我が国の保健医療福祉計画の現状と問題点
 −保健医療福祉の連携をいかに構築するか−


「地域医学研究連絡委員会報告」

平成12年5月29日
日本学術会議第7部
地域医学研究連絡委員会


 この報告は第17期日本学術会議第7部地域医学研究連絡委員会で審議した結果を取りまとめて発表するものである。

委員長
 齋藤 和雄(北海道大学名誉教授・北海道健診センタークリニック院長)

委 員
 久道  茂(東北大学医学部長)
 青山 英康(岡山大学医学部教授)
 安達 元明(千葉大学医学部教授)
 衛藤 義勝(東京慈恵会医科大学教授)
 竹本 泰一郎(長崎大学医学部教授)
 多田羅 浩三(大阪大学医学部教授)
 柊山 幸志郎(琉球大学医学部長)
 山根 洋右(島根医科大学教授)


我が国の保健医療福祉計画の現状と問題点
−保健医療福祉の連携をいかに構築するか−(要約)

 日本学術会議地域医学研究連絡委員会(第17期)では、これから訪れる21世紀に対応できる医療政策と保健医療福祉計画を予防医学、とりわけ、地域医学の観点から、1次、2次、3次予防との関連において作り上げるため、地域が抱える多くの隘路を超えて、現在施行されている保健医療福祉計画の現状分析を行い、計画を策定する上で解決しなければならない地域の問題点を明らかにし、生活先進国の実現に資するために機能する保健医療福祉計画の推進整備の規範を示すこととした。

この目的にそって我が国の保健医療福祉計画の現状分析を、
1.大都市完結・集中型(大阪府の保健医療福祉計画)
2.分散型(北海道の保健医療福祉計画)
3.副都心型(千葉県の保健医療計画)
4.中核都市型(岡山県の保健医療福祉計画)
5.中小都市型(出雲市の保健医療福祉計画)
6.町村型(宮城県の地域保健医療福祉計画)
7.辺地・離島型(長崎県・沖縄県の保健医療福祉計画)に分けて行った。


この現状分析から、生活先進国の実現においては、次にあげる事柄の解決が極めて重要であることを指摘した。すなわち、
1.国は質の高い健康づくり運動を地方自治体ごとに推進させる。
2.国はプライマリーケアを重視した保健医療福祉サービスの供給体制を確立する。
3.国は地域の小子化・高齢化の状況を考慮した保健医療福祉サービスの供給体制を整備する。
4.国および自治体は離島、僻地の保健医療福祉対策を推進する。
5.地方自治体は適正な医療資源の配分を行い、国民が安心して受けられる医療体制の整備を二次医療圏毎に実現する。
6.地方自治体は保健・医療・福祉、とりわけ、保健と福祉の連携強化を図る。


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目次

T.はじめに


U.提言

V.我が国の保健医療福祉計画の現状分析
 1.大都市完結・集中型(例:大阪府の保健医療福祉計画)
 2.分散型(例:北海道の保健医療福祉計画)
 3.副都心型(例:千葉県の保健医療計画)
 4.中核都市型(例:岡山県の保健医療福祉計画)
 5.中小都市型(例:島根県出雲市の保健医療福祉計画)
 6.町村型(例:宮城県の地域保健医療福祉計画)
 7.辺地・離島型(例:長崎県及び沖縄県の保健医療福祉計画)
  A.長崎県の島嶼地域を中心として
  B.沖縄県の特徴と問題点

用語解説


T.はじめに

 我が国においては、急速な高齢化の進展、慢性疾患の増加などによる疾病構造の変化、保健サービスに対する国民のニーズの高度化、多様化等により保健医療福祉を取りまく状況は著しく変化し、来るべき21世紀に対応できる医療政策と保健医療福祉計画の策定が緊急な課題となっている。

 平成6年6月に成立した「地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律」では次のように述べている。

(1)急激な人口の高齢化と出生率の低下、慢性疾患の増加等の疾病構造の変化、地域住民のニーズの多様化、食品の安全性・ごみ・地球環境等の生活環境問題への住民意識のたかまり等に対応し、サービスの受け手である生活者の立場を重視した地域保健の新たな体系を構築する。

(2)都道府県と市町村の役割を見直し、住民に身近で頻度の高い母子保健サービス等について主たる実施主体を市町村に変更し、既に市町村が実施主体となっている老人保健サービスと一体となった生涯を通じた健康づくりの体制を整備するとともに、地方分権を推進する。

 これらの内容は保健所法の地域保健法への改正と、都道府県から市町村へ、また国から都道府県への権限移譲を促進するものとしている。すなわち、市町村の役割の重視、保健所の機能強化、保健医療福祉の一体化、マンパワーの確保と充実を意味し、ゆとりがあり安心でき多様性のある国民生活、すなわち、生活先進国の実現を目指している。

 生活先進国の実現のためには、医療面では健康の維持増進をはかるために、プライマリ・ヘルスケア[*]をいかに効率良く進めるかが重要である。国はこの目的に対して全国47都道府県で二次医療圏[*]を中核として地域保健医療福祉計画を策定することとしている。平成6年3月末の二次医療圏の概要をみると、医療圏数は342、平均人口は362,448人、平均面積1,086km2であるが、規模には大きな幅があり、例えば圏域人口を見ると、平均人口の2倍を超える医療圏の数は42か所、最大人口は名古屋医療圏で2,918,000人、最大面積は北海道十勝医療圏で10,831km2となっている。

 このような国民の生活の質を基本とした保健医療福祉計画を予防医学、とりわけ地域医学の観点から作り上げるためには、地域計画が抱える多くの隘路を切り拓くことが必要である。

 本報告書では、現在施行されている保健医療福祉計画の現状分析を行い、計画を策定する上で解決しなければならない地域の問題点を明らかにし、さらに、国民自らの意識の高揚を期待し、生活先進国の実現に資するために機能する保健医療福祉計画の推進整備の方向性を示することを目的とした。

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U.提 言

 我が国における地域保健医療福祉計画の現状分析から、生活先進国の実現においては、次にあげる事柄の解決が緊急かつ必要な課題であると考えられる。

 1.国は、質の高い健康づくり運動を地方自治体ごとに推進させる。
 2.国は、プライマリ・ヘルスケアを重視した保健医療福祉一体化のシステム作りを推進する。
 3.国は、地域の少子化・高齢化の状況を考慮した保健医療福祉サービスの供給体制を整備する。
 4.国及び自治体は、離島、僻地の保健医療福祉対策を推進する。
 5.地方自治体は、適正な医療資源の配分を行い、国民が安心して受けられる医療体制の整備を二次医療圏ごとに実現する。
 6.地方自治体は、保健医療福祉とりわけ保健と福祉の連携強化を図る。

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V.我が国の保健医療福祉計画の現状分析

1.大都市完結・集中型(例:大阪府の保健医療福祉計画)


1)大阪府における病床の推移
 我が国は、病院王国といわれている。高齢者にとっては病院に入院できれば安心であり、家族にとっても助かる上に世間体も悪くない。病院にとっても病床が増えればスケールメリットを期待できる。このような我が国に固有な環境の中で、わが国の病床数は増加を続け、全国では昭和50年から60年の10年間に約30万床の増加がみられた。大阪府をみると病床数は、昭和50年には76,105床であったが、昭和60年には、31,226床増加して107,331床となり、人口10万対の病床数は919床から1,240床になった。

 このような病床増に対しては、法律によって規制するより外になかったといえる。昭和60年の医療法改正によって、都道府県は医療審議会を設置して、医療計画を策定し、その中で医療圏を定め、各医療圏に必要病床数を設定することが決められた。大阪府でも昭和63年に最初の保健医療計画が発表され、4つの医療圏が定められ、各医療圏に必要病床数が設定された。

 結果として大阪府の病床数は、平成3年に123,185床、人口10万対1,410床で最高に達したが、その後は毎年数百床の減少があり、平成7年には120,458床、人口10万対1,369床となっている。


2)保健医療計画の性格
 平成9年10月に発表された大阪府の保健医療計画は、次の5つの性格を有するとされている。
 (1)将来的な医療体制の整備を推進するための基本計画
 (2)より質の高い府民の健康生活を確保するための健康づくり推進計画
 (3)保健医療関係者が一体となって実現を目指す総合的な計画
 (4)関係機関の立場に応じた目標を示す共通の計画
 (5)既存の行政計画との整合性を図った専門的な計画


3)計画遂行の課題
 大都市という地域特性の中で、これらの計画の性格がどこまで確保されてきたか考えると次のとおりである。
 (1)医療体制の整備(圏域の構築)
 大阪府においては、面積は全国で2番目に狭いが交通網は高度に発達しており、都市機能の集中度も極めて高い。このためそれぞれの地域特性について、その差異は他の都道府県に比較してそれほど大きくなく、人口移動や患者の動向も複合的、多層的に展開されているという特性を有している。このような地域の特性を受けて、保健医療計画で医療圏の設定はなされたが、各医療圏を基盤として、完結した医療体制の整備を行うことは非常に困難であるという状況に直面しており、いまだに医療圏の名に値する実績を上げているとはいえない。

 (2)より質の高い健康づくりの推進
 質の高い健康づくりのためには、身近に医療施設が配置され、日常の生活の中で、適切な医療が提供され、健康づくりの場が設定される必要がある。この点、大阪府下の市町村は人口規模の多いところも多く、それぞれの市町村においてほぼ一定水準の医療施設、また健康づくりの拠点施設を有しており、一定の成果が上げられていると思われる。

 (3)関係者の連携
 平成6年の地域保健法の成立にともない、大阪府においても地域保健体制の改革が行われ、現行の22保健所7支所体制を、平成12年4月から15の保健所を含む29の府民健康プラザ体制に再編される。しかし新しい地域保健体制と医療体制の連携の方向については必ずしも明確にされていない。新しく出発する府民健康プラザが中心となって、各医療圏における保健と医療の具体的な連携のあり方を示す必要があろう。

 (4)共通の目標
 一定の医療圏を基盤として、存在する関係機関が共通の目標をもって、計画の推進を目指すことは、多様な機関が存在する大都市圏の保健医療計画の推進には特に重要である。そのためには、各医療圏に設置されている保健医療協議会において、日常的な計画についての実質的協議ができるよう、関係機関の理解を得るよう努力する必要があるが、同時に事務局体制の強化が図られる必要がある。大都市圏では多様な機能を有する機関が多数存在するので、この協議会の充実が特に重要である。

 (5)専門の機能の充実
 各圏域において自己完結型の保健、医療機能が確保されるためには、専門の機能の充実が不可欠である。この点、大阪府下では、とくに医療の専門機能に偏在がみられるのが現状であり、既存の機能との整合性を図る必要がある。


4)むすび
 大阪府保健医療計画は、第一次計画の発表の時点から数えて、10年以上の年月を歩んできた。この間、大都市圏域では特に、圏域の設定ということ自体が非常に困難である面もあり、十分な成果を上げたとはいえないが、徐々に圏域という概念が地域社会の中に育ちつつあるといえるのではないか。

図1 大阪府二次医療圏

表1‐1 大阪府二次医療圏の概況
表1‐2 大阪府二次医療圏の概況

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2.分散型(例:北海道の保健医療福祉計画)

 ここでは広大な面積を有し、過密過疎の著しい市町村が分散して存在する地域の例として、北海道における地域保健医療福祉計画の現状と課題について述べる。


1)計画の主旨
 北海道では昭和63年に、北海道新長期総合計画の個別計画である保健医療部門の北海道地域保健医療計画と、福祉部門の北海道新社会福祉長期計画を策定し、「道民が生涯を通じ心身共に健康な生活を送ることができる地域社会を形成するため、プライマリ・ケアを重視した包括的な保健医療サービスのネットワークを確立すること」と、「道民一人ひとりがライフサイクルのそれぞれの段階でこまやかな福祉サービスを受けることができ、だれもが自立して地域の中で生活することができる社会づくり」に努めてきた。この間、施設の整備や人材の確保が進み、道民の健康水準は向上し、福祉のサービスや制度も充実してきた。しかしながら一方で、少子・高齢化が急速に進行するとともに、家族形態は大きく変化し、国際化や情報化の進展と相まって、道民の保健医療福祉ニーズは高度で多様なものとなってきた。このような状況の中で、21世紀を目前に控え、本格的な少子・高齢社会の到来に備え、だれもが自らの生活様式を自分で選択しながら、住み慣れた地域の中で安心して暮らし続けることができるよう、保健・医療・福祉にかかわる制度やシステム、人材や施設など基盤の整備を進めることが急務となった。このような課題に対応するためには、保健・医療・福祉の一体的な取組みをより強化する必要があることから、保健医療部門と福祉部門の個別計画を統冶した北海道保健医療福祉計画を策定して、向こう10年間の基本的な指針を示すことになった。


2)計画の目標
 人は皆、健やかに、いきいきと自立した生活を送ることを願っている。病気やけがをした人も、障害のある人も、治療やリハビリテーションに励み、社会との関わりを求めることによって、可能な限り、健やかに、いきいきと自立した生活を送るよう努めている。地域ではさまざまな人々が暮らしているが、その中で、『保健』は健康を増進し病気を予防すること、『医療』は病気やけがを治療すること、『福祉』は自立と社会活動への参加を促すことを目指している。

 しかし、これらは別々の目標ではなく、相互に関わり合いながら、最終的には人々の生活の質の向上を目指している。また、これには、保健・医療・福祉の取組みだけではなく、教育、労働、住宅などの関連分野の協力が必要となる。このような取組みの基本理念として、次の3つの視点を重視した。すなわち、第1に「人々の健康を保持・増進するためには、個人の努力だけではなく、あらゆる分野の政策に健康という視点を取り入れること、健康を支える環境を整備すること、健康政策の意志決定に住民が参画することなどが必要である」。第2に「健康増進から予防、治療、リハビリテーションに至る包括的なサービスがどこの地域においても提供される体制の整備が必要である」。第3に「障害者や高齢者など社会的に不利を負う人々を包含するのが通常の社会の姿であり、周囲の人々の意識の変化、教育の機会の確保、職業的自立の援助、家屋の改造、生活環境の整備(まちづくり、交通機関の整備など)などの総合的な社会の環境改善を進めていくことが必要である」。

 北海道保健医療福祉計画では、この考え方を基本として、保健・医療・福祉が教育、労働、住宅などの関連分野と連携を図りながら、「だれもが、住み慣れた地域の中で、健やかに、いきいきと自立して暮らすことができる社会の実現」を目標としている。


3)計画の位置づけ及び性格
 この計画は、第3次北海道長期総合計画の保健医療福祉部門に関する個別計画で、北海道の保健医療福祉行政の基本的な指針であり、北海道高齢者保健福祉計画(計画期間:平成5年度〜平成11年度)、北海道エンゼルプラン(計画期間:平成9年度〜平成16年度)、障害者に関する新北海道行動計画(計画期間:平成5年度〜平成14年度)など、保健医療福祉分野の個別計画の基本となる方向を示すものであると同時に、医療法の規定に基づく医療計画としても位置づけられ、保健医療部門の施策において、第二次保健医療福祉圏ごとに策定された地域保健医療計画を包含するものである。また、この計画の推進にあたっては、道民や関係機関・団体、民間企業などに対して、保健・医療・福祉の取組みへの理解と参加、協力を呼びかけ、積極的な活動を期待するとともに、市町村に対しては、この計画の方向に沿った施策の展開を促すものである。


4)計画の期間
 本基本計画の期間は、平成10年度(1998年度)から平成19年度(2007年度)までの10年間で、計画の初年度から5年を目途に、計画の進捗状況、社会情勢の変化、関係法規の改正などを踏まえ、計画の見直しを行うこととしている。


5)計画の圏域
 身近で頻度の高い保健医療福祉サービスは、市町村で提供されることを基本とするが、専門的なサービスについては、人材や施設などの社会資源を市町村の区域を超えて広域的に有効活用する仕組みづくりを進めることが必要である。このため、体系的な地域単位として、第一次から第三次に至る保健医療福祉圏を設定し、保健医療福祉ニーズにきめ細かく対応する体制を整備することとした。なお、施策の展開にあたっては、地域において、これまで以上に地域間の連携、機能分担が求められており、一部事務組合[*]や広域連合など市町村の広域行政に対する取組みに十分配慮して進めている。

 (1)第一次保健医療福祉圏(212圏域)
住民の日常生活に密着した身近で頻度の高い保健医療福祉サービスを提供する基本的な地域単位を市町村行政区域とする。

 (2)第二次保健医療福祉圏(21圏域)
 第一次保健医療福祉圏のサービスの提供機能を広域的に支援するとともに、比較的高度で専門性の高いサービスを提供し、保健医療福祉サービスの完結を目指す地域単位である。また、この圏域は、医療法第30条の3第2項第1号に規定する区域とし、医療資源の適正配置を図る地域単位である。なお、高齢者の施策については、「北海道高齢者保健福祉計画」の高齢者保健福祉圏と整合を図りながら推進する。

 (3)第三次保健医療福祉圏(6圏域)
 高度で専門的な保健医療福祉サービスを提供する地域単位であり、この圏域は、医療法第30条の3第2項第2号に規定する区域とし、さまざまな生活ニーズを満たす地域生活経済圏を考慮した地域単位である。


6)医療サービスの内容

 (1)保健医療福祉の主要課題と計画のめざす姿

 北海道の保健医療福祉を進めていくための主な課題は、次のとおりである。
 
 @高齢者や障害者、子どもなど、サービスを必要とする一人ひとりの住民に対し、本人の意思や選択を基本として、最適なサービスの種類や程度を判断し、さまざまな提供主体によるサービスを調整し、適切な時期に総合的にサービスを提供する体制を確立すること。
 
 Aかかりつけ医、かかりつけ歯科医の機能の定着やかかりつけ薬局の促進を図るとともに、訪問看護や訪問介護(ホームヘルプサービス)、リハビリテーションなどを充実させることによって、たとえ、治療や看護、介護を必要とする状態になったとしても、本人の希望に応じて、可能な限り在宅で生活していくことができる体制を充実すること。
 
 B医療施設や医療従事者などの医療資源に依然として大きな地域格差が存在しており、この格差の是正に向けた取組みを強化するとともに、救急医療や専門性の高い医療を提供する医療機関などの機能を考慮した体系的な医療提供体制の整備を進めること。
 
 C食生活や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習償をより健康的なものに変え、一人ひとりの健康水準をさらに高めるため、家庭や地域、企業や団体などがともに行動を起こし、健康を支える環境づくりを進めていくこと。
 
 Dノーマライゼーション[*]の考え方のもと、ともに支えあう住民の福祉意識の啓発やボランティアなど、住民の福祉活動への参加の促進を図るとともに、高齢者や障害者などが積極的に社会に参加することができる環境の整備を進めていくこと。
 
 E家族の小規模化や価値観の多様化などが進む中で、家族だけでは負担が大きくなってきた育児や介護を社会的に支え、男女が共に様々な生き方を選択することができるような社会の仕組みを確立すること。

 このような課題を受け、「だれもが、住み慣れた地域の中で、健やかに、いきいきと自立して暮らすことができる社会の実現」を目標として、本計画では次の目標をめざしている。

 a.総合的な保健医療福祉サービスの提供体制の確立
  一人ひとりのニーズに応じた総合的な保健医療福祉サービスの提供に努めるとともに、サービスの評価を継続的に行いながら、本人の意思や選択を基本として、可能な限り在宅で生活していくことができる体制を確立する。

 b.きめ細かな医療提供体制の整備
  患者のニーズに応じた医療がきめ細かに提供される体制を整備するため、病院や診療所などの役割分担を明確にし、各々の機能を充実させるとともに相互の連携を強化する。

 (2)健康と福祉のまちづくりの推進
  地域社会における男女共同参画を促進しながら、健康づくりやボランティアなど住民の保健福祉活動への参加を進めるとともに、健康と福祉を支える環境を整備することによって、人々の健康を支え、高齢者や障害者などの自立と社会参加を進めることが重要であり、また、子どもが住みやすい、地域特性を生かしたまちづくりを推進する。


7)北海道保健医療福祉計画の問題点とあるべき姿
  平成10年度に成案を見た上述の北海道保健医療福祉計画の主旨、目標、計画の位置づけと性格及び問題解決のための主要課題と計画の目指す姿は、極めて優れたものといえる。しかし、一方では、医療資源の確保、例えば、医療法で示された病床数を基本とした調整及び規制、地域センター病院の施設設備の充実、保健センター、在宅介護支援センター、デイサービスセンター、ケアハウス、老人保健施設などの数の増加等、予算の確保に傾倒した施策に終止し、プライマリ・ケアを基本とした保健医療福祉の充実にはいささか遠い計画である。すなわち、健康の確保、維持増進、疾病の早期発見及び予防の観点からの取り組みはまだまだ不十分で、1次、2次、3次予防の視点に福祉を加えた包括的な取り組みが必要であると思われる。

図2 北海道保健医療圏

表2‐1 北海道二次保健医療圏の概況

表2‐2 北海道二次保健医療圏の概況

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3.副都心型(例:千葉県の保健医療計画)


1)計画の趣旨
 千葉県保健医療計画は、昭和63年4月に「ふるさと千葉5か年計画」の部門別計画として策定され、平成3年4月の「さわやかハートちば5か年計画」策定にあわせ全面的に改定された。また、平成4年7月には、地域の実情に即した保健医療供給体制の一層の充実を図るため、2次医療圏ごとに地域保健医療計画を策定し、市町村、保健医療機関、団体(医師会、歯科医師会、薬剤師会、社会福祉協議会等)が一体となって計画の推進を図り、保健・医療・福祉の連携、かかりつけ医の普及、救急医療体制の充実などの面で成果を上げつつあった。

 しかしながら、全国でも若い世代の多い人口構成といわれてきた一方で、確実に高齢化は進行しており、農漁村部を中心とした地域では65歳以上人口はすでに20%を超え、高齢化の進展状況は地域的にアンバランスが生じており、さらに都市部でも高齢化が急激に進展するものと推定されている。

 地域保健法の公布、今後の高齢者対策を踏まえて、「2000年の千葉」及び「千葉新時代5か年計画」との整合性を図り、目標年度を平成12年度におき、新たな方向性をできる限り取り込んだ。さらに県民一人ひとりの健康を守る地域医療サービス体制の充実や医療需要の変化に対応した効率的な医療体制の確保と医療の質的向上、地域保健医療を支えるマンパワーの確保などについて見直が行われた。

 平成8年に公表された千葉県保健医療計画は、本格的な少子高齢化社会の到来に向けて「県民の一人ひとりが生涯にわたり健康で明るい充実した生活を送ることが出来る総合的な保健医療システムづくり」を理念としている。

 計画の基本方針は以下のとおりであり、計画の期間は平成8年を初年とし、平成12年度を目標年としている。
 (1)県民の健康づくり活動の支援と知識の普及啓発
 (2)地域の実情に即した保健医療資源の適正な配置と効率的な活用
 (3)保健・医療・福祉の連携による総合的な供給体制の確立
 (4)サービスの質の向上と民間サービスの活用推進


2)千葉県の概況
 千葉県は面積5,156km2、平成10年10月現在、全国第6位の人口(588.9万人)を有する。

 昭和30年代中頃から開発に伴い千葉県の人口は急激に増加した。特に昭和56年〜59年の人口増加率は全国第1位であり、全国平均の2〜3倍であった(昭和56年、全国0.70,千葉県2.04)。最近はやや低下したとはいえ全国平均を上回り、6〜8位である。

 65歳以上人口割合は、最も高齢化が進んでいる県に比べておよそ1/2であり、平成7年11.3%(全国14.8%)、8年12.2(15.3)、10年12.8(16.2)と全国平均より低率であり若い世代の多い人口構成である。しかし、確実に高齢化は進行しており、平成12年には13.1%に達し実数で80万人を超えるものと推定されている。

 昭和30年代初頭、千葉県の人口10万対医師数はほぼ全国平均と同値であった。人口増加に伴い急激に順位は低下しつづけ、昭和40年後半には最下位に近い値となり現在まで推移している。これは人口10万対医療機関数でも同様である。

 患者調査(平成5・8年)によれば、千葉県の受療率[*]は入院・外来ともに低く(45〜46位)、特に入院は最も高い県の約1/3である。

 国民生活基礎調査によれば有訴者率[*]は全国の30〜40位にあり、平成7年266.1(全国283.3)、平成10年301.0(304.8)と全国平均に近づきつつある。通院者率[*]も同様に全国の30〜40位にある。平成7年は268.6であり全国(285.4)より低値であったが、平成10年は290.3と全国(284.5)を上回っている。


3)二次医療圏
 二次医療圏は図に示すように8分割されている。東京都に隣接する地域は人口密集地であり150万人を超える医療圏もあるが、高齢化もまださほど進行はしていない。一方、農漁村部では過疎化、高齢化が著しく進展している。人口の最も少ない医療圏は15万人からなるが、65歳以上人口は23.7%を占める。

 医療機関、医師数等の医療資源は都市部の医療圏が田園部より恵まれているといえる。都市部の医療圏では数的に田園部より少ないところもあるが、入院、外来ともに隣接した東京の医療機関の利用しているものが多い。入院では18%が県外(主に東京)の医療機関を利用している(県外に入院しているものは県全体で11.2%)。

 保健所は19(うち1は政令保健所)あったが、地域保健法施行後16(うち1は政令保健所)となり、3保健所は地域保健センターとなった。医療圏に1〜3保健所が配置されている。

 各医療圏の保健医療の現状と課題で共通の事項としては以下が挙げられる。
@健康づくり活動を積極的に支援し、正しい知識の啓発を図る。
A生活習慣病健診の充実、寝たきり予防対策の充実強化を図る。
B中核病院を核とした医療施設間の連携等、効率的な医療資源の活用を図る。
C保健所の機能強化、市町村保健センターの整備・人材の確保を図る。
D在宅医療の充実を図る。在宅ケアシステムの確立とマンパワーの確保。
E保健医療福祉の連携強化について検討し、具体化する。
F精神保健と精神医療の連携体制を充実し、社会復帰を促進する。
G大規模災害に対応し、地域における災害時保健医療体制の確立を図る。


4)問題点
 従来の県民の有訴率、通院率の低さが医療資源の乏しさをカバーしてきた。平成10年国民生活基礎調査によれば、有訴者率は従来ほど低くなく、通院者率は全国値を上回った。今後さらに高齢化の進展とともに、医療資源の絶対的な不足が懸念される。

 各課題に向けて施策を実施している現状にあるが、今後、都市部においては確実に進行する高齢者対策が重点課題となろう。農漁村部では、ケアの充実のほか予防を中心とした保健医療活動をさらに推進する必要がある。また、一部医療圏では中核病院の整備を急ぐ必要があろう。


5)むすび
 都市部は高度の機能を有した医療機関も多く、また隣接した東京都の医療機関を利用してきた。田園部は高齢化が進展し、一部医療圏では中核となる医療機関が不足しているところもある。

 若い県といわれた千葉県も高齢化が進展しつつあり、健康づくりとともに一層の保健医療体制の整備が必要となろう。

図3 千葉県二次保健医療圏

表3‐1 千葉県二次保健医療圏の概況
表3‐2 千葉県二次保健医療圏の概況

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4.中核都市型(例:岡山県の保健医療福祉計画)


1)はじめに
 第二次世界大戦後、焦土と化した中で「戦時医療体制」の改革として、医師法や医療法はじめ保健・医療・福祉の幅広い分野の法令が次々に制定された。国際的にも驚異と称される戦後の急速な経済復興に支えられて1960年代以降、順風満帆の門出をした国民皆保険制度によって、国民の健康を取り巻く背景は急速に大きく変化し、医師をはじめ薬剤師や看護婦など医療従事者の人口当たりの人数や病床数は、国際的にも上位を占めるようになった。

 このような状況の中で、近時三度にわたる医療法の改正に続いて老人福祉法はじめ福祉関連6法の改正、さらに保健所法の改正による地域保健法が制定された。

 1985(昭和60)年の医療法の第一次の改正によって、各都道府県において「地域医療計画」の策定が図られることになり、1993(平成5)年の老人福祉法の改正によって、各市町村単位に策定された「地域福祉計画」に基づいて「新ゴールドプラン」が策定された。


2)岡山県の特徴
 「新産業都市」の造成はじめ、常に「地方自治の優等生」といわれ続けてきた岡山県は、「地域医療計画」の策定も全国一早く、1996(平成8)年には目標年を2000年とする「第5次岡山県総合福祉計画」を策定し、同時に「第3次地域医療計画」を策定して、1992(平成4)年10月に策定された「必要的記載事項」と「任意的記載事項」をともに見直しが行われている。

 これらの経過でも明らかなように「総合福祉計画」の下に「地域保健・医療計画」を定期的に見直し続けている。


3)計画内容と保健所
 現在、面積7,110,800km2に人口1,939,928人が10市、56町、12村の計78市町村に分散しているが、2次医療圏は図に示すように5分割されている。これに加えて、9つの保健福祉圏ごとに地方振興局が配置され、県の行政組織を体系化している。各振興局単位に県の保健所が配置されており、保健所長は振興局次長を兼任している。それ以外の保健所は「保健センター」と名称を変えているが、現在のところ「センター長」には医師が任命されている。

 1994(平成6)年の地域保健法の制定に当たって、岡山市が保健所法最後の「保健所政令市」に指定され、岡山市に配置されていた2つの県保健所が岡山市立中央保健所と6分割された地区に5カ所の保健センターが配置されることになった。医師は保健所長と4名の医師が保健所に常勤している。さらに2001(平成13)年には倉敷市も「保健所政令市」となり、1保健所と3つの保健センターに地区分割される予定になっており、現在の3つの県保健所の業務が引き継がれることになる。


4)問題点
 地域保健医療計画と地域福祉計画のいずれにしても、計画策定に当たって数多くの問題点が指摘されてきた。

 (1)地域保健医療計画における「二次医療圏」と「地域振興局=保健福祉圏」との間の行政上の体系的な整合性の検討がいまだなされていない。
 
 (2)福祉計画が市町村単位で策定されるのに対して、医療計画は県及び二次医療圏単位で策定されるため、保健と医療と福祉の連携に当たって整合性に欠けることがある。
 
 (3)計画策定の根拠となる数値が現在値であるのに対して、計画は将来に向けて策定されるため日常的な見直しが必要となり、長期計画の策定が困難である。
 
 (4)施設の建設は医療・福祉のいずれの施設についても、民間活力の活用として「手挙げ方式」が基本となっており、地域医療及び地域福祉の両圏域での計画策定によって、市町村間の格差が生じる危険性がある。
 
 (5)圏域設定がなされても、保健と医療と福祉の行政上の連携強化のためには、各分野の縦割りのセクショナリズムが撤廃される必要がある。その計画がなされない限り地域における総合的な保健・医療・福祉活動の展開は困難である。


5)むすび
「地方自治の優等生」といわれる岡山県における保健・医療・福祉計画の実態を「特徴」に焦点を絞って紹介し、計画策定に際して指摘されてきた「問題点」を整理した。

 今後、指摘されている諸問題点の解決が焦眉の課題であろう。

図4 岡山県二次保健医療圏

表4‐1 岡山県二次保健医療圏の概況
表4‐2 岡山県二次保健医療圏の概況

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5.中小都市型(例:島根県出雲市の保健医療福祉計画)

 島根県保健医療計画“1996しまね健康プラン”は、県民の主体的自律的健康づくり支援、効率的な医療体制の確立、保健医療福祉サービスを担うマンパワーの確保と質的向上を図ることを基本理念として1996年4月に策定された。同時に、第二次医療圏として「出雲圏地域保健医療計画」が1998年平行して策定された。

 ここでは、県が策定した島根県保健医療計画(1996〜2000)と出雲圏地域保健医療計画を検討した。さらに、福祉計画については、市町村独自で計画策定された「高齢者保健福祉計画](1994〜1994)について、全県下市町村に対し政策科学の視点からアンケート調査を行い、市町村レベルの福祉計画に関する問題を検討した。また、出雲市が策定した「高齢者健康福祉計画」、「健康文化都市・いずもプラン21」策定の特徴について検討した。


1)島根県の特徴
 島根県は、中国山地の北側に位置し、東は烏取県、西は山口県、南は中国山地で広島県と接し、北は日本海に面し、海上80km北方に隠岐島がある。東西230km、山地が日本海に迫り、平地が少なく林野が80%を占める。現在、無医地区は37で9,063人、無歯科医地区は56で17,244人の住民が医療の乏しい状況におかれている。医療施設は県東部の松江市及び出雲市に集中、偏在している。人口過疎傾向にあり、高齢化も顕著で65歳以上人口は23.1%(1998)、将来予測では2000年24.6%、2010年27.0%となる。


2)島根県の計画の内容
 計画の重点施策は、プライマリ・ケアの充実、二次・三次医療体制整備、救急医療確保、リハビリテーション整備、災害医療体制確保、医薬分業推進、医薬品の安全確保、地域保健対策、健康づくり、母子保健医療対策、成人保健対策、高齢者保健医療福祉対策、精神保健医療対策、難病対策、感染症対策、歯科保健医療対策、食品安全、保健医療従事者の確保と資質向上等が盛り込まれている。


3)出雲市の展開
 出雲市では、市政の基本政策に「健康文化都市づくり(ヘルシーシティ)」がおかれ、1978年から諸計画の策定、展開が図られた。特に1993年「高齢者健康福祉計画」策定は、市民参加型計画策定として注目された。策定委員会は、男女同数、肩書き抜きの市民及び保健医療福祉現場スタッフから選出され、委員長は大学、副委員長は女性フォーラム(女性市民活動組織)から選出された。以後、市民参加行動研究(Participatory Action Research: PAR)の手法を用い、市役所、市民グループ、医師会、福祉施設、大学などの協働活動による計画推進が行われた。具体的なアクションとして、「保健医療福祉連携システム調査」「バリアーフリーのまちづくり計画」「21世紀出雲のグランドデザイン」「エンゼルプラン」「健康文化都市・いずもプラン21」が次々と策定された。現在、介護保険制度推進と共に新たな高齢者健康福祉計画が策定されつつある。


4)出雲市の計画の特徴
 政策科学的手法から出雲市の諸計画は、次のような戦略的特徴を有している。

(1)健康・福祉・医療・教育・環境などを包括したウエルネス[*]生活基盤整備
(2)人間尊厳のバリアーフリーとアメニティ社会志向
(3)自己実現のための協働と民主主義の成熟深化
(4)都邑(市町村)連合の持続的発展と環境・生態系の維持共生
(5)市民・行政・民間・大学の協働と共通行動標的の認識
(6)住民主体の地域活動と地域産業発展との協調
(7)住民の健康行動、技術の自己学習と自己成長
(8)住民の自己決定と主張の擁護
(9)住民参加の健康政策策定とフォローアップ
(10)健康医療福祉サービスの一体化と再編強化
(11)地域特性に対応した健康福祉支援環境整備
(12)質の高い人材養成とコミュニティ基盤教育、生涯研修体制の保障
(13)計画と政策と活動展開のリンケージ


5)今後の計画策定の検討課題
 住民参加の視点から、今後の市町村計画策定の課題を次のように整理した。

(1)行政部局内部のセクショナリズムの解消と横断的包括的サービス開発
 @行政企画部門と各部局(健康、福祉、医療、教育、環境、人事など)のタスクフォース[*]による包括的推進本部の設置
 A行政政策およびサービス内容の評価技法及び理論の標準化

(2)計画とシステムヘの合意と科学的な介入
 @コミュニティ科学、計画科学、マーケット理論など学際的領域の政策科学への導入
 Aコミュニティ発展に関する計画とシステムづくりに関する参加型行動研究(Participatory Action Research)の導入

(3)継続的評価とそのモニタリングシステム
 @継続的行政アセスメントシステム[*]の政策展開の導入
 A健康医療福祉政策への情報システム導入と市民への政策情報公開

(4)計画の修正と効果判定と経済比効果分析
 @計画修正、代替え政策形成システムにおけるスパイラール・フィードバックシステム[*]の導入
 A経済比効果分析による政策効果の評価及び保健所、福祉事務所(事業費、運営費、人件費と効果)など県の出先機関の効果分析による再編成

(5)政策立案者及びサービス提供者の力量形成と質の保障
 @行政スタッフの政策立案及び展開能力の開発と住民のエンパワーメント[*]
 A行政エンジニアリング[*]の推進と行政スタッフの生涯研修体制の確立

(6)計画推進の質的量的データベースの構築
 @政策形成の情報化と情報開示
 A政策情報の透明化と住民ニーズの参入

(7)地域計画(健康、医療、福祉、教育、道路、建築、環境、景観、産業など)の政策形成に関する学際的研究とノウハウの蓄積
 @民間、行政、大学の協働によるシンクタンク機能の開発
 A民間、大学、研究所などによる政策ネットワーク(大学のMultiversity化)

(8)計画策定の調査研究および策定委員会への住民の主体的参加(Participatory Action research)
 @健康文化のまちづくり(Healthy Cities & Communities:WHO)に見られる市町村あるいは小地域まちづくりネットワーク活動の強化
 A介護保険制度、市町村高齢者健康福祉計画などにみられる市町村主体のボトムアップ政策形成能力の強化

(9)教育、マンパワー養成などコミュニティエンパワーメント
 @行政スタッフ、サービススタッフ、住民の生涯学習、生涯研修体制の質的向上
 A各種サービス提供スタッフの養成、教育システムのCommunity-based Educationへの刷新

(10)総合発展計画と重層的計画構成、その摺り合わせ、優先性の確定
 @広域化行政への先見的対応と政策とCommunity Developmentの包括化
 AAssesment-Plan-Policy Making-Check-Do-Evaluationの導入

(11)サービスヘのアクセス、情報と内容の質
 @コミュニティの情報ネットワーク化
 Aサービス情報へのアクセスのプログラム

(12)本計画に対する代替え案、修正案、補強案の用意
 @各都道府県や市町村の特性を踏まえた計画、政策の個性化
 A住民、民間の協働による計画、政策への参画とニーズの反映

(13)効果的施策推進のための予算計画と行政トップ、議会の意思決定プロセス
 @県行政、市町村行政へのオンブズマン制度
 A市町村や県の議員の政策提言、政策形成能力の強化、

(14)財政基盤と社会的資源の正確な評価
 @政策形成基盤の実態の情報開示
 A社会資源の新たな創生と再開発

(15)行政、住民、関係スタッフのニーズ対応協働活動計画
 @各種審議会、委員会への男女共同参加
 Aアクションプラン推進の社会的支援体制

(16)費用一効果分析評価視点とその方法の確定
 @行政スタッフヘの費用効果分析テクノロジーの導入
 A経済効果のトータルマネージメント

(17)ニーズとアクションの「ずれ」の発見とモニタリング
 @政策調整コーディネーターの配置
 A住民参加による政策展開のモニタリングネットワーク

(18)コミュニティケア過程の記録の確保
 @記録管理システムの強化
 A記録のコミュニティケア理論開発への活用

(19)行政エンジニアリングの手法の導入
 @県、市町村サービス行政へのマーケット理論の導入
 A行政システム、政策形成過程など行政評価プロセスの国際的標準化

(20)行政政策及び計画への評価方法の確立
 @行政マーケッティング理論の開発
 A行政評価ベンチマークの導入


6)まとめ

 計画策定における政策科学的視点から、行政リエンジニアリング、学際的協働的研究、住民参加行動研究などの推進が緊要な課題と考えられる。

図5 島根県二次医療圏

表5‐1 島根県二次医療圏の概況
表5‐2 島根県二次医療圏の概況

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6.町村型(例:宮城県の地域保健医療福祉計画)


1)はじめに
 わが国の保健医療福祉計画の策定形態の一つの型として、ここでは宮城県で策定された地域保健医療計画と高齢者保健福祉計画における問題点を指摘することとする。宮城県は人口約225万人、その内全人口の41%を占める100万政令都市仙台市によって他の70市町村が仙北と仙南に分断されている。両計画の策定基本理念や現状と計画については、既に各々の報告書に詳しく記載されているので、ここではそれを重複することはしない。むしろ、計画策定書には記載されていない本音の問題点について、両計画書の策定に係わった立場から指摘しておきたい。


2)計画の期間
 宮城県地域保健医療計画の期間は、平成5年度を初年度として目標年度を平成12年度としている。一方、宮城県高齢者保健福祉計画は、同様に平成5年度を初年度としているが、目標年度は平成11年度となっている。目標年度を一致させようとの調整さえしない。


3)圏域の設定
 地域保健医療圏域は12圏域、二次医療圏域は5圏域、高齢者保健福祉圏域は7圏域に設定されている。例えば、津山町は、地域保健医療圏では登米地域圏域に入っているが高齢者保健福祉圏では気仙沼・本吉保健福祉圏域に入っている。その理由は、保健所や福祉事務所の管轄地域を勘案して設定したとしているが、圏域を一致させるべきとする策定委員の声に耳を傾けない硬直化した行政の問題点がある。その他の圏域でも二次医療圏と全く無関係に圏域を設定している。このことは、保健も医療も福祉も全て連携を密にして行わなければならないのに不可能な仕組にしていることを意味する。


4)安易な計画策定手順
 宮城県内の71市町村は、全て各自治体独自の計画を策定した。それをまとめて、いわゆる積み上げ方式によって県全体の計画を策定するという手順を踏んでいる。そのこと自体は正しいのだが、各自治体がどのようにして市や町独自の計画を作ったかが問題である。自分の市や町の保健、医療、福祉の問題が現状はどうか、将来はどうなるのか、住民の望んでいるのは何か、予算に限りがあるならば優先順位はどう考えているか、などについて市や町が独自に調査して計画を策定したところは極めて少なかったといえる。調査能力にも問題があったと思うが、ほとんど多くの自治体は、東京のコンサルタント会社に委託して策定している。もちろん各自治体には各々策定委員会が設置されて地域の有識者を集めて独自色を出しているが、原案はすべてコンサルタント会社のものである。いわゆる金太郎飴の様に同じスタイルで、ただ地域名と人口、面積などの数値が違うだけというものが多い。これでは本当の意味での地方分権の推進にはならない。極端な例では、人口1万人程度の農業地域の町で計画策定原案を見た時、驚いたことに、高齢者の健康と安らぎのために各家庭に「家庭農園」を作ることを推奨して、そのために町が助成をするというような計画が盛り込まれていた。ほとんどが農家で裏の土地には畑や田んぼがある家庭に「家庭農園」を作る計画が、いかに東京の都会で机の上だけで策定したバカバカしいものか分るというものである。足を使って調査をしなかった滑稽な例である。

 その他、特に福祉計画に盛り込まれる文章が余りにもカタカナが多いということである。ちなみに、計画書に出てきた100のカタカナを羅列して保健婦の研究会で紹介したが、50%近くの単語が正しく理解されていなかった。要するに分らないような言葉を使い過ぎるのである。


5)財政基盤の弱さ
 平成12年4月から開始する介護保険制度の保険者が地方自治体となっているが、独自にできるのは宮城県では仙台市を含めて5市に過ぎない。そのほとんどは、財政基盤も人材力も一自治体だけでは不可能な現状である。しかも、介護保険制度は高齢者福祉計画と密接に関係している。ここにも前述した圏域のギャップを生み出している。長期的には、町村合併をも視野に入れて、なおかつ強力に推進しなければ、おそらく介護保険制度も福祉計画も成り行かなくなることが予想される。


6)保健の重要性
 人は病気になると医療機関にかかる。そして、その時になって医療が充実している有難さを実感する。要介護の状態になった時、介護保健制度が完備していれば本人はもちろんのこと家族もその有難さに感謝する。しかし、保健には誰も有難さも重要さも感じない。なぜなら、保健とは、疾病の予防であり、健康増進であり、要介護の状態にならないことであって、つまり「予防」であるからである。「予防」とは、何も起こらないようにすることである。「何も起こらなかった」ことには、誰も気がつかないし、感謝の念も起こらない。しかし、ないがしろにするとその見返りは必ず来る。

 これからの望ましい保健医療福祉の連携を構築するためには、いつも「保健」の重要性を言い、あまり感謝されそうになくとも重要な施策として重点対策に盛り込むべきである。

7)むすび
 以上述べたことは、「町村型」だけに特徴的なものではないかもしれない。しかし、宮城県内の数カ所の地域保健医療計画策定委員会、あるいは高齢者保健福祉計画策定委員会、介護保険事業策定委員会の委員や委員長を勤めた経験から、これまでの策定手順や方法の問題点を指摘した。

図6 宮城県二次医療圏

表6‐1 宮城県二次医療圏の概況

表6‐2 宮城県二次医療圏の概況

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7.辺地・離島型(例:長崎県及び沖縄県の保健医療福祉計画)

.長崎県の島嶼(とうしょ)地域を中心として

1)はじめに
 人の居住している島は全国に332島存在している(離島統計 1993年)。都道府県別にみると長崎県の60島が最も多く、次いで沖縄県の40島、愛媛県の35島の順である。1990年の国勢調査では日本の総人口の0.7%に当たる約88万人が島に居住している。また、へき地の無医地区(おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住していて、容易に医療機関を利用できない地区)も平成6年に全国で約1000カ所存在している。これらへき地・離島の保健・医療・福祉の確保と充実を図ることも保健医療福祉計画の目的である。


2)長崎県の保健医療計画
 長崎県の保健医療圏(二次医療圏)は図7にみるように、9圏域に分かれている。そのうち下五島、上五島、壱岐、対馬の4圏域は福江島、中通島、壱岐島、対馬島といった人口1万以上の大島嶼とその属島からなる島嶼保健医療圏である。これら島嶼保健医療圏に全県人口の10.9%に当たる約17万人が居住している。更に本土の保健医療圏である長崎圏域や北松圏域にはかつて炭坑の存在した沿岸小島嶼が含まれている。現在日本国内で採炭が続けられているおり、佐世保圏域にも小離島が含まれている。従って、長崎県の地域保健医療計画では離島の保健医療福祉の確保が不可欠である。


3)島嶼の人類生態系

 (1)海洋による隔絶
 1997年に長崎県で離島振興法の対象となっている59島のうち、本土の都市(長崎市、佐世保市、福岡市、北九州市)から航路1時間以内の島は17島のみである。本土都市から1時間以上かかる島が42島であり、福江島、中通島、壱岐島、対馬島といった大離島からでも航路1時間以内の島が39島、1時間以上かかる離島が3島存在する。本土と大離島間には航空路が結ばれているが、天候による欠航が多いことやジェット機が就航できないなどの理由で利用客は減少している。代わって、高速艇やフェリーの利用が増加している。離島間の交通は航路によっているが島嶼本土間より不便なところが多い。

 (2)急速な人口の減少・高齢化
 1990年から1995年までに長崎県の総人口は1.2%減少したが、島嶼の市町村では10%以上もの大きな減少を示したところも多い。老年人口割合[幸]は長崎県全体では17.7%であるが、島嶼圏域では若年人口の流出によって20%を超すなど人口高齢化が急速に進んでいる。特に長崎圏域に属する旧産炭島嶼で30%を超しているところも多い。世帯当たり人数も県全体では2.85人であるが、島嶼では2.0人以下といった世帯の細分化が進んでいる。単独世帯割合も30〜40%を超える島も存在している。

 (3)腫瘍性ウィルスの高流行
 疾病流行の特徴として、島嶼部ではB型・C型肝炎ウィルスや成人T細胞白血病ウィルスの感染流行が大きいことがあげらる。人口動態統計やがん登録でも島嶼の保健医療圏で肝癌や白血病などの悪性新生物の罹患率や死亡率が高い。


4)保健医療福祉の現状と問題点

 (1)保健サービス
 島嶼の保健所は下五島、上五島、壱岐、対馬の各圏域にそれぞれ1保健所が設置されている。本土の保健所は9県立保健所が4保健所に統合再編されたが島嶼部については従来のままである。しかし、市町の保健センター等が設置されているのは23市町のうち2町のみであり、本土の保健医療圏では20%の市町で設置されているのに対して設置が遅れているといえる。島嶼保健医療圏での保健婦1人当たりの人口は2500人から3840人であり、本土の3735人とほぼ等しい。それぞれの島嶼保健医療圏の中に多くの小島嶼が存在し、人口分布も疎であることを考えるともっと多くの保健婦の配置が必要と考えられる。保健サービスと福祉サービスの連携については、県庁では生活福祉部と保健部が福祉保健部に再編成されているが、保健医療圏では保健所と福祉事務所との合併はまだ行われていない。市町村レベルでは福祉保健課や保健福祉センターとして連携が進められている。

 (2)医療サービス
 @病院の整備と患者の流出
 4離島圏域には国立病院2、公立病院9、私立病院8の19病院が存在している。公立病院のうちへき地中核病院2を含む8病院は長崎県離島医療圏組合立である。離島医療圏組合は1968年に医師確保と事務の効率化を目的として発足したものである。対馬と壱岐にある国立病院はいずれも移譲の対象であり、うち国立対馬病院が離島医療圏組合病院となる予定である。離島の保健医療圏全体としての既存病床数は1657床で必要病床数1450床を上回っており、保健医療圏別にみても既存病床数が必要病床数を下回っているのは下五島保健医療圏のみである。

 一方、人口10万当たりの必要病床数でみる下五島1064、上五島595、壱岐897、対馬827といずれの離島圏域でも県全体の全県の1120を大きく下回っている。離島では患者流出率が21〜36.7%と高いことが必要病床数が少なく算出されている原因である。本土や他離島病院との連携強化とともにそれぞれの島嶼での高次医療・専門医療の充実が必要である。

 A高次医療・専門医療の未整備
 精神科病床は4離島圏域で211床、人口10万対125床で全県での人口10万対573床を大きく下回っている。上五島圏域では精神病床が皆無である。病院の診療科目別にみると、内科は全ての病院で開設されているが、小児科の開設されている病院は90.4%であり、整形外科と眼科は64%である。脳神経外科は13.6%で心臓血管外科はどの病院でも開設されていない。緊急PTCA・PTCRによる冠動脈開存術[*]や脳動脈クリッピング[*]、血管内手術のできる施設は皆無であり、血腫の除去・吸引術のできる施設も2島にしか存在しなかった。

 B救急搬送(ヘリコプター搬送)と生活圏
 離島における初期救急は在宅当番医制、二次救急は公立病院を中心とした輪番制と救急協力病院制で行われている。しかし小離島から大離島、あるいは大離島内でも地勢上の問題で迅速な患者搬送が行えないことも多い。そのためヘリコプターによる救急搬送が行われている。1995年度には脳血管性疾患や頭部外傷など128件の搬送が行われた。搬送先は離島医療圏組合の親元病院である国立長崎中央病院が90%以上を占めている。一方、壱岐や対馬では生活圏及び日常の受診先は福岡県であり、そこへの搬送を希望する患者と医師も多い。県域を越えたより広域的な救急体制の整備が必要と考えられる。

 C無医地区とへき地診療所
 長崎県には小離島や大離島内のへき地に23か所の無医地区と36か所の無歯科医師地区が存在している。32か所にへき地診療所が設置されているが、常勤医のいる診療所は少なくへき地医療支援病院である離島医療圏病院等からの巡回診療が行われている。地域病院や国立病院・大学病院までを包含した医療支援体制の整備が必要である。また、プライマリ・ケアの視点からは市町村保健婦の保健活動との連携も発展させる必要がある。

 D医療従事者の不足
 長崎県の人口10万対医師数は225人と全国の181人を大きく上回っている。しかし離島の保健医療圏では人口10万対上五島の98.4人から壱岐の141.1人と県全体より著しく少ない。歯科医師、薬剤師、看護婦についても同様な傾向にある。修学資金貸与制度及び自治医科大学負担金制度によって離島勤務医師を養成してきているが、へき地診療所等における医師不足は解消されていない。今後はへき地勤務医師等確保事業等に大学等からの玉突き派遣によって診療所等の医師を充足していく必要がある。更に、離島医療圏所属の義務年限を終えた医師の勤務先や処遇についても考慮していく必要がある。


 (3)福祉サービス
 老人福祉計画[*]の圏域は全県で8圏域と保健医療圏より一つ少ないが島嶼については、保健医療圏と同じ4圏域である。介護保険の実施にむけて在宅サービス・施設サービスともに充実が急ピッチで進められているが、島嶼福祉圏ではその進展状況に圏域による差異が大きい。在宅介護面では全般的にホームヘルパーの充実度が対馬の33.3%から壱岐の77.5%、ショートステイが壱岐の40.0%から対馬の125%と進展速度に大きな差異がある。施設サービス面では特別養護老人ホームや老人保健施設の整備はほぼ100%であるが、ケアハウスや高齢者生活福祉センターの整備は進んでいない。島嶼における急速な人口高齢化と高率な単独世帯割合を考えると介護保険の実施にむけて地域における在宅及び施設サービスの整合・充実が図られなくてはならない。


4)まとめと提言
 離島・へき地では本土と比べると医療の量と質の両面にわたって大きな格差が存在する。それぞれの島嶼保健医療圏内あるいは他圏域・本土との連携してプライマリ・ケアから高次医療にいたる医療システムを整備することが必要である。その際、島嶼という特性からなるべくそれぞれの保健医療圏で完結的であることが望ましい。患者搬送や医療情報の交換においても住民の生活圏や受療行動との整合を図ることが望ましいと言えよう。また、地域の人口高齢化と世帯の細分化が進んでいることから、本土以上に保健及び福祉と連携した包括的な医療システムが必要である。

図7 長崎県二次保健医療圏

表7‐1 長崎県二次保健医療圏の概況
表7‐2 長崎県二次保健医療圏の概況

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.沖縄県の特徴と問題点

1)はじめに
 沖縄県の最近の保健医療は「沖縄県保健医療計画(平成6年改定)」を基本指針として推進されてきた。本県は広範囲に散在する多くの離島・へき地を抱え、現実には保健医療資源や医療サービス提供体制に地域的偏在があるなど、保健医療計画が必ずしも十分に実施されてはいない状況にある。さらに、地域保健法の全面施行、第3次医療法改正、平成12年度からの公的介護制度の導入など、保健・医療・福祉を取り巻く環境には大きな問題が横たわっている。


2)沖縄県の特性
 本県は九州の南から台湾の間に連なる南西諸島の南半分を占める琉球諸島に属する大小160の島々から成り立っている。最も大きな島は沖縄本島で、次に西表島、石垣島、宮古島の順となっており、この4島で県土総面積(2,267km2)の約8割を占める。島々は、およそ北緯24度から28度、東経122度から132度までに位置し、距離にして東西1,000km、南北400kmにおよぶ広大な海域に点在している。人口(平成7年国勢調査)は、1,273,440人(男624,737人、女648,703人)で、全国総人口の約1%を占め全国で第32位である。人口増加率(対平成2年)は4.2%で全国平均1.6%を大きく上回り全国で4番目に高い増加率となっている。人口密度は1km2当たり562.0人で、全国平均の332.4人を上回り第10位である。

 もう一つの特徴は広大な米軍施設が存在することである。平成8年度現在、わが国の米軍への提供専用施設91件のうち41.8%にあたる38件が本県にあり、その面積は23,519haで、全国の米軍専用施設31,420haの74.9%を占める。


3)保健所と保健医療計画の理念
 2次医療圏は沖縄本島北部・中部・南部、宮古、八重山の5つに分割され、保健所は中部と南部の医療圏にそれぞれ2つ、他の医療圏には各1が配置されている。

 保健医療計画は県民のニーズに即した保健医療サービスを推進するために策定するものであるが、平成11年改定の保健医療計画の基本的課題として次の5つが掲げられている。このうち1,4,5は他県にはみられない課題であろう。
(1)長寿県沖縄の確立
(2)保健・医療・福祉の連携体制の確立
(3)健康づくりの推進
(4)保健医療従事者の養成確保と資質の向上
(5)離島・へき地保健医療の向上


4)長寿県沖縄の確立
 沖縄県は長寿県といわれて久しい。男性の0歳平均余命は、昭和50年は全国10位で、昭和55年、60年は全国1位であった。しかし平成2年には5位に転落し、これは昭和60年から平成2年の平均寿命の延びが0.34年(全国平均1.09年)と全国47位で最下位であったからである。一方女性の0歳平均余命は、昭和50年から毎年全国1位である。しかし昭和60年から平成2年までの平均寿命の延びは0.77年(全国平均1.32年)と、男性と同様に全国47位で最下位であった。65歳の平均余命は男女とも沖縄県は1位であった。

 平成7年の0歳平均余命は、男性77.22歳で全国4位、女性85.08歳で1位である。高齢化率は11.7%(全国25.4%)で総人口の0.021%を100歳以上の長寿者が占める。全体の死亡率は全国値より低いが、60歳未満の死亡率は男女とも、どの年齢階級も全国値より高い。3世代同居率は16.3%(全国値26.7%)、65歳以上の単身者14.1%(全国値12.1%)である。離婚率(1000人対)も2.22(全国値1.60)と高い。

 長寿県沖縄の確立は若年者の死亡率の低下がはかれるか否かにかかっているが、基本健康診査受診率も32.0%(全国値36.5%)と低く、県民の啓発を必要とする。


5)保健医療従事者の養成確保と資質の向上
 昭和62年に琉球大学医学部医学科の第1期卒業生が出てこのかた、沖縄の医師数は着実に増加して平成8年末現在人口10万人対170.6人となったが、依然として全国値の191.4人より少ない。歯科医師は49.0人と全国値の67.9人より少なく、また薬剤師も106.6人と全国値の154.4人より少ない。しかし保健婦・士、助産婦、看護婦・士及び准看護婦・士はおしなべて全国値より高い数値となっている。医療従事者は年々着実に増加しているので、今後は県民のだれもが現代の良き医療を受けられるように保健医療福祉従事者の資質の改善に努める必要がある。


6)離島・へき地保健医療の向上
 本県には、「沖縄振興開発特別措置法」に基づく指定有人離島が各医療圏別に北部6島、中部1島、南部12島、宮古8島、八重山に12島あって、無医地区は7市町村の10地区に及ぶ。離島の診療は主として県立病院の附属診療所が担当しているが、医師の確保に難渋している。また、未だに医介輔[*]の診療所が3か所もある。医師、保健婦などの人材の確保には、新しい視点に立った方策を考え、琉球大学医学部を含む医療施設間で協議すべきであろう。

 離島の保健・医療・福祉体制は漸次整備されてきたが、未だ十分ではない。救急搬送体制など高齢者が安心して地域で生活できるシステムが早急に構築されねばならないし、離島医療を改善するためのパソコンや通信衛星を使った遠隔通信システムや医療従事者の支援体制も考えられてよい。


7)むすび
 本県の保健・医療・福祉は、本土に復帰してから、着実に改善されてきた。しかし、まだ多くの問題を抱えている。県民が、恵まれた自然環境を享受して長寿を誇りつづけるには、保健医療計画を実行するための財政基盤と県民の健康と疾病予防の啓発が最も重要である。

図8 沖縄県二次保健医療圏

表8‐1 沖縄県二次保健医療圏の概況
表8‐2 沖縄県二次保健医療圏の概況

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用語解説

プライマリ・(ヘルス)ケア(primary health care)(1ページ)
 一般に初期医療あるいは1次医療と訳されているが、個人や家族が最初に接する保健・医療をいい、これに携わる医師は、初診患者の状況を的確に把握して、適切な指示や処理を行うほか、必要に応じて他の医療機関への紹介を行うとともに、個人や家族の健康保持、予防、治療、リハビリテーションに至るまでの全過程について、いわゆる主治医としての役割を果たす。

二次医療圏(1ページ)
 医療法の規定により、都道府県において設定される区域(概ね広域市町村圏)で、主として一般の入院医療を提供する病院の病床の整備を図るべき区域(平成10年3月末現在355圏域)。

一部事務団体(9ページ)
 保健医療福祉政策を進めるに当たって、必要な施策を共同実施するための事務組織で、近隣市町村又は関係機関・団体などで作られる組合。

ノーマライゼイション(10ページ)
 心身障害者・老幼者などを施設に隔離せずに、健康な一般人と共に地域で生活して行くのが正常な人間社会であるという考え方。

受療率(16ページ)
 患者調査において調査日に病院、一般診療所、歯科診療所で受療した患者の推定数(推定患者数)を人口で除して、人口10万対であらわした数。
  受療率=(推計患者数)/(推計人口)×100,000

有訴者率(16ページ)
 有訴者とは、世帯員(入院者は除く)のうち、自覚症状のある者をいう。人口千人に対する有訴者数を有訴者率という(国民生活基礎調査)。
  有訴者率=(有訴者数)/(世帯人員)×1,000

通院者率(16ページ)
 通院者とは、世帯員(入院者は除く)のうち、病院、診療所、老人保健施設、歯科診療所、病院の歯科、あんま・はり・きゅう・柔道整復師に通っている(調査日に通院しなくても、ここ1月位通院(通所)治療が継続している場合は通院となる)者をいう。人口千人に対する通院者数を通院者率という(国民生活基礎調査)。
  通院者率=(通院者数)/(世帯人員)×1,000

ウエルネス生活(25ページ)
 身体的にも精神的にも社会的にもバランスがとれ生活の質が高く、自己実現に向けて健康で安定した状態。

タスクフォース(25ページ)
 問題の把握、発見、解決などに効果的に、かつ機動的に活動する機能集団。

アセスメントシステム(25ページ)
 評価を行う機構。

スパイラール・フィードバックシステム(26ページ)
 螺旋を描きながら活動を推進し、あるいは後戻りしながら再評価を行う連続した活動。

エンパワーメント(26ページ)
 個々人や集団、地域社会が自立的に内発的な力を強め、蓄積し、成熟して行くこと。

行政エンジニアリング(26ページ)
 行政サービスをより効果的、効率的に計画、推進、再編していくこと。

老年人口(36ページ)
 年齢3区分別人口のうち、65歳以上の人口のこと。0〜14歳を年少人口、15〜64歳を生産年齢人口という。

緊急PTCA-PTCRによる冠動脈開存術(38ページ)
 心筋梗塞の急性期に行う治療法であり、閉塞した冠[状]動脈に対して経皮的にカテーテルを挿入し、バルーンで血管形成術を行ったり(PTCA)、血栓溶解薬を投与したりすること(PTCR)。

脳動脈クリッピング(38ページ)
 脳動脈瘤の根本的治療法であり、動脈瘤の茎部をクリップで閉塞することによって破裂を防止すること。

老人保健福祉圏(38ページ)
 高齢者の保健福祉サービスにかかわる広域調整のため、老人保健法及び老人福祉法の規定により県が定める区域。圏域設定の背景としては、高齢者の保健福祉の動向が、(1)市町村による在宅福祉サービスの一元実施、(2)保健福祉行政の計画的な実施、(3)保健・医療・福祉その他関連機関との連携など、地域社会を基盤とした保健福祉サービスを総合的・計画的に推進することが求められていることと、高度な保健福祉サービスをより効率的かつ合理的に進めるためには、市町村の行政区域を越えた広域的な観点で、保健福祉行政を調整すべき場合があることによる。

医介輔(43ページ)
 医師免許は持っていないが医療行為(医師が行うような)を特別に認められた人(沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律)。戦後、沖縄には医師が少なく、例えば軍隊の衛生兵であったような人を医師のいない村落に派遣した。沖縄の戦後の医療に大きな貢献をしたとされている。

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