学部教授)

幹事
※浜川清(日本学術会議第2部会員、法政大学法学部教授)

委員
佐藤竺(日本学術会議第2 部会員、財団法人地方自治総合研究所所長(成蹊大学名誉教授))
淡路剛久(立教大学法学部教授)
※ 加藤峰夫(横浜国立大学経済学部助教授)
鷲見一夫(新潟大学法学部教授)
※ 横山(礒野)弥生(東京経済大学経済学部教授)
※印は、報告書執筆委員を示す。


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目 次

はじめに

第1章 大学を対象としたアンケートとその結果
1.対象とした大学とアンケートの内容
(1)調査対象大学
(2)アンケート項目

2.アンケートの集計結果:環境法・政策学関係の講義の設置状況

第2章 研究者を対象としたアンケートとその結果
1.対象とした研究者とアンケートの内容
(1)調査対象研究者
(2)アンケート項目

2.アンケートの集計結果
(1)学部における講義と大学院における研究指導
(2)名称は異なるが実質的に同内容の講義を行っている大学
(3)環境法・政策学担当職員のバックグラウンド

第3章 2つのアンケート結果から理解される環境法・政策学教育の現状と課題
1 .「環境法」・「環境政策」という科目の概念とその多様性
2 .法学部における環境法・政策学教育
3 .法学部以外の学部における環境法・政策学教育
4 .環境法・政策学教育の対象
5 .環境法・政策学教育の課題と可能性



はじめに

  近年わが国の諸大学においては、「環境法学」および「環境政策学」(以下、「環境法・政策学」という)に関する教育・研究の必要性が強く認識されるようになった。
しかし環境法・政策学に関して、各大学でどのような科目が設置され、またどのような教育・研究が行われているかといった実態については、必ずしも十分な情報がえられていない。

 日本学術会議環境法学・環境政策学研究連絡委員会では、大学・短大を中心とした環境法・政策学関係の講義・演習等の実施状況を把握するとともに、その問題点を認識することが、今後の環境法・政策学の教育・研究を改善するために必要ではないかと考えた。

 そこで1996年度には、法学・政治学・政策学関係の教育・研究を行っている各大学の学部・研究科を対象として、「『環境法学』・『環境政策学』に関するアンケート調査」(以下、「'96大学アンケート」という)を実施した。
その調査に寄せられた回答を整理し検討した結果、より正確な情報をえるためには、やはり環境法・政策学の教育・研究に携わる教員を対象とした調査も必要だと思われた。
そのため1998年度には、日本環境法政策学会の協力をえて、環境法・政策学に携わる研究者を対象としたアンケートを実施した(以下、「'98研究者アンケート」という。)

 本報告では、これら2つのアンケート調査の結果からえられた情報をもとに、大学における環境法・政策学にかかる教育の現状を紹介するとともに、そこからうかがうことのできる現在の環境法・政策学教育の特徴を指摘し、さらに今後の環境法・政策学教育の発展のために検討されるべき諸課題について考察することとした。

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第1章 '96大学アンケートとその結果

1.対象とした大学とアンケートの内容

(1)調査
 ‘96 大学アンケートは、1996年6月に、日本学術会議(第16期)環境法学・環境政策学研究連絡委員会によって企画、実施された。同調査の目的は,我が国における環境法・政策学に関する教育・研究の実態を明らかにすることを通じて、今後のあり方を検討し、また問題の解決策を探ることにあった。
 調査対象としたのは、法律系の学部・学科および研究科・専攻等を有する4年生の国公私立の大学学部および大学院であり、調査書を送付した大学は120であり、そのうち87大学から回答があった。

 その内訳は次のとおりである。
国立大学:送付28 (法学部17 、人文学部3 、法経学部1 、法文学部2 、行政社会学部1 、その他4 ):回収25

公立大学:送付8 (法学部、その他5 ):回収6

私立大学:送付84 (法学部70 、政経(政治経済)学部6 、法経学部3 、その他11 ):回収56

(2)アンケート項目

調査書では、次の5の項目について回答を求めた。



Q1 貴校に「環境法学」・「環境政策学」に関連する研究科(大学院)、学部、学科、専攻などがあれば、その具体的な名称をご記入ください。

Q2 Q1でご記入いただいた研究科(大学院)、学部、学科、専攻などのもとで、どのような講座、講義、科目、演習などが開講されていますか。必修・選択の別、単位数、学年配当などもご回答ください。

Q3 「環境法学」・「環境政策学」を担当されている教授、助教授、講師(専任、非常勤は個別に)、助手はそれぞれ何人おられますか。担当科目別にご記入ください。

Q4 Q2 でご回答いただいた講義、演習などに対する学生の関心度を知るためにお尋ねします。各講義、演習などを履修している各学年の登録学生数を、ご回答ください。

Q5 「環境法学」・「環境政策学」の教育・研究の充実のために、貴校での構想ないしご意見がございましたらご記入ください。


2.アンケートの集計結果::環境法・政策学関係の講義の設置状況

 アンケート結果について、以下のようにまとめることができる。
学部段階で名称中に「環境」を含む科目を設置する学部は35学部に達する。

その内訳をみると、

@ 環境法に関する講義は26学部で行われている。
 科目の名称は様々で、環境法、環境(問題)と法(4)、環境政策法、環境政策と法、国際環境法、比較環境法、自然環境法、文化環境法、環境保護法、地域開発・環境法、環境問題と法となっている。
 アンケート結果からだけでも、5学部で、環境法関連の演習がおかれている。
なお、科目は設置されているものの、当年度開講していない学部が2つある。

A 法という名称を用いない環境問題に関する科目は,5学部におかれている。
 その内訳をみると、地球環境問題と企業行動、環境問題と経済、環境問題論、環境論となっている。
やはり、演習として設けている学部もある。

B 環境政策は、5学部におかれている。
 その内訳は、環境政策学、環境政策、都市環境政策、環境行政(2)である。
演習は1学部で行われている。

 上記の結果から、法学部が、環境法あるいは政策に関する科目を、学部教育のなかに意識的に位置づけるようになってきていることがわかる。
 同時に、環境法・環境政策という科目が、主に私立大学の法学部におかれていることも読みとれる。そのなかには、環境法を1科目のみならず、環境法の分野をより細かく分け、環境法に関する複数の科目をおくところもでてきている。
環境法の個別分野として、国際環境法関係の科目が特筆される。

 また環境法と環境政策を同時に開講している場合もある。
 演習については、演習の名称に環境を用いている場合のみをカウントしているので、各演習で実際上環境問題が取り扱われている場合も少なくないと思われる。
この実態を把握するためには、さらなる調査が必要である。

 以上のように、既存の学科で環境法・環境政策を導入する動きが活発化するなかで、上智大学には法学部の学科として地球環境法学科が設けられている。

 また、「環境問題」という科目は1 、2年生を対象としておかれていること、そしてこれらの科目に続いて3 、4年生に環境法・政策を学ばせるカリキュラムをおいている学部も少なくない。また、法学部にあっても、環境法や環境政策ばかりでなく環境経済をも学ばせるカリキュラムを設けている例があることに注目したい。

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第2章 ''98研究者アンケートとその結果

1.対象とした研究者とアンケートの内容

(1)調査対象研究者

 '98研究者アンケートにおいては、日本環境法政策学会の会員を対象とした。
これは、同学会の会員が、環境法や環境政策に関わる分野に関心が高く、また「環境法」・「環境政策」関係の講義担当者の母集団として最も適切であると考えられたからである。
 具体的な調査においては、環境法政策学会の1998年大会(於:明海大学)出席者全員を対象に質問表を配布し、記入を依頼したうえで、大会終了時に回収するという方法をとった。

 有効回答数は25(25名分)である。'96大学アンケートで「環境法・環境政策」講義を開講していると答えた大学が36であることを考えると、実際に「環境法」・「環境政策」関係の講義を担当している教員のうちのかなりの者からの調査協力がえられたといえ、検討資料とするに意味のある回答数であると考えられる。

(2)アンケート項目
 '98研究者アンケートにおいては、各研究者に対して、まず、大学(学部および大学院)における「環境法」あるいは「環境政策」関係の講義の担当の有無、および、「環境法」あるいは「環境政策」という名称以外の科目のなかにおける「環境法学」・「環境政策学」関係の教育の有無を尋ねた。また、「環境法学」・「環境政策学」の教育に携わっている研究者の学問的バックグラウンドを知るために、「環境法」・「環境政策」以外に、各教官が担当している講義の種類を尋ねた。さらに、自由回答形式で、「環境法」・「環境政策」の教育に際して感じている困難や課題を答えてもらった。


 具体的な質問項目は、以下の5点である。



Q1 「環境法」あるいは「環境政策」を名称の一部とする科目(講義・演習等)を担当しておられますか?担当している場合には、その科目名はどのようなものですか?
また、それは、どの大学(短大)の学部・研究科においてですか?

Q2 他の名称の科目のなかで、「環境法」あるいは「環境政策」に関する内容を教育しておられますか? そ れはどのような科目の中でですか?

Q3 法学・政治学・政策学関係の分野で、他にどのような科目を御担当ですか?

Q4 「環境法」・「環境政策」の教育に際して、特にどのような点に留意しておられますか?
 また、「環境法」・「環境政策」に関する教育を今後一層進めていくために、必要だと思われる条件は何ですか? 御自由に御記入ください。
Q5 もし差し支えなければ、御氏名と御所属を御記入ください。


2.アンケートの集計結果

(1)学部における講義と大学院における研究指導
 '98研究者アンケート回答者25名のうち19名が、18大学18学部で「環境法」・「環境政策」という講義あるいは演習を開講している。

 講義がおかれている学部の名称は、法学部が8 学部と最も多いが、それ以外に目を向けると、経済学部や教養学部という、以前から一般的な学部名もみられるものの、その数は少なく、環境科学部、総合科学部、国際関係学部、総合科学部、総合政策学部、社会情報学部等々、新たな学問分野をイメージさせる名称が目につく。

 対象学年は、学年指定がある場合は3年次以上が多く、「環境法」・「環境政策」が専門的な科目として位置づけられている傾向が読み取れる。
 なお、いくつかの大学は「環境法」・「環境政策」関係で複数の講義・演習を開講しているが、ほとんどの場合、それらを1名の教員が担当しているようである。

 一方、大学院では6名が、6大学6研究科で「環境法」・「環境政策」の研究指導を行っている。
これらの研究指導がおかれている研究科のうち、法学研究科は2 つに過ぎず、あとは、人間環境科学研究科、国際公共政策研究科、生物圏科学研究科、社会情報研究科と、実に多様である。

(2)名称は異なるが実質的に同内容の講義を行っている大学

 学部では13名の研究者が、13大学13学部で、「環境法」・「環境政策」という名称ではないものの、その内容としては実質的に「環境法」・「環境政策」といえる講義や演習を行っている。
 講義・演習の名称は、行政法、環境経済論、損害賠償法、法政策論、環境アセスメント、総合科目(人類と環境)等々、多様である。
 また対象学年は、3年次以上もあれば、1 〜2年次というものも多い。
 また大学院では、1名が1大学1研究科で、内容的には「環境法」・「環境政策」といえる研究指導を行っている。講義名は行政法特殊講義である。

(3)環境法・政策学担当教員のバックグラウンド

 「環境法」・「環境政策」という名称の講義・演習や研究指導を行っている研究者、あるいは、名称は異なるものの、その内容において「環境法」・「環境政策」にかかわる講義や研究指導を担当している研究者のほとんどは、他の講義や演習も担当している。
 それらの講義は、行政法、公法演習、国際関係法演習、国際公法、民法、民法特殊講義、損害救済法、政治学、法社会学等々、かなりバラエティがある。

 こういった講義や演習からうかがうかぎりでは、現在「環境法」あるいは「環境政策」を担当している職員の学問的バックグラウンドもまた、行政法、国際法、民法、政治学、法社会学等々、かなり広い分野にわたっているといえそうである。
その一方、「環境法」・「環境政策」だけを担当している教員が比較的少ない。

 これは大学のカリキュラム編成上の都合もあり、各教員に複数の講義科目を担当させる大学が多いという事情の影響が大きいとは思われるが、「環境法」・「環境政策」という分野を主たる専門として育ってきた教員がまだ少ないということや、「環境法」・「環境政策」関係の教育分野が、まだそれほど十分に展開されていない、すなわち、講義・演習の種類が少ないという事情の結果とも考えることができよう。

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第3章 2つのアンケート結果から理解される環境法・政策学教育の現状と課題

1.「環境法」・「環境政策」という科目の概念とその多様性

 環境問題が現代社会の直面する重要な問題であり、またそれに取り組む人材を育成するためには「環境法・政策学の教育の充実が必要であるということは、すでに社会的な認識となっている。

 ところが、それでは環境法・政策学という学問分野、そして「環境法」・「環境政策」という講義科目の内容はどのようなものであるべきかということになると、その概念はまだ必ずしも明確ではない。

 たとえば、日本においては、環境をめぐる深刻な問題のひとつは公害被害者の救済であった。これは従来の法学教育においては、民法の損害賠償法が取り組んできた問題である。

 一方、汚染防止や自然保護のための種々の規制システムは行政法の一教育分野と考えられ、また環境権は憲法で議論されてきた。そして、近年その深刻さが理解されてきた、温暖化(気候変動)のような国際的あるいは地球規模の環境問題は、やはり国際法の課題としてとらえられている。

 このような状況のなかで、独立した科目としての「環境法」を設定することは、なかなか難しい。また、たとえ形式上は独立した「環境法」講義であっても、その内容が、環境を素材とした行政法あるいは民法の講義であるというだけのことならば、そのような科目の意義と必要性は認められにくいこととなろう。

 一方「環境政策」においても、その対象となる環境問題が多様化するにつれ、政策手段として検討しなければならない手法等の範囲も、環境教育、経済的手法、国際的な対応等々、相当に広がっている。そのため、個別に「環境政策」という講義を設けようとしても、その内容や重点をどこにおくかという問題については、多くの、そして相当に異なる理解がありうる。

 こういった「環境法」・「環境政策」という科目の多様性あるいは未成熟性は、「環境法」や「環境政策」という分野の発展可能性にもつながっている。

 しかし、こういった多様性と、教育体系の(ある種の)不明確性は、各大学に独立した講義科目として「環境法」あるいは「環境政策」を設ける際の問題点となっていると思われる。


2.法学部における環境法・政策学教育

 法学部における「環境法」・「環境政策」の教育状況について、特に指摘すべきは、法学・政治学関連の講義科目が充実した法学部では、かえって「環境法」・「環境政策」という名称の講義が設けられにくく、「環境法」・「環境政策」にかかわる内容は、他の講義や演習のなかで教育されているという傾向ではないだろうか。'98 研究者アンケートでは、この傾向がはっきりと読み取れる。すなわち、科目名としては、行政法であったり国際法であったりする講義のなかで、環境法について講義している例がかなり示されている。

 これは、環境法・政策学という学問分野の特徴から来ることであろう。憲法、民法、行政法、労働法といったような、すでに確立された伝統的な法学教育の分野設定では、たとえば、労働法を憲法や行政法の講義のなかで教育するということは、まったくではないとしても不可能に近いといえよう。ところが「環境法」あるいは「環境政策」という問題は、これまでも部分的には、前述のように、既存の種々の法律学や政策学の講義のなかで触れられていた。

 そのような部分的かつ整合性にかける取り組みでは不充分であるからこそ、「環境法」・「環境政策」として体系的な教育を行う必要があると思われるのだが、従来からの法律分野の講義が充実している法学部では、やはり今でも、それぞれの講義のなかで、「環境法」・「環境政策」に関する問題を取り扱うことが可能だと考えられているのではないだろうか。

 こういったような環境法・政策学という教育分野(講義)は不必要だとか、単独の講義の設定は困難だから既存の科目のなかで素材として環境問題を取り扱うのがフィージブルであるという意見は、現在の環境法・政策学という学問が過渡期であるという状況を示しているといえよう。

 しかし既存の科目のなかで環境問題を素材のひとつとして取り上げて講義するということと、「環境法」あるいは「環境政策」という個別の講義を設けることとはその意味合いも、また教育の効果も大きく異なるはずである。

 環境法・政策学に関する教育の必要性がこれだけ大きくなりつつある現在、法学部でも、環境問題を既存の講義のなかでの素材として利用するだけではなく、個別科目として体系化された「環境法」・「環境政策」を設ける努力が要求されよう。


3.法学部以外の学部における環境法法・政策学教育

 アンケートは、主として法学部を対象として行われた。そこで、法学部以外における環境法・環境政策の実態について、体系的な分析をすることができない。とはいえ、'98 研究者アンケートでは、不動産学部や地方行政学部のような法あるいは行政に関連する学部で環境法・環境政策に関する科目がおかれている、という回答が寄せられている。また、工学部内に環境学科、農学部の環境システム学科が開設されていて、環境法が科目として設置されていることは注目されてよい。

 現在、長崎大学には環境科学部がおかれ、そのカリキュラムには、他の環境関係の科目とともに環境法や環境政策に関連する科目がおかれている。

 このように、法学部ではないが法学や行政に関する科目を多く有する学部、法学部以外の環境学科、あるいは環境学部などに、環境法・環境政策関連の科目が配置されていると考えられる。

 そこで、環境法・環境政策学の教育を検討するためには、まず、全学部を対象に環境法・環境政策がどのように設置されているかの全体像を明らかにする必要がある。
そのうえで、それぞれの類型ごとの環境法・政策の教育を開発していくことが必要だろう。


4.環境法・政策学教育の対象

 上述のように、学部教育においては、環境法・政策学をカリキュラムのなかに位置づけることが困難だとしても、現代社会における環境問題の重要性からすれば、法を学ぶ学生にとって、環境法・政策学は当然カリキュラムのなかに設けられていてしかるべきであろう。

 環境法・環境政策を学ぶためには、環境問題そのものを知る必要がある。学部教育では、環境法・政策学を学ぶためにも、環境問題そのものについて学ぶ講義が開講されていることが必要ではないだろうか。この点についてはアンケートで多くの大学に環境問題一般を理解するための講義がおかれている。この点は、今後も継承されて行くべきであろう。

 アンケートでは、大学院における環境法・政策学関連の科目の設置の有無についての回答8が寄せられていて、大学院でも、環境法・環境政策関連の講義が開講されている。
 さらに、大学院は社会人課程を設けている大学も多く、そのなかにも、環境法・環境政策が開講されている。
環境法・政策学は体系性を持つに至ったが、日々成長している分野であり、環境法・政策学研究はますます需要があると考えられる。そう考えるならば、環境法・政策学研究を主とする専門家や実務家を育成するコースが設けられる必要がある。

 また、個人も企業もその活動において、環境負荷をできる限り少なくすることを求められている。かかる社会の要請に鑑みて、社会人教育では、環境法・政策学を学ぶ要求はより強くなるだろう。
その場合には、環境法(政策)一科目で対応するのではなく、環境法・政策学の体系的なカリキュラムが要請される。
社会人教育にあたっては、特に、環境法・政策の隣接領域である環境経済や環境社会学など隣接分野を学ぶことでより総合的な知識を獲得し、環境に対するより深い知識を獲得して、実践に役立てることの必要性を意識することが求められている。


5.環境法・政策学教育の課題と可能性

 これからますます必要になるであろう環境法・政策学についての、大学における教育指導のありかたを考えると、最終的には環境法・政策学という教育分野の体系化が要求されることはいうまでもない。
 しかし、それとともに、現在すでに「環境法」・「環境政策」の講義を行っている現場からの問題点を正確に認識することも必要であろう。

 その意味では、環境法・政策学の講義を担当している教員からの声が反映された'98研究者アンケートの自由回答は、そういった課題や問題点、あるいは教育効果をあげるための種々の取り組み等の実態を、如実に示していると考えられる。
それらを整理すると、以下のようになる。

・環境科学(自然科学)の分野の情報を広く織り込む努力をしている。多くの分野にまたがる領域なので、複数のスタッフの協力ができると良い。

・自然的意味(物質循環、エネルギーフロー、生態学的側面等)と社会的意味(経済行動としての意味、政治的な施策上の制約等)との両面から、トータルに環境問題をとらえる視点を持たせることに留意している。

・行政実務者、事業者で現に問題に取り組んでいる人々等といった法体系の全体像、諸外国の環境法・環境政策の把握。

・環境行政は日進月歩であるため常に学生に新しいことを説明することに心がけている。

・現実の問題を素材に、具体的かつ平易に。比較法の視点も含めて。相互の経験の交流と情報交換が必要。

・身近な環境から入る。自然と親しむ(観察会)。野菜等の植え付け、茶摘み、栗採り。ゴミ処理場見学。シンポジウム・セミナー参加。大学祭に参加、展示。合宿等。

・法律のみならず、関連分野との関係を重視(ex .環境倫理)。ビデオ等、視聴覚機器の活用、学生に意見を言わせる。具体例を重視することが必要。

・法学以外に他の分野(自然科学、経済学)の関連基礎知識が必要(少なくとも拒否反応を示さないことが必要)。

・まったく単独の科目として設置するのは、全体のカリキュラムの中では無理な面がある。
ケーススタディとして既存の学問体系の中で位置づける形が、当面はフィージブルであると思われる。あるいは特別講義の形で行うことが考えられる。

・法律学や経済学の基礎・基本がわかっていないと、それを前提とする「環境法」の教育はなかなか成果があがらない。基礎的な法律学の教育の充実が必要である。

・学会の研究活動を通じての専門家の育成、充実が必要。

・法学・政治学の基礎知識が不十分なまま大学院に入学してくる学生がいるので、補習教育が不可欠である。国際環境法の教育の前提として、国際法の知識の自習を求めている。
いずれも学問として確固たる体系は存在していないと思われるので、貴研連委で各教員から、講義シラバスなどを収集し、整理して欲しい。

・環境法の資料の充実が必要。


 今後、大学における環境法・政策学分野での教育指導を充実させるためには、以上のような教育現場から指摘される問題点や課題の指摘を広く拾い上げ、整理し、そして着実に改善していくことが必要であろう。


 おわりに今回のアンケート調査ならびに前回の96年アンケート調査に協力を頂いた多数の大学等の環境法・政策学関係者、さらには学会レベルで協力を得た日本環境法政策学会関係者に対してあらためて感謝の意を表したい。

 そしてこれらのアンケート調査で得られた情報が今後の環境法・政策学教育の発展にとっていくばくなりとも有益であれば幸いである。

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